世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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痛みとは
『角都ー。…かーくーずー』
「ん、おはよー」
『あ、おはよー良守君。…角都ー。角都やーい。』
「角都探してんの?」
眠たげな顔をして言った良守に「うん。部屋にいなかったからね」と返してまた再び角都の名前を呼びながら屋敷の中を歩いて行く。
どうやら彼女はこれから角都が自室の次にいる可能性が高い食事場に探しに向かうらしく、丁度良守も朝食を食べる為彼女の後に続いた。
かーくーずー。と名前を呼びながら黒凪が食事場の扉を開けば食事をとっていた角都が振り返る。
『あ、居た。おはよー』
「…何か用か」
『賞金首を殺す任務が入ったから一緒にどう?』
「…何時からだ」
ご飯を食べ終わった後!
そう笑顔で言った黒凪が角都の隣に座り修史さんから味噌汁やらを受け取る。
そうしてごく当たり前の様に隣で食事を取る黒凪を横目で見て徐に角都も食事を再開させた。
大きく開いた口の端を触手で縫っている角都がどう食事をするのか気になりちらりと黒凪が目を向ける。
口を開く度に少し縫い目が開く様子を見て徐に手を伸ばした。
『痛くないの?口。』
「…触るな。鬱陶しい」
『でも痛そうなんだけど。』
「痛みは無い」
ふーん、と返答を返して食事を再開する。
そうして互いに食べ終わり特に示し合せる事も無く入り口で落ち合った。
角都はこれまでで何度か黒凪と共に任務に行っている為、特に表情を変えず黒凪を抱える。
とは言っても彼の場合は他のメンバー達とは違って米俵の様に脇に抱える形であるが。
『角都、今日の標的は3人で懸賞金は合わせて7000万両ぐらい。依頼料で随分と取れてるから懸賞金はあんたにあげるね。』
「……」
『…何よ、ちょっとぐらい嬉しそうにしたら?』
「…あぁ」
とりあえずと言う様に返って来た返答にため息を吐いて目を細め、探査用の結界を広げていく。
そして標的を見つけた黒凪は角都の腕を軽く叩いて方向を示した。
その指示に従った角都は賞金首の男を見つけるとすぐさま殺して首根っこを掴み引き摺って行く。
死体1つを抱えている為に此処からは徒歩の移動となった。
『えっとねえ、次の標的は女の人。盗賊の女頭で懸賞金は2000万両だって。』
「………」
『…。』
沈黙が降り立ち、暫くの間を無言で歩いて行く。
随分と無言のままで歩いているとちらりと角都の目が黒凪に向けられ「うん?」と黒凪が笑顔で首を傾げた。
その様子を見た角都はまた何も言わず前方に目を向けてしまう。
『…何、沈黙がしんどくなってきた?』
「…いや」
『じゃあ何よ。』
「……。ここ最近は喧しい飛段と共に行動する事が多かったからな。静かな道中に感心している。」
…あんた私が結構煩い部類の人間だと思ってたでしょ。
あぁ、と即答した角都に黒凪が思わず笑みをこぼす。
貶したつもりでいた角都はその反応に怪訝な顔をした。
『本当は角都と沢山話したいんだよ?でも話しかけたらやな顔するでしょ。』
「あぁ」
『でしょ?ちゃんと私は分かってるんですよー』
「……」
ちゃんと分かっている、か。
そう声には出さずに呟いて角都が目を伏せる。
この女とは何度か任務をこなしているが、時折その喧しさや此方を小馬鹿にしたような物言いにイライラする事は少なくない。
しかしこちらを根本の部分では随分と深く理解しているらしく、やはり本気でキレると言う所まではいかないのだから不思議なものだ。
『…あ、居た。あれだよ角都。』
「あの女か」
『うん。死体持っててあげるからちゃちゃっと殺してきて。』
黒凪の言葉に従う様に死体を置いて走り出し、奇襲を掛ける様に標的の心臓を一突き。
周りにいた女の部下とみられる男達も全て始末した。
倒れている男達の顔を確認する様に見てビンゴブックを覗き込んでいた黒凪は徐に胸元から式神を取り出す。
地面に放られた式神は成人男性ほどの人型になり男達の内の数人を持ち上げた。
『安いけどこの2人も賞金首だわ。丁度良いから持っていこっか。』
「あぁ」
標的2人を角都がずるずると引き摺って行きおまけの男2人を式神が運ぶ。
草木が生い茂る道を歩いている為、時折葉の間から降り注ぐ日光が黒凪の白い髪に反射してキラキラと光っていた。
その光が視界の隅に何度も入る角都がまたちらりと黒凪に目を向ける。
「……。」
《この白髪は年を取って色が全部抜けちゃったからなんだよねえ。》
いつかに聞いた黒凪の言葉が過る。
白以外の色等1つも混じっていない、ただただ真っ白な髪。
角都の手が徐に伸ばされて、黒凪の髪に指を絡めた。
ん?と振り返った黒凪に手が髪から離れ何故か頬に移動する。
強く抓られた頬に「痛い!」と反射的に黒凪が眉を寄せた。
『ちょっと、何よ。』
「……」
『…痛いんだけど。ねえ。』
「………」
歩きながら頬を抓ってくる角都を怪訝な目で見上げながらとりあえず進み続ける黒凪。
黙って感触を確かめる様に抓る角都に呆れた様に息を吐いて「まあ良いか」と目を逸らした。
しかしこの状況下で無言と言うのも可笑しな状況だと思い直し徐に口を開く。
『ね、あんたは何回人の死を見て来た?』
「…人の死、だと?」
『そう、人の死。…あ、殺したのは違うからね。寿命で死んだ人の事。』
「…寿命になる前に殺して来た」
だがそうだな、角都の手が頬から離れ彼が徐に空を見上げる。
昔馴染みの人間はもう寿命で死んでいるだろう。
そう言った角都に「だよね」と黒凪が眉を下げて言った。
『私ももう、私の本当の昔を知る人は残ってない。…皆死んでる』
「……。」
『…特に大事な人とかいなかったの?その死んで行った人にさ』
「…」
思い返しているが、見つからない。
そんな表情の角都に「寂しい奴ねえ、あんたも。」と笑う。
そんな黒凪に角都は徐に「理解出来んな」と声を掛けてきた。
その言葉に顔を上げれば相も変わらず無表情な彼の顔が見える。
「顔見知りが明日にも死ぬような時代の中でそれほど大事に思う人間が居るものか」
『そう?私は沢山居るよ。』
「……」
『…なーに他人事みたいな顔してんの。あんたもそうなんだからね。』
怪訝な目が向いた。
その目に「え?」と黒凪が驚いた様な顔をする。
その反応に角都も「は?」と言った風な雰囲気を醸し出した。
『…え、何その反応…』
「…俺もそうだと?」
『そうよ?あんたが死んだらそりゃあもう泣いて泣いて泣くよ。』
「…くだらん冗談だな」
はあ!?とムキになって反応を返す黒凪に角都が何も言わず歩いて行く。
その背中を見て黒凪は微かに目を見開いた。
…まさかあんた、そんな黒凪の声を聞きながら何も言わずに角都が歩いて行く。
『…火影暗殺を失敗した時、家族や友達にまで非難されたなんて事、ないよね』
「………」
『…何で何も言わないの』
そう声を掛けると同時に前方に山道を歩く集団を見つけた。
その集団の中心に要る老人が最後の標的。
角都も気付いたのだろう、死体を地面に置いて走り出していく。
「な、なんだ!?」
「白昼堂々とワシを殺りに来よったらしいの…」
「老師様を護れ!」
そう意気込んだ声を最後に次々に響き渡る断末魔。
やがて標的を殺した角都は転がる死体の中で唯一生きていた若い忍が走って逃げていく背中に目を向けた。
そんな忍の前方に結界を張って行く道を阻むと黒凪は何も言わずじっと忍を見ている角都に目を向ける。
『…角都?』
「……」
『…あんたが殺さないなら私がやるよ?』
そう言ったと同時に忍の身体を結界が貫き、忍が力なく倒れ込んだ。
倒れた忍を静かに見つめる角都に黒凪が近付いて行く。
すぐ目の前に立って見上げてくる黒凪に角都が徐に目を向けた。
『…ねえ、里の重鎮に何て言われたの。あんた』
「……何故生きて帰って来た。それが第一声だったな」
『あんたの家族や友達もそう言ったの?』
「…あぁ」
そうとだけ言って標的の死体を担いで他の死体の元へ戻っていく。
実の所、黒凪は暁のメンバーについては事前に調べ上げてから確保に向かっていた。
しかし角都に至っては彼自身が過去の人間であった事や里から追放された身であった為にロクな情報が見つからなかったのだ。
『…可哀相に』
「……なんだと?」
『私も色々言われはしたけどね、流石に生きてて"何故?"は無かったわ』
「…同情など必要ない」
今更可哀相だなんだと言われた所で何ともないのだからな。
そう言いながら死体を3つ担いで角都が換金所へ歩いて行く。
その背中をじっと見つめ、徐に走って彼の隣に並んだ。
『同情じゃないよ、これは共感。』
「…共感?」
『うん。…悲しかったね』
眉を寄せて言った黒凪に角都が理解出来ないとでも言う様に眉を寄せた。
同情は腐る程してきたけど、共感はあんたが初めて。
続けて発せられた言葉にもまた眉を寄せる。
『…あんた、もう無理して生きる理由なんて無いんでしょ』
「!」
『里の為に命からがら逃げて来たのに非難されてさ。…あんたが本当に生きたかった理由はそこで無くなっちゃったんじゃないの?』
「…、」
でも生きる理由がなくなったからって里に裏切られた怒りは消えない。
だから生きる理由として命を奪う禁術に手を掛けた。…そして憎い相手の心臓を奪った。
角都は何も言わずに、此方を見る事も無く歩いて行く。
『そして特に生きる理由も無いのに生きるすべを手に入れたあんたは、…金と言うものに執着して、それを理由に意味も無く生きて来た。』
「……」
『ね、これ間違ってる?…現にあんた、暁の為に集金する理由がなくなって自分の手元に大金が入ったら一銭も使ってないじゃない』
間一族の一員になった際に渡した地陸の賞金は角都の部屋に仕舞われたまま。
その後も懸賞金を何度か受け取っている角都だったが、金を集めているわりには必要な事以外には使っていない。
集めるすべは知ってても使う理由が無い。…生きるすべは持っていても、生きる理由が無い。
…そうじゃない?黒凪が念を押す様に問いかければ角都の腕が伸び黒凪の首を掴んで持ち上げた。
「黙れ。鬱陶しい」
『…鬱陶しいのは痛い所を突かれてるから?』
「それ以上くだらん事を言うなら殺すぞ」
『好きなだけ殺しなよ。私はあんたより死なない。』
黒凪の目を睨んで角都が徐に口を開く。
結論を言え。お前は俺に何を言いたい。
その言葉に黒凪がすぐに口を開いた。
『あんたは自分の為に生きられない不器用だって言いたいのよ。』
「…だからなんだ」
『だから、……だからそんな風に上の空で生きないでほしい』
黒凪の言葉に眉を寄せて角都が首を傾げる。
折角こんなに長い時間を生きて、折角私達出会えたんだよ?
…自分の為に生きられないなら私達の為に生きて。
もう1回だけ、他人を信じてみてくれないかな。
「………」
『…信じて。私は絶対にあんたを裏切らない。』
「今お前を殺そうとしている人間を信じると?」
『信じるよ。』
即座に返された言葉に角都が言葉を飲み込んだ。
黒凪も角都も互いに目を逸らそうとしない。
…随分と長く沈黙が流れ、徐に角都が黒凪の首を掴む手を解いて胸ぐらを器用に掴みゆっくりと地面に降ろした。
『…信じてくれるの?』
「……さあな」
『信じてよ。』
「鬱陶しい」
信じてってば。
そう言って前に出れば角都が嫌な顔をして目を逸らした。
…ね、信じて。もう一度言えば深いため息が返って来る。…そして、
「分かった。…分かったから退け」
角都の言葉にぱあっと笑顔を溢し、彼が通れるように道を開いて上機嫌に隣に並んで歩き出す。
上機嫌に隣を歩く少女にちらりと目を向ける。
子供と同じ様な背丈の彼女はこの角度からでは白い髪の天辺しか見えない。
その頭をしばし眺めて「こんなガキに…」と角都は1人自己嫌悪に陥っていた。
『…この儀式、暁にいた間もずっと待ってたの?』
「あぁ」
『角都…あんた良い奴だよ』
「良い奴も何も、あれを止めれば飛段がキレる。キレると後々面倒だっただけだ」
ふーん。そんな気のない返答を返しながら角都と並んで座る黒凪が標的を殺してジャシン教の儀式とやらに勤しむ飛段を眺める。
全く、自分を自分で突き刺すわ槍を腹部に刺したままで寝転ぶわ…。
本当に変な儀式。そうぼそりと呟いて欠伸を漏らすと飛段が徐に起き上がった。
『あ、終わった?』
「おう!ありがとよお前等ァ!」
『よしよし、ちゃんとお礼を言ってくれたから良しとしよう。』
「その下らん儀式が終わったなら帰るぞ飛段。さっさと片付けろ」
下らんってなんだコラ角都!とすぐさま角都の物言いに反応した飛段を宥めて3人で歩き出す。
そうして差し掛かった1本の道に1つの屋台が立っていた。
どうやら茶屋らしく外の椅子には何人か旅人が団子と共にお茶を飲んでいる様子が見える。
『…美味しそう。食べてかない?』
「お?マジか」
『角都お金持ってるよね?ちょっと食べていこうよ』
「…仕方がないな」
黒凪の提案に特に文句も無く従う角都に一瞬だけ目を見開いて、己の手を引く黒凪に目を向ける飛段。
数日前に2人で任務に行った事は後で聞いたが、その日から何となく角都の雰囲気が柔らかくなったことに飛段は気付いていた。
柔らかくなった、と言うよりは元に戻った、だろうか。
暁に居た頃の余裕の様なものが見える様になってきたのだ。
…とは言っても飛段自身はそう言った事を明確に理解している訳ではなく、勘で感じ取っている部分が大きいのだが。
『…うん、みたらし団子美味しい。』
「そうかァ?俺ぁ木ノ葉の団子の方が美味ぇがなァ」
『こういう景色で食べるのが美味しいの。ほら鳥とかめっちゃ飛んで……。…飛んで…』
様々な鳥の鳴き声が頭上を飛び越えていった。
前方の森の何かから逃げる様に固まりで移動して行く鳥達を3人で何気なく眺める。
すると前方の森の真上にいつの間にか分厚い雲が集まり雷が低い音を立て始めた。
『あれ?さっきあの森から私達出て来たよね?』
「あぁ」
『あんなに天気悪かったっけ』
「山の天気は変わりやすいとかいうあれか?」
いや此処普通の平地だし…。
そう呟いて雨雲を見上げていると雲が此方に流れだし大量の雨が降り出した。
すぐさま頭上に黒凪が結界を張り雨を回避する。
しかし吹き荒れる暴風が横からも雨を運んで来た為に黒凪が茶屋ごと結界で包み込んだ。
『ゲリラ豪雨って奴かな』
「それにしては前触れが無さ過ぎる。どこぞの忍の術とも考えられるな」
『うーん…。』
でもあそこに見える龍は術とかじゃないよね?
そう言って空を指差していた黒凪はやがて何かに気付いた様に目を見開いた。
そして思わずガタッと椅子を揺らして立ち上がり、驚いた様子で言う。
『…嘘。…え、でも…』
「どうかしたか、黒凪」
「知り合いか?」
『…うん、多分知り合い…』
黒凪の言葉に「マジで?」と問いかけた飛段。
その言葉と同時に目の前に雷が落ち、その場所に1人の女性が立っていた。
その女性の顔を見た黒凪は思わず笑みを見せるが、その表情を見てぴたりと動きを止める。
『…竜姫?』
「あ?…なんであたしの名前知ってんの?あんた」
『…最悪…』
「?…まあ良いわ、別に。てかあたし今イライラしてんのよねぇ」
見れば分かるよ。
眉を寄せてそう言えばニヤリと竜姫が笑った。
何かモヤモヤするわね、あんた見てると。
そう言って笑う竜姫の周りに落ちた雷に黒凪が構える。
『自分の気分で八つ当たりするなんて、風神・雷神だとかって名乗ってた時に逆戻りじゃないの。』
「…何、あたしあんたに会った事ある?」
『ある、って言った所で信じないでしょ、あんた』
「よく分かってんじゃない。」
強い落雷が降り注ぎ結界が破壊される。
眉を寄せた黒凪は竜姫に向かって結界を伸ばすが彼女はひらりと躱して笑みを見せた。
まずいなぁ、竜姫と戦うとなると角都も飛段も分が悪い。
竜姫は基本的に遠距離攻撃しか行わないから飛段はどうする事も出来ないし、電撃なら土遁使いの角都にもしんどい相手だ。
『…角都、飛段。あんた達は分が悪い。里に戻って正守達を呼んで来て。』
「あァ?逃げろってのかよ」
『悪く言えばそうなるね。』
「…確かにあの女は俺達には分が悪いな」
つっても俺ぁ雷に撃たれようが死なねえんだぜ?
そう言った飛段の真上に振って来た雷を結界で受け止める。
落雷を受けとめた結界の表面が黒く焦げていた。
『結界も焦げるぐらいの高圧電流よ?あんた塵になる』
「おー…」
『…。角都、飛段を連れていける?』
「……。」
ちょっと角都、聞いてんの!?
珍しくそう焦った様に怒鳴った黒凪に「何ビビってんだよお前、」とでも言いたげな飛段が此方を向いた。
角都は角都でどうにか出来ないものかと考えを巡らせているに違いない。
『あのねえ、あの竜姫はかなり上位の力を持ってるのよ。下手すりゃ神様に匹敵する。』
「神様ァ!?テメェマジで言ってんのかよ黒凪!」
『マジで言ってる!私だって竜姫相手だったら2、3回死ぬぐらいの覚悟は――』
「この世に存在する神はジャシン様だけだァ!」
鎌を持ち上げて走り出した飛段に眉を寄せる黒凪。
そんな黒凪の目の前に落ちた雷から距離を取らせるように角都が黒凪の首根っこを掴んで引き寄せる。
黒凪が焦った様に角都を見上げると彼は印を結んで背中の仮面にチャクラを流した。
「風遁・圧害」
『ちょっと角都…!』
「何よあんた達。あたしの邪魔しようっての?」
「テメェなんざジャシン様の生贄に捧げてやらァ!」
跳び上がって鎌を振り上げる飛段に雷が向かって行く。
相変わらず死ぬ事を恐れていない隙だらけの動きで向かう飛段は確実にあの高圧電流をその身に受けるだろう。
只の落雷ならどうにかなるかもしれないが、竜姫が放つ雷は桁違いの威力を持っている。
眉を寄せて黒凪が結界で雷を他所へ流し念糸で飛段を引き戻した。
途端に竜姫に角都が放った圧害が向かい竜姫が雷を向かわせて相殺させる。
「…ほう、風遁を相殺させるか」
『竜姫は私達と同じで特殊なのよ!チャクラ性質の優劣はあんまり効かない!』
「邪魔すんなよ黒凪!」
『あんた私が邪魔しなかったら塵になってたって何回言えば――』
「ねえ、仲間割れ?邪魔ならそこの2人殺してあげようか?」
竜姫のその言葉に目を見開いて振り返る。
上空の雨雲が集まり始め、強い雨も降り始めた。
きゃああ、と微かな悲鳴が聞こえて振り返ると茶屋に居た人達が屋台にしがみ付いているのが見える。
『(っ、あんまり犠牲は出したくないんだけどな…)』
「ねえ、あんたあたしの何だったの?」
『…友達。一緒に組織を回した事もあった。』
「うーん……。…ゴメン、やっぱり覚えてないわ。」
落雷が一気に4方向に向かった。
1つは茶屋へ、あとの3つは黒凪達3人に向けて。
すぐさま茶屋に結界を5重に重ねて張り、そして呑気に落雷を見上げている飛段にも同じように結界を作る。
角都が黒凪を抱えてその場から飛び退いで落雷を回避した。
しかし追いかける様に続けざまに降ってくる落雷に黒凪が角都と共に結界で周りを護り容赦なくぶつかってくる落雷を見上げる。
「アハハハハ!あんた本当にあたしの友達だったワケ?防戦一方じゃない!」
『…え、やば』
咄嗟の事で3重にしか結界を作れなかったが、それだけでも十分な強度を誇っている筈なのに徐々に最も外側の結界から崩れていっている。
どうしたものか、と落雷を見上げれば結界の中に居る黒凪と角都の内でも黒凪に向かって落雷が集中している事が分かった。
恐らく竜姫の狙いは私だ、と作ってある結界を引き延ばして角都を結界で押し退けていく。
それを見た竜姫がニヤリと笑った。
「言ったでしょ?あんたがあたしに集中できないならそこの2人から殺してやろうかって。」
『!しまっ、』
竜姫が一層大きな雷を角都に向けて放つ。
角都は黒凪の結界で身動きが取れないし、彼女の判断が角都の逃げ道を塞いだ形になった。
眉を寄せた黒凪が角都の前に出て絶界を発動する。
絶界を見た竜姫はその不気味さに微かに目を見開き、やがて何かを思い出した様に「あ」と声を発した。
《――龍仙境は此処であっていますか。》
《…ねえ、あの子誰?》
《しー。ほら、上流の方で異界の歪みが出来てたでしょう?その修復に来た結界師ですって。》
《あの子が?…あたしと同じぐらいの子だよ?》
龍仙境を仕切る女性が黒髪の少女を連れて奥へ奥へと歩いて行く。
その様子をまだ幼かった竜姫はまじまじと眺めていた。
そして興味本位から異界の歪みの元へ向かい、その歪みを修正する少女を見守る。
《……。離れていてください、歪みの原因が来ました》
《ええ…》
《…!》
龍仙境を仕切る女性が一方後ろに進んだ途端に歪みの亀裂から巨大な妖が現れた。
その妖が少女へ向かって行く。…思わず竜姫は息を飲んだが、少女は妖を禍々しい結界で瞬く間に塵と化してしまう。
その様子を目の当たりにした竜姫はその術の恐ろしさに尻餅を着き、少女の悲しげな表情から目を逸らす事が出来なかった。
《――ありがとう、やっとこれで龍仙境も以前の平和を取り戻せるわ。》
《また他に歪みが発生すればおっしゃって下さい。この土地はとても価値のあるものですから狙う輩は多いので》
そう言って去って行った少女が見えなくなると竜姫がすぐさま後を追い、誰にも見つからない様に彼女の前に姿を見せた。
少女は突然現れた竜姫に驚いた様に足を止め、ぽかんとした表情のままに首を傾げる。
《あ、あのね。実はさっきの見てたの》
《…あぁ、見ていたのですか》
《うん。…凄いなって思って。だから名前を知りたいの》
《…黒凪です。間黒凪》
落雷が勢いよく黒凪に直撃した。
その鈍い音に竜姫が肩を跳ねさせ「黒凪!!」と名を叫ぶ。
その声に目の前で落雷に飲み込まれた黒凪を見ていた角都が彼女の姿を探した。
飛段も物凄い落雷に「おおお…」と声を漏らしてから黒凪の姿を探す。
すると途端に黒凪が作っていた結界が一斉に解け始め、角都と飛段がその様子に周りを見渡した。
「…あれ?黒凪の野郎居ねェじゃねえかよ」
「……。」
「…あー…、塵にしちゃったわねこれは…」
そう言って目元を覆いながら竜姫が降りてくる。
先程とは明らかに雰囲気の違う竜姫に怪訝な顔をしながらも「あ?塵ィ?」と飛段が問い掛けた。
その問いに小さく頷いた竜姫は徐に周りを見渡し、さらさらと砂の様なものが集まる場所を見つけると其方に駆け寄っていく。
「…多分これが黒凪よ。今再生してるわ」
「は?この砂みてーのが黒凪か?」
「……。」
「…にしてもあんた達は誰?夜行に居たっけ?」
やぎょー?と訊き返す飛段をじっと見た竜姫は「違うか…じゃあこっちの人間って事ね」と呟いて角都と飛段を見る。
あんた達、随分と黒凪に大事に思われてんのね。
そう笑顔で言った竜姫に2人が顔を見合わせた。
「そりゃあアタシとの戦闘に置いて焦るのは分かるけど、まさかこっちの人間をあの子が命がけで護るなんて…」
「……。」
「…なァ角都、こいつ何言ってんだ?」
「…。一体どうやったのよ、あの子が気に入るなんて珍しいわよ?」
飛段には話が通じないといち早く理解したいのだろう、竜姫が角都を見上げて言った。
しかし角都も彼女が言っている事がよく分かっていないらしく眉を寄せているだけ。
その様子をじーっと見ていた竜姫が背後で動いた気配に振り返る。
座り込んでいる黒凪に飛段も気が付いた様で「お。」と声を発してしゃがみ込んだ。
黒凪はそんな飛段に顔を上げると吹いた風の肌寒さにくしゃみをする。
飛段は黒凪が裸である事に気付くとぷっと吹き出した。
「お前マジで塵になってたのかよ!?」
『煩いなあ、服も全部消えてんだからそういう事でしょ…。』
「ゲハハハハァ!そんなんなるって分かっててお前よく角都の前に出たなぁオイ!」
『なによ、悪い?私はあんたでも同じようにしたわ、ばーか。』
てか上着貸して、そう黒凪が言った途端に角都の上着が彼女の頭に掛けられる。
少し目を見開いた黒凪がすぐさま肩に羽織って前が開かない様に両手で押さえて立ち上がった。
そして側に立っている竜姫を見ると小さく笑う。
『何、思い出したの?あんた』
「ええ。ばっちりね。」
『よかった、私が目覚めたら角都も飛段も死んでたらどうしようかと思ってたのよ』
そう言って笑った黒凪は随分と安心した様子で眉を下げる。
あー…、よかった。しみじみ言った黒凪に角都と飛段が顔を見合わせた。
そんな2人を見た竜姫は「だから言ったでしょ?」と黒凪の頭に手を乗せて口を開く。
「大事にされてるよ、あんた達。」
「……。」
「俺等の事が大事なのかァ?黒凪チャンよォ。」
『当たり前でしょー。』
当たり前なのか?そんな風にまた顔を見合わせた2人に黒凪がげんなりと肩を竦める。
そしてため息を吐くと眉を下げたままで笑顔を見せた。
『ま、信じるまで根気よく付き合いますよ。…愛されてこなかったんだから仕方ないしね。』
「俺ぁお前の事わりと好きだぜェ?偶にウゼェけどなぁ」
『え、ホントに!?』
「おー。な、角都」
え!?と黒凪が角都に目を向ける。
彼は何も返答を返さず眉を寄せただけだった。
そんな反応に竜姫は「あーあ、」と肩を竦めたわけだが、黒凪と飛段の反応は違った。
『否定しない!』
「オイオイマジか角都ちゃんよォ!」
「喧しい、喚くな」
『嬉しい!ありがと角都!』
角都の羽織に腕を通して彼の首に抱き着いた。
それを鬱陶しそうに見た角都は引きはがそうとするがするりと背中に回った黒凪にげんなりとする。
『よし、嬉しいけどとりあえず屋敷に帰ろう。竜姫もおいで。』
「…貴様、結局俺を足にするか」
『嬉しくて抱き着いた所までは本当にハグのつもりだったんだけど、よくよく考えてみたらそろそろ帰らなきゃなって急に冷静になっちゃって。』
「あー…、分かるぜその気持ち。俺もついつい楽しくなって相手をバラバラにする寸前まで行くけど途中でジャシン様に捧げなきゃならねえことを思い出してだな…」
…。よく分かんないけどそんな感じ。
明らかにテキトーな返しであるが「だろォ!?」と嬉しそうに飛段が言ったので誰も何も言わなかった。
『ただいまー。正守居るー?』
「へー。流石あんたの父親ね、手が早いわぁ。」
「おかえり。何かあった?……あ。」
「お久しぶり。元気そうね墨村君」
竜姫さん…。
そう驚いた様に言った正守が呆然と立ち尽くしていると「あ、やっぱり」と上空から声が降ってくる。
うん?と顔を上げた竜姫は上空に浮かんでいる七郎の姿に「あら!」と笑顔を見せた。
「七郎じゃない!」
「お久しぶりです、竜姫さん。貴方もこの世界にいらっしゃたんですね。」
「まあね。二蔵は?」
「いますよ。来ますか?」
行く、と返答を返して一瞬で姿を消した2人に「相変わらずだな…」と困った様に言って正守が角都の背に背負われている黒凪を抱え上げる。
また無理したみたいだね。そう言って眉を下げた正守に「まあね」と笑う黒凪。
その様子を真顔で眺めていた角都と飛段だったが、背後の扉が開き2人して振り返る。
「あ、どうも…」
「んあ?…あー…、お前名前なんだっけ…?」
「白です、飛段さん。」
「あーそうだ白だったなァ!」
買い物?と問いかけてきた黒凪に「はい、」と目を向けた白は少し驚いた様に目を見開いた。
服はどうしたんですか?と問いかけた白に「ちょっとね…」と苦笑いを返した黒凪は彼の後に続く様に入って来た再不斬に目を向ける。
再不斬も黒凪の様子を見ると少しぎょっとした様だった。
「…なんで頭領に抱えられてる」
『あら、あんた正守の事頭領って呼んでんの?正守で良いのよ?』
「いやいや。ほら俺一応上司だし…」
『そう?』
「うん。」
至近距離でそんな会話をする2人に飛段が首を傾げる。
なに、お前等付き合ってんの?
遂に放たれた質問に白と再不斬の目付きが変わる。
恐らく彼等も聞こう聞こうと思ってはいたが質問が出て行かなかったのだろう。
『え、ううん?付き合ってないよ?』
「…そうか?」
『うん。』
即答した黒凪に正守が苦笑いを浮かべる。
すると「何の話ですか?」と若干低めの七郎の声が聞こえた。
どうやら彼と竜姫はこの短時間で二蔵と顔を合わせて戻って来たらしい。
『あ、竜姫おかえり。』
「ただいま。なんか面白そうな話してたわね、墨村君とあんたがどーとか。」
『あはは、正守と私は珍しいよね。普段はどちらかと言えば七郎君とよく噂されるのに。』
「え、何、あんた達こっちでもそうなの!?アハハ、ウケる!」
笑い事じゃないですよ竜姫さん…。
そう言って苦笑いを浮かべる七郎を白と再不斬が正守と交互で見る。
「再不斬さん、これは…」
「あぁ…。こいつ等とあと限と閃を入れるとかなりの数に…」
「お!帰って来たのか、うん!」
「「!!」」
って、また服ごとバラバラになったのか…。
呆れた様に言ったデイダラに「まさかあの人も…?」と眉を寄せた白。
再不斬も混乱した様に眉を寄せているとデイダラの背後からのそのそと現れたサソリに動きを止める。
「?…黒凪、お前服どうした」
『私諸共塵となりました…』
「…ふーん。ご苦労なこったな。」
じーっと無表情にそう話すサソリを見て再不斬が白に顔を近付ける。
白、お前もあのガキが良く見えていたりするのか?お前も歳は近い方だろう。
眉を寄せて問う再不斬に「そうですね…、」と白が黒凪を見たままで口を開いた。
「あれだけ好かれる黒凪さんに興味はありますが、恋愛感情があるかと問われると…」
「そうか…。俺は全くあんなガキに何も思わねぇんだが…恐らくあいつには何かがあるんだろう…」
「そうですね…」
「再不斬さん、白。」
背後から掛けられた声に2人が一斉に振り返る。
そこには片手を此方に向けて伸ばしている閃が居て「修史さんが早く食材欲しいって。」と掛けられた声に今しがた買ってきた食材を手渡した。
サンキュ。と真顔で礼を言って閃が歩いて行く。
「…あれは黒凪さんと長くいるが故の余裕でしょうか…」
「その可能性は高いな…」
「頭領、副長が…」
「え、刃鳥が?じゃあ悪いけど限、黒凪頼めるかな」
黒凪ですか?と返答を返して黒凪の姿を見る。
それを見て柄にもなくぼんっと顔を赤らめた限に黒凪が悪戯を思いついた様な顔をした。
ほい。と少し着物をはだけさせる黒凪に「やめろ!」と思い切り目を逸らす限。
そんな限の反応に黒凪が更に悪い顔をした。
「こら黒凪、あんまり限をからかってやるなよ。」
『はーい。…じゃあ限、正守の代わりに担いで。』
「…え゙」
「自分で歩いたら?」
『歩けないんですー。』
…らしいけど…。そう言って黒凪を持ち上げる正守に「貰います…」と目を逸らしながら限が両手を黒凪に伸ばす。
それを見ていた飛段が合点がいった様に両手をぽんと叩いた。
「お前等が付き合ってんのか!」
「っ!?」
『うわっ、危ないって限、ちゃんと持ってよ』
「あ、あぁ…」
なんでそう付き合ってるだとか付き合ってないだとかの話になるんですかね。
笑顔で言った七郎に「お?」と飛段が振り返る。
すると黒凪が限に抱きかかえられたままで口を開いた。
『こら七郎君、何怒ってんのよ。』
「怒ってませんよ。」
『いーや、怒ってるね。あんたと何年来の付き合いだと思ってんのよ。』
「お前等が付き合ってんのか!?」
だから違うって。
そう言った黒凪と何も言わなかった七郎。
明らかに飛段を中心に良くない空気が回り始めている。
その様子を一歩下がった位置で観察する白、再不斬、そして角都。
するとそんな空気を一蹴してくれる修史さんの声が響いた。
「皆さーん!ご飯出来ましたよー!」
「飯!」
『うわっ、…すごーい、ダッシュする程お腹空いてたんだ飛段…。』
「…。それじゃあ僕もそろそろ帰ります。こっちも夕食時だと思うので…」
不穏な空気の根源が食事場に走って行き、そんな根源に見事に踊らされていた七郎も去っていく。
竜姫はその能力から扇一族と共に居る事にしたらしく「それじゃあねん♡」と手を振って七郎と共に去って行った。
その後ろ姿を見送って黒凪も限に連れられて屋敷の中に入っていく。
玄関に取り残された白と再不斬が無言で靴を脱ぐ角都に向かって憐れみの目を向ける。
「…あんた凄いな…。あの男とツーマンセルを組んでたんだろう?」
「あぁ」
「ゆ、愉快な方ですね…」
「…愉快で済めば楽なんだがな」
ごもっとも。そう口には出さず苦笑いをした白と再不斬に目を向けず歩いて行く角都。
白と再不斬も再び顔を見合わせると靴を脱いで食事場に向かった。
ある意味狂言回し?
(私と飛段ってね、1回兄妹に間違われた事あるのよ。)
(え、マジで?)
(うん。なんでだろ、髪の色かな?)
(うーん…でもなんか分かるなぁ。何処か似てるよね、2人共。)
(そう?何処が似てるんだろ…?)
((…能天気な所とかかな…。))
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