世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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痛みを感じて
【…飛段って奴はどうしたァ?お前の担当なんだろ?】
『後で回収してくる。それより一旦屋敷に戻って。』
【へいへい。】
火黒に担がれて屋敷に入り込む。
すると血塗れの黒凪に「え、どうしたの!?」と時音が驚いた様に声を掛けた。
黒凪の着物は血でぐっしょりと濡れているし、髪や顔にも血が付いている。
『あ、大丈夫大丈夫。それよりサソリいる?』
「ちょ、そのまま中に行くつもり!?」
『…駄目?』
「駄目。」
ほらまずはお風呂入って!
そう言って黒凪を引き摺って行く時音を見送り、火黒は後頭部を掻いてサソリの部屋へ向かった。
するとサソリも部屋を出て玄関に向かっていたらしく、運よく鉢合わせる。
【よォ】
「…黒凪は何処だ」
【今は風呂場に居るなァ】
「…。」
火黒の目がサソリの右手に向かった。
指の節が無機質なものになっている。黒凪の力が弱まり傀儡化しているのだろう。
サソリも火黒の視線を追って自分の右手に目を向け、右手を持ち上げた。
「サソリの旦那!黒凪居たか、うん!」
「…今は風呂場だそうだ」
「風呂場………行くべきか?」
【血を洗い流すだけだから早いと思うぜ?裸見られて恥ずかしがる年でもねぇし良いんじゃねぇの?】
まあ俺は知らねえケド。
そう言って後ろ手に手を振って去っていく。
そんな火黒を見送り、デイダラとサソリは共に風呂場に向かった。
風呂場に向かって入り口に着くと火黒の言った通りに既に風呂から出ていたらしく、タオルを片手に黒凪が出て来る。
ばったり鉢合わせた両者は顔を見合わせ固まった。
『あ、サソリ。探してたのよ。』
「…そうか」
「え、オイラは?」
『デイダラには用はないかなぁ。あ、でも心配してきてくれた感じ?』
黒凪が首を傾げて言うと「旦那の手が変だったから気になったんだ、うん」とサソリの右手を掴んで持ち上げる。
その手を見た黒凪は「あー…」と納得した様に呟いた。
そんな黒凪をじっと見ていたサソリは彼女の髪に指を通す。
「…伸びたな」
『ん?…あぁ、ちょっと力が足りなくて維持できてないんだよ』
「維持?なんの維持だ、うん」
『若さの維持。』
若さの維持…。
2人が復唱する様に呟くと黒凪が2人の手を引いて屋敷の奥に向かって行く。
そうして1つの部屋に入ると黒凪が畳に手を着いた。
『…よし、2人共私の手を掴んで。』
「ん。」
「……」
『あ、腕でもいいよ。』
デイダラが黒凪と握手をする様に繋ぎ、手持無沙汰になったサソリも腕を掴む。
すると畳が水の波紋の様に揺れ、どぷっと3人同時に沈んで行った。
そうして異界に入り込み地面に足を着けるとサソリもデイダラも異界の景色に目を見張る。
『此処は神佑地って言ってね、神様の住む場所なの。』
「神様ぁ?んなもんホントに居んのかよ、うん」
『ホントに居るの。…でね、この神佑地って言う場所に私が蓄えられる力が充満してるのよ。』
「…あぁ、魂蔵とか言う…」
そうそう。こう言った所に定期的に来ないと色々面倒でね。
そう言ってその場に座り、目を閉じた。
途端に周りにあった何かが黒凪に吸い込まれていくような、そんな気配がデイダラとサソリを包み込む。
すると黒凪の髪が少し短くなり顔色も良くなった様に感じた。
途端にサソリが己の右手を見下ろす。
「(…人間の手に戻ってやがる)」
『…さて。戻ろうか。』
「間黒凪」
『ん?あぁ、白。』
神佑地の力を取り込み過ぎだ。
無表情に言った白に「ごめんごめん」と笑った黒凪。
白の目がチラリとサソリとデイダラに向いた。
「…また忍の連中を入れたのか」
『この子達はもう間一族の一員よ。顔だけでも覚えといてあげて。』
「…。まあ良い。姫から伝言だ」
力を消耗した場合はいつでも来い、だそうだ。
相変わらずの無表情で言った白に「ありがとうって言っておいて」と手を振りサソリとデイダラと手を繋いで異界から出て行く。
そうして屋敷に戻ると数秒程考えてデイダラを見上げた。
『そうだ、移動がちょっと面倒だからデイダラも来て。』
「!お、おう」
『サソリ、動物に効き易い睡眠薬とかある?』
「…今から作る事になるが、材料は揃ってる」
じゃあ急ぎでお願い。
そう頼むと小さく頷いて自室に戻っていく。
それを見送ったデイダラは黒凪を見下し口を開いた。
「今から何処に行くんだ?うん」
『飛段を掘り起こしに行くのよ。火の国の中だけどちょっと距離がある上に監視が厄介な所でね。』
「ふーん。だから睡眠薬が要るのか…」
てか飛段を掘り起こすって、あいつ埋まってんのか?うん。
そう問い掛けたデイダラに頷いた途端に睡眠薬を作ったサソリが戻って来る。
その早業に2人して少し驚いた様に目を見開いた。
『そんなに早く作れるんだ…』
「簡単な毒もこの程度で作れる。」
「へー。すげーな旦那。」
『よし、じゃあ行こうか。デイダラ、鳥お願い。』
デイダラが作った鳥に乗って遥上空へ飛び立っていく。
そうして3人で飛段の元へ向かった。
『そこら中に居る鹿を眠らせて欲しいんだけど…』
「分かった」
上空から催眠薬を撒いて行き、鹿達が眠った事を確認する。
そうして飛段が埋まっている場所へ黒凪だけが結界を使って降りて行った。
それをサソリとデイダラは鳥の上に座って見送る。
地面に降り立った黒凪は穴を埋めている瓦礫を大量に放った式神達に撤去してもらい、随分深くまで瓦礫が退けられると徐に手を伸ばした。
『(えー…、確かここらへんに頭が…)』
瓦礫1つ1つを退けていると銀髪が見え、周辺の瓦礫を退けて行く。
すると飛段の頭部が現れほっと息を吐いて持ち上げた。
頬を両手で包む様に持ち上げて自分の顔の前に持って行くと飛段の目が眠りから覚めた様に開かれる。
『おはよう。』
「……テメェか…」
『あはは、何よ。その元気のない感じ。』
黙った飛段に目を細め頭を持ったまま黒凪が口を開いた。
君ってさ、湯隠れ出身なんでしょ。
彼女の言葉に飛段の目が黒凪に向く。
『あそこって平和なんだってね。…そんな場所で育った君には、外で馬鹿みたいに戦争してる忍達はどう見えてた?』
「……」
『くだらない目的で傷つけ合って。…自分はこうなりたくないって思ったんじゃない?』
だから神様を理由にして暴れ回ってたんじゃないの?
馬鹿みたいにチマチマ戦ってんじゃないよって。
…痛みを知れってさ。
ピクッと飛段の眉が寄せられた。
『…ま、君って馬鹿だからそこまで本当に理解して動いてたのかどうかは謎だけど。』
「…本当の痛みってのは何だ?」
『ん?』
「俺が味わったのは…ジャシン様に見捨てられたって聞いた途端に頭が真っ白になった感覚だけだ」
あれがその痛みって奴なら…気持ち悪ィ痛みもあるもんだなァ…。
目を伏せて力が抜けた様に言う飛段に黒凪が眉を下げる。
『それを知ってほしかったのよ。…この世界では馬鹿みたいに殺し合って、その結果にお金がもらえたり名誉が貰えたりする』
「…。」
『馬鹿馬鹿しいよ、変だと思う。…でもそれが今の世の中なんだ』
そんな中で殺し合う事を止めたりしない。…でもね。
本当の痛みを知らずに戦ってるあんたは、この世界の中でも群を抜いて非道だった。
あ、非道って分かる?酷い奴って事。
黒凪の言葉を飛段は黙って聞き、徐に口を開いた。
「でもよォ…人を殺すの、楽しーじゃん…」
『…、』
国の環境、外の環境。色々と原因は在るのだろうが、根元の部分から彼は少し狂気じみているのだろう。
それを受け入れてくれた場所はジャシン教だけだったのかもしれない。
…もしくは暁だけだったのかもしれない。
『そっか。所でねえ飛段』
「あ?」
『ジャシン様はあんたの事見捨ててないよ。』
「…あ…?」
私は元々あんたとちょっと違ったタイプの不死なの。
シカマルのあれはあんたが騙されてただけ。
…は?そう言って飛段がパチパチと目を瞬かせた。
『シカマルを切って取ったと思ったあの血は角都の血。だからあんたはシカマルを呪ったつもりで角都を呪ったってわけ。』
「…ん、だよそりゃあ…」
『あんたに本当の痛みを知ってもらおうとして騙したの。…ごめんね』
「…あ゙ー…」
んだよそれェ…。
気だるげに言った飛段に笑って口を開いた。
あんた、うちに来な。
殺戮大好き上等。ジャシン教の人間も大歓迎。
『私が許可した人間を呪い殺すの。そうすればあんたを護ってあげる。好きなだけ殺させてあげるよ』
「…お前思ってたよか理解あんな…」
『こちとらあんた並にヤバいのいっぱい抱えてんのよ。で、どうする?一緒に来る?』
行く。素直に伝えられた言葉に思わず頬が緩んだ。
よし、じゃあ後は身体の回収ね。そう言って式神に頭を持たせて他の部位を探し始める。
右腕、左腕、右足首と右の脹脛から上。1つずつ忘れ物が無いように探していった。
するとしびれを切らした様に上空に居た2人が鳥と共に降りてくる。
「どんだけ時間掛かって……あ。」
「…成程な。掘り起こすとは聞いていたが…」
まさかバラバラになった身体を1つずつ探してるとは。
嫌味に笑ったサソリが式神に抱えられている飛段の頭に向かってそう言った。
すると飛段はサソリとデイダラに向かって「うっせェ!」と噛みつき、やがてはっと思い出した様に幽霊でも見る様な目で2人を見上げる。
「…ユーレイ…?」
「馬鹿か。オイラと旦那は本物だ、うん」
「でも俺クソリーダーにお前等は死んだって聞いたぜェ?」
「お前も俺達の様に直に死んだ事になる」
は?と眉を寄せて返した飛段に「だーかーらぁ!」とデイダラがしゃがんで言った。
オイラ達は表では死んだ事になって黒凪の仲間になってるって事だ。うん。
ぽかーんとデイダラを見ていた飛段は「へー…」と呟いて口を開いた。
「お前等、暁より気に入ってんのか…」
「!……まあ、な」
「元々暁なんざ無理矢理入らされた様なもんだ。未練はねえ」
「…俺も暁はちっとばかし合わねーと思ってたんだァ…」
っつー事はお前んトコの仲間に入りゃそれなりに楽しいってコトか!?
振り返れず声を張り上げて言った飛段を見る。
なァ、どーなんだよ!
楽しげに言った飛段に小さく笑って彼の左腕を片手に彼の目の前にしゃがみ込んだ。
『うちは人数多いからね。あんたに合う人間は1人ぐらいならいるんじゃない?』
「マジか!…つか角都はどうなった?」
『角都も今はうちの屋敷にいるよ。ただ酷くやられて今は治療中。』
「んだよアイツそんなボロボロにやられたのか…なさけねーなァ」
バラバラにされたお前の言える立場かよ。
呆れた様に言って黒凪と共に部位を探し始めるサソリ。
んだとコラ!テメーなんざ一発殴りゃあ腕とか簡単に外れんだろうが!
ムキになって言った飛段に振り返り「残念だったな」と薄く笑ってサソリが言った。
「俺は今傀儡じゃねぇんだよ」
「…あ?お前暁の時はずっとダッセェジジイの中に入ってた…お前なんで中身で動いてんだよ!」
「今更かよ…うん。つかお前旦那の中身知ってたんだな。」
「ヒルコの調子が悪くてメンテしてたら偶然見られたんだよ」
暁の中じゃ、俺の本体を見てるのはお前等ぐらいだ。
デイダラと飛段に目を向けず言ったサソリに2人が顔を見合わせる。
そんなデイダラに目を向けた黒凪が「手伝って」と声を掛けるとすぐにデイダラも黒凪の側に駆け寄った。
「おいおいデイダラちゃんよォ。お前そんな素直に頼み事聞くタイプだったかァ?」
「うるせえ!お前の身体探すの手伝ってやってんだ、黙って見てろ、うん!」
「チッ、面白くねーの。」
やがて3人掛かりで全て探し当て、穴に瓦礫を戻してデイダラの鳥に乗って屋敷に戻る。
そうして救護班の管理する救護室へ入り込み菊水にバラバラの飛段を見せると深いため息が返ってきた。
「身体中が傷だらけの男の次はバラバラか…」
『どうにかくっ付けられますか?』
「…やってみよう。」
「角都は何処だ?まだ爆睡してんのか?」
すぐ隣の入院棟の手前の入院室だ。
今は傷の治療で眠っているがそろそろ起きる頃かもしれん。
菊水の目が黒凪に向いた。側に居ろと言う事だろう。
目を覚ました角都がどんな行動に出るかは大体予想が着く。
『それじゃあ飛段は任せます。』
「あぁ。…白菊、手伝いを頼む。」
「…んじゃあオイラ達は部屋に戻るか…うん」
「オイオイオイ!俺が心配じゃねぇのかよ!」
不死身ヤローの何処を心配すんだよ、うん。
お前の面倒を見る役目は角都だけで十分だ。そう返して病室を出て行ったデイダラとサソリ。
その背中を見送った飛段は舌を打ち、自分の身体の処置に回った菊水と白菊を見る。
彼等はどう見ても話し上手と言った風では無い。
飛段は深いため息を吐いた。
『お邪魔しま…』
「!」
『わ、グッドタイミング』
カッと見開かれた目と同時にベッドの上から飛び退き、此方を睨み付けた。
身体が痛むのだろう、何処と無く角都の表情は険しい。
そんな角都にゆっくりと近付き、彼が眠っていたベッドの上に病室の端に置かれていたトランクを置いた。
『はい、忘れてた地陸の賞金。』
「…何のつもりだ」
『何ってこれ貴方が稼いだ賞金でしょ?』
本人の物を本人に返しただけ。
薄く笑って言った黒凪はトランクの隣に座り、警戒した様に此方を睨んでいる角都を見上げる。
角都は何かに気付いた様に己の腕を見下し眉を寄せた。
『此処は木ノ葉の発端にある間一族の屋敷の中。…間一族が支配している領域の中ではチャクラは使えない。』
「!」
『多分貴方の触手も使えないだろうし、硬化する術も使えない。』
「……」
まあ、貴方程の忍なら体術だけで逃げられそうだけどね。
でもそれをしないって事は私に敵わないと思ってるのか、逃げてまで戻る価値が暁にないか。
黒凪の目が角都に向くと彼はゆっくりと口を開いた。
「間一族の支配する領域…その中で貴様等間一族の人間も戦う術を失うとは考え難い。」
『……』
「…その考えと共に、お前の言う通り…命を落としてまで戻る価値は暁に無い。」
『そ。やっぱり長い年月を生きた忍は違うね。』
深く組織を信じなくなったのは里に裏切られたから?
目を細めて問いかけた黒凪にピクリと角都が眉を寄せた。
…ま、その話は良いか。そんな組織を信じられない貴方に組織への勧誘なんだけど。
『間一族の仲間になってほしい。』
「…なんだと?」
『丁度今うちは人手不足でね。腕の立つ忍が欲しい。勿論貴方の働きに応じた待遇やお金は払う。』
任務の最中に正規の賞金首ならいくらでも狩って良い。
悪くない話でしょ。貴方が私達の"仲間"で居てくれるなら間一族が犯罪者である貴方を護る。
貴方達みたいな犯罪者にとっては最高の居場所だと思うけど?
薄く笑って言った黒凪をじっと見つめ「1つだけ聞いておく」と角都が言った。
「先程から仲間になれと言っているが、貴様等間一族が言う仲間とはどんなものを指す」
『家族を護るもの。…あ、間一族に入ったら貴方も家族ね。』
「家族だと? また生ぬるい事を…」
『生ぬるい事を言えるだけうちは裕福なんだよ。』
仲間殺しはご法度。貴方はキレやすいらしいから一緒に任務に行く人間もちゃんと選抜する。
だからムカついた時は思うままに動けば良い。
角都が目を細めた。
「…よく俺の事を分かっている」
『随分と調べたからね。でも貴方は思っていたより面倒見が良いし頭も良い。是非ともうちに欲しい。』
「……」
『どう?』
…良いだろう。お前達の仲間とやらに加わってやる。
無表情に言った角都に黒凪が笑った。
『ありがとう。…じゃあうちの救護班から任務に行って良いって許可が下りたら一緒に任務に行こう。』
「…この程度の傷なら任務に向かえるが?」
『万全になるまで治してて。確実に心臓を4つ奪えるように任務組むからこっちも少し時間かかるしね。』
あ、屋敷内はうろちょろしても良いけど怪我人が出たら謹慎だから。
そう言って部屋を出て行った黒凪に続いて角都も部屋を出る。
振り返って角都を見上げた黒凪はため息を吐いた。
『早速外出るんだ…。初めての場所ってちょっと怖くて外出られない事無い?』
「……」
『(無視か。)』
「いってぇ!なんで先に首引っ付けたんだよスゲーいてぇじゃねーかよォ!」
飛段の声が聞こえた救護室の前で角都が足をぴたりと止める。
お、と顔を上げると何も言わずに角都が扉を開いた。
ん?と振り返った菊水が角都の姿に微かに目を見開く。
そんな菊水に目も向けず角都は飛段に近付いた。
「…フン。見事にバラバラにされたらしいな」
「うっせェ!テメェなんざ死にかけてたらしいじゃねーかよ!」
「バラバラよりはマシだ」
「んだとォ!?ってマジで痛ェ!」
角都とやら。まだ傷は完全に癒えていない、病室へ戻れ。
無表情に言った菊水に角都の目がチラリと向いた。
菊水はそんな角都に怯える様子も無く何も言わずに睨み続ける。
その様子を見ていた白菊は持ち場を離れて机の上を見回し、やがて隅に置かれた布を手に取った。
「あとで回収した口布と全く同じものだ。これを持って病室へ戻れ」
「……」
小さな体で角都の足元へ行き、両手を伸ばして口布を差し出した。
そんな白菊を見た角都は口布を受け取ると何も言わずに部屋を出て行く。
気配が病室に素直に戻っていく様子を感じ取り黒凪の目が菊水に向いた。
『驚きました。菊水さん強いですね』
「当たり前だ。何年此処に居ると思ってる」
「いでっ」
「白菊、追加の糸。」
飛段を見れば既に両腕と頭、左足まで全て胴体にくっついている。
その様子を見ていると菊水が黒凪を見て「ああそうだ」と側から1枚の紙を出した。
この紙を閃に渡してやってくれ。頼まれていたものだ。
あ、わかりました。と紙を受け取った黒凪は再び処置が始まって痛いと喚き出した飛段に目を向ける。
小さく笑った黒凪は服の袖からジャシン教のネックレスを取り出し、飛段の額を軽く叩いた。
「あ?」
『ネックレス着けてあげるから頭あげて。』
「おー…、いって!」
『あーほら頑張って。』
ぐっと頭を筋肉で上げた飛段の首にネックレスを通してやり、続いて額当ても首に着けてやる。
そうして全ての身体がくっ付けられた飛段はゆっくりと立ち上がった。
完全にくっついていないのに普通に腕やらを動かせる飛段に菊水が嫌なものを見た様に眉を寄せる。
「全く…暁とは奇妙な人間の集まりだな…」
『だから強いんですよ。…飛段は角都の隣の病室で療養ね。全部くっついたら任務行くから』
「療養ォ?マジかよ、クソ暇じゃねーかよ…」
『良いから療養。案内するから大人しく寝るの。』
うへー、と嫌な顔をしている飛段の腕を引いて病室へ入り、ベッドに座った彼に笑顔を見せた。
そうして「じゃあね」と手を振るとぷらぷらとやる気のない様子で手が振り返される。
『閃、これ菊水さんから。』
「ん?…あ、頼んでた飛段のカルテだな…」
『カルテ!?ついさっき連れて来たばっかりなのに…?』
「知らねーの?あの人カルテの作成すげー速いんだぜ。…特に"俺等側の人間のカルテは"な。」
閃の言葉に目を見開いて顔を上げた。
その目を見返した閃はすぐにカルテに目を通すと「やっぱりな」と呟いて黒凪に向き直る。
座れよ、と促されて座った黒凪を見た閃はゆっくりと話し始めた。
「冥安は俺達みたいに"あの頃"の記憶が無かった。だからチャクラを扱えず、呪力を扱う自分自身がずっと謎だったんだ。」
湯隠れは平和主義だったからチャクラを使えなくても別段のけ者にされたりは無かった。
でもやっぱり自分自身が謎って言うのは堪えたらしくてさ。
代わりにロボットや人形等の人型のものを動かす力があるのも自分自身で気味悪がってたらしい。
だからこそ自分の力は一体なんなのか。…それをずっと探し続けてた。
そしてやがて冥安は木ノ葉にいる間一族が同じ力を扱っている事を知る。
「そして一旦は1人で里を出て木ノ葉に向かおうとしたらしい。でも外の世界はそう甘くはなかった。」
『…あぁ、湯隠れ出身って平和ボケしてる所あるもんね。(飛段も馬鹿正直だし…)』
「まあな。…で、1人で歩いてた所為で他国の忍にボッコボコにされたんだと。」
そこでボロボロになった若い頃の冥安を拾ったのがジャシン教だ。
最初はジャシン教の方も新しい信者を見つけるつもりで居たらしいが、やがて冥安の特殊な能力に目を付ける。
そして兼ねてより強い忍を生み出す実験を模索していたジャシン教は冥安に話を持ちかけ、
「自分を馬鹿にした他国の忍に自分の力を思い知らせる為に、その人体実験に参加した。」
『……。』
「だけどその人体実験はとても成功するようなもんじゃなかった。そもそもチャクラを持った人間と呪力を持った人間は全く別のものなんだ。」
チャクラを持っている人間に呪力は扱えないし、呪力を持っている人間はチャクラを扱えない。
しかもこの世界にとっては呪力は未知数の代物だ。
だがジャシン教と冥安はチャクラを持っている忍に呪力を与えようと何度も人体実験を行って、何人も犠牲にしてきた。
「…やがて唯一生きていた被検体はチャクラを大幅に失い呪力を手に入れた。それが飛段だ」
『!』
「とは言っても多数でやる上に時間を掛ける様な封印術とか、水の上を歩く程度の事ならチャクラを使用できるみたいだけどな。」
『…不死身になったのは何故?』
偶然の産物。
閃の言葉に「は?」と眉を寄せた。
元々チャクラを持っている人間に呪力を無理矢理共存させたんだ、その化学変化って事になってるらしい。
そんでジャシン教は偶然にも不死の身体を持ち呪力を扱えるようになった飛段に更なる実験を開始した。
『……。』
「あ、ちなみに飛段もあんな奴だからな。ジャシン様の為にってずっと乗り気だったらしいぜ。」
『えー…、ある意味幸せな性格してるわ…』
「確かにな。…んで次に始めたのはあの呪いの方法についての実験だ」
不死身の飛段を単身で敵地に乗り込ませるだけでもかなりの働きが見込まれたが、なんせチャクラを大幅に失ってるからな。
だったら冥安の様に自分以外のものに何らかの影響を不死を使って与えた方が何倍も効率が良い。
そこで呪いってのに手を出したわけだ。
自分達が殺したい相手と飛段を使って呪殺する。
「それで出来上がったのがあのふざけたまじないだな。右も左も分からねー状態であれだけのまじないを完成させたのは凄いと思う。」
『そうねえ。ちょっと面倒だけど段階を踏む事でかなり強力な呪殺を可能にしてる。』
よくやったもんだよ、そうすれば飛段は相手の死ぬ寸前を見る事は無い。
そりゃあ死ぬ瞬間に相手がどうなってるか気になるよね。と目を細めて言った。
そんな黒凪に小さく笑った閃は「むかつく?」と徐に問いかける。
黒凪はそんな言葉に頷いた。
『…私達みたいな不死は他人の死が無ければ死の恐怖を知る事は出来ないんだよ。…死ぬと言う事を恐れられないやつは人間じゃない。』
「…あぁ、その通りだと思うよ。…俺だって頭領や良守が死んだ時はもう無理だと思ったしな」
あんな思いはもうごめんだ。
部屋に空しく響いた声は、静かに消えて行く。
合意のち仲間入り。
(なー角都ー)
(……)
(…さっきから何読んでんだよお前…)
(正規の賞金首の顔写真だ)
.