番外編
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君を置いて
完結後の火黒と夢主のお話。
『あー……、…どう、しようか。』
【…さァ。】
物凄い勢いで雨粒が叩きつけられる様に落ちてくる。
視線の先は2人共地面、正しくは自分の足元を見ていた。
その視線の先には、真っ赤な赤。
『…なんで治せないんだろう…?』
【…コイツ等妖混じりだからなァ。そろそろガタが来たんだろ。】
『…ガタ…』
半分人間なんだぜ?俺や君と違ってさ。
100年生きたんならよくやった方だと思うけどなァ。
いつもの調子で、そう火黒が言った。
今日もその"いつも"だった筈だった。只の任務だった。…ただ、
『(ただ久々に2人が下手を打っただけで。…ただ久々に、致命傷を負っただけで。)』
ただ、…私が、治せなくて。
未練たらしくなくて良いんじゃね?こいつ等らしくてさ。
そう言って火黒がしゃがみ込む。
血塗れになった閃と限はぴくりとも動かない。即死だった。
火黒の脳裏に過る。
《出来る事ならさ、俺一瞬で死にてーなあ…。》
《あー、痛みが無いからか?》
《いや、…助からないくせに変に生きてたらなんか黒凪がやるせない気持ちになっちまいそうで。》
《…そろそろ俺も閃も傷が治りにくくなってきた。多分身体が限界なんだ。》
俺達は竜姫さんみたいに妖寄りの妖混じりじゃないから。
限が無表情に言った。もう十分、なんて言いたくないが。
そう前置きをして、眉を下げて言った。
《人じゃ到底無理なぐらい、生かしてもらった。》
《…あぁ、そうだな。》
《……》
自分が死ぬ、か。
そんな事は考えた事も無かった…――。
そんな事を火黒が1人思う。
妖に成り、悠久の時間を生きて。そして黒凪と出会い新しい生き方を見つけた。
…そして今。久々にとても身近な場所で死を目の当たりにした。
【……。】
『…どう、生きたら良いのかな。』
【…】
『どうしたら良いか分かんなくなった…』
雨に紛れて黒凪の涙が彼女の頬を伝う。
彼女の言葉を聞いて火黒が振り返り「そうか」と限と閃に目を向ける。
黒凪にとっての生きる理由は。
《正守、…正守――…》
《…頭領…》
《っ、う…》
《……》
黒凪が名を呼ぶ正守は床に伏せったまま、あまりに呆気なく息を引き取った。
彼女の隣に居る限は眉を寄せて一言彼を呼び、閃は涙を流すだけ。
正守の側で寝そべっていた鋼夜は何も言わず。…火黒も、何も言わなかった。
この時から少しずつ、黒凪の生きる理由が消えて行っていたのだろうか。
《烏森も無くなってもう100年…。時守様も居ない、役目も無い。…そろそろ一緒に森へ戻るとするかねえ…。》
《…行こう、銀露》
鋼夜も斑尾と共に森へと帰って行った。
風の噂で森は開発の為に解体されたと聞いた。恐らく彼等ももう。
白尾は烏森の役目を終えて50年程で昇天して行った。
…100年前の人間達は勿論生きてはいない。扇七郎も20年程前に息を引き取っていた。
《あー…、羨ましいなあ、黒凪さんは綺麗なまんまで…》
《…あんただってずっと色男だったじゃん。》
《はは、…そんな事、僕に対して一度も思った事…ない癖に…》
最後まで嘘か本当か分からない様な飄々とした口調のままで彼も逝った。
残っていたのは限と閃と火黒だけ。
…遂に、2人まで亡くなって。最後には2人ぼっちになってしまった。
でも。
【(俺は別に2人でも平気なんだけどなァ…)】
『……』
【(…ま、そうはいかねェか)】
自分にとっての生きる理由は黒凪ただ一人。
彼女が生きていればそれで良いし、今もこうして共に生きていられるのだから苦な事はない。
しかし彼女はそうではないのなら。…そうなら、自分は。
【…君の好きにしなァ】
『…?』
【死にたきゃそうすりゃ良い。…ただ】
君が死ぬ時は、それより前に俺を殺してからにしてくんない?
にやりと笑って火黒が言った。その言葉に黒凪の涙でぐちゃぐちゃになった顔が彼に向けられる。
【君、置いてかれるのも置いてくのも嫌いだろ?】
『…あんたぐらいだよ』
【ん?】
『私の事分かってて、私のしたい事をさせてくれるのは。』
その言葉を聞いて火黒がまた笑う。
思えば境遇も、今の状況だって全て同じだった。
殺伐とした時代に生まれ、人ならざるものになって、世界を一度斬り離し。
…結局こうして、独りじゃ何も出来なくなって。
簡単に死ねない自分を殺してくれる存在を、求めて。何て悲しいのだろう。
『…眺める者、』
ふっと1人の流れる者が現れる。
全てを眺めていたのだろう。何も言わずに彼は手を差し出した。
その手を見て黒凪が胸元から小さな球体の光を取り出す。
【…魂蔵か?】
『はい』
【喰って良いんだな。】
『…はい。』
黒凪から光を受け取りバクッと眺める者が飲み込んだ。
彼の思い切りの良い所は好きだなあ。そんな風に思いながら微々たる残りの力を確認し、火黒に目を向けた、黒凪。
火黒。そう言って手を広げた黒凪の姿は徐々に大人のものへと変わっていく。
『ほら、まだ綺麗なうちに。』
【…今更見た目なんてどうでも良いさ。】
彼女の身体が若い大人の姿に成ると火黒の手が黒凪の背中に回った。
黒凪も火黒の背中に腕を回し、目を閉じて絶界を発動する。
途端に火黒が塵となり、黒凪も力を使い果たして足元や手先から灰の様に崩れていった。
『…、』
【最後の最後まで送る側とは悲しいものだな。】
『…悲しくなんて無いさ。私は大切な人達の最期に側に居られたんだから。』
あの子達の人生が私の元で終わって、それで良かったのかは分からない。…でも。
皆満足そうにしてくれるんだよ。優しいよね。
眉を下げてそう言い消えて行く。
その様を眺めていた眺める者は小さく笑って空を見上げた。
【――…随分と満足そうな最期だった。】
最期に共に居たのは、
(私が居ない世界でどう生きていけば良いのか、)
(そんな風に言った火黒に私は思ったんだ)
(きっと彼の最期は私の目の前だって。そしてきっと、)
(私の最期も、彼の目の前だって。)
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