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  ぜしもの

  転生トリップではありません。
  あくまでも結界師の世界と夏目友人帳の世界は同じ設定。
  時間軸的には結界師長編終了後ぐらいかなと。
  夏目友人帳 無印 十二話 より。



【ふむう。腕に呪いを受けたなあ? 夏目…】

「え、呪い…?」



 俺の腕に触った途端、雷に打たれたように縮んでいったニャンコ先生をじいっと見て、そのマスコットのような姿に思わず笑ってしまいそうになる。
 それでも元気そうに今のサイズの何倍もあるドーナツを頬張るニャンコ先生を見てほっとした。
 それにしても、ニャンコ先生がこんなになるなんて…強力な奴に当たってしまったのだろうか。



【しょうがないなあ…私の代わりの用心棒としてほれ、友人帳を使って前に会った三篠(みすず)を呼び出せ。】

「そんなことできるのか…?」



 そうして夜中に家を抜け出し、早速家の近くでニャンコ先生の言う通りに儀式を施して…鈴の音とともに目の前に現れた人の体と馬の顔を持つ三篠を見上げた。



【夏目殿…お久しぶりでございますなぁ…】

「この前は名前を返し忘れてすまない。三篠、力を貸してほしいことがあって…少し付き合ってくれるか?」

【ふむ…よろしいでしょう。】



 これなんだけど…と、ニャンコ先生に呪いだと評された左腕の赤いあざを見せると「おや…」と三篠が目を細めた。



【呪いの印…これはまずい。だが私は呪いに詳しくない。代わりの者を…うん?】



 ざあ、と風が吹くと同時に三篠が顔をあげ、俺の高校の方向を仰いだ。
 肩にちょこんと乗っているニャンコ先生の毛も逆立ち、唸り声をあげる。
 なんだ? 2人とも何に反応して…、⁉



「いっ⁉ っう…」

【夏目⁉】



 俺が急に蹲ったためだろう、ニャンコ先生が焦ったように声をかけてきた。
 三篠も鈴の音を鳴らしてこちらを振り返り、痛みに悶える俺を見下ろした。
 なんだ…⁉ 急に、呪いを受けた左腕が焼けるように痛く…!



【これは…】



 三篠の声に腕を見ると、呪いが手首の方から徐々に消えていく。
 というより、焼け焦げて灰になっていくような…。



【ふむ…呪いが消えていく…というより、呪いをかけた主の命が尽き始めている…。これほど強力な呪いを残すものが突然どうしたというのか…】

「(うぅ、焼けるように…痛い…!)」



 そうして呪いが完全に消え去り、途端に呪いの影響でしぼんでしまっていた先生のサイズもぽんっと元に戻った。
 途端にニャンコ先生が元の姿…斑の姿に戻り、先ほど三篠が見ていた方向、高校の方向へとものすごい勢いで走っていった。



「え、ニャンコ先生⁉」

【夏目殿、追いましょう。】

「あ、ああ…!」



 三篠の髪に捕まってものすごい勢いで森の中を突っ切り、高校の傍を通りさらに奥へ…って、この方向、俺が呪いを受けた場所に近い…。
 っていうか、まさにその場所なんじゃ…。
 視界が開け、三篠が動きを止める。その反動でぐんっと身体に重力がかかったが、それをどうにかやり過ごし目を開けると…。



「せ、先生⁉」



 なんと説明していいのかわからない状況が広がっていた。
 ただ見たままを説明すると、襲いかかろうと飛び上がったニャンコ先生がその体制のまま、身体の節々、そして大きく開けた口までも透明の箱で固定されているのだ。
 そしてその先に立つ少女は何食わぬ顔で錫杖を地面に打ち付け、砂埃の様に舞っている何かをその錫杖で掃除機の様に吸い込んだ。
 とにかく先生だ、先生を助けなければ…!



「先生…!」

【お待ちくだされ夏目殿。あれは…】



 飛び降りようとした俺を制止した三篠がじっと少女を見つめ、その錫杖を見つめ…そしてニャンコ先生を拘束する透明の箱を見つめ、言った。



【あれは結界師…】

「けっかいし…?」

【なるほど、どういうわけか同じ個体だ…】



 人を個体って、なんて突っ込みは喉につっかえた。
 それはきっと普段ひょうひょうとしている三篠がめいっぱいに警戒して少女を見つめていたから。



【斑…そんなことでは “また” 封印されるぞ…。】

【っ、黙れ…!】



 え、”また” ? 今、またって言ったのか…? 三篠…?
 ギリギリ、と鈍い音が響き、ニャンコ先生が口を拘束していた透明の箱を噛み砕く。
 そして関節を抑えている透明の箱も破壊し、その様子に「ほう。」と呟いた少女を睨みつけ、唸った。



【貴様ァ…】

『先ほどから一方的に恨まれているようでこちらとしても混乱しているんだ。良ければ順を追って…』

【一方的に、だと…? この私を封印しておいて、何をぬけぬけと…!】

『…なるほど。すまないが、封印は数えきれないほどやってきた。いつどこで封印した誰なのか…』



 そのひょうひょうとしたというか、少し馬鹿にしたような態度。
 もちろんそんな態度をニャンコ先生が甘んじて受けていられるはずもなく、ニャンコ先生がその鋭い爪を少女に振り下ろした。
 しかし今度は透明の箱を自身を攻撃から護るように設置し、箱越しにニャンコ先生を見上げる少女。
 白い髪に、真っ黒の瞳。胸元にはひし形の…家紋だろうか? そして、先ほど塵を吸い込んでいた錫杖。そんないで立ちの女の子が普通の人間なはずがない。



「み、三篠! どういうことなんだ、説明してくれ!」

【私も詳しくは存じておらぬのですが…あの結界師こそがまさに斑を招き猫へと封印した張本人…】

「で、でもニャンコ先生が封印されたのって何十年も前だって…! あの子俺より若いぞ⁉」

【だから私も混乱しているのです…何故あの人間があの頃と同じ姿でいるのか…】



 と、とにかく止めた方が良いんじゃないか…⁉
 ニャンコ先生を封印したのが本当にあの子なら、また封印されてしまうかもしれない。
 かといって、万が一ニャンコ先生があの子を傷つけてしまったら、それもそれで…。
 ええい、考えるよりも先に動け…!



「ストップ! ニャンコ先生、落ち着いて…!」

【貴様のせいだ…貴様のせいで私は何十年も封印され、動けなかったんだぞ…!】

『…ふむ。ここ数十年のうちの封印か…いやはや、物覚えが悪くて申し訳ない。』

【ふざけるな…!!】



 あーもう! 落ち着けってー!
 そう、気付けば拳を振り上げめいいっぱいニャンコ先生の鼻先に振り下ろしていた。
 途端に大きく目を見開いたニャンコ先生が元の招き猫の姿に戻る。
 そしてぼふっと地面に落ちたその姿を見て、やっと少女が「あ。」とひらめいたように目を少し見開いた。



『確かに…どこかの大妖怪を傍にあった招き猫に封印したかもしれないな。それにしてもまた下手に封印を破ったねえ。』

「! (ってことは、三篠の言う通り本当にこの子が…⁉)」

『今日ここで呪いを自力で解きかかっていた悪鬼に関しては数百年も前に施した封印だったから合点はいくものの…どうやってその封印を破ったんだい? 気になるなあ。』



 ふむふむ…。とニャンコ先生を観察し、徐に少女の目が三篠へと向く。
 その視線を受けて三篠もぴくりと微かに動き、たじろいでいる様子が見て取れた。



『君かな? 随分と高貴な妖怪だね。…それとも、君かな。』

「っ!」



 初めて視線が交わった。
 真っ黒な瞳にかすかに月のようなものが浮かんでいるようなその瞳に吸い込まれそうだった。
 まるで真夜中の水面だ。月を映す、水面…。



『その顔は図星かな。君、裏会に登録している?』

「…え、裏会?」



 そう問い返せば、「なるほど。」そう言って少女がこちらに近付いてきた。



『君ほど霊力があるのなら登録しておいた方がいいな。今時間はあるかい?』

【むむっ…貴様! 夏目に触るなぁ!】

「ニャンコ先生…!」



 小さくなったニャンコ先生が俺の前に出て少女を睨みつけ唸り、三篠もその大きな左手を俺の前に振り下ろした。
 俺と少女との間を隔てるように下ろされたその左手を見上げると、三篠の警戒したようなまっすぐな視線が少女を捕らえているのが見える。



『ふむ、高い霊力を持ち、その上高貴な妖怪二匹を従わせている…か。』



 少女が手を胸元に差し入れ、ぴっと1枚の紙を取り出してこちらに差し出した。



『これ、最近作った私の名刺。1か月以内に記載された部署で手続きをするように。いいね。』

「え? め、めいし…。えっと、…はざま、黒凪さん?」

『うん。全国の異能者、霊能者…妖混じりなどを統括している団体の相談役をしているんだ。君のように妖怪が見える子の保護も行っている。』

「(俺の様に…?)」



 少女の言葉にあっけにとられていると、「そして。」と彼女が言って三篠の腕をかいくぐり、ニャンコ先生に手を伸ばしたのが見えた。
 それに「あ…」と反応する間にもニャンコ先生が少女の、間黒凪さんの手に捕らえられる。



【なっ、何をする! 離せー!】

『よしよし。まだ君の根幹に残る封印を確認させておくれ。』

【やめろー!】



 ニャンコ先生をひっくり返してこねくり回すこと数分。
 また「なるほど。」と一言呟いてニャンコ先生を降ろした少女が呆れたように言う。



『無理に封印を外しすぎたらしい。その招き猫とは暫く繋がったままになってしまうだろう。しかしまあ、100年もすれば徐々に薄まっていくよ。』

【う、ぬ、ぬ、ぬ…】

『そして君。確か三篠と呼ばれていたけれど…君に手は出さないようにしておこう。すでに使役されているものには手を出さない主義だ。』

【…。】



 警戒しているのか、三篠は何も言わない。
 そりゃあニャンコ先生を封印したような子だ、警戒して当然か…。



『じゃあまた。ちゃんと登録するんだよ。あ、君の名前は夏目でいいのかな。』

「は、はい…夏目、貴志です。」

『良い名前だね。あいたた、頭痛が。…じゃあまた。』



 頭を片手で抑えながら手を振り、少女がぐにゃ、と空間をねじるようにして姿を消した。
 それを見送り呆然とする俺の肩に乗り、ニャンコ先生が彼女からもらった名刺を覗き込む。



【むむむ…間黒凪…。裏会相談役…けっ…】

「ほ、本当にあの子がニャンコ先生を封印したのか?」

【ああ、十中八九間違いない。あのいけ好かん白髪としゃべり方…よーく覚えとるわ…。】

「そもそもなんで封印なんか…」

【…どこぞの妖怪退治屋を追い返したら、代わりにあいつが連れてこられたんだ。あの頃は放浪していたようで、たまたま近くにきてたまたま話を聞いてやってきたとかなんとか言っとったよーな…】



 そうしてそのまま成すすべもなく封印されたと…。
 そう頭上から言ってきた三篠に血管を浮き上がらせながら「なすすべもなくではないわい!」とニャンコ先生が怒鳴る。



【封印される直前、右腕を噛みちぎってやった。】

「いった~…、って、でも右腕あったような…」

【ふん、年も取らず腕も再生してるとなると、あのガキ…魂蔵持ちなんだろう。】

「たまぐらもち?」



 確かに。そうとしか考えられない…。
 そうニャンコ先生に相槌を打った三篠がこちらにぐいっと顔を寄せてきた。



【魂蔵持ちとは、力を無尽蔵にため込むことができる器を持つ人間のことを指すのですよ…夏目殿。そしてその蓄えられた力は、使いようによっては宿主の寿命に、再生に使われる…】

「つまり不老不死ってことか?」

【ええ…それは魂蔵を上手く操れる宿主に限りますがね…。使い方を知らなければ、寿命を迎えたとたん力が尽きるまで死んで息を吹き返しての生き地獄を体験することとなる…。】



 きっと今頃俺の顔は真っ青だろう。
 想像するだけで痛い。苦しい。



【とまあ、魂蔵持ちのことはおいておいて…どうなさるおつもりで? 夏目殿…】

「どうって…この裏会って言う組織か?」

【ええ…寂しさを妖で埋め合わせでおいでの夏目殿には、同志を見つける良い機会では…?】

「…。」



 寂しさを妖で埋め合わせている。
 確かに三篠の言う通りかもしれない。いや、きっとそうだ。
 …ここに行けば、同じ境遇の人間に会えるのだろうか。
 同じ思いを持った誰かと、出会えるのだろうか。



 探し求めて


 (こちらで登録完了でございます。それから夏目様。)
 (は、はい)
 (裏会相談役の間様より、夜行への招待状をお預かりしております。)
 (やぎょう…? (また難しそうな機関? 場所? だなあ…。))

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