世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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面食いお嬢様のヒーローは誰だ
「ナホ様ー。出て来てくださーい。」
「頭領、私はあっちを探してきます。」
「うん、頼んだ。…ナホ様ー。」
己を探している声にうしし、と悪い笑みを浮かべてその小さな身体を駆使しながら物陰に隠れて移動して行く。
屋敷の中で無暗に探査用の結界や妖を使いたくない正守は見事に姿を眩ませた依頼人に困り果てため息を吐いた。
『正守、どうかした?』
「あぁ黒凪…。大名の縁者って言うお嬢さんを警護して送り届ける任務が来たんだけど、そのお嬢さんが屋敷の中で隠れちゃってさ。」
『あら…珍しいねあんたがそんな失態するなんて。』
「うん…。ホントどうかしてたよさっきの俺…」
本気で落ち込んだ様子の正守を慰める様に「まあまあ」と肩を叩くと「それじゃあ私も探してあげる。」と黒凪が屋敷の奥へ歩いて行く。
目線的には彼女の方がナホ様に近いだろうし、見つけやすいかもしれない。
そんな一縷の希望を抱えながら正守はまたこの屋敷の何処かに隠れた少女を探しながら歩き始めた。
「ふーん、わらわの屋敷ほどではないが立派な屋敷じゃのう…。」
忍の屋敷と言うものがよっぽど珍しいのだろう、ナホ様は楽しげに襖を開いては閉じ、次の部屋の中を覗いては閉じを繰り返していた。
先程逃げ出したばかりの彼女を夜行の人間が見ても捕まえようとはせず、寧ろ堂々と歩く少女に怪訝な顔をしながらも誰も声を掛けようとしない。
すぱーん、と襖を開いてまた新しく部屋を覗き込む。
また彼女はすぐに襖を閉じて次の部屋へ向かおうとしたのだが、中にあるものに一度足を止めた。
「…なんじゃ…?粘土の様なものが沢山置いてある…」
中に入って物色していると隣の襖が開く音がして、また閉じられる音がした。
その音に顔を上げたナホ様は好奇心に駆られて部屋から出るとその隣の部屋の襖を開く。
中には沢山の傀儡が置いてあり、その中央に赤い髪をした青年の背中が見えた。
「…おいそこのお前。」
「あ゙?」
「その人形はなんじゃ?お前は何を作っておる?」
「?…お前、此処のガキか?黒凪に俺には無暗に近付くなって言われてる筈だろ」
怪訝な顔をして振り返ったサソリの整った顔を見てナホ様が息を飲む。
突然黙ってしまったナホ様に更に怪訝な顔をして眉を寄せたサソリは少女の姿に目を向けると徐に立ち上がりナホ様の首根っこを掴んで持ち上げた。
な、何をする無礼者!と顔を赤らめて言ったナホ様の顔をじろじろと見てからサソリが襖を足で開いて廊下に出る。
「おい黒凪!いねえのか!」
『呼んだ?…あ、その子…』
「俺の部屋に入ってきやがった。どうせ依頼人のガキかなんかだろ」
『うんうん正解。…正守ー!』
黒凪がそう叫ぶと「見つかった?」と言いながら正守が駆け寄ってきた。
そしてサソリに掴まったナホ様を見ると安堵した様に息を吐いて床に降ろされたナホ様に話しかける為に腰を屈める。
「ナホ様、そろそろ領地視察の為にシズメ村へ貴方を送り届けなければなりません。もう隠れる事はお止しください。」
「分かっておる。冗談の通じぬ男よのう。」
「あはは…スミマセン。」
『それじゃあサソリ、あんたは火の国領内に入り込んだ手配中の忍達の捕獲にデイダラと行って来て。』
黒凪の言葉に「あぁ」と頷いたサソリを見てナホ様が「待て!」とサソリにしがみ付いた。
お?と目を見開く正守と黒凪。
サソリは「あ゙?」とナホ様を睨み付けた。
「わらわはサソリを護衛に着けたい!」
「…チッ、めんどくせぇ…」
『あー…どうしようかな、護衛の方は私と飛段で行こうと思ってたんだけど…』
「だったら飛段と行け。俺ぁごめんだ」
嫌じゃ!サソリでなければわらわはシズメ村には行かぬ!!
そう言ってぎゅーっとしがみ付くナホ様にサソリがげんなりとする。
どうしたものか…、と眉を寄せているとサソリと共に任務に行く予定のデイダラ、そして黒凪と共に護衛に着く予定だった飛段が姿を見せた。
「…何してんだ旦那、うん」
「ぶはっ、なんだその状況!」
「チッ…」
『このお嬢さんを今から私と飛段で護衛する予定だったんだけどサソリを気に入って離れなくちゃって…』
あはは…、と困った様に笑う黒凪を見て「へー…」と驚いた様に言ったデイダラがナホ様の前にしゃがみ込んだ。
そして「旦那の何処が良いんだ?うん?」と笑顔で問い掛ける。そんなデイダラにナホ様が顔を上げた。
そんなの決まっておる!そう言ってナホ様が指を刺した方向にはサソリの顔。
「顔じゃ!!」
『そりゃあ顔でしょうね…』
「だと思ったぜ…うん…」
「…クソウゼェ…」
イライラ度MAX。そんなサソリに正守が苦笑いを溢しているとこの屋敷に住んでいる異能者の子供達の集団がサッカーをしながら此方に向かってきた。
子供達の為に道を開けてやる黒凪達だったが、その内の1人が躓いて衝撃に備えて目を瞑る。
その前にはサソリにしがみ付いているナホ様。
ナホ様に向かって倒れ込む少年を見た黒凪と正守は2人して顔を引き攣らせた。
『ちょ、その子誰か受け止めてあげて!』
「ん?」
「お?」
デイダラと飛段が黒凪の声に反応して手を伸ばすが時既に遅し。
少年が勢いのままにナホ様に触れた途端にナホ様の姿が消えた。
ナホ様が消えた先に立っているサソリにぼふっと倒れ込んだ少年は顔を上げると「あ…」と声を漏らしてきょろきょろと周りを見渡す。
「ごめんなさい、また咄嗟に力使っちゃった…」
『と、とりあえず何処に行ったか分かる?』
「んー……。……あ、真上…」
『真上!?』
ぼーっとして真上を指差した少年。
彼の異能は触れたものをテレポートさせてしまうもので、彼の場合は咄嗟の時に誤って発動させてしまうのだ。
キャー!と遥か上空から微かな叫び声が聞こえてくる。
外に出た黒凪達は空を見上げて豆粒ほどの大きさのナホ様にさーっと顔を青ざめた。
『かなり上まで行ったね…』
「ふ、ふえっくしゅ!」
『「え゙。」』
聞こえたくしゃみに正守と黒凪が振り返る。
悪い予想は当たるもので、そのくしゃみをしたのは今しがたナホ様を上空にテレポートさせた少年。
彼の異能にはもう1つ特徴があり、既にテレポートさせたものは彼以外の誰かがそれに触れない限り彼の意のままにテレポートさせ続ける事が出来る。
つまり今、くしゃみなどの突発的な衝撃によりナホ様が何度もテレポートしてしまう状態にあるのだ。しかも予測は不可能、コントロールも不可能である。
『次は何処!?』
「んー…。…そこかな…?」
そう言って少年が指を刺した方向に居るのは飛段。
俺かァ!?と振り返った飛段の真上にナホ様がテレポートした。
飛段前!と黒凪が声をかけ飛段が持ち前の反射神経でナホ様を受け止める。
片手でナホ様を支えた飛段はぐずるナホ様を見てすぐさま地面に降ろしてやった。
「ふえ、…わああん!」
『あれは怖かったでしょうねえ…』
「怖かったぁああ」
「うおっ!?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら飛段に抱き着いたナホ様。
げんなりとした顔で助けを求めてくる飛段に黒凪がジェスチャーで頭を撫でる仕草をする。
それを見た飛段が見様見真似でナホ様の頭を撫でてやるとナホ様が涙に歪んだ視界の中で飛段を見上げた。
…すると途端にナホ様の頬が赤く染まる。
『(…お?)』
「お、お前名はなんと言うのじゃ…?」
「あ?俺か?…俺ぁ飛段だが…」
「飛段と言うのか!ではわらわの護衛は…」
そう言って振り返ろうとしたナホ様の動きを察知してサソリがデイダラと共に姿を消した。
サソリと飛段に…。そんなナホ様の声がむなしく響く。
黒凪は咄嗟の判断で任務に向かったサソリとデイダラに拍手を送りたくなった。
ナホ様が周りを見渡し、サソリが居ない事に俯く。
『ま、まあまあナホ様。飛段は貴方の護衛に居ますし、彼1人で我慢してくださいませんか。』
ナホ様が涙を浮かべて飛段を見る。
飛段はそんなナホ様のまなざしに目を逸らした。
「…分かった。わらわを助けてくれた飛段がおれば安心じゃ…」
「(助けたわけじゃねーんだが…)」
『(助けた事にしておいて…。)』
黒凪の表情を見て珍しく全てを理解したらしくげんなりとため息を吐く飛段。
…そうして奇妙な護衛任務が始まったのだった。
「飛段、わらわをおんぶするのじゃ!」
「えー…」
『やってあげて…』
「早くせい!」
げんなりとした顔をして鎌を片手で持ちナホ様を肩に跨らせる。
満足した様にニコニコと笑うナホ様を見て黒凪が「ありがとう」と小声で飛段に声を掛けた。
そんな黒凪と飛段を見ていたナホ様が徐に飛段の頭をぺしぺしと叩く。
「のう飛段、お前とあの女はどんな関係なのじゃ?」
「あ?カンケイ?」
「そうじゃ!妹なのか?」
「またそれかよ…。俺とコイツは血なんか繋がってねえっつの。」
では何故そんなに仲が良いのじゃ!
眉を寄せて言ったナホ様に「仲良く見えんのか?」と逆に問いかける飛段。
うむ!と大きく頷いたナホ様に黒凪は何も言わない。
何故なら先程飛段に問いかけられた質問に黒凪が応えると拗ねられた為だ。
「まーあれだ。なんつーか…、…あー…」
「なんなのじゃ!…まさか恋人などとは言わぬじゃろうな!?」
「コイツと俺が恋人ォ!?そりゃあクソ笑える冗談だなァオイ!」
『仮にも大名様の縁者なんだからクソとか使わないで…』
そうか、ならば良いぞ。
そう言って笑ったナホ様は「ではサソリとこの女の関係は何なのじゃ!」とまた質問をしてくる。
飛段の目が黒凪に向いたが彼女は困った様に肩を竦めるだけ。
「どうなのじゃ飛段!」
「サソリと黒凪の事なんざ知るかよ…」
「でもサソリはわらわを見つけた時にこやつの名を呼んでおった!絶対に何かある!」
「何処から来んだよその自信はよォ…」
サソリの事なんざ俺が知るかっての…。
その頃のサソリとデイダラは標的のアジトの中を一掃し奥の部屋を物色していた。
「こんだけ手薄って事ぁ…奴等何処か出掛けてやがるな…」
「!…早かったな旦那…。そんなに手薄だったのか?うん」
「あぁ…。」
部屋の奥で資料を読み漁っていたデイダラが他に敵がいないか見回っていたサソリに振り返る。
何か見つけたのか…。そう問いかけたサソリにデイダラが1つの資料を持ち上げる。
ヒルコの中でサソリが資料に張りつけられた写真に目を向けた。
「どうやら誘拐計画らしい。標的が面白ぇからつい見入ってた所だ…うん」
「ほう…。…さっさとあいつ等に合流しねえとな…」
資料がばさっと机に放られ、サソリとデイダラが間一族に倒れた忍達の回収の連絡を送って動き出す。
開かれたまま放置された資料に張りつけられた写真は先程まで間一族の屋敷に居たナホ様と言う少女のものだった。
一方の黒凪達の方にはサソリ達の方に居なかった忍達が現れ、その数は軽く数十人は居る。
『…追剥なら他を狙ってくれると嬉しいんだけど?』
「追剥などでは無い。我々が用があるのはそこの小娘だ。」
『あららそれは残念。私達は逆にこの子を誰にも渡すなって言われてんのよ。…飛段、峰打ちでやってくれるってんならあんたに任せるよ』
「あぁ!?峰打ちィ!?戒律に反するぜそりゃあ!」
じゃあ私がやるからナホ様の御守りね。
そう言って前に出た黒凪が向かってきた忍達を結界で殴り飛ばして往なしていく。
一斉に放たれたクナイは黒凪の影に潜んでいた鋼夜が尾で弾いた。
そうしてリーダー格の男以外を全員倒し、1対1となった所で黒凪が首の骨を鳴らす。
『さて、あと1人…。』
「妙な術を使う様ですね。これは面白い…」
『結。』
結界で腹部を強く殴る。
それで今までの忍達は倒れていたが、リーダー格の男はけろっとした顔をしたまま。
ん?と眉を寄せて次は貫く程の威力で結界をぶつける。
しかし貫通する事は無かった。
『?(妙に堅いな…、これは絶界でやった方が速いかも…)』
「!飛段、後ろぉ!!」
「…いって!」
頭を思い切り殴られた飛段がニヤリと笑ってナホ様を肩に乗せたまま持っていた鎌を振り上げる。
ざしゅ、と舞った鮮血にナホ様が飛段の頭にしがみ付いた。
その所為で視界が塞がれ「オイ!」とイラつきながらも勘で襲い掛かってくる忍達を斬っていく。
『あー、もう。血が出るとナホ様が怯えるから殺すなって言ったのに…』
「おいナホ!手ェ放さねえと前が…、ぐっ」
「ははは、終わりましたね」
飛段のうめき声とリーダー格の言葉に振り返ると飛段の首、しかも頸動脈の辺りがすっぱりと切れていた。
溢れ出す血に喉を詰まらせるが飛段は左手でナホ様を支えているし、右手には鎌がある。
吹き出す血にナホ様が悲鳴を上げて暴れ出し、いよいよ収集が着かなくなってきた。
「飛段、飛段の血がぁあ!!」
「ッ、暴れ…、な…って」
「嫌じゃあ!誰かわらわを助けるのじゃー!!」
ゼーゼー息をする飛段に周りの忍達は余裕の顔を見せ始め、ナホ様は暴れ出す。
あれでも死なない事を知っている黒凪だけは余裕だったが目の前のリーダー格の忍を掻い潜って飛段の手助けには回れない。
どちらから片付けるのが先か…、と眉を寄せた途端にナホ様が大きな声で叫んだ。
「サソリ助けてー!!」
『(飛段が駄目になったらサソリに鞍替えした…。…何て恐ろしい子…)』
「サソリー!!」
ナホ様の声が響き渡る。
上空をデイダラの起爆粘土に乗って飛んでいたサソリはその声に舌を打った。
「サ ソ リー!!!」
「ギャーギャー喚くなうるせェ…」
『(あれ、ヒルコ脱いでる…?)』
おやおや増援ですかぁ?
そう嫌味に言ったリーダー格の男の真上に起爆粘土が落ちていく。
目を見開いて顔を上げたリーダー格はそのまま爆発に巻き込まれ、降りてきたデイダラが黒凪を抱きかかえて爆炎から飛び退いだ。
『デイダラ、』
「偶然オイラ達の標的があのガキを狙ってこっちに来てたみたいでな…、うん」
『そっか、ありがと。…あ、そうだ飛段』
「サソリー!」
サソリの方もすぐに忍の相手は終わったらしくナホ様が涙ながらに今朝の様に抱き着いていた。
その様子を苦笑いで眺めて首を抑えている飛段の元へ駆け寄っていく。
見事に斬られた首元の所為で上手く息が出来ずにいるらしい。
『あちゃー…、思いっきり斬られたね』
「っ、…」
『…サソリ、あんた医療忍術出来るよね?』
「傷を塞ぐ程度ならな…」
そう言ってしがみ付いているナホ様を引き摺りながら此方に来ると徐に飛段の首元を治療し始めた。
すると爆炎の中から「やれやれ…」と声が聞こえデイダラと黒凪が顔を上げる。
炎の中から姿を見せた男は表面が黒く焼け焦げていた。
「いやー…、やられましたね。これがあると衝撃には強いんですが、どうもこう言った攻撃にはねえ…」
そう言いながら身体の表面を崩していく男に「成程なぁ」とデイダラがにやりと笑った。
土遁で身体の表面を覆っててオイラの爆発の衝撃を殺しやがったのか、うん。
その言葉に「その通り。」と本来の姿を見せた男がニヤリと笑う。
『まあでもその表面が崩れたんなら私の結界も効く筈よねえ。』
「そうですねえ。ですが鎧を脱いだ私は――…」
一瞬で姿を消しデイダラが即座に振り返り、黒凪もちらりと背後に目を向けた。
物凄い速度で背後に回った男が拳を振り上げる。
速いですよ?そんな男の声が掛けられたと同時に何かに気付いたデイダラが黒凪を抱えて飛び退いだ。
「ぐふっ!?」
「あ゙ー…。やっとうぜえ奴を呪い殺せるぜ…。」
『…。教育上良くない場面を見る事になりそうだからナホ様の目を隠してあげてサソリ…』
男の血を掠め取った鎌が飛段の元へ戻って行き、その血を舐めて飛段が徐に己の腹部を槍で突き刺した。
ぼたぼた、と響く鈍い音に「なんの音じゃ?」とサソリに両目を隠されているナホ様が問う。
何でもねえよ。と返答するサソリに「そうか♡」と答える辺り、単純な少女だ。
「何をしているんです…?」
「テメェはジャシン様への生贄だァ…。光栄に思いやがれェ!」
「ぐあ!?」
「ゲハハハァ!痛ェか!?痛ェだろあぁ!?」
ありゃだめだ、どうにもなんねえな。うん。
そんな風に呆れて言いながらデイダラがナホ様の両耳を塞いだ。
ザクザクと物凄い勢いで腹部を突き刺していく飛段に男の断末魔が響き渡る。
そして最後に心臓を突き刺した飛段は笑顔で空を見上げた。
「…あ゙ぁ…キモチイイ…」
「チッ、相変わらず頭のネジが飛んでやがる」
「気持ち悪ぃな…うん」
『飛段、すっきりした?』
黒凪が声を掛けるも飛段は痛みの余韻に浸っていて何も返してこない。
そしていそいそと儀式に入ろうとしている飛段を見てため息を吐くとくるりとサソリとデイダラに身体を向けた。
2人の手は依然ナホ様の両目と両耳にある。
『こりゃ駄目だ、時間かかるだろうからナホ様を村まで連れてってくれる?』
「あ?俺等が送んのか」
『嫌なら飛段の面倒見てる?どっちが良い?』
「……。送り届ける」
『よろしい。』
じゃあオイラも旦那と行って来るぜ、うん。
そう言ってナホ様を起爆粘土に乗せて2人が空高く飛び上がる。
恐らく今頃は飛段は何処だと騒いでいる筈だが、心臓に槍をぶっ刺して気持ちよさ気に寝転ぶ飛段は見せるべきではない。絶対に。
起爆粘土が見えなくなるまで見送った黒凪は徐に飛段に目を向けて近場の岩に座った。
『鋼夜、おいで』
【……】
影からずるりと抜け出した鋼夜が「何の様だ」と言う様に目を向ける。
その目を見た黒凪はにっこりと笑うと膝をぽんぽんと叩いた。
即座に嫌な顔をする鋼夜を引き摺って上半身を膝に乗せるとやはり犬とは言っても妖で、予想以上の重さに思わず笑みが零れた。
『やっぱり思ったより大きいね。』
【…】
『もー、なんで黙ってんのよー。話し相手になってよー』
【…随分と気に入ってるらしいな。暁の連中を】
え、何嫉妬?
半笑いで言った黒凪に「本当にそう思うか?」と低い声が掛けられる。
その言葉に「うん。」と頷けばギロッと黒凪を睨んで呆れた様にため息を吐いた。
そんな鋼夜の首元を撫でながら黒凪は徐に再び飛段に目を向ける。
『言っちゃえばあれよ、私が好きな不幸な子達だからかなぁ』
【…フン。自分で理解していたか】
『当たり前でしょ。こんだけ生きてれば自分がどんな人間が好きでどんな人間が嫌いか分かるって。…そんで、私が嫌いな人間には優しく出来ないわがまま野郎だって事もね。』
【…。】
目を細めた鋼夜の脳裏に正守の言葉が過る。
過る、とは言っても随分と昔の事だ。言ってしまえば100年前、それよりも昔。
…裏会の総帥を倒して裏会を再建し、鋼夜が改めて黒凪と出会うほんの少し前。
俺が何としてでも戻りたいと願っていた森の封印を完全に解く事が出来る可能性のある術者が間もなく現れると、あの男に呼び出された時。
《これから来る人はさ、良く言えば分かり易くて悪く言えば単純すぎる感じの人なんだ》
《あ?》
《好きな相手にはあり得ないぐらいに優しくて、嫌いな相手にはかなり無慈悲になる。》
《…俺に気に入られろってのか》
まあそう言う事だね。
笑って言った正守に「俺は媚を売る様な真似はしねぇぞ」と唸ってやる。
すると「そんな事はしなくて良いよ」と眉を下げて言ってから笑顔のままで襖に目を向けた。
《大丈夫、お前は絶対に好かれるよ》
《…?》
あの時はどうして俺が好かれるなどと言い切れるのかと不思議なものだったが、実際に出会って共に生きれば嫌でも分かってくる。
確かに黒凪はあの男の言う通り、良く言えば分かり易く悪く言えば単純すぎた。
簡単に言ってしまえば、彼女は可哀相な奴が好きなのだ。
自分と同じように悲しい人生を歩んできた人間が好きで、恵まれた人間は大嫌いなのだ。
「黒凪」
『!…あれ?デイダラだ』
「一応迎えに来たんだが…。…まだ終わってねーみたいだな、うん」
『もうちょっとだけ掛かるみたい。サソリは?』
旦那も居るぜ。あのガキを連れて行ってからそのまま来たからな。うん。
そんなデイダラの言葉に少し離れた場所に立っている起爆粘土を見るとサソリも無表情のままで此方に歩いてきた。
その様子を見た鋼夜は何も言わずに影の中に戻っていく。
それを見送った黒凪は徐に隣を叩いて2人を呼び寄せた。
右側にデイダラが座り、側の木にサソリが凭れて立つ。
「ずっと待ってんのか?うん」
『そだよ。あんまり煩いと怒るから声は小さめにね』
「ったく…宗教の話になると煩ェ奴だ…」
『いーのよあれぐらい。代わりに飛段は私のお願い聞いてくれるし』
お願い?と2人して問い返して来た言葉に頷いて「抱えて歩いてくれるし…」と言った黒凪に「おいおい」とデイダラが眉を下げた。
そんなの誰でもやってんだろ、うん。そう言ったデイダラに「でも嫌々ながらやってくれてるんだよ?」と黒凪が飛段に目を向ける。
サソリとデイダラも起き上がった飛段に目を向けた。
『私だって好きで待ってるわけじゃないんだし、これで五分五分かなって。』
「あ゙ー…」
『終わったー?飛段』
「…おー…」
気だるげに片手をあげて槍を抜いた飛段が立ち上がる。
そしてけろっとした顔で此方に歩いて来ると笑顔で片手を上げた。
悪かったなァ、テメー等。そう言った飛段に「いいよ」と黒凪が笑って立ち上がる。
『んじゃあ帰ろっか。デイダラの起爆粘土があるからすぐ帰れるね』
「おう。晩飯には間に合う様に帰ってやるぜ。うん」
『ありがと…、うわっ』
「あぶねー…」
歩き始めた黒凪の首根っこを突然掴んで引き寄せた飛段がぼそっとそう呟き、顔を上げる。
どうやら今頃飛段にやられた男の仲間が此処に辿り着いたらしく、今しがた黒凪目掛けてクナイを投げて来たのだ。
すぐさまサソリとデイダラが応戦し始め、その様子をぼーっと見ながら片手で持ち上げたままの黒凪の顔を飛段が覗き込む。
「危なかったなァお前。今頃俺様がいなけりゃ脳天にクナイぶっ刺さってたぞ」
『それは恥ずかしい。ありがと』
「おー…」
『……。…楽しかった?殺戮。』
笑顔でそう問いかけた黒凪に「おぉ」と緩い笑顔で言った飛段。
久々に好き勝手暴れて眠いのかもしれないなと彼の様子を見て思う。
しっかりと眠れる環境を作れば彼はよく昼寝をする様になったし、もともと平和な国の生まれだったから子供の頃からよく眠る人だったのだろう。
…と、勝手に結論付けているのだが。
『眠たい?』
「おー…」
『じゃあ今日の夕食は無し?』
「おー…。…ん?」
夕食は居るでしょ?
そう問いかけて来た黒凪に一瞬だけ考えてまた「おぉ」と返答を返す。
忍の残党は見事にサソリとデイダラが一掃してくれた。
そんな2人が振り返れば眠たそうにしている飛段とそんな飛段の背中に担がれている黒凪。
『よし起爆粘土に乗ってささっと帰ろう。』
「おー…」
「…ったく、眠そうな顔しやがって…うん。」
「黒凪、手ェ貸せ」
差し出されたサソリの手に己の手を重ねて彼の身体を人間のものに戻す。
そうして起爆粘土に乗り込み、里の間一族の屋敷へ向かった。
じゃじゃ馬姫は喧しい
(クソ美味ェ…)
(食事中にクソとか言うなよ飛段…)
(クソ美味しい…)
(いやそこじゃなくて…)
(クソ美味…)
(だから違うっての!)
(こらこら良守こそ食事中に立たないの。)
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