世界を君は救えるか【 × NARUTO 】
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NARUTO疾風伝
「待て! 待てってばよ!!」
そんな声が森に響く中、振り返ることもせずに進み続ける影が2つ。
いや、正確には3つ。中でもひときわ小さなその影は、太い木の枝を伝って走る2人のうちの1人の背に乗っていた。
小さな影、間黒凪。そして彼女を背負う志々尾限、その隣で同じ速度で走るのは、影宮閃。
3人ともが任務を終え、拠点である間一族の屋敷へと戻っている最中であった。
「んのっ、待てってェ――」
『わわ、』
ぐんっと速度を上げた、3人を追う人物――うずまきナルト。
中忍試験から数年経ち、16歳となった彼はついに志々尾限を捕らえ、その背に乗っていた間黒凪を捕らえた。
「おいおいおい…!」
「――言ってんだってばよ!」
黒凪が限から離れ、ナルトの腕の中へすっぽりと収まると、彼女の声に振り返った閃が焦った様子で足を止め、すぐさま来た道を戻ってきた。
一方の限は自身が追い付かれたことに驚いたのだろうか、近場の枝で足を止めると微かに驚いた様子でナルトと黒凪へと目を向ける。
「…つ、疲れたってば…」
『もー、諦めが悪いねえナルト。でもまさか限に追いつくとは思わなかったから、そこは拍手。』
ぜェぜェと肩で息をしながら呼吸を整えるナルトに眉を下げて言った黒凪。
そんな彼女とナルトの視線がかち合った時、彼らの後ろにまた1人、2人と追いついてきたのは、
「ちょっとナルト! あんた急に走りだして何やってんの…よ…」
「――なるほどね。」
ナルトと同じ第七班所属の春野サクラ。そして上官のはたけカカシ。
2人はナルトが両手で胴の当たりを抱え、半ば宙ぶらりんになっている間黒凪の存在を目に移すと目を見開き、驚きを見せた。
というのも、彼女はおろか限や閃を見たのは実に2年ぶりだった上…黒凪の姿が14歳のころのものから全く変化していないからだろう。
『皆大きくなったね。久しぶり。』
「…対してキミは怖いほど変わってないね? 黒凪。」
ナルトとサクラも持っているであろう疑問を一番にぶつけてきたのはカカシ。
その言葉に黒凪はなんてことのないように笑顔を浮かべて応えた。
『わざと年を取らないようにしていましてね。このサイズが一番動きやすいもので。』
わざと年を取らない。
その言葉に余計様々な疑問が浮かんだであろう彼らの中で、次はサクラが問いかけようと口を開いたところで、それを遮るように限がナルトへ突っ込んでいく。
それを見たナルトが「うおぉっ!」と避けると、不機嫌そうにナルトを見て限が一言。
「…そろそろ返せ。ナルト。」
そう言った。
しかし対するナルトは黒凪を今一度しっかりと抱えなおし、限から遠ざけるようにする。
どうやら彼はまだ黒凪たちを解放する気はないらしい。
「今まで何してたんだってばよ、お前ら3人とも。」
「…別に、ふつーだよ。」
ナルトの問いに閃がそれとなく答え、限と同じように彼の隙を伺うように腰を落とした。
それを見て閃をけん制するようにカカシが前に出た。
「第十一班…お前たちはあの中忍試験から忽然と姿を消したな。まるで元々存在していなかったかのように。」
「ま、元々存在してなかったのは正解っちゃ正解っすよ、カカシ先生。第十一班は元々火黒と黒凪が火影様にごり押ししてできた班なんで。」
そう。だからこそナルトは見かけた黒凪達を追いかけて来たのだろう。
偶然任務先で出くわしただけの彼等にとっては傍迷惑な話だが。
「そろそろそいつ返してくれませんか。マジで。」
「…お前等知ってんのか? サスケが里抜けしたこと…」
「はー…知ってるよ。俺らは暗部とも動いてるからな。」
気だるげにそう閃が応えると、暗部という名前に反応したカカシが目を細めた。
「それはつまり…間一族もサスケの始末に乗り出してる、と?」
「なっ…」
「え⁉」
ナルト、サクラが声をあげ閃へと目を向けると、閃は否定も肯定もしない。
しかしこの状況で無言を貫くことは「Yes」と取られても仕方がないだろう。
「なんで間一族が暗部と動くんだってばよ⁉」
『なまじ私たちの力が強い分、厄介な任務は全部こっちに流れてくるからね。――そりゃあうちは一族の唯一の生き残りが三忍である大蛇丸の元へ行ったから始末しろ、なんて面倒な任務…もちろんうちの領分でしょ。』
「…俺は妥当な判断だと思うがな。サスケもそれは承知の上だろ。」
「なっ、限テメーそれマジで言ってんのか⁉」
限の言葉に頭に血が上ったナルトが彼へと掴みかかろうとした時、その間を1つの影が走り抜けた。
いつの間にか腕の中から消えている黒凪に目を見開いたナルトが周辺を見渡すと、限たちの傍に立っていたその人物に目を見開く。
カカシとしてはそんな速度で動ける人間といえば1人しか思い浮かばず、息を吐いてからそちらへと目を向けた。
【なーにやってんの。任務中だろ?】
「火黒センセ―…」
「火黒…」
包帯の隙間から覗く大きな口がニィ、と弧を描いた。
【よォ、九尾の化け狐クン。】
『あれ? 火黒あんた良守君は?』
黒凪がそう言って火黒を見上げたと同時に、
「かーぐーろぉおおお」
【遅ェから置いてきた。】
「墨村か…」
「またうるさくなるな…」
遠くから聞こえる声に限と閃が目元を覆い、うなだれる。
そんな2人に「あ、ちなみにあの “犬” もいるからな」と火黒が言うと余計に2人が肩を落とした。
それと同時にずざざ、と若干スライディングしながら足を止め、肩で大きく息をする青年が1人、それからその傍で浮かぶ白い犬が1匹。
そしてその様子を怪訝な様子で見ていた第七班はその犬の口調に目をひん剥く事になる。
【ちょっと火黒、アンタ何やってんのさ! んもう、アタシらを放って全速力で走るなんてどうかしてるんじゃないかい⁉】
「…オカマ?」
「オカマだってば」
サクラとナルトがそう呟く中、「か、ぐ……ろぉぉ」と息も絶え絶えにいうのは、そんなオカマ口調の犬と共にやってきた青年だ。
【遅かったなァ良守クン。】
【ほら良守、しゃんとしなよだらしないねえ…】
「ん、なこと…言ったって、よお…斑尾(まだらお)…」
良守と呼ばれた青年は依然として呼吸を大きく繰り返し、斑尾と呼ばれた犬は呆れたように彼の周りを右往左往とする。
そしてやがて息を整えた良守は息を大きく吸うと、ずびし、と火黒を指さした。
「…てめ火黒! 急に走りだすんじゃねーよ!!」
【んなこと言ったってなァ】
「んなこと言ったってなァ…じゃねーよ! しかもまた黒凪か! 黒凪なんだな!? またかよ!」
なんてがみがみと文句を言い始めた良守にナルトが「なんか、すっげー元気な奴がきたってば…」と正直な感想を述べると、それを聞いた良守がそちらへ目を向けた。
「んあ? …あれ、どっかで見た顔だなお前…?」
「え、俺だってば?」
【あれだろホラ…九尾の。】
「…あー、うずまきナルトか。」
自信を指さして小首をかしげたナルトを見て斑尾が言うと、やっとピンと来たらしい良守が納得したように答えた。
「俺のこと知ってるんだってばよ?」
「そりゃまあ…」
【アタシら間一族の監視対象でもあるからねえアンタは。うちはサスケと同じで何しでかすか分かったもんじゃないみたいだしねえ。】
斑尾の言葉にナルトがむっと眉を寄せる中、良守が「で?」と限と閃へと目を向けた。
「なんでお前らそのナルトとにらみ合ってんだよ?」
「昔なじみだったせいでついてこられただけだよ。」
【ふーん、災難だったなァ黒凪。】
『そうだね。じゃあ話も終わっただろうしそろそろ…』
終わってないわよ!
そう声を上げたのはサクラ。
「サスケ君の暗殺を取り下げて!」
はあ? と間一族の面々が眉を寄せる中、カカシもサクラに加勢するように「サスケは俺達第七班が連れ戻す。」そう言った。
そんな2人の様子にうるっと来た様子で笑顔を見せるナルト。
しかし「そう簡単に覆せるものでもないしだな…」と閃が苦言を零す中、あっけらかんとした様子で良守が口を開いた。
「いいじゃん。待ってやれば?」
「はあ⁉ 良守、お前なあ…」
【良守アンタまたバカみたいなこと…】
早速そう閃と斑尾が良守に掴みかかるが、良守は「本心で言いました。何が悪い?」と言いたげな表情。
まさか良守からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう、ナルト達第七班も思わずあっけにとられたような顔をしている。
「つか、そもそも抜け忍っつったってそんなにすぐ殺さなきゃなんねーの?」
「あのなあ…里の機密情報が洩れる可能性があるだろ。しかもそのサスケが大名や他の里の忍を殺してみろ、それこそ里に皺寄せがだなあ…」
「そうなる前に連れ戻せばいーじゃん。なあ?」
閃の言葉を半ば無視する形で良守が第七班にそう問いかけると、彼らは「あ、ああ…」とあっけにとられたまま頷く。
そしてそれを見て「じゃあそれでいーだろ!」と笑顔で閃たちへと目を向けた良守の額に、ついに耐えきれなくなった閃が爪をザクっと突き刺した。
「ギャー! 痛って――⁉」
「お前勝手なことばっか言ってんなバカ!」
【そうだよ良守。大体アンタ1人その気になったところでどうにもなんないだろ?】
「っ~、でも時守が言えばどうにかなるんじゃねえの? 立場的には火影と同等だろ?」
時守? その名前にナルトとサクラがカカシへと目を向けると、カカシは彼らに目を向け口を開いた。
間 時守(はざま ときもり)。木ノ葉隠れの里相談役。そして…間一族のトップ。
【確かに時守様の発言力は大きいけど…あの方は今はもう…】
「じゃあ黒凪は?」
『え? 私?』
「時守の跡を継いだんだからどうにかできんじゃね?」
ばばっとナルト達の視線が黒凪へと向かい、当の本人は「げ。」と嫌な顔を見せた。
「黒凪、今の話ホントだってばよ⁉」
『…跡をついたのはそうだけど、相談役事態はまだ父様だから無理だと思うけどねえ…。まあ、暗部に干渉させないように話をつけて、サスケの暗殺をうちが独占すれば…』
【なるほどなァ。でもそういう話は黒凪じゃなくキミのお兄サンの担当だろォ、良守クン。】
「あー…、兄貴なあ…。頭固いからどーだろーなあ…。」
途端に難しい顔をした良守にナルト達の顔も若干曇ったタイミングで、彼らの頭上から気の抜けた抑揚のない声が降ってきた。
「――何してんの? 任務中だろ?」
「あ゙、兄貴…。」
良守がそう発言したことで、頭上に立つ丸刈りの男性がまさに今会話に出ていた良守の兄だとナルト達も気づいたタイミングで閃が「頭領、助けてくださいー…」と泣き言を零すと、きょとんとした顔をしつつもこちらへと降りてきた。
2年前、中忍試験で黒凪が使っていたような透明な箱を作っては足場にしてを器用に繰り返して。
「状況が飲めないんだけど、どういう状況?」
「帰路で偶然第七班と遭遇して足止めを…」
「へー…」
「兄貴、コイツ等うちはサスケの暗殺任務を止めたいらしくてだな…。」
間一族実行部隊、夜行(やぎょう)。その頭領である墨村正守は、弟である良守の言葉に第七班へと目を向け「そうなんですか?」と確認するように問いかけた。
その問いに小さく頷いたカカシを見て後頭部を掻いた正守は火黒に抱えられている黒凪へと目を向ける。
「どうする? 黒凪。やりようはあるけど。」
『別に私は構わないよ? ただでやってあげるつもりはないけどね。』
「俺も黒凪がいいならそれでいいよ。じゃ、こっちで上手くやっておくってことでいい?」
『いいよ。』
なんと簡単なことの様に話すのだろうか、この2人は。
本来抜け忍の始末は優先順位も高いし、簡単に覆せるものではない。
それをやってのけるということは、何を要求されるやら…ここは慎重に…
そう考えていたカカシが口を開く前にナルトがばっと前に出て言った。
「俺ができることならなんでもやるってばよ! 頼む!」
「お、おいナルト…」
『元々そのつもりだよナルト。急だけど君だけでうちの屋敷に来てくれるかな。』
「おう、分かった!」
ドゴッ、とサクラの鉄拳がナルトの脳天に振り下ろされた。
その威力にナルトが地面に沈み、「何するんだってばよサクラちゃん…」と涙目で顔を上げる中、サクラが必死の形相で口を開く。
「アンタ2年も里の外にいたから忘れたの⁉ 間一族はいわば私たちの禁則地…里の法も、ルールも何も通じない間一族だけの土地なのよ⁉ 何かされたら…」
『でもナルトがうちに来ないならこの話はなしだよ?』
「っ、でも…」
『大丈夫、悪いことはしないよ。ただ私の力をちょっと使うから、他の人には見せられないし。』
それが胡散臭いのよ、黒凪…!
そう間一族を睨んでいったサクラに「同感だ。」とカカシも難色を示すが、ナルトは拳を強く握り、立ち上がって黒凪へと目を向けた。
「俺は大丈夫だってばよ、黒凪。連れて行ってくれ。」
「おいナルト…!」
「ちょっと…!」
【決まりだなァ。】
火黒のその一言にサクラとカカシが間一族へと目を向けた時には、すでに黒凪は右手の人差し指と中指を揃え、ナルトを見据えていた。
『じゃあ随分と長い寄り道だったことだし、一気に帰ろうか。』
「ったく…ナルト、舌噛むなよ。」
閃がそう諦めたように言った途端のことだった。
半透明の箱が間一族、そしてナルトを囲い、その中から全員が忽然と姿を消した。
残された箱は上から解けるように消えていき、ついには跡形もなく消えた。
その光景に顔を見合わせたサクラとカカシは顔を見合わせ、彼らを探すように周りへと目を走らせる。
ナルトが目を開き、顔を上げると、視界いっぱいに子供たちの顔が広がった。
「あ。やっと目ぇ開けたー。」
「何このにーちゃん?」
「へんなのー。」
きゃはは、と笑い合う子供たちにナルトがぽかんとしていると、子供たちをかき分けて限がナルトの元へと歩いてきた。
「…立てよ、ナルト。」
「お、おお…」
限に施され立ち上がると、自身のすぐ真後ろに建つ巨大な建物に目を見開いた。
廊下の方には先ほどまでいた面々がおり、それぞれ別々の方向へと歩いていく。
その中でその場に残った黒凪が限とナルトへと目を向け、小さく笑う。
『さて、いらっしゃいナルト。間一族の屋敷へ。記念すべきえっと…3人目の訪問者さんかな。縁があるねえ。』
「他にも何人かここに来たんだってばよ?」
『うん、昔にね。…じゃあどこでやろうかな、修練場でも借りようかね。ナルト、ついてきな。』
ナルトが靴を脱ぎ、廊下に上がって黒凪の後をついていく。
そんなナルトの後ろには限が続き、やがて巨大な修練場の中へ。
『限、扉閉めておいて。ナルトはここに立って。』
「わ、分かったってば」
ぴしゃり、と扉が閉まった音が響くと同時にナルトと黒凪を1つの結界が囲った。
久々に中から見る結界にナルトがごくりと生唾を飲む。
きっと中忍試験の時のことを思い出していたのだろう。
「えーっと…また俺の忍具、全部壊されるってばよ? 俺あんま金ねーからそういうのは…」
『ははは、壊さないよ。ただ君の中に干渉するするのに必要なだけ。』
そう黒凪が応えたと同時に瞬きをしたナルトは、次の瞬間に自身が己の精神の中…九尾の狐の前に立っていることに気付いた。
驚いて周辺を見渡すと、隣には黒凪が立っている。
『なるほど、これが九尾の化け狐か。』
【(なんだこのガキ…チャクラを微塵も感じねェ…)】
九尾から滲む冷たい殺気とその膨大なチャクラ。
それに当てられた人々が無事であったことは今までない。
ナルトは心配げに黒凪へと目を向けるが、彼女は焦った様子も全くなくてくてくと織の方へと近づいていく。
『機嫌が悪そうだからさっさと済ませることにするね。』
よいしょ。と黒凪が届く最も高い高さに、彼女の背中にも刻まれた正方形の家紋が描かれた札が貼られた。
途端に九尾が大きく目を見開きその手を檻の隙間から黒凪へと伸ばす。
あ、と声が漏れると同時に、黒凪に触れた九尾の指先からぼろぼろと崩れ出した。
九尾の殺気立った目と黒凪の目がゆっくりと交わる。
『私のテリトリー内にいるうちは万が一にも勝てないよ。…大丈夫、ナルトの邪魔も君の邪魔もしない。ただ里に何かあるといけないから…安全装置みたいなものだと思っていて。』
【テメェ…!!】
にっこりと黒凪が笑顔を九尾に見せた途端に九尾の身体が破裂するように消えた。
いや、消えてはいない。バラバラになって、破片が精神世界に浮遊している感じ。
そして次に瞬きをしたとき、ナルトは修練場に戻ってきていた。
「黒凪、今のってば…」
『九尾本人にも言った通り、安全装置をつけさせてもらっただけだよ。君が力をコントロールでいるまでの間だけにするつもりだから、悪く思わないでね。』
2人を包んでいた結界が解かれ、修練場の扉の傍に腕を組んでもたれかかって立っていた限が身体を起こし、黒凪へと目を向けた。
「終わったか?」
『うん。待っててくれてありがとうね。』
「いや…ただ、入口の方が騒がしいみたいだ。どうせナルトを追ってきた忍の奴等だろうけど…」
『分かった。…ナルト行こう。』
修練場の扉を開いて廊下に出れば、確かに入口のあたりが騒がしい。
ナルトと共にそちらへ向かうと、間一族の敷地と里とを隔てる門の傍で立っていた、夜行の副長である 刃鳥 美希(はとり みき) と 雪村 時音(ゆきむら ときね) が振り返った。
「黒凪…用事は終わった?」
『刃鳥さんごめんね。ちょっとした騒ぎになっていたみたいで。』
「無理に入ってこようとした人もいたから結界で入口を塞いでたんだけど…」
『時音ちゃんもごめんね、ありがとう。』
門にかかっている結界へと手を伸ばして空身で取り抜けると、結界からぬっと現れた黒凪に門の前に立っていた面々がぎょっとした。
『(第七班の面々と…八班、十班もいるなあ。同期が勢ぞろい、か。)』
「黒凪…ナルトはどこだ。」
「ナルトを返しなさいよ!」
まず先陣を切って声を荒げたのは第七班のカカシとサクラ。
その言葉ににっこりと笑って振り返ると、結界が解かれ控えめに門を開いて顔を見せたナルト。
そんなナルトに皆一様に安心したような表情を浮かべた。
「なんともないのか、ナルト?」
「お、おう…大丈夫だってばよ。それにしても皆勢ぞろいでどうしたんだってば?」
心配げに問いかけてきたシカマルに驚いて応えると、キバが苛立った様子で黒凪を睨みながら言った。
「どうしたもこーしたもねーよ! お前が間一族にさらわれたっつーから心配になってきてやったのに…」
「それにしたってこんな大人数で…」
『得体のしれない場所へ向かうなら、この人数は妥当だと思うよ。特に私たち間一族の戦力については里の上層部も正確には把握してないし…』
本気で何かあれば突っ込んでくるつもりだったみたいだねえ。
そう言って面々へと目を向けると、サクラや秋道チョウジ、山中いの、日向ヒナタらが若干及んだような表情を浮かべるが、シカマルが一歩前に出て黒凪をまっすぐに見据え口を開いた。
「ああ、そのつもりだったよ。そもそも里の人間を禁則地に連れてくること自体おかしい話だろ…黒凪。」
『ナルトの許可は取ってたよ。』
「こいつはバカなんだ、ここに来ることがどういうことかわかってないことぐらいお前も分かってるだろ…。」
「バッ⁉」
ナルトがシカマルの言葉にわなわなと震える中「それにしても…」とシカマルが改めて黒凪の身体を頭から足先までゆっくりと観察した。
後ろに立つ同期たちもなんとも言えない顔で黒凪を凝視している。
「こりゃあどういうからくりだ? 黒凪さんよ…。」
『企業秘密。』
「…お前…」
シカマルが何やら続けようとしたところで、びゅう、と突風が吹き荒れた。
その風に同期たちが目を見開くと、いつの間にか彼らと黒凪との間に1人の人物が立っている。
「黒凪さん、なんですこの状況?」
『七郎君?』
同期たちから「あ…」と声が漏れる。
恐らく中忍試験会場に顔を見せたこともあるから、何人かは七郎の顔に見覚えがあったのだろう。
七郎は黒凪を護るように彼女に背を向け、同期たちを薄ら笑みを浮かべながら睨んでいた。
『どうしたの、うちに来るってことは何か急ぎの様かな?』
「そんなところです。…この人たち邪魔なので、放り出していいですか?」
『うーん…』
七郎の後ろから顔をのぞかせ同期たちへ目を向けた黒凪は徐に交わったシカマルとの視線に目を細め、にっこりと笑った。
『そうだね。じゃあバイバイ、皆。』
「待っ――」
誰がそう言いかけたのだろうか。
ものすごい突風で彼らを持ち上げられ、敷地内から遠く離れた場所へと放り出された彼らは何かを言う時間もろくに与えられず、姿を消した。
七郎はその様子を満足げに見ると、くるりと黒凪へと向き直り、笑顔を見せた。
「さて、用事なんですけど…うちはイタチが訪問してきたので呼びにきました。」
『ああ、イタチが?』
「はい。用事は黒凪さんに直接話したいそうで。」
『分かった。』
「お送りしますよ。」
七郎が差し出した手を掴み、風に揺られてイタチの元へ向かうこと数分。
森の中に立つ黒いコートを身にまとったイタチを見つけると、七郎が黒凪だけをゆっくりと地面へ下ろした。
「待っておきましょうか?」
『いいよ、帰りは自分でどうにかする。』
「分かりました。」
そう言って七郎が去ったことを確認すると、黒凪が改めてイタチへと目を向けた。
『どうかした? 何か困ったことでもあった? …イタチ。』
「…ご無沙汰しています、黒凪さん。」
はたから見れば奇妙な光景だろう。
木ノ葉隠れの抜け忍かつ対罪人…うちはイタチ。
そんな彼が少女に頭を下げているこの状況は。
『うん、久しぶりだね。元気だった?』
「はい。…急にすみません、間一族にもサスケの暗殺命令が下ったと聞いたもので…」
『ああ、それで心配してきたのね。大丈夫、一旦うちでその任務は独占する形にするけど…サスケにはうちからは手は出さない。』
「…。安心しました。」
目を伏せて言ったイタチに小さく頷いて「三代目も亡くなってしまったから、心配だっただろう。」そう言うと、イタチも小さく頷いた。
『まあうちもサスケの処遇についてはうまくやるつもりだけど…流石に里を抜けてしまうと少し難しいと思うよ。最悪間一族の監視下に置くなりしないと里には戻せないかも。』
「…。」
『ま、それも君の計画のうちなのかもしれないけどね。』
「これ以上はご容赦を。」
目を逸らしそう言ったイタチにため息を吐いて、黒凪が空を見上げる。
『――と、言うわけで。』
たん、と複数の書類を机に打ちつけた黒凪が顔を上げる。
1つの机を囲む様に座っている面々を見た彼女が口を開いた。
『人手不足です。』
「…あー…」
「なんで?」
【どっからどー見ても人手不足だろォ】
納得した様に眉を下げた正守とさっぱり分からないと言う様に周りを見渡す良守。
対照的な兄弟を見てため息を吐いた黒凪を見かねて会議に出席している時音が説明する様に口を開く。
しかしかぶせる様に「七郎のトコの部下使えばいーじゃん」と言った良守の頭を叩き改めて時音が話し始めた。
「扇一族の部下の皆さんは確かに異能者ばっかりだけど、…言葉は悪いけど力不足。」
「わー、はっきり言っちゃった。」
はははと笑う七郎に「ごめんなさい」とすぐさま謝った時音だったが「でも俺もそれは自覚してる」と眉を下げて言った彼に彼女も眉を下げた。
間一族とその分家として数えられている結界師達。
彼等は基本的に暗部が扱い切れない様な仕事や里の警護を担当している。
『あのね良守君。私達に回される仕事は基本的にとても危険なものばっかりなの。』
「…そーなの?」
『そーなの。暗部が担当すれば無駄な死者が出かねないS級犯罪者の相手やとても大きな敵組織の壊滅だとか、そんなものしか私達には流れて来ない。』
それは大勢の相手に対応出来る結界術と里に認められた私達の戦闘力の高さから任されているもの。
でも実際にそんな仕事を任せられるのは七郎を覗いたこの部屋に居る全員だけ。
良守の目が部屋に居る人間に向けられる。
正守、良守、守美子、時音、黒凪の結界師と火黒、限、閃。
七郎は扇一族として里全体を日夜護り続けると言う義務がある為除外。
少ねえ!と良守が机をばーんと叩いて立ち上がった。
『でしょう?しかも単独行動は禁物だから最低でもツーマンセルになる。』
「し、繁じいと時ばあ連れてくりゃ良いんじゃ…」
『あのお二人も確かにかなりの術者だから問題はない。でもあの人達にはもしもの時の里の警護を任せてる。』
父様は木ノ葉の上層部だから勿論動けないし。
君も分かったと思うけど、この人数でこれ以上の仕事はこなせない。
その所為か少し前から暗部の被害をいくつか聞いてる。
『多分父様が私達に流される予定だった任務の中から難易度が低いものをいくつか暗部に流してるんだとと思う』
「随分気を使われてるわよね。」
「はー…暗部ももう少し頑張ってくれないかなぁ」
「…あ、夜行は?夜行の戦闘員なら…」
あいつらなら既に暗部の手伝いに回してる。
それでも暗部の人間だけが死んでうちの者は深手で済んでたりするから上も煩くってさ…。
体の作りが違うから仕方ないって毎回言ってんのにね。
両手を組んで話す正守に同調して黒凪もげんなりした様子で言った。
『大体上層部って煩いんだよ。無駄に沢山任務を流して来るくせに夜行の救護班貸せとか…』
「そんなわけで夜行もてんやわんや。…もういっそ斑尾達の封印解いてやろうかなって思ったね」
『暴れると余計に面倒だって時音ちゃんに却下されたけど。』
【アタシだってそんな下働きはイヤだね。】
俺も正直嫌かなー。
人間の命令に従う気はない。
ゆるゆると現れた斑尾と白尾。
黒凪の影から現れた鋼夜も2匹の言葉に同調した。
「じゃあどうすんだよ。」
『…そこで考えてみたんだけどさ』
1番手っ取り早いのが木ノ葉に所属してる忍以外で実力が高いのを集めるって案なんだけど。
それ誰の案?すぐさま問うた正守に「はい。」と黒凪が手を上げる。
正守は一旦言葉を止めると息を吐いて黒凪から目を逸らした。
【他の里から洗脳でもして連れて来るって事かァ?】
『それもちょっと考えた。』
「私が却下しておきました。」
【うんうん。俺もその方が良いと思うぜハニー】
んじゃあどうすんだよ!
良守が耐え切れない様に言った。
その言葉に黒凪がニヤリと笑う。
『丁度良いのが最近動き出してんだよね。』
「"丁度良いの"?」
『そ。…尾獣を集めてるって言うS級犯罪者組織。』
「…まさか暁?」
無表情で問うた守美子に「その通り。」と黒凪が頷いた。
暁だったら抜け忍だから里からとやかく言われる事もないし、悪い事に使わなきゃ文句も言われないよ。
緩く笑って言った黒凪に「どうやって従わせるつもり?」と時音が言った。
『暁のメンバーって殆どが報酬だとかで動いてる奴ばっかりで明確な目的は持ってないらしいのよ』
「一応世界征服が目的で動いてんだろ?暁って」
『それを夢見て動いてる奴が何人いるかって話よ。多分人を殺せるからだとかそんな理由の奴が大半だと思う』
「…確かにそんな連中なら手中に収めるのは案外簡単かもね。使い勝手は良いかもしれない。」
そいつ等の面倒を君が見てくれるならだけど。
正守の目が黒凪に向いた。
彼と目が合った黒凪は「勿論全ての責任は私で良い。面倒だって私が見る」と宣言する。
それを聞いた面々は「それならいいか」と顔を見合わせた。
「性格に難がある人の扱いが上手だものね。」
【おいおい、そりゃあ誰の事だァ?】
【アンタと鋼夜だろ。】
【あ?銀露テメェ…】
はいはい、喧嘩は無し。アンタもその尻尾直しなさい。
ぐぐぐと影から飛び出した鋼夜の鋭い尾を押し込み黒凪が部屋に居る面々に目を向けた。
『それじゃあ私はこれから暁に関する案件だけをこなすから。連れてくメンバーも選ばせてね。』
「何て自分勝手な…」
「諦めろ、アイツはあんな奴だ」
「…ま、俺がどうにか回すよ。」
兄貴は黒凪に甘過ぎんだよ、と目を細めた良守に困った様に眉を下げる。
すると襖の向こうから「頭領ー」と正守を呼ぶ声が聞こえた。
襖を開くと夜行の副長である刃鳥が立っている。
「刃鳥?どうかした?」
「あ、頭領。どうやら風影が暁に連れ去られたらしくて」
『暁?』
「ええ。砂は木ノ葉の同盟国でもありますし一刻を争う事態なので我々にも出動要請が。」
正守の目が黒凪に向いた。
彼女は立ち上がると「その暁の特徴は?」と刃鳥に問いかける。
すると刃鳥の背後から翡葉が顔を見せて口を開いた。
「今の所確認されてるのは1人だ。金髪の若い男らしい。」
『おー。我愛羅とタイマン張って勝ったんだ。』
「あぁ。爆発する術を使うんだとよ」
『爆発?……その場合なんて言うんだろ、爆遁?』
そんなの聞いた事無いけど…。
時音が言った言葉に皆一様に頷いた。
まあ、得体の知れない術を使うから強いんだろうね。
そう呟いて立ち上がった黒凪は徐に部屋の中を見渡した。
『んー…。1番連れて行きたいのは七郎君なんだけど…』
「僕は里の警護で抜けられないですねー。…こっそりなら行けますけど。」
「止めとけ、紫島さんが流石にノイローゼになるぞ…」
『…その爆発が術の1種なら時音ちゃん連れていこっかな。移動手段は鋼夜を使えば良いし、今回は私等だけで。』
怪我するなよ、と心配げに言った良守に時音が笑う。
大丈夫。私空身使えるし。
そう言った時音に良守が小さく頷いた。
『あ、刃鳥さん』
「ん?」
『"我々にも"って事は他に誰か風影奪還に向かったんですよね。誰ですか?』
「確か第七班と第三班だったかしら。カカシ班とガイ班って言ってたわ」
って事は勿論カカシも行ってんだよなァ。
笑いながら言った火黒に「行きたい?」と問えば「あァ」とすぐさま答えてくる。
顔を見合わせた時音が頷いた為「じゃあ一緒においで」と黒凪が笑った。
『さーて。人員補給だから殺さずにね。』
【へいへい】
「わっ、」
【ギャー!お前ハニーに何してんの!?】
時音を背に乗せて立ち上がった鋼夜が黒凪を見る。
乗れと言う合図だったが火黒が彼女を抱えた為舌を打った。
いってらっしゃい。と正守が笑顔で手を振る。
それに黒凪が手を振り返した瞬間に一斉に全員がその場から離脱した。
暁狩り、始動。
(あ。アイツいつの間に俺にメモなんか残して…、……。)
(?どうした、閃)
(…いえ、また面倒な事を任されたので…)
(…"暁のメンバーの過去を全て洗い出せ"、か。鬼畜だね)
(しかも期限が2週間ですよ…)
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