世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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雪の国編
『――女優の警護?』
「うん。とは言っても"警護"ってのは建前で、本当の所は国盗りかな」
『国盗り?…何処の国?』
「雪の国。」
どうやら雪の国では10年前にクーデターが起きたらしくてね。
今回の任務はそのクーデターで奪われた雪の国を奪い返して先代君主の娘である風花小雪に献上する事。
これが風花小雪ね。そう言って正守が差し出した写真を見た黒凪は「成程ね」と肩を竦めた。
『女優ってこういう事か。…これ風雲姫シリーズのメインキャストじゃない。』
「お、珍しい。見てたんだ?」
『人気だからねえ。名前と顔だけだよ。…えー…っと、確か名前は富士風雪絵だったっけ』
「そうそう。凄い凄い」
馬鹿にしてんでしょ、と目を細めた黒凪に「あはは」と笑って正守が資料の下の方を指で示した。
うん?とその部分を覗き込んだ黒凪は「え゙」と目を見開き正守を見上げる。
「凄い報酬でしょ?俺も0の数を数えた時驚いたし」
『…これだけ出されたら断れないね…』
「うん。それに失敗も出来ないし。」
富士風雪絵が女優として稼いだほとんどを払うから必ず奪い返してくれってさ。
笑って言った正守にため息を吐いて黒凪が後頭部をがしがしと掻く。
分かった、じゃあどうにかするから。そう言って歩き出した黒凪は少し歩いて足を止め、思い出した様に振り返る。
『ねえ、そう言えばあの2人はまだ帰ってこないの?』
「ん?…あぁ、あの2人ね。結構遠くまで行ってるからついでに色々と任務任せちゃっててさ。」
『雪の国ならあの2人が適任だと思うし呼び戻しといてよ。』
「良いけど急いでも2日はかかるよ?」
あ、それか距離的に近いなら先にあの2人を雪の国に向かわせても良いよ。そこの所の判断はあんたに任せる。
そう言って歩いて行った黒凪に「はいはい」と返答を返して正守も自室に戻って行った。
「ちょっと!聞いてないんだけど!?」
「落ち着いてください、雪絵様」
「なんで船に乗ってるのよー!!」
そんな叫び声を尻目に目の前に次々と結界を作り上げて行き、1つの作品の様に仕上げていく。
その様子を「悪くない…」と呟きながら眺めるヒルコの中に居るサソリと「さっさと作っちまえよ、うん」とイライラした様子で眺めているデイダラ。
いびきを掻いて寝ている飛段に雪の国についての資料を淡々と読み進める角都。
そんな5人が海の上を進み続ける船の端の方を陣取っていた。
どたどたと足音が響き、今回の護衛対象でもある富士風雪絵が姿を見せる。
「何なのよこの忍は!」
「雪絵様の護衛を担当する間一族の方々でございます」
「間!?何よ間って!」
「落ち着いてください」
私は雪の国には行かないの!ですがもう船は出ております。降ろしてー!
そんな会話を聞きながら結界で作る作品を終わらせ、黒凪が立ち上がった。
まあまあ落ち着いて。大層な事でも言うのかと思いきや、にっこりと笑ってそうとだけ言った黒凪に雪絵が額に青筋を浮かべる。
「落ち着けるわけないでしょ!?今この船は何処に向かってるのよ!」
『雪の国です』
「なんで雪の国…!」
『雪の国を奪い返す為です…って言ってなかったんですか、三太夫さん』
雪の国の話題を聞くと怯えてしまわれるもので…。
困った様に言った三太夫。彼は女優である雪絵のマネージャーで、元は雪の国の先代当主に仕えていた忍であると言う。
おーい雪絵!化粧をしろ、撮るぞ!
そんな声に振り返った雪絵は「え、撮影するの!?」とこれまた驚いた様に叫んだ。
『いやー…、それにしても女優である彼女を雪の国まで連れていく為とはいえ、映画監督やスタッフまで同行させたのはやっぱり危ないんじゃないですか?』
「仕方がないのです。雪絵様は現在映画を撮っている真っ最中…。連れてこない訳には…」
『"仕方がない"で他人を巻き込む辺り、忍ですねえ』
「そうですか?」
ええ。目的の為なら危険もいとわない所が特に、ね。
笑って言った黒凪の前では化粧を施された雪絵が仕方がないと言う様に船の上で映画のシーンを撮影している。
恐らく映画監督やスタッフ達の様子だと国盗りの事など聞いてもいないだろうし、ましてや今から何処に向かおうとしているのかも分かっていないのだろう。
『雪の国にはいつ頃着く予定ですか?』
「明日の朝には。」
『分かりました。皆にもそう伝えておきます』
「か、監督ー!大変です監督ー!!」
「何だ朝っぱらから…」
そんな声に顔を上げる。
目の前の巨大な氷河に目を見開いたスタッフ達がわらわらと動き始め、寝起きの監督も「おおおっ!?」と驚いた様に叫んでいた。
その様子を船桁の辺りに座って見ていた黒凪は目の前に聳えたつ氷河、基雪の国に目を向ける。
「あれが雪の国か?うん」
『そだね。雪の国の端っこ。』
「起きろ飛段。」
「んぐっ!?」
どすっと鳩尾を角都に殴られ飛段が飛び起きる。
その様子を呆れた様に見ていたサソリも黒凪と共に雪の国を見ると「これは絶好のロケーションだ…!」と言う監督の声に視線を降ろした。
下の方では監督の指示でスタッフ達が雪の国への上陸を始めている。
「…呑気なモンだな…」
『此処で国盗りするなんて誰も知らないしね。思ってもみないだろうし』
そんな会話をしながら黒凪達も船から降りて監督達の後ろで雪絵の演技を眺める。
しかしやはりそう呑気に撮影を続けていられる筈もなく、撮影の最中に爆発の様なものが起き役者陣も驚いた様に目を見開いた。
その様子に「やれやれ」と動き出したサソリとデイダラは雪絵の前に、飛段と角都は爆発が起きた場所に向かって走り出す。
「ちょっとちょっと!映って貰っちゃ困るよ!」
『全員下がって下さいね。死にたくはないでしょう』
「は…?」
「――ようこそ、雪の国へ。」
そんな声が聞こえて顔を上げれば飛段と角都の目の前に爆発の中から現れた男が立っている。
はっと角都が振り返れば少し離れた位置に女の忍が立っていた。
「お帰りなさい小雪姫。六角水晶は持って来てくれたかしら?」
『(六角水晶?…なんだそれ、聞いてないなあ)』
「…あっちにももう1人居るな…」
サソリがそう言って振り返った先にぼこっと雪の中からまた男が1人現れた。
手練れの忍がいる様だな…。これ以上は近付けなんだ。
そう言った男に目を細めたサソリはチャクラ糸を伸ばして映画監督やスタッフ達を持ち上げ船に放り投げていく。
その様子を見た爆発の側に居る男、ナダレが徐に口を開いた。
「ミゾレ、フブキ。小雪姫は任せるぞ」
ナダレの言葉にニヤリと笑って飛段が鎌を構えて走り出す。
飛段とナダレが戦い始め、角都は走り出したくノ一であるフブキの方へ向かって行く。
スケートボードの様なものに乗って近付いてくるミゾレにはデイダラが向かった。
「氷遁・ツバメ吹雪!」
「ほう…氷遁か」
向かってくるツバメの様な氷を角都が避け、デイダラが片手間に爆発でその氷を破壊する。
そして迫ってくるミゾレの攻撃を避け、起爆粘土を放り投げるがミゾレが身に着けている鎧から放たれる風圧で起爆粘土が弾かれてしまった。
舌を打ったデイダラは動けない様子の雪絵の側に立つ黒凪と監督達を移動させているサソリを見て再びミゾレに目を向ける。
『雪絵さん、早く船に戻らないと』
「雪絵様!」
「嫌だ…行かない…っ」
怯えた様子の雪絵に目を細める。
恐らく爆発や氷を見て何かを思い出したのだろう。
…例えば、国を奪われた時の惨劇だとかを。
お命が危ういのですぞ!そう言った三太夫に「死んだって良い、雪の国にはいかない」そう叫んで雪絵が倒れた。
上手くデイダラを掻い潜って鎧の腕を伸ばして雪絵を捉えようとするミゾレの腕を結界で弾き、ミゾレ本体もデイダラの元へ吹き飛ばす。
しかしやはり吹き飛んで来たミゾレに対応したデイダラの起爆粘土は鎧の風圧に弾かれるだけ。
「チッ、変な鎧着けてんじゃねえよ、うん!」
『それは雪の国が独自に開発した鎧だって話だよ。チャクラを増幅させたり術を無効化したりするらしい』
「ククク、その通りだ。我等の鎧は最強無敵!」
「ジャシン様の前じゃ皆等しく虫けらだァ!」
笑いながら振り下される飛段の鎌を鎧で受け止めて氷遁・破龍猛虎の術で作り出された巨大な虎が飛段に襲い掛かる。
その虎に吹き飛ばされた飛段が黒凪達の側まで落ちてきた。
それを見た黒凪は角都に目を向け、その視線に気付いた角都が拳を硬化させて地面に叩きつける。
途端に氷河が崩れ始め、氷の破片で視界が悪くなった。
「っしゃあオラァ!ジャシン様の元に――」
『飛段、雪絵さん持って』
「あぁ?雪絵ェ?」
『ほら早く。』
倒れている雪絵を片手で持ち上げて鎌を持ち上げる飛段の頭を叩いて角都の名を呼ぶ。
ちらりと此方に目を向けた角都が腕を伸ばし黒凪の首根っこを掴んだ。
私の方かい、と眉を寄せた黒凪は飛段の腕に抱き着き飛段も角都の腕にぐんっと引っ張られる。
そうして全員がサソリによって船に乗せられていたスタッフや監督の元に戻り黒凪が振り返って口を開いた。
『急いで出してください』
「は、はい!」
「チッ、邪魔しやがって…。…なーこの女何処に寝かせりゃいい?」
『中のベッド…ってあんたまた服ボロボロにして…』
気だるげに雪絵をベッドに持っていく飛段を見送り、呆れた様に息を吐いて黒凪も船の奥に入っていく。
雪絵をベッドに寝かせて「うあ゙ー…」と言いながら飛段やデイダラが床に腰を下ろし、サソリと角都も徐に座った。
お疲れ。と黒凪も彼等の側に座ればがばっとデイダラが身を乗り出して口を開く。
「あのだせぇ鎧どうにかなんねえのかよ、うん!」
『何よ自分が苦戦してるからって。自分の身一つで戦わないの何てサソリと一緒じゃないの。』
「俺の傀儡とあの鎧が一緒だぁ…?てめぇ目が腐ってんじゃねえのか…」
「なー俺腹減ったー」
あ、おにぎりあるよおにぎり。
そう言って黒凪がおにぎりを差し出せば飛段と共に「んなもん何処で買ったんだよ」とヒルコから出てサソリとデイダラも手を伸ばす。
角都にも差し出せば彼も徐に手を伸ばした。
「このおにぎりは修史さんが作ってくれたから美味しいよ。あとケーキもあるけどどうする?」
「あ?ケーキィ?」
「ケーキなんざ何処で買ったんだよ、うん」
『良守君が作ってくれた。』
良守が作ったのかよ!?おもしれえ、俺様が食ってやらァ!
そう意気込んで箱を開いた飛段は完璧な見た目をしているチョコレートケーキに「おおお…」と声を漏らし恐る恐るフォークを突き刺した。
そして素晴らしい形だったケーキも崩れその破片が飛段の口に運ばれる様をサソリやデイダラが眺める。
「…え、うまい」
「マジか、うん」
「マジだマジ。食ってみろよ」
「……マジで美味ぇぞ旦那!」
デイダラの感想も聞いたサソリはフォークを受け取り徐に黒凪に手を伸ばした。
その手を暫く見ていた黒凪は「あ。」と呟くとその手を掴んで彼の身体を傀儡のものから生身に戻す。
『(そうだ、任務の前に傀儡にしてたんだった。だからおにぎりも食べなかったんだ…)』
「……。悪くねえ」
「オイ角都!お前も食えよ!」
「俺はいい」
おにぎりを食べながらぴしゃりと言った角都に「んだよノリ悪ぃな…」と言いながら飛段とデイダラが次々に食べていく。
その様子を携帯の写真に収めて良守に送っておいた。
携帯が良守の元へ写真を送った事を知らせる様にピロン、と音を鳴らしたと同時に扉が開き三太夫が顔を見せた。
「港に着きました。」
「お!遂に雪の国上陸かァ!」
『さっき1回上陸したけどね。』
「いちいち訂正してたらきりがないぞ」
そうか、それもそうだね。
そんな風に会話をする角都と黒凪に「テメェ等俺を馬鹿にしてんだろォ!」と飛段が噛みついた。
そんな飛段を放って外に出れば積み荷を降ろすスタッフ達が見える。
三太夫は雪絵を呼んでくると言ってもう一度船の奥へ歩いて行った。
『…で、あの雪忍達はどうだった?ちゃんと片せそう?』
「あれぐらいのレベルの奴ならそう時間もかからねェ…。どっかのバカ共は苦戦してたらしいがな…」
「そりゃオイラの事言ってんのかよ? 旦那」
「てめぇがそう思うならそうなんじゃねえのか…」
てかあんたヒルコの中に入るの速いねえ…。
黒凪がそう呆れた様に言えば「引きこもりだもんなァ、サソリちゃんはよォ!」と飛段が重ねる様に余計な事を言いサソリが殺気を飛ばす。
すると背後から「ちょっと、殺気出さないでよ」とイラついた声が聞こえた。
『あ、おはようございます小雪姫。』
「やめてよ姫だなんて。私はこの国の姫になるつもりはないわ」
「姫様、そんな事をおっしゃらずに…」
「大体無理に私を此処に連れてきてどうするつもりなのよ。ドトウに勝てるわけもないのに」
ドトウって誰だ?と飛段が聞いてきた為現在雪の国を掌握している男だと手短に説明した。
ドトウは先代主君であった風花早雪の弟であり、クーデターの主犯でもある。
今回の間一族の任務はこのドトウを殺す以外に成功は無く、言ってしまえばドトウと奴の手下を皆殺しにすれば任務完了なのだ。
『ドトウに勝てますよ』
「!」
『と言うか勝たないといけないので。とりあえず勝ちます。と言うより殺します。絶対に。』
真顔でそう言い放った黒凪に小雪姫がごくりと生唾を飲み込んだ。
しかし一旦黒凪の勢いに呑まれかけた彼女だったがはっと我に返り「こんな人数で一国をどう落とすって言うのよ!」と悲痛に叫ぶ。
その言葉にサソリ達が目を向けた。
「現実は映画とは違う…、絶対なんて無い。ハッピーエンドも無い。絶対に無理よ!」
「絶対が無いなどと喚くわりには貴様もその言葉を使っている様だが」
「っ!」
「それに一国を落とすなんざそう夢物語でもねえぞ…。俺ぁ1人で一国を落とした事がある…」
角都の正論とサソリの言葉にまた小雪姫が言葉を飲み込んだ。
そんな小雪姫に黒凪がにっこりと笑って口を開く。
『まあどーんと構えてくださいよ小雪姫。うちの人間は馬鹿みたいに強いのばかりですし。それにあと2人増員が来る予定なので。』
「あと2人って…それでも7人じゃないの…」
『大丈夫ですって。』
「あと2人って誰だァ?」
「俺も知らねえな。うん」
サソリと角都の視線も黒凪に向き、当の本人はその視線を受けてまたにっこりと笑う。
それは出会ってからのお楽しみ。間違えて殺さないでね。
そう言った黒凪に「顔も名前も知らない奴なら殺しかねないんだが…」と4人の考えがシンクロした事は誰も知らない。
やがて積み荷を全ておろし船から降りて三太夫の仲間達が住む集落へと荷台車などで向かって行く。
そうして集落へと近付いた頃、小雪姫の様子を見に行ったスタッフが1人三太夫の元へ駆け寄ってきた。
「た、大変です!雪絵がまた逃げました!」
「姫様が!?」
『…仕方ない、探しますか』
「んじゃあじゃんけんするぞ、うん」
そう言ってデイダラを筆頭にじゃんけんをする彼等に小首をかしげていると負けた角都が嫌な顔をしながら近付いてきた。
黒凪の目の前に立って此方を睨んでくる角都を黒凪もじーっと見上げ続ける。
デイダラやサソリ、飛段もその様子を興味津々で眺めていた。
「…乗れ」
『何に』
「俺にだ」
『………。…ああ!』
気付いてなかったのかよ!とデイダラが声を掛ければ「えへへ」と言いながら黒凪が角都の首に抱き着いて背中に乗った。
黒凪を支えようとしない角都にデイダラと飛段がせっせと角都の腕を移動させる。
徐に黒凪を支えた角都は深い深いため息を吐いた。
『よし、小雪姫を探そう。進め角都!』
「殺すぞ」
『はい走る!』
「頑張れ角都、その内慣れるぜ…うん」
「ゲハハハァ!クソ面白ェなァ角都!」
ヒルコの足は遅い為荷台の方にサソリを残して4人で小雪姫を探し始める。
共に道を走る中で黒凪が徐に探査用の結界を雪の国全体に引き延ばした。
デイダラや飛段、角都は己を飲み込んだ不気味な気配にぴくりと眉を寄せ、雪の中を走っていた小雪姫は悪感に一度足を止める。
「…?…何よ、気持ち悪いわね…」
『…気持ち悪いって言われた。』
「あ?誰にだ、うん」
『小雪姫。…そこ左に行って思い切り走って。そこに小雪姫が居る』
っしゃあ!と走り出すデイダラと飛段に角都も無表情について行く。
すると黒凪が徐に「ん?」と眉を寄せてやがて「あ、なんだ。先客が居るじゃない」と嬉しそうに笑った。
その言葉を聞いていた角都はちらりと黒凪に目を向けて「何だ?」と言った飛段に目を向ける。
飛段は暫し黙ると徐に背中の鎌に手を伸ばし、デイダラもポーチに片手を差し込んだ。
「間抜けな姫様だなァオイ!逃げて早々敵に捕まってんじゃねぇよ!」
「肩慣らし程度に殺してやるか、うん」
飛び上がった飛段とデイダラに小雪姫を背負っていた青年が振り返る。
するとその青年と飛段達の間に現れた男が飛段の鎌を巨大な包丁の様な武器で受け止め、デイダラの起爆粘土には青年が放った針が突き刺さりダメージを与える前に爆発してしまった。
爆風で舞い上がった煙に角都が一旦足を止め目を細める。
そしてその先に見えた男と青年に微かに目を見開いた。
『ビンゴブックにでも載ってた?』
「……あれがお前の言っていた増援か」
『そうそう。良い人材が多いでしょ、間一族は。』
「忍を雇い始めたのは暁が最初だと言ってただろう」
"雇おう"って思って雇ったのはあんたらが最初なだけよ。あの2人はまあ成り行きで仲間になった感じだし。
…あ、でも仲間にする忍を死んだことにするって発想はあの2人から貰ったりしたかなぁ。
そう言いながら角都の背中から降りて結界で飛段とデイダラの動きを止める。
主に防戦ばかりだった男は武器を持ち上げる手を止め、徐に肩に担ぐ様にした。
青年も動きを止められた飛段とデイダラを見ると少し安心した様な顔をして小雪姫を抱えたままで此方に歩いてくる。
「さっさと止めろ。無駄な時間を食った」
「暁のメンバーを引き抜いているのは知っていましたが、これだけの人がいるなら僕達は必要無いのでは?」
『いやいや、雪の国と言えばあんたでしょうよ。それに暗殺って言ったら…ねえ?』
「あはは、確かに。」
談笑する彼等に眉を寄せ、デイダラは起爆粘土で結界を破壊し、飛段は角都に結界を壊してもらった。
そうして近付いてきた3人に黒凪が振り返る。
むすっとしているデイダラと何も考えていない様な顔で黒凪達を見ている飛段、無表情の角都に青年と男が困った様に顔を見合わせた。
「歓迎はされてないらしいな」
『あれ?何よあんた達その顔は。』
「そいつ等が増員か?うん」
『そうそう。…もー、無駄に戦わせたのは謝るよ。ごめんね?』
角都、誰だあれ?そんな風に問うた飛段に角都がちらりと黒凪に目を向ける。
まだ確信にまでは至っていないのだろう。彼等は表では死んだ事になっているから。
デイダラは飛段と同じくビンゴブックなどは見ていないだろうから本当に彼等が誰なのかは分かっていない。
『えっとねえ、小雪姫を抱えてる美青年が白で、こっちのデカい武器持ってるのが再不斬ね。』
「…やはりそうか」
「はく?ざぶざ?…聞いた事あるか?デイダラちゃんよォ」
「…どっかで聞いた様な気がな…うん…」
再不斬は霧隠れの鬼人って言ったら分かるんじゃない?
そう言った黒凪にデイダラがすっきりした様に顔を上げた。
有名人ですね、再不斬さん。そう言って笑った白に「女?」と飛段が言った為黒凪が呆れた様に口を開く。
『美"青年"って言ったでしょバカ。』
「んだとコラ…ってお前男かァ!?」
「…桃地再不斬は既に死んでいた筈だ。まさか間一族がこの男までも手中に収めていたとはな」
『成り行きよ、成り行き。どうせ死ぬなら仲間になれーって』
ふん。計画的に暁を狙ってきたお前が成り行きで仲間にするのか。
疑った様に言った角都に徐に再不斬と白の目も黒凪に向いた。
黒凪は困った様に眉を下げて笑うと角都の元へ戻り「背負って」と言う様に手を伸ばす。
その手に応える様に角都が背中を向けるとその背中に手を伸ばしながら「私はね、」と黒凪が口を開いた。
『白と再不斬が大好きなんだよ。』
「「!」」
「……。」
『死なせたくなかったんだ。…幸せな時間だって知ってもらいたかったしね。』
ほら私諦めるの嫌いだし。なんやかんやで何とかなるから、出来るもんなら色々やってあげたいし。
そう言って角都の背に乗った黒凪はびしっと三太夫達が待つ方向を指差した。
じゃあ戻ろうか。そう言って笑った黒凪に眉を下げて白が笑う。
そんな白の背中に担がれている小雪姫はふいと目を逸らした。
そうして降りてきた雪道を登り、三太夫達が待つ場所へと続く洞窟に差し掛かる。
そこで小雪姫が角都の背に居る黒凪に目を向けた。その視線に気付いた黒凪は角都の肩を叩き足を止めさせる。
『どうしました、姫様。』
「…やっぱり嫌。」
『あはは…、でも逃げられませんよ。我慢してください』
「………。」
むすっと眉を寄せる小雪姫に困った様に息を吐き「此処から歩こうか」と黒凪が指示を出す。
せめて洞窟の中だけでもゆっくりと進んで心の準備でもさせようとしているのだろう。
その意志を感じ取った小雪姫はゆっくりと進む一行にため息を吐いた。
「…ねえ。」
『はい?』
「なんであんたみたいな子供が…。……、」
『…私みたいな子供が仕切ってると変ですよね。』
笑いながら言った黒凪に「あんた、一体何なの」と小雪姫の声が再び掛けられる。
何、かぁ。うーん…。そう困った様に言った黒凪は微かに聞こえた汽車の汽笛に振り返った。
そして氷が解ける様な微かな音も聞こえ始め、足元に線路が現れる。
『ん?此処って元々線路だったんだ。』
「…。線路に微量のチャクラが流れている。何者かが意図的に流しているな」
徐々に汽笛の音が近付き車輪の回る鈍い音も聞こえ始める。
そしてやがて巨大な汽車の光が黒凪達を照らし始めた。
その事に舌を打ち徐に全員が走り出す。此処で汽車を破壊しても良いがこの洞窟に何かあれば先に居る映画のスタッフ達が下に降りる事が出来なくなってしまう。
ドン!と時折伸び放題だった氷柱が砕かれる音が響き、その度に小雪姫がビクッと肩を跳ねさせた。
「ゲハハハァ!クソ面白ェじゃねーかァ!」
「あんな鉄の塊でオイラ達を殺そうとしてんのか?うん」
「おい黒凪。此処以外に下に降りる道は」
『もしかしたら無いかもだから走って~』
笑いながら走る飛段と呆れた様にため息を吐くデイダラ、真顔でなんでもない事の様に走る再不斬、角都、白。
黒凪は角都に担がれているだけの為物凄い速度で走る彼等に「凄い凄い、速いねえ」と笑っている。
そんな風に走っていてもやはり徐々に汽車は迫っていて、小雪姫だけが焦った様に口を開いた。
「追いつかれる!」
『追いつかれませんよ。』
「絶対無理よ!もうそこまで…!」
「白、もう少し速度を上げてやれ。」
「はい。」
再不斬の言葉に白が頷き更に速度を上げる。
小雪姫はそんな白に1人焦る自分が可笑しいのかと疑り始めたのか「なんでそんなに落ち着いてられるのよ、」と微かな声で言った。
その声にちらりと小雪姫に目を向けた白が微笑む。
「このぐらいはどうって事ないんです。…良ければ目を瞑っていてください。耳も塞ぎたいなら、好きなように。」
「っ、」
洞窟の出口から漏れる光が大きくなっていく。
小雪姫はその光に大きく目を見開き、無意識の内に白にしがみ付く力を籠める。
そして全員が勢いのままに洞窟から飛び出し線路の上から離脱した。
足場の悪い雪の上に器用に着地したデイダラ達に待っていたサソリが何も言わず目を向ける。
途端に迫って来ていた汽車も洞窟から飛び出し少し進んだ所で動きを止めた。
≪久しぶりだな、小雪≫
キ――ン、と機械音が微かに響く。
汽車の拡声器を使って話している男に小雪姫が目を凝らし、その人物に眉を寄せた。
風花ドトウ。そう呟いた小雪姫に「お、アイツか」と飛段やデイダラが小雪姫の前に立つ。
そんな中で薄く笑みを浮かべてドトウに近付いて行く黒凪にドトウが怪訝に眉を寄せた。
『…あ、白。彼等氷遁使うんだけどさ』
「え?…あぁ、別に構いませんよ。今更同族に会った所でどうも…」
思い出した様に言った黒凪に白が困った様に笑ってそう言った。
そう?と首を傾げて再びドトウに目を向けた黒凪は鈍い音を立てて転がり落ちてくる丸太の音に顔を上げる。
今しがた自分達が居る場所よりも高い場所から落とされた数本の丸太は崩れた雪と共にドトウの居る汽車へ直撃し、ドトウ達も顔を上げた。
丸太が落とされた方向には雪の国の忍とみられる者達が沢山立っており、その中心には三太夫も居る。
「皆の者!我等が小雪姫様が見て下さっておる!今この時こそが宿敵ドトウを倒す時!!」
そう皆を鼓舞する様に叫ぶ三太夫に黒凪達は一斉に顔を見合わせた。
恐らくドトウ達が現れる事を察知した三太夫がかき集めた者達なのだろうが、彼等がどうにかできるならとっくにこの国は取り戻されている。
雄叫びを上げながら三太夫達がドトウの居る汽車に向かって走り出し、汽車の側面が開きドトウの部下とみられる忍達が姿を見せ始めた。
目を凝らせば汽車の側面に無数の穴の様なものがあるのがわかる。
『あ、まずい』
汽車の穴から無数のクナイが三太夫達に向かって放たれる。
すぐさま黒凪が壁を作る様に結界を張り全てのクナイを弾いた。
続いて黒凪が結界で汽車の側面を殴りつけて汽車を横転させようとする。
しかしドトウと共に居たナダレが氷河の様なものを術で作りすぐに汽車を支えた。
目を細めた黒凪は次に細い無数の結界で汽車を貫通させドトウが不機嫌に眉を寄せる。
「間殿!この壁を消して下され!」
『貴方達に死なれると困るんですよ。我慢してください。』
ドトウの乗る汽車が逃げる様に動き始める。
その様子を見て黒凪が構えると「早雪様の仇ー!!」と三太夫が結界をよじ登り汽車へ近付いて行った。
え゙。と目を見開いた黒凪はナダレが作り出した氷柱に貫かれた三太夫に眉を寄せる。
デイダラや飛段も「あ。」と思わず声を漏らした。
『…しまった、依頼主が死んだ。』
「その場合はどうなるんだ?うん」
『え、うーん…。…撤退?』
汽車が結界に貫かれた部分を切り離して走り去って行き、小雪姫が黒凪達に目を向ける。
黒凪は結界の壁を解き「どうしようかな」とデイダラ達に目を向けた。
すると隠れていた映画製作スタッフ達が三太夫に駆け寄り、腹部に大きな風穴があいた三太夫を抱えて此方に向かってくる。
どうやらまだ息があるらしく彼の要望で小雪姫の元へ連れて来たらしい。
「…小雪、姫…様…」
「……。」
「申し訳、ございません。この三太夫…奴等に、傷1つ付ける事も、叶いませんでした…」
三太夫の元に生き残った雪の国の忍達も駆け寄ってきた。
そして三太夫の最期を看取ると皆整列してばっと小雪姫に頭を下げる。
そんな忍達に小雪姫が眉を寄せ、目を逸らした。
「小雪姫様!我々は先代当主風花早雪様にお遣いしていた忍でございます!」
「貴方様のお帰りを心より待ち望んでおりました!」
「…。」
「どうか我々と共にドトウと戦ってください!貴方様がこの国を―――」
もう止めて!!そんな小雪姫の叫び声が響く。
忍達は一斉に口を閉ざし、沈黙が降り立った。
映画製作スタッフ達も黒凪達もその行く末を見守っている。
「もう諦めなさいよ!!あの壁が無ければあんた達も三太夫の様に死んでいたのよ!?」
「…姫様、」
「私は姫じゃない!!」
忍達が顔を見合わせる。
まさかこれ程までに嫌がっているとは夢にも思っていなかったのだろう。
彼女はこの国を取り戻さんと戻って来たのだと、一心に信じていたのではないだろうか。
しかし目の前の現実を受け入れた所で、彼等の希望は小雪姫ただ1人である事に変わりはない。
そんな空気を察した小雪姫は忍達から目を逸らし監督やスタッフ達に目を向けた。
「もう帰りましょう。雪の国以外にも雪の降る場所は沢山あるわ、撮影はそこですれば良い。」
「で、でも三太夫さんは…。それにそこの忍さん達だってこの国を取り戻す為にって…」
「もうドトウとは戦わない。…そうよね。」
そう言って向けられた小雪姫の言葉に応える様に黒凪が振り返った。
依頼主は死んだわよ。ほら。
小雪姫が亡骸となった三太夫を示す。
黒凪の目がゆっくりと三太夫に向けられた。
『…そうですねえ。依頼主が死んだら報酬が出ませんし。』
「だそうよ。彼等が戦わないならドトウに勝てる筈がない。監督達も殺されるわよ。」
「え゙」
「だってもう任務じゃないんだから。助けてくれないわ。」
お金出してくれるなら助けますよ。
笑って言った黒凪に「汚い人間ね、貴方」と小雪姫が軽蔑する様に言った。
その言葉に小雪姫を見た黒凪は「あれ?」と首を傾げる。
『それって無償で"助けてくれ"って事ですか?』
「…馬鹿じゃないの?貴方達が私達を助ける必要はないわ。もう帰るだけなんだから」
『そうですか。』
黒凪がそう言って笑うと途端に上空にいつの間にか浮かんでいた飛行船からミゾレが鎧の腕を伸ばして小雪姫を掴み飛行船に引き摺り込んでいく。
飛行船が近付いていた事に気付いていたのだろう。しかしデイダラ達は誰1人何もしなかった。
小雪姫の視界に呑気に手を振る黒凪が見える。
それを最後に彼女は飛行船の中へ引きずり込まれ、扉が閉められた。
「小雪姫様ー!!」
『それじゃあ帰ろうか。』
「え、あの…本当に雪絵を放って…?」
『これ以上働いたらタダ働きですし。』
ええー…と映画製作スタッフ達が血も涙も無い回答に固まった。
私達はもう帰りますけど一緒に行きますか?お金出すなら護りながら帰りますよ。
そう言った黒凪に監督達が顔を見合わせる。
すると雪の国の忍達の中から1人の男が黒凪に近付いた。
「報酬なら我々が出します!小雪姫様を助け出してください!」
『助け出すだけなら安く請け負いますけど、国を落とすってんなら額が跳ね上がりますよ。助けるだけで良いですか?』
「…国も、共に奪い返して頂きたい。」
『高いですよ。』
念を押す様に言った黒凪にしっかりと忍が頷いた。
必ず指定された額をお支払いします。
強いまなざしを此方に向けて言った忍に徐に黒凪が笑った。
『了解しました。じゃあとりあえずお姫様を奪い返して来るのでスタッフの皆さんを頼みます。』
「んじゃああれに乗り込むか?うん」
『そだね。でもチャクラをコントロールできる鎧とか作ってるから、とりあえず私が乗り込むわ。』
「あァ?俺等はどうすんだよ?」
下から追って小雪姫を私が確保したら攻撃してきて。タイミングの判断だとかは角都とサソリに任せる。
そう言って結界を足場に跳び上がり、黒凪が目を細めて構えた。
そして一瞬で姿を消した黒凪に「おー…」と飛段が声を漏らす。
「…あいつ今のどうやったんだァ?」
「俺が知るかよ、うん」
「角都分かるか?」
「さあな」
ふーん。と飛段が目を細める。
一方の黒凪は空間を歪めて飛行船のすぐ側に辿り着き、扉の鍵を破壊して中に入り込んだ。
そして気配を消して小雪姫とドトウの居る部屋を見つけだし耳を凝らす。
「六角水晶は持っているか?」
「ええ」
「結構。…これで秘宝を取り出す事が出来る」
「…秘宝?」
そうだ。そう言って頷きドトウが徐に話し始めた。
兄である風花早雪からこの国を奪った後、様々な場所を探したがこの国の財産は何1つ無かったと言う。
しかし何処かにある筈だと探し続けたドトウはやがて虹の氷壁にある六角水晶が見事に合致する鍵穴を見つけたのだ。
「風花の財宝さえ見つかれば雪の国は忍五大国をも凌駕する軍事力を手にする事が出来る」
『(何処の国も軍事力が欲しいんだねえ…。)』
「さあ小雪。六角水晶を渡しなさい。」
「……。」
小雪姫がドトウの言葉に素直に従い首に掛けていた六角水晶を手渡した。
数秒程手渡された六角水晶を満足げに微笑んで覗き込んだドトウだったが、すぐに顔色を変えて小雪姫の胸ぐらを掴む。
小雪姫は小さな悲鳴を上げて驚いた様にドトウを見上げた。
「馬鹿にしているのか?これは真っ赤な偽物だ!」
「そ、そんな筈は…っ」
『(あ。そうだあれすり替えて今私が持ってるわ。)』
小雪姫も誰がすり替えたのかすぐに予想が着いたのだろう。
間一族の…。そう呟いた小雪姫に「成程、」とドトウの側に立っていたナダレが頷いた。
そんなナダレにドトウの目が向けられ、彼が徐に口を開く。
「小雪姫と共に雪の国に来ていた木ノ葉の一族です。恐らくその者達がすり替えたのでしょう。」
侵入した扉から六角水晶を持たせた式神をデイダラ達に向けて放つ。
そうして元の位置に戻れば「ならば小雪に用はない」とドトウがナダレに目を向けた。
それを見た黒凪は扉を開き中に足を踏み入れる。
『小雪姫は殺されると困りますねえ』
「…何者だ。どこから入った」
『扉から入りました。…六角水晶はうちの部下が持ってます。小雪姫が殺されると部下には里に帰る様に言ってあるので生かしておかないと手に入りませんよ。』
「……。」
ドトウがナダレに目を向け、一瞬でナダレとミゾレ、フブキが現れ黒凪を羽交い絞めにした。
ドンッと床に押さえつけられた黒凪に小雪姫が顔を青ざめ駆け寄ろうとする。
しかしそれをドトウが止め黒凪を見下して小さく笑った。
「良いだろう。小雪も貴様も此処から戻って来なければその部下とやらも我々の元へ現れる。」
『…言っておきますけど、こっそり小雪姫を殺してもばれる様になってますからね。』
「分かっているとも。忍五大国御抱えの暗殺集団をそこまで舐めてはおらぬよ。…殺さなければ良いのだろう?」
『!』
ナダレが鎧の一部の様なものを取り出しそれを見たミゾレが黒凪の身体を持ち上げる。
そしてその装置が黒凪の腹にめり込まれ、装置から触手の様なものが現れ腹部に突き刺さった。
その痛みに黒凪が微かに眉を寄せドトウを睨む。
「間一族の忍であればそれ相応のチャクラを持っているだろう。その装置でチャクラを吸い取り、我等の鎧に使わせて貰うぞ。」
『…。…成程、力が入らない訳だ。』
「牢屋に連れていけ。小雪もな。」
「はい。」
ぐったりとした黒凪と小雪姫は共に牢屋へ連れていかれ、互いに向かいの牢屋に放り込まれた。
小雪姫は拘束はされなかったが黒凪は念には念をと手錠で拘束されぶら下げられる。
去って行った忍達を見送り黒凪が気だるげにため息を吐いた。
「……良い気味ね。」
『あは、似合ってます?』
「ええ。お似合いよ。」
『そりゃどうも。』
笑って言った黒凪をチラリと見て小雪姫が膝を抱えて縮こまる。
黒凪は目に掛かった髪を退かす様に軽く頭を降った。
「…ねえ。貴方の髪ってなんでそんなに白いの?」
『老化現象です。』
「ふざけてる?」
『いいえ?…言っておきますけど、私貴方より何百歳も年上ですよ。』
…笑えない冗談ね。
そう言った小雪姫に「あはは、」と取り敢えず笑っておく。
また少しの間だけ沈黙が降り立ち、次に彼女が言った言葉は「私、その色嫌いよ」だった。
『あ、白が嫌いな理由分かります。雪と同じ色だからでしょう。』
「よく分かったわね。…そうよ、雪の色が嫌いなの。だからこの国も嫌い。」
『そんなに嫌な国ですか?確かに寒くてずっと雪が降ってますけど、君主が変わればそこまで辛い国でもないと思うんですけど』
「…この国にはね、春が無いの。涙が凍り付いて…心が凍える国なのよ。」
…春って好きですか?
黒凪が小さく微笑んでそう問う。
小雪姫が目を伏せて徐に口を開いた。
「…父が言ってたわ。諦めずに未来を信じれば、春は来ると」
『……』
「でもこの国に春は来ない。…父が死んで、この国から逃げて。嘘を付いて、自分を演じ続けてきた。」
『成程。そりゃあ実力派の女優になれるわけだ。』
また沈黙が降り立つ。
黒凪は徐に腹部に取り付けられた装置を見下した。
ちらりとその様子を見た小雪姫は「苦しいの?」と少し心配した様子で言う。
いいえ?と笑顔で本心を言ったつもりだが、彼女自身は相手の言っている事が嘘か真実かを見破る術は持っていないらしい。
「苦しいだろうけど、貴方にも、私にもどうする事も出来ないわ。」
『なぜそう言い切れるんです?世の中わからないものですよ。』
「どうにも出来ないわよ。」
『諦めると楽なのは知ってますが、私色々あってそれが怖くなりまして。』
諦めるのが、怖い?
怪訝に聞き返して小雪姫が此方を向いた。
はい。と照れ臭そうに言った黒凪に小雪姫が微かに目を見開く。
共に雪の国に来て、共に三太夫の集落に向かって。共にこうして捕まって。
短い間だったかもしれないけれど、そんな中で今初めて見た表情に彼女は思わず驚いた。
『一度ね、私が諦めてた所為で大事な人達を危険な目に遭わせた事があるんですよ』
「……」
『私が諦めた所為で、自分よりも大事な人達を永遠に出られない空間に閉じ込めてしまう所でした。』
「…永遠に、出られない空間…」
…それはどうして?
問いかけて来た小雪姫に、黒凪が微笑んだ。
『私はね、世界を恨んでいたんです。貴方だって父親が殺されて悲しみに明け暮れた時…ドトウ達を恨むと共にこんな理不尽な世界を恨みませんでしたか?』
「…恨んだわ。恨んで恨んで、…そしてどうにもならない事を悟った」
『まさにそうですよ。この世界を変えるなんて無理だし、世界を終わらせる事も出来ない。どうにもならない。』
だから私はこの世界から逃げようとした。
…逃げる事が出来るの?小雪姫の言葉に「はい。」としっかり頷く。
私にはそれが出来た。だからやりたい事を全て終わらせて、そうして世界から逃げようとしたんです。
現実味がない話を聞いているからだろう、彼女の表情はずっと怪訝なまま。しかし食い入るように話を聞いていた。
『でもね、私の大切な人が私が逃げようとした世界の入り口まで付いて来てしまった。…勿論追い返しましたよ。でも帰ろうとしないから、全部本当の事を言ったんです』
「……」
『今まで諦めて生きて来た事、もう世界が嫌いで嫌いで堪らない事。……なのに』
それでも一緒にいたいって、まだついて来ようとしたんです。
眉を下げて話す黒凪に小雪姫は只々黙って耳を傾けている。
私の為に生きるって言われました。…ずっと一緒に居るって決めたんだと言ってくれた子もいました。
…私のいない世界で、どうやって生きていけば良いのか分からないと言う人もいました。
立場上の問題で付いて来る事なんて出来ないのに、私が居なくなるのは嫌だと言ってくれた人だっていました。
『そこまで言われたら、なんだか私も怖くなっちゃって。…私が居ない世界で皆楽しく生きていくんだなぁって。』
「…っ、」
『…。人ってね、諦め続けると最終的に自分も後悔するぐらいにどうにもならなくなっちゃうんですよ。諦める事で周りを不幸にもしちゃったりする。』
諦め続ける事って怖い事ですよ。小雪姫様。
黒凪の視線を受けて小雪姫が思わず目を逸らした。
…それじゃあそろそろ脱出と行きましょうか。
当たり前の様に放たれた言葉に「え、」と小雪姫が顔を上げる。
その顔に微笑んだ黒凪は目を閉じて探査用の結界を大きく引き伸ばした。
「……お?」
「…どう思う。合図だと思うか?」
「考え無しに何かをするような馬鹿じゃねえ…。」
角都とサソリが立ち上がり、再不斬も首切り包丁を持ち上げる。
っしゃあ!と声を上げて寝転んでいた飛段も起き上がりデイダラもポーチの中の起爆粘土を確認する。
白も息を吐いて目の前に聳え立つドトウの城を見上げた。
「この城に居る忍は1人残らず殺せ…残党が残れば任務失敗だ…」
「全員ジャシン様の元へ送ってやるぜェ!」
「俺と白は裏から入る。標的のドトウは見つけた奴が殺せば良いか?」
「あぁ」
そう軽く会話をして飛段と角都、サソリとデイダラ、再不斬と白と言った風に3チームに分かれて走って行った。
一方の黒凪は探査用の結界を解くと絶界を使って鎖を消し去り地面に足を着ける。
そして腹部の装置も結界で破壊して引きちぎり牢屋を絶界で突破した。
「…あんた、いつでも出られたの?」
『ええまあ。でも脱出より貴方を改心させる方が大事かなと思いまして。』
「……さっきの話は嘘?」
『まさか。…どうです、少しは考え方も変わりました?』
腰を屈めて覗き込んでくる様な格好で言った黒凪に小雪姫が小さく笑顔を見せた。
その笑顔に満足した様に笑った黒凪は小雪姫の牢屋も破壊して共に走り出す。