世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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認めて、自分を
『やあ、デイダラ。昨晩はよく眠れた?』
「んな得体の知れねー所で寝れるかってんだ、うん」
息を吐いてドカッと座ったデイダラが腕を組む。
我愛羅によって潰されていた彼の左腕は既に夜行の救護班によって再生済みとなっている。
そんなデイダラの周りには綺麗に形作られた起爆粘土達が散乱していた。
恐らく何度もこの檻を爆破して逃げようとしたのだろう。…しかし出来なかった。
『この牢屋…って言うかこの場所全体がチャクラは使えない様になってる。だから君達忍にとっては本当に怖い場所なんだよね』
「…お前等だってチャクラは使うんじゃねえのかよ。そんな術掛けて…」
『そこの所は大丈夫。私達が使ってるのはチャクラじゃないから。』
眉を寄せてデイダラが首を傾げる。
その顔を見て笑った黒凪の後ろを染木が忙しなく動いていた。
そんな染木を目で追うデイダラに黒凪が口を開く。
『君と一緒に連れて来たサソリが身体を傀儡にしてるでしょ?傀儡ってチャクラで動くから身動き取れなくなっちゃって』
「!…旦那も此処にいるのかよ…」
『うん。その内暁の大半を此処に連れて来る予定。』
その言葉を聞くとデイダラがやっと合点が行ったように肩の力を抜いた。
何だよ、暁に敵討ちでもしようって魂胆か。うん。
そう言ったデイダラにまた黒凪が笑う。
『残念。違いまーす』
「あぁ!?じゃあなんだってんだよ、うん!」
『引き抜き。ちょっと人手不足だから腕の立つ人間が欲しかっただけ。』
あっけらかんと言った黒凪に一瞬黙ったデイダラだったが、眉間の皺を深くしてため息を吐いた。
「チッ、またかよ…」
『…ああそっか。君はこういうの慣れてるんだったね。』
「ああ?」
『かなり優秀な爆遁使いってんで前々から有名だったから、日ごろからスカウトは多かったんだろうね。』
そんな黒凪の言葉に黙るデイダラ。
そのデイダラの様子に目を細めた黒凪は牢屋を開いた。
そうして中に入って来た黒凪にデイダラの眉間に皺が寄る。
『ね、この起爆粘土ってどうやって作るの?』
「……。」
『教えてよ。どうせ暇なんだし良いでしょ。』
デイダラの目がチラリと爆発させるでもなく放置された起爆粘土に向かう。
作ってるところ見せて。
掛けられた言葉に息を吐いてデイダラの左手が粘土の入ったポーチへ。
そうして左手の"口"が粘土を含むとその手を開いてくちゃくちゃと咀嚼する様子を見せた。
『わ、手の平に口あるんだ。』
んべ、と吐き出された粘土を片手で器用に握り、一瞬で鳥の形を造形した。
その早業に目を見開いた黒凪の反応をデイダラの目がじっと見つめる。
差し出された黒凪の両手にぽいと放り投げると黒凪がその鳥を覗き込んだ。
『へー、凄いね。私不器用だから絶対こんなの作れない。』
「…フン。」
『でも折角作ったのに此処では爆発できないなんて嫌じゃない?』
「当たり前だ。爆発する事で昇華するオイラの芸術がその意味を果たせずにこんな所で転がる有様なんざ…もう見たくねえ。うん」
爆発させる?
首を傾げて言った黒凪にデイダラの目が向いた。
何も言わないが是非ともやってもらいたいと言った風な目に黒凪が小さく笑う。
牢屋全体を結界で囲み、起爆粘土を放り投げて結界に閉じ込めた。
デイダラは自分自身を囲う結界を警戒しつつも目の前で結界の中に入っている起爆粘土に目を向ける。
『チャクラ練ってみな』
半信半疑の顔でチャクラを練ったデイダラは目を見開き、目の前の起爆粘土に目を向けた。
起爆粘土は彼の意志通りに爆発しバラバラに砕け散る。
デイダラの驚いた様な反応に笑顔を見せ、黒凪は牢屋に散乱した起爆粘土達を結界で全て囲った。
『結界の中でなら爆発させても構わないよ。ほらどーぞ。』
「…1つ頼みがある」
『ん?』
「オイラの爆発と同時にその結界も潰して欲しい。…囲ったものを押し潰す事、出来るだろ」
眉を寄せて向けられた目に黒凪が片眉を上げた。
そうしてチャクラを練ったデイダラに合わせて同タイミングで結界を押し潰す。
同時に爆発した様な結界と起爆粘土をデイダラは黙って見つめ、全てを爆発させると小さく笑った。
『綺麗だね。』
「!」
『時音ちゃんとの戦いの中で見つけたの?』
「…まあな、うん」
へー、芸術家が考える事はやっぱり違うねえ。
ボソッと言った黒凪にデイダラの目が向けられた。
じっと黒凪を見たデイダラが小さく舌を打って目を逸らす。
そんなデイダラを見た黒凪はゆっくりと立ち上がった。
『お腹空いてない?よければご飯食べに行こうよ』
「…。確かに腹は減ったな、うん」
『じゃあ行こう。サソリも連れて行くからついて来て。』
共に牢屋を出たデイダラを横に少し離れた牢屋に向かって「文弥くーん」と声を掛ける。
するとひょこっと顔を出した染木がくいくいと手首を縦に上下させた。
デイダラと共にそこに近付くと牢屋の隅にぐったりと倒れているサソリが。
彼の身体中にまじないが描かれ、染木は最後の仕上げにサソリの左の手の平に大きな模様の様なものを書いていた。
「…よし、出来た。黒凪も右手貸して」
『ほいよ。』
差し出された黒凪の右の手の平にも同じ様な模様を描き、書き終わると染木がにっこりと笑った。
そして黒凪の手を掴んでサソリに近付き彼女の右手の模様を彼に見せる。
サソリの冷たい瞳が黒凪の右手を捉えた。
「このまじないは君の身体を傀儡から人のものに、人のものから傀儡に変化させるもの。」
「……」
「まじないを発動させるには黒凪の右手にあるまじないの模様と君の左手のを重ね合わせ、2つのまじないを媒体に黒凪が呪力を君に送る必要がある。」
『サソリ、君にはこの屋敷にいる間は人間の身体で生活して貰う。傀儡に戻すのは戦闘時だけ。…デイダラにした引き抜きの話は聞いてたよね?』
返答はないが抜かりのない彼の事だ、確実に話は聞き理解している筈。
黒凪が右手に呪力を籠め紋様が薄く光を帯びる。
これからよろしくね。その言葉と共に重ねられた手にサソリの目がチラリと向いた。
サソリの身体中にあった紋様がすうっと身体に解けるように消えていく。
すると無機質だった傀儡の身体が瞬く間に生身の身体に変化していった。
「あ、よかった。上手く行ったね。」
『ありがと文弥くん。今日は非番なのにごめんね』
「良いよ良いよ。いつでも呼んで。」
それじゃ。と一足先に牢屋から出て行った染木。
黒凪は徐にしゃがみ込み気だるげに頭をもたげたサソリの顔を覗き込んだ。
途端にサソリの顔が不機嫌に歪む。
『おはようございまーす』
「…テメェ、どうやって俺を此処に運びやがった」
『さっきの文弥くんのまじないで一気に転送したの。戦ってる間にアジト全体に大きなまじないを掛けてくれたんだ。』
そんでタイミングを見て君を此処に転送した。
ちゃんと君のコレクションも連れて来てるから、これから徐々に直していってね。
にっこりと笑って言った黒凪に立ち上がりサソリが立っているデイダラに近付いて行く。
その様子を特になんとも思っていない顔で見る黒凪にサソリの怪訝な目が向いた。
「…余程自信があるらしいな。俺達が逃げると思わねえのか」
『逃げられない事ぐらいは分かってるんでしょ?』
恐らくチャクラを練ろうとしているのだろうが、勿論屋敷全体にチャクラを弾くまじないが掛かっている為それは叶わない。
小さく笑って2人の間を通り牢屋から出て行く。
その最中でサソリとデイダラが目を合わせた。何も言わないサソリにデイダラが小さく頷く。
3人で階段を上り地下から上がると間一族の屋敷の中に移動した。
途端に外に向かって走り出した2人をすぐさま黒凪が結界で閉じ込める。
舌を打った2人が黒凪を睨むと彼女は笑って結界を解いた。
『そんなに逃げるんだったら私から1メートル離れただけで激痛が走るまじない掛けるよ?』
「…チッ」
「あー…やっぱ無理だったな…うん」
『うんうん。大人しく私の近くに居なさいね。』
大きな屋敷の中を歩く最中、サソリとデイダラは流石に諦めたのか何も言わず周りを見渡しているだけだった。
そして1つの襖の前に辿り着くとガヤガヤと煩い室内に2人が一斉に嫌な顔をした。
此処に入るのか。そんな視線をビシビシ受けつつ襖を開く。
途端に中に居た全員の目が3人に向かった。
「あ、暁のサソリ君とデイダラ君だよね!?いらっしゃい!」
「…誰だっけ?」
「ほら、人手不足の件で黒凪が2人補充したって言ってただろ?」
「やっぱり全然話聞いてないじゃない、あんた。」
ささ、此処に座って座って!
ニコニコと優しい笑みを浮かべてサソリとデイダラを座らせその前にお米をよそったお茶碗を置いて行く。
修史の勢いに怪訝な顔をする2人の隣に黒凪も座った。
すると周りを見渡していたデイダラが行儀よく食事をする時音を見て動きを止める。
「あー!テメェあの時の女!うん!」
「あら、もう元気そうね。」
「時音を指差すんじゃねえ!行儀悪いぞ!」
「飯食ってる最中に立つお前も行儀悪いよ。」
んだと兄貴!とばっと振り返って正守を威嚇する良守。
あ゙ー…うるせえ。そう呟いて不機嫌に眉を寄せるサソリの前に味噌汁も添えられた。
当たり前の様に並べられた食事を見てサソリが目を細める。
デイダラは腹が空いていたのかすぐに茶碗を手に取り机の上に置かれているおかずに箸を伸ばした。
『…あ、久々過ぎて食べ方分かんない?』
「うるせえ。」
『食べなよ、美味しいよ。良守君のお父さんのご飯。』
「修史さん!相変わらずこの卵焼きはまっこと美味い!!」
え、ホントですかー?
そんな会話を耳に入れつつ箸を持ちサソリもゆっくりと食事を口に運んで行く。
その様子を見て黒凪も食事を開始するとそんな彼女の隣にドカッと翡葉が座った。
「なー、醤油はー?」
そんな良守の声に目を向け側の醤油を蔦で掴み彼の元へ運んで行く。
その蔦にサソリとデイダラが微かに目を見開いた。
蔦がゆっくりと翡葉の左腕に戻るとサソリが「はっ」と鼻で笑う。
「何だ、あんたも俺と同じで身体を改造したクチか?」
「…いや、生まれつきだ」
『妖混じりって言ってね。妖の力を生まれつき宿してる人間も間一族の屋敷には沢山居るんだよ。』
「んな化け物を匿って何になるんだ?うん」
そう言ったデイダラにばっと立ち上がった良守が持っていた湯呑の茶を掛けた。
しかしその茶をすぐさま正守が結界で閉じ込め結界に小さく切り目を入れて他の湯呑に移しかえる。
デイダラの目が良守に向いた。
「化け物って言うな!」
しーんと静まり返った部屋にサソリが目を細め、デイダラが小さく笑った。
良守を見るデイダラの目。その目を見ていた黒凪は徐に箸を進める。
そんな黒凪に正守の目が向いた。
その目を見て黒凪が口を開く。
『此処はそう言う人達の居場所なんだよ。…君みたいに化け物だって蔑む人ばっかりだから。』
「…俺は何とも思ってない。皆食事を続けてくれ」
再び徐々にではあるがガヤガヤと騒がしくなり始めた。
そんな中で黒凪は湯呑の茶を飲むと箸が止まっているサソリとデイダラに目を向ける。
箸をおいて立ち上がろうとした2人の頭を黒凪の結界が同時に叩いた。
『まだ食べ終わってないでしょ。』
「テメェ…」
「っ~、んな所に居てられるかってんだ!うん!」
『じゃあ何処に行くんだよ。君達はS級犯罪者。…私達と同じように外に居場所なんて無い』
黙った2人をじっと黒凪の目が見つめる。
此処はこの世の外れ者の居場所。
『…拒否権は無い。働いて貰う』
有無を言わせぬ言葉に2人は黙ったまま。
そんな2人に正守が徐に声を掛けた。
どうやったって逃げられないよ。黒凪に捕まったら。
そう言った正守に2人の目が向けられる。
ガラ、と襖が開き閃が翡葉の横に座った。
「外まで怒鳴り声が聞こえてましたけど…何かあったんすか」
「いや?別に。ただ黒凪に捕まるともう逃げられないよって話してただけ。」
「あー…。」
閃の目が不機嫌に眉を寄せているサソリとデイダラに向けられた。
その様子に眉を下げて小さく笑うと修史から茶碗と箸を受け取り口を開く。
「黒凪は自由な奴だからな。それを覆せた奴を俺はここ何年も見てない。」
サソリの目が黒凪に向いた。
ま、諦めるんだな。
閃の言葉に皆同調する様に頷く。
確かに黒凪を止められたのは後にも先にもお気に入りチームだけだったよなあ。
てか結局黒凪を諭す事が出来るのって時守様だけじゃね?
口々に言う皆に黒凪は肩身が狭い思いで再び湯呑の茶を飲み込む。
『はいはい、私の話は終わり。ね。』
「良守、修行は?」
「あ。」
「たわけ!さっさと修行に行かんか!」
うっせー!言われなくとも行ってやらあ!
ばっと立ち上がり食器をそのままに出て行った良守。
その背中を見ていたデイダラは一気に朝食を口に放り込むともう食べる気のない様子のサソリにチラリと目を向ける。
黒凪はそんな2人を見ると徐に立ち上がった。
『さて、君等が逃げないって約束するなら牢屋じゃなくて部屋をあげるけどどうする? …逃げないって約束できる?』
小さく頷いた2人に「分かった」と笑顔を見せて2人を連れて部屋を出る。
そうして少し歩き隣同士になった2つの部屋の前で足を止めた。
『左がサソリの部屋で右がデイダラね。敷地から出なければ何をしても良いけど、うちの仲間を傷付ければ牢屋行きだから』
「…俺の傀儡は何処にある」
『地下牢の中。ちょっと手間かかるけど傀儡の修理は牢屋の中でやって。』
「オイラの粘土はもう数が無ぇ…。あれがねーと暇過ぎるぜ、うん」
んじゃあ調達させるわ。それまで我慢ね。
チッと舌を打ったデイダラ。
それじゃあどうぞ、自由に動いて。
そう言った黒凪の言葉を聞いてサソリが徐に牢屋の方に向かって行った。
デイダラは周りを見渡すと屋敷を探検する様にサソリとは逆方向に歩き出す。
「え、もう自由に行動させてるんだ」
『うん。縛り付けてたら心開かないかなって』
「大胆だよね。毎回。」
『褒め言葉?』
微妙。と返した正守に小さく笑う。
そうして少し開いた襖から覗く青空を見上げて徐に口を開いた。
あの2人の過去を閃が洗い出して、粗方聞いたんだけどさ。
手元の資料に目を通しつつ正守が「うん」と返答を返す。
『デイダラは物心が着く前に両親を失って1人ぼっちで生きて来たんだってさ』
「…ちょっと親近感が持てるんだ?」
『んー…。私はそう思うけど、多分デイダラと私の境遇は比較にならないと思う。』
デイダラとちょっと話してみるとさ、彼の芸術を理解する様な素振りを見せると凄く嬉しそうなの。
きっと誰も彼の事を認めてあげなかったんだと思う。
だから爆破テロを起こしたり事ある事に芸術は爆発だと喚く。
『自信が無いんだろうね。…誰かに必要とされたいのかなあって思う』
「…。」
「―――頭領、其処に居る黒凪借りて良いですか」
「良いよ。それか此処で話したら?急ぎだろ、閃。」
じゃあお言葉に甘えて。
そう言って中に入った閃を座っている黒凪が見上げる。
黒凪の隣に腰を下ろした閃の変化した目が襖の外に向けられた。
「デイダラが良守に近付いてる。…止めるべきか?」
『あ、やっぱり良守君の所に行ったんだ。それじゃあ2人の会話の内容を教えて。』
「…感情的になり易い良守から情報を取るつもりだろーな。」
『多分ね。…ま、ちょっと聞いてみよ。』
意識を良守とデイダラの元へ送った閃は筒抜けてくる会話をそのまま黒凪の前で復唱し始めた。
修行をしている良守の元へ訪れたデイダラは少し距離を取ったまま「よう」と声を掛ける。
一旦修行を中断し、良守が振り返った。
「…何の用だよ。」
「ちょっとテメェに聞きたい事があってな、うん」
「…。黒凪の事か?」
「まあな。つってもお前の術もあの女と同じものみたいだし、お前の話でも良いけど。」
岩を持ち上げていた結界を解き良守が体をデイダラに向ける。
何勘違いしてるか知らねーけどさ。
そう言った良守にデイダラが片眉を上げる。
「黒凪と俺は全然違うぜ。アイツの方が全然強いし」
「…そんなにあの女は特別なのか?」
「んー…兄貴によると俺も特別な方らしいけど、多分黒凪は別格だな。」
後頭部をがしがしと掻いて言う良守にデイダラの目が細められる。
こう、才能の塊って言うか…努力もしてるけど殆どすぐになんでも出来ちまうし。
あいつが誰かに負けた所なんて見た事ねーし。
少し悔しげに言う良守をじっと見ていたデイダラは目を逸らし「ふーん」と呟いた。
「…。他に何もないんだったら修行に戻りたいんだけど」
「あ?…あぁ、もう良いぜ。うん。」
そう言ったもののピクリとも動こうとしないデイダラを良守が怪訝に見る。
しかし追い払うのも野暮だと思ったのか気にする様子も無く修行を再開した。
閃を介して会話を聞いていた黒凪は閃に目を向け「デイダラは何してる?」と問い掛ける。
眉を寄せた閃はデイダラの様子を探り徐に口を開いた。
「…別に何も。ただ良守の修行をじっと見てるだけだな。」
『…ふーん、早速結界術の対策を考えてるのかな』
「…。…どうやらそうみたいだな。」
術がどうやって成り立ってるのか、どうすれば術者の隙を突けるか。…そればっかり考えてる。
閃の言葉に書類から目を離した正守が言った。
「へえ、努力家なんだ。」
『あ、私もそう思った。…もしかしたらデイダラって才能がある人間の事嫌いかもね』
「多分そうだろうね。物心がついた頃から独りだったんなら自分の力だけで忍の世を生き抜いて来たって事だろ?」
『…苦労人だったんだろうね。見えないけど』
そう言った類の人間は恵まれた他人を嫌う傾向にある。
…結構似てるんじゃない、あんたとデイダラ。
向けられた黒凪の目を見返した正守は小さく笑った。
「俺もそんな気がしてきたよ。俺よりはストレスの吐き出し方が上手そうだけど。」
『はは、言えてる。』
立ち上がった黒凪は閃の頭をぽんと撫でて部屋を出て行った。
その背中を見送った閃は正守に目を向け、徐に口を開く。
「凄いですよね、あいつ。…なんであんなに面倒見が良いんだろ」
「…自分が放っておかれてた分、他人を放っておけないんじゃない?」
あとは自分にとって大切なものを作っておきたい、とか。
閃が微かに目を見開いた。
"前の世界では"その大切なもののおかげで助けられたって言ってたし。
だからきっと、この世界でも大切なものを作っておけば――…
『デイダラ。』
「っ!」
安心してられる、とか。
振り返ったデイダラの驚いた様な目が向けられる。
その顔を見ていた黒凪はくすっと笑った。
『何、そんなに集中してたの?』
「…別に。俺は部屋に戻る、うん」
すたすたと歩いて行ったデイダラを見送り、修行を続けている良守に目を向ける。
ぷるぷると震えている良守の結界が弾け、宙に浮かんでいた鉄球が落ちた。
その鉄球を一瞬で作った結界で受け止めた黒凪は振り返った良守に笑顔を見せる。
『そんなに根詰めると任務に支障出るよ?』
「…あ゙ー!テメェまた俺よりちっさい結界で鉄球止めやがったな!?」
『あはは、ばれた。』
「こっそり自慢を入れるな自慢を!」
良守と黒凪の様子を見ていたデイダラは小さく舌を打ち部屋に戻る。
そして良守の修行風景を思い起こしながら起爆粘土の制作について悶々と考え始めた。
『おーい、デイダラー』
デイダラの部屋の前でそう声をかけて待つこと数秒。
襖が開かれ、デイダラがこちらを見下ろし言った。
「…何の用だ。うん」
『随分とストレス溜まってるみたいだし、一緒に任務でも行く?』
もう此処に来て1週間。流石に起爆粘土で戦いたいでしょ。
じっと黒凪を見ていたデイダラは少し目を逸らし考え込む様に黙った。
その様子に「ね?行こうよ」と再び声を掛けると少しして小さく頷く。
そうして数分後、屋敷の入り口で待っていた黒凪の元にデイダラが現れる。
『あ、来た来た。…えっとね、今日の任務は暗殺で…』
つらつらと説明し始めた黒凪の言葉を素直に聞くデイダラ。
聞き終わると目的地を注げて黒凪が両手をデイダラに向かって伸ばした。
その様子に眉を顰めて「なんだ、うん」とデイダラが怪訝に聞き返す。
『背負って。』
「は?」
私運動神経が悪過ぎて足凄く遅いの。
だから背負って、と両手を伸ばす黒凪にデイダラが露骨に眉を寄せる。
そこで改めて感じた。目の前の少女は自分よりも随分と幼い姿をしていると。
見た目の幼さには最初から気付いていたが、その言動や行動からどうしても年相応には見えなかったのだ。
『早く。じゃないと任務一緒に行けないよ。』
「…ったく…」
背を向けてしゃがんだデイダラの首に腕を回し、デイダラが黒凪を持ち上げる。
そうして共に目的地へ向かい始めた。
道中でずっと無言のデイダラをじっと見つめ、黒凪が徐に口を開く。
『ね、暁に戻りたい?』
「…別に。そこまで暁に思い入れがある訳じゃねえからな…うん」
『ふーん。…まだ私達には慣れない?』
君、部屋に引きこもるかサソリの所に行くかだもんね。
その言葉にデイダラは何も返さない。
暇なら私の所に来ればいいのに。
そんな黒凪の言葉にチラリとデイダラの目が向いた。
『芸術の話とか色々と教えてよ。そりゃあサソリみたいに芸術性とか分からないから退屈かもしれないけどさ』
ちょっとずつ理解していくつもりだし。
そんな黒凪の言葉にデイダラが目を伏せた。
それとも私の事は苦手?
そう問い掛けた黒凪の言葉にゆっくりとデイダラが口を開いた。
「オイラはお前みたいな奴は嫌いだ。うん」
『私みたいなってどんな奴よ。』
「……」
『…君さ、私みたいに天才肌の奴が嫌いなんでしょ。』
ぴく、とデイダラの眉が少し動いた。
思わず目を細めた黒凪。
途端にデイダラと黒凪が同時に顔を上げる。
「ふむ、間一族の暗殺者が来たと聞いておったが…」
儂の様な老いぼれには子供が2人で十分だと?
目を細め殺気を放った老人。
その姿を見た黒凪は思わずと言った風に目を見開きその様子にデイダラが少し振り返る。
「顔見知りか?うん」
『…んー…遠い昔の知り合いって感じ…?』
ガシャン、と低い音が響き渡る。
その音と共に空高くにある太陽が覆い隠され巨大な影が2人を飲み込んだ。
顔を上げた黒凪はそこに立つ巨大な兵器、黒兜に思わず渇いた笑みを浮かべる。
『はは、こっちに来てもそれ使うんだ。』
「これは禁術によって生み出された最強の戦闘兵器、黒兜」
『驚異的な再生能力を持つ途轍もなく頑丈な兵器。…だよねえ、冥安』
「?黒兜を知っておるのか、お主」
きょとんとした冥安に眉を下げ、手始めに黒兜の腕を結界で囲み押し潰す。
予想通り傷1つ付いていない腕に目を細め黒兜に攻撃の指示を出した冥安をチラリと見た。
やはり"覚えている"様子はない。
前世での記憶を持っている人間は今の所八割程知っているが、その中でもごく僅かな人物が記憶を無くしている事がある。
冥安もその記憶を無くしている僅かな人物の1人らしく、前世で裏会所属の幹部だった事など今では全く覚えていないのだろう。
『デイダラ、あいつかなり頑丈なんだけど君の攻撃で傷付けられるかな』
「はっ、オイラの芸術を舐めるなよ。うん」
そんなに頑丈ならC2だな…うん。
ぼそっとそう呟き両手をポーチに突っ込んだデイダラは取りだした両手を重ね合わせる。
そうして作り上げられた起爆粘土は龍の形をしていた。
「オイラの十八番、C2ドラゴンだ。おい間ァ、お前も乗れ。うん」
『間はうちにいっぱい居るから黒凪。』
「んな事はどうでも良いだろ」
『良くない。』
そんな小言を交わしつつC2ドラゴンの上に乗った黒凪はデイダラと共に上空に飛び立った。
冥安が黒兜を操りその巨大な拳が振り上がる。
C2ドラゴンの口から大量の小型起爆粘土が地面に落下して行った。
小さな起爆粘土は地面に潜る様にして姿を消し、振り上げられた拳に向かってC2ドラゴンの口から巨大な龍が発射される。
「喝ッ!」
膝に龍が直撃した事で黒兜が体勢を崩し倒れ込む。
するとすぐさま地面に埋まっていた地雷が発動し黒兜を爆発が飲み込んだ。
その様子を黙って見て居た黒凪は振り上げられた拳を結界で弾きデイダラがすぐさま上空に逃げる。
C2ドラゴンの爆発威力で破損した様だったが黒兜の驚異的な再生能力によって再生し始めていた。
その様子を見たデイダラは舌を打ち何度か龍を発射する。
「…埒が明かねぇな、うん」
『そだねえ。…にしても動きが鈍いな、冥安も歳だから…、っ!』
背後から迫った黒い大きな手。
黒兜のものだと察知した黒凪は2人が乗るC2ドラゴンが掴まれた事を知るとすぐさまデイダラを振り返る。
全く気配が察知出来なかった黒兜に反応が遅れデイダラは巨大な手にC2ドラゴンと共に掴まっていた。
ばっと振り返ると冥安が不気味に微笑んでいて、その顔を見て眉を寄せる。
『(舐めてた、あの頃より全然性能が良い…!)』
「まずは1人じゃな。」
ブンッと振り降ろされたもう1体の黒兜の拳。
その拳を見ていたデイダラは思わず眉を寄せた。
彼の視界の隅には振り返った黒凪が居る。
「(あーあ、こりゃ見捨てるな。うん)」
『っ、馬鹿!諦めるんじゃない!』
はっと目を見開いたデイダラの視界に飛び込んできた黒凪が映り込む。
彼女はデイダラを抑えている黒兜の指1本を結界で滅して彼を蹴り落とした。
そしてすぐさま自分も離脱しようと動くが時既に遅く、振り降ろされた拳に呑まれていく。
空中で体勢を立て直したデイダラは地面に着地し黒兜の攻撃で爆発したC2ドラゴンを見上げた。
「(…オイラを庇ったのか…?)」
爆風と共に落下してきた黒凪の腕が地面にゴトッと落ちる。
その腕を見たデイダラはゆっくりと己を見る2体の黒兜に眉を寄せた。
どうする、逃げるか?
逃げた方が良いに決まってる。
何度攻撃を仕掛けても無かった事になるなら自分には不利だ。
分かっている。分かっているのに、
「…チッ!」
がばっと両手をポーチに突っ込みチャクラを練る。
…君さ、私みたいに天才肌の奴が嫌いなんでしょ。と彼女の言葉が過った。
そうだ、オイラはあの女が嫌いだ。気に食わねえ。
気に食わなかったんだ、なのに。
ぽん、と優しく叩かれた肩に目を見開いて振り返る。
そこには先程死んだ筈の黒凪が立っていた。
『いやー、予備で持って来てた暁のコートが此処で役立つとは。』
「…それオイラのか、うん」
『ちょっと貸しててね。さっきので服バラバラになったから』
その言葉を聞いて眉を寄せる。
やはり先程死んだんじゃないのか。…なら何故生きている。
口を開きかけたデイダラを遮るように黒凪が彼の肩に片手を乗せた。
『デイダラ、さっきの奴をもう1回黒兜の両足にぶつけて。1体ずつ確実に処理していく』
「…勝算はあるのか、うん」
『私が黒兜の額に触れたら勝ち。…ね、簡単でしょ。』
「…。…解った、懸けてやるよ。」
両手をポーチから出して再びC2ドラゴンを作り上げて上空に単身で飛び上がっていく。
そうして先程黒兜の足を破壊した起爆粘土を黒凪に近い方の黒兜に直撃させた。
倒れていく黒兜を一瞥してもう1体と冥安の気を引く様にデイダラが動き始める。
倒れ込んだ黒兜の目の前に結界で足場を作って移動し、その額の中心に手を触れた。
「…!?」
『はい、まずは1体。』
黒凪が触れた途端に力尽きた様にバラバラに砕けて倒れた黒兜。
その様子に目を見開いた冥安の隙をついて再び起爆粘土をもう1体にぶつけたデイダラは黒凪を振り返る。
すぐさまもう1体の目の前に辿り着き額に手を当てた。
途端に倒れた黒兜に唖然とする冥安の前にデイダラが降り立つ。
「これで一丁上がりだ、うん。」
「っ、馬鹿な…!」
C2ドラゴンの口から龍が放たれ冥安に向かって行く。
元々冥安本体に戦闘能力が無い事は分かっている。
いとも簡単にデイダラの起爆粘土に直撃して死んで行った。
それを見送った黒凪はC2ドラゴンの上で腰を下ろしたデイダラの元へ近付いて行く。
『お疲れ様。疲れた?』
「…。…なんであの時オイラを助けた」
C2ドラゴンの上に居たとは言え、あの短時間でオイラを庇うのは躊躇すれば確実に失敗していた筈だ。
…つまりお前は躊躇せず、考える事すらせずにオイラの前に突っ込んで来たって事だ。
怪訝な目を向けながら言うデイダラに間髪入れず返答する。
『――なんでって、家族だからでしょ。』
当たり前の様に放たれた言葉に、理解が追いつかなかった。
…意味が分からなかった。
でも己の命を顧みずに自分を助けた事だけは事実で。
その事実が、何故か温かく感じられた様な気がした。
それからも何度か共に任務をする様になった。
あの劣性を強いられた戦いがあったにも関わらず任務の難易度は随分と高く、この状態こそが己やサソリを引き抜いた経緯なのだと理解し始めていた。
そんな風に理解しつつも共に任務にあたるこの少女の事を理解しようとして、何度も失敗して。
やがて先に彼女を打ち負かす手を考案出来てしまう。
…そしてオイラは、
「おい」
『ん?』
「…オイラと戦え」
遂に啖呵を切った。
その言葉を聞いた彼女はもっと何かしら反応をするかと思っていたが。
『…そ、分かった。』
随分と落ち着いた様子で、そう返したのだ。
『…言っとくけど殺しは無し。先に膝を着いた方が負けで良いよね?』
「……あぁ」
そう返したものの、その言葉を実行する気は無かった。
本気で殺すつもりで。そう思っていた。
――先に仕掛けて来たのは以外にも黒凪からで。
迷いなく己が居た場所に作り出された結界に何故か気持ちが高ぶった。
「喝ッ!」
『!』
まずは様子見にばらまいた小さなC1の起爆粘土達を気配を最大限に消して近付かせ起爆させた。
しかし爆発する寸前で気付いた黒凪が1つ残らず結界で包み直撃を妨害。
それを見たデイダラはフェイクに仕込んでおいた残りのC1を彼女の目の前に。
『(――あ、反応遅れた。)』
「気付いても遅い!うん!」
ドンッと爆発を起こした起爆粘土。
その衝撃を両手で受けた黒凪はずざざ、と後退し衝撃を殺す。
そうして顔を上げるとデイダラは既に巨大な龍の起爆粘土の上に立っていた。
さっさとケリを付けてやる。そう呟いて龍の口から勢いよく起爆粘土を放つ。
『……。』
結界でその攻撃を防ぎ走り出す。
すると地面に足が沈み、黒凪が地面を見下した。
途端に地面が発光し爆発する。
地雷に引っかかった黒凪の様子にデイダラがニヤリと笑った。
しかし砂埃の下から無傷の黒凪が姿を見せ、その笑顔が一瞬で引っ込む。
その表情を見て目を細めた黒凪は構えていた右手を降ろした。
「…どうした?もう終わりか、うん」
『うん。もう終わり。』
あっけらかんと放たれた言葉に眉を寄せる。
私はあんたを傷付ける為に戦ってるわけじゃない。
続けて放たれた言葉に、更に眉間に皺が寄った。
『これ以上続けてたら互いに怪我をする』
「…オイラとは遊びのつもりで戦ってたってのかよ」
『…。少なくとも本気で殺り合うつもりは無かったよ』
「残念だがオイラはお前を殺す為にやってんだよ!うん!」
再び起爆粘土が放たれる。
デイダラは焦っていた。だから態と彼女が術を発動せざる負えない様に攻撃を仕掛けた。
しかし脱力し切った彼女の右手は構える事は無くて。
どんどん彼女に迫る己の起爆粘土に柄にもなく焦り始めて。
『――私は攻撃しない。』
「っ、舐めるな…!」
馬鹿にしやがって。余裕を見せるんじゃねえ。
沸々と己を馬鹿にした様子の黒凪に怒りが湧き始めた。
しかし彼女の表情は変わらなくて。
デイダラの眉間に青筋が浮かんだ。
…途端に、彼女から放たれた言葉は。
『舐めてないよ。…認めてる』
「っ!」
デイダラの攻撃を思わずぴたりと止めてしまうには十分な言葉だった。
黒凪の四方八方、360度全てにデイダラの起爆粘土が迫っている。
一歩動けば地雷の海。逃げ場はない。
此処何度かの任務で彼女が変わり身などを使えない事は知っていた。
「…ふざけた事、」
『私は君を認めてるって言ってんの。』
言葉を無くした。
自分を認めているだと?これまでの動きを見てもそんな素振りは無かった。
寧ろ自分の力を過小評価し何とも思われていない様な。
『あんたはここ数日で何度も私と一緒に任務に行って、結界術を観察し続けてた。』
そしてやっとこうして私達の術の弱点を見つけて仕掛けてきた。
…そんな事、並大抵の人間が出来る事じゃない。
必死に努力して、必死にもがいて来た証拠。
『あんたほど優れた才能を持った人間は、間一族にも早々居ない』
「っ、」
不思議な感覚だった。
あの女がオイラを認めている?…あれ程強い、あの女が。
任務を共にして気付いていた。
サソリの旦那を倒す程の女だとは分かっていたが、あいつの実力は忍の世界でも抜きん出ている。
だからこそ自分は余計にムキになっていたのだろう。
『…ねえデイダラ』
静かに掛けられた声にピクリと顔を上げた。
…いつになったらあんたは私達の家族になってくれるの。
その言葉に何も答えなかった。否、答えられなかった。
家族というものが何なのか分からなかった。彼女の望みが、理解出来なかった。
『あんたが誰にも認めて貰えず、誰にも必要とされず…それでも1人で懸命に生きて来た事は、分かってるつもり。』
「…」
『でもそんな風に力で認めて貰うなんて虚しいだけ。人は力が無くたって、役立たずだって大切に思われるものだよ。』
そんな事は無い筈だ。…そんな事を言う奴はオイラの周りにはいなかった。
無償で必要にしてくれる相手など。力無くして認めてくれる存在など。
……己の芸術を理解してくれた人間など。
『力だけが必要なのは武器だよ。人じゃない。…デイダラでは、絶対にない。』
「…じゃあオイラは何だってんだ」
『デイダラでしょ。…1、2週間前から間一族に無理やり連れて来られて、爆発中毒で、ちょっと口が悪い。』
そして努力と言う才能に満ち溢れた人。
デイダラの唖然とした目が黒凪を映した。
分からない。理解出来ない。
自分は今まで生きて来てそんな事を言われた事が無かった。
…いや、今回の様にそんな存在を突き放し続けていただけなのかもしれない。
それを乗り越えて踏み込んで来たのが、彼女が最初だっただけで。
『最初は理解出来ないと思う。…でも絶対、私が教えてあげるから』
「…っ」
『あんたが生きてて良い事、あんたを大事に思ってる人が居る事。…だから、』
だからこんな事もう止めよう。
家に帰ろうよ。
黙り込むデイダラの前に結界を足場に立ち、顔を覗き込む。
『――…今まで辛かったね。』
頬を涙が伝った。
その涙はたったの1筋だけだった。
溢れて来る事は無かった。
…でもそのたった1筋だけの涙で、己の中のどろどろとした部分が外に消えて行った様な感覚は確かにあって。
そこでデイダラは己が目の前の少女に確かに救われたのだと、認識した。
「冥安?」
『そうそう。デイダラと最初に行った任務の時の標的だったの。報告が遅れてごめんね』
「…十二人会の?」
うん、と頷くと「あの人も"こっち"に居たんだな…」と持っていた資料から目を離し眉を寄せた。
あの人、非道な人体実験をしてるって噂が有名だったでしょ?
そう言うと正守の目が黒凪に向けられる。
『"こっち"でも黒兜を作るぐらいだからねえ。あの頃の人体実験の噂が本当ならもう既にこっちでもやってたんじゃないかなって思うのよ』
「ああ、それは俺も同感。…そう言えば今日の標的は湯隠れの抜け忍って表記だっただろ?って冥安は湯隠れの人間になるけど…。…変だな…」
『そうそう。変なのよね、湯隠れって平和主義を掲げてる里でしょ?ちょっと気味が悪いから今閃に探らせてんの。』
「そうだなぁ…確かに平和な里の裏側で冥安が暗躍してた可能性は高いね。ま、本人がノコノコ出てきたわけだしそこまで重宝はされてなかったのかもしれないけど」
何はともあれ閃が調べてるなら確かな情報が入る筈だし、情報を待つしかないね。
困った様に言って資料を手に取った正守に「そうだね」と頷いて立ち上がる。
そうして襖を開いた黒凪は目の前に立っていた誰かの胸元に気付き一瞬固まった。
顔を上げればデイダラが此方をじっと見ている。
『ど、どしたの』
「…旦那がずっと傀儡のメンテで居ないから暇なんだ。だからオイラの芸術を披露する奴がいなくてだな…うん」
『え!見せてくれんの!?』
「っ、」
見せて見せて、嬉しげに言った黒凪に目を逸らしデイダラが少し笑った。
し、仕方ねーな。うん。
照れた様に言ったデイダラに「やった、」と笑った黒凪。
その様子を見ていた正守も小さく微笑んで資料に目を落とした。
――カタ、と音が地下牢に響く。
そうして手元にある傀儡の関節や武器を確認するとサソリは少し疲れた様に息を吐いた。
長らく自分自身も傀儡にしていた彼にとって自分の体力については認識がとても甘くなっている。
その所為か気付けばとても疲れているなんてここ1、2週間は毎日の様にあった。
「おーい。飯の時間だぞー」
「…。」
返事を返さず手元の傀儡を地面に置いた。
そして地下牢の階段に向かえば己を迎えに来た様子の良守が立っている。
そんな良守を見てふと思った。
最近はデイダラの野郎が全くこの地下牢に来ない。
「早く来いよ。皆もう揃って…、あ、あいつ等も呼ばなきゃいけねーんだった…」
「……」
「もう屋敷の中覚えたか?俺今から呼びに行かなきゃならねー奴がもう2人居るんだけど…」
黙っているサソリにため息を吐いて「じゃあついてこいよ」と声を掛けて進んで行く。
やがて辿り着いたのは己の部屋として宛がわれている部屋の隣。
中から聞こえるのはその部屋の主のものと―――
「これがC2ドラゴンと同じ十八番のC3だ。」
『え、可愛くない』
「この芸術が分からねーならまだまだだな、うん」
『…あ、分かった!このぽっかり空いた口を閉じれば良いのよ!』
口も目もぽっかり空いてるから間抜け…。
そこまで言った所でスパーンと襖が開かれた。
そして開いた先で仁王立ちをしている良守を見てデイダラと黒凪が揃って部屋の時計を見上げる。
印された時間を見てまたしても同時に「あ」と声を発した。
「ったくよー、お前等3人共飯食う時間忘れるってどんな腹だよ。」
『集中してたらお腹空かないのー』
「その集中が途切れたら空くけどな、うん」
「(集中が途切れたら腹が空く…。つまり食べ物を盗む…?)…冷蔵庫の食料が消えてんのはお前の仕業かー!!」
何騒いでんの?
呆れた様な声に目を向けると我々と同じく食事に出てきた様子の正守。
ここではお前の方が先輩なんだからしっかりしろよ、良守。
ニコニコと辛気臭い笑みで言う正守に良守がぐぬぬと黙り込む。
『もうちょっと可愛いデザインにならないの?フクロウとかひよことか。』
「出来ない事はねーけどな…うん」
『んじゃあひよこ型のやつ作ってよ。んで頂戴』
うるせえ。そう言いたい気持ちを抑えて食事をとる。
そんなサソリはチラリとデイダラと黒凪に目を向けた。
ここ数日は地下牢に閉じ籠もっていた所為もあるが、2人の仲が此処まで目に見えて変化しているのを全く知らない。
本日初めて目の当たりにしたサソリにとっては奇妙なものだった。
才能というもの。
(才能という言葉が嫌いだった。)
(恵まれた人間が嫌いで嫌いで、)
(…だから力を求めた。)
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