番外編
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ヒーロー協会兼、裏会
転生トリップではありません。
あくまでも結界師の世界とヒロアカの世界は同じの設定。
この物語の時点で結界師の原作の時間軸から100年経っています。
裏会はヒーローの情報を管理し統括する組織として存在し、夢主はその総元締。
『…校外学習?…あー…そろそろそんな時期か…』
≪そうだよ。今年も職場体験の名目で1年生を連れていきたいんだけど構わないかな?≫
『構わないよ。日にちはいつ頃になる?』
≪丁度1ヶ月後を予定中。あ、でも例の"あれ"の準備があるならもう少し遅くしても良いけど…≫
いや、別にその準備に時間はかからないから。
ちなみにこっちのレベルはどれぐらいが良い?
大量の資料を読み進めながら黒凪がそう問えば電話の向こう側の根津は「うーん…」と少し迷う様に唸った。
≪そっちにも情報は行ってると思うけど、今年の1年生は早い段階でヴィランとの戦いを経験している。それに雄英体育祭でも大いに盛り上がったの見たでしょ?≫
『え、見てない。』
≪今年も見なかったの?本当にテレビ見ないんだなぁ君って…≫
『ごめんごめん。こっちも忙しいし…あ、あと私子供嫌いだし。』
本当、そんななのによく校外学習を許してくれるよね。
そう言った根津にギシ、と椅子の背もたれに体重を預けて近付いてきた閃にサインをした資料を手渡す。
閃は電話をしている事に気を使ってか何も言わずに部屋を出て行った。
『だって雄英の卒業生は毎回うちにヒーロー登録しに来るでしょ?結局来るならいつ来ても一緒。』
≪まあ確かにそうだけど。…それじゃあ1ヶ月後で手配を頼むよ。レベルは10で。≫
『10?…10なら私だとか限になるよ?良いの?』
≪うちの生徒が傷つかなければね。寧ろそれぐらいの脅威の方が成長するだろうし。≫
ふーん。スパルタな世の中だねえ。
そう言って通話を切り限が運んできた資料に目を向ける。
限は通話を終えた様子の黒凪を見ると徐に口を開いた。
「また雄英の校外学習か?」
『うん。今年のレベルは10だってさ。私等の出番だよ』
「あぁ…今年はレベル高いらしいからな」
『え、あんたテレビ見てんの?そんなに豊作なんだ?今年。』
――…エンデヴァーの息子も居るし、ワン・フォー・オールの継承者もいるらしいぜ。
そう言って入って来たのは資料を抱えた閃。
それに爆豪って言う天才も居るらしいし。後はインゲニウムの弟も。
ドサッと置かれた資料にげんなりとする黒凪。
閃はそんな黒凪を見ると徐に部屋の中に在るテレビをつけた。
「ほら。随分前なのにまだ雄英体育祭の話題が出てる。よっぽど凄かったんだろ。」
『へー…。』
第1位となった爆豪君は――…。
エンデヴァーの息子である轟君。
あの緑谷と言う少年…。
…と、このようにニュースを何度切り替えても雄英高校の1年生の話題ばかり。
そんなテレビを眺めていた黒凪はドサッと椅子に凭れ掛かり息を吐いた。
『毎年4、5人だったよねえ。あれに参加すんの。』
「また今年もすんのか…。レベルは?」
『10だってさ』
「10!?…やっぱ今年は思い切るなぁ雄英…」
それともそんなレベルを指定してくるって事はよっぽど…。
いやいや、そんな事より黒凪と限と火黒を入れても後2人予定を確認して呼ばないといけねーし…。
そんな事をぶつぶつ呟く閃に限と黒凪が顔を見合わせる。
『…もういっそ竜姫で良いんじゃない?竜姫とあと………鋼夜とか』
「テキトーだなオイ…」
『でも裏会の中じゃかなりの手練れでしょ?良いじゃんそれで。』
「…じゃあ竜姫さんの予定確認しねえとな」
そう言ってのそのそと出て行った閃に続いて限も部屋を出て行く。
黒凪は徐につけられたままのテレビに目を向ける。
テレビのニュースではまだ雄英高校の生徒達についての特集が流れていた。
「わー…でかいな…」
「此処が裏会総本部…!」
「全ヒーローの情報を総括するいわば世界の管理課の最高峰…。裏会の幹部中の幹部には"個性"が一般に現れていなかった時代から超能力を持ち今まで生き延びてる人もいるって噂だし、やっぱり凄い人達の集まりなんだろうな。しかも噂だと…」
「っせーぞデク!」
うわぁごめん!
ぶつぶつと話していた緑谷がすぐさま考える事を止めて反射的に爆豪の怒鳴り声に謝った。
そして再び目の前に聳えたつ建物を見上げ、感嘆した様に息を吐く。
とても長い階段の先に立っている屋敷の周りは薄い雲で覆われていた。
「ぼーっとすんな。時間の無駄だ」
「「「はーい…」」」
皆でゆっくりと階段を上って行く。
階段を上り切って扉の前に辿り着くと雄英の生徒達を待ち構えていた様に金髪の青年が小さく頭を下げた。
そんな青年を見た相澤は「どうも。本日はよろしくお願いします」と丁寧にあいさつをして青年よりも深く頭を下げる。
どう見たって相澤よりも年下の彼に何故そこまで敬意を払うのか、と生徒達が顔を見合わせる中で扉が開かれた。
「どうぞ。…あ、そこ段差あるんで。」
「聞いたか?気ィ付けろよー」
皆が門を潜ると青年が扉を閉ざして相澤の前を歩いて行く。
今から軽く案内するんで。そう言った青年に「あの!」と芦戸が手を上げた。
青年の目が芦戸に向く。彼女はそんな青年の反応に気兼ねする事無く口を開いた。
「お兄さんのお名前ってなんて言うんですか?」
「あ、俺も気になってた。案内してくれるんなら名前知りてーよな。」
「…あー…、一応裏会の幹部に属してる影宮閃です。担当は情報収集や隠密行動を主にする部隊の統括…。…よろしく」
あんなに若いのに幹部――!?
皆がそう声を上げると「一応言っておくけど俺もう100年は生きてるんで」そう言って再び歩き始めた閃に皆がシーンとする。
…え、じゃああの人が噂の幹部中の幹部…?
そうひそひそ話しだす生徒達に「しまった、余計な事言ったな…」と閃が眉を寄せた。
そんな雰囲気で裏会の中をざっと説明し、やがて生徒達は本日のメインイベントである「腕試し」の会場へ辿り着く。
「えー…と。毎年恒例の"腕試し"ですが…其方は生徒さんを何人出します?」
「此方からは4人。レベル10だと聞いてるんでそれなりの成績を出した4人にしときました」
「分かりました。じゃあこっちからも4人連れてきます。其方の4人を一歩前に並ばせといてください」
そう言って歩いて行った閃を見てから相澤が生徒達に目を向ける。
生徒達の中から一歩前に出て来たのは爆豪、轟、飯田。そして緑谷。
緑谷はドキドキと動いている胸を手で押さえて緊張した様に息を吐く。4人共各々のコスチュームを見に着けていた。
裏会総本部を見学出来る校外学習。
毎年恒例のこの行事は最後にメインイベントとして特別な予定が組まれている。
「("腕試し"…。裏会総本部に属する人達と雄英高校の生徒が"個性"で戦って、文字通り腕試しをする場…)」
《毎年の向こうの強さのレベルは校長先生が決めてる。今年のレベルは最高レベルの10だ》
1週間前に相澤によって発表された言葉が過る。
レベルが10だからな…。裏会の人間と戦ってもどうにかなりそうな奴をこっちでピックアップしておいた。
その中から話しあって4人選べー。
そんな相澤の言葉によって選ばれた4人である爆豪、轟、飯田、緑谷。
4人は閃によって連れてこられた裏会の4人に意気揚々と目を向けた。
『お、テレビに出てた人達がいる』
「ねえ、ホントにあたしとあの子達が戦うワケ?大丈夫?」
【まーどうにかなるんじゃね?】
「……」
白髪の少女に金髪のグラマラスな女性、包帯男に目付きの悪い少年…。
ヒーローと言うよりはどちらかと言えばヴィラン。そんな印象の4人だった。
ぽかーんと生徒達が4人を眺めている中で一歩前に踏み出して話し始めたのは白髪の少女だった。
『どうも雄英高校の皆さん。私はこの裏会の総元締をやってる黒凪。よろしくね』
「総元締…。…総元締ぇ!?」
「それってNo.1って事じゃ…」
「えええっ!?」
あ、そうそう。私此処のNo.1。
にへ、と笑って言った黒凪に「え゙――!?」と生徒達の驚いた声が響く。
今年で600歳ぐらいになりまーす。
さらっと放たれた言葉にもまた「ええええ!?」と驚きの声。
その様子に楽しそうに笑った黒凪は「まあ落ち着いて」と皆を落ち着かせると笑顔で口を開いた。
『とりあえずこっちの自己紹介しておくね。この金髪の人は竜姫。此処のNo.2。』
「よろしくねん♪」
『で、こっちの包帯男は火黒。こっちは限。2人共私の側近。』
何も言わず突っ立ってるだけの火黒と限に黒凪が困った様に笑い「そちらは?」と立っている4人に目を向けた。
相澤が最初に爆豪に目を向け彼が徐に口を開く。
「雄英高校1年、爆豪勝己。」
『わー、体育祭で1位だった子だ』
「…ケッ」
『あれ?反応悪いなあ。…まあいいや、次。』
爆豪の隣に立つ轟が口を開く。
轟焦凍。そうとだけ言って黙った彼に「うんうん、次。」と黒凪が隣の飯田に目を向けた。
雄英高校1-A、飯田天哉です!Aクラスでは学級委員長をさせて頂いております!本日は宜しくお願い致します!
あの人、かっちゃんとか轟君みたいなタイプの人の扱い分かってるなぁ…。
そんな事を考えながら黒凪を眺めていると飯田の自己紹介に満足した様に笑った彼女の目が此方に向いた。
『君は?』
「は、はい!雄英高校1-Aの緑谷出久です!え、えっと…よろしくお願いします!」
『うん。よろしくね。…それじゃあ早速やる?"腕試し"。』
黒凪が笑って小首を傾げると爆豪が「あの。」とぶっきらぼうに手を上げた。
俺はあんたと戦いてえ。そしてすぐさま上げられた手は人差し指を伸ばし黒凪へ向けられる。
その指先を見ていた黒凪は「いいよー」と随分とあっさり承諾した。
『君って上昇志向が高いタイプだね。結構好きよ。』
「んな事ぁどーでもいい…早くやろうぜ…!」
『はいはい。んじゃあ皆下がってねー』
それじゃあ軽くルール説明。
勝敗は折角だから今年の体育祭の最終科目と同じで場外に出すか戦闘不能にしたら勝ちにしよう。
戦う場所は…、そう言って周りを見渡した黒凪は隅の方に立っている男に向かって「おーい」と手を振った。
それを見た男が地面に手を着くと瞬く間に地面が盛り上がり、爆豪と黒凪を乗せて巨大なステージを作り上げる。
『あ、今のは裏会所属の人ね。土を操る異能者…じゃない、"個性"持ってる人。』
「制限時間は」
『無いよ。』
「殺すつもりでやっても構わねェよな?」
『勿論。』
にっこりと笑って言った黒凪は「それじゃあ始め。」と軽い調子で言い放つ。
それを聞いた生徒達がごくっと生唾を飲み込み、爆豪が黒凪を警戒した様子で構える。
対する黒凪は警戒した様子も無く爆豪を見ていた。
『どうぞ。何処からでもかかっといで。』
「…舐めやがって…!」
待っていても来ないと判断したのだろう、爆豪が走り出して手の平に爆発を起こす。
ドンッと爆発を起こす拳を爆豪が振り上げて黒凪に狙いを定めた。
それを見た黒凪は結界でその手首を弾き、瞬く間に彼の顎を下から結界で殴り飛ばす。
どさっと尻餅をついた爆豪に黒凪がにっこりと笑った。
『完膚なきまでの敗北ってやつ、味わってみる?』
「んだとコラァ…!!」
額に青筋を浮かべて爆豪が右腕を持ち上げ手の平を黒凪に向ける。
緑谷や他のクラスメイト達はその構え方から彼が何をしようとしているのか瞬時に理解した。
最初のヒーロー基礎学で緑谷に向けて放ったあの強力な一撃だ。
「ば、馬鹿野郎!止めろ爆豪ー!」
「そんなの撃ったら建物壊れるよ!?」
『え、そんなに?』
仕方ないなぁ、それじゃあ建物壊れない様に結界張っとかなきゃ。
そう呟いてステージを護る様に結界を作る。
そうして彼に目を向ければ既に爆豪の腕の武器にかなりの熱が集まっていた。
「ちゃんと受けろよ総元締ェ…!!」
『……』
気だるげに後頭部を掻く黒凪に舌を打って一気に巨大な爆炎を彼女に向けて放つ。
黒凪がすぐさま結界を三重にして自分を囲み、そこに爆炎が直撃した。
途端にステージを囲む結界の中に爆炎が充満し、皆が結界の中で暴発した爆発に目を見開く。
「お、おいおい…」
「これじゃああのステージの中に居る爆豪まで巻添えじゃねーか…!?」
切島の言う通り、結界で囲まれたステージの中に爆炎が凝縮されステージ全体が火の海となっている為、これでは技を放った側の爆豪も無事ではない筈。
そんなステージを見て緑谷は「珍しい」と思った。
爆豪は例えキレていたとしても状況把握はしっかりとするタイプだったし、まさか自分が巻きこまれる想定をしていなかったとは…。…いや、
「(総元締の人がステージにあの箱を作ったのが見えてなかった…!?)」
そう考えれば辻褄が合う、あの人はかっちゃんが技をぶつけようと構えた時に唐突にあの箱を作った。
となればかっちゃんは確実に自分の防御なんて考えてない…!
かっちゃん!!そう叫んで緑谷が結界に近付き手を付いて何度か殴る。
「かっちゃん!大丈夫!?」
…デクの声が聞こえる。
そう頭に浮かんではっと目を見開く。
そして顔を上げると自分を囲む様にして設置されている"箱"が見えた。
「…は…?」
『いやー、凄いねえ君。』
「っ!」
徐に掛けられた声に爆発によって発生した煙の向こうに目を向ける。
そうして目を凝らすと煙の向こうにどす黒い球体を纏った黒凪を見つけた。
彼女の身体に焦げた跡も、傷も何1つ見つからない。
先程の攻撃のダメージを全く受けていない彼女の様子に爆豪は愕然とした。
しかし外から戦いを眺めていた竜姫や閃は「お、」と微かに目を見開いて感心した様に爆豪に目を向ける。
「凄いわねぇあの子。黒凪に絶界使わせたわぁ」
「あんな子供相手に使ったのは初めてっすね…」
【…へぇ】
「……」
ステージ上の結界が解かれ煙がもわっと外に流れ込む。
そうして自分の絶界と爆豪の周りの結界を解くと地面に腕を付いている彼の元へ黒凪が歩いて行った。
そして自分を睨む様にして顔を上げた爆豪に黒凪がにっこりと微笑む。
『凄いね君。何君だっけ?』
「…爆豪…」
『ばくごー君?おっけい、覚えとく。』
雄英を卒業してプロになったら偶にはうちの手伝いもしてね。
そう言って歩いて行った黒凪に爆豪が地面を殴りつける。
一方の生徒達はあれだけの攻撃を受けても余裕の表情で歩いている黒凪にだらだらと冷や汗を流していた。
「あれが裏会の総元締…、やべえ…」
「あの人自分の防御もしながら爆豪も護ったんだよな…?」
「かっちゃん!大丈…」
「うるせえ!!」
駆け寄ってきた緑谷の手を払って歩いて行く爆豪に黒凪が困った様に眉を下げる。
あの調子だとその内修行して道場破りに来そうだな…。そう思った。
そして「さて次に戦うのは誰?」と振り返ると飯島が「はい!」と勢いよく手を上げる。
「俺にやらせてください!」
『ん。じゃあ対戦相手は誰にする?』
「……、そこの側近の方で!」
『分かった、限ね。』
限が徐にステージに歩いて行き飯田に目を向ける。
飯田もステージに上がるといつでも走り出せる様にと体勢を低くした。
始め。と黒凪の声が掛けられる。
途端に飯田が脹脛のエンジンを起動させ一瞬で限の背後へ回り込んだ。
その速度に目を細めた限は一気に踏み込んで飯田の拳を回避する。
「飯田君の速度に反応した!?」
「すごーい…」
飛び上がってステージの端に着地した限は飯田の脹脛を見てため息を吐くと両手と両足を変化させてぐっと足に力を籠める。
そうして限は一瞬で飯田の足元まで移動した。
飯田はその様子に目を見張るとエンジンを使って限から距離を取る。
『…あの子速いね。』
「あぁ。多分限より速いな」
『うんうん。…脹脛にエンジン付いてるのちょっと面白い』
「わかるわぁー」
流暢に話している3人の前で限と飯田が速度を競う様に互いの不意を突き合っている。
…どうも限は飯田に対して攻撃を踏み込めない様子に見えた。
恐らく傷つけたくないのだろう、一瞬の隙をついて限が飯田の足を払いその腕を掴んで一気に場外へ放り投げる。
180cm近い大柄な飯田を片手で放り投げた限に生徒達が目を見張り、落下してきた飯田を皆で受け止めた。
「…裏会側の勝利。」
「くそ…!!」
「ドンマイ飯田君…。」
「毎年雄英側が敗北してるらしいからそんな落ち込むなよ!」
だからこそジンクスを俺が崩そうと…!
そう言って悔しがる飯田を緑谷が宥めていると「次は君で。」と黒凪が緑谷の顔を覗き込んできた。
ははははい!!と黒凪から一気に距離を取って返事をした緑谷が残った竜姫と火黒に目を向ける。
「(包帯の人はちょっと怖そうだしなぁ…、でももう1人の人は女の人だし…)」
「…緑谷。俺はあの包帯と戦いたい」
「ぅえ!?」
緑谷にこそっと声を掛けた轟に目を向けて黒凪が小さく微笑む。
緑谷は轟の言葉に小さく頷くと「じゃあ…女性の方で…」と竜姫に目を向けた。
竜姫はおどおどとする緑谷ににこっと笑うと「良いわよぉ」と緩いテンションでその申し出を受ける。
そうしてステージに上がり、戦闘が開始された。
「(まずはどんな戦い方をするのか確認を…いや、でもな…)」
「(あの様子だとこっちから仕掛けてあげるのが優しさかしらね。)行くわよボウヤ。」
「っ!」
竜姫が徐に空に向かって人差し指を立て、緑谷の真上から雷が落ちてくる。
瞬時に反応した緑谷はその場を回避して先程まで自分が立っていた場所に直撃した雷に冷や汗を流した。
「あたしは雷を操る。それだけよ」
「!」
「だからさっさと対策考えてかかってらっしゃいな。」
にやりと笑った竜姫にごくりと生唾を飲み込んで緑谷が眉を寄せる。
物理的な攻撃を主とする緑谷としては電撃や雷の類との戦いは相性が悪い。
そんな中で彼女に勝つ方法と言えば――…。
「そっちが来ないならまた行くわよ?」
此方に向かって手を伸ばし電撃を真っ直ぐ緑谷に向けて放つ。
それを見た緑谷は地面に向けて指を折り曲げ「SMASH!!」と心内で叫んで指を弾いた。
途端に地面が一気に破壊され電撃を弾く。
あら。と竜姫が目を見張る中で緑谷が彼女の懐に入り込み再び他の指を折り曲げた。
「(この人を傷付けずに勝つ方法は1つだけ――!)」
「!(この子…)」
「(ワン・フォー・オールで突風を吹かせて場外に放り出す!!)」
SMASH!!そうもう一度心の中で叫び竜姫に向けて突風を巻き起こす。
これで2本の指が折れ、緑谷は恐る恐る顔を上げた。
何だ…?皆凄く静かだ…。
そう思ったのも束の間、
「…え…?」
「私が妖混じりじゃなかったら確実に場外だったわぁ。」
竜姫の足元には緑谷の攻撃を受けて背後に向かって引き摺った様な跡がある。
しかし場外までは届かず、緑谷から離れた位置で彼女は平然と立っていた。
そんな…、と目を見開いたままで立ち竦む緑谷の指を見て黒凪に目を向け口を開く。
「黒凪!医療班呼んだげて!」
『え?…あ、ほんとだ。痛そう』
建物の中へ入っていく黒凪を横目に竜姫が緑谷に目を向けて徐に口を開いた。
惜しいわねぇあんた。さっきの威力も諸刃の剣的な感じ?
眉を下げて言った竜姫に緑谷が悔しげに顔を伏せる。
「…ま、多分君はあたしに直接その拳を向ける度胸は無いだろうしねえ」
「っ、」
「此処までにしておきましょうか。…あ、勘違いしないでねボウヤ。ヒーローにはそう言う優しさも必要よ」
良いヒーローになりなさい。
そう言ってステージから出て行った竜姫は黒凪が連れて来た医療班を見るとステージに戻って片手で緑谷を持ち上げた。
その様子にまたも生徒達は驚愕。飯田程屈強でもないが緑谷とて子供ではない。
それを華奢な竜姫が片手で持ち上げるとかなりの違和感だった。
『じゃあこの子お願いね』
「はい」
『…えっと、それじゃあ最後の戦いかな?うちからは火黒と…そっちはそこのオッドアイの子だっけ』
黒凪の声に静かに轟がステージに上がり、ニヤリと笑って火黒もステージに上がる。
やり過ぎない様にね。と掛けられた声に「わぁってるよ」と火黒がぶっきらぼうに返した。
その様子に轟が微かに目を細める。
――始め、の合図と共に巨大な氷が火黒に襲い掛かった。
冷たい冷気が漂う。
轟は己が作り上げた氷に完全に呑まれて行った火黒を警戒する様に睨む。
途端に氷にヒビが入り、粉々に砕け散った。
そして氷の上をゆっくりと歩く火黒は笑いながら肩を鳴らす。
【いやー、こりゃ寒ィな】
「……」
再び氷が向かうと火黒の一撃でスパッと真っ二つに割れる。
そして足を踏み込んだ火黒は一瞬にして轟の目の前に迫った。
それを見た轟はすぐさま目の前に氷を造形し火黒の攻撃から身を護る。
しかしその氷もすぐに斬られ、刃が轟に迫った。
「っ…!」
【お。】
炎が溢れ出し火黒を遠ざける。
着物に引火した火を払って火黒がまたニヤリと笑った。
そして「成程なァ」と再び走り出す。
次々に防御壁として現れる氷を斬り本体に近付けば炎が向かってくる。
それを只管に繰り返しながら火黒が口を開いた。
【右は氷で左は炎ってトコかァ?面白いねェ】
「…!」
火黒の右手が轟の炎を纏う左手の手首を掴んで遠ざけ、轟の右腕は左足で遠ざける。
そうして左手から刀を伸ばした火黒は轟の左側から真っ直ぐに首を斬りに行った。
咄嗟に氷で首をガードするが恐らく止める事は無理だろう。
轟があがく様に左手の炎を強くするが火黒は己の手が焼け焦げる事など何とも思っていないように笑うだけだった。
流石にまずいと止めに入ろうと目を見開く相澤だったが火黒の刀は消えない。
「(くそっ…!)」
「先生!?」
『――火黒。』
【!】
びたっと轟の首まで数センチの場所で刀が止まる。
飛び込もうとしていた相澤もその様子に思わず足を止め、火黒の視線の先に己も目を向けた。
そこには黒凪が立っていて、彼女の右手の人差し指と中指はぴんと立っている。
『そこまで。なーんで殺そうとするかなぁ』
【…あーあ。良いトコだったのになァ…】
轟の目が火黒の肩や腕の関節に向けられる。
火黒の関節全てが小さな結界によって固められていた。
轟の左手首を掴んでいた右手をぱっと離し、足も退けると結界が解かれて火黒が飛び退き黒凪の隣へ。
黒凪は火黒の右手を覗き込むとぺしっと彼を戒める様に叩いていた。
「…轟、無事か」
「…はい」
『もー。あんた楽しみ過ぎ。』
【んな事言ったってよォ。あいつ良守クンみたいに底なしな感じで面白いんだぜ?】
久々にゾクゾクしてなァ…。
それはそれは嬉しそうに言う火黒に目を覆い、ため息を吐いて轟の元へ黒凪が歩いて行く。
彼女は轟をちらりと見るとまず側に立っている相澤に目を向けた。
『そちらの生徒さんを危ない目に遭わせて申し訳ない。』
「……いや、」
『君も大丈夫だった?怖かったでしょ、あいつ顔怖いし…』
そう言って手を差し伸べた黒凪は素直に手を掴んだ轟ににっこりと笑った。
彼を立ち上がらせて雄英の生徒達に目を向けた黒凪は「それじゃあ中でちょっと休んで――…」と声を掛けてふと空を見上げる。
晴れていた筈の空はいつの間にか曇り、ゴロゴロと雷を紛らわせていた。
『……。奇襲かねえ』
「き、奇襲!?」
「まさかヴィラン…!?」
『いや、ヴィランとはまた違った来客。…竜姫』
はいはい。と肩を竦めて竜姫が瞬く間に龍の姿に変化する。
その様子に生徒達が目をひん剥く中で竜姫は空へ向かって行き、雲の向こう側から龍の甲高い鳴き声が響いた。
『皆早く中に入って。多分その内落ちて来るから』
「お、落ちて来るって何が…」
『とりあえず中に入って。』
黒凪に急かされて生徒達が屋敷の中に入って外を覗き込む。
するとまた一層大きな龍の鳴き声が響き渡ると巨大な龍が1頭落下してきた。
地面に落ちて悶える様に動く龍に黒凪の影から出た鋼夜が向かって行く。
鋼夜も普通の犬のサイズから巨大な姿に変化をすると獲物を捕らえる様に噛み付いて暴れる龍を抑え込んだ。
『…白龍か…。多分また住む場所でも無くして暴れてんのかね。』
「ったく、最近多いな…」
『数珠何処だっけ?』
引き出しをいくつか開いて数珠を出した黒凪が徐に外に出て行く。
鋼夜に押さえつけられている龍の頭に跨って首に数珠を巻き付けた。
そして一気に引き込むと先程までとは比にならない程の大きな龍の悲鳴が響き渡る。
竜姫が変化を解いて降り立ち、屋敷に入ってその様子を見ると「うわー…」と顔を顰めた。
「あれって洒落にならないぐらい痛いんだってね。」
「らしいですね。やった事無いんで分かりませんけど。…でもま、」
素人がやるよりはマシらしいですし。
そう言って閃が目を細めた途端に封印が完了し龍が小さな蛇ぐらいの大きさにまで萎んでいく。
そうして目を回している白龍を片手に黒凪が屋敷の中に鋼夜と共に戻ってきた。
『とりあえず捕まえた。竜姫、この子なんだって?』
「またヴィランとヒーローとのいざこざの所為で住む場所を無くしたんだって。場所もないし此処に置いておくのが得策じゃない?」
『そだねえ…』
「…あの、その龍が暴れた理由ってヒーローにも原因が…?」
眉を寄せて言った緑谷に「あ、治ったの。よかったねえ」と笑った黒凪は手元の龍を見て困った様に眉を下げる。
まあ仕方がないんだけどね、戦わないとヴィランは減らないし…。
でもその所為で自然が破壊されてこんな生き物の住む場所も限定されていってんのよ。
『まあこれが現代の性って所かね。仕方ないよ、この世は人の為に回ってるようなもんなんだから』
眉を下げる緑谷に小さく笑って彼の髪を掻き混ぜる。
良いヒーローになるんだよ、少年。
そう言って笑顔を一掃深めた彼女は確かに少女らしくは無かった。
何百年も生きた貫録を確かに持っている。そんな笑顔だった。
600年生きた少女
(ありがとうございました!!)
(うんうん。ヒーローになったら登録においでねー)
.