世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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入院棟には 間一族にとって
絶対に知られてはならない秘密がある
【お前も変わったよなァ。】
【お前はさ】
【暗部の時みたいに独りが似合うと思うぜ?】
「そうは言ってもお前、今は独りじゃないんだろ。」
「…なあ、火黒」
その秘密の鍵は、13年前に。
カカシ外伝
「――…敵が多く潜伏している地を割り出した結果、この場所を抑えるのが得策かと」
「神無毘橋、か…」
「私も賛成だよ三代目。此処を破壊しておけば後々有利に事が進む。」
ご意見番のホムラ、コハル、三代目火影、そして間時守。
この4人で共に1つの地図を見下しそんな会話を行う。
今は第三次忍界対戦の真っ只中。忍五大国の境地が揺るぎ各国の境目で争いが常に起こっている状態だった。
「…戦いが各地で進行中である今、少人数でこの橋を落として貰わねばならぬ」
「そう言うだろうと思って適任だと思う班を出しておいた。…と言っても完全に私の贔屓目が入っているがね。」
「……。」
時守が差し出した資料に目を向けた三代目は「確かに贔屓目が入っておりますな」と眉を下げる。
手元にある資料に映っているのは波風ミナト、はたけカカシ、うちはオビト、のはらリン、そして。
最後に付け足された様な形で資料に載せられている1人の青年。
「…火黒、か」
「彼は協調性こそないが優秀な子だよ。この班に入って随分と経つからそろそろレベルの高い任務をやっても問題無い頃だろうしね」
黒髪の目付きの悪い痩せた青年。
彼はアカデミーから卒業したばかりのこの班に特例と言う名目の元で配属された。
今までに例のない下忍のフォーマンセルと言う事でミナトにも怪訝な顔をされたものだ…。
最初は三代目もフォーマンセルなど組ませるつもりもなかったし、火黒の存在も知らなかった。
だが突然上層部である間時守が連れて来た青年だったのだ。彼が配属してくれと言うのだから断る理由も無い。
「黄色い閃光は良いとしても若過ぎやせんか…?」
「事態が事態じゃ。致し方無い。」
「大丈夫だよ。火黒の実力は保障しよう。」
「…時守様がそう言うなら…」
渋っていたホムラも時守の言葉に頷き、三代目も小さく頷いた。
がさがさっと木々が揺れ、どたんっと忙しなく1人の少年が開けた場所に転がり込む。
そしてばっと顔を上げると呆れた様に此方を覗き込んでいるカカシを見上げて言った。
「セー……フ…かな…?」
「いーや、セーフじゃないね。集合時間何時だと思ってんの?」
「よたよたのばーちゃん助けてたんだよ…」
「はいウソ。一人前の忍ならきまりやルールは守るのが当たり前でしょーよ、オビト」
まあまあカカシ、オビトはお婆さんを助けてたんだよ。
そう間に入ったのは少し離れた岩に座っているミナト。
そんなミナトを振り返ったカカシは「そう何度も都合よくおばあちゃんが来るわけないでしょ…」と呆れた様に言う。
一方のオビトは目に目薬を差しながら「今日もしっかり人助けしてきましたー」と呑気に言った。
「ほら火黒。オビト来たよ」
「…チッ、もうちっと遅く来りゃあ夢でも見れそうだったんだけどなァ…」
「火黒。お前も何で任務前に寝てるんだ。」
カカシの言葉に振り返って火黒がにやりと笑った。
俺に文句言うのは俺より強くなってからにしなァ。
嫌味ったらしく放たれた言葉にカカシがむっと眉を寄せる。
「ルールや掟を守らない奴はクズ呼ばわりされる。…クズだと言われたくなければしゃんとしろ。」
「毎回言ってるが、お前の親父さんにソレ言ったの俺じゃねェから。」
従って俺はクズ呼ばわりされねーの。
無茶苦茶な事を言う火黒にカカシがため息を吐く。
最初こそ火黒が彼の父親の話題を出した時はカカシもかなり驚いていたし、殴り合いにまで発展した。
しかしこう何度もそれが起きるとカカシも殴る気さえ失せて来た様だ。
「ま、まあまあそれぐらいにしてなよ…。私達チームなんだからさ…」
「リンは火黒とオビトに甘いんだよ。今日は俺にとっても大事な日なんだからさ」
「そ、そうだね…」
「あ?大事な日?それ上忍の事言ってんだったらお前だけじゃねーぞォ」
ニヤニヤと笑って言う火黒に青筋を浮かべてカカシが振り返る。
1人分かっていない様な顔をしているオビトに「ほら行くよ」と歩き始めたミナトが説明した。
今日からカカシと火黒はミナトと同じ上忍。2人共僅か12歳で上忍に昇格となった。
「晴れて上忍が3人になったわけだし、効率を考えて今回はこの班の中でも2手に別れるよ。」
「俺はどっちなんだよセンセ。」
「火黒はカカシと一緒。上忍同士あまり意見をぶつけ合わないようにね。」
「俺ぁテキトーにやるからカカシとは別に争う気はねーよ。」
テキトーも程々にね。リーダーは一応カカシにしておいたけど、同じ上忍の火黒の意見も大事だよ。
そんなミナトの言葉に「へいへい」と火黒が気だるげに返答を返した。
今回の任務ではカカシを隊長にしたリン、オビト、火黒のフォーマンセルとミナトとで別れるらしい。
「私達で昇格祝いあげようって言ってたでしょオビト。覚えてないの?」
「…悪い、多分その話聞いてなかった…」
「俺からは特注クナイをカカシに。火黒にはほら、これ。」
カカシが投げられたクナイを、火黒は手渡された刀を見下した。
今君が持ってる物より随分と切れ味が良いよ。間違っても仲間は斬らないでね。
ミナトの言葉を聞きつつ刀をじっと見下した火黒は「ドーモ」と返答を返して現在腰に指している刀を捨てる様に放り投げた。
「おいおい、捨てなくても…」
「2本も持ってると邪魔だしさ。」
「もー、極端だなぁ」
「私からはこの特製医療パック!使いやすい様に改良しておいたから使ってね!」
リンがカカシと火黒に同じ物をあげ、「ドーモ。」と似た様な返答を返して2人同時に仕舞った。
そして火黒はのそのそと再び歩き始めた訳だが、カカシが徐にオビトに手を差し出す。
嫌味ったらしいその行動にオビトが額に青筋を浮かべ「お前にやるもんなんてねーよ!」とカカシを睨んだ。
カカシは「まあ良いけどね」とすんなりと手を引っ込めると歩き始めた火黒について行きながら少し振り返る。
「お前に貰ってもどうせロクなもんじゃないだろうし」
「なんだと!?大体俺はお前みたいな奴が上忍になった事自体理解出来ねーよ!何考えてんだよ火影様は!」
「それはこっちのセリフだね。お前自分でうちはがどーのって言うくせにいまいちその名前に見合う様な実力にならないしさ」
「おいおい、あんまディスってやるなよ。オビト泣くぜ?」
泣くかぁ!と火黒の言葉にムキになって返したオビトに火黒が喉の奥で笑う。
そんな3人の間に入ったリンを見て眉を下げ、ミナトが足を止めて地図を取り出した。
任務の説明をするよ、集まって。
ミナトの言葉に3人が徐に彼の元へ集まる。
「そろそろ此処が国境地点だ。標的は草隠れに進行している岩隠れの忍。」
「確か忍の数は100を超えてるって…」
「あぁ、その通り。で、今回カカシ班に破壊して貰うのはこの神無毘橋。」
「…橋ですか…。って事は潜入任務ですね」
カカシの言葉にミナトがしっかりと頷いた。
君達の任務は敵の後方地域に潜入し、物資補給に使われている神無毘橋を破壊して敵の支援機能を分断。速やかに離脱する。
俺は直接前線部隊を叩く。君達の陽動にもなるつもりだ。
ミナトの言葉に4人が小さく頷いた。
「国境までは同行するけど、俺とはそこでお別れだ。そこからは皆カカシの指示に従って行動する事。良いね。」
差し出されたミナトの手に4人が手を重ね、返答と共に手を離す。
そうして歩き始める事数分、突然カカシが全員の足を止めた。
その様子にミナトが小さく笑みを見せ、火黒が徐に周りに目を向ける。
「…15…20はいるなァ」
「あぁ。でも恐らく影分身だよ」
「…。…先生、俺が突っ込みます、援護を。」
「駄目だカカシ、焦っちゃ駄目だよ。普段通り君は俺の後方支援に…」
今回のリーダーは俺でしょ先生。リーダーの指示に従うのが忍のルールだ。
カカシのその言葉にもミナトは一貫して首を横に振る。
その様子を見たカカシが「それに俺は今回この術を試したい」そう言って手の平にチャクラを集めて目に見える程の電気を発動させた。
千鳥。そう呟かれて発動された術をミナトがじっと見つめる。
「頼みます先生。俺は今日から貴方と同じ上忍だ。ヘマはしません」
「……。」
諦めた様にミナトが目を伏せ、カカシが千鳥を片手に走り出す。
途端に周囲に居る影分身達が一斉にクナイを投げ、ミナトがカカシに降り注いだクナイを全て落とした。
その隙にオビトとリンがそろそろと歩き出したが、地面から這い出る様に現れた影分身に2人が足を止める。
怯えた様に目を見開いたオビトの前に火黒がドンッと強く着地した。
「影分身に泣くなよ。忍だろォ?」
「う、うるせー!」
「っ、こっちにも…!」
「リン、君も油断しないの。」
リンに襲い掛かった影分身をミナトが倒し、リンが「ありがとうございます!」と礼を言う。
すると既にかなりの影分身を千鳥で仕留めていたカカシが恐らく本体であろう男に駆け寄っていく様が火黒の視界の隅に入った。
男が「図に乗るなよ!」と威嚇する様に叫んで刀を振り上げる。
火黒が徐に踏み込んで振り下された刀を片手で掴み取った。
しかし数秒遅くカカシのわき腹が微かに斬られそれを見た火黒がカカシを抱えて飛び退く。
「カカシ!火黒!」
「あーあァ。怪我してやんの。」
「人の事は言えないよ火黒。無茶な刀の止め方だった。」
「俺はすぐに……。…あー…、こっちに来てから人間に戻っちまったんだったなァ…」
手の平を見つめて言った火黒が手の平の血を舐めとり、小さく笑ってシュンッと姿を消した。
そして微かな血の匂いを手繰って木の影に隠れている男の居場所を見つけ出す。
此方を見上げて目を見開いた男ににやりと笑い、火黒が男の背後に回って首を刎ねた。
「ククク…、あー…、良いねェこの感じ…」
溢れ出す血を浴びてひとしきり笑うと徐に血塗れのままでカカシ達の元へ戻った。
此方を物凄い顔で見てくる彼等に笑いながら男の首を持ち上げる。
これで良いだろ?そう言う様な火黒の行動にミナトがため息を吐いた。
「困ったね、上忍2人がとても軽いとは言えない怪我を負ってしまった。」
「ふん!カカシ、お前がミナト先生の意見も聞かずに好き勝手動いた所為だぞ!」
「お前に言われたくないね。敵にビビって泣いてたくせに」
「あ、あれは目にゴミが入っただけだ!」
止めなさい2人共。
ミナトの咎める様な声に2人がビクッと言葉を止めて振り返る。
カカシ、何度も言っているが掟やルールが全てじゃない。状況に応じて臨機応変に行動する事が大事だ。君はちょっと独尊し過ぎてる。
そんな言葉に「ほれみろ!」とオビトが言う。
しかしミナトは「君もだよ」とオビトにもすぐに目を向けた。
「ゴーグルをしてるのに目にゴミが入る筈はないよね。カカシを馬鹿に出来る様な状況じゃない。」
「っ…」
「それに火黒。君も好き勝手にやり過ぎだ。戦い方も無茶だし、それじゃあ君が一番最初に戦闘不能に陥り易い。」
それとカカシ、あの技はもう使わない方が良い。
その言葉にカカシが目を見開いて顔を上げた。
確かに威力も十分あるしスピードもあるけど、敵のカウンターに反応しきれてなかった。
正直、火黒にああは言ったけど彼の捨て身の行動が無ければ死んでたよ。
ミナトのその言葉にカカシが目を伏せる。
「別れる前にもう一度だけ言っておく。大切なのはチームワークだ。自分中心で考えていたらこの任務は失敗する。」
厳しい言葉にカカシ、オビト、リンが目を伏せる。
しかし火黒だけは何かを考える様に虚空を見つめていた。
チームワーク。…チームワークなァ…。
そう頭の中で繰り返して目を伏せる。
《なんでそう私達以外は殺そうとするかなぁ…。この人は護るの。何回言えばいいのよ。》
《つったってよォ。別に俺ぁ護りたいわけじゃないしさ。》
《もー、私が居なかったらどうすんのよあんたは。》
《そりゃあ殺しちまうんじゃね?》
はー。と呆れた様にため息を吐いてがしがしと後頭部を掻く黒凪の姿が過る。
それじゃあこうしよう、あんた私が気に入った人間は殺さないでしょ?
彼女の言葉にあの頃の俺は「そうだったか?」と首を傾げた。
しかし彼女が頷くのだからそうなのだろう。彼女は自分を理解している。そんな勝手な自信があった。
《じゃあ私が気に入りそうな子は護る様にしなさい。そしたら私は多分あんたを怒ったりしないし。》
私が気に入らない奴は殺してもどうにか誤魔化してあげるし。
その言葉に「おいおい、」と閃が呆れた様に言っていた。
そうだ。結局自分の都合の良い様に言う彼女の調子の良い所が自分にとっては楽で、気に入っていた。
それからは彼女が居ない所ではその言葉に従う様にしてきた。
「(黒凪が気に入りそうな奴なァ…)」
カカシは弱いくせに変に自信を持って無茶をするからあいつなら嫌いそうだ。
リンもフニャフニャしてるしあいつの嫌いなタイプだな。
オビトは論外。恵まれてるくせに落ちこぼれてるのはウザいだけだ。
…なんだ、じゃあ死んでもいいじゃないか。
そう結論付けて歩き始めたミナトの後を追った。
「……。」
日の落ちた森の中でカカシが木に凭れ掛かりながら目を伏せて考え込む。
まさか火黒が自分を護るとは思っていなかった。
そんな事を考えて、高い木の幹に腰掛けている火黒を見上げる。
…あの男との出会いはアカデミーを卒業した後だった。
《特例!?》
《うん。アカデミーを経てはいないけど実力は確かだよ。仲良くする様にね》
そう言った上官であるミナトと共に現れた少年は火黒と言った。
やせ細っていて、髪もボサボサで。でも恐らく強いのだろうと思わされる様な冷たい目をした奴だった。
実際に任務を共に遂行していく中でもあいつは頭一つ飛び抜けて強かった。
でもルールや掟は守ろうとしないし、かといって父の様に仲間を護る事も無く、ただ自分の為だけに動いている様な感じだった。
《…なァ》
《今は任務中だろ。余計な私語は…》
《あんたの父親、仲間護って任務投げ出したんだろ?》
《!》
そんで帰ってきたら里の人間から非難されて自殺したんだって?
にやにやと笑って言った火黒の首元にクナイを一瞬で近づける。
…嫌味なら任務の後にしろ。
ふつふつと湧き起こる激情を抑えての言葉だった。
しかし火黒はそんな俺の怒りなど何とも思っていない様子で笑うのだ。
《っ、俺は父さんとは違う。俺は絶対に仲間を優先したりはしない》
《…へー。》
《…なんだよ》
《ご立派な事で。》
火黒の嫌味ったらしい言い方に遂に堪忍袋の緒が切れた。
拳を振り上げて怒りに任せて振り下す。
その拳を火黒は難なく受け止めた。
《なんだよ、なんか気に障ったか?》
《気に障る様な言い方しただろ…!》
《いや?君が父親と違うって言った事を立派だって褒めたんだぜ?何が気に障ったんだよ》
っ、と言葉を飲んだカカシに火黒がにやりと笑った。
お前もまだまだガキだよなァ。ぐらっぐらじゃねーの。
火黒の言葉に「あぁ!?」と何も反論出来ず睨み付けた。
《どっちなんだよ。お前はさ。》
《どっちって、》
どっち、なんだろう。
カカシも思わず自分に向かってそう問いかけてしまった。
父親の考えを否定している自分をいざ肯定されると腹が立つ。
しかし父親と同じ考えを持つ人間が居れば、またそれにも腹が立つのだろう。
…俺は一体、どうしたいんだろうか。
「…うん、2人共大分良くなってる。でもあんまり無茶すると傷口開いちゃうから気を付けて」
「あぁ」
「ドーモ。」
「そろそろ行くよ。準備は良いかい」
ミナトの言葉に振り返って返答を返す。
それから歩いて数分後に2手に別れる事となった。
ミナトと別れ、目的の地である神無毘橋へ向かう。
時折地図を確認しながら4人で徐々に目的地へ近付いて行った。
「…目的地までそう遠くない。そろそろ敵が来る頃だ」
「わ、分かった」
「うん」
「……。(お、来たな)」
火黒がいち早く敵の気配を察知して顔を上げる。
遅れて反応したカカシも眉を寄せると止まる様に合図をしてから真上から降って来た竹を見上げた。
すぐさまオビトが印を結んでチャクラを練る。
「火遁・豪火球の術!」
オビトの術によって竹が落とされ、途端にカカシの前に男が武器を構えて現れる。
すぐさま戦闘に入った2人を見上げていると火黒がピクリと反応を示してリンに目を向けた。
…いや、正確にはリンの背後に。
術で景色に同化している敵の忍はそんな火黒の目に眉を寄せる。
「…オビト、ちょっと退いてろ」
「え?」
火黒が走り出し術で隠れている男が居る辺りに刀を振り下した。
しかし完全に見えている訳ではなく気配を追っている為にギリギリのところで刀が当たらない。
すると上の方から仲間を手助けする様にカカシと応戦している忍がクナイを投げて来て、火黒が一旦距離を取る。
その瞬間に術で隠れていた男がリンに手を伸ばした。
「きゃあ!」
「おっと」
「リン!?」
「!」
リンの声にオビトとカカシも振り返り、一旦カカシが戦闘を切り上げて戻って来る。
しかしリンは気絶させられ男に捕まっており、カカシと戦闘していた男もリンの側に戻ってきた。
この女は貰って行くぞ。そう言って印を結んだ男にカカシが手を伸ばすが、一歩及ばず術で逃げられてしまう。
「あーあ、逃げられたな。」
「くそっ!」
「まてオビト!追うな!」
「!?」
物凄い形相で振り返ったオビトにカカシが言う。任務を続行する、と。
その言葉にオビトが目を見開きすぐに此方に戻ってきた。
そしてカカシの胸ぐらを掴むと「どういう意味だよ」と睨み付ける。
そんなオビトに物怖じ一つせずカカシが口を開いた。
「この任務を失敗すれば里に大きな損害が出る。今はリンに構っている暇はない」
「リンが殺されるかもしれねぇんだぞ!?」
「此方の情報を知りたがっている敵ならすぐにはリンを殺さない。後回しだ」
「お前の考えは仮定の話だろ!?本当に殺されたらどうするんだよ!」
それでも任務を遂行するべきだ。
無表情に言ったカカシに「今まで一緒に戦ってきた仲間だろ!?」とオビトが捲し立てる様に言う。
しかしそれでもカカシの考えは変わらない。
「例えそうだとしても、任務を優先させるのが掟だ。それが忍だろ。」
「掟の為にリンを見捨てるって言うのか!」
「そうだ。…言っておくが、お前が何と言おうと隊長である俺の意見に――」
オビトの拳が振り下され、カカシが倒れ込む。
その様子を少し離れた所で眺めている火黒は「あーあ。」と呆れた様に言った。
尻餅を着いたカカシは「やっぱりお前は嫌いだ!」と言ったオビトを見上げ「それでも構わないが」と腰を上げる。
「隊長の意見は絶対だ。こう言った時の状況で班がバラバラにならない様にと決定権は隊長に委ねられている。…その隊長は俺だ」
「っ、火黒!お前はどうなんだよ!」
「俺ぁ別にどっちでも?リンを助けようが任務を遂行しようが知ったこっちゃないね。」
「つまり俺の意見に従うって事だろ。」
そーいう事だなァ。
笑って言った火黒に「なんでお前等みたいな奴が上忍なんだよ…!」とオビトが眉を寄せる。
「オビト、お前には力が無い。だから俺や火黒が選ばれた。…お前1人で行った所で、リンは助けられない」
「だったらお前や火黒が動けば助けられるって事だろうが!なんで力のある奴が助けようとしない!」
「任務を放棄すれば後々後悔する事になるぞ。…忍に必要のないもの、それは感情だ。リンを助けたいなんて感情を俺は持ち合わせていない」
「…本気で言ってんのかお前」
リンはお前の為に医療パックをプレゼントしてくれただろ!お前のやつには内側にお守りも付いてんだぞ!
その言葉に火黒が徐に自分に渡された医療パックを開いた。
内側にお守りなんて無い。…それは暗にカカシを大切に思っていると伝えている様なものだった。
ヒュウ、と火黒が口笛を吹く。カカシが振り返り、火黒が此方に向けている彼の医療パックを見る。
「……。」
「リンはお前の為に、」
「そんな感情は必要無い。」
「……それが本当にお前の本心なんだな?」
オビトの言葉にカカシが目を逸らす。
その様子に火黒が目を細めた。
あーあ、まだ迷ってやがる。
カカシは一度眉を寄せてから無表情に戻し、オビトを見上げた。
「あぁ。そうだ」
「……もう良い。俺はリンを助けに行く」
背を向けて歩き出したオビトに「お前は何も分かってない!」とカカシが言った。
その言葉にオビトが足を止める。
「掟を破った人間が、どうなるか。…お前は何も」
「俺は白い牙を本当の英雄だと思ってる」
「!」
風が吹き、カカシが大きく目を見開いて沈黙する。
…確かに忍の世界でルールや掟を破る奴はクズ呼ばわりされる。でもな。
オビトの言葉に火黒が己の手を見下した。
「仲間を大切にしない奴は、それ以上のクズだ」
――それ以上やれば、神である貴方でも殺しますよ。
あの世界で、荒れ狂う神を前に黒凪が言った。
神との戦いで負傷した限の前に立って、裏会の相談役と言う地位に立つ黒凪が。
《お、おい止めとけ黒凪!裏会で実質トップのお前が神殺しなんかしたら…!》
《秩序とか掟とかどうでも良い。…私は本気。》
《(あーあ、こりゃあ本気だなァ)》
《黒凪、》
本当の殺意を持って神を睨む黒凪に閃も目を伏せて一歩下がった。
その様子に神と言う立場を持って暴れ狂っていた相手は本当に身の危険を感じたのか、溢れ出していた力が尻すぼみになっていく。
それがあいつの作戦かなんて今でも分からない。だが俺が見る限り。
「(あれは本気だったよなァ)」
本気で殺そうとしたのだ。仲間の為に。
世界を敵にするような大罪を。平気で。
カカシに背を向けて走り出したオビトの背中が一瞬だけ黒凪に重なって見える。
徐にカカシもオビトに背を向けて歩き出した。
「……。なァカカシ」
「?」
「俺はあっちに行く」
そう言って火黒が指を指した先はオビトが走って行った方向。
…お前まで何言ってる。
眉を寄せて言ったカカシに火黒がにやりと笑った。
「"お前まで"?…俺ぁいつでも自分の好きなように動いて来た筈だぜ?」
「!」
「お前みたいに掟に縛られてはねーんだよ」
しゅんっと一瞬で火黒の姿が消える。
1人になったカカシが地面を見下した。
「…よし、あそこだな…」
「よォ」
「っ!?…び、吃驚した…火黒かよ…ってお前なんで此処に、」
「あ?カカシを放って来た」
そうじゃなくて!
オビトの声に「お前さァ…大声出すなよ…」そう呆れた様に言って火黒が刀を抜いた。
おかげで来たぜ。そんな火黒の言葉にオビトがクナイを構える。
しかし一瞬で背後に現れた敵が一足先にオビトに向けてクナイを振り下した。
「死ね!」
「(やっぱ俺より先にどんくさい方を狙うわなァ)」
火黒が刀を横に振り下す。しかしそれより早くカカシが敵の胸元を小刀で切り裂いた。
カカシの目の前寸前でぴたりと止まった刀にカカシが火黒に目を向ける。
「無理矢理入ってくんなよカカシ…。殺しちまうだろォ」
「お前は間違っても殺さないだろ」
「どーだかなァ…」
刀を持ち直し少し離れた位置に立った敵に目を向ける。
敵はカカシを見ると少しだけ顔色を変えた。
銀色の髪に、その発光のチャクラ刀…。お前、木ノ葉の白い牙か?
その言葉にカカシが微かに目を細める。
「これは父の形見だ」
「!…成程な、白い牙のガキか…。ならビビる必要はない」
敵がニヤリと笑い術で景色に熔けて行く。
それを見てからカカシが周りを見渡すが術の精度は高く匂いも姿も何も感じ取る事が出来ない。
火黒、とカカシが声を掛け、火黒が周辺に目を向ける。
「…カカシ、お前の真後ろ」
「!」
「チッ」
カカシが振り返る。しかしそれより早く敵がクナイを振り下した。
途端にカカシの左目が縦に切り裂かれカカシが倒れ込む。
悪いなァカカシ、俺も完璧に分かるわけじゃねェしさ。
カカシを見下しながらそう言った火黒にカカシが背中を起こす。
「わ、分かってる…。別にお前を責めるつもりは、ない…っ」
「…ふーん」
「っ、カカシ…!」
降って来たクナイを涙を拭っているオビトの真上で火黒が掴み取る。
そしてすぐさま血に濡れたクナイを投げ返すがその場所には敵は既に居ない。
手の平から血を流す火黒にオビトが顔を上げた。
「か、火黒…!」
「んな事で泣くなよオビトォ。お前も何かやれば?」
「なんかっつったって…!」
「っ、左目は、もう駄目か…っ」
やっぱ見えねェモンか?
そんな風に聞いてくる火黒にカカシが頷いた。
その様子を見ながらオビトは涙を拭い、手元のクナイをぐっと握りしめる。
「(情けねぇ、護られてばっかじゃねえか…!)」
「…。んー…(俺が今妖だったら分かったんだろうけどなァ…)」
火黒がそう考えて後頭部を掻く真後ろに敵が現れる。
そして姿を消したままでクナイを振り上げた敵にオビトが目を向けた。
途端にオビトがクナイを投げ、火黒の真後ろに立っていた敵の額に突き刺さる。
「そ、んな…馬鹿…な…」
「あ?」
背後で倒れた敵を見下し火黒がオビトに目を向ける。
オビトの瞳は赤く染まり、その紋様はうちは一族特有の写輪眼のものだった。
その目を暫し見つめた火黒はリンから受け取った医療パックで応急処置を始めたカカシの目を見てから再びオビトに目を向ける。
「何だァ? 泣き過ぎて目ェ赤くなってんぞ」
「…いや、"それ"は恐らく写輪眼だ…。そうだろ、オビト」
「あぁ…。チャクラの流れが見える。…これが写輪眼…」
「へー。写輪眼なァ…」
火黒が感心した様にそう呟くと応急処置を終えたカカシが立ち上がった。
リンを助けに行こう。そう言ったカカシにオビトが振り返り、小さく笑みを見せて「あぁ!」と返答を返す。
その様子を眺めてからリンが居るであろう岩場を見た火黒は徐に目を細めた。
そうして中に入り、3人の気配にリンの側に立っている男が此方に目を向ける。
仲間ではなく敵であるカカシ達の姿を見た男は呆れた様にため息を吐いた。
「ったく…どいつもこいつもガキ相手に何やってんだ…」
「…。リンのチャクラが何か変だ。」
「恐らく幻術に掛けられてるんだろう。俺達の情報をすぐに聞き出そうとしたんだ」
「ほう、ただのガキじゃないらしい」
なら徹底的にやらせて貰うぜ。
そう言って武器を構えた男にオビトとカカシもクナイを構える。
同時に走り出した両者がぶつかりあい、その様子を火黒が少し離れた場所で傍観する。
3人で掛かれば余計に手間だと考えての行動でもあり、単独での戦闘を得意とする火黒が面倒だと思ったが故の行動だった。
火黒が考えた通りにオビトとカカシだけの連携で上手く敵を倒し、2人がリンの元へ駆け寄っていく。
その様子を火黒はやはり一歩も動かず眺める。
「解!」
「!…カカシ、オビト…」
「助けに来たぞリン!もう大丈夫だ!」
「よし、さっさと此処から出よう」
リンを立ち上がらせて3人で入口へ向かって歩いてくる。
するとカカシとオビトに倒されていた男がゆっくりと身体を起こした。
その様子にいち早く気付いた火黒はカカシ達に声を掛けようとするも、すぐさま印を結んだ男に後れを取る。
途端に男の術によって岩場が崩れ始めた。
「な、…走れ!」
「リン!」
「っ…!」
いち早く崩れ始めた入り口を火黒が刀で切り裂いて通り道を作る。
そうして振り返るとそのタイミングでカカシが左目を負傷しているが故に真上から降って来た瓦礫に気付かず、直撃して倒れてしまった。
その様子に気付いたオビトがすぐさま戻りカカシを抱えて逃げようとするが、己に向かって落ちてくる瓦礫を見上げてカカシを放り投げる。
それを見た火黒が徐に足を踏み出して物凄い速度でオビトに近付いて行く。そして手を伸ばし、微かに目を見開いた。
「(…なんで助けようとしてる?)」
脳裏に過った疑問に足を止める。
死んでも良いと任務の前に結論付けたじゃないか。
黒凪が護れだなんて言っていない。…じゃあなんで俺はこんな所まで必死になって走って来てるんだ。
――馬鹿馬鹿しい。こいつを助けた所で――…。
「オビトー!!」
「(何になるってんだ)」
手を引っ込めた瞬間に瓦礫がオビトに降り注いで行く。
そして自分に降り注ぐ瓦礫を全て刀で斬り落とし、静かになった周辺に徐に己の掌を見下した。
「(危なかったな、今のは)」
「オビト!オビト…!」
「っ、オビト!!」
「(あそこでコイツを助けてたら、もう)」
俺は恐らく妖には戻れない。
瓦礫に右半身を潰されたオビトに駆け寄るリンとカカシを眺めながらそう思う。
力なく話すオビトにカカシが地面に拳を振り下し、泣きそうな声で言った。
「何が隊長だ、何が上忍だ…!」
「っ…」
「最初からオビトの言う通りにリンを助けに来ていれば、こんな事には…っ」
「…あぁ…そういやぁ、忘れてた…」
お前への、上忍祝い…。
オビトの言葉にカカシとリンが顔を上げる。
これは…役に、立つ筈だ…。
そう言って左目を開き、カカシに目を向けた。
「俺の、写輪眼。…お前に、やる」
「!」
「リンなら…此処で、移植出来るだろ…?」
俺は此処で死ぬけど、お前の目になって。…一緒に、これから先も。
そう言って目を細めたオビトにリンが覚悟を決めた様に涙を拭い、カカシを呼び寄せる。
早くしなければオビトが本当に死んでしまう。
そんな気持ちがあったのだろう、カカシは思っていたよりも早く切り替えた様に眉を寄せながらリンに近付いた。
「…火黒…お前への、プレゼントは…ない、けど…」
「あ?…あー、別にいらね。俺は物は持たねえ主義だし」
「…そう、かよ…。…なら良かった…」
オビトがそう言ってリンに目を向ける。
リンはすぐに移植を開始し、腕の良い彼女は数分で移植を成功させた。
左目にオビトの写輪眼を宿したカカシは外に居るオビトの仇を殺して来る、と言って瓦礫を破壊して外に出て行く。
それを見送った火黒は目を閉じてリンと手を繋ぐオビトの側にしゃがみ込み口を開いた。
「あいつが居れば助かったのになァ。運が悪いぜ、お前。」
「あいつ…?」
「お前みたいな死に掛けた奴も助けられるぐらいのとんでもねェのが居るんだよ。今は居ねェけどなァ」
「…は、そうかよ…」
…会えると良いな。そいつと、さ。
オビトの言葉に目を見開いて、それから笑う。
よくまだ会ってないって分かったな。
その言葉にオビトも苦しそうな顔で笑った。
「見てりゃ、分かるよ」
お前、寂しそうだったから。
オビトの言葉にまた火黒が目を見張る。
すると敵を倒したカカシが姿を見せ、リンに手を伸ばした。
そろそろ敵の増援が来る。カカシもオビトも、リンもそれは理解している。
「…行け、リン」
「っ、オビト…」
「増援が、もう、」
「土遁・裂土転掌!」
そんな声に肩を跳ねさせ、リンがオビトに目を向ける。
オビトは「いいから」と声を掛けるとカカシに向かってこう言った。
リンを頼む、と。
その言葉に「あぁ」と返答を返したカカシに満足げに微笑んだオビトを見て、リンがカカシに手を伸ばす。
火黒は脚力だけで瓦礫の外に跳び出した。
「オビト…!」
「っ、…行こう、リン」
「(あーあ、胸糞悪ィ)」
気持ち悪くて吐き気がする。なんだこの感じ。
胸元を不愉快そうに掻く火黒の手をリンが掴んで走り出す。
もう片方のリンの手はカカシが握っていた。
…何だこれ。なんで仲良く手なんか繋いでんだ。
眉を寄せて手を振り払い、追って来ている敵に目を向ける。
「(妖に戻れば収まるか?)」
「火黒!?」
「!」
「行け。鬱陶しいから」
1人で戦う気!?
リンの言葉にカカシも仕方がないと言う様に武器を構える。
しかし振り返った火黒の目に思わず動きを止めた。
「分からねェか?俺ぁお前等が邪魔なんだよ」
「…火黒…?」
「お前等なんざどうでも良い。…俺は独りにならねェと」
「…何、言ってる」
独りにならないと戻れねェ。
何言ってんだよ!火黒の言葉にそう返したカカシの足元にミナトから貰った火黒の刀が突き刺さる。
あいつを斬り捨てた。それで多分十分だ。
そう言ってニヤリと笑った火黒が日の落ちた空に目を向ける。
「なァ…俺を"そっち"にまた連れて行ってくれよ」
「火黒!」
火黒の身体に敵が投げたクナイが突き刺さる。
ごふ、と血を吐いて笑ってからクナイを身体から抜いて此方に駆け寄ってくるカカシの腕に投げつけた。
クナイが腕に突き刺さったカカシが痛みに足を止め、リンが驚いた様にカカシに駆け寄る。
どんどん敵が投げるクナイが突き刺さっていく。カカシやリンに向かって行ったものもある程度は手の平で受け止めた。
血塗れになっていく火黒にカカシやリンが眉を寄せる。
「断ち切っただろ?一瞬でも気に入ったあいつをさァ」
「何を言っているんだあのガキは…」
「気味が悪いな。さっさと殺ってしまうぞ」
「火黒、本当に死ぬぞ!」
カカシがそう叫んだと同時にカカシが持っていたミナトから受け取ったクナイの術式が動き出す。
途端にカカシの側にミナトが現れ、敵を睨んだ。
しかし血塗れの火黒に目を向け大きく目を見張る。
「火黒!?」
「なァ、頼むよ…」
「火黒!その傷は…!」
「俺を"そっち"に」
連れて行け。
その言葉と同時に空から雷が火黒に向かって落ちてくる。
雷に撃たれた火黒が黒こげになってその場にしゃがみ込んだ。
その様子に目を見開いて固まっているカカシだったが、好機だと武器を火黒に投げつける敵にミナトが向かって行く。
「う、うそ…火黒…!」
「リン、医療忍術を!」
ミナトの言葉に弾かれる様にしてリンが火黒に駆け寄っていく。
しゃがみ込んでいる火黒の身体は焼け焦げ、肌の色も黒くなっていた。
そんな火黒を涙目になりながら治療するリンと呆然とその背中を眺めているカカシ。
カカシにとって先程の火黒の行動は自分達を護っている様にも見えていた。
だからこそ、先程のオビトの事と同時に己の心に重くその事実が圧し掛かる。
「(また、また俺が不甲斐ないばかりに…)」
「カカシ」
「(本当に、何が隊長だよ)」
「カカシ!」
ミナトの声にはっと顔を上げる。
目の前に立っているミナトの肩には焼け焦げた火黒が担がれていた。その背後には泣きじゃくるリンが居る。
とりあえず体勢を立て直そう。行くよ。
そう言って歩いて行くミナトの後をカカシもリンと共に追った。
その後、ミナトの手助けもありすぐに任務を完了させたカカシ達は火黒を抱えて木ノ葉へ戻る事となる。
奇跡的にも火黒はあれだけの大火傷を負いながらも里に帰るまでの間を生き延び、負傷者でごった返している木ノ葉の病院で治療を受けた。
結果的に火傷の後が治る筈もなく、彼は包帯を身体に常に巻き、もはや忍としては活動する事は無理だろうと診断を受ける事となった。
【…あ?なんだよお前。気持ち悪ィな】
「そう言うなよ。今日退院だって聞いたから来ただけだろ」
【里に居る間もずっと俺の病室に居たろ。…しかも今日はリンも一緒かよ…】
「何よ、私だってカカシと一緒に里に居る間は毎日病室に行ってたでしょ!」
気持ち悪ィんだよお前等さァ…。
呆れた様に言った火黒に「退院おめでとう」とカカシが彼の肩に腕を回す。
そんな肩にも、顔にも頭にも包帯が巻かれている。
火傷の影響で目の周りの皮膚も熔けてしまったのか、両目ともぎょろりとしていた。
そんな風に変わり果てた火黒の姿にカカシもリンも嫌な顔一つしない。
そんな2人をまた呆れた様に見て火黒が空を見上げる。
【(あーあ、さっさと来ねェかな)】
自分の事をこれだけ思ってくれている2人を前にしても彼女の記憶が薄れる事はない。
オビトの言葉通り、ずっと待ち続けているのだ。…まだ、会えていない。
妖に成った自分を見て「見慣れた姿だね」なんて笑っていた時守を見ても何も嬉しくなどない。
彼女に会わなければ、この虚しさはずっと付き纏う。
虚しさが消えない
(こちらの世界で出会った1人の人間の影響でこの姿に成った俺を見たあいつは)
(どんな反応をするだろうか)
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