世界は君を救えるか【 結界師長編 】
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裏会への一歩
『…ずっと考えていたんだ。』
徐にそう切り出した目の前に座る白髪の少女へと、己の目の前に置かれているメロンソーダから視線を移した七郎。
彼は改めて少女…黒凪を見ると、その背後に見えるカフェの内装に目を向ける。
「(凄い…目立ってる。)」
そりゃあそうだろうけれど。
自分に合わせてセーラー服を着てきてくれたはいいが、その髪は白髪。
いわく彼女が通っていた中学校、烏森学園では病気のためだとしらを切っていたそうだが、何も事情を知らないここでは異様だ。
「(学校から離れたカフェを選んで置いてよかった。ただでさえ中学生と2人きりで会ってる時点で根掘り葉掘り聞かれるだろうに…)」
『七郎君? 聞いてる?』
「あ、はい…」
危ない危ない。この人を前にすると気を抜けないけれど…何処か無意識のうちに心を許している自分もいて、自分自身どうすればいいのか分からない。
でも…きっとこの人は自分と同類の人だから、心内で少しワクワクしているのかもしれないな、そんな事を考えながら改めて目の前の少女に目を向ける。
すると彼女はまた徐に話し始めた。
『…ずっと考えていたんだ。どうして君が扇一郎を一度取り逃がしたのか。』
七郎のストローを使ってメロンソーダをかき混ぜていた手が止まる。
『閃も言っていた通り…君は仕事に関しては誰がどう見たってプロ。私情を持ち込まないし…君自身そうありたいと思っている。』
なのにどうして。
そう思っていたんだけど…君が他の兄弟たちを手にかけている様子を見て分かった。
そう言った彼女に驚いてしまう。あの結界師ばかり気にしていると思っていたけど、僕のことも見ていたのか。と。
『ただ君は、優しいんだね。』
「…優しい? 僕が?」
『うん。…思えば、私の依頼は扇一郎の暗殺。他の兄弟たちはある種無関係。』
ぴく、と七郎の片眉が動いた。
君は…最初から兄弟たちを分離させるつもりでわざと扇一郎に私の依頼を漏らした。
七郎が目を伏せる。
『これは私の想像だけど、君は勢いよく突っ込んでいけば逃げるために兄弟たちが離散すると思っていたんじゃない? それが扇一郎 ”達” の逃げるときの常套手段みたいだし。』
ただ、違った。
君の兄上は…君が思うよりも既に ”人ではなかった”。
兄弟を犠牲にして、君から逃げたんだね。
そこまで話して黒凪が沈黙する。七郎の反応を待つように。
「…。はい。」
そんな黒凪に応えるように、七郎は肯定だけをした。
その肯定を聞き、黒凪が分かっていたように眉を下げ…一言。
『辛かったね。』
そう言った。
その一言に息を飲み、七郎が己の手に目を落とす。
そしてまた暫く沈黙が降り、七郎の視線がちらりと黒凪に向いた。
「…意味不明なことを言っているように思うかもしれませんが。」
『うん?』
「僕は…直接貴方に何を聞いたわけではないですが、貴方を理解している。…ような気がします。」
黒凪の瞳が不思議気に自分に向いたのが分かる。
…そう。僕は初めて会った時から…この人は他人だとは思えなかった。
そしてこの人なら、僕の疑問にも答えてくれるんじゃないかと。
「…人は、時に僕にこう言います。この人並外れた力は、この世に必要だからあるのだと。必要だから、僕は与えられたのだと。」
『…』
「――反吐が出ます。そんな考えには。」
力が与えられたからなんだ? 喜べとでも?
この力は時に、自身に辛い現実を突きつけるのに。
時に――自身を、他人とは隔絶させるのに。
「勿論この世には、与えられた力を好き勝手に振るって楽しむ人間だっています。…でも僕は、そうなりたいと思ったことは一度もない。」
でもこの与えられた力を恨もうと思ったことは、ありません。
黒凪の瞳が微かに揺れたような気がした。
「それは、僕自身…この力と共倒れだなんてまっぴらごめんだから。」
悲しくも兄たちは僕の所為である種、異能と共倒れした。
そして結局自分自身の価値を忘れたまま死んでいった。
「だから僕は揺れることのない天秤を求めているんです。…僕はこの世界を、全ての事柄を平等に判断したい。この力や…他人が言う、運命というものに呑みこまれないために。」
…この力を、世界を恨む材料にはしないために。
貴方は、こんな風に考えたことはありませんか。黒凪さん。
まっすぐに黒凪を見据えて言った七郎に黒凪が顔を上げる。
その表情を見て、七郎はかすかに目を見開いた。
『…父も、君が持つその強ささえ持っていれば。』
「…え」
『…たった十数年でその考えに至った君を称賛するよ。私には随分と時間がかかった事だからね…。』
七郎は何も言わない。いや、何も言えない。
ただ彼は、黒凪の答えを聞きたかった。
自分が考える――天秤の、その答えを。
『…七郎君。』
「…はい。」
『君は、私の様になってはいけないよ。』
「!」
今回こうして話して、少し怖くなった。
君は本当に私によく似ている。怖いぐらいに。
『君なら分かっているだろう、私が決して幸せではないこと…』
「…」
『確かに私の天秤は揺れない。でも、これは決して良い例ではない。』
きっと私たちが目指すべき天秤はもっと他のもののはず。
そこまで言って黒凪が眉を下げる。
『…それを、君と探してみたかった。』
七郎が動きを止める。
そしてゆっくりと黒凪に目を向けると、彼女も七郎を見ていた。
「…探せば、いいんじゃないですか?」
『…。分かっているくせに。』
七郎が息を飲む。
そう。分かっている。彼女は探せないんだ。
…それはきっと、時間が、ないから。
「僕が…総帥側から離れれば時間は稼げますか?」
『ふふ。』
「!」
『天秤、傾いているよ。』
七郎が言葉を止める。
『…まあ、分からないでもないけれど。君の気持も。』
私たちぐらいにもなると、分かり合える存在は本当に少ないから。
日が沈みかけている空を見上げて黒凪がそう言った。
『…じゃあそろそろ私はお暇するね。予定もあるし。』
「…。よければ送ります。」
黒凪がちらりと七郎に目を向ける。
そして彼の目を見て小さく微笑んだ。
『それじゃあ裏会総本部まで。』
「…はい。」
人目のつかない場所まで移動して、風に乗って裏会総本部へと向かう。
七郎の手にかかれば到着まで数十分もかからないだろう。
目まぐるしく変わる景色の中を進み、見えた目的地に七郎が徐に口を開いた。
「…これ以上は進むと危険ですか?」
『ちょっとね。君なら攻撃されても大丈夫だと思うけど。』
七郎が黒凪を階段の傍に降ろし、そのまま風に乗って少し浮かび上がる。
そんな七郎を黒凪が振り返りその目に映した。
『…君の天秤が揺れるところを見られてよかった。』
「!」
『じゃあ、気を付けて。』
そうとだけ言って黒凪が裏会総本部にかけられているまじないに入り込み、彼女の姿が霧に溶けるようにして消えた。
その後ろ姿を見送った七郎は暫く沈黙すると、意を決したように顔を上げ、空を駆けていく。
「――何!? 事の首謀者は総帥!?」
「…で、夢路殿はそれを止めようとしたところ犠牲になった、と?」
「…まあ、はい。」
一瞬だけ間が開いたのは、彼らが兄弟だとか、いがみ合っていたとかそういう詳細を言うべきか。そんな考えが頭を過ったから。
でも結局はやめておくことにした。無粋だと思ったのだ。
「…いやしかし待て。もしも本当に総帥が相手なら何故貴様ら結界師共は無事なのだ?」
「そうだ。どうやって生き延びた?」
「そりゃあ…黒凪がいるからでしょ。」
「何?」
怪訝な反応をした幹部たちに竜姫が肩を竦めて言う。
これだから若い衆は。と。
「そもそもこの裏会を作ったのは総帥と、それから黒凪。実力だってほぼほぼ互角。そうまんまとやられるはずがないのよ。」
「…記録室が破壊された今、それを確認する手立てはないがな。」
竜姫がぼそりと呟いた幹部の一人を睨む。
そんな中、第四客である冥安が口を開いた。
「まあ落ち着け。我等ももう残り少ない…。此処は夢路殿の代わりに誰がこの場を仕切るか考えようぞ。」
「序列で言えば鬼童院殿となるが…。」
「…いえ…私には…。」
「…だる。」
は? と全員の目が竜姫に向かった時、彼女が三と記された札を放り投げそれを真っ二つに切り裂いた。
「私は此処で抜けるわ。後は冥安に任せる。」
「おい! 何を勝手な…」
「まあ放っておけ。数が少ない方が動き易い。」
「……。ではこれより最終決定は儂がさせてもらう。依存はございませんな。」
冥安が全員の顔を見渡した。
皆冥安の言葉を肯定するように何も言わない。
そんな中、正守が静かに冥安に目を向ける。
「(まだ直接関わった事は無いが、総帥に破壊された研究室では非道な人体実験をしていたとか…)」
手段を択ばないその非道さは時に迅速な判断を下すだろうが…今後どう転ぶか…。
黒凪も正守と同意見らしい、冥安の一挙一動を見るように沈黙している。
そして彼が出した判断は…。
「では今回の特務を墨村君に。宜しいな、間殿。」
『…うん?』
「分からぬか? 彼に今回の特務を頼むと言う事は貴方にも協力を仰ぐと言う事だ。」
「待て、それはリスクが…」
冥安が他の幹部たちに目を向ける。
それだけで彼らを黙らせてしまうのだから、彼自身相応の実力があるらしい。
『…あまり役に立てるかは分からないけれど、尽力するよ。』
「うむ。…ではこれで今回の総会は終了とする。各々殺されぬ様にな。」
そうして他の幹部たち同様に立ち上がろうとした黒凪…その手を隣にいた正守がつかみ取った。
『?』
「今日この後少し時間ある?」
『まあ、あるけれど。』
「ちょっと協力してほしいんだ。」
そうして共に夜行へ移動し、部屋を閉め切って正守が黒凪の前に腰を下ろす。
そして彼は黒凪に目を向け、徐に口を開いた。
「君ももう、総帥と衝突せざる負えないということは分かっていると思う。」
『…うん』
「そこで、だ。総帥側の戦力について教えてくれないか?」
『…。』
先に言っておくけど、勿論その情報を使って総帥を倒す算段を立てる。
もう既に裏会もほぼ壊滅状態。…今更総帥を止めることはできない。
となると、世界の為にも誰を切り捨てるべきか分かっているはずだ。
『…分かった。私だって、これ以上は日永殿を庇うのは難しいと思っていたところだし。』
それに実際、月久殿を手にかけた時点で…もう昔の様には戻れないことも、分かっている。
「実のところ、大首山に残されていた夢路さんの部下の遺体を回収していてね。脳は無事だったから少し探らせてもらった。」
『…何か見つかった?』
「総帥に関することはあまり…ただ、総帥と共に夢路さんの元を去った水月と呼ばれる記録係の目を持った女の情報は見つかった。」
『あぁ…』
黒凪が目を伏せ、そしてぼそりと言う。
分かった。話すよ。…と。
『彼女は元々月久殿の部下…というか、奥方殿でね。』
「え」
『ゆうに800年ほどは生きている強力な妖混じりで、その長寿から裏会創設から今までの全ての記録を保管されている。』
「…成程、総帥と夢路さんが長く裏会を掌握出来ていた理由がわかったような気がする。彼女はいわば裏会…いや、世界中の異能者の情報を持つメインデータバンク。それも精神支配を可能とするあの兄弟だけが閲覧可能な。」
そしてそれは、まさに裏会の歴史そのものでもある…。
そんな正守の視線に頷いた黒凪を見て彼は暫し考え込み、再び黒凪に目を向ける。
「裏会を破壊するまでの間は水月の頭の中にある記録を使い、全てが終われば殺すつもりだろうか? 恨んでいる相手の奥方でもあるわけだし…。」
『…まあ、うん。』
「…え、俺間違ったこと言ってる?」
『……少しだけ。』
歯切れの悪い黒凪に片眉を上げる正守。
しかしそれは今どうしても深堀する必要のある内容ではない。
問題は総帥側の総力だ。
「…ま、いいか。無理に全部話す必要はないし。それより向こうの戦力だけど…」
『向こう側には ”人形”と呼ばれる、日永殿や月久殿の都合の良いように記憶を上書きされた戦闘員たちがいる。日永殿の所には力の強い零号…月久殿を殺した奴だね。と、もう一人。』
あとは…七郎君。
正守が微かに目を見開き、困ったようにため息を吐いた。
「そうか…彼か。」
『でも雇われてるだけだからどうにでもなると思うよ。彼を引き抜くなら竜姫に言うと良いんじゃないかな。』
「竜姫って、あの第三客の? …この前脱退したから元だけど。」
『うん。二蔵と一緒に風神雷神だとかって名乗って暴れまわってたことがあってね。つながりは強いから。』
ああ、昔の悪友ってやつ。
そう言った正守に頷けば、彼はまた大きなため息を吐いて顎を撫でる。
「じゃあ…まずは竜姫さんを探すところからかな。」
『案外すぐに見つかると思うよ。彼女のことだからきっと裏会の外側から動いているはず。』
そして徐に黒凪が立ち上がり、体を伸ばす。
そんな彼女を横目に部下たちに携帯で連絡を送った正守も立ち上がり、黒凪の代わりに襖を開いた。
「色々と手助けしてくれてありがとう。結局君に頼ってばかりで頭が上がらないよ。」
『気にしなくていいよそんなの。あんたが私を頼る分には絶対に怒らないから、私。』
部屋から一歩踏み出し、黒凪が徐に息を吸う。
『限、閃、火黒。』
そんな呟くような彼女の声でも彼らには届くらしい。
3人が各々黒凪の元へと集結した。
その様子を微笑んでみていた正守が自身にちらりと目を向けた限の頭にぽんと片手を置く。
「黒凪を頼むな。」
「…はい。」
「閃も。」
「はい、分かってます。」
そうして去っていった正守を見送り、4人で間時守や良守がいる屋敷へと向かっていく。
そして日も暮れ始めた頃、やっと辿り着いた一行は屋敷の前で足を止めた。
「結!」
「良いぞ良守! もっと倒すのだー!」
目の前で宙心丸を背に担ぐ良守とその母である守美子が集まってくる妖達を一心不乱に滅しているためだ。
そしてその様子を見て閃がげんなりとする。
「そうか…烏森の核である宙心丸がいるんだから、こうなるよな…。」
そんなふうに考えているうちにも虫の様な妖が閃に迫り、思わず硬直した彼を助ける様に限がそれらを切り裂いた。
ギャッ、という短い虫の悲鳴に宙心丸がこちらに目を向け、ぱあっとその表情を一変させる。
「姉上ー!」
笑顔で手を振る宙心丸に同様にして黒凪が返し、ちらりと限と火黒にその目を向ける。
その視線を受けた2人が徐に走り出し、良守たちの加勢をするように妖達を倒していく。
その様を見て更に宙心丸の目がキラキラと輝いた。
「お前! そこのとがった頭の!」
「!」
「お前の事はよく知っておるぞ! 姉上が気に入っている妖混じりだ!」
きゃっきゃとまるでスーパーアイドルにでも会ったようなテンションで良守の背で舞い上がる宙心丸。
そしてその前を通過して妖を倒した火黒を見ると今度はそちらへ意識が集中する。
「包帯のお前も知っておる! 力の強い妖だったな!」
【どーも。】
そして…!
そんな感じで黒凪の傍…閃へとその視線が止まる。
そして暫し沈黙し、宙心丸が言った。
「…お前は知らんな。」
ボソッと言った宙心丸にガーンと固まる閃。
そんな中、限と火黒の加勢を見て手が空いたのか守美子が黒凪の傍に降り立ち、黒凪の背後に立つ時守に微笑みかける。
黒凪もそんな守美子につられて振り返り、時守を見上げた。
「…”姫様”、少しよろしいですか?」
『うん。良いよ。』
「( 姫様? )」
怪訝な顔で閃が黒凪を見る。
黒凪はちらりと宙心丸を見て閃に耳打ちをした。
『実は宙心丸には、父様はただの従者だと伝えているの。』
「…え、なんで…」
『それは…』
「父親である資格がない。…そう思っているからだよ。」
そう言って微笑み、黒凪と共に屋敷の中へと入っていった時守。
その背中を見送ってぼそりと、
「…じゃああんたは、黒凪にとっては立派な父親なのかよ…?」
…と、妖退治を見て無邪気にはしゃぐ宙心丸の笑い声を聞きながら呟いた。
『…当初の予定通り、宙心丸の封印場所は覇久魔で大丈夫なの?』
「ああ。ただ…、日永がまさかこんな戦争を起こすとは思っていなかったからね。心が痛むが、彼を排除して…それから覇久魔の主をあの嵐座木神社へと移す…。」
一筋縄ではいかないと思っていたが、やることは山済みだ。
そう言って首を回す時守。霊体だから体に疲れなんて出ないはずなのに、人間の癖というものは不思議だ。
「それに…日永が次に狙うのは嵐座木神社だという情報も入っている。」
『あ、そうなんだ…。…日永殿の所から力を抜いたのは失敗だったかな。』
「まあ、大丈夫だよ。扇七郎君にも既に忠告済みだしね。」
それに。と時守の言葉に追加するように守美子が言う。
「もしその日永という方が嵐座木神社へと侵攻するのなら、それはそれで良い機会になります。良守の出来を見るための。」
「ああ。守美子さんと黒凪が居れば万が一にも嵐座木神社は日永の手に落ちることはないしね。」
『…宙心丸の良い退屈しのぎにもなるだろうしね。』
そう黒凪が言って腕を組むと、ドンドンと襖を叩く音が。
そして3人でガララッと開かれた襖を見ると宙心丸が立っている。
「時守、姉上! 他に従者はおらぬのか?」
『あれ? もう妖退治は終わり? なら遊んでもらえば…』
「限は何も言わぬし火黒は何処かに逃げよったぞ。」
『閃は?』
すっと少し動いた宙心丸の後ろには、結んでいた髪をぐちゃぐちゃにされた閃が項垂れている。
ああ…と黒凪が眉を下げると「もう良い! 修行だなんだと言っておったが、構わん!」そんなふうに言ってどこかへ走っていった。
しかしその行き先は容易に想像がつく。
『…良守君、今は?』
「恐らく無想の修行中だろうね。」
『まじめだねえ、少しぐらい休めばいいのに。』
「そろそろ真界の修行に移りますし、あの子なりに張り切ってるんでしょう。」
浮かぶ様にして宙心丸の元へ向かう時守の後を黒凪と守美子がついていく。
そして修行場に足を踏み入れると、宙心丸は集中して何も反応を示さない良守に不貞腐れていた。
「殿、もう少しお待ちください。良守君の修行が完成すれば面白いものが見れますから。」
「それはいつだ?」
「あー…もうしばらくですかね…」
「はっきり申せ。」
宙心丸が時守を静かに睨んで言うも、時守は困ったような笑みを浮かべるだけ。
黒凪が見かねて其方に向かうと、宙心丸が彼女の手を握る。
「退屈じゃ。」
「…ではそろそろ近場で戦争が起きますので、それを見学なさっては?」
「……それは真であろうな、時守。」
少し疑った様に宙心丸が言い、更にその目が冷たく冷えたのが分かった。
「お前は時々嘘をつく。そこが気に入らん所だ」
やはりその言葉にも時守はただ困ったように笑うだけだった。