世界を護るには【 × BLEACH 】
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黒崎一護編
それは、どしゃぶりの夜だった。
6月17日。…忘れもしない日だ。
あの日、あの川岸で、母と俺が。
…たった1人の少女の気まぐれでどれだけ救われた事か。
「――…一護!!」
「え、」
「…っ、!?」
焦った様な声に振り返る。
見えた母の顔が途端に驚いた様に固まった。
そしてすぐさまその表情が歪み、手が伸ばされる。
必死の形相である母に驚いていた俺は、されるがままにその腕の中に引き寄せられて。
…そして、ガンッ!!…と、音が、聞こえて。
『随分と迷いのない飛び込みだったねえ』
「っ…?」
『自分は大丈夫だっていう自負があったのかな。それとも息子の為に必死だった?』
私は個人的に前者ではないかと思うんだけれど、どうだろう。
薄ら笑いを浮かべてつらつらとそう話す少女に真咲と一護が怪訝な顔を向ける。
そんな2人を見て小さく笑うと完全に気配の無くなった川岸に目を向けて口を開いた。
『最初は大丈夫だと思ったから遠目に見ていたんだ。…けれど、急に無理っぽくなったから』
「……そう、ですか」
全てを理解した様に真咲が言う。
一護は何も分かっていない様な顔をして己の母と突然現れた少女とを交互に見上げた。
少女は真っ白な髪とは正反対の黒い傘を差して、一護と真咲から少し離れた川岸に立っている。
「――真咲、一護!!」
「!……あなた、」
焦った表情で川岸まで駆け下りてくる男は恐らく彼女の夫であり、少年の父なのだろう。
そんな事を考えながら眺めていると、つい最近に夜行に持たされたばかりの携帯とやらが何やら音を鳴らして何かを知らせた。
うん?とそんな携帯に反応を示して取り出し、開いて睨む様に画面を覗き込む。
『えー…、っと、どれ押せば良いんだこれは…』
「だ、大丈夫なのか!?お前急に力が――…!」
「とりあえずは…。恐らく彼女が私と一護を、」
『…あ、これか。…はーい。』
呑気に携帯を耳に押し当てる少女に一心と真咲が目を向ける。
彼女は暫く口を閉ざしていると「え、」と一言発して露骨な程に眉を顰めた。
『限が喧嘩した?…うん、…あらら…。』
「…死神、じゃないな」
「ええ。滅却師でもないわ、きっと」
「……虚でも無いらしい」
怪訝な視線がびしびしと突き刺さっているが、今はそれどころではない。
そんな事を考えながら耳に届く正守の声に「うん」と相槌を打つ。
そしてやがて「そっか、分かった。…うん、ありがとう。ばいばい。」と声を掛けて携帯を閉じた。
携帯を暫く見つめてから懐に戻した少女は徐に己を見つめている一心に目を向ける。
「…あんた、一体」
『私かい?…なに、名乗る程の者でもない。そもそも君等に覚えられたくもないぐらいなんでね。私の事は忘れておくれ。』
「そう言う訳には行かねえよ。あんたは俺の大事な人を護ってくれたんだ。礼ぐらい…」
『別に護ろうと思って来た訳じゃない。偶然私みたいなのが通りかかって、…えっと、ラッキー?だったと思えばいいのさ。』
それじゃあ私は用があるから。
そう言って背を向けた少女に一護が口を開く。
なあ!と掛けられた彼の声に徐に足を止め、少しだけ振り返った。
「ありがとう!」
『…。いいよ。』
少しだけ笑って言った少女が歩いて行く。
彼女はおよそ人では無い様な気配を漂わせ、言い知れぬ力を放ち。
ふらふらと掴み所のない言動で、そして。
「――…悲しそーな顔した、奴だったんだよ」
「なーにが"悲しそうな顔した奴だったんだよ"、だ戯け!」
「いって!」
「貴様の母親を襲ったのは話を聞いている限り、十中八九虚だろう。そしてその虚を退けたという事は、……。」
「…と言う事は、なんだよ」
腕を組んで沈黙したルキアに痛む頭を押さえながら彼女の顔を覗き込む。
…死神、が妥当だが。そう絞り出す様に言って、ルキアが一護に目を向けた。
その少女とやらはどんな姿をしていたのだ。
真剣な顔をして言ったルキアに「え、」と眉を寄せて記憶を辿る。
「…髪が白くて、」
「髪が白くて。」
「後は…、……あ、そうだ」
着物だった。そんで背中に四角のマークっつうか、紋章ってーの?そんな感じのがあったな。
雨の中で足を止め、微かに振り返った少女の横顔が過った。
背中にある正方形の紋章は質素な着物の中央に描かれており、妙な存在感があった事を覚えている。
「……。一護、この現世を護っている存在は何だと思う。」
「は?なんだよ急に…」
「先に行っておくが、死神では無いぞ」
「死神じゃない?…お前等みたいなのの現世バージョンが居るって事か?」
そうだ。そう言って頷いたルキアは壁に背中を預け、腕を組む。
現世にも我々死神のようなものは存在する。だが現世のそれらは主に"眺める事"しかしないのだ。
…眺める?眉を寄せて問い返した一護に頷き、晴天の青空を見る様に窓にルキアが目を向ける。
「そうだ。その存在は長らくの間、"眺める事"を主とし、現世で起きた争いを静定させたのはここ数百年で一度だけ。…だが最近になって1つの存在がそれらによって生み出された。」
「1つの、存在」
「たった1つの存在だけが、今現在は現世の異常に反応して動き回っている。」
「…たった1つだけで現世全部を護ってるってのかよ」
その通りだ。だがたった1つの存在だけで全ての問題をどうこう出来る筈もない。
だからこそ我々死神が派遣され、その取り溢しを修復しているのだ。
そこまでを話して目を伏せたルキアは「もしかすると、その存在が貴様と貴様の母上殿を助けたのかもしれぬ」そう言った。
「…でも確かに俺とお袋を助けた奴は人間だった。そんな大層な…」
「元々そんな存在だったわけではない。元は人間だ。」
「…え、まじかよ」
「…。よいか、その存在は人でありながら唯一この現世の神により神の手足となった存在。嘗て人間が起こした戦争を鎮め、今も神の命令に従いこの現世の異物を滅ぼし、現世を護っている。」
そんな人間が、この世には存在するのだ。
神妙な顔をして言ったルキアに思わず生唾を飲み込んだ。
そしてふとこんな考えが過ぎる。
もしその存在が自分と母を助けてくれたのなら。
…どうすれば、その存在と会えるのだろうか。と。
ざあ、と風が吹いて白い髪が揺れる。
それが後ろに流れてくれればよかったのだが、いかんせん風は後ろから前に向かって吹いていて。
そんな髪を無理くり手で振り払い、徐に隣の存在に目を向けた。
『――ねえ、眺める者。』
【なんだ、我等が子】
『死神とやらを驚かせてしまったそうじゃないか。私のような存在を君達が突然作るものだから。』
【驚かせておけば良いだろうそんなもの。この世界は元々我等の母のものだ。その子である俺達がお前を作った。…何の問題がある?】
眺める者が言う母、とは何かと聞いた事がある。
彼等は漠然とした表情をして「この世界だ」と言った。
その言葉を聞いて嫌な顔をした黒凪に眺める者はにやりと笑って、嫌味に言う。
《どうだ?お前の嫌う"世界"の駒となった気分は。》
…そういえば、あの問いにはまだ応えていなかったな。
そう考えて目を伏せる。視線の先では死神と呼ばれる者達が虚と呼ばれる悪霊と対峙する様子が見えた。
眺める者は虫けらでも見るような目で死神を眺めると徐に口を開く。
【頼んでいないにも関わらずよくやるものだ】
『今まで貴方達が動かなかった所為だろう。今更私の様なものを作った所で、今や彼等の存在は必要不可欠だよ。』
特に虚が多く出没するこの空座町ではね。
ざあ、と風が吹く。
オレンジ色の髪をした死神が虚を切り伏せ、虚の断末魔が響いた。
その様を見ていた眺める者は「フン」と鼻で笑い、立ち上がる。
【で、俺を呼んだ理由はなんだ?何も世間話をする為ではないだろう】
『…。…この空座町で数日前におかしな虚が現れてね。随分と人が死んだ。』
悪霊に対するセンサーは私には備え付けられていないんだろう?
そんな黒凪の問いに「あぁ」と眺める者がオレンジ頭の死神を目で追いながら応える。
悪霊にまで反応していれば、今度こそお前の休まる時間などなくなってしまうぞ。
眺める者の言葉を聞いた黒凪はその言葉に困った様に眉を下げた。
『それは困るなあ』
【あぁ。だからお前にはその性能を省いてやったのさ】
『おや、貴方にもそんな慈悲があったなんてね。』
【お前は我等の子だ。母とは子を大切にするものだろう。】
いや、俺は父だろうか。
そんなどうでも良い事で迷いだした眺める者に小さく笑い、黒凪も立ち上がる。
わかった。それじゃあその"母"の情けに甘えることにしよう。
『私はもう暫くこの空座町に留まろうと思う。また以前の様な虚が来ないとも限らないからね。』
【良い心がけだな。…せいぜいこの世界の為に力を振るえ、我等が子よ。】
その言葉を最後にふっと消えた眺める者は最後にもう一度だけ"己の子"に目を向けて、今度こそ消え去った。
そんな眺める者に気付いていた黒凪は息を吐いて人差し指と中指をぴんと立てる。
ぐん、と空座町全てを己の力で飲み込んだ黒凪は刀を担いで走るオレンジ頭の死神の存在に一瞬だけ意識を向け、すぐに他に意識を向ける。
彼女にとってオレンジ頭の死神は、空座町を護っている死神の1人に過ぎなかった。
『(最近、露骨に死神が増えたなあ)』
そんな事を考えながらゆらりと空座町の中を歩いていく。
此処数日は尸魂界から送られてきた死神達の働きで自然と現れる虚はすぐに消え去っていた。
その為彼女は目的の虚、破面が現れるまでただただ好きな様に過ごしているだけ。
「――!虚だ、行くぞ。」
「うす。」
「はーい。」
そんな会話が聞こえたと同時に己の右側から走ってくる3人に目を向ける。
銀髪の少年、赤髪の青年、金髪の女性。
真剣な顔をして走っていた彼等がふと目の前を横切った少女に目を向けた。
彼等も随分と派手な見た目をしているが、真っ白な髪で和服を着た少女は目についたのだろう、暫し彼等と視線が交わる。
『……。』
先に目を逸らしたのは黒凪の方だった。
そんな黒凪など気にせず走る恋次と乱菊だったが、そんな中でも隊長である日番谷は足を止め、悠々と歩いていく黒凪の背中に目を向ける。
ちょっと隊長、と足を止めた乱菊はふっと消えた霊圧に「あ。」と呟いて顔を上げ、不機嫌な顔を日番谷に向けた。
「もー、隊長がぼんやりしてるから虚が…」
「…さっきの奴、お前等見たか」
「さっきの奴…白髪の奴っすか?見ましたけど…」
「ああ、現世にしては珍しい感じの子でしたよね。」
…さっきの女の姿を忘れるな。
日番谷の言葉に「え?」と恋次と乱菊が同時に小首を傾げる。
恐らくあいつはこの現世を護る存在…。
…あぁ、あのまだ名称がついてない…。
言葉を濁してそういった日番谷と恋次に続いて乱菊が今しがた道を曲がって姿を消した少女に目を向けた。
「…あの子が?」
「あぁ。恐らくそうだろう。」
「…。別にあいつを覚える必要はないんじゃないすか?言っちまえば仲間でしょう、今回は。」
「いや、あいつはこの現世を護る存在だ。」
俺達が現世に害だと判断すれば容赦なく攻撃してくるぞ。
眉を寄せて言った日番谷の言葉に恋次と乱菊がごくりと生唾を飲み込んだ。
日番谷の脳裏に過ぎる。…先程、ほんの少しの間だけ交わった視線が忘れられない。
俺達死神の事などなんとも思っていないような目。
まるで偶然傍を過ぎった虫や鳥を眺めていただけの。そんな目。
そうして夜になり、やっと目当ての破面とやらが現れた。
すぐさま駆けつけた死神達が応戦し、その様子を黒凪は離れた位置で監視している。
複数名の破面が現れた為、同じだけの人数がいる死神に任せてしまえれば楽な為だ。
…だが、どうもそう簡単な話でもないらしい。
『(破面の霊圧で周辺の人間が倒れる可能性があるなぁ…)』
仕方がない、潮時か。
そう呟いて立ち上がった途端に死神側の霊圧が跳ね上がる。
うん?と目を見開いた黒凪は予め広げておいた探査用の結界に意識を向けた。
『…ふうん、"限定解除"か。死神も力を制限されるなんて可哀想に。今まで斬られた分の傷がもったいないじゃんね。』
再び腰を下ろして眺める事に専念する。
限定解除を行ってからは早かった。
瞬く間に死神の隊長、副隊長等と戦っていた破面が斬り伏せられ、オレンジ頭の死神を除いての全ての戦闘が終了する。
黒凪はボロボロになった死神達に目を向け、落下する銀髪の死神を結界で受け止めてやった。
落下する日番谷に駆け寄ろうとしていた乱菊は突然現れた結界に目を見張り、一層足を速める。
『…。見事に皆ボロボロじゃないか。こんなことなら手を貸してあげればよかった。…まあ、まだ終わっていないけれど。』
そう呟いてちらりとオレンジ頭の死神と、彼と戦っている破面に目を向ける。
どう見たってあの破面だけは別格だ。オレンジ頭君が勝てるとは到底思えない。
破面側が手加減して戦っているからほうっておこうと思っていたが、まあこの世界を護るものとしては見逃すわけにもいかないだろう。
『(それに、放っておくと眺める者に小言でも言われそうだ。)』
【おらおらどうした死神ィ。てめぇマジで張り合いねェな】
「っ…」
オレンジ頭君もそろそろ限界だろうし、さっさと…。
月牙天衝!!!!
そんな声が耳に届く。それと同時に巨大な黒い斬撃が破面に向かった。
突然の事に驚いた様子の破面はその一撃を直接受け、微かな傷をその身に受けて笑う。
そして「やるじゃねえか」と余裕たっぷりに放たれた言葉に一護も額に汗を滲ませながら不適に笑った。
「ちょっとは張り合えそうかよ、破面…」
【…クク、面白いじゃねえか。死神。】
刀を鞘から抜き、徐に持ち上げる。
そんな破面の様子を顔の左半分を抑える様にしながら一護が睨んだ。
ちっとだけ本気を出してやる。簡単に死ぬなよ死神。
笑いながらそう言って、ブンッと破面が刀を振り下ろした。
それだけで巨大な霊圧が一護にものすごい勢いで向かっていく。
その霊圧を目を見開いて眺めるだけの一護の前に黒凪が音もなく降り立った。
途端にドォン!!と巨大な音と地響きが空座町を駆け巡る。
「――…え」
『うん?…え゙、待って壊れ過ぎじゃない?地面抉れ過ぎじゃない?…うわー…』
「…あん、た…」
『あ、ごめんね死神君。ちょっと面倒くさくて傍観しちゃった。』
町の壊れ具合まで見てなかったなあ。
そんな風に自分のペースで話す黒凪に対して一護は固まったまま。
破面は己の斬撃を余裕の表情で受け流した少女を上空から見下ろしている。
「一護!」
「…恋次、」
「破面は――…」
『結。』
血が上空から降ってくる。
はっと顔を上げた一護と恋次は破面に突き刺さっている透明な棒状の箱に目を見張った。
霊圧を乗せた渾身の一撃でも少ししか傷が付かなかった様な破面の身体をいとも簡単に貫いた。
その事実にただただ目を見張り、何でもない事の様にやってのけた少女に驚きの視線を送る。
【が、…は……っ】
『悪いけれど、ここら一帯をぐちゃぐちゃにした責任は取ってもらうからね。』
【…んだよ、テメェ…!】
『私はこの世界を護る者だ。君等みたいな"異物"を滅していくのが仕事。』
よろしくねえ、なんて笑って言った黒凪に一護の脳裏にあの日の事が過ぎる。
白い髪、小さな背中、そしてこの口調。
間違いない。俺とお袋を助けた―――!
結界を足場に「よいしょ」と流暢に言いながら破面へ近付いていく黒凪を織姫の治療を受けた日番谷や乱菊、一角、ルキアも見上げている。
『さて、それじゃあ君みたいなのは再生能力も高いだろうから…』
塵にしてしまおうか。
にっこりと笑って言った黒凪の身体の回りに禍々しい力が溢れ出す。
その恐ろしい程に冷たい力に周辺にいる全員の背中を寒気が走り抜けた。
…怖い、そう思わずと言った風に呟く織姫の肩を乱菊が抱く。
【ぐ、クソ…!!】
『それじゃあ、さようなら―――…、…?』
ずき、と胸が痛んだ。
そんな己の胸元に「うん?」と目を向けると同時にガキッ!と絶界に衝撃が走る。
振り返った黒凪は絶界に触れながらも塵にならない斬魄刀に目を向け、そしてその持ち主を見上げた。
何も言わずに刀に力を込めた男が霊圧で黒凪を絶界ごと弾き飛ばす。
地面に落下した黒凪を眺め、男が刀で破面に突き刺さる結界を破壊した。
【っ、…東仙…】
「撤退するぞグリムジョー。あれは敵に回すべきではない。」
【んだよあいつは…!!】
「分からない。だが明らかに格が――」
ぐんっと広がる白い結界を見た東仙がグリムジョーを連れて一気に上空に飛び上がる。
それでも迫ってくる結界に眉を寄せ、すぐに黒腔を開いて逃げる様に去って行った。
その黒腔すらも一瞬だけ真界が飲み込んだが、やがて間に合わず消滅するだけに留まってしまう。
その様子を眺めて息を吐いた黒凪は徐に真界を空座町に広げて行った。
「…何だ、この白い膜は…」
「……。」
「お、おい一護、」
一護が何も言わず立ち上がり、早足に黒凪が落ちて行った方向に向かって行く。
黒凪は破壊された部分を真界で包み込むと徐に眉を寄せ、町を修復して行った。
瞬く間に修復されて行く周囲と、傷がふさがって行く己の身体に日番谷達が目を見張る。
一護も己の両手や身体を見ると目を見張り、一層足を速めて黒凪の元へ向かった。
『――よし、終わった。』
真界を消し去り、徐に立ち上がる。
そうしてゆらりと歩き出した黒凪の手首を一護が掴み取った。
ん?と振り返った黒凪の目と一護の目が交わる。
途端に彼等の傍に日番谷達死神も集結した。
『…おや、死神の皆さんじゃないか。』
「黒崎、その手を離せ」
「!…冬獅郎…」
『別に離さなくても構わないよ。私に話があるんだろう?』
ゆるく微笑んで言った黒凪に一護が驚いた様に目を向ける。
しかし彼女の目は徐に近付いて来る日番谷に向いていた。
現世を護る者、だな。
眉を寄せて行った彼に「うん」と黒凪が笑顔で頷く。
『私の名前は間黒凪と言うんだ。そう呼んでおくれ。』
「!…名前があるのか」
『そりゃああるよ。人間だからね。』
「!」
目を見開いた彼等に困ったように笑って首を傾げた。
人間だよ、私は。…少なくとも私はそう思っている。
そう言った黒凪に彼女の手首を掴む一護の手の力が微かに込められた。
「あんたの生みの親は何処にいる?」
『あぁ、眺める者かい?彼等は姿を見せやしないよ。この世界の崩壊寸前まで姿を見せないような者達だからね。』
「…ならあんたに話しておきたい事がある。総隊長の元へ一緒に来てくれねえか」
『構わないよ。…ただ、』
君との話が先だね。
そう言って己を見上げた黒凪に一護がはっと顔を上げる。
明らかに覇気のない一護の様子に日番谷達が顔を見合わせた。
それと同時に一護と黒凪が一瞬で姿を消し、ぎょっと日番谷達が目を見張る。
一方の一護達は遥か上空に居た。
「…っ!?」
『あぁ、驚いた?こんな事も出来るんだよ。』
この世界は私の味方だから。
眉を下げて言った黒凪と共に彼女の視線の先に一護も目を向ける。
夜の町は無数の光でキラキラと光っていた。
「…綺麗、だな」
『そうだね。…この世界は綺麗だ。』
「……。…なあ、あんたは俺の事を覚えてないかもしれねーけど…」
『…』
俺は昔あんたに救われたんだ。
俺と、俺のお袋を救ってくれた。
目を伏せて言った一護に思い返す様に右上を見上げる。
しかし黒凪は全くその心当りが無かった。
『…本当に私だった?』
「それは間違いねえ!…ずっと探してたんだ、間違う訳がねえよ…。」
『…。…そっか。私は随分と生きて、随分と沢山の人と関わって来たから。…悪いけれど忘れてしまったみたいだ。』
…6年前の6月17日。天気はすげえ雨で。
俺は川岸に立ってた虚に無暗に近付いて、その所為でお袋を危険に晒しちまった。
…。お袋が死んじまう寸前で、あんたが来てくれたんだ。
一護の言葉を静かに聞いている黒凪はやはり思い出せないのだろう、その話に肯定も否定もしない。
「…あんたは偶然だって言ってた。助けようとしたわけじゃないって。…でも、あんたに助けてもらって本当に助かったんだ。あんたが居なかったら、お袋が死んでた。」
そんなの、俺も俺の妹も、親父も絶対に耐えられない。
目を伏せたままで言った一護に黒凪が眉を下げ、微笑んだ。
…そっか。そう言って一護の頭に手を乗せた黒凪が顔を上げた一護ににっこりと笑顔を見せる。
『そんなに感謝されるなんて昔の私も良いとこあるね!』
「!」
『私も偶然だったとは言え誰かを助けられた事は凄く嬉しい。増してや君を救えたのなら、それはとても嬉しい事だ。』
「…あんたも、救われたんだな」
一護の言葉に目を見張る。
俺を助けてくれた時のあんたは、すぐにでも流れの速い川に飛び込んじまいそうだったから。
眉を下げて、心底安堵した様な表情をして言った一護に恥ずかしそうに黒凪が目を逸らした。
『…私、そんなに死にそうな顔してた?』
「死にそうっつーか、なんだろ、…泣きそうだった、かもしれねえ」
『!…あはは、それは確かに私だね。うん、君を助けたその泣き虫は私だわ。』
けたけたと笑う黒凪に一護もぎこちなく笑う。
そんな気の抜けた顔しないでよ。そう笑って彼の肩を叩いた。
そうだよな、と口元を片手の甲で抑えた一護の表情はまだ何処か漠然としている。
「…ありがとな。」
『うん?』
「お袋を助けてくれて。…ありがとう」
『…良いよ。君の助けになれたなら私も本望だから。』
君のお母さんが居なくならなくて良かった。
微笑んで言った黒凪に一護が小さく頷く。
その様子を心配になって探し回っていたルキアが目撃し、心の底から嬉しそうな顔をする一護に眉を下げた。
ずっと言いたかったんだ。
(死なないで。どうか。)
(……)
(頼むよ。頼むから…!)
(…ご、めん)
(懐かしい記憶が、また過った。)
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