世界を護るには【 × BLEACH 】

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 新隊長天貝繍助篇


「…くそ、なんで申請に8時間もかかんだ!」

『自分で開けた方が早かったね。』

「お前申請で役員がバタバタしてる間ずっと寝てたじゃねえかよ!」



 腕を組んで真顔で言った黒凪にすぐさま一護がそう返してふと固まった。
 そして「思っていたより変わっているんだな」と考える。
 もっと黒凪は、それこそ考えなんて読めないだろうけど、なんというか…。



「(もっと神様っぽくて、大きいモンを見据えてて)」

『それよりどうする。噂によればその瑠璃千代の祝言は明日だと聞いたが。』

「(俺達の話なんか聞いてくれなくて、協力だってしてくれないだろうって…)」



 私は瑠璃千代様の筆頭侍従だ。霞大路家に表から入る。
 悶々と考えている一護の隣で自信満々に犬龍がそう言った。
 その声に振り返ると同時に目の前に霞大路家の侍従達が姿を見せた。…刀を片手に。
 その様子を見た犬龍は「何事だ!」と声を掛けるが、その刀の切っ先は我々へ。



「貴様等には瑠璃千代姫様の虐使の嫌疑が掛かっておる!大人しく――…」

『逃げるが吉だ。』

「うおぉおっ!?」



 黒凪がすぐさま念糸で全員を引き摺って行く。
 引きずられながら犬龍が「そこを右だ!」と道筋に指示を出し、黒凪がそれに従った。
 この行動にも驚いた。きっと黒凪なら何とも思っていない様な顔であの侍従達を殺してしまうんじゃないかと思ったから。
 黒凪が犬龍の言葉通りに進んで辿り着いたのは霞大路家の地下通路だった。



「…暫く此処なら見つからない。恩に着る、間殿」

『……。』

「くそ、どうすりゃ良いんだ!」

「…。こうなれば明日の祝言で瑠璃千代様を直接助け出すしかあるまい」



 確かにそのタイミングじゃねえと瑠璃千代に会えそうもねえな…。
 そう呟いてから一護が怪訝な顔をしている黒凪に目を向ける。



黒凪?」

『……。』

≪死神代行黒崎一護、十三番隊朽木ルキア、霞大路家侍従である犬崎劉聖、猿猴川流三郎。この4名が霞大路家の姫である霞大路瑠璃千代の祝言の邪魔立てを企てているとの報告を受けた。≫



 総隊長のその言葉に目を細める。
 そして目を伏せると徐に犬龍と猿龍に目を向けた。



『君達に今一度問う。君達の行いは悪行ではないのだな』

「ああ!」

「瑠璃千代様は望まぬ祝言を挙げさせられているのだ!」



 すぐに肯定した一護と犬龍に「分かった」と返答を返して黒凪が再び目を伏せる。
 十三番隊の隊舎に居る海燕がぴくりと眉を寄せ、振り返った。
 そして同じ頃、四番隊の隊舎に居る白夜も伏せていた目を開き、ちらりと視線を寄越す。
 白夜の首に纏った銀白風花紗が風に揺られて浮き上がった。
 彼のうなじにもまた、海燕と同じ正方形の紋様がある。
 それを隠すかの様に白夜の片手が銀白風花紗を上から静かに押さえつけた。
 すると「白夜様?」と声が掛かり、振り返る。そしてそこに立つ人物に微かに笑みを浮かべた。





























「それではこれより菅ノ木愁様、霞大路瑠璃千代様の祝言を――」

「瑠璃千代ー!」



 司会の言葉を遮って放たれた一護の声に一気に周辺の人々がざわめきたつ。
 貴族の婚礼である今日、霞大路家の屋敷にはかなり多くの人が集まっていた。
 瑠璃千代!今連れ出してやる!
 そう続けて叫んだ一護の足元にクナイが突き刺さった。



「そこまでだ黒崎一護!」

「!」

「…砕蜂隊長…!?」

「!なんだ、これは隠密機動か!?」



 一瞬にして一護達を囲んだ隠密機動に犬龍がそう叫ぶと、ほぼ同時に彼と猿龍を大前田が捕縛した。
 そしてルキアの目の前には海燕が降り立ち、彼は徐に黒凪に目を向ける。
 視線が交わると黒凪が微かに眉を下げた。



『懐かしい光景だ。』

「…あぁ。俺もそう思ってたぜ。そんでお前は――…」

『……』

「何食わねえ顔して擦り抜けんだよなあ!」



 迷いなく手を伸ばしてきた海燕に瑠璃千代の元へ降りようとしていた黒凪が即座に後退する。
 それを見たルキアが「海燕殿っ!?」と叫ぶと同時に砕蜂と一護が刀をぶつけ合った。
 海燕の指先が黒凪の着物を掠る。



『惜しいね。』

「チッ…!」

『君はいつも惜しい。あの頃と何も変わっちゃいない』



 だから分かっている筈だ。
 動きを止めた海燕に黒凪が目を向ける。
 今何が起こっていて、何が正解なのか。
 黒凪の言葉に海燕が言葉を飲む。そして彼の視線はルキアへ向いた。



「…朽木、テメェ何してやがる」

「こ、これは…!」

「何か理由があんのか」

「…、」



 あるんだな。確信を持ってそう言った海燕にルキアが頷いた。
 ため息を吐いた海燕が後頭部を掻く。
 そんな海燕を見上げていたルキアは周りの隠密機動を見て再び彼を見上げ、怪訝に口を開いた。



「海燕殿、何故此処に…?」

「あー……、俺ぁお前が変な事してっから見に来ただけでだな…」

「要請無しにいらっしゃったのですか!?」

「んだよ悪いかよ!テメェの上司なんだから来ても良いだろうが!」



 よ、良くありませんよ!海燕殿が何を言われるか…!
 だったらめんどくせえ事すんなよ!
 しかしこれにはわけが…!
 そんな風に言い合う2人を横目に黒凪が瑠璃千代の前に着地して顔を覗き込む。



『…操られているのかな。無表情過ぎるね。』

「る、瑠璃ちゃんに近付くな!」

『ああ、君はこの子の婚約者かい?この子は普段からこんなに反応の薄い子なのかな?』

「え、…る、瑠璃ちゃん…?」



 愁が怪訝な顔をした途端に瑠璃千代が小刀を取り出して黒凪の腹部を貫いた。
 それを見ていた一護が目を見開いて黒凪の名を叫ぶ。
 その声に海燕やルキア、砕蜂も振り返り、飛び退いた瑠璃千代は現れた雲井と言う男の背後に隠れた。



『(あの男が裏で糸を引いてるっていう雲井か…)』

「る、瑠璃ちゃんどうして…」

『…。気配が薄い。瑠璃千代って言う子の偽物に一票。』

「テメェ、偽物か!」

「待て黒崎一護!」



 腹を押さえて膝を付いた黒凪を支える様に海燕も側で膝を付く。
 そしてじわりと着物に染み込んでいく血液に「だから言わんこっちゃねえ…!」と眉を寄せて布を取り出した。
 瑠璃千代と雲井に向けて刀を振り降ろした一護は再び砕蜂によって刀を受け止められ、瑠璃千代と雲井は何食わぬ顔をして引き上げていく。



「そ、そんな…瑠璃ちゃんは本当に偽物だった…?」

『……。海燕』

「あ?」

『君は少し邪魔だ。しっかりと要請が掛かってから出直しておくれ。』



 はあ!?お前何言って―――…。
 そこまで言った海燕を結界で囲んで転送させ、黒凪が愁に目を向けた。
 瑠璃千代を助けたい?そう問いかけた黒凪に愁が間髪入れずに頷き、此方へ走り寄ってくる。
 先程の瑠璃千代を見て彼女が偽物だと気付き、事の重大さを理解したのだろう。



「ど、どうすれば…!?」

『とりあえずこの場を切り抜ける必要がある。私達を逃がして欲しいんだ』

「僕も連れて行ってくれますよね!?…瑠璃ちゃんが危険な目に遭ってるのに、僕だけ安全だなんて嫌なんです!」

『…。分かった。――…一護!ルキア!』



 黒凪の声に2人が振り返った途端に一護と戦闘を行っていた砕蜂、ルキアの側に居る大前田を結界で弾いた。
 途端に2人が黒凪の側に駆け寄り、愁に目を向ける。



「さっきの瑠璃ちゃんの様子を見て分かりました。貴方達は本当に瑠璃ちゃんを助けようとしてるって!」

「「!」」

「何でも協力します!僕も連れて行ってください!」

『と言う事だ。君等は彼を人質に取ったふりをしてこの場で時間を稼いでおくれ』



 時間を稼ぐ?そう問い返した一護に頷き「瑠璃千代を探すから」と返答して黒凪が目を細める。
 途端に探査用の結界が瀞霊廷内に広がっていった。
 それを感じ取った一護は走り寄ってくる砕蜂達を見て即座に愁の首元に斬魄刀を突きつける。
 その様を見た砕蜂達はすぐに足を止めた。



「貴様…!」

「悪い、砕蜂。」

「っ、」

『………。…見つけた。』



 古びた闘技場の塔の中に居る。
 そう言って黒凪が立ち上がり、人差し指と中指をぴんと立てた。
 それを見た砕蜂が眉を寄せ、口を開く。



「間黒凪!貴様、120年前の事がありながらまだ我等の邪魔立てをするのか!」

「「(120年前…?)」」



 一護とルキアが砕蜂の言葉に怪訝な顔をする。
 黒凪は視線が突き刺さる中で尚笑みを浮かべて言った。



『私は今も昔も、自分のやりたいようにやるだけだよ。』

「待て―――!」



 一瞬で場所を移動し、瑠璃千代の居る闘技場の前に着地する。
 その様に目を見開いて周辺を見渡した一護とルキアは黒凪に目を向けた。
 信じていいのだろうか。この人を。
 2人の頭に同じ考えが過る。砕蜂の言葉を聞いて一気に不安に駆られたのだ。
 目の前を歩くこの少女を本当に信じていいのだろうか、と。



「――何故君がそんなものを手にする必要がある!?」

「何故?…力を得る為さ…!この世は力が全て!力が無い事は罪だ!そうだろう!!」



 そんな会話が耳に届き、4人が同時に顔を上げる。
 闘技場の中で2人の死神が戦っている。
 巨大な身の丈程の斬魄刀を持つ貴船と吉良だった。
 その2人に黒凪は目を細めた訳だが、一護とルキアは貴船の霊圧に目を見張る。



「あれは…獏爻刀じゃねえか!」

「あの男、霞大路家の者か!?」

『いや、確か彼は三番隊の隊員だった筈だ。…恐らく霞大路家と結託してたとか、そんな事だと思うけど』

「何にしたって吉良が危ねえ、助けて――」



 いや。そう言ってルキアが一護を止めた。
 吉良副隊長なら大丈夫だ。その言葉に「え」と再び吉良に目を向けた一護が目を見張る。
 力任せに戦っている貴船とは違い、冷静に戦う吉良は傷つきながらも貴船を上回る程の霊圧を携えて一気に刀を交えた。
 途端に貴船の斬魄刀が真っ二つになり、貴船は獏爻刀に力を喰われた反動か、炎に包まれてしまう。
 すると天貝に連絡を入れていたのだろう、天貝が姿を見せ、立っている一護達を見て刀を構えた。



「…黒崎一護だな。」

「!…その羽織…誰だ、てめえ」

「護廷十三隊三番隊隊長、天貝繍助」

「三番隊、隊長だと…?」



 最近就任された新隊長殿だ。
 そう説明する様にルキアが言って徐に眉を寄せる。
 他の隊長格であれば面識がある為に話し合いの余地もあったが、天貝が相手では…。
 そう考えて黙り込んだルキアの横を黒凪が通り、天貝の前に出た。



「!…間さん?」

「知ってんのか、黒凪!」

『んー…まあちょっとだけ…』

「…あんたがそっちに着く理由は何だ?あんた現世の神様なんだろう?」



 誰かを贔屓したりとかするんだな。
 そう言った天貝に「確かに…」なんて変に納得してしまった。
 しかし黒凪はあっけらかんと答える。私は自分が正しいと思う方についているだけだと。
 …神とはそういう自分勝手な存在である、と。



「貴族の跡取りを人質にして逃げ回ってるんだろう?何処が正しい?」

『…。話して良いね、一護』

「…ああ」



 頷いた一護を見てすぐに天貝に状況を説明した。
 始まりは霞大路家のお家騒動である事、現在その騒動に巻き込まれて瑠璃千代が攫われている事…。
 そして話が丁度霞大路家の持つ獏爻刀についてに及ぶと貴船と戦っていた吉良が傷だらけになりながら此方に歩いて来た。



「天貝隊長、貴船が持っていた武器も恐らくその獏爻刀であるかと…」

「!…確かにお前も言っていたな。貴船が何か霞大路家と繋がっているようだったと…」



 此処で貴船の事と霞大路家との事が繋がったのが大きいのだろう、天貝が考え込む様に口を閉ざす。
 それに追い打ちを掛ける様にルキアが獏爻刀の違法さや危険度について進言すると、やっと天貝が顔を上げた。



「…その話が本当なら、護廷十三隊は獏爻刀を霞大路家の反逆行為の証拠だと見なすだろう。そういう事なら俺も放っておくわけにはいかない、君等に協力するよ」

「本当ですか!」

「ああ。…しかし事は深刻だ。もはやこれはお家騒動所の話じゃない。俺の部下まで獏爻刀の虜になっていただなんて…」

「――何が深刻だって?」



 聞こえた声に顔を上げ、そこに立っていた恋次にルキアと一護が目を見開いた。
 その様子に小さく笑った恋次が一護達の前に着地し、「うお、」と黒凪の姿に目を見張る。



「え、あんたも関わってたんすか…?」

『…。ふむ、排除すべきかな?』

「だな」

「え゙、いやいや!ちょっと待ってください、俺は一護達の味方ですよ!」



 焦った様に言った恋次に黒凪と天貝が一護とルキアに目を向ける。
 頷いた2人に殺気を収め、その様子に息を吐いて恋次がぐったりとしている吉良に目を向けた。
 で、何が深刻だって?吉良も怪我してるし…。一体何が起きてんだよ。
 そう問うた彼にルキアが答える。



「三番隊の貴船と言う男が霞大路家と繋がっていたのだ。それを吉良副隊長が突き止め、倒した。」

「今は詳しくは説明できねえが、確実にやばい事が起きてる。」

「…ったく、お前等は毎回面倒事に首を突っ込むよな…」

「…。阿散井副隊長。味方になってくれるのなら1つ手を貸してくれないか。」



 そう言って歩き出した天貝が真っ二つになった貴船の斬魄刀を持ち上げて阿散井に見せる。
 これは霞大路家の反逆の証拠となる。これを山本総隊長の元へ届けて事情を伝えてほしいんだ。
 そう言った天貝に立場的には天貝の方が良いのではないか、と答えた阿散井だったが「いや、」と天貝が首を横に振った。



「俺は黒崎達と一緒に霞大路家に乗り込む。貴船が奴等の切り札だったとすれば追い込まれて瑠璃千代姫に何をしだすか分からないからな。」

「そうだ、瑠璃千代…!」

『ん、あぁ…』



 目を細めた黒凪が探査用の結界を広げる間に阿散井が天貝の申し出を承諾し、貴船の斬魄刀を受け取った。
 そして黒凪が霞大路家の屋敷の方向へ目を向ける。
 その方角を見て「やはり霞大路家の屋敷か…」と天貝が目を細めた。



「追い詰められた奴等が隠れられる場所と言えば屋敷ぐらいだろうからな…」

「急ごうぜ!」

「ああ。…それじゃあ阿散井副隊長、頼んだよ。」

「はい。」



 頷いた恋次を見て走り出す。
 そうして霞大路家の屋敷に辿り着くとこれらの行動を予測したのか、十番隊が屋敷の前を取り囲んでいた。
 その様子を見て「また厄介な奴が居るな…」と一護が眉を寄せ、天貝が「どうする」と声を掛ける。
 すると気配を察知したらしく、日番谷が此方に目を向けて口を開いた。



「そこに居るのは分かってる、出て来い。」

『ありゃ、ばれてる』

「…。冬獅郎…」



 姿を見せた一護達に無表情のままで日番谷が目を向ける。
 ルキアが一歩前に出て話を聞いてくれないかと取り合ってみるが、彼は「総隊長の前で聞いてやる」の一点張り。
 それを見た天貝が目を伏せて一護達の横を通り過ぎ、刀を抜いて日番谷に斬りかかった。



「日番谷隊長は俺に任せてお前等は先へ進め!」

「天貝隊長…!」

「悪い、頼んだ!…行くぞ、愁」



 愁を抱えて一護が瞬歩で姿を消し、ルキアも続いて黒凪をつれて瞬歩で消える。
 そして屋敷の中に入って走ると目の前に乱菊が立ち塞がった。
 乱菊にも先程と同じ様に取り合ってみたが、彼女も「命令だから」と刀を抜いて止める気である事を示して見せる。
 その様子にルキアが刀に手を掛けた。



「行け、一護。私が行く。」

「…頼んだ。行くぞ黒凪!」

『分かった』

「っ、待ちなさ――…」



 ルキアの一撃を退けて振り返った乱菊が刀を振り降ろした。
 しかし振り返った黒凪の灰色の瞳と視線がかち合った瞬間にびたりと動きを止める。
 頭に過った。彼の言葉が。
 ――…神様や。神様が来てくれた。…だからもう大丈夫やで、乱菊…。



「(…神様…)」



 目を見開いて固まっている乱菊に目を細め、黒凪の気配が屋敷に充満する。
 その不気味な気配にぞくっと悪感を感じた。
 圧倒的で、途轍もなく強大で。得体が知れなくて。そして。
 どんなに手を伸ばしても、届かないと思い知らされる様な。そんな。



『…、あの奥の屋敷。』

「よし!」

「っ!」



 姿を消した一護と黒凪に乱菊がはっと目を見開き、ルキアの一撃を再び受け流す。
 途端に地獄蝶から総隊長より通達が成された。



《通達。霞大路家の重大な反逆の疑いが発見された。護廷十三隊各隊は直ちに霞大路家に突入、その証拠を集めよ。》



 この通達を受けて護廷十三隊が一気に霞大路家へと向かい、戦っていた日番谷と天貝、ルキアと乱菊も戦闘を止めた。
 そして霞大路家への突撃命令の指揮を執る事となった白夜も霞大路家へと到着し、突入していく部下達を見下す。
 天貝は命令を聞いて目を見開いた日番谷にちらりと目を向けて姿を消した。






























「くそ、まだ奥か!?」

『そうだね、まだまだ奥。…あ、次の部屋に一杯人居るよ。』

「!」



 襖を開いた途端に斬りかかって来た霞大路家の暗殺部隊に対応し、黒凪が愁を連れて少し後ろに下がる。
 するとルキアが追いついて来た様で、それを見た一護がルキアに先に進む様にと言った。
 その言葉に頷き、ルキアが愁と黒凪をつれて跳び上がり先へと進む。
 黒凪が再び気配を屋敷へ引き伸ばし、状況を理解すると徐に獏爻刀の製造工房の周辺に貼られている結界を破壊した。
 工房の前で結界をどうするかと話していた浮竹と京楽がその様子に顔を上げ、同時に引き上げていく黒凪の気配に顔を見合わせる。



「どうやら現世の神様って言うのは伊達じゃないみたいだねえ…」

「ああ。…突入しよう。」

「はいよ。」



 浮竹と京楽が工房へ突入し、その連絡を受けた雲井が瑠璃千代を人質に取る為に動き出す。
 一方では敵を斬り伏せた一護がルキア達と合流しようと走り回る中、黒凪が雲井によって移動させられる瑠璃千代に気付きルキアの足を止めた。
 そして正確な位置を把握すると近場に一護が居る事に気付き彼の元へルキアを誘導する。



「――…一護!」

「ルキア!」

「瑠璃千代殿は雲井によって人質に取られ移動させられた!」

『…。右の建物に居る。そろそろそこの窓を通るよ。』



 その言葉に振り返った途端に瑠璃千代と雲井が歩いて行く様が見えた。
 その後を追い、雲居の部下達が襲ってくる中を通り、雲居と瑠璃千代の前に立つ。
 雲居は焦った様子で手に持っている獏爻刀を瑠璃千代の首元に突きつけた。



「瑠璃千代!」

「一護!…朽木殿、愁殿も!」

「雲井尭覚!何故瑠璃千代殿を…!」

「雲井は獏爻刀を使って尸魂界の秩序を壊し、貴族の長としての権力を手にしようと思っておるのじゃ!」



 真実を話した瑠璃千代に「黙れ!」と刀を突きつける雲井を一護が睨み付ける。
 途端に部屋の窓を破壊して天貝が姿を現した。
 その様子に雲居が目を見開き、一護とルキアが安堵の笑みを見せる。



「天貝さん!」

「天貝隊長、奴が事を起こした者です!捕えて総隊長の元へ――…」

「…あぁ、そうだな。」



 そうとだけ答えて天貝が瞬歩で姿を消し、雲居を斬り付ける。
 その様にルキア達が目を見開く中で逃げようとした瑠璃千代を捕え、天貝が胸元の紙を放った。
 途端に紙が光り輝き、一瞬の目くらましの間に天貝が姿を消し、一護が唖然と立ち竦む。
 ルキアも何が起きたのか分かっていない様子で倒れている雲井に目を向けた。



「…な、なぜ…全てお前の…言う…通りに…」

「…どういう、事だ…?」

「まさか天貝隊長と雲井が…?」



 息絶えた雲井から目を逸らして消えた天貝を探すが周辺に姿は無い。
 黒凪がすぐさま探査用の結界を広げ、天貝の居場所を特定すると微かに目を細めて姿を消した。



「っ!?…おい、黒凪…?」

「間殿…?」



 天貝に続いて姿を消した黒凪に先程の不安が戻ってきた。
 彼女は本当に信用出来るのか?もしかすると天貝の仲間だったんじゃないのか?
 天貝と知り合いかと聞いた時も彼女は微妙な答えを返して来たじゃないか。
 それに120年前の事だって教えて貰っていない。
 それに、…何故彼女の術が規制されている?



「…黒凪は、天貝の仲間だったんじゃ…」

「…それは分からぬ。…探そう」



 直接会って、話を聞いてから。…それからだ。
 そう言って立ち上がったルキアは目を見開いて固まっている一護に眉を寄せ、彼の頬をひっ叩いた。



「母上殿を助けてくれた間殿が敵かと不安になる気持ちも分かる!だが今は瑠璃千代殿だろう!」

「っ、」

「しっかりしろ!一護!」

「…ああ、」



 行こう。そう言って走り出す。
 黒凪への不安を心に宿しながら、瑠璃千代を助ける為に。






























「――…如月秦戉。忘れた訳ではあるまいな」

「…如月秦戉…」

「俺は彼に変わって地獄の底から貴様を殺しに来たのさ。…この獏爻刀を使ってな。」

「…何をするかと思えば…。貴様も獏爻刀か、天貝繍助」



 天貝が取り出した獏爻刀が彼の腕に纏わり付き、それを見た総隊長が刀を抜いた。
 そして斬魄刀を解放し、炎が一番隊舎を包み込み、その炎に呑まれかけた瑠璃千代を捕まっていた筈の犬龍と猿龍が間一髪で救出する。
 天貝は瑠璃千代には見向きもせず獏爻刀を総隊長の放った炎に向けて振り降ろした。
 途端に炎が一気に退けられ、総隊長が微かに目を見張る。



「…貴様、何をした?」

「我が獏爻刀は死神の力を打ち消す。この獏爻刀が発動している限り、全ての斬魄刀は使い物にならん。…只一つ我が斬魄刀の雷火を除いてな。」

「!」

「卍解 雷火・業炎殻!」



 巨大な炎が次は総隊長へと向かって行く。
 それを見て動かない総隊長の前に黒凪が音も無く降り立った。
 その背中に総隊長の目がちらりと向き、黒凪が振り返らず口を開く。



『やはり1000年も生きておられると沢山の恨みを買うものですね。』

「……。」

『協力関係となった記念と言ってはなんですが、この件は私が処理をするのはどうでしょうか。』



 雷火の炎を退け、目を見開いた天貝に黒凪が笑みを向ける。
 そんな黒凪に「待て」と総隊長が声を掛け、黒凪が怪訝に振り返った。
 怪訝な黒凪の目を見た総隊長は「あやつの真意を聞きたい」と答え、その言葉に黒凪が微かに目を見張る。



『(おおっと、また私の悪い癖が。)』



 如月秦戉。何故その名を貴様が知っている?
 そう問いかける総隊長を背に黒凪が目を伏せる。
 随分と前から閃に言われ続けていた。
 私は他人に興味を持たなさすぎると。だからこそ私は、一部の人間に疑われたり、恨まれたりするのだと。
 疑われ、嫌われた所で弊害はないが、それらの影響で自分の動きが制限されたりなどと言った事は少なくない。



「…如月秦戉は俺の親父の名だ。」

「!」

「貴様に殺された如月秦戉は俺の親父なんだよ!!」

「総隊長殿が…?」



 聞こえたルキアの声に振り返る。
 どうやら犬龍の地獄蝶に導かれてこの場に一護とルキアも来たらしく、彼等も天貝の話を聞いたようだった。
 本当かよ、爺さん!そう問いかけた一護に総隊長が静かに頷く。
 何故自分が殺した事を知ったのか、と天貝に問うと彼は総隊長に斬られた後の如月がまだ生きていた事、その際に聞いたことを答えた。
 そして天貝は父親の死後、名前や出身を変えて死神になった事を明かし、その後独自に調べた見解などを述べていく。
 父が残した最後の言葉である獏爻刀。それらを軸に調べていくと徐々に真相が分かって来たのだと彼は言った。



「山本元柳斎!貴様は父を殺した頃、霞大路家と結託して獏爻刀を製造していたな!」

「……。」

「そしてそれを独自に調べていた親父を口封じの為に殺した…そうだろう!」



 何も言わない総隊長に眉を寄せ、貴様は此処で殺す!と叫び雷火を振り降ろす。
 それを見た黒凪が再び退け、その様子に天貝が黒凪を睨み付けた。
 その様子に一護が安堵の息を漏らし、張り詰めていた気持ちが一気に緩まる。
 よかった。黒凪は敵じゃない。



「さっきの話を聞いてもその男を護るのか!間!」

『私からすれば関係の無い話なのでね。君の味方に付いてこの方を見殺しにしても私にメリットはないし。』

「何だと…!?」

『言っただろう。神とは自分勝手なものだと。…あと付け足しておくなら、無慈悲とでも言っておこうかね。』



 まあ要約して言うと、君の身の上話なんてどうでも良い。
 あっけらかんと言った黒凪に青筋を浮かべて天貝が突撃していく。
 慈悲なんてどこにもない。そんな黒凪に一護もルキアも動けなかった。
 黒凪の身体を絶界が包む。その禍々しい力に総隊長が微かに目を見開いた。
 天貝は止まらず刀を振り降ろす。その様子を無表情に見ている黒凪の前に夜一が介入し、天貝の一撃を受けて彼を退けた。



「そこまでじゃ、天貝!」

「!なんだ貴様等…」



 夜一に続いて日番谷、白夜、浮竹、京楽。そして吉良も姿を見せ、黒凪が絶界を解いた。
 その様子を見ていた夜一はこちらを睨む天貝に向けて口を開く。
 天貝!貴様の父である如月秦戉の仇は総隊長殿では無い!…と。
 その言葉に「何!?」と天貝が眉を寄せた。



「お主の父は獏爻刀の犠牲者だったのじゃ。」

「!?」

「雲井が獏爻刀の製造を模索する様になり、その試作品を使って人体実験を始めた頃、総隊長殿がその事に気付き霞大路家を調べようとした事があった。」

「しかし治外法権を理由に四十六室に却下され、それを受けて極秘として霞大路家を調べたのが如月秦戉だ。」



 夜一に続けて浮竹がそう続け、天貝がその内容に眉を寄せていく。
 だが如月秦戉は潜入中に霞大路家に見つかり、獏爻刀の実験体として利用されてしまった。
 試作品だった獏爻刀に憑りつかれた如月は総隊長に斬りかかり、止む無く総隊長が斬った。
 これが如月秦戉の死の真相だった。



「…そん、な」

「獏爻刀の秘密と、四十六室に背いての潜入捜査…。それらが関係して如月秦戉の死は隠され、表向きで霞大路家との関係を修復させた。…お主が調べて見た資料はそれじゃろう。」

「っ、…俺は、目先の恨みに囚われて…なんて事を…」



 元柳斎殿、…申し訳ございませんでした。
 そう言って崩れ落ちた天貝に「儂にも非はある。お主等を救う事の出来なかった儂の浅はかさを許せ…。」と総隊長も応える。
 そして暫し沈黙が降り、立ち上がった天貝が雷火を足元に突き刺し天貝の周りを炎が包んだ。



「天貝隊長…!」

「…吉良、悪かったな。つまらない事に付き合わせて。」

「っ…、」

「お前達と過ごした日々、楽しかったぜ」



 そうして己の炎に飲み込まれ、天貝が自害した。
 その様を眺めていた黒凪がこの騒動で随分と破壊された瀞霊廷に目を向ける。
 途端に黒凪を中心に白い結界が瀞霊廷を包んだ。
 その結界に日番谷、一護、ルキアが顔を上げて目を見張る。



「これは…」

「…間黒凪。」

『なに、修復するだけです。これから手を取り合ってゆくのですから。』

「……。」



 瞬く間に壊れた建物が修復されて行く。
 その強大な力に皆目を奪われた。



















 黒凪によって破壊された一番隊舎や傷ついた死神などの傷が瞬く間に修復され、次の日となった。
 尸魂界の復興の手間や治療の手間を0にしたと言う黒凪に皆興味津々らしく、日番谷の屋敷の周りをうろちょろとする死神が多い。
 断崖の異常の原因は天貝であると判明したが、まだ使用可能とはなっていない為、黒凪や一護達が尸魂界に居る事は皆知っていた。



「やあ日番谷隊長。間黒凪ちゃんは居るかな?」

「あ?…京楽、浮竹…」

「ここら一帯は彼女に興味がある者達で一杯だなあ。」

「全くだ。人が多くて困る。」



 眉を寄せて言った日番谷は「ま、あんた等も同じ理由で来たらしいがな」と付け足す様に言って彼等の問いに答えた。
 黒凪は今は屋敷に居ない。朽木ルキアと共に何処かへ行った。と。
 日番谷の言葉に浮竹が「朽木が?」と驚いた様な顔をする。
 そんな浮竹に頷いた日番谷は「じゃあ俺は仕事があるんでな」と去って行った。



「…ま、2人は昨日まで一緒に奔走してたわけだしねえ」

「ああ…。…それにしても妙だな、日番谷隊長の言い方だと"2人で"だろう?」



 そんなに仲良くなったんだろうか…?
 そんな浮竹の疑問に「さあ…」と京楽が肩を竦める。
 一方ルキアと黒凪は瀞霊廷内にある団子屋の個室に入り、向き合って座っていた。
 注文を終えた黒凪は湯呑の茶を喉に流し、一息ついてルキアに目を向ける。



『ルキアちゃん』

「は、はい!」

『いい加減に話してはくれないかな。何も一緒に団子を食べようと誘ってくれたわけじゃないでしょ?』

「…そ、そうですね…」



 その…、と口籠ったルキアに茶を啜る。
 そして決心した様に顔を上げたルキアに湯呑を机に置いた。



「ずっと、気になっていたのですが」

『うん』

「…貴方は、我々の味方なのでしょうか…?」



 不安気に放たれた問いに目を細める。
 今回の事件では、確かに我々の味方であったと思いますが、その。
 …120年前の事も気になりますし…。



『うーん、そうか…』



 そのたったの一言にルキアがびくっと反応した。
 そして思う。この人は苦手だ、と。
 かつて私を怯えさせたあの男に雰囲気が似ている。
 のらりくらりとしていて、心内が読めなくて、不気味で。



『あはは。緊張しすぎだよ。』



 笑って言った黒凪の言葉に小さな恐怖がまた芽を出す。
 …ああ、その白髪さえあの男のものとかぶる。
 私に一縷の希望を抱かせ、すぐにそれを踏み潰したあの男に―――。



『(この子はよく私の事を見てるなあ…。…いや、"警戒している"の方が正しいかな)』



 どうも私を誰かに重ね合わせている気がする。…イヅル君の様に。



「…貴方は、誰の味方なのですか」

『…』

「……貴方は恐らく」



 我々死神の味方でも、ましてや一護の味方でもない。
 ――貴方は、一体。
 そう言って顔を上げた途端に真横の襖が開かれた。



「此処におったか。」

「…よ、夜一殿…?」

「ん?お、ルキアも居るじゃねえか」



 その一護の言葉に彼と夜一が探していた人物が自分ではなく黒凪である事に気付く。
 そして黒凪に目を向けると彼女はにっこりと笑顔を見せていた。
 その笑顔に違和感はない。…でも、怖いと思う。



「話し途中じゃったか?」

「い、いえ!どうぞ!」

「うむ、すまぬの。」

「んじゃあ俺は黒凪の横な。」



 小さな個室に4人が座る。
 ルキアと夜一が並び、その正面に黒凪と一護が並んでいる形になった。
 暫し沈黙が降り、ちらりとルキアが顔を上げる。
 一護は何をするでもなく机を見つめているし、夜一はじっと黒凪を見つめていた。
 対する黒凪はじっと退屈そうに揺れる茶の水面を見ている。



「…ぁ、あの」

「ん?」

「私が邪魔なのでしたら、その…」

「ああいや、違う違う。もとよりお主も呼ぶつもりじゃった。」



 …私"も"?そう問いかけて顔を上げた途端にスパァンッと襖が開いた。
 そしてそこに立っている人物にルキアが目を見張る。
 その人物は個室に入ると襖を閉ざし、ドカッと一護の隣に座った。



「よう、朽木。」

「か、海燕殿…」

「よし。役者は揃ったの。」

「役者…?」



 一護が120年前の事を聞きたいとあまりに喧しかったのでな。説明する事になったのじゃ。
 そう言った夜一にルキアが一護に目を向ける。
 そんなルキアに一護が目を逸らして言った。



「だってよ…。なんか黒凪を疑うみたいで気持ち悪ィし…」

「…海燕殿は何故…?」

「俺ぁ夜一さんの説明の捕捉係だ。」

「…捕捉係…」



 それにお前、この紋様についても知りたがってたろ?
 そう言って自身のうなじを示した海燕にルキアが顔を上げる。
 海燕のうなじにある正方形の紋様。この紋様は兄である白夜のうなじにもあった。
 ルキアはずっと気になっていたのだ。あまり関わりの無い筈の両者の、全く同じ場所に全く同じ紋様がある理由が。



「当の本人が来たんだ。全部教えてやるよ。」

「!」



 その言葉にさっと背筋を伸ばす。
 一護も話を聞く様に真っ直ぐと夜一に目を向けた。
 黒凪は相変わらず湯呑の水面を眺めている。
 それを見兼ねて夜一が口を開いた。



黒凪

『?』

「良いな?お主の事をこやつらに話しても。」

『…ええ、構いませんよ。特に隠しているでもないですし』



 薄く笑って言った黒凪にまた顔を青くさせてルキアが目を逸らす。
 その様子をじっと見ていた海燕は話し始めた夜一に目を向けた。
 …夜一の話は、黒凪がこの尸魂界に突如現れた所から始まった。




 黒凪とは。


 (母を探している)

 (突如現れた少女は)
 (無表情にそう言った。)


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