世界を護るには【 × BLEACH 】
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現世の神篇
「――…報告通り、現世より"間黒凪"を連れて参りました。」
「うむ。中へ連れて参れ。」
ゆっくりと開かれた先に一礼をして日番谷が微かに振り返った。
その合図に小さく笑った黒凪も彼に倣って頭を下げ、一歩足を踏み出す。
中には左右にずらりと隊長格と思われる死神達が並んでおり、丁度正面の最も奥に総隊長である山本元柳斎重國が座っていた。
威圧的な雰囲気を纏う総隊長に目を細め、ちらりと目を逸らす。
死神達はそんな黒凪の一挙一動を見逃さない様にしているかのように彼女を凝視し、視線を外す事はしない。
『(あれが3000年は生きてるって言う死神か…)』
「…随分と警戒なさってますね、隊長達は…」
「そうねえ。あの子、そんなに警戒する様な感じでもないのに。」
「…、何かご存じではないですか?」
入ってきた黒凪の斜め右後ろに立つ副隊長達がそう話し、その中に居た伊勢が隣に立つ男性に目を向けて言った。
ああそうだ。この中で最も長く副隊長をなさっているのは貴方ですしね。
そう伊勢に続けて吉良も言った。その言葉を受けた男は「あー…、まあ知ってるけど…」そう歯切れ悪く言って口を開いた。
「あいつはさ、大体120年前ぐらいだったかな…。それぐらいの時に尸魂界に無断で入ってきたんだ。…ま、いわば旅禍だな。」
「…え?」
「旅禍…?」
「ああ。しかもあいつ、何食わねえ顔して"穿界門"を通って尸魂界に来たもんだからよ。」
…は…?
そう言葉を返してしまうのも無理はない。
現世と尸魂界を繋ぐ道として頻繁に扱っている死神でさえ、地獄蝶を連れるか技術開発局の手を借りるかでしか通れない場所。それが穿界門だ。
その穿界門を何食わぬ顔をして通って来たなんて事がある筈がない。
『…。(随分と睨まれているな。困ったものだ。)』
【なぁに、怖気づく事はない。】
突然響いた声に副隊長達の会話が一気に途切れ、その手が刀に伸ばされた。
しかしすぐさま総隊長の杖が床を鳴らし、彼の目がゆっくりと黒凪に向けられる。
いや、正確には彼女の側に居る"眺める者"へ。
「…貴様と相見えるのは数千年以来じゃな」
【さあ。俺は時を数えない性分なんでな。】
山じいと千年来の知り合いだなんて、よっぽど長く生きてるねえ。
ぼそっとそんな声が聞こえ、「あぁ…」と相槌を打つ白髪の男が見えた。
そんな彼等の視線もやはり黒凪の側にふよふよと浮かぶ球体へ。
白い光の塊は黒凪を護る様に彼女の側から離れようとしない。
【今回は何の様だ、死神。我が子を呼び寄せるだけの事はあるんだろうな。】
「…昨今の空座町での虚の出現率、また破面の出現については知っておろう」
【知らん。こいつに任せてある。】
「…ならばそこの間黒凪に問う。」
総隊長の言葉に黒凪が顔を上げる。
――貴様は我等死神と破面との戦争に対してどのような見解を持っておる。
その問いにあまり沈黙を落とさず口を開いた。
『現世にほんの少しでも影響が出るのであれば手を貸す所存です。…それが私の役割ですから。』
【珍しいな。お前が敬意を払う様子を久方ぶりに見たぞ。】
『私は目上には敬意を払う人間なので。』
「間黒凪。」
はい、と総隊長の声に返答を返す。
彼は少しだけ眺める者を睨んでゆっくりと口を開いた。
「敵である藍染は後に崩玉を元に王鍵創成を目論み空座町に現れるであろう。」
『…では貴方達死神はその空座町で藍染を迎え撃とうと言う訳ですね。』
「左様。じゃが此方も無策と言うわけでは無い。」
現在、大戦に向けて空座町及び近辺の魂魄の保護の為に技術開発局を始めた各所が開発を進めておる。
此方としても最善の手は尽くす。じゃが完全に現世を無関係とする事は不可能じゃ。
そこまで言って「何が言いたいか分かるな、」と総隊長の視線が此方に向けられる。
黒凪はその視線を真っ向から見つめ返すと小さく笑顔を見せた。
そんな黒凪に隊長格達が微かに目を見張り、その様子に副隊長達が怪訝な顔をする。
『承知しました。此方としても最善を尽くさせて頂きます。』
「うむ。」
【――人間に頼み事をするのは不満か?死神】
総隊長の目が眺める者に向けられる。
眺める者はクツクツと笑いながら「良く出来た人間だろう、この娘は」とまた声を掛けた。
そして「貴様等に忠告しておく」と光の球体が形を崩し、真っ白の髪を持つ和服姿の男が現れる。
男はこの瀞霊廷へ黒凪を連れて来た日番谷にそっくりな顔をしていた。
【この人間は現世で400年を生きている。また魂蔵と言う特殊な能力を持ち、貴様等死神よりもはるかに力を持つ"人間"だ。】
人間の部分を強調して言った眺める者に剣八やマユリ、白哉等がぴくりと反応を示す。
…見縊るなよ死神。我等現世の神がこの娘1人に全てを授けた事を忘れるな。
この娘も俺も、
【我等に"害"だと判断すれば、この尸魂界をも滅ぼす。】
「――更木!」
キィン、と甲高い音が響く。
剣八の斬魄刀が黒凪の絶界で受け止められていた。
黒凪がちらりと顔を上げるとニヤニヤと笑った剣八の顔が見える。
しかし黒凪はすぐに目を逸らしその視線を総隊長に向ける。
『ああそんなことより例のものを返して頂きたいのですが。』
「…なんの事じゃ」
『記憶ですよ。記憶。』
「!!」
総隊長の目が微かに見開かれる。
その目を見返して黒凪がまた小さく笑った。
『私は結界師なのでね、奇妙な話ですが自分の頭の中を見ることができるんですよ。…だから貴方達に"記憶を抜き取られた"と言う事だけはわかっています。』
とんとんと頭を指で叩く黒凪に総隊長は何も言わない。
しかし他の隊長格の殆どが顔を見合わせ、吉良の背後から深いため息も聞こえてくる。
何度か自分達の知らぬ事で顔を見合わせたり、反応を見せたりする隊長達に副隊長達も思わず顔を見合わせた。
そんな中で何食わぬ顔をしている黒凪は続けて口を開く
『今となっては私は貴方達の保護対象ではない。対等の存在でしょう?』
「……。」
『…見覚えのない方々に私が睨まれている状況から、私の記憶は消されていたとしてもあの頃の"記録"は残っている筈です。』
「…涅マユリ。間黒凪の記憶を返上せよ。」
マユリの目が黒凪に向き、彼がチッと舌を打つ。
彼なりの肯定の合図だろう。それを見た総隊長が杖で床を鳴らした。
しかしそれでも刀をのけようとせずむしろギリギリと力を込めている剣八を睨む総隊長。
さすがに総隊長に睨まれては止めざるを得ないのだろう、剣八が徐に刀を下ろす。
それと同時に黒凪も絶界を解いた。
その様子を見て隊長格達がばらばらに動き出し、黒凪は徐に日番谷の腕をつかみに行く。
『ねえ、君暇?ついてきてくれない?』
「…元からそのつもりだ。お前の監視は俺が一任されているからな」
『そ。よかった。』
そしてにっこりと笑った黒凪に怪訝な目を向ける日番谷と共にマユリの元へ。
眺める者はいつの間にか姿を消していた。
「…全く面倒な事を任されたものだヨ。」
『お世話になります。』
「フン。」
歩き始めるマユリの背中について行く。
その様子を眺めていた剣八は黒凪の顔を思い返して目を細めると、背を向けてのそのそと歩いて行った。
一方の副隊長達も彼等は彼等で間黒凪という少女の存在に圧倒され、再び顔を見合わせる。
「…ったく。ちったあ変わったと思ったが、変に図太い所は変わらねえ…」
「!…直接お会いになっていたのですか?その、120年前に…」
「まあな。つか俺が1番最初にあいつの対処を命じられたんだ。…んで、見事に逃がしたわけだ。」
「そんな…、あの間黒凪って人本当に凄いんですね…。」
ま、なんつーか規格外な感じだ。あいつは。
勇音の言葉に笑ってそう返した男はゲホゲホと咳を繰り返す浮竹を見て「んじゃあ俺は行くわ!」と手を上げて走っていく。
その背中を暫し見つめて「あ。」と何かを思い出したように目を見開いて恋次が彼の名を呼んだ。
「志波副隊長!」
「んあ?」
「ルキアは破面と戦ってぶっ倒れてたけど、わりと元気っすよ。」
「…なんだよその情報…。まるで俺があいつの事四六時中心配してるみたいじゃねえかよ。」
実際いっつも心配してるじゃないっすか。
そんな恋次の言葉に「ばーか。」と返してにやりと笑う。
「それはあいつだろ。いっつも"海燕殿~"ってうるせえし。」
「ゲホッ、ゴホッ」
「おっと。隊長今日は一段と変な咳してんな…。…じゃあな、お前も気ィ付けろよ。」
「っす。お疲れ様です。」
恋次が頭を下げ、今度こそ海燕が背を向けて歩いて行く。
彼のうなじには正方形の文様がある。…あの文様は、およそ100年前程からあると言う。
あの文様の正体は彼自身も「分からない」と語っているらしい。
黒凪の記憶は随分と取り出しやすい場所に保管されていたらしく、すぐに差し出され、彼女に戻された。
黒凪は戻ってきた記憶に目を細めると小さく笑って日番谷に目を向け、共に歩きだす。
「行くぞ。とりあえずうちの屋敷に来てもらう」
『うん。ありがと。』
「………」
『嫌そうな顔をしないでくれるかな。君、見た所生きていても200年かそこらだろう』
その言葉に小さく舌を打ったから恐らく当たっているのだろう。
人間が何故そこまで長く生きていられる。
歩きながら言った日番谷に「400年かけてでも出来なかった事があったから生きている。」とちょっとおかしな日本語で答えた。
やはり彼は眉を寄せて怪訝な顔をしながら、しかしそれ以上は何も言わなかった。
『…君は生前の記憶があるかい』
「…いや。俺は小せえ頃に流魂街に来たからな。そもそも現世で生きたのが数年かそこらだ」
『あぁそうか、そう言った場合もあるね。…でもほとんどの人は記憶があったりするのかな』
「さあな…」
その日番谷の返事に少し笑った黒凪は空を見上げておもむろに足を止めた。
そして静かに目を閉じて意識を広げていく。
日番谷は言い知れぬ気配に思わず黒凪を睨む。
しかし名前は目を閉じたまま言った。
『警戒する必要はない。…ただ探っているだけだから』
「何を探る必要がある」
『探している人がいるんだ。だけど…』
目を開いて落胆したような表情を見せる黒凪。
その表情1つ1つを逃さぬように日番谷は彼女から目を離さなかった。
『もういない。今になったらわかるよ。きっと新しい生でも受けたんだねえ』
悲しそうにそういった黒凪に日番谷は何も言わなかった。
『へえ…大きな屋敷だね。君の家?』
「いや、これは各隊長に与えられる屋敷だ。厳密には俺のものではない。」
『すごい待遇だねえ。』
「まあな。…とりあえず1部屋用意しておいた。現世に戻るまではそこで…」
そう話しながら角を曲がろうとしたとき。
意図せず黒凪が反対側の角から歩いてきた乱菊の胸にダイブする形となった。
しかしすぐにその弾力に押し返され、黒凪は「おっとっと」と体制を崩す。
『ああすみません。意図して胸元に突っ込んだわけじゃ…』
「いやいや、私こ…そ…」
「…松本?」
「…え、あ、はい…?」
どうしたお前。ぼーっとして。
眉を顰めて言った日番谷に「いや、その…」と珍しく歯切れ悪く返した乱菊。
そんな乱菊を見上げていた黒凪も先程己が突っ込んだ彼女の胸元へ目を向ける。
『…。(可笑しいな、彼女と私はかつて会った事があっただろうか?)』
【緊急事態発生!緊急事態発生!】
「「『!』」」
【護廷十三隊、三番隊に通達!断界内二○三地点にメノス出現!現在断界内を尸魂界に向かって進行中!…数は13体です!】
13体だと?
そう微かに目を見開いて言った日番谷は同じく驚いた様子の乱菊に目を向けた。
黒凪はその13体と言う数がどういう意味を表すのかいまいち理解出来ていないが、彼等の様子からただ事ではないのだと理解し目を細める。
「メノスがそんなに断界に…?」
「…馬鹿な…」
【――…通達。護廷十三隊三番隊はこれより断界に出現したメノスを排除。速やかに出撃準備を整え、断界に突入せよ。】
「!…早速新隊長が就任したばかりの三番隊に…?」
「…。良い機会なんじゃねえか?隊長職に就くぐらいなんだ、メノス相手にそう手間取りはしねぇだろ」
…間、悪いがこの騒動が収まるまで現世へは戻れねえ。
此方を見て言った日番谷に「なら私が道を創るよ」と笑顔で黒凪が言った。
その言葉に目を見開き「いや、」と日番谷が目を逸らす。
「テメェがそんな事をしたら余計にややこしくなる。」
『?…ああそうか。"此処"ではあまり好き勝手にやるとね…』
「……。」
『ねえ、さっき言っていたメノスというのはどこから来るんだい?』
「…虚圏っていうところだ」
『そっか…そんな名前だったんだ』
「あ?」
なんでもない。
振り返った日番谷にそういった黒凪はまた空を見上げる。
「尸魂界に自力できたことがあるお前なら、虚圏にも行っていたりしてな」
黒凪の反応を見るようにそういった日番谷。
対する黒凪は少し笑っただけだった。
モノを捨てたことはある。
(あー…また失敗した。)
(ていうかなんか消せないし。)
(そういえばさっき悪霊っぽいのが出てきた穴があったな。)
(…よし。捨てよう。)
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