世界は君を救えるか【 結界師長編 】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
火黒への一歩
正守の隣に結界を配置し、その上に降り立つ黒凪。
そしてこちらにちらりと向けられた正守の視線を見て黒凪が口を開く。
『正守も気づいているだろうけど。』
「ああ。…とてもこれが黒芒楼の総攻撃だとは思えない。弱すぎる。」
『これは何か別の目的があるね。』
「うん。」
少し、探る。
そう言って動き出した正守を一瞥し、黒凪が下で雑魚妖達を一掃している限に目を向けた。
黒凪の視線に気づいた限がすぐに大きく跳びあがり、黒凪の元へ。
『限、私を閃の所に連れて行って。』
「わかった。」
限に抱えられ、上手く戦闘から身を隠しつつ状況を伺っている閃の元へ。
彼の傍に限と黒凪がたどり着くと、その変化された目が彼らに向く。
『良守君と時音ちゃん、今どうしてるか分かる?』
「…さっきから見てたけど…妙な動きをしてるのは墨村だ。なんか探してるみたいで、雑魚には興味ないって感じ。」
そこまで言ったところで閃の毛が危険を知らせるように逆立った。
限も雲から溢れ出す大きな邪気に空を見上げる。
途端に雲の中央から烏森の中央へと向かって大きな竜巻が巻き起こり、空を浮遊していた妖達の多くがそれに巻き込まれていく。
『…牙銀と同等、いや、それ以上のが出てきたね。』
「上に凄いのがいるとは思ってたけど…ついに出てきやがった…!」
やがて竜巻が消え、中から妖が一人烏森に降り立つ。
そして己を睨む夜行の面々を見ると、その表情に余裕の笑みを浮かべ口を開いた。
【夜行の皆様。初めまして、私左金と申します。】
すぐに夜行の面々が左近へ向かって攻撃を放つ。
しかしそれを簡単に相殺され、彼らの表情が微かに歪む。
対する左近は居たって余裕の表情のまま。
【まさかこれが夜行の実力とは言いますまい。出し惜しみは感心しませんね…。】
『…今は? 良守君、あいつが来てなんか変わった?』
「な、お前な…! あんな奴前にしてなんでそんな墨村の事…!」
『良いから。』
チッと舌を打って周りを見渡した閃は見当たらない良守に眉を寄せた。
すると黒凪が「探って。」と閃を見ずに言い放つ。
黒凪を見た閃は目を一旦瞑り、そして大きく見開いた。
目の変化に加えて頬にも模様が浮かび始め、一気に閃の気配が烏森を包み込む。
「…。烏森の中には、居ないな。」
『もっと範囲広げて。』
「っ、…ったく…!」
ぐん、と更に範囲を広げる閃。
その気配を感じた正守はチラリと黒凪と閃に目を向けた。
すると左近が起こした突風が吹き荒れ黒凪がすぐに戦闘員たちを結界で護る。
【ふむ…。牙銀様を殺した小僧と小娘は何処ですかな? それ以外には興味がありませんねえ。】
「それは心外だね!」
【おっと。】
亜十羅が連れて来ていた妖獣2匹と共に左金に攻撃を加えた。
しかし左金は難なくその攻撃を避けチラリと亜十羅に目を向ける。
亜十羅が連れている妖獣は夜一と月之丞。
月之丞に乗っている亜十羅はキッと左金を睨みつける。
途端に黒凪の隣に立っていた限が立ち上がり、亜十羅の前に出た。
「俺は此処だ。」
【やはり貴方でしたか。夜行の中では骨がありそうでしたからね。】
限が物凄い勢いで左近に攻撃を加えていく。
それを見て黒凪が微かにその眉間に皺を寄せる。
恐らく亜十羅が出た事で我慢出来なくなったのだろうが…。
良守を探している閃を隣に黒凪は立ち居上がり「限!」と声を張り上げた。
すると限と共に左金の目も黒凪に向く。
【…なるほど、牙銀様を殺した小娘は貴方ですね?】
『!』
「黒凪!」
限を放って黒凪に向かって行く左金。
すると閃が目を見開き「見つけた」と呟いた。
それと同時に目の前まで迫った左金を正守の結界が止めた。
動きを止めた左金は次に正守に目を向ける。
閃は左金に気付くと目を大きく見開き一瞬後ずさった。
『閃、良守君の居場所は?』
「え、あ…」
「っの野郎…!」
「限! 手を出すな!」
正守の声に限が動きを止め、左近から一歩下がる。
他の戦闘員達も正守を見上げ、彼の指示を待つように動きを止めた。
正守は結界で左金を殴り飛ばし再び先程の位置…烏森の中央に戻させる。
そしてその前に降り立ち、左近を睨んだ。
「こいつは俺がやる。」
『限。こっちにおいで。…閃、居場所。』
「…あの民家の上だ。人間に似た気配の奴と一緒にいる。」
「何?」
閃の言葉に限が振り返り、閃が驚いたようにそんな限に目を向ける。
限ならもう気づいただろう、閃の言う "人間に似た気配の奴" が何者なのか。
『2人共私について来て。烏森は正守に任せるよ。』
「はぁ!? 此処を離れるのかよ!?」
『正守がいるから此処は落ちない。…問題は良守君。』
「…ああ。…あいつ、火黒と決着をつける気だ。」
火黒、その名前にやっと事が理解できたらしい、閃。
つまり良守は限をも殺しかけたような妖と1人で対峙しているということ。
すぐに黒凪を背中に乗せ、限が走り出し、そのあとを閃が追いかけていく。
少し良守がいるであろう場所に近付くと、上空に大きな妖が1匹浮遊しているのが見えた。
「間違いない、あの妖の上だ。でもあの動き、逃げるつもりだぞ!」
『…あれに私たちも乗ろうか』
「どうやって!」
結、と呟く様に言った黒凪。
自分達には見えないが、どうやら空を飛んでいる妖の背に結界を配置したらしい。
それに気づいた紫遠は怪訝に眉を寄せると、瞬く間にその結界の中に黒凪、限、閃が姿を現し、目を見開く。
【…マジか。結界師ってんな事も出来んの?】
『空間支配術だからね。』
【つか結構ピンピンしてんじゃん…。碧闇がお前の事を話した時は冗談だと思ったのによぉ。】
『…良守君を返してくれるかな。』
ちらりと見ると、蜘蛛の糸に縛られている良守。
口元が塞がれていて、何かを話せる様子ではない…が、こちらを見ている彼の目からして「来るな」ということらしい。
【返すってったって、連れてけって言ったのはコイツだぜ?】
『…(そんなことだろうと思った…。)』
じと、と呆れた様な3人の目が良守に向けられる。
良守はその視線を受けて何やら言っているらしいが、口元を塞がれているため意味はない。
「お前…火黒ってやつを見つけたいからって、無謀すぎるぞ…。」
「んー! んんー!」
『うーん、意志は固そうだなあ…。』
【(つーかこいつ等普通に話してっけど、どうにかして落とせねーかなー。でも隙、無えなあ…。)】
困ったように黒凪達を見ているだけの紫遠。
そんな彼女を見て黒凪が諦めた様に言った。
『じゃあ私達もついて行くよ。仕方ない。』
【は? ついてくってお前…。やだよ。お前は怖いし白も止めとけって。】
『とはいえ、私たちを振り落とすこともできない。』
【…まあ、そうだけどよ。】
黒凪の真意が読めない様子の閃達に紫遠もお手上げだと言う様に眉を寄せる。
しかし結局黒凪をどうこうする自信は無いのか「どーぞ…」と黒凪の同行を許した。
【…せめて糸で拘束させてくんね? 怖いし】
『どうぞ。』
【どーも。(ま、いっか。結界師2人連れて来いって話だったし。…それでもこいつは危険過ぎるからやめとけって言われてたけど。)】
黒凪達3人が無抵抗に紫遠の糸を受け入れ、やがて口を開いた異界への入り口に目を向ける。
閃はだらだらと冷や汗を垂らし、限は何も言わずともその警戒を高めているのがわかる。
良守はそんな2人を心配げに見て、それから黒凪に目を向けた。
彼女だけはこの先にどんな光景が広がっているのか分かっているかのように、どこまでも冷静で…。
そんな態度が、彼女の異常性に信ぴょう性を持たせていた。
【…ほい。到着ー】
『おお…立派になってるね。』
【?…あたしはこの景色しか知らねーけど。】
『昔はちっぽけなススキ野原だったんだよ。』
薄く笑って言った黒凪に「気持ちの悪い奴。」と紫遠が目を逸らす。
そして徐に良守と黒凪、限と閃に分けて連れて行こうとした。
黒凪と離された限は体に力を籠めるが彼女の目を見て動きを止める。
『限。何もするんじゃないよ。後でそっち行くから待ってな。』
「黒凪!ちょ、待ってくれよ!」
閃がどうにかこちらに来ようと暴れるが紫遠の糸で強く拘束され身動きが取れない。
限はそんな閃を「落ち着け」と宥めて黒凪に背を向けた。
そんな様子の2人を見て小さく微笑むとやっと口元の糸を取ってもらえた良守と共にに紫遠の後についていく。
良守の目がチラリと黒凪に向いた。
「…くんなって言ったのによ…」
『へー。そんなこと言ってたんだ。』
「お前ぜってー分かってただろ!」
【ま、あたしは好都合だぜ。結界師は2人連れて来いって言われてたから。…強ち間違いでもねえしな。】
ドン、と背を押され1つの部屋に押し込まれる。
そして2人並んで座らされると目の前に紫遠が立った。
徐に彼女から無数の蜘蛛が現れ、こちらに向かってくる。
良守は体の周りに纏う程度の絶界でそれを撃退し黒凪も同様に行った。
その様子に良守が微かに目を見開く。
「お前もそれ出来んのか!?」
『"それ" って言うけど…良守君がやってる “それ” はまだ未完成だよ?』
「え…」
『それは私と正守がよく使ってる "絶界" の未完成形。…ま、感覚で身に着けた所は凄いし、私なら全然及第点を上げるレベルだけどね。』
それにしても力が出し辛いなあ。
さっきの絶界も完成形の球体の少し小さいものをイメージしていたのに。
恐らく部屋の床に貼られている魔方陣の所為だろうけど、と黒凪はため息を吐いた。
すると途方に暮れていた紫遠の背後から碧闇が姿を見せる。
【上手く行きそうですか?】
【駄目だ。もうちょっとこいつらの力抑えられねーの?】
【んー…。…おや、白髪の彼女を連れて来たのですか?】
【おう。…やっぱまずいかな。】
いえ、私としては上出来です。
碧闇が予想以上に嬉しげに言った為、紫遠は微かに目を見開いた。
そんな紫遠に説明するように「彼女こそこの城の維持に必要な技術と力を持ち合わせた結界師ですから。」と碧闇が続ける。
ただ…彼女の場合は傀儡にするのは無理でしょうから、頼み込むしかないですが。
【ということで…どうです? この城を助けてはくれませんか。】
『…確かに此処は神佑地だから、結界師としてはおめおめと衰退させるわけにもいかない。だけど…』
【だけど?】
『やり方が気に入らない。それでは出せるやる気も出せないかな。』
そう言うと紫遠も碧闇もピクリと動きを止めた。
紫遠が困った様に肩を竦めると良守が「ナイス!」とこっちを見て笑う。
【…ま、操ればいいんだろ。そこんとこは白に任せよーぜ。】
【そうですねぇ。最悪、其処の小僧でも構いませんし。】
そうこうしていると話題に上っていた白が扉を開いて現れた。
彼は黒凪を見ると目を見開き紫遠を睨みつける。
紫遠は肩を竦め目を逸らした。
【…でも凄くね? 無傷でとらえてきたの。】
「…。まあ良い。連れて来い。」
白がちらりと背後を見ると巨大な妖に連れられて閃が姿を見せた。
限の姿はない。彼は力が強い為牢にでも入れられているのだろう。
良守が閃を見て驚いた様に目を見開いた。
閃の首元に刃が近づけられる。
「止めろ! 影宮は関係ない!」
「ならば我々の要求に応えて貰おうか。」
『…だからやり方が気に入らないって…』
言ってるんだ。
小さく笑った黒凪から禍々しい力が溢れ出す。
それに呼応するように良守からも同じ種類の力が溢れ始め、それを感じ取った碧闇は白に近付いた。
【白さん、】
「…一度やってみる。」
【おいおい、大丈夫なのか?】
白の左目から紐状の虫が現れ黒凪と良守に近付いて行く。
ぽたりと閃の血が床に落ちた。
良いのか? 白が無表情に言う。
目の前で仲間が死ぬぞ。
カッと良守が目を見開き、黒凪は目を細めた。
「ん、の…! ふざけんな…!!」
【おいおい、やばいって白!】
白の虫が弾かれ、部屋に広がる良守と名前の巨大な力。
目を見開いた白が後退り咄嗟に紫遠が糸で2人を拘束する。
するとそこで集中が途切れたのか良守の力が萎み、それを見た黒凪もやむ追えず力を抑え込む。
『(危ない、良守君も巻き込むところだった…)』
【あっぶね…】
【白さん、これ以上やると城自体が持ちません】
「…紫遠。じわじわやって2人の力の消耗に努めろ。この妖混じりはもう1匹同様に地下牢に入れておけ。」
速足に去っていく白に紫遠も「はぁ?」と素っ頓狂な声を返した。
しかし白の足は止まらず、すぐさま碧闇もその後を追う。
はー…とため息を吐いて紫遠が2人を糸でさらにぐるぐる巻きに縛り、天井を見上げ用意してあった呪力封じを施した岩を2人の上にゆっくりと降ろしていく。
そして手始めに黒凪だ、というように岩を落とした。
「黒凪…!」
『…。』
ばちばちと呪力封じが音を立て、その様子に良守が焦って黒凪に目を向ける。
しかし当の黒凪の表情は変わらず、やがて呪力封じが弾け飛んだ。
【…つか。今の見てる限りお前今ので力抜けるどころか蓄えてね?】
そんな紫遠の指摘に良守の視線が再び黒凪に向く。
そして良守も思う。
あれ? 確かにさっきより元気出てね? と。
黒凪はそんな良守に小さく微笑み、窓から外に目を向ける。
『久々に烏森を出て、やっと本調子が出てきたよ。』
【はあ? 何言ってんだよ、烏森はお前らのパワースポットみたいなもんじゃねーの?】
『はは、まさか。』
そう小さく笑って黒凪が床に目を落とす。
むしろ、烏森がいないおかげで力がどんどん私の魂蔵に蓄えられているというのに。
「…おい。火黒を出せよ。」
【お前はまたそれかよ。ったく…】
紫遠が2人に近付きその目の前でしゃがみ込んだ。
なぁ。と声を掛けて来た紫遠に良守も黒凪も目を向ける。
【あたしさ、この城結構気に入ってんだよ。…此処がなけりゃ、今でも退屈な毎日を送ってただろうしな。】
「……。」
【ま、つまりは此処が好きなんだよ。だから…】
くいと紫遠が指を折り曲げた。
天井に居た彼女の傀儡たちが残った呪力封じの上に乗り、次は良守の上へ落ちてくる。
ぐあ、と良守が思わず声を漏らし、ばちばちと音を立てる呪力封じの下でもがいた。
…仕方がない、そろそろここを本気で抜け出そうか。
黒凪が力を籠めた時、天井が一気に砕け散り巨大な黒い影が部屋に入り込んだ。
天井が崩れてくる様子を見た黒凪はタイミングを見計らって糸を引きちぎると良守の上に乗った呪力封じに手を触れ、それを吹き飛ばす。
紫遠は天井の瓦礫を避けながらその様子を見るとチッと舌を打った。
お前、抜け出せたのかよ…!
忌々しげに言った紫遠に無表情な黒凪の目がチラリと向く。
「おや? …加賀美君、此処は天守閣だろう?」
【はい先生。間違いありません。】
「んー…。…おや? 君は良守君じゃないかね?」
良守が突然の登場に驚いている中
黒凪は至って冷静に加賀美と呼ばれる女性を見て目を細める。
『…悪魔は久々に見たなあ。』
【…】
黒凪の言葉に加賀美の目が彼女にチラリと向けられる。
共に降り立った老人、松戸は変わらず良守を見ていた。
そんな中、紫遠は松戸に面識があるらしく舌を打って口を開く。
【テメェ生きてやがったな!? なんか変だと思ってたんだよ…!】
「おや、君は何時ぞやの…。もう一度殺してみるかい? 挑戦は拒まない主義だが…」
【ごめんだね。…行けお前等。】
紫遠が指示を飛ばすと大量の傀儡達が松戸に向かって行く。
松戸は小さく笑うと背後の加賀美を振り返った。
はい。と返事を返した加賀美の背にあった巨大な翼が針の様に伸び部下達を一掃していく。
その様子を見ていた黒凪はまだ地面に突っ伏している良守の糸を引きちぎり、彼の腕を引いた。
するとそのタイミングで全ての傀儡達を倒し終わり加賀美と松戸の目が再び2人に向けられる。
「待ちたまえよ。」
そしてかけられた松戸の声に良守が足を止め、そちらに目を向ける。
「誰だお前?」
「松戸平介。と言ってももう死んだ事になっとるがねぇ」
「松戸…。…繁じいと父さんの知り合いの松戸さんか!?」
「恐らくそれで合っているよ。…さて、何故君とそこのお嬢さんが此処に居るのかだが…」
改めて黒凪を見た松戸は珍しく彼女を警戒しているらしい加賀美の様子に目を細める。
しかし彼女は松戸を見る事は無く無表情に加賀美を見ていて
加賀美もそんな黒凪の目を見返し、その黒い翼が黒凪に向いた。
「加賀美君、彼女をどう思う?」
【…力の強大さだけを見ると、土地神と言った所でしょうか。】
ほう、神…。
ニヤリと笑って言った松戸に黒凪は「そんなわけないでしょう」と薄く笑う。
しかしそんな黒凪には構わず「ならばあまり無下なお願いも出来ないなぁ。」そう困った様に言って松戸が1人黒凪と良守に近付いて行く。
「即刻此処を立ち去って欲しいんだがねぇ。頼めるかな?」
「駄目だ。俺は倒さなきゃならない奴が居る。」
「ほう…それは誰だい?」
「…。火黒って奴だ。」
その名前を聞くと松戸はにやりと笑みを浮かべ「なら良いだろう」と背を向ける。
松戸は加賀美の元へ戻ると「白と言う奴を知っているかい」と再び問いかけて来た。
黒凪が小さく頷き「ならば話が早い」と松戸が杖を床に突きつける。
「その白には手出しをしない事。それなら私も君達の邪魔は必ずしないと約束しよう。」
「…わかった」
「君は構わないかな?」
『別に構わないよ。…ただそこの悪魔が気になるね。』
空間を捻じり加賀美の背後に移動した黒凪。
加賀美がすぐさま翼を変形させ背後に無数のトゲを突き刺した。
パキッと翼が折れる音が響き松戸も遅れて振り返る。
黒凪の絶界で加賀美の翼が半分ほど消滅していた。
【…人間風情が。誰に喧嘩を売ってる。】
「加賀美君。…その言葉遣いは感心しないなぁ。」
『…まあ良いか。悪魔なんて早々召喚できるものじゃないから…少し観察したかっただけだよ。』
ぽんと加賀美の翼に触れて背を向けた黒凪。
その隣を走って追い越した良守はちらりと彼女の目を向け「火黒を探してくる!」そうとだけ言って前を向いて言ってしまった。
少し笑った黒凪は気持ち程度に「限と閃は任せな。」と声を掛けて彼女もまた別の方向に歩き出す。
『…地下牢発見。ただし…』
探査用の結界を駆使して着々と地下牢に近付きつつあるものの、先に居る気配にため息を吐きたくなる。
角を曲がればその人物が目に入った。そう、人物。白髪の長髪を持った人間。
先程松戸が探していると言っていた "白" だった。
彼は窓から崩れ行く城をただ無表情に眺めている。
『君が狐を心配する気持ちも分かる。ここまで露骨に異界に影響が出るとね…。』
白の隣を通り過ぎながら此方に向かってくる虫を絶界で弾いた。
黒凪は少し振り返って白を見ると微かに微笑む。
君じゃ私は操れないよ。そう言った黒凪に白は何も言わず目を逸らした。
黒凪自身が白をどうこうしようとしていない事が彼にも分かっているのだろう。
白はそれ以上何もせず、言わず…黒凪をただ進ませた。
『…うん?』
探査用の結界がやがて黒芒楼の異界全域に達した時
それに引っかかった時音の気配に思わず足を止めて彼女がいる辺りに視線を走らせる。
『(ついてきていたんだ、時音ちゃん。…まあ、強い妖に当たらない限りは放っておいても大丈夫かな。)』
今の所、黒芒楼の城の中心に松戸と加賀美と呼ばれた悪魔、上層部に良守君が走っている事が分かっている。
南の建物の上に人皮を被った妖の気配があるから、それは恐らく火黒。
私と同じ階に少し力の強い妖が1匹、…恐らく碧闇と呼ばれている妖だろう。
それからまだ出会ったことのない妖の気配がさらに下の階層にあるのが分かっている。
黒凪は徐に足を止めると、地下へ結界を通して穴を開きそちらに飛び込んでいった。
『(あとは…)』
「んー! んー!!」
『あ。閃。』
「…やっと来たか」
体を拘束していた糸を既に斬っていた限が立ち上がり徐に閃と自分の部屋を区切っている壁を見上げ、力任せにそれを破壊し閃の元へ行き閃に巻き付いた糸を引きちぎる。
その様子を見ながら牢の扉を結界で破壊した黒凪は2人が出てくる様子を横目に先ほどと引き続いて周りの気配を探っていた。
『…時音ちゃんも来てるみたいでね。今ちょうどこのお城に忍び込んだみたい。』
「!…雪村も此処に?」
『うん。でもま、とりあえず良守君を探そうか。』
多分火黒を探し回っているだろうから。
そう言って歩き出した黒凪の腕を限が掴み取り、彼女の目がちらりと限に向く。
限は眉を寄せながら黒凪の腕を掴む手に力を籠めた。
「前々から気になってた。…お前、火黒と会ってどうする気だ?」
『…何の事?』
「とぼけるな。お前の目的は火黒を殺す事じゃないだろ。」
「お、おい…」
黒凪を睨む限を止める様に閃が間に入り、止む無く腕を離した限だったが、その目つきは以前として黒凪を貫いている。
黒凪はじっと彼の顔を見ると小さく微笑んだ。
『そこまで分かってるならあと一歩だねえ。』
「おい!」
『その内分かるよ。…ほら、行こう。』
それ以上は何も言わず歩いて行く黒凪に限が舌を打った。
閃がまず黒凪の後に続き、徐に心配するように限を振り返る。
それを見た限は小さく頷き、不服そうな表情のままで2人の隣に並んで歩き出した。
『…。あれ?』
しばらく歩いたとき、突然黒凪が足を止めて顔を上げた。
そんな黒凪を限と閃が怪訝に見ていると、黒凪が小首を傾げて言う。
『良守君、いつの間にか此処の主の部屋にいる…』
「は?」
「え、それって火黒ってやつを見つける前にラスボスに会ってるようなもんじゃ…」
黒凪が地下にある壁を結界で破壊し、顔を出して周りを満たす。
そしてその視線がいくつもある城の中で最も高いもので止まると、良守がそこにいるのだと理解した限が黒凪を抱え走り出した。
それに驚いた閃だったが、流石に慣れて来たのかすぐに彼も後を追うように走り出す。
「…閃、もっと急ぐぞ。」
「っ、ああ! こっちは気にすんな!」
閃をチラリと見て一気に速度を上げる限。
そんな限に一瞬げんなりとした閃だったが彼も足に力を籠め思い切り跳び上がる。
そして閃は予想以上に跳び上がった自分自身に微かに目を見開き、思わず黒凪を見た。
数日前。…本部を烏森に移す、前。
ずっと本部に帰っていなかった夜行のNo.3であり、自身の師匠である細波が帰って来ていた。
《細波さん!》
《おう閃。久々だな》
《はい! …でも、確かまだ帰らないってこの間電話で言ってたんじゃ…》
《あー…。俺のクライアントが死んじゃってさ。仕方なく、な。》
困った様に言って笑った細波はその日、閃を本部から連れ出した。
閃の能力である、他人の考えを読み取る力…それは細波の指南によって身に着けたものだった。
この閃の能力は細波と黒凪、正守…そして限にしか教えてはいない。
あの日も修行の成果を見てもらおうと細波の前で力を発動した時だった。
《…閃、お前…》
《え?》
《かなり範囲も力も上がってるな…。筋も悪くない。何かあったか?》
《いえ、特に何も…》
自分のそんな返答を聞いて「ふーん。」と細波は顎に手を持って行って考え込んでしまう。
それを不思議に思いながらも標的から意識を外し気配を全て自分に戻した閃。
その様子を見ていて細波が微かに笑う。
《イメージは "影" か。》
《はい。太陽が雲に覆われて行く時、どんどん地上が暗くなっていくじゃないですか。そんなイメージです。》
《うん、悪くない。大分上達したよお前。》
ありがとうございます!
そう言って頭を下げる閃。…結局その日、自分の能力が劇的に上昇した理由は明かされる事はなかった。
そしてそれからずっと疑問に思っていた。
なぜ急に自分の能力が飛躍したのか、…何故足の速度が上がったり、…今の様に跳躍力が上がっていたりしているのか。
そんなことを考えているといつの間にか目的地へ辿り着いていたようで、良守とこの城の主…黒芒の化け狐の声が耳に飛び込んでくる。
「…あの、俺に何かしました?」
【うふふ。別に? 貴方の事、ちょっと探ってみただけ。】
そしてあちらも黒凪に気づいたらしく、狐の瞳が黒凪に向けられる。
狐は黒凪の姿をその目に映すと目を細めて微笑んだ。
【あら。貴方も来たの?】
「…黒凪…? 志々尾に影宮も、」
ぼーっとした様子の良守に眉を寄せる限と閃だったが、その様子をしばらく見ていた黒凪は何も言わず限から降りて狐に近付いた。
黒凪を見た姫は小さく笑うと良守の背中を叩き「早く行きなさい」と声を掛ける。
はっと目を見開いた良守は困惑した様子ながらも走り出し、限と閃はこちらに目も向けず走り去った良守に眉を寄せた。
『急に力を与えるものだから、あの子の頭がついていけてないじゃないか。』
【そうねえ。あの子なら大丈夫だと思ったんだけど…見誤ったかしら。】
『…わざわざ敵に情報を与えるような真似をするなんて変わらないね。あなたも。』
可笑しそうに笑う姫の足に触れ少し力を流し込んだ。
しかし姫がやんわりとその手を離し「要らない。」と微笑み、良守が走って行った方向を見て口を開く。
【あの子、まだまだ未熟なのね。貴方を見ていると余計そう見えるわ。】
『…そりゃあ、生きた時間も経験も違うから…。』
尾を使って辛うじて立ち上がった姫が手を伸ばし黒凪の頬に手を触れる。
ため息を吐いた黒凪はその片手を支えながら再びしゃがみ込んだ。
姫の指先が黒凪の額に触れ微かな光がそこに浮かび上がると、黒凪が目を細める。
【この城の構造を頭に流し込んでおいたわ。あの子にしたように…。】
『…本当にこの城はもう要らないの?』
【ええ、私も寿命だしね…。…貴方なら分かるでしょう? 私の気持ち。】
貴方も私と同じ、半端に力を持って生まれ…様々な生き方を経験し
この世界を一歩離れた位置から見る事にした者。
そして、
【神に近付いてしまった紛い者。】
『…』
【正直、がっかりしたわ。】
神様って思っていたよりも自由じゃないのね。
困った様に笑って姫は言った。
眉を下げた黒凪の頭に再び流れ込む、この黒芒楼の情報。
次に流れ込んで来たのは黒芒楼の幹部達だった。
城を管理している中級の妖である江朱、碧闇、紫遠、そして人皮を製造する装置の側に居る妖。名は藍緋。
火黒に牙銀、…最後に白。
【手が空いたら助けてあげて。白が私の為にいたずらに縛りつけた子達が此処には沢山居るの。】
『…。白は?』
【そうねぇ…。白は多分何を言っても此処を離れないだろうから放っておいていいわ。】
また困った様に笑う。
そんな風にコロコロと表情を変えながら妖らしからぬ思考で仲間を案じる彼女に限と閃が顔を見合わせる。
この妖は何処か神らしく、しかし神ではなく…ただただ、不思議な存在の様に思えた。
「…あれがこの黒芒楼の主か…。なんか思ってたのと違うっつーか…」
『まあ、特殊な存在ではあるからね。』
姫の部屋を後にし黒凪が指示をした場所に向かいながら彼女を抱える閃と隣を走る限が黒凪の言葉に彼女にちらりと視線を向ける。
特殊な存在といえば、間違いなくこの少女も ”そう” なのだろう。そんな事を思って。
「あの狐は、まるで白って奴がやった延命措置も何もかもどうでも良いように言ってたけど」
『うん?』
「…本当に何も感じねーのかな。神にでもなっちまうような力を持ってるとそうなっちまうのかな。」
閃が少し目を伏せて言い、限も同意したように何も言わず黒凪に目を向ける。
まるで「それはお前もなのか?」 そう黒凪に問いかけるように。
『…うーん、狐の心の内は正直分からないけれど…あの機械を破壊しないだけ白の気持ちを受け入れていたように思うよ。』
ほんの少しでも嬉しかったんだろうね、…自分を生かそうと必死になってくれる存在がいることが。
でもそんな気持ちを持ちつつも自分を長らく生かす意味だとか、そういうものを感じられないのも事実だと思う。
『だから彼女はきっとただ…流れに身を任せているだけ。』
この黒芒楼に潜入した私たちが此処を滅ぼそうとも、滅ぼせずとも。
彼女にとってはどちらに転んでもいい。
…だからきっと、白は必死になって走り回るんだ。本人があんなだから。
そこまで言った黒凪を抱えていた閃が突然立ち止まる。
そして全身の毛を逆立たせ、黒凪をそれはもう強く抱きしめた。
「け、結界…」
『え?』
「結界!」
カサカサ。
そんな音が徐々にこちらに近付いてくる。
黒凪は閃のいう通りに3人を包む結界を作ると、ついに奥の暗がりから音の正体が姿を現した。
「ちょ、待て…待て待て待て!」
「…虫?」
「ギャー!! 無理無理無理!! なんでこんな居るんだよー!?」
ゾゾゾゾ、と大量の虫の妖がまるで何処からか逃げる様にこちらに向かってくる。
奴らは結界を通り越したり、乗り越えたりとただただ一心不乱に黒凪達が北方向へと走っていった。
黒凪は結界で3人を護りながらもその虫が来る方向を見て、そしてギャーギャー叫んでいる閃の肩を叩く。
『閃、この虫が来る方向に何が居るのか調べてくれる?』
「え、えええ!? い、嫌だよ!」
ほら早く。
そう言った黒凪を睨みながらも閃はぎゅっと目を閉じ気配を虫達が来た方向へと伸ばしていく。
そして徐に目を開いて行った。
「人間が、倒れてる。…いや、人間と混ざってる奴?」
『…白かな。』
「…ああ。多分あいつだ。体を改造してるあいつ。」
閃の言葉に「そうか」そうとだけ返し、黒凪が白がいる方向へを目向ける。
すでに虫は全て逃げた様で、これ以上虫がこちらに向かってくることはなかった。
さて、姫はどう思うかな。
そんな風に考えながら黒凪は結界を解き「進もう」そう言って歩き出した。
やがて1つの部屋にたどり着き、扉の無い入り口から中の様子を覗き込めばそこには時音と一匹の妖が立っている。
時音の前に立つ妖を見た限が手を変化させ、そちらに走っていった。
【…!】
突然現れた限に目を見開き時音の前に立っていた妖、藍緋が限の攻撃を避けていく。
「え…限君!?」
「雪村、こっちに!」
「え⁉」
次に閃が時音の元へ走り、彼女を抱えて逃げようとする。
しかし予想に反して時音はその場に留まり、限の名前を呼んで彼の攻撃を止めさせようとした。
「限君待って! その人、私を助けてくれたの!」
「⁉」
限の動きがびたりと止まり、飛び退いで黒凪の隣へ。
藍緋はそんな限を睨みつつ彼が降り立った隣に立つ黒凪へ目を向ける。
【(…なんだ、この人間は)】
いや…人間なのか?
そんな藍緋の視線を受けつつ時音に目を向けると、時音もそこでやっと黒凪に気づいたらしい。
そこで彼女もやっと状況を理解したようだった。
「烏森にいないと思ったら…黒凪ちゃんたちもここに来てたんだ…」
『うん、良守君が黒芒楼についていこうとしていたから、やむなくね。』
「そう…。ほんっとあのバカ…」
怒りをその表情に浮かべた時音を見て眉を下げ、黒凪が改めて藍緋に目を向ける。
すると彼女は少し警戒したように黒凪の目を見返した。
『白が倒れたことで君の頭の中にあった虫も死んだんじゃないかな?』
【!】
図星だったのあろう、更に彼女の表情が怪訝に歪む。
そんな藍緋に近付き黒凪が一つの式神を差し出した。
【…これは?】
『結界師が扱う式神というものでね。君程の妖なら簡単に破壊してしまう程度のものだけど…。』
お守りだよ。
そう言って笑った黒凪に藍緋の懐疑的な視線が再び突き刺さる。
『君たちが言う姫様がね、私に君を助けてほしいというものだから。』
【姫が…?】
信用しきれない様子ではあるがとりあえず式神を受け取り白衣の内側に仕舞った藍緋は
黒凪の視線を追って部屋の中央にある大きな水槽に目を向ける。
『ここであの人皮を作っていたんだね。』
【ああ。】
『良ければ1つ完成品を頂けないかな?』
黒凪の言葉にまた怪訝な顔をした藍緋だったが、彼女にとってももう用は無い代物。
藍緋はため息を吐きその人皮を手に取り黒凪に投げ渡す。
限はその様子を見て閃と視線を交わらせる。この人皮をどう使うのか、想像ができたためだろう。
『ありがとう。』
【…それは数回使用可能だが、最終的にはガタが来るだろう。】
『その心配はいらないよ。私が力を籠めればきっと…』
黒凪から人皮に注ぎ込まれていく彼女の力に微かに目を見開く藍緋。
そしてぼん、と煙が立ち、駆け寄った藍緋がその煙を払えばそこには先程と何ら変わりない見た目の人皮が入っている。
しかしその人皮は確かにまったく違う代物へと変化していた。
【…力を注ぎこまれて此処まで強力なものになるとは】
人皮から手を話し、藍緋がちらりと黒凪に目を向ける。
この人間がもし私の実験に手を貸していれば、今まで以上の代物ができただろうに。
「あの、黒凪ちゃん」
『うん?』
「良守の居場所は知ってる?」
そんな時音に閃に目を向けた黒凪。
閃は後頭部を掻くと部屋から出て屋根の上にしゃがみ込んだ。
邪気を溢れさせる閃に時音が屋根の方に目を向け、限は時音の腕を引いて部屋から出て閃の方へと向かう。
黒凪もそちらに向かおうとして、そして再び藍緋に目を向ける。
『その式神、君がもう安全な場所に出られたと思ったら捨ててくれて構わないから。』
【…】
『此処を出たら…まずはどこに行く?』
【…異界の外に人見知りがいるんでな。】
その言葉に小さく笑って部屋を出ていく黒凪が屋根の上に到着すると同時に
閃の気配が彼の元へと戻ってきた。
「…墨村の居場所分かったぞ。」
「本当!?」
『じゃあ皆でそっちに行こうか。』
閃に乗った黒凪を見た限は徐に時音を持ち上げた。
驚いた様に声を出した時音だったがすぐさま走り出した限に口を閉じる。
物凄い勢いで良守の元へ向かった4人を見た藍緋はもう一度水槽を見上げ、入口へを歩いて行った。すると入り口をダン、と鋭い音を立てて包帯塗れの足が塞ぐ。
顔を上げれば薄く笑った火黒が立っていた。
【よォ藍緋。】
【…。】
【何処に行くつもりだァ?】
藍緋が何も言わずに火黒を睨む。
火黒は暫く彼女の顔を見ると、一瞬だけ笑みを引っ込め…そして彼女に斬りかかった。
「良守ー!」
「ぅえ!? 時音!?」
「こんの…馬鹿ー!」
「あ、おい…」
限の背中から飛び降りて良守を殴りに行った時音。
思わず時音に手を伸ばした限だったが、むしろ時音に殴られて宙を舞う良守にその手が向く。
その隣に閃と黒凪も着地し怒鳴り合っている良守と時音を困った様に見て顔を見合わせた。
「アンタね! 勝手に黒芒楼に行くってどういうつもり!?」
「お前こそなんで此処に居るんだよ!」
「私はアンタを追いかけて来たのよ! アンタを1人で行かせるわけないでしょこの馬鹿!!」
「ばっ…、俺だってちゃんと目的があって…!」
火黒でしょ!? 分かってるわよそんな事!
力一杯言った時音にうぐ、と言葉を止める良守。
それを見計らって黒凪が2人の間に入った。
「あ、てめーか黒凪! この怒り狂った鬼を連れてきたのはー!」
「誰が鬼よ!」
『はいはい、そこまで。』
黒凪を見て、お互いとりあえず落ち着こうと目を逸らした良守と時音。
その時だった。5人の耳にあの不気味な声が届いたのは。
【――やっぱあの烏森っつー土地にいないと君…色々と桁違いだなァ】
物凄い衝撃が5人を襲い建物が倒壊した。
咄嗟に張られた良守の結界の中で難を逃れた5人は顔を上げ結界の上に立っている火黒を見上げる。
火黒はしゃがみ込んで5人を覗き込むとニヤリと笑った。
【くく、いいねェ。久々だなァ、この肌がビリビリ来る感じ…】
その視線はまっすぐに黒凪を射抜いている。
しかしその視線を遮るように良守と限が黒凪の前に出た。
「火黒は俺が…! ってお前、志々尾もやる気かよ!」
「…早い者勝ちだ。」
そんな事を言っている間にも黒凪が良守の結界から脱出し、火黒に攻撃を仕掛けていく。
それを見て飛び出そうとした良守と限を引き留めたのは閃だった。
「ちょ、冷静になれってお前ら!」
「ぐぬぬ…」
「おい閃…」
「お前も! 黒凪押しのけてまでなんて、ガラじゃねーだろ!」
閃の言葉にはっとする限。
そして彼は少し俯くとぽつりと言った。
「気味が悪いんだ。火黒は最初からずっと…黒凪だけを狙ってたから。」
その限の言葉にはっと黒凪に目を向ける閃。
黒凪は結界を足場に火黒と向き合っていて、2人の物凄い力がぶつかり合うと彼の頬を汗が伝った。