世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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それは2年前
雪が降ったあの日、
俺達は確かに死んだはずだった
『絶対に後悔なんてさせない』
これから先もきっと忘れることはないだろう
真直ぐ此方を見て放たれたその言葉を、他人を、
幾年かぶりに信じてみようと思った、あの日の事を。
百地再不斬襲来編
『…ふーん、依頼人の手違いで任務ランクが大幅に間違ってたと…』
「んな事あるんだな…」
『で、Cランクの任務だと思ってアカデミーから上がりたてのルーキーを向かわせたと。』
黒凪のそんな言葉が響き、前に座っている正守がうんうんと小さく頷いている。
しかもランク違いと言っても2段回上のAランクだと。Aランク任務は普通は上忍が向かう様な任務であると。
『…そしてその尻拭いを間一族がしろと。』
「そう言う事だね。」
『何、間一族に来る任務ってこんな感じなの?』
「こんな感じだね…。」
面倒事を押し付けられるのが毎回のパターンだよ。
そう肩を竦めて言った正守に「ふーん」と黒凪が渡された資料を覗き込んで返答を返した。
黒凪達はこの頃はアカデミーを卒業してまだ間もなかった。
つまりそんな彼等に間一族としての任務が舞い込んで来たのはこれが初めてだったのだ。
『…で、霧隠れの抜け忍でビンゴブックにも載ってるような桃地再不斬が現れたと連絡が入ったのが昨日だっけ?』
「うん。波の国と此処はちょっと距離があるし、そろそろまたその再不斬と第七班がまた出会ってる頃かもね。」
『…尻拭いって具体的に何をするの?第七班を護りつつその桃地再不斬を殺せば言いわけ?』
「うん、それで良いと思うよ。言ってしまえばこの任務を解決出来ないであろう第七班の代わりに任務を成功させて来いって事だからさ。」
…分かった。暫しの沈黙の後にそう答えた黒凪が限と閃と共に部屋を出て行った。
その背中を見送った正守は手元にある湯呑を持ち上げて茶を一口喉に流し込む。
彼の手元にある資料には桃地再不斬についての情報が事細かく記されている。
その資料は黒凪に渡したものと全く同じで、彼女も恐らく任務場所へ向かう最中に頭に叩き込むだろう。
『……ふーん…』
「なんか面白い事でも載ってんの?」
『んー…そうねえ…』
「…。霧隠れってどんな所なんだ」
限の質問に資料に書いてあることを簡単に説明する。
かつて血霧の里と呼ばれていた事、アカデミーの卒業試験は生徒同士の殺し合いであった事。
桃地再不斬はその卒業試験に共に学んできた生徒全員を皆殺しにして受かった事…。
『…酷い里ね。木ノ葉とは大違い。』
「らしいな…。そんな所で育った忍はそりゃあ強くなるだろうさ」
『うん。…多分どうしようもないクズなんだろうなぁ、こんな里で育ったんだったら』
黒凪の言葉に限と閃が同調する様に頷いた。
すると真上の方からガサッと音が響き火黒が姿を見せる。
よォ、と声を掛けて来た火黒に黒凪が目を向けた。
『何、正守がまだ私達だけだと心配だって言ってた?』
【いや?俺が勝手について来ただけ。】
『ふーん、そう。』
【なんだよつれねえなァ】
いや、あんたが来てくれたら里の増援だって言えるなって思ってさ。
そう言って笑った黒凪に火黒が一瞬だけ表情を崩した。
しかしすぐに普段の笑みに戻すと彼もまた「ふーん」と言って正面に目を向ける。
『閃、波の国の方まで影伸ばせる?』
「ん?あぁ…やってみる。」
影、とは具体的に言うと閃の意識が届く範囲の事だ。
彼の影が届く範囲の情報は全て彼に筒抜けとなる。
黒凪の力を受けてかなり足の速度が上がっている限達は既に波の国近くまでに迫っていた。
「…あー…、ギリギリ届かねえな。海を渡らねえと波の国に着かねえみたいだし」
『海かー…ちんたら船漕いでも居られないし式神で空から行こうか』
黒凪が胸元から数枚の式神を取り出し一気に力を流し込む。
そうして放り投げられると4人を乗せられる程度の大きさの鳥が現れた。
ばさばさと低飛行を続ける鳥に乗り込み一気に上昇する。
かなり上まで登ると目的の地、波の国が見えた。
「――!よし、範囲に入った。」
『今はどんな感じ?』
「…はたけカカシが桃地再不斬と戦闘中。えー…っと、サスケが倒れてんな。んでナルトの九尾のチャクラが洩れてる」
『ん?サスケとナルトは何と戦ってんの?』
えっと…、そう言って閃が眉を寄せて目を細める。
資料には無かったから後から増援に駆け付けた再不斬の仲間かも。
そう言って更に目に力を籠めると閃が「へー…」と感心する様に言った。
「血継限界を持ってるな。氷出てるし」
『氷?』
「おう。…あ、なんか話し始めた。…あれ、これ女かな…でも男だって言ってるな…」
【んな事ァどうでも良いから何話してるか通訳しろよ。】
分かってるよ、火黒にそう返して閃が暫し黙ってから口を開く。
閃が通訳する話を聞いているとどうやらその話はナルトと交戦中の忍の身の上話のようなものらしい。
その忍の名前は白。その身に宿す血継限界が原因で霧隠れの里の中では迫害を受けていた。
そんな中で彼の事を必要としたのは再不斬だけだったという。
『……。』
「"僕は再不斬さんの役に立ちたい。…でも駄目でした。君に負けるようでは"」
徐々に波の国が近付いてくる。
今の閃の言葉から白は九尾の力の前に負けを認めたのだろう。
そして今は再不斬にとっての強い武器と言うあり方を無くしてしまった自分を殺してくれとナルトに懇願している。
強い武器である事がお前がこの世に生きて良い理由だと言うのか。そう白に言い返したのはナルト。
黒凪も同じ様な事を白に聞いてみたいと思っていた。
『…よく分からないな、その白って子が心酔する程の男なのかな。再不斬って』
「さあ。…でも居場所が無かった自分に居場所を与えてくれた人は大事だと思うぜ。」
閃の言葉に限も小さく頷いた。
黒凪がちらりと火黒や限、そして影の中に居る鋼夜に目を向ける。
何も言わないが、彼等も閃の言葉に同調しているようだった。
「この白って奴は、それが武器としてでも良かったんだ。…それ程居場所に飢えてたって事だろ」
『…ホント、世界が変わっても同じなんだからなぁ』
…どうする、助けるか?
黒凪の考えを全て見透かした様に閃が言った。
その言葉に眉を下げて顔を上げると黒凪が笑う。
『良いかな?勝手な事しても。』
【君お得意のゴリ押しで通せばどうにかなるんじゃね?】
「好きにしろ。俺はとやかく言うつもりはない」
「つか言えねーよ。俺等と同じ様な境遇の奴を任務だから殺せなんてさ。」
あ、ちなみに再不斬の方はもう決着が着きそうだぜ。
カカシが奴を拘束してとどめに入ってる。
閃の報告に頷いた黒凪は真下に見えるカカシの雷切の光と白が作り出したであろう氷の冷気が集まる場所を交互に見た。
『時間が無いし、ちょっと手荒だけど白を私が念糸で引っぱり上げる。多分再不斬が死んだってなったら暴れると思うから…』
「!待て、白が動いた」
『え?』
「…再不斬の元に向かってる!」
そりゃいけない。
式神から身を乗り出してカカシが振り上げる雷切の光を目で追う。
そしてその光が再不斬に触れる寸前に白が現れ、代わりに雷切を受け止めた。
『…まさか再不斬を護るまでとは』
【あらら、死んだかァ?】
『いや、死なせない。何が何でも生かす』
式神の上に立って構え、そして目を閉じる。
黒凪を中心に白い結界が広がって行き、その眩しさにカカシ達が顔を上げた。
白も虚ろな目をして空を見上げる。
真界が波の国を包み込む程にまで大きく膨れあがり黒凪の頬を汗が伝った。
『っはー…、しんど…』
「よくやるよ、ほんと。」
『この年にまでなってやりたい事が出来ないのが1番むかつくのよ私は…』
「…なんだ、何かに包み込まれている…?」
「カカシ先生!何だってばよこれェ!」
下の方では白を追って現れたナルトがそうカカシに焦った様に声を掛ける中、カカシも突然の出来事に眉を寄せて周りを見渡している。
そして周りが明るくなったのではなく、白い膜の様なものが波の国全体を包み込んでいるのだと気付いた。
すると白の胸元に突き刺さったままの拳がぐっと押し込まれる様な感覚を感じ、はっと目を見開いて拳を引き抜いた。
ぼたた、と白の血が零れ落ちる中で彼の胸元の傷が物凄い勢いで塞がっていく。
「(どうなってる…、傷が…)」
「っ、」
しかし傷は塞がり始めていても白に立ち上がる体力は無いらしく、力なく倒れ込んだ。
それを見た再不斬は「死んだか」と興味が無いように呟くと首切り包丁を持ち上げカカシに向かって行く。
周りに気を取られていたカカシはすぐさま再不斬に意識を戻し応戦した。
そんな再不斬の様子を上空から見ていた黒凪は不機嫌に眉を寄せる。
『…外道だなぁ。白が身を挺して護ってくれたってのに"死んだか"の一言よ?』
「あぁ…。でも俺等が手を下すまでもねーよ。再不斬の動きもすげー鈍ってるしカカシがあのまま殺すだろ。」
『うん。…にしてもどうやって白を回収しようかな、まだ死んでは無いんだけど』
そう言って目を伏せた黒凪の視界に盗賊の様な身なりをした男達が入り込む。
その先頭に立つ男が持っていた杖を強く地面に打ち付けた。
ガンッと言った音にカカシと彼によってほぼ戦闘不能とも言える状態になった再不斬が振り返る。
「…ガトー。どうしてお前が此処に来る。」
『(ガトー?…あぁ、再不斬の依頼人とかかな。なんで部下なんか連れてんだろ)』
「ククク…少々作戦が変わってね。お前には此処で死んでもらう事にしたんだよ」
「…あぁ…?」
不機嫌な再不斬の声が聞こえてくる。
正規の忍を雇えば余計な金が掛かるからとお前達の様な抜け忍を雇ったが、とんだ金の無駄だった。
あわよくばそこの忍共と相討ちになればと思っていたが…見込み違いだった様だなぁ。鬼人よ…。
ガトーの言葉を聞いていた火黒がニヤリと口元を吊り上げる。
【忍の世界じゃよくある事だ。特に里に属してない抜け忍なんて連中にはなァ】
『ふーん…』
「悪いなカカシ…戦いは此処までだ。雇い主がああ言ってる以上、俺がタズナを狙う理由はなくなった」
『!(戦闘狂なら死んでも戦い続けるものだし、そこまで狂ってはない…?てかカカシに謝った…。)』
黒凪が自分の想像していた人物像と微かにずれを見せた再不斬に小首を傾げる。
そしてカカシの方も彼が嘘を付いて襲ってくる事など予想もしていない様に「そうだな」と同調していた。
んん?と更に首を傾げるとガトーがゆっくりと倒れている白に近付いて行く。
「何だ?コイツ死んでるじゃないか。」
ぴくりとも動かない白の顔をじっと覗き込み、そう言うとガトーは彼の顔を蹴り飛ばした。
その行為に目を見開いた黒凪達は「何やってんだテメェ!!」と怒りを露わにしたナルトに目を向ける。
ナルトがガトーに突っ込んで行くが、その行く手をカカシに阻まれると次に再不斬に目を向けた。
「お前も何か言えよ!仲間だったんだろ!!」
「……」
『…死んだ時だってほぼ無反応だったんだ、何も思っちゃいないさ』
「白はもう死んだ。喚くだけ無駄だろう」
再不斬の言葉に青筋を浮かべ「ずっと一緒に居たんだろ!?」とナルトが声を張り上げる。
少しの沈黙の後に再び彼が口を開いた。
ガトーが俺を利用していた様に、白も俺が利用していたに過ぎない。
…俺達忍は道具だ。俺が欲しかったのはあいつの能力であって、あいつ本人じゃない。
その言葉にナルトが暴れる事を止め、静かに口を開く。
「…本気で言ってんのか…?」
「……」
「あいつは本当にお前の事が大好きだったんだぞ!あいつはお前の為になりたくもない忍になって、お前の為にやりたくもない殺し合いをして!!」
「……」
お前の為に命まで捨てて!!
ナルトの目に涙が溢れてくる。再不斬は何も言わない。
黒凪が目を細め、ナルトの記憶の中の白の様子を覗き込む。
真界の中では術者の思うがまま。…ナルトの記憶の中の白を見た黒凪は余計に彼の言葉の重みを痛感した。
《人は、大切な人を護る時にこそ本当に強くなれるものなんですよ》
《…僕はあの人の夢を叶えたい》
『(…そこまで思う必要があの男にある?)』
ねえ、白。声には出さず倒れたままの彼に目を向けてそう問いかける。
しかしその問いかけに意外な形で答えが返って来た。
小僧、と震えながら放たれた再不斬の声に黒凪がはっと目を見張る。
「…それ以上、…何も言うな」
『(…泣いてる)』
「白は俺の為だけじゃない。お前達の為にも心を痛めながら戦っていた。…あいつは優し過ぎたんだ」
再不斬が口元の包帯を噛み千切り、徐に微笑んでナルトにちらりと目を向けた。
お前の言う通りだ小僧。…忍も人間だ。感情の無い道具には成れないのかもしれない。
その言葉を聞いて黒凪が徐に再不斬に向けて手を伸ばす。
「…黒凪?」
『……視てみようと思う。彼の過去や思いを。』
「!」
【…それまで待機、かァ?】
呆れた様な火黒の声に「うん」と返答を返して目を閉じる。
限達はそんな黒凪から目を逸らすと口でくわえたクナイ1つでガトー達に立ち向かっていく再不斬に目を向けた。
彼は鬼人と言われるに相応しい程の圧倒的な強さで数十人は居るガトー一派を一掃して行く。
『……。』
黒凪がゆっくりと目を開いたのはガトーを殺してふらふらになった再不斬が倒れた時だった。
雪が降り始め、虫の息になった再不斬をカカシが抱えて白の元へと連れて行く。
目を開いた黒凪に気付いたのだろう、閃が「どうするんだよ」と言った目を向けて来た。
現在波の国全体を支配下に置いている彼女が生かそうとしなければ、再不斬は確実に死ぬだろう。
――数年前までの霧隠れの里は血霧の里と言われる程に血生臭い里だった。
アカデミーの卒業試験では生徒同士の殺し合いをさせられ、失敗を犯した同胞や裏切った同胞を迷いなく殺す。そんな里だった。
そんな時代の中で血継限界や特殊な能力、突出した体質などを持たない再不斬が存在をアピールする為には何か圧倒的な実績を持たなければならなかった。
それこそ徹底された実力主義の霧隠れの中で必要なものは彼にも分かっていたのだろう。
『(圧倒的な強さ、無慈悲さ、優秀さ。)』
強さを見せつける為に大勢の同胞を卒業試験で殺し、そう言った事を成し遂げた事で無慈悲さを見せつけ。
そして里の道具、武器として命令に忠実に従う事で優秀さを見せつけ。
…誰にも期待されず、孤独に生きて来た彼はそうして"忍刀七人衆"と言う居場所を作り上げた。
「…白、…出来るなら、」
足元を見ていた黒凪の目が再不斬に向けられる。
彼は動かない筈の腕を必死に動かし、倒れている白の頬に片手を添えた。
――しかし時代が変わり、体制も変わって再不斬は里に恐れられる様になってしまった。
鬼人としての再不斬は不要となり、寧ろ恐ろしい実績を積んできた彼を里の人々は恐れる様になる。
…そして彼は里を捨てた。
「俺も…お前と同じ場所に逝きてぇなあ…」
『……。』
《安心してください。僕は再不斬さんの武器です。言いつけを守る武器としてお傍に置いてください。》
彼の言葉を思い起こす。…白は分かっていたのだろうか。再不斬の悲しみを、孤独さを。
再不斬が白を武器として認める事で、里の武器であった自分を肯定している事を。
…"俺達忍は道具だ"と先程彼が言った言葉がある。
認められようと必死になっていた故郷を失い、居場所を無くしてしまった彼は武器として生きて来た自分を只管肯定して。
『(…必死に自分を護ってたのかなぁ。護ってくれる存在はいつも側に居たのに)』
再不斬が目を閉じ、周りに立っていたカカシやナルトも目を伏せる。
その様子を見た黒凪は式神を空高く飛び上がらせた。
雲の上にまで出た式神に限達が黒凪に目を向ける。
皆黒凪の判断を待っている様に何も言わない。
ナルト達は誰1人死んでいないし、ガトーを結果的に倒した事で任務は完了した。
…後は彼等をどうするかだけ。
『…連れて帰ろう』
彼等に居場所を与えてあげられるのは私達だけだ。…望んだ場所ではないだろうけどね。
黒凪の言葉に限と閃が何も言わず頷き、火黒はくっと笑った。
再不斬達は彼等と戦った後にすぐさまカカシ達によって土葬された。
丘の上に建てられた墓の側には再不斬の首切り包丁も祀られてある。
ガトー達が狙っていた橋の建築を邪魔する者は居なくなり、大工達や木ノ葉に任務を依頼したタズナは安心した面持ちで我が家へ帰って行く。
ナルト達もタズナの家へ共に向かった事を確認すると黒凪達が墓の側に降り立った。
【ちゃんと生きてんのか?カカシも死んだもんだと思ってたぜ?】
『大丈夫。…私まだこの空間の中で誰も殺してないし。』
「掘り起こすぞ」
「あぁ」
閃と限が墓を掘り起し、中に入れられた棺桶を開く。
再不斬も白も眠る様に棺桶の中に入っていた。
棺桶の中から再不斬と白を引っ張り出して地面に降ろす。
そして黒凪が徐に彼等の額に触れた。
「……ゲホッ」
「っ、」
何度か咳を繰り返す彼等から離れて起き上がった2人を見守る。
目を開いた2人は辺りを見渡し、黒凪達に目を向けた。
きょとんとしていた再不斬は白を見ると大きく目を見開いて固まる。
白も己の身体を見下ろすと驚いた様に顔を上げて黒凪を見た。
『…本当はもう死んでるような怪我だったんだけどね。私が生かした。』
「「!」」
目の前にしゃがみ込んだ黒凪に再不斬と白の驚いた様な視線が突き刺さる。
そんな視線に眉を下げて笑った黒凪は真上を指差し2人の視線を波の国を包んでいる真界に向けさせた。
再不斬は真界を見るとその奇妙な存在を思い出した様に微かに目を見張る。
『あれは真界って言ってね。ちょっと怖い術だけど…、あれに包まれたものは全て私の思い通りになる。』
「…思い、通り」
『そう。誰も死なせたくなければ致命傷でも死なないし、逆に殺したいと思えばぴんぴんしてても殺せる。』
「……」
私が死なせたくなかったから君達は今生きてる。
黒凪の言葉に白が再び自分の胸元を見た。
服にはしっかりとカカシの雷切を受けた跡が残っている。
『…そんでね、本当に申し訳ないんだけど君達の記憶を勝手に全部見たりもしたのね。』
「「!」」
再不斬が里でどんな扱いを受けてきたか、白がどんな風に蔑まれてきたのか。
どうして抜け忍になったのか、…何をしたいのか、何をしたかったのか。
それらを全部見た。真っ直ぐに再不斬と白を見て言った黒凪は「勝手にそんな事をして、ごめんなさい」と頭を下げる。
その様子に怪訝な顔をして白と再不斬が顔を見合わせた。
『上からずっと君達とカカシさん達との戦いを見てたんだ。…ただの極悪人だと思ってた。だから彼らがミスをすれば私が葬るつもりだったんだ。』
「「……」」
『でも君等を見てると何かおかしいと思った。…何かあったんだと思った。』
だから殺す前に確認したくて、それで記憶を見た。
ゆっくりと顔を上げた黒凪に再不斬と白はやっと状況を理解して落ち着いたらしく彼等の表情に余裕が見て取れる。
その様子に少し安堵した様に息を吐いて黒凪が顔を上げた。
「…で、何故俺達を生かした?」
『…うん。私は君達が気に入った。実力も申し分ない。…勝手なお願いになるけど、私達の仲間になって欲しい』
「…それは」
そう言い淀んだ白に、考えるように沈黙する再不斬。
黒凪はおもむろに再不斬に目を向けた。
『…再不斬、君はまだ霧隠れに居場所を求める?』
「…」
黒凪の問いに再不斬の目が彼女に向いた。
君の居場所は何処かなんてもう分かってるはずだよ。
続けて掛けられた言葉に少しの沈黙の後に「あぁ」と頷いた。
その様子に「え、」と振り返った白は再不斬の表情を見ると大きく目を見開いて動きを止める。
『再不斬の居場所は君の所だよ。白。』
「!」
『…そして白、君の居場所も再不斬の隣だけ。そうでしょ?』
白が再び再不斬を見る。
再不斬は気恥ずかしいのか何も言わず目を逸らした。
その様子を見た黒凪は小さく笑みをこぼすと「お前等の仲間と言ったが」と話を変える様に言った再不斬に目を向ける。
「お前等は何だ?忍の様だが…。抜け忍か?」
『ううん、私達はちゃんと国に雇われてる一族だよ。今は木ノ葉隠れに住んでる』
「!…成程な、カカシ共の増援で此処に来ていたわけか。」
『そう言う事。里の任務は無視するわ、増援として何もしてないわでヤバいけどね。』
んな事やっても許される様な一族なんざ…、そこまで言って再不斬がはっと目を見開いた。
そして周りを見張る様に立っている限や閃の背中にある正方形の紋章を見ると驚いた様に黒凪に目を向ける。
その様子に小首を傾げた白もやがて紋章に気付いて大きく目を見張った。
『私達は間一族。木ノ葉の末端を陣取る忍五大国御抱えの暗殺一族…って感じで知れ渡ってるって話なんだけど』
「…まさかこんな場所で相見えるとはな…」
『驚いた?木ノ葉関係の任務には大抵いるよ、うちの人間。』
「間一族は暗殺一族…ということは、我々に暗殺を任せるつもりでしょうか。」
そんな白の言葉に黒凪は静かに首を横に振った。
その黒凪の反応にかすかに目を見開く2人。
十中八九2人の腕を勝っての申し出だと思っていたであろう2人の反応に黒凪が少し眉を下げた。
『私はただ…君たちに人間としての生き方をしてもらいたいだけ。武器ではなくて、人としてのね。』
「人間、として…」
『…私もかつては世界を憎んでいた。世界に傷つけられ、生きることを放棄した。』
再不斬と白のまっすぐな目が黒凪に向く。
どこか共感できるものがあるのだろう。
特にかつての黒凪を知る限や閃は目を伏せた。
『でもね、ここにいる子たちが私を救ってくれたの。だから私も救う側になりたい。』
君たちを救いたい。だから、もしももう手を汚したくなければそれでも良い。
居場所のない君たちの居場所を作りたい。ただそれだけ。
そう言って立ち上がった黒凪が真っ白な白髪を手で払う。
月の光に照らされて白髪がキラキラと光を帯びた。
『まあ、もちろん強制はしないけど。でもこれだけは約束できる。』
「…」
『間一族が君達を護る壁となるよ。私達の側に居れば抜け忍に狙われる事も無いし、君等の居場所にもなれる。』
「…居場所、ですか」
『うん。どうかな?』
差し出された黒凪の小さな手に再不斬も白も顔を見合わせ、2人がほぼ同時に手を伸ばす。
しっかりと再不斬と白の手を握った黒凪は嬉しそうに微笑むと式神の鳥の上に飛び乗った。
そうして墓を元に戻した限と閃も式神に戻り、火黒が突き刺さったままだった首切り包丁を持って式神に飛び乗る。
差し出された首切り包丁を受け取った再不斬はずしりと重い首切り包丁に眉を下げ、忽然と消え去った真界に顔を上げた。
「――ねえ。首切り包丁は君等が去った後にはもう無かったって噂まで出て来たんだけど?」
「……。」
「ちょっとサスケ。僕の首切り包丁は何処に行ったのさー。」
「…これだけ情報が出ないとなると誰にも気付かれず、且つ再不斬が死んだ後にすぐさま誰かが持ち出したと言う事だ」
しかも恐らく此処の人間じゃない。
そう呟く様に言ってサスケがくるりと方向を変えて歩き出す。
そうして辿り着いたのは先程も水月と共に訪れた再不斬と白の墓だった。
何故サスケが波の国に居るのかと言うと、大蛇丸を殺し仲間を集めている為である。
そしてその最初の仲間として連れ出したのが隣にいる水月だ。波の国に訪れたのは彼が首切り包丁を欲している為である。
「どうしたのさサスケ。この墓には首切り包丁なんて無いだろ?」
「…墓を掘り起こせ」
「は?」
「俺も多少は手伝う。」
サスケの言葉に墓を見てため息を吐き、水月が「スコップでも取って来るよ」と歩いて行く。
そうして数十分後には再不斬の墓も白の墓も掘り出され棺桶の蓋が外気に晒されていた。
棺桶は3年間土の中に入っていたに相応しく木は腐り土の色を随分と吸い込んでいる。
「2つ共掘り起こす必要あった?」
「良いから開け。」
「…ったく。此処を掘ったのも殆ど僕なのにさ。どうせ腐った死体が……、…あれ?」
「…やはりな」
棺桶の中は空っぽ。その有様を見て「本当に此処に埋葬したの?」と水月がサスケに目を向ける。
静かに頷いたサスケに「って事は…」と水月が目を細めた。
…再不斬先輩は生きてるって事?そんな水月の問いに「埋葬してすぐに居なくなったのならばそうだろう」とサスケが頷く。
とは言っても生きていると断定する事は出来ない。すぐに賞金稼ぎか霧隠れの暗部が掘り返したと言う場合もある。
しかしサスケが再不斬は生きているのかと言う問いに頷いた理由はさっさと水月を己の目的に参加させたいが為だった。
「そっか…、再不斬先輩も中々しぶといね。…じゃあ仕方がないか。テキトーに他の武器でも探してそれで良しとするよ。」
「あぁ。…行くぞ」
「はいはい。あーあ、再不斬先輩は生きてたのかぁ…」
「……。」
鬼人の真実
(え、白身長伸びたね…)
(そうですか?)
(うん。凄いね、おっさんの再不斬は全く身長変わってないのに)
(俺の年になってこれ以上伸びても困る)
(三十路だもんね…)
(再不斬さんも遂に三十路ですか…)
(るせえよ…)
.