世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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守護忍十二士編
「オラオラオラァ!テメェ等情けねェぞォ!!」
「なんでサッカーで遊んでるだけで鎌振り回すんだよー!」
「頭領ー! 頭領ー!!」
「ばっ、とーりょーは呼ぶんじゃねえ!」
また君か。
呆れた様な声にビクッと動きを止める飛段。
ゆっくりと振り返った先には冷たい笑みを張り付けている正守が立っている。
また1日さらし首の刑でもする?
にっこりと笑って言った正守にだらだらと汗が流れ出て行く。
『…あ、飛段居た…うわっ』
「…ふーん、そう言う事するんだ。」
「ううう煩せェ!」
黒凪の背中に隠れた飛段に黒凪が不思議気な顔をして正守に目を向ける。
一方の正守の背には異能を持つ子供達がしがみ付いていた。
あー…、成程。と納得していると既に見つけていた角都が遅れて顔を見せ飛段の姿に怪訝に眉を寄せる。
「…何をしている」
「お、角都!良い所に…」
「くだらん事をしている暇があるならさっさと任務の準備をしろ」
「…へ?任務?」
そ。任務。
振り返って言った黒凪にぱちぱちと飛段が瞬きをする。
そして漸く理解したのだろう、ぱあっと顔を輝かせて自室に走って行った。
その背中を見送って黒凪がチラリと角都を見る。
彼は相も変わらずビンゴブックを眺めていた。
『何、墓に埋まった筈の賞金首でも探してんの?』
「あぁ。意外な掘り出し物があるかもしれんからな」
『…あんた何歳?』
「そんなものは一々数えていない」
私今年で500歳ぐらいなんだけどさ。
そう言うとぴたりと動きを止めて角都の目が黒凪に向いた。
「…フン。くだらん冗談だな」
『私ね、秘術で400年生きてその後色々あってもう100年ぐらい生きたのよ。それプラス今までの16年だから516歳かも。でももうちょっと行ってると思うんだよね。』
「………。」
「言っておくけどその話全部本当だよ。」
小さく笑って言った正守に目を向け再び黒凪に目を向ける。
この白髪は年を取って色が全部抜けちゃったからなんだよねえ。
黒凪がそう言って髪を摘まむと角都も徐に手を伸ばし髪を掴んだ。
「…。」
『どう?髪は若くないでしょ。』
「……得体の知れない女だ」
ぱさっと雑に離された髪を手櫛で整える。
すると飛段も準備を終えたらしく意気揚々と姿を見せた。
そんな飛段を見上げた黒凪は徐に手元の資料を広げる。
『えっとね、今日の任務は火の国で頻発してる墓荒らしの犯人の始末。』
「始末って良い言葉だよなァ!」
『うんうん。…んでね、今まで荒らされた墓が全部守護忍十二士の墓で…あ、その死体は換金したら駄目だから。』
「一々言わなくとも分かっている」
で、その墓荒らしの目星は大体付いてんのよ。
でもそれと一緒に厄介なのが居てねえ。
眉を寄せて言う黒凪に「んだよめんどくせーなァ」と飛段が気だるげに言った。
『閃が調べて来てくれたんだけど、どうやら九尾のチャクラを封印された子供が居るらしくて。』
「…あ?それって九尾の人柱力かァ?」
『それが違うんだよねえ。つまりは里の許可なしに勝手に九尾のチャクラを封印されてるってコト。…ね?面倒な任務でしょ?』
こんなのしかうちには流れて来ないから人手不足なのよ。
小さく笑って言った黒凪に「ふーん」と飛段が反応を返した。
角都は相変わらずうんともすんとも言わない。
『…あんた達火の国のお寺ぶっ壊したんだっけ。』
「顔を見た人間は全員殺してある」
『んー…。でも一応顔は笠で隠す様に。作戦としてはまずはその九尾の子供を捕まえて人の居ない開けた場所に移動する。』
そこから先の事は移動した先で話すから、とりあえず待ち合わせ場所に行こうか。
そう言った黒凪に飛段がピクリと眉を寄せた。
「あ?俺達だけじゃねーのか」
『一応火の寺の人間と合同。ってもあっちも誰かさんの所為で全然人が足りないし、結局私等だけになると思うけどね。』
「結果オーライじゃねえか!」
『そもそも君等が暴れなきゃ向こうで解決してたんじゃないかな』
半笑いで言った黒凪に角都がフンと目を逸らす。
飛段は一瞬ぽかんとすると「怒ってんのかァ?」と聞いて来た為首を横に振っておいた。
そして「時間が惜しいから急ごう」そう言った黒凪が徐に飛段に手を伸ばす。
『はい、担いでね。』
「…はぁ!?担ぐだあ!?」
『私ものすっごい足遅いの。だから連れてって。』
「角都にやらせろよンな事はよォ!」
角都が私の事担いでくれると思う?
彼女の問いかけに飛段が角都に目を向けた。
彼はチラリと飛段を見ると「俺は死体以外は運ばん」ときっぱり言い放つ。
ね?と黒凪も飛段に目を向ければ彼は渋々と言った様子で黒凪を背に担いだ。
『よし、走ろう!』
「テメェ人に運んで貰っててなんだその言い方はァ!!」
「行くぞ飛段」
「ちょ、待てよ角都!」
『えーっとね、待ち合わせは東の方にある隠し墓の前で…』
「それなら分かる。木ノ葉に入る前に調べておいたからな」
『…あんた墓を掘り返す気だったでしょ』
「顔が判別出来る程度の腐敗具合なら換金するつもりでいた」
森を抜けて開けた場所に着地する。
足を止めた角都の隣に立った飛段は担いでいる黒凪と共に周りを見渡した。
角都は迷わず進んで行くと封印の解かれた隠し墓に目を細め、無言で中に入って行く。
「どうやら既に死体を持ち去った輩が居るらしいな」
『んー…、まだ任務は始まってないしその前に盗まれたって事にしておこう。そうすれば文句は言われない』
「ダッセェ墓場だなぁオイ!」
『何言ってんの立派なお墓でしょー。』
――誰だ。
響いた声に3人で振り返る。
墓の奥から姿を見せた青年は笠で顔を隠している飛段と角都、そして黒凪を見ると微かに眉を寄せた。
途端に吹き荒れた突風に墓から放り出され、青年に目を向ける。
『…、火の寺の修行僧の格好だね。』
「んじゃあ味方じゃねェかよ」
「墓荒らしか。客人を迎える前に見に来て正解だったぜ…」
「…おい。間一族は同じ国の人間にさえも気付かれない程度のものなのか?」
黒凪が徐に角都に手を伸ばし彼の背中を青年に見せる。
青年は角都が羽織る着物の背に大きく書かれた正方形の家紋を見ると微かに目を見開いた。
私達は間一族の人間。貴方達に依頼されて此処に来た。
そう言うと青年が構えを解き、微かな足音に振り返る。
「ソラ!お前一体何を…」
「!…間一族の…、到着が遅れて申し訳ない」
『いえいえ。其方も色々大変でしょうしね』
「他人事みたいに言ってんじゃねえ!お前等は火の国を護る一族だろうが!なんで俺達の寺は――」
「ソラ!」
咎める様な声にソラがビクッと固まった。
そんなソラに気を使う様に「まあまあ」と声を掛けて飛段の背中から黒凪が降りて前に出る。
そうして僧の前に立つとにっこりと笑みを張り付けた。
『とりあえず我々の任務は墓荒らしの始末と盗まれた御遺体の回収ですよね?…この任務が正式に受理されたと言う事は此方の要求も呑んで頂けました?』
「勿論だ。要求通り、ソラを貴方達に預ける」
「はぁ!?俺を預ける!?」
この任務に君も同行してほしいんだよ。
黒凪の言葉にソラがばっと振り返る。
確かこの要求を火の寺の僧に送ったのは数日前。
特に文句や質問も無く受理された所を見るとやはりソラも九尾の力ゆえに蔑まれている傾向にあるのだろう。
『それじゃあ早速行きましょうかね。この周りの地形を見ている限りでは棺桶を運ぶルートは限られてるし。』
「頼みます。我々は寺の修復があります故…」
『ええ。…じゃあ行こうかソラ君』
「っ、…解ったよ」
僧達があっさりと自分を差し出した事に彼も気付いている筈だ。
その上寺の修復などでてんやわんやな状況の為、彼なりに考えて文句の1つも言わないのだろう。
再び飛段に担がれてソラも加えた4人で南に向かって走って行く。
そうして見晴らしの良い丘の様な場所に到達するとそれぞれで周りを見渡した。
「んな見晴らしの良い場所に現れるモンかぁ?」
『確率は限りなく低いよね。でもここぐらいしか棺桶と一緒に出られる様な道は…』
「…。おい」
『ん?…お?』
4人の視線の先に広い野原を土を抉って進んで行く棺桶が4つ見える。
その気味の悪い様子に黒凪が「うわ」と顔を顰めた。
ホラーだホラー。棺桶が走ってるよ…。
そう呟いた黒凪を鼻で笑い「罠か…」と角都が呟く。
『まあ罠でも関係無いや。追っちゃおう』
「やっぱそうじゃねえとなァ!」
「フン」
「!」
迷わず走り出した飛段と角都に驚いた様に目を向けてソラもついて行く。
前を進む棺桶を見据え、角都が一足先に進むと土遁の印を結んで地面に手を着いた。
チッと遠目に黒凪達を見ていた男が舌を打ちすぐさま印を結ぶ。
ビタッと止まり地面を掘る様にして消えて行った棺桶に足を止め角都が舌を打った。
「一足遅かったか」
『相手も土遁っぽいねえ。残念』
「あー、角都も土遁だもんなァ」
「今回は4つ集める事が前提だろう。選り好みはしない」
ソラは彼等の会話が理解出来ないのだろう、微妙な顔をしている。
すると突然巨大な地震が4人を襲い一気に飛び退いだ。
次々に岩が地形を変形させて盛り上がり、4人を分断する様に伸びていく。
それを見た黒凪は角都と飛段とソラを結界で囲み盛り上がった岩に微かに眉を寄せた。
『っ、しんど…』
「オイ、岩がめちゃくちゃ当たってんぞ」
『その岩に結界壊されない様に踏ん張ってんのよ…っ』
「…大した術だな。」
自分を囲む結界を見下して言った角都は結界を通して地形を変える土遁の術を見ているのか結界を見ているのか分からない。
ソラは明らかに結界を警戒していて中から結界に触れて眉を寄せている。
やがて止まった岩に息を吐いて黒凪がぐったりと飛段に凭れ掛かった。
『あ゙ー…』
「なっさけねぇなぁオイ!」
『るっさい、あんたも少しぐらい――』
パキッと響いた音に「あ」と黒凪が目を見開いて固まった。
途端に破壊されてバラバラに砕かれた結界にソラが思わず「うわっ!」と声を発し、黒凪が構える。
しかしそれをさせまいと即座に伸びた岩で角都、ソラ、そして黒凪と飛段に別れてしまった。
飛段や黒凪から逸れた角都はため息を吐くと周りを見渡し、己に向けられている殺気に振り返る。
背後に立っていた男に目を向けた角都はすぐさま仕掛けられた攻撃が土遁のものだと気付くと攻撃を回避し目を細めた。
「成程な。」
「っ!?」
ぐんっと一気に距離を詰めた角都にフドウが目を見開き身体を硬化する。
同じく腕を硬化した角都がフドウを殴り飛ばし地面に叩きつけた。
ガンッと響いた音に片眉を上げて角都が飛び退けばゆっくりとフドウが身体を起こし角都を睨む。
「…俺と同じタイプの忍か…」
「……。」
何も言わずに再び距離を詰め何度か攻撃を仕掛けていく。
その攻撃を受けつつフドウが角都に目を向けた。
角都の攻撃は辛うじて防ぐ事は出来ているがその速度との威力から反撃する事が出来ずにいる。
「(コイツ…なんて速度で俺に攻撃を…っ)」
「(多少硬いがどうにもならない訳ではないな)」
地面に倒して一気に拳を叩き込んだ。
パキッと割れた己の胸元にフドウが目を見開き痛みに眉を寄せる。
それに目を細めすぐさま触手をフドウの心臓に伸ばした。
「っ、な、んだこれは…!」
「…終わりだな」
「なん、っ…」
心臓に触手を結び付け自分の胸元の触手と同化させる。
そうして経絡系ごとゆっくりと抜き取っていけばやがてフドウがぐったりと動きを止めた。
ずるりと抜き取った心臓を右胸に納めて立ち上がった角都は黙って周りを見渡す。
そして周りを囲む岩肌の一角で目を止めると徐に土遁の印を結んだ。
「角都ー。…かーくーずー!」
『見事に引き離された…ごめん…』
「あーもうさっきからぐずぐずうるせェ!謝んなって何回言やあ…」
ドンッ!と響いた音に「あ?」と飛段が眉を寄せて振り返る。
続いて何かがゴロゴロと此方に近付いてくるような音が響き始め、ぐったりとしていた黒凪がピクリと顔を上げた。
2人が音の方向を見ていると奥の道から巨大な丸い岩が物凄い勢いで此方に迫ってくる。
はぁ!?と目を見開いた飛段は黒凪を抱えたままで岩から逃げる様に走り出した。
「ざっけんななんで岩が転がってんだ!!」
『どう考えても罠でしょーよ』
「ちょ、どうにかしろ黒凪!」
『…。』
首をひねって振り返り、構えて複数の細い結界で岩を突き刺しバラバラに砕く。
足を止めた飛段は振り返ってバラバラになった岩を見ると息を吐いた。
すると「フエンの罠も大した事ないねえ」と呆れた様な声が洞窟に響き渡る。
「…あら、意外と良い男じゃない?」
「お?」
『貴方中身知ったら幻滅するよ。』
「んだとォ!?」
ムキになって黒凪を振り返った飛段にくすっと笑うとフウカがゆっくりと2人に向かって歩き出した。
別に中身はどうだって良いわよ、顔がイケてたら。
そう言ったフウカに黒凪が微かに目を細める。
途端に一瞬姿が消え、数秒で飛段の側に近付くとペロッと飛段の頬をフウカが舐めた。
『…え、舐めた?』
「舐められたなァ」
『なんであんた平然としてんの…』
「…あら?このチャクラの味…一体何かしら…?」
もしかして血継限界の使い手?
途端に目の色が変わったフウカに黒凪と飛段が同時に眉を寄せる。
すると再び姿が消え次は黒凪の頬を舐めた。
『っ、きも…』
「…チャクラの味がしない…」
「オイコラ黒凪!テメェ俺の服で拭ってんじゃねェ!」
良いわねえ、得体の知れない相手は好きよ。是非私のコレクションになってほしいわ。
フウカの言葉に「コレクション?」とこれまた同時に聞き返す。
その様子を見たフウカは片眉を上げた。
「もしかして兄妹?」
『断じて違う。』
「オイ断じてってなんだよ!そんなに嫌か!?」
『嫌じゃないけど嫌なんだよ。』
それって嫌って事じゃねぇか!
ギャーギャー騒ぐ飛段に「ねーえ?」とフウカが猫撫で声で声を掛ける。
振り返った飛段のすぐ顔の前でフウカがにっこりと笑った。
「フレンチとソフトどっちが好み?特別に貴方に合わせてあげる。」
「あ?…何の話だ?」
「あら、顔はイケてるのに頭が弱い人?接吻の事よ、接吻。」
「……。せっぷんってなんだ?」
真顔で問い返した飛段に黒凪とフウカが同時にずっこける。
もう、と眉を寄せたフウカは「コレの事よ。」と顔を飛段に近付けていった。
それを見た黒凪はすぐさまフウカの顎の下から結界を伸ばして殴り、左手で飛段の口を覆う。
「んぐっ!?」
『接吻ってのはキスの事よ。…え、キスも知らない?ちゅーするって事なんだけど』
「んー。んんんんん。」
あー、成程な。…恐らくそのような事を言っているのだろう。
もごもごと話す飛段に呆れた目を向けて此方を睨むフウカを見る。
フウカは黒凪を睨み付けると顔を上げて「フエン!」と叫ぶ様に言った。
そしてフウカは印を結ぶと風遁を使い黒凪と飛段を引き離す。
『っ!』
「あ。」
黒凪が壁に吸い込まれる様にして姿を消し、1人になった飛段が後頭部を掻いてフウカに目を向ける。
フウカはそんな飛段を見ると妖艶に微笑みぱちっと片目を閉じた。
そんなフウカを真顔でじっと見ていた飛段は徐に背中の鎌を持ち上げ腰を下ろしてニヤリと笑う。
「しゃーねえ、さっさとやるか」
「あら、やる気になってくれた?」
鎌を振り上げて走り出す。
ニヤリと笑ったフウカは姿を消しブンッと振り下された鎌を避けた。
消えたフウカに微かに目を見開いた飛段は地面に突き刺さった鎌を引き抜くと肩に担いで周りを見渡す。
ふっと現れたフウカが飛段の肩を叩いた。
「野蛮ねえ…。でもワイルドな男は好きよ?」
「ん、そっちか」
「っ!」
突然現れたフウカに驚く事を全くせずすぐさま鎌が彼女に向かって振り下される。
その事に目を見開いたフウカは微かに切られた髪と手首を見ると大きく目を見開いた。
飛段は鎌に付着した血を見てニヤリと笑うと血を舐めとり徐に胸元から槍を取り出す。
「っしゃあ!さっさとテメェも…」
「よくも…よくも私の髪をぉおお!!」
「お?」
突然激昂したフウカに槍を片手に思わず固まった飛段。
ぐるんっと向けられた彼女の顔は茶色く変色し干乾びた様な容姿になっていた。
その姿に「ははっ、なんだそりゃ。気持ち悪ィなァ」と呑気に笑う飛段にフウカが物凄い勢いで印を結んだ。
「土遁・泥胞子…!」
「おー。お前土遁も使えんのか」
「ムカツクねあんた…その呑気な面、崩してやる!!」
泥水が飛段に押し寄せ、それを避けた飛段は己の腹を槍で突き刺した。
その行動にフウカが怪訝に眉を寄せ、ぼとぼとと落ちた飛段の血液に目を向ける。
そうこうしているとフドウを倒した角都が岩肌を抜けて現れ、徐にフウカを殴り飛ばした。
角都の一撃で頭から血を流して倒れるフウカに「あ゙ー!」と飛段が目をひん剥く。
「テメェ角都!折角今から俺がジャシン様に捧げようとしてた生贄をォ!」
「…間黒凪が居ないな。さっさと合流するぞ」
「それは分かってっけどよ……お?」
「…よくも私の顔を…」
ゆらりと立ち上がったフウカの顔は茶色く変色し干乾びている上に角都の一撃で酷くへこんでいた。
その顔を2人に向けた途端にフウカの身体が髪を残して砂の様に崩れ、やがてすぐに傷一つないフウカの身体が現れる。
それを見た飛段は嬉しそうに笑うと先程流した自分の血液でせっせと図面を完成させていった。
「あんたが居るって事はフドウはやられたみたいね…」
「…フン。さっさとやれよ、飛段」
「言われなくともやってやらァ!」
ドスッと身体に突き刺された槍にフウカが目を見開き腹部を抑える。
あ゙ー…キモチイイ…。そう呟いて槍を抜いて心臓に向けた。
これ以上やったらずっとやっちまいそうだからな…今日は急ぎだし仕方ねェ…!
興奮した様に言って飛段が心臓に槍を一思いに突き刺す。
「っ…」
「…あ゙ー…やっぱ堪んねえぜこの痛みはよォ…」
「さっさと行くぞ飛段。時間が惜しい」
「っせェ!もうちょっと余韻に浸らせろよ!」
よくも私の身体を…一度ならず、二度までも。
微かな声に2人が振り返る。
ゆっくりと立ち上がったフウカが先程同様に身体を砂の様に崩し一瞬で回復した。
その様子に角都が目を細め、徐にフウカに向かって歩いて行く。
「…貴様のその髪…」
「っ、火遁・鳳仙花の術!」
「!」
放たれた火に飛び退き、懲りずに槍を己に向ける飛段に「待て飛段」と指示を飛ばす。
あ?と止まった飛段に目を向けた角都はその背中に背負われている鎌を掴むとフウカに投げ飛ばした。
そして一瞬で土遁の印を結ぶと術でフウカの足を固定し、フウカは向かってくる鎌に顔を背ける。
しかし動いた拍子に揺れた髪が少量程鎌によって斬られ、フウカが大きく目を見開いた。
「キャアアア!」
「うお、…あいつ、心臓刺されても叫びもしなかったくせに何叫んでやがんだ?」
「簡単な事だ。あの女の本体が…」
一気に足を踏み込んでフウカの目の前に行き、彼女の髪を掴んで力任せに千切る。
また響いたフウカの叫び声にクナイでまた髪を切り裂いた。
すると片手に掴んでいたフウカの髪が独りでに動いて角都の手に絡みつき、眉を寄せて角都が髪を放り投げる。
それを見たフウカの身体がまた茶色く変色した。
「この野郎…!!」
「本体がこの髪なら、心臓には期待しない方が良さそうだな」
フウカの身体が徐々に砂の様に崩れてその場には髪だけが浮かび上がる。
髪の中には2つの目の様なものがあり角都を睨み付けていた。
その姿を見て鼻で笑った角都が徐に走り出し、硬化した片手を振り上げる。
させるかァァア!と角都に向かって行く髪を見た飛段が徐に地面に突き刺さっている己の鎌を掴んだ。
「角都、退けェ!」
飛段の声に瞬時に反応してしゃがみ込んだ角都。
その上を横一文字に鎌が通り、フウカの正体である髪の毛の化け物を真っ二つに切り裂いた。
途端に劈く様な悲鳴が響き渡り、その場に髪が力尽きた様に落下する。
ピクリとも動かなくなった髪を2人で見下し、徐に周りを見渡した。
「さーて、黒凪の野郎を探さねえとなァ」
「間黒凪はどの方向に行った」
「あー…。……あっち?」
「…本当だろうな」
多分あっちだったって、間違いねえ!
あっけらかんと信憑性に掛ける様な情報を提供した飛段をちらりと見て其方に向けて印を結ぶ。
手がかりが飛段の証言しかない今、少しでも効率を上げようと角都は素直に示された方向に手を伸ばした。
一方の黒凪は岩肌しか見えない周囲を見渡し、探査用の結界を大きく広げた。
数秒程目を閉じていた黒凪は「あぁ、成程ね」と目を開き小さく笑う。
恐らくこの場所は空間忍術の一種によって作られたもの…。
黒凪の位置から遠く離れた場所で地図の様な巻物を開いているフエンが立ち往生をしている様子の黒凪に笑みを浮かべた。
「(此処は私が設計して作った空間を他の空間から呼び寄せたもの…)」
『(空間忍術なら手っ取り早い)』
「(貴方はもう逃げられないわ)」
『…さーて、どっちが上手かな。』
人差し指と中指を立て、ぐっと力を籠める。
途端にフエンの持っていた巻物が青く錆びた様に変色し、パキッと乾燥してヒビが入った。
その様子に目を見開いたフエンはどんどん崩れていく周囲の地形に目を見張る。
「(まさか、私の空間を逆に支配して…!?)」
『なんだ、随分と脆かったね。』
「っ!」
背後に一瞬で現れた黒凪に目を見開き飛び退いだ。
しかしまた一瞬で背後に現れた黒凪に尻餅を着き、フエンが眉を寄せる。
悪いけど、この空間は完全に乗っ取らせて貰ったから。
そう言った黒凪が目を細めると逸れていた角都、飛段、ソラが黒凪の背後に現れた。
「なっ…」
『私は結界師って言うんだけどね、空間を支配する術者なんだよ。』
「っ、」
『相手が悪かったね』
フエンの両手両足を結界で固定し角都に目を向ける。
黒凪の目を見た角都は徐にフエンに近付くとその心臓に触手を伸ばした。
それを見たソラは「ゔ、」と顔色を悪くして何をしているんだと角都を見る。
ゆっくりと引き出される心臓にフエンがびくっと痙攣した。
「っ…!」
『気持ち悪いなら目を逸らしてな。』
「な、にやってんだよ…!」
『…まあ、色々?』
言葉を濁した黒凪に怪訝な目を向けてそのまま角都から目を逸らす。
そんなソラを見た黒凪は「君は私達と別れた後に誰かに会った?」と問い掛けた。
再び黒凪に目を向けたソラは角都を見ない様にしながら口を開く。
「白髪の…顔に傷がある男に会った」
『倒せた?』
「……いや」
「なっさけねェなァオイ!」
ゲハハハハ、と笑った飛段に「うるせえ!」とソラが噛みついた。
しかし飛段越しに見えた角都の様子に顔色を悪くしてすぐさま顔を逸らす。
心臓を完全に取り込んだ角都はゆっくりと立ち上がり黒凪の元へ戻ってきた。
黒凪は周りを見渡し、一気に探査用の結界を広げる。
『――それじゃあその男も始末しに行こうか』
「!…居場所、分かったのか」
『ちょっと遠いけど追いつけない距離じゃない。…七郎くーん!』
空に向かって叫んだ黒凪にソラがビクッと肩を跳ねさせる。
角都と飛段も「七郎?」と顔を見合わせ黒凪と共に空を見上げた。
すると1つの竜巻が現れ、黒凪の目の前に降りてくる。
「…どーも。相変わらず雑な呼び方ですね。」
『来てくれてありがと。ちょっと距離があるからぱぱっと連れてって欲しいんだけど』
「構いませんよ。運賃払ってくれるなら。」
『払う払う。』
「…嘘ですよ。どっちですか。」
流れる様にそんな会話を交わし、黒凪が指をさした方向を見てくいと片手を上げる。
その動作と共に黒凪達が風に包まれて空に浮かび上がり、ぐんっと進んで行く。
下を見下してフリドを探していた黒凪は見えた人影を結界で囲んだ。
しかしそれをすぐさまフリドは突破し、黒凪が目を細める。
『…見つけた。』
「それじゃあ降ろしますね」
七郎と共にフリドの前に降り立ち、フリドが足を止める。
睨み合った途端に飛び出したのはソラだった。
短絡的な彼の事だ、先程飛段に笑われた事でも気にして自分が始末をつける気なのだろう。
フリドと戦うソラを飛段と角都は手を貸すでもなく見ているだけ。
そんな2人の隣で黒凪はじっとフリドを見ている。
『(…確かあの顔は守護忍十二士の1人だったカズマ…?)』
成程、少しずつ話が読めて来た。
守護忍十二士のカズマ、基フリドは元々火の国にクーデターを起こした反逆者。
その際に同じく守護忍十二士であったアスマに殺されたと思われていた人物だ。
『(って事は火の国への復讐が今回の目的かな…?集めた死体はその時に使う予定で、)』
「(くそ、間一族の人間が3人か…)」
「っらあ!」
「ぐ、(ソラ1人ならどうにかなるが、この場を潜り抜ける事は不可能だな)」
となれば一か八か。
目の前で鉤爪を振り上げたソラの攻撃を避け、片手の指先にチャクラを集中させる。
そうしてその手をソラの腹部に突き刺すと一気にチャクラを流し込んだ。
目を見開いたソラはその場に膝を着き、腹を抱える様にして蹲る。
『…あ。しまった。』
「ちんたらしやがってよォ!」
「!」
「オイ黒凪!この白髪野郎は俺が殺すぜェ!」
いや、時間が掛かるから角都に頼むわ。
そう言った黒凪に「あァ!?」と目を向けた飛段は己の目の前を通り抜けた角都に「オイ!」と声を掛ける。
しかし何も返さず飛段に目も向けない角都はフリドに向かって拳を振り上げた。
フリドは武器を構えてその拳を受け止め、勢いのままに地面に叩きつけられる。
「ぐ、…うあ…っ」
『あららら…。見事に九尾の封印を解かれちゃったねえ』
「触るな!…ぐ、」
『…ま、元々その封印は解くつもりでいたし良いか』
あぁ!?と黒凪の言葉に苦しげに眉を寄せながらソラが聞き返した。
彼の身体は既に九尾のチャクラに覆われ、瞳も赤く染まりチャクラの尾が1本浮かび上がる。
「あーあ、面倒な事になりましたね。…墨村さん達に伝えて来ましょうか?」
『うん。…あ、そうだ。正守に四師方陣の準備をする様に言っておいて。』
「ししほうじん、ですか」
『気になるなら上から見てな。結構面白い術だからさ。』
小さく笑って「分かりました」と頷いた七郎が浮かび上がり里へ向かった。
それを見送りソラに近付いてそのチャクラに触れる。
瞬く間に焼け爛れた黒凪の手に「触るな!」と今一度叫んで苦しげに眉を寄せた。
「んでだよ…、俺は、こんな力なん、て、」
『傍迷惑な話だよねえ。こんな馬鹿みたいに大きな力、要らないのにねえ』
「っ…?」
『すぐあんたの中から消したげるから。もう少しだけ待ってな』
そう言って立ち上がった黒凪が振り返るとフリドは既に角都によって心臓を奪われた後だった。
心臓を奪い取り立ち上がった角都と飛段の目も黒凪に向いた時、角都が黒凪に腕を伸ばし彼女を引っぱる。
ぐんっと角都に腕を引かれ彼の胸板に額をぶつけると痛みに少し眉を寄せ、ソラに目を向けた。
どうやらソラが力に耐えかねて暴走し始めたらしく、その巻添えになる寸前だったらしい。
『ありがと角都。助かった』
「フン」
「ぐあぁあああ!!」
「オイオイどうすんだよアレ。何か里の方に向かってねェか?」
本当だ、とソラに目を向けた黒凪が徐に角都に目を向ける。
角都もその視線に気付いたのか、黒凪に目を向けた。
あんたに頼みがあるんだけどさ。そう掛けられた彼女の言葉に角都が眉を寄せる。
『里に向かおうとしてるソラをあんたが止めてよ』
「……」
『久々に国ってもんを護ってみる気、無い?』
小さく笑みを浮かべて言った黒凪に「命令は聞く」と一歩足を踏み出して土遁の印を結んだ。
そして地面にしゃがみ両手を着くと盛り上がった岩がソラの行く手を阻む。
しかしお構いなしに破壊して行くソラに次は風遁の印を結んで突風をぶつけた。
「(…くだらん)」
くだらない事だ。何かを護るなど。
俺は今、報酬の為に間黒凪の命令に従って里を護っているだけ。
…里の為や国の為ではない。
ソラの行く手を阻みながら只々そんな事を考えて、そして思い返す。
「(何故俺はあの頃…馬鹿正直に里の為に忠義を尽くしていたのか)」
その愚かさに、己が裏切られて初めて気付いたのか。
…今となっては全く理解出来ない事だ。
――いやあ、遅くなって悪いね。
そんな焦った様子など微塵も無い様な声が響く。
顔を上げれば上空には結界を足場に立つ正守、守美子、時子、繁守が立っていた。
「ありがとう、僕等が到着するまでよく此処に留めてくれたね」
「貴方の働きには感謝します。後は我々にお任せを。」
「それじゃあ父さん、よろしくね」
「分かっとるわい!」
全く、墨村だらけで野蛮な…。
そう言いながら配置に着く時子に「儂等に押されるなよ時子!」と繁守が声を掛ける。
守美子は正守の肩を軽く叩き「よろしく」と声を掛けた。
正守もそんな母に「うん、よろしく」と声を掛けると配置につき、構える。
そうして4方向平等に立った4人が力を互いに繋げて行った。
『よっと』
ドンッと思い切りソラを結界で弾き飛ばし、正守達が囲む中央に放り込む。
そうして黒凪も其方に近付くと飛段と角都を結界で少し外側に誘導した。
途端に黒凪とソラを4人が作り上げた四師方陣の結界が囲む。
それによって完全に外と隔絶された結界の中は無音になり、外にはソラのチャクラが微塵も漏れる事が無くなった。
「(おお、これは凄い。)」
「あぁ?んだよ、馬鹿でけえ箱が出来やがったなァ」
「…成程な。4人で作る完全な空間支配か…」
「(力のパワーバランスはほぼ完璧…。流石は墨村と雪村のベテラン4人って所か)」
上空で見ている七郎、側で眺めている飛段と角都。
各々が見守る中で出来上がった結界の中に居る黒凪はゆっくりとソラに近付き笑顔を見せた。
ソラの虚ろな目が黒凪に向けられる。
『さあて、場所は整った。存分にやろうか』
グオォオオ、と九尾の雄叫びが結界の中に響き渡った。
やがて黒凪に飛び掛かったソラに構え、暴れ回るソラを黒凪が器用に結界で往なしていく。
時折放たれるチャクラの咆哮を黒凪が結界で受け止め、取りこぼしたものは正守達が抑え込んだ。
そうこうしていると痺れを切らした様にソラが再び雄叫びを上げ、その身体からチャクラが溢れ出す。
『(よし、出て来た。)…皆さん、2段階目お願いします』
黒凪の言葉に頷いて正守達が結界を縦に大きく広げていく。
上空に溢れ出した九尾のチャクラが狐の様な形を取り、蠢いた。
その姿を「おー…」と見つめる飛段。
しかし次第に形が保てない様に揺れ動くチャクラに角都が目を細めた。
そんな2人の側に七郎が降りてくる。
「チャクラって不思議ですよね。宿主の器が小さいと判断して出てみれば、結局形が保てなくて器が必要になる。…でも今更自分の意志では戻れない。」
「あ?…角都、何言ってんだコイツ?」
「…九尾のチャクラが収まるにはあのガキの器は小さすぎる。だから一思いに外に出たが、結局は器がなければその形を保つ事は出来ん」
「…あー…成程なァ…」
絶対分かってないなぁ、この人…。
そんな目で七郎が飛段を眺めているとチャクラが完全に姿を消し、倒れかけたソラを黒凪が受け止める。
ぐったりとしたソラの身体は九尾化の所為で真っ赤になっていた。
「さて、蜈蚣。皆を本家まで連れて行ってくれ。」
「はい」
『う、結構ソラ重たい…』
「そりゃあ身体の小さな貴方じゃ重たいわよ」
ソラに潰されかけている黒凪に気付いた守美子が手を貸してやり、一緒にムカデに乗り込んだ。
そうして間一族の本家へ辿り着くとすぐさま菊水や白菊が玄関へ出て来る。
そんな2人と共に顔を見せたデイダラとサソリはムカデから降りた飛段と角都に目を向けた。
「よう。初めての任務はどうだった、うん」
「あ? まあ楽なモンだったなァ」
「…心臓は集まったのか」
「あぁ。3つ集まった」
そんな会話をする暁の面々に小さく笑い、黒凪が欠伸を漏らしながら自室に戻って行く。
それを見た角都と飛段も解散して良いと判断したのか割り当てられた自室へ向かって歩き出した。
「ねーねー、遊んでよー」
「なんで俺が…」
「だって忍の人は珍しーのー」
「印とか結ぶんでしょー」
みーせーてー。と子供達に囲まれてソラが困った様に眉を下げる。
そんなソラの名を呼んで助け船を出したのは黒凪。
ソラは慣れない子供達の中から早く抜け出したかったのだろう、小走りで黒凪の元へ駆け寄った。
『…傷は大分良くなったね。確か許可が出れば外に出るんだっけ?』
「あぁ。…実はもう許可は出てるんだ」
『?…ならなんで行かないのさ。』
「一言礼を言っておかねえと罰が当たりそうな気がしたんだよ」
あはは、罰なんて当たらないって。
笑って言った黒凪に「うるせえ!」と顔を少し赤くしてソラが言った。
すると「おーい飯まだか飯ィー」と気だるげに歩いてくる飛段が顔を見せる。
そんな飛段に立ち上がったソラは彼を見上げて「おい!」と声を掛けた。
「あ?…何だお前、やっと歩ける様になったのか」
「あ、ああ。…飛段、だったよな」
「おー」
「この間は悪かった。…その、暴走しちまって。…あと…、…ありがとな」
お?…おー。
適当に返答を返す飛段にソラの額に軽く青筋が浮かぶ。
しかし飛段はそんなソラに微塵も気付く様子は無く気だるげに台所の方へ歩いて行った。
折角俺が謝ってやったのに…!と目付きを鋭くさせるソラに「もう1人もあんな調子だろうけど行くの?」と声を掛けた黒凪。
ばっと振り返ったソラは「当たり前だろ!」と意気込むと「アイツの部屋何処だよ!」とイライラした様子で黒凪に言った。
『え、此処だけど。』
「って隣かよ!」
2人が立っている場所のすぐ隣にある部屋に向かってそう言うと「煩いぞ」と角都の声がした。
…今更だけどソラが火の寺を襲った2人の顔を知らなくて良かった。
角都の声に一旦息を吐いてからソラが襖を開く。
中で座っている角都は任務の報酬を数えている最中だった。
「よ、よう角都。」
「……」
「この間は悪かったな。あと里を襲おうとした俺を止めてくれて…ってさっきから何してんだよ!」
「金を数えている。今は話しかけるな」
怒りにぷるぷると震えるソラに気を遣って結界で角都の部屋の襖をぴしゃんと閉める。
そんな襖を数秒間睨み付けていたソラは「あーあ!」と声を出すと黒凪の隣に無造作に座った。
ソラにちらりと目を向けた黒凪は徐に彼の頭に片手を乗せる。
『ちゃんとお礼を言えるなんて偉いですね~』
「てめっ、バカにしてんだろ!」
『馬鹿になんてしてないって。寧ろ褒めてんでしょ。おーよしよし』
「その言い方が馬鹿にしてんだよ!」
べしっと黒凪の手を振り払いふんっとソラが目を逸らす。
それを見た黒凪は「もう気は済んだでしょ。早く自分のやりたい事をしに行きな」と空を見上げて言った。
その言葉に振り返ったソラは黒凪を見ると「まだ気は済んでねえよ」とボソッと言って黒凪に向き直る。
「…お前への礼がまだだ」
『…え、良いよ別に。』
「るせえ!俺が言いたいんだ!」
ムキになって言ったソラに「…そう、じゃあどうぞ」と黒凪が言った。
その言い方にまた一瞬青筋が浮かんだが、すぐに引っ込めてソラが黒凪の目を見て口を開く。
「暴れて悪かった。…俺を止めてくれて、ありがとう」
『うん』
「…。あの力を、俺の中から出してくれてありがとな」
『…うん』
やっと俺は理不尽に嫌われるでもなく、…やっと好きな事をして生きていける。
ありがとう。そう言って深く頭を下げたソラに黒凪が小さく笑った。
ソラの側には荷物をまとめた袋が置かれている。…このまま此処を発つつもりなのだろう。
『…よし、これであんたの気は済んだわけだ。』
「んだよ。そんなに俺を追い出したいのかよ。」
『そう言う訳じゃないけどさ。あんまりこんな場所に居ても良い事なんて無いし』
此処は外の世界にも居場所が無い人間が集まってる場所なんだよ。
…君みたいにまだ居場所がある人間が居る様な場所じゃない。
黒凪の言葉にソラが微かに目を見開いた。
『…沢山友達とか仲間とか作っておいで。もし行き場がなくて死にそうになったら1日ぐらいなら面倒見てあげるよ』
「……おう」
『でも此処は君の居場所じゃない。…君の居場所は外の何処かにある』
もう戻って来るんじゃないよ。戻って来ても良いけどね。
眉を下げて言った黒凪にソラはしっかりと頷き立ち上がった。
それじゃあ行って来る、とこの場で言う辺り、玄関まで誰も見送りに来ない事を悟っているのだろう。
『うん、それじゃあね』
「…お前がなんて言おうと、俺はまた此処に帰って来る」
『……えー…』
「えーとか言うんじゃねえ!…じゃあな!また帰って来るからな!」
あとな!此処は"こんな場所"なんて言われる様な場所じゃねえぞ!
ソラの言葉にちらりと黒凪が目を向けた。
此処の奴は俺を救ってくれたし、俺の傷だって癒してくれたんだ。
此処は良いトコだよ。俺の恩人が沢山住んでる場所だ。
笑顔で言ったソラに小さく笑って再び目を逸らす。
『早く行きな。』
「分かってる!…じゃあな!」
『何回じゃあなって言うんだよ。』
「るせえ!」
今度こそドタドタと足音を立ててソラが玄関へ向かった。
誰もソラを見送る事をしない。…何故なら此処は彼の帰る場所じゃないから。
…帰りたいと思ってはいけない場所だから。
『(此処は居場所のない人間の最後の砦。)』
「出て行ったみたいだね」
『…もう帰って来るなって言っといた。』
「うん、その方が良いよ」
此処にまた帰って来いなんて、ある意味酷い言葉だしね。
笑って言った正守に「そーだねえ」と黒凪が寝転がった。
…でも帰って来たいんだってさ。続けて言った黒凪に正守が眉を下げる。
「その時は迎えてあげれば良いんじゃない?」
『…そりゃあ出迎えてはあげるけどさあ。』
出来れば帰ってこないで欲しいよね。
天井を見上げて言った黒凪に「俺もそう思うよ」と正守が言った。
居場所。
("また会おう"は要らない)
(願わくば)
(もう会う事などありませんように)
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