世界を君は救えるか【 × NARUTO 】

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  中忍試験


「――それでは次に、うちはサスケ 対 影宮閃。」

「え゙。」



 しん、と静まり帰った試験会場にかすかに響いた声。
 その声の主は俺が所属する、木ノ葉隠れの忍であり、今現在下忍から中忍へと昇格するための試験…中忍試験に参加する、第十一班所属、影宮 閃(かげみや せん)。
 金髪のくせっ毛を1つにまとめた華奢な彼は、この下忍の中でもトップの力量とセンスを持つ、俺が担当する第七班所属のうちは サスケが相手だということで、随分と顔色が悪い方向に一変した。



『あはは。頑張れ、閃。』

「…。」



 そんな影宮の隣であっけらかんと笑って見せた、白髪の少女は彼と同じく第十一班所属の 間(はざま) 黒凪
 その隣に無言で立つ目つきの悪い少年は、志々尾 限 (ししお げん)。同じく第十一班所属。



「む…ムリムリムリ! どう考えったってムリだろ、負けるって!」



 間 黒凪に向かってぶんぶんと首を横に振る影宮を、彼とは全く逆の落ち着きで戦闘用の広場で待つサスケ。
 ま、確かに影宮は戦闘要員って感じじゃないからねえ…。
 なんて眺めていると、影宮の背後ですっと足を持ち上げる影が1つ。



【いーから行け。】



 ドンッと音が響く。同時に影宮が客席から押し出され、広場へと落ちていく。
 ギャー、なんて叫びながら落ちていく担当下忍を見て心が痛まないのだろうか、この担当上忍であり俺の同期である…火黒は。
 呆れて眺めていれば、その包帯の間から覗く大きな瞳が俺とかち合った。



「自分の生徒でしょ。もうちょっと優しく扱ってあげなよ。」

【優しくだァ? ぬるいこと言ってんなよカカシ。】



 てめー火黒!
 しっかりと会場に着地したらしい影宮が火黒に向かってそう睨みを利かせれば、火黒がくいと顎で影宮の正面に立つサスケを示す。
 それを見てやっとサスケと向き合う気になったらしい影宮ががっくりと肩を落とした。



「始め!」



 また会場が静かになる。
 下忍同士の戦いとはいえ、死人が出てもおかしくないぐらいのものだ。
 皆緊張して事の成り行きを見守っている。



「…掛かって来いよ、閃。」



 ポケットに片手を入れ、余裕の笑みを浮かべて言ったのはサスケの方だった。
 そんなサスケをげんなりと見つめ…やがて影宮が片手を持ち上げる。



「辞退します。」

「分かりました。」



 うぉい! とルーキー達から一斉に声が上がる。
 しかし影宮は特別機にした様子もなく両手をポケットに入れて身体を丸め、踵を返した。



「待てよ。それでいいのか? お前…」



 そんなサスケの言葉に影宮は振り返らずなんでもないことのように言った。



「お前相手じゃ擦り傷程度じゃぜってー終わんねーし。諦めも肝心ってコトで。」

「――では不戦勝として、勝者はうちはサスケ。」



 審判の声に耐えきれないように声を上げたのは、サスケと同じ班に所属する意外性ナンバーワン忍者…うずまきナルト。



「ふざけんなー! お前めっちゃダセーぞ!!」



 身を乗り出してそう怒声を浴びせるナルトにギロッと影宮が目を向けた。



「るせぇ!お前には一生分かんねぇよナルト!」

「んだとぉー!?」


「では次の試合に移行しましょう。」



 そしてそんな言い合いに全く動じないのが、この試合を統括する審判。
 手元のノートを見下ろして次の対戦相手を確認し、口を開いた。



「第十一班より間黒凪…そして第七班よりうずまきナルト。」

「ぅおっ?」



 影宮に今まさにまた何か言ってやろうと息を吸ったナルトが素っ頓狂な声を上げる。
 そしてババっとその両目が、今まさに影宮が戻ったあたり…第十一班を映した。



「(え、相手って黒凪? 俺より運動できねーへっぽこじゃん…)」

『(うーん、相手はナルトかあ。どうしようかな。)』



 分かりやすくぱあっと顔が明るくなるナルト。
 何を考えてるかなんとなーく分かる…そんな中で、ナルトの視線に気づかず何やら考えている様子の黒凪とは違い、ナルトの視線に気付く形で彼へと目を向けたのは火黒。
 ニヤリと笑った火黒に顔色を一変させるナルト。うん、ホント何考えてるか手に取るように分かるなお前…。
 そんなナルトは、この試験以前にカカシと交わした会話を思い返していた。



《そう言えば第十一班だっけ? 凄いらしいね。》

《十一班? …あぁ、限とか居るトコだってば?》

《ああ。なんでも早速Bランクの任務を成功させたらしいネ。》

《えっ…Bランクの任務は下忍に渡されない筈でしょっ!?》



 がばっと立ち上がって言ったサクラに困ったように頬を掻いて、グサグサと突き刺さる担当下忍たちからの視線に眉を下げる。



《いやー…それが、さ。その第十一班の隊長は俺の同期なんだけどな?》

《ふんふん》

《それがまぁ火影様も扱い切れない問題児なワケよ。Bランクを寄越せって直談判したらしくてなあ。》



 途端に上がる、おおお…という絶句の声。
 この子たちにとっては火影様は厳しくもあり、少し怖い存在でもあるはず。
 その火影様が扱い切れない問題児という言葉はなかなかのパワーワードであるだろう。



《ま、もともと火黒はなんというか…戦う事に関しては見境が無い感じでな。状況によっては味方でも殺しかねない。》



 ごくり、とナルトが息をのんだ。
 そんなナルトにうず、と少しいたずら心がうずいた俺。にっこりと笑って…



《…ま、目だけは付けられるなよ♪》



 …なんて、ナルトに言ったことなんてもちろん当の本人は忘れているわけで。
 だがしかしナルトにとっては別。目だけはつけられるなという担当上忍のアドバイスをすっかり忘れていたわけだが、文字通り目をつけられた風な今の状況にナルトは反射的にぐりんっと視線を180度回転させた。



「(ヤバイヤバイヤバイ!)」

【(長く “この世界” で生きても個人が持つチャクラの大きさなんてもんはさっぱりだが…)】

『さて、と。』

【(うちのとどっちがデケェかな。)】



 階段を使ってゆっくりと会場へと降りていく黒凪とナルトとを交互に見る火黒に目を細める。
 長い付き合いだが…相変わらず何を考えているか分かったものじゃない。そんなことをカカシは1人思っていた。



『ナルト、早く。』

「ぅえっ⁉ お、おうっ」



 黒凪とは違って柵から身を乗り出し会場へと大きくジャンプ、そして着地したナルトを眺めてから、もう一度火黒へと目を向ける。
 火黒は…空を見上げていた。



『――ん?』



 黒凪の小さな声に会場へと目を向ける。
 …率直に、奇妙な光景だと思った。まあ、それと同時に彼女の白い髪が日の光に反射してキラキラと光ったから、それほど気持ちの悪いものではなかったが。



「な、なんだってばよその術⁉ なんでお前の周りだけ風が吹いてるんだってばよ⁉」



 そう、ナルトの言う通り…風が吹いているのだ。彼女の周りだけ。
 でも暴風だとかそういったものではなく…彼女の白い髪を優しく救い上げるような、撫でているような…そんな、優しい風が。



「――黒凪さーん!」

『ふふ、結局来たんだ。』



 柵に足をかけ、さわやかな笑顔を浮かべて手を大きく振る美しい青年にざわ、と試験会場にいる下忍くノ一たちが顔を見合わせる。
 それはもちろん面食いの、うちの班のサクラも同様で。
 しかし正直中忍や上忍である俺たちにとっては、その端麗な容姿よりも黒凪の周りを動く “風” に息を飲んだ。



「君は確か…扇(おうぎ)一族の…⁉」

「えっ? あぁ…ええ。扇七郎と申します。」



 途端に、上忍たちから「七郎だと⁉」と驚く声が上がる。
 それも無理はない…扇一族は代々この木ノ葉隠れを一族の人間のみが扱える血継限界である “風” を使って守護している。
 そしてその中でも扇七郎は扇一族の次期当主であり、その実力は歴代の中でもずば抜けて高いと言われている――。



【今日は来んの難しいって言ってなかったかァ? 君。】

「仕事を切り抜けてきました。」

「おいおい…紫島さんがいい加減ぶっ倒れるって…」



 そんな風に当たり前の様に扇七郎と会話を交わす火黒と影宮。その隣に立つ志々尾も別段驚いた様子がないところを見ても、顔見知りなのだろうが…。
 扇一族は里を守るという重役を任されている性質上、里の中でも一部の人間としかコネクションを持たない一族だ。
 そんな彼らと関係を持っているなんて、彼らは一体…。



『この風は私のものではないから、怯える必要はないよ。ナルト。』

「え⁉ お…おう、それぐらい俺にも分かってるってばよ!」

『それは失礼。』


「では、開始。」



 警戒したようにナルトがクナイを構えた途端…半透明の箱のようなものがナルトを囲った。



「へっ?」

『悪いねナルト。君とは極力問題を起こさないようにと父から言われているから。』



 眉を下げて微笑んで言った黒凪が試験官へと目を向け、これでは試合は終われない? と問いかけた。
 そんな彼女の言葉に何も返さない試験官を見て黒凪が試験官から目を逸らさず一言。



『滅。』


「――キャアッ!?」



 バンッと大きな音を立てて破裂した “箱” にサクラが悲鳴を上げる。
 もちろん俺もナルトが押しつぶされたのではないかと思わず身を乗り出した。
 幸いにもナルトはそこに居て、彼自身何が起こったのかわからない様子で周辺をきょろきょろと確認している。



『これでどうだろう? 忍具を確認してくれるかな。ナルト。』

「に、忍具…?」



 ナルトがポーチを持ち上げ、その感触に眉を寄せ…ひっくり返した。
 途端にさらさらとポーチから落ちた砂のような鉄に会場が息を飲む。
 あの “箱” でナルトの忍具のみを粉々にしたのか…⁉



「では…そこまで。」

「ちょ、俺はまだいけるってばよ!!」

「うずまきナルト、客席へ…」

「多重影分身の術…!!」



 ぽぽんっ、と音が響き会場中にナルトが現れ黒凪を取り囲んだ。



「忍具なんかなくたってなあ…俺は戦えるんだってばよ!」



 おりゃあ! と大量のナルトが一気に黒凪へと向かっていく。
 黒凪が構え、彼女の周辺をどす黒い球体の何かが囲む。途端に俺の背中に悪寒が駆け抜けた。



「な、ナルト待て! “それ” に飛び込むな――!」


「――オリジナルの位置をしっかり見ておいてよかった。」

「そうね。」



 途端に客席の柵を飛び越え、2人の影が会場に降りて行った。
 そして体の大きな方…男だろうか。が大量にいるナルトの影分身たちの中から1つだけを選び取り、後ろへと放り投げる。
 その男とタイミングを同じくして会場に降りた長髪の女性は試験を観戦していた三代目を見上げ、



「こんにちは。火影様。」



 と抑揚のない声で言った。
 途端に男に放り投げられたナルトの集中が切れたせいだろう、分身たちが消えていき、黒凪もそのどす黒い何かを解いた。



「ふむ…墨村か。」

「ええ。少し急用が。」

「ああ、火影様にではないですよ。うちの “頭” にです。」



 女性の言葉に補足するように言って先ほどナルトを放り投げた丸刈りの男が黒凪のもとへと歩いていく。
 そこですべてが俺の頭の中でつながった。



「やっぱり “間(はざま)” っていうのは…!」

【…ふーん。”急用” な。】

「っ、火黒…?」



 間一族。正方形の形をした家紋を持つ、結界を形成する血継限界の使い手。
 2つの分家があるとされ、確かその名前が墨村と雪村だったはず。
 その未知数な実力と汎用性の高い血継限界から木ノ葉隠れの裏の任務を生業とし、その影響力は一国を支配下におけるほどだと噂されている。
 構成人数、能力など何もかもが同じ里の忍びにさえも知らされていない、謎の多い一族…。



「んの、なんだってばよコイツ等はぁ!」

「ナルト!」



 立ち上がって向かっていこうとしたナルトを制止すれば、ナルトが驚いたようにこちらを見上げた。



「戻れ。今のお前じゃひっくり返っても勝てない。」

「っ…」



 ナルトが足を止めると同時に、黒凪の周辺に火黒、影宮、志々尾、扇七郎が集まった。
 その様子を見て火影様が立ち上がり、その視線が徐に火黒へと向かう。



「説明してくれるかのう? 火黒。」

【…いや、こりゃあアンタに話しても分かってもらえねえ案件だな。火影サマ。】



 その軽々しい物言いに火影様の額に軽く青筋が浮かんだ。…ような気がした。



【こっからは “こっち” の問題だ。俺ら間一族は暫く里に手助けもできそうにない。】

「何?」

【ま、事が片付いたらうちの当主サマが連絡送るよ。】

「…当主。」



 ふむ、と火影様の視線が少し移動する。
 この角度からは火影様が一体あの中の誰を見つめているのかなど、見当もつかなかった。
 ただそれでもなぜか、…なぜか。



『…。』



 火影様があの中でもひときわ体の小さな間黒凪を見たような気がしたのは、気のせいだろうか。



「じゃあ、失礼します。」



 最後にそう言ったのは扇七郎だった。
 彼がそう言ったと同時に突風が吹き荒れ、それが晴れた先の会場に立っているのはナルトだけで。











































『――折角他の世界にお邪魔するのであれば…我々はもう少し穏便に来るべきだと常々思うのだがね。』



 そう、ぽつりと呟いて少女が地面に足をつけ、その顔を上げた。
 視線の先にあるのは、屋敷。それも随分と巨大で、暗く…。
 傍にはそこにある “力” に当てられた妖混じりたちが血走った目をしてうごめいている。
 しかし中に入ることが出来ないのは、屋敷を囲う結界があるせいだろう。



黒凪!」

「ごめん! 急だったから結構影響が広がって、今しがた抑え込めたところなの…!」



 そう焦った様子で駆け込んできたのは、一足先にこの場で事の対処に当たっていた良守と時音。
 この2人と共に結界を作ったであろう、2人の祖父母に当たる繁守、時子は恐らく反対側で結界の維持に努めているらしい。何やら言い争う声が聞こえる。



「悪い、少し遅れただけで夜行の面々はほとんど力に充てられて意識飛んでて…」

『そうだねえ。…七郎君、限と閃と火黒、離さないでね。』

「言われなくとも、結構本気で拘束中です。」



 そう苦笑い気味に言った七郎の傍には邪気を抑えきれない様子の3人がいる。
 彼らをそうさせる存在とは少し距離があるおかげでまだ自我を保っているようだが、これ以上近付くのは危険だろう。



「当てはあるのか? 黒凪。一応開祖が中に入ってるが…正直月影様も無事か分かったものじゃない。」



 そう苦い顔で言った正守に眉を下げた少女…黒凪は屋敷の周辺をうごめく妖混じりたちを己の結界に閉じ込め、良守たちが作った巨大な結界に触れる。



『まあ、どうにかしてくるよ。…これでも ”姉" なのでね。』



 どぷん、と水の中に入ったような音が響き、結界をすり抜けた黒凪が屋敷の中へと進んでいく。
 本当、息をするように他人の結界をすり抜けていく。その神業にこめかみを掻き、息を吐いた正守が巨大な地響きに顔を上げた。



「里の方でも何か起こってる?」

「え? えーと…。」



 正守の問いに顔を上げた七郎が上昇し、音のした方向へと目を向ける。
 そしてしばし沈黙すると、正守へと目を向けた。



「一尾の尾獣が暴れてますね…。」

「え? 里で?」

「はい。…どうします? 見ている限りうちの人間も何人か加勢には行ってるみたいですが。」

「…ならどうにかなるか。正直こっちの方が重要だしな。…少なくとも俺たちには。」



 それもそうですね。
 そう呟くように返して、七郎の目が屋敷へと向かう。
 まがまがしい邪気が変わらずあふれ出すこの屋敷の中に入った黒凪について行けないことが、彼を不安に駆り立てていた。
 この屋敷の中にいる存在のことは、ある程度理解しているつもりだ。それでも。



「(黒凪さん、どうか無理はしないでくださいよ…)」
































 暗く広がる異界の中を通りながら黒凪は1人物思いにふけっていた。
 ただただ、今自分が置かれた状況を不思議だと、そう考えていた。



『…』



 思えば、以前の世界での死は随分とあっけないものだったように思う。
 結局千年余りの時間を生きたが…最終的に自分の手でその命を絶った。
 最期の最期まで一緒にいてくれたのは、火黒だけだった。



「――! 黒凪…」



 赤ん坊の鳴き声が響き渡る中で、一番最初に黒凪に気が付いたのは妻である月影の肩を支え、必死に赤ん坊…宙心丸の力を抑える時守だった。
 父を信じるならば、宙心丸は以前のように力を彼から与えられた存在ではなかったはず。
 にもかかわらず、かつてあった烏森と同等の力を有する双子の弟を見て黒凪は…ああ、運命は覆せないのだなと、諦めの気持ちを浮かべた。
 …一つだけ違うのは、父が必死に守った、母だけ。



『父様、母様。どうしましょうか、その子…』



 2人の目が黒凪のものと交わる。
 黒凪は沢山の意味を込めて、先ほどの言葉を放っていた。
 どうする? 以前よりも私なら上手くやれる。どうする? 以前とは違って、早いうちに命を奪ってやった方が幸せかもしれない。
 どうする? また私を…犠牲にするか?



「…黒凪、」



 母が黒凪の名前を呼ぶ。
 この世界に来てから何度か話したこの人とは、未だその距離を測りかねていた。
 けれどこの時ばかりは以前自分が母だったことを思い出したか…まっすぐに私を、母がするように見つめて。



「まだ子供である貴方にこんなことを頼むのは、私もどうかと思います。けれど…助けてくれませんか?」

『……』

「時守様がこのような状況で、宙心丸を助けてやれるのは貴方だけなの…」



 つい、と幽霊のように半分透けているような父を見て、目を伏せる。
 まだマシなのは…私に決める猶予を残しているところ、か。



『…外の世界とは隔絶した、新しい異界を作ります。…この子の、この巨大な力をどうにかするすべができるまではそちらに留まっていただくしかない。それが、宙心丸を殺さずにできる最善策です。』

「…分かりました。私もこの子と一緒にそこで暮らします。」



 母が迷いなく弟を選んだ事、哀しくはない。
 私にはもう家族がいる――寂しくはない。



『たまには会いにきます。母様、父様――宙心丸。』



 白い結界が広がり、ぶつん、とこの空間と外側とを完全に隔てた。
 邪気も何もない。ただの、静かな屋敷。
 ここまで高度な事を、息をするようにやってのけた己の娘を見て――時守は震えた。
 単純に、その力量の高さに、自由さに。
 まさに人間を超越した、その存在に。























『みんなの調子はどう?』



 笑顔で屋敷から出てきた黒凪は目を回して倒れている妖や、妖混じりに眉を下げて言った。
 随分と清々しい顔をしている。そう思った。



「ん、大丈夫。それより里なんだよね。」

『里?』

「尾獣…その一角、一尾が暴れてる。」

『――…。』



 また地面が大きく揺れる。
 強い風が吹き、黒凪の白い髪が揺らめいた。



『大丈夫、きっと木ノ葉の尾獣がどうにかする。私は壊れた器…里を治す。それだけのことだ。』

「君がそう言うなら、そうするけど。後々文句を言われるかもね。」

『構わない。説明しても彼らには分からない…里の危機の裏側で、私達にとっても危機と評して良いほどの出来事が起きていたことなど。』



 彼らは我々が何者なのかも、分からないのだから。



 緊急事態

 (あーあ。下忍というものもそれなりに楽しかったのに。)
 (良く似合ってましたよ、その額あて。)
 (…捨てておくか?)
 (…。そうだね。もう使わないからね。)


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