世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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みかづき島編
「おい。さっさと起きろ。」
『っ、…ったく、無駄に力使ったわ…』
不機嫌な顔をして言った黒凪に息を吐いて角都が上着を黒凪にばさっと掛ける。
石化されてバラバラになっていた黒凪は角都の上着を羽織り、角都を見て舌を打ったイシダテがヒカルに手を伸ばした様子に目を向けた。
イシダテの手首に結界を突き刺し、イタチがすぐに印を結んで炎を向かわせる。
それを見たコンゴウがすぐさま結界をクナイで破壊しカレンバナが幻術を発動し走り出した。
「…。」
『イタチ、追わなくて良い』
「!」
すぐさま写輪眼で幻術を見破り追おうとしたイタチだったが、黒凪の声に足を止めた。
そして振り返ると角都の上着を羽織った黒凪に眉を下げる。
とりあえず体勢を立て直して行った方が良い。ミチル様には式神付けといたから大丈夫。
そう言って洞穴に入っていく黒凪の後をイタチと角都も黙ってついて行った。
洞穴の中にはヒカルやコレガ、七郎が座っている。
『ヒカル君は大丈夫?』
「はい。どうにか」
『コレガさん達も怪我はないですか』
「ああ…。…すまない、手を貸す事も出来なくて」
闇雲に突っ込んで来なかっただけ助かりましたよ。
コレガにそう言って薪を集め、火をつける。
外はいつの間にか夕日色に染まっていた。
『…。ミチル様はどうにか大丈夫そう。処刑されかけてるけど。』
「処刑っ!?」
『ああ大丈夫。さっきまでちょっと危なかったけどなんか体勢立て直したから』
本当に落ちたら式神がとりあえずはどうにかするよ。
そう言って式神から意識を離した黒凪はじんわりと両目に涙を浮かべたヒカルに目を向けた。
もう無理だよ、なんてまた弱気になって呟いたヒカルに眉を下げる。
「黒凪お姉ちゃんだって怪我してるし、パパだって…」
『いやいや、私怪我してないよ。死んだけど。』
「え…」
「ちょっと黒凪さん、そういう事じゃ…」
…あ、そっか。
素で言い方を間違えた様子の黒凪にイタチと角都がちらりと顔を見合わせる。
すると背後からがさ、と木の揺れる音が響き全員が機敏に振り返った。
木陰から現れたのはチャムとキッキィで、彼等を見たヒカルは涙を浮かべながら縋り付く様に彼等に抱き着き、顔を伏せる。
「おーいチャム、キッキィ。どうした急に…。……あ。」
『あ、サーカス団の』
「ああー! こんな所に居たんですか皆さん!!」
大きな声でそう言った団長はよっぽど私達を探していたのだろう、嬉しさと言うよりも怒りを滲ませずかずかと此方に近付いてきた。
やがてサーカス団が森に集まった頃にはマシンガントークの如く不満を吐露していた団長の言葉も尽きて来た頃だった。
王室に行ってみれば金は払われないし門前払いをくらうし、しかも動物を殺されかねない様な勢いだった。
そんな内容を怒りのままに吐露していた団長の肩を黒凪が叩く。
『団長さん、やっぱりこんな所まで来たんだからお金欲しいですよね?』
「え?…そりゃあ、そうですけど…」
『私達王室に入りたいんですよ。ちょっとゴリ押しで行くんでついでにサーカス団皆で行きましょ。』
ショーをしたらお金も払ってくれるでしょ。
ニコニコと笑って言った黒凪に「え、あ、はい…」と団長も気が抜けた様に返答を返した。
サーカスで王室の人間の目を引き付け、その隙に中に侵入して王子を助け出す。
そんな単純な作戦を立てて中に入り込もうと言う魂胆だ。
しかしそんな考えなど微塵も知らないサーカス団は意気揚々と黒凪達と共に王室に向かって行く。
「なんだ、また来たのか貴様等!」
「い、いやぁ…その…」
「さっさと帰らんか!」
「我々は国王に呼ばれて遠路遥々此処まで来ている。何か聞いていないか?」
すっと前に出て来たイタチに「そんな話は1つも聞いていない!」と衛兵が槍を構えて言った。
そんな衛兵に「それは可笑しいな…。貴方達は聞いている筈だ。」そう言って瞬きをする。
途端に見えた写輪眼に衛兵が槍を降ろし、ふらふらと門を開いた。
一方の王室の方では途端に聞こえ出したサーカス団の明るい音楽にぞろぞろと外に人が出て行く。
処刑台に乗せられたミチルを見ていたシャバダバもバルコニーに姿を見せ、サーカス団に目を向けた。
「サーカス団か…。何故入れた?」
「申し訳ございません、すぐに追い返して…」
「いや、丁度退屈していた所だ。こいつの所為でな」
そう言ってミチルに目を向けるシャバダバ。
処刑台の上に立っているミチルを下の方から見上げたイタチは無線に手を掛ける。
コレガ達と共に裏道を通って城に潜入していた黒凪はイタチからの連絡に無線機の電源を入れた。
《王子は最上階のテラスから伸びる薄い板の上に首に縄を掛けられたまま立たされています。》
『海賊みたいな処刑の仕方すんのねシャバダバって…』
《板の強度もそれほどあるとは思えません。王子の体重では時期に…。》
『分かった』
コレガを筆頭に城の中に入り、屋上へ向かって走り出す。
先程のイタチの言葉を要約して話すと「急ぎましょう」とコレガが眉を寄せて言った。
その言葉に頷いてヒカルが手に持っている弓と背負っている矢を確認する。
おもちゃでは無い矢は先程潜入する前にコレガ達がヒカルの為にと作った代物だ。
「…此処が屋上付近です。これ以上は隙が無いと入れません。」
『分かりました。…イタチ、聞こえる?』
《はい。》
『そろそろやって』
了解。と黒凪の指示に返答を返し徐に噴水の前にイタチが1人で向かって行く。
フードを目深にかぶって現れたイタチにサーカスを見に来ていた王室の人々は興味津々に彼を見上げた。
それでは皆様、ショーも大詰めです!彼は我等がサーカス団でも随一の腕を持つマジシャン!とくとご覧あれ!
そうイタチを紹介した団長は彼の指示通りに一気にイタチから遠ざかって行く。
ゆっくりと顔を上げたイタチが徐に王室の人々に目を向けた。
「――!あの目は…」
イシダテがフードの下から覗く写輪眼に気付いた途端に噴水の水が龍となり王室に突っ込んで行く。
響き渡った人々の叫び声にシャバダバが目を大きく見開いてイシダテの名を叫んだ。
イシダテも焦った様に「分かっている!」と返答を返すと走り出し、イタチの元へ向かって行く。
「…よし、兵士が一気に外へ行きました」
「最上階のテラスと言う事は王の間でしょう。一気に行きます!」
『ちょっと待って。…此処から先は我々が先陣を切ります。恐らくイシダテと言う男なら我々の事を読んでいても可笑しくない。』
黒凪、角都、七郎が前に出て走り出す。
コレガの指示通りに進んでいると、やはり予想通りコンゴウが道を塞ぐように立っていた。
ニヤニヤと笑っているコンゴウに黒凪が角都に目を向ける。
『角都、早めにね』
「分かっている」
『先に行きましょう』
「行かせるかぁ!」
走り出したコンゴウの前に立ち塞がり、角都が腕を硬化して殴り飛ばす。
その威力に足を止めたコンゴウは舌を打つと角都を睨み、腰を下ろした。
角都は肩を鳴らすと徐に走り出す。大きく腕を振り上げたコンゴウに角都が一気に身体を逸らし、そのまま蹴り飛ばした。
「ぐ…っ、くそぉ…!」
「……」
すぐさま立ち上がって走り出したコンゴウだったが、角都の手首から先が無い事に気付いて目を見張る。
途端に足首を掴まれ勢いよく転倒した。すぐさま足首に目を向けたコンゴウは独りでに動いている角都の手首に目を大きく見開く。
そして前方に目を戻せば物凄い勢いで此方に向かってくる角都の掌が見えた。
「ぐうっ!?」
「…貴様、術も使えん能無しか」
「な、んだ…と…、…貴様…!」
「!」
首を絞めつける角都の手を物ともせず、角都の腕と腕を繋ぐ触手を掴んで彼を引き寄せた。
その力の強さに微かに目を見張った角都は振り下されたコンゴウの手をギリギリで顔を背けて避ける。
しかし口布を持って行かれ、角都の口元を見たコンゴウが目を大きく見開いた。
「な、んだ…?」
「…フン」
コンゴウの首を掴んだままで身体を曲げ、硬化した片足を彼の腹部に思い切り突き刺す様にしてめり込ませる。
硬化された足はコンゴウの身体を突き破り、コンゴウは力なく倒れた。
ぴくりとも動かなくなったコンゴウを見下して徐に角都も最上階を目指す。
先に進んだ黒凪達は、階段を登っていると七郎が顔を上げその反応に足を止める。
暫く周りを見渡していた七郎が風を巻き起こし、目の前に1つの気配が降り立った。
術で景色と同化していたカレンバナが姿を見せ、ニヤリと笑う。
「よく分かったわね」
「貴方が付けている香水の匂いを知っていたもので。」
「ふーん…」
『任せて良い?』
「勿論。」
にっこりと笑って言った七郎に黒凪達が走り出す。
一瞬も隙を見せない七郎にカレンバナは執拗に先に進んだ黒凪達を追おうとはしなかった。
あんたモテるでしょ、なんて声を掛けて来たカレンバナに「はい」と謙遜すらせずに頷いた七郎。
そんな七郎にカレンバナが片眉を上げた。
「でもすみません、僕はロリコンではないので…」
「は?あんたいくつよ」
「17ですね」
「…私22なんだけど」
…あれ?そう言って笑顔のままで首を傾げた七郎に青筋を浮かべてカレンバナがクナイを構える。
そしてすぐさま向かってきたカレンバナから一瞬で遠ざかり「いやあ、困ったなぁ」と後頭部を掻いた。
「年上って物凄い好みですよ、僕。」
「だったら今度デートでもなんでも行ってやるわよ!死体になったあんたとね!」
「それは嫌だなあ」
僕はちゃんと生きている人と遊びに行きたいですし。
逆さまになってカレンバナのすぐ目の前に現れて言った七郎にカレンバナが大きく目を見開いた。
途端に身体中に切り傷が浮かび上がり、がくんと座り込む。
「闇雲に突っ込んで来過ぎですよ。僕は風なんですから、そんなに簡単に捕まるものでもありません」
「っ、」
「それじゃあ、さようなら。」
すぱっと切り裂いた首が床に転がって行く。
女性はあんまり殺したくないんだけどなぁ…。そんな風に呟きながら歩いて行く。
上の方では何やら爆発音が響いていた。
「――パパぁ!!」
「…ヒカル!?」
「やはり王の間だ!」
「ミチル殿、今助けに――!」
ああちょい待ち。そう言って前に出た黒凪がコレガに伸ばされていた手を代わりに受ける。
そうして瞬く間に石化して行く腕をすぐさま結界で切り離した。
飛び散った血にヒカルがコレガの背中に隠れ、目を瞑る。
迷いなく腕を切り落とした黒凪に感心した様に目を細め、石化した黒凪の腕をイシダテが放り投げた。
「貴様…」
『さっき石化された分を返しに来た。』
「…何故生きている、と問うた所で貴様等間一族は何も話さんのだろうな」
『私が何者かは言ってあげられるよ?』
私は間一族の時期当主の間黒凪。
その言葉に「時期当主だと…?」とイシダテが目を見張る。
ヒカルもその反応に釣られる様に驚いた様に黒凪に目を向けた。
『私が来てる時点で君等の敗北は決まってる。』
「…フン、とんだハッタリだな」
『ハッタリかどうかは戦ってみれば分かるんじゃない。…ああついでに言っておくと』
一瞬で周りを囲んでいた兵士達の胸元を結界で貫いた。
その有様に大きく目を見開いたシャバダバやイシダテ、ヒカル、コレガ。
黒凪はぴんと立てた人差し指と中指を目の前に持っていき、小さく笑う。
『私の事を知ったあんたは、絶対に此処で殺す。』
黒凪の言葉に思わずゾクリとしたイシダテは「やれ!イシダテ!」と叫ぶシャバダバの言葉に少しだけ躊躇する。
その間にもコレガがヒカルを連れてミチルの真下に走り出した。
何をやっている!早く殺れ!と再び掛けられたシャバダバの言葉にイシダテが走り出す。
此方に向かってくるイシダテを見つめ、がむしゃらに伸ばされた彼の手に己の右手を差し出す様にした。
「死ね…!!」
『あーあ、こんなに近付いちゃって。』
「っ…!?」
『馬鹿だねえ』
イシダテの手が黒凪の右手首を掴んだ途端に絶界が発動する。
目を大きく見開いて消えたイシダテから目を逸らし、黒凪は血を流し続ける左腕をちらりと見てヒカル達の元へ走り出した。
パパぁ!!とヒカルの叫び声が聞こえる。
見上げればミチルが立っている板が折れかかっていた。
『…、目が霞んでよく見えない…。そんなに私視力悪かったかな』
「ど、どうしよう…どうしよう…!」
『ヒカル君、ミチル様の首の縄を矢で撃てたりしない?』
ギシ、と真上で響いた音にヒカルが顔を上げる。
どう?と眉間に皺を寄せて言う黒凪にヒカルが小さく頷き、姿を見せたチャムの背中に乗って走り出した。
チャムと共に物凄い勢いで少し離れた棟を登って行く。
ヒカルの行く道を塞ぐ兵士達は黒凪が大きな結界を作って退けた。
「…黒凪お姉ちゃん!!」
『うん?』
「――信じてるから…!!」
棟の上からミチルの元へチャムと共に跳び上がるつもりか、と目を細めた黒凪は「信じてて!」と声を張り上げる。
その声に小さく笑ってヒカルがチャムに指示を出し、チャムが走り出す。
その背中の上に乗って矢を構えた。
板がゆっくりと弓なりにしなり、バキッと真っ二つに折れる。
空中に投げ出されたミチルの首に巻かれた縄がどんどん伸ばされて行った。
「(パパを…助ける…!!)」
『…。』
ヒカルの放った矢が的確にミチルの首の縄を射抜き、重力に従ってミチル、ヒカル、チャムが落ちてくる。
3人を受け止める為に巨大な結界を作り、柔軟性を持たせて3人を受け止めた。
すぐさま結界を解くと起き上がったミチルの元へ走り寄るヒカルが見える。
『(よし、とりあえず怪我は無しか)』
「パパ、良かった…パパぁ…!」
「ありがとう、ヒカル…。」
「んなあっ!? き、ききき貴様…」
はっとミチルがシャバダバの声に顔を上げる。どうやらシャバダバはミチルが死んだのかを確認しに降りて来たらしい。
ミチルはすぐに怒りを顔に滲ませると「シャバダバー!!」と怒号を響かせ逃げ出したシャバダバの後を追った。
それを見た黒凪は「ああそうだ、あの男も殺しておかないと」と呟いて立ち上がる。
しかし黒凪の足を掴んで力任せに持ち上げ、先程消滅した筈のイシダテが黒凪を放り投げた。
『っ!』
「黒凪お姉ちゃん!?」
「え!?」
「お、おお!イシダテ…!!」
足が石化し、眉間に皺を寄せて起き上がった黒凪が前方を見て目を細める。
どうやらイシダテは咄嗟に術を発動する右腕を庇い、左腕だけを犠牲にして絶界から逃れていた様だ。
うわー…、まじか。殺し損ねてた…。
そう呑気に呟いて立ち上がろうとした黒凪は右腕の術を発動して此方を睨み付けるイシダテに目を向ける。
『…キレてんね、あいつ』
「殺す…殺してやる…!」
「イシダテ、分かってるな!?ミチルを殺すんだ!」
『下がってなヒカル。あいつ私の腕だけじゃなく、よくもまあ足まで…』
そんな事を呟きながらどうにか立ち上がろうとするが、石化した足が言う事を聞かず上手く立ち上がれない。
此処で一度死んでリセットすれば楽なのだが、再生している間にヒカル達が殺されてしまえば元も子もない。
ミチル様、ヒカルを連れて中へ。そう言ってイシダテの元へ向かおうとする黒凪にミチルの目に涙が浮かぶ。
「っ、君の方が重傷なのに…!」
『え、うわ、』
黒凪を肩車し、自分を鼓舞する様に叫ぶミチル。
そんなミチルに驚いた様に目を向けたシャバダバは「イシダテ!ミチルだ!ミチルを殺せ!」とイシダテの身体を揺さぶった。
しかしイシダテは黒凪だけを睨みふらふらと近付いてくる。
「イシダテ!…全くこの恩知らずが…!ミチルを殺れと――…」
「うるせえ…!!」
「ぐっ!?」
怒りに任せて右手でシャバダバの襟元を掴む。
すると途端にシャバダバが石化し、目を見開いてイシダテが手を離した。
ミチルがそんなシャバダバを見て再び声を張り上げ、イシダテに向かって走り出す。
そんなミチルに気付いたイシダテは怒りに青筋を浮かべ、城の石を右手で操り弾丸の様にミチルに突き刺した。
腹や足に突き刺さった石にミチルが倒れかかり、その背中をヒカルが支える。
「い、痛いよぉ…!」
『(まずい、お腹にも刺さってるし…!)ミチル様、降ろして良いですから!』
「駄目だよパパ、諦めないで!このままじゃ黒凪お姉ちゃんがまた怪我しちゃうよ!」
「ぐ、うぅうう~っ」
ケリを着けてやる…。
そう言って右手にチャクラを集中させるイシダテ。
そんなイシダテにチャムが突っ込んで行き、右手に噛み付いて時間を稼いだ。
「パパ、諦めないで…!」
「ううぅう…っ」
「負けちゃ駄目だ!!」
「うああああ!!」
ミチルが涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら走り出す。
その肩に乗せられている黒凪は大きな振動に耐えながら眉間に皺を寄せて歪む視界の中でイシダテを探した。
――見えた。そう呟いて結界をイシダテに突き刺し、イシダテが最後の力を振り絞り足元の岩を崩す。
倒れ掛かったミチルを結界で支えて、イシダテの結界を解き落下して行くイシダテと石化したシャバダバを見送った。
「っ、はー…」
『ミチル様、とりあえず治療を受けないと』
「う、うん…でも僕より…」
『確かに私もヤバいですけ、ど――?』
ぐるんっと歪んだ視界に目を見開いて黒凪が力なくミチルの肩から落ちていく。
気が抜けて黒凪を支えていた手をミチルも離してしまい、吹き抜けの様になってしまった城の下へ黒凪が落下した。
ああーっ!!と叫んだミチルの横を物凄い勢いでイタチが駆け抜け、黒凪を受け止めて着地する。
左腕が無い上にその傷口から流れ出る血を見てぎょっとしたイタチは顔色の悪い黒凪の顔を覗き込んだ。
『…ごめ…、ちょっと…タイム…』
「…大丈夫ですか?」
『…何も見えない…。宙心丸、またなんか…した……?』
「はい?」
その言葉を最後にぐったりとした黒凪に眉を寄せていると真上の辺りから「え、黒凪さんが落ちた!?」と七郎の焦った様な声が聞こえてくる。
顔を上げると七郎がすぐさま此方へ降りてきた。
そして腕の無い黒凪を見ると顔を歪め、すぐに顔を覗き込む。
「…うわあ、苦しそう…」
「この場合はいっそ殺してやった方が楽なのか?」
「そうですね…、此処までの重傷なら…」
でも僕は出来るだけこの人は殺したくなくて、その…。
そう言って目を逸らす七郎を見つめていると角都も此方に降りてきた。
そして黒凪の状態を見るとすぐにクナイを出してイタチの腕の中で蹲っている黒凪の身体を起こし、心臓に突き刺す。
そんな黒凪にぐっと眉を寄せ、七郎が目を伏せた。
『……っ、』
「あ…起きましたか。」
黒凪の視界にイタチがまず入り込む。
そして胸元に広がっている血のシミを見ると理解したらしく、徐に周りに目を向けた。
『あー…。ごめん、誰が殺してくれたの?』
「角都です。気分はどうですか。」
大丈夫大丈夫。リセットしたからすっきり。
ほら、腕も足も治った。
そう言って薄く微笑んだ黒凪は目を逸らしている七郎に眉を下げ、彼の名前を呼ぶ。
ゆっくりと振り返った七郎は黒凪の顔を見ると彼女の笑顔に少しだけ驚いた様な顔をして、眉を下げた。
「こっちではよく死にますね。」
『君に会う前はもっと死んでたよ。』
「……。」
そんな顔しないでよ七郎君。別に本当に死ぬんじゃないんだから。
そう笑ったままで言った途端に「黒凪お姉ちゃんー!」とヒカルの声が聞こえてくる。
そんなヒカルの後ろでは担架で運ばれて行くミチルも見えた。
「僕はなんて馬鹿だったんだろう。我儘で、世間知らずでさ。…パパがやろうとしてた事なんて、何1つ知らなかった。」
『…それに気付いただけで大きな一歩ですよ。』
「…僕、頑張るよ。今だって国を治めるって言うのはどういう事かいまいち分からないけど。…一生懸命、頑張るよ。」
「僕も手伝うんだ!そして僕が大きくなったらパパが立派に作り上げた国を護っていく!」
…だからさ、また来てよね。
ヒカルの言葉に笑顔で頷いた。
そんな彼等の前には月の国を出る為の船が浮かんでいる。
『何かあったらまたすぐに呼んでくださいね、ミチル様』
「うん!ありがとう!」
『じゃあね、ヒカル』
「うん。…また来てね。僕達、友達だし」
笑って言ったヒカルが手を伸ばして来る。
その手を見た黒凪はヒカルをぎゅっと抱きしめた。
え、と顔を赤らめるヒカルに「あれ?」と黒凪が身体を離す。
『ハグじゃなかった?』
「う、ううん!」
「(あーあ、可哀相に)」
もしも本気ならもう結婚出来ないなあ。あの子…。
…僕みたいに。
そう心内で呟いて眉を下げる。
あまりお勧めしないね
(あれ、イタチ怪我してたの!?)
(特に大したことはありませんが…)
(…サーカス団護って戦ってたらそりゃあちょっとした傷ぐらい出来るよねえ…。ごめんね気付かなくて)
(いえ…)
(ねー菊水、ちょっと昼寝したいからベッド貸してくんない?)
(あ、竜姫)
(別に構わんが、奥の左側の部屋には入るなよ。先客がいる。)
(先客?誰か怪我でもしたワケ?)
(いや、17年程前からずっと居るものでな。)
(17年!?そりゃあまた随分と長いわね…)
.