世界を救ったのは【 × ぬら孫 】
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奴良リクオ編
「ちなみに妖怪の大半は火の妖怪だとも言われている!そして――」
意気揚々と話し続ける人一倍大きな声。
その声の主にちらりと席に座っていた限が目を向けた。
その目付きの悪さに「ゔ、」と話していた本人、清継が言葉を止める。
「…な、何かな志々尾君…。もしかして君も妖怪に興味なんかあったりし」
「いや、」
「ですよねー…」
あははは…。と眉を下げた清継に限が目を逸らし再び正面に目を向ける。
その先にはつい本日転校してきたばかりの影宮閃、間黒凪が座っていた。
その様子を見てリクオは「凄いなあ志々尾君…転校してきた子達ともう仲良くなってるや…」とお門違いな事を考えていたのだが、話を再開した清継に意識を戻す。
「そして!ほとんどの妖怪の目的が――」
「…人を畏れさせる事。」
「んあ?…なんだ、詳しいじゃないか転校生。えー…」
「花開院ゆらです。」
ぶっと飲んでいたお茶を吹きだし咳き込む黒凪に「大丈夫かお前…」と閃が背中を擦る。
そんな中でも気の抜けた様な無表情で「その中でも危ないのは獣が妖怪化した者達…」と話し続けるゆら。
黒凪はゆっくりと息をしながら自己紹介をまともに聞いていなかった自分を呪った。
ちなみに現在の黒凪の姿は道端を歩いていた女子中学生のものを借りており、本人の姿とは似ても似つかぬ姿になっている。
「そう言った類の妖怪は知性はあるが理性はない。…もしも見かけたら近付かん事です。」
『…知性はあるのに』
「理性はない…」
「…何故俺を見る」
じーっと限を見てぼそっと言った黒凪と閃に本人が眉を寄せる。
素晴らしい!君の様な人を待っていたのだよゆら君!
がっしりとゆらの手を握って言った清継は「君も是非清十字怪奇探偵団へ入りたまえ!」と嬉しげにかつ声高らかに言った。
その言葉に遠目に話を聞いていたリクオが近付いて行き「清十字怪奇探偵団?」と訊き返す。
振り返った清継がふふん、と笑った。
「僕が結成した団体だよ。主な活動は妖怪探し!」
「え、妖怪探し…」
「早速今日結成式を行おうと思っていてね!奴良君のうちで!」
『(お、行きたい)』
え、僕のうち!?
勢いよく聞き返したリクオに「君のうちは妖怪屋敷だと陰で噂されているのを聞いてるからね…是非頼むよ…」と清継が嫌な笑みを浮かべて返す。
ぬらも"妖怪屋敷"のワードを聞くと気になる事があるらしくちらりとリクオに目を向けた。
「君に拒否権はないぞ奴良君!僕の情報網は完璧だ…恐らく君のうちには妖怪がいる!」
「え、ええー…」
「さっきから妖怪妖怪ってうるせえなァ」
「うわっ!?」
真上から聞こえた低い声に清継が顔を上げて飛び上がる。
そこには名簿帳を片手に佇む人皮をかぶった火黒が立っていた。
…裏会の力は凄い。転校生を入れるついでに新任教師として火黒まで赴任させるとは。
ちなみに浮世絵中学校での火黒の名は"不知火 理一(しらぬい りいち)"である。
更に言うとその名前を考えたのは黒凪と正守。先生なんだから頭の良さそうな名前にした。
「し、不知火先生…」
「お前等中学生だけで夜に変なパーティでもおっぱじめる気か?」
「へ、変なパーティじゃありません!清十字怪奇探偵団の結成式です!」
「だぁからその清何とかが変なんだよ」
そ、そんなあ!そう言ってショックを受ける清継に「よし、このまま不知火先生に止められれば結成式は中止になる!」とリクオが微かに笑みを浮かべた。
しかしその先に待ち受けている結末はまたリクオの予想とは違ったもので。
どうしてもやりたいんだったら保護者として俺も連れて行きなァ。
火黒の言葉に皆が一瞬固まり、「えっ、えええ!?」と一斉に声を上げた。
「あァ?文句あんのか?」
「めめめ滅相も無い!」
「…不知火先生って今日赴任してきた先生だよね?格好良いから早速人気だけど何考えてるか分からないって友達が…。」
「そ、そうなんだ…(え、本当に不知火先生も来るの…?)」
折角の結成式だ、人は多い方が良いよなァ。
そう言った火黒に「しかも乗り気だー!」とリクオが目をひん剥いた。
ワザとらしく部屋を見渡した火黒の目が黒凪達で止まる。
「ようそこの陰険トリオ」
『陰険トリオとはまたご挨拶ですね不知火先生…』
「あー、悪い名前なんだっけ?」
ぴくっと片眉を上げ「間黒凪です」と引き攣った笑みを浮かべて黒凪が言った。
あーそうだったそうだった。黒凪だなァ、そう言って火黒がニヤリと笑う。
あの野郎、楽しんでやがる。
閃と限がじとっと睨んでいると「お前等も来いよ、ケッセイシキ。」とこれまたわざとらしく誘った。
本来あのような誘い方では行きたくないが、如何せんそう言う訳にもいかない。
『…解りましたよ、行きます。』
「(え゙)」
「んじゃあ俺と限も行くかな。良いよな?清継君」
「お、おお!是非とも来たまえ!」
ちなみに妖怪に興味なんかは…。
そう言った清継に頬杖をついて閃がにやりと笑った。
あるよ。結構俺は詳しいぜ?
そんな閃にリクオはげんなりと肩を落とし「それじゃあ僕は母さん達に話を通しておくよ…」と一足先に学校を出て行った。
そうして夕方になり、清継、カナ、ゆら、島、そして火黒と黒凪達と言った奇妙な面子でリクオの家の敷地へ入り込む。
玄関で皆を出迎えたリクオはまだげんなりとしていて、その隣に立った山吹乙女はにっこりと微笑んだ。
…こうして2人が並んでいる姿は初めて見る。その姿は立派に親子のものだった。
【いらっしゃい皆さん。リクオの母です。】
「は、初めまして…!」
【どうぞ中へ。リクオが案内しますからね】
「は、はいっ」
見目麗しくおしとやかな山吹乙女の言葉に恐縮した様に清継が勢いよく返事を返す。
一方のゆらはじーっと山吹乙女を見るとちらりとリクオに目を向け「ふーん…」と呟いた。
その様子を黒凪が横目に見ていると閃が彼女の耳元に口を近付ける。
「早速妖がお出迎えだな」
『ん?あぁ、そうだねえ』
「…あ、そっか。裏会での管轄だもんな、東京って。知ってんのか」
「どーも。奴良君のクラス?の副担任…だったかな。不知火理一です」
よろしく、と笑った火黒の笑顔は随分とわざとらしく何処か不気味だった。
そんな笑顔にも臆さず「よろしくお願いします」と頭を下げた山吹乙女に火黒が一層笑みを深める。
そんな火黒と山吹乙女を横目に皆で靴を脱いで屋敷の中へ。
少し進むといつの間にか火黒もリクオについて行く皆の列に加わっていた。
ゆらは周りを見渡しながらリクオについて行き「…そこはかとなく妖気を感じます」とぼそっと呟いた。
その言葉に過敏に反応するリクオの背中を見ていた限と閃はちらりと顔を上げ首をひねって左斜め後ろの二階辺りに目を向ける。
数秒程遅れてゆらも振り返った。
「(…上手く隠れたか)」
「(結構駄々洩れてんなー…)」
「(気の所為か…)」
限と閃が呆れた様に息を吐き、ゆらは少し警戒した様な顔のままで廊下を進んで行く。
やがて辿り着いた一室はとても広く、殺風景な部屋の中に座布団が敷かれていた。
その座布団に1人ずつが座り清継が少し興奮した様子で口を開く。
「良い雰囲気だ…、まさしく清十字怪奇探偵団の結成式に相応しい!」
「そ、そうかな…」
【失礼致します。お茶をお持ちしました】
「(お。妖怪。)」
閃が現れた毛倡妓に微かに目を見開き、リクオに目を向ける。
リクオの表情は何処からどう見ても焦っていて、正直顔色は酷く悪かった。
あ、あとは僕がやっておくよありがとう!そう言って毛倡妓を追い出すものの、やはり一度見てしまうと彼女の美しい容姿には食いつかずにいられない様で。
「奴良!お前あんなすげー姉ちゃんいたのかよ!?」
「ええっ?リクオ君お姉さんとかいた…?」
「い、いや!あの人はうちの事を色々お手伝いしてくれてる人で…」
「お手伝いさんって事か!?すげー、お前って金持ちなんだな…」
島とカナがリクオにそう声を掛けると、彼は少し焦った様に襖に手を掛けお手洗いに立った。
それを見送ったゆらは気配が遠ざかった事を確認するとゆっくりと立ち上がる。
そんなゆらに皆が目を向けた。
「ゆら君?どうかしたかね?」
「…やはりこの屋敷は可笑しい。少し見て回ります」
「え、駄目だよ勝手に…ってゆらちゃん!」
『(あらら…)』
静止の声などお構いなしに動き始めたゆらに清継達も顔を見合わせついて行く。
それを見た黒凪は限達に目を向けた。
その目を見た限達は小さく頷き、4人もゆら達について行く。
そんな様子を影から見ていた首無達妖怪は困った様に息を吐いた。
『…清継君、足元に虫が。』
「ん?」
「え?」
清継達が足元に目を向けた瞬間に廊下に偶然落ちていた石ころを火黒が庭に向かって蹴り飛ばす。
コツッと木に当たるとその音に首無達が身体を草むらに忍び込ませた。
はっとゆらが庭に目を向けるが、火黒が蹴った石の音に隠れた妖怪達の影は微塵も見えない。
「ちょっと皆!こんな所に…」
「やはり物凄い妖気を感じる…。この屋敷には絶対に何か…」
「(ゆ、ゆらちゃんって何者―――!?)」
ひーっとあからさまに焦るリクオに限と閃がまた呆れた様に息を吐いた。
既に限達は黒凪からゆらが陰陽師の花開院家の人間である事を聞いているし、奴良組が裏会とは良好な関係を築いている事も聞いている。
その為黒凪達の今回の目標は妖怪の気配を機敏に感じ取る事が出来るゆらに奴良組にいる妖怪の存在を悟らせない事である。
貴重である協力的な妖怪集団を見す見す滅却されるわけにはいかない。
「…うーん…居ませんねえ…」
「だ、だからうちには妖怪なんていないって!だから居間に戻ってお茶でも…」
「いえ、もう少しだけ。」
「(ええー…)」
その後も清十字怪奇探偵団の捜索は続き、水場、脱衣所、そこらにある部屋等を続けて見て回る。
やがてゆらが足を止めたのは仏壇を置いてある大きな部屋だった。
中に足を踏み入れた一行が好き勝手に動き始める中、ゆらは的確に妖気のする仏壇へ近付いて行く。
仏壇の中にきつきつで入っているのか、明らかに入り切っていない妖怪が見えるし妖気も強い。
黒凪がちらりと火黒に目を向け、火黒はゆらが観察している仏壇から最も離れた仏壇に近付くと陰に隠れて指先の人皮を少し破いた。
「っ!(妖気!)」
「うわっ!?」
「(おーおー、食い付いた。)」
「不知火先生!その仏壇見せてください!」
急いで向かってきたゆらから離れ、黒凪の前に火黒が破いた指先を差し出した。
その指先を握った黒凪がすぐさま人皮を修復し、消えた妖気にゆらが眉を寄せる。
上手く意識を逸らせたかな、と黒凪が目を向けていると仏壇の隅の方からまた1つ妖気を感じ其方に目を向けた。
『(全く、間抜けなのが増えたねえ)』
「…何かに見られてるような…」
『(そうら、気付かれた)』
次に助け船を出そうとしたのは限。
しかし飛び出してきた妖怪の様子に黒凪が彼を止めた。
飛び出して来たのは小さな鼠だが、明らかに妖気を漂わせている。
それを見たゆらはすぐさま逃げ出した鼠を追いかけ、リクオも焦った様に彼女について行った。
キャーッと鼠に驚いて倒れ込んだカナの巻添えで島と清継も倒れ、彼等に駆け寄った黒凪は閃と限に目を向ける。
頷いた2人はリクオ達について行き、部屋には火黒と黒凪、そしてカナ達が残った。
「ちょ、家長さん…重い…」
「ご、ごめんなさいっ」
「おいおい何の騒ぎだい?悲鳴が聞こえたが…。」
『!』
顔を見せた男に皆が目を見開く。
向こうも見慣れない人間に少し驚いた様に目を見張ると「あぁ、リクオの友達かい」と緩く微笑んだ。
すぐさま妖気を完全に引っ込めた鯉伴に火黒が面白いものを見つけた様ににやりと笑う。
「あ、ええと…?」
「俺ぁリクオの父親だ。リクオはどうした?」
「リクオ君のお父様でしたか!ええと、リクオ君は先程現れた鼠を追って…。はっ、まさかあの鼠は妖怪…!?こうしちゃいられない!」
「あ、おい」
走り出した清継に「待ってよ清継君!」と島とカナもついて行く。
それを困った様に見送った鯉伴の目が火黒と黒凪に向いた。
最初に動いたのは火黒。彼は鯉伴に近付き緩く頭を下げる。
「どォも。リクオ君の副担任をしてる不知火理一です。」
「あぁこりゃあご丁寧にどうも。リクオの父親です。」
よろしく。と握手をした途端に鯉伴が少し驚いた様に火黒を見た。
わざと妖気を出す火黒から微々たる妖気を感じ取ったのだろう。
睨む様に火黒を見る鯉伴に黒凪が火黒に近付いた。
『ちょっと。リクオ君見に行きましょうよ不知火センセ。』
「んあ?…あぁ、そォだな」
『失礼します、リクオ君のお父さん』
「…あぁ。リクオによろしく」
何気なく掛けられた言葉に小さく笑って「はい」と返答を返す。
そうしてゆら達の居る庭へ出れば「居たんだ!本当に陰陽師は存在したんだー!!」ととてもとても嬉しそうな声が聞こえてきた。
それだけで大抵の事は理解出来る、どうせ先程飛び出した鼠の妖怪をゆらが滅した瞬間を清継が見たのだろう。
「私は京都で妖怪退治を生業とする花開院家の末裔なんです。」
「花開院…確かにテレビで見た様な…」
「それはきっと祖父の花開院秀元です。」
秀元。その名前に思わず眉を下げてしまう。
親交があったのは十三代目の秀元だけ。…彼が死んで、もう何百年経った事か。
それにしても、そんな有名人がどうしてこんな所に…?
そんな清継の問いにゆらが淡々と答えた。
「この浮世絵町では度々妖怪が目撃されているし、噂では妖怪の主が住んでいるとも聞きます」
「(い゙っ!?)」
「私は一族から修行の為にこの町へ送られてきました。…より多くの妖怪を滅し、私は陰陽師の頂点である花開院家の当主になるんです」
「すっ、凄い事だ!この町にもプロが来たんだ!」
凄い凄いとゆらに群がる清継達を見てまたあからさまに顔色を悪くさせるリクオ。
一方の黒凪は何かを考える様に黙ってゆらを見つめている。
…おかしいな、この地には花開院は手を出さない事になっている筈…。
『(長い年月の所為であやふやになってるのか?結界師を嫌っていた彼等は近付く事さえ…)』
そこではっと目を見開く。
そうだ、結界師はとっくの昔に衰退して今や結界師の一族は烏森を護る墨村と雪村のみ。
しかも墨村も雪村も烏森を護る任を終えたし、今や結界師は絶滅したと思われても仕方がない。
花開院め、関東にも手を伸ばし始めたのか…?
「それでは失礼します」
「う、うん。また来てね…」
「勿論だとも奴良君!有意義な時間をどうもありがとう!」
やがて奴良家の門を潜り、互いに帰り道を確認する為に顔を見合わせた。
カナとゆらは門を出て左。清継と島は右が帰宅路らしい。
黒凪が目配せをして閃と火黒がカナ達の方へ、限と黒凪が清継達の方へ歩いて行った。
「……こ、怖かったね。今日の鼠…」
「あ、…驚かせてしまってすみません」
「ううん、大丈夫。ゆらちゃんが護ってくれたし!」
少しぎこちなく会話をする2人の後ろを閃と火黒がついて行く。
先程の鼠も気になるし、彼等は一旦2人を送り届けてから夜行へと帰るつもりだ。
…あのう、と背後から声を掛けられ閃と火黒が振り返る。
そこには1人のホストの様な身なりの男が立っていた。
「そこのお兄さん、今晩一杯どうですか?可愛い子達が沢山居ますよ」
「…興味ねぇなァ」
「まあまあそう言わずに、ね!」
がっと掴まれた腕に火黒の目がちらりと向いた。
そしてにやりと笑った火黒が首をひねって閃に目を向ける。
閃、そこの2人頼んだ。
火黒の言葉に閃がげんなりとして眉を降ろした。
話しかけて来た時点で男が妖怪である事には気が付いていた。
向こうは火黒を人間だと思っているだろうが、火黒は軽く男をぶちのめすつもりで居るのだろう。
「(ったく、戦闘狂が…)」
「あれ?影宮君、不知火先生は?」
「あー…なんか遊んで来るっぽい」
「…保護者とか言うといて…変な先生ですね。」
ゆらの言葉にくすっと笑ってカナも「ほんとにね、」と同調した。
すると突然ゆらが眉を寄せて前方を睨む。
カナと閃も前方に目を向けると数人のホストが立っていた。
一瞬で妖怪だと見抜いた閃は「みーつけた。」と笑った奴等に目を細める。
「え、何…?」
「家永さん、影宮君。そっちの路地へ。」
「(…よりによって俺の方かよ…)」
ゆらの指示通りに路地へ入り前に出た彼女の後ろにカナと共に非難する。
カナが「誰?一体何なの?」と問いかけるとゆらが男達を睨みながら静かに言った。
さっき言った通り、知性はあっても理性はない…最悪の奴等や。
そんな言葉に「妖怪…!?」とカナが顔色を悪くしてゆらに問いかける。
それを見た男達の中央に立つ金髪の男がゆっくりと口を開いた。
【酷い言われ様だなあ…。女は可愛く振る舞ってないとモテないぜ?】
「っ、いや…」
「大丈夫や家長さん。うちの後ろに隠れとき。」
【さぁて…お楽しみの始まりだ】
そんな言葉と同時に男達の顔が鼠の様に変形して行く。
それを見たゆらは不敵に笑い「鼠風情が、偉そうにしやんといて」と式神を取り出した。
貪狼。その名と共に現れた巨大な狼は近くに居た鼠を前足で踏みつけ、低い声で唸る。
その上にゆらが勢いよく跨った。
「行くで貪狼。食ろうてしまい」
【…行け。】
飛び掛かってくる妖怪達を次々にゆらの式神が倒して行く。
その様を怯えた様に見ていたカナは飛び散った血液に思わず側に立っていた閃に抱き着いた。
閃はそんなカナにちらりと目を向けて徐に周りを見渡す。
「(どうにかして黒凪達に知らせねぇとな…つか火黒は何やってんだよ…!)」
【きゅ、旧鼠様…仲間達がどんどんやられて行きます、】
【兄貴…っ】
「…ふうん、旧鼠か。猫をも喰らう大鼠の妖…。」
人に化けてこんな地上に出て来とるとはなあ。
ゆらの言葉に旧鼠がにやりと笑いゆっくりと彼女に近付いて行く。
完全に旧鼠に気を取られているゆらを見ていた閃は周りに集まり始めている鼠達に眉を寄せた。
「(俺達を人質にする気か…。でもこいつだけ逃がした所でまた捕まるのがオチだろうしな…)」
「か、影宮君!鼠…っ」
「…わー、やべえ、怖えー」
完全なる棒読みでそう言ったわけだが、驚いた様に振り返ったゆらは一気に顔色を悪くした。
そして旧鼠に目を向けると「関係ない2人に危害を与えやんといて!」と声を上げる。
しかし旧鼠は更に笑みを深めると式神を指差した。
【そいつを仕舞ってくれるなら考えても良いぜ?】
「…っ、」
「(此処は捕まって、確実に奴等を倒せる奴が来るのを待った方が良いな…)」
ぼふんっと姿を消した貪狼に目を細め、旧鼠がゆらを殴った。
倒れ込んだゆらはそのまま気を失い、カナも共に殴られ気を失う。
閃も同じ様に殴られて倒れたが、その程度の衝撃では流石に彼の意識を奪う事は出来ない。
【…運べ。】
【はい】
「(…火黒の奴、まじで何やってんだよ…)」
持ち上げられて連れて行かれながら閃が今何処で何をしているか分からぬ火黒の事を考える。
そんな火黒は先程己の腕を掴んだ妖怪を筆頭に襲い掛かってくる妖怪達を一気に一掃していた。
そうして積み上がったぐったりとした妖怪達を見上げると大通りに戻り閃達を探す。
既に閃達の気配は無く、火黒は後頭部を掻いてとりあえずと黒凪達の元へ向かった。
一方の黒凪と限は清継達を送り届けると少し離れた路地を走る2組の影を見つけて足を止める。
『…。あれは良太猫かな』
「良太猫?」
『奴良組傘下の化猫組当主の事。』
そう話していた2人の側にある路地に猫妖怪が入り込み、その前に旧鼠組の鼠妖怪達が先回りする。
化猫組は奴良組には珍しい非武闘派の組。
そんな彼等が武闘派の旧鼠組に敵う筈がない。
『限、助けるよ』
「…解った」
睨み合う化猫組と旧鼠組の間に限が音も無く降り立ち、旧鼠組に目を向ける。
そうして一瞬で旧鼠組の背後に移動するとその微かな時間の間に全員の意識を奪った。
唖然としている良太猫の前には姿を元のものに戻した黒凪が降り立つ。
良太猫は現れた黒凪の姿に大きく目を見開いた。
【黒凪様…!?】
「!(…黒凪、"様"?)」
「おーい黒凪さんよォ」
『…火黒』
現れた火黒の片手にはぐったりとした鼠妖怪がぶら下がっていた。
そしてそんな火黒の背後には少し傷を負った様子の猫妖怪達。
どうやら別の場所でも旧鼠組と化猫組の妖怪達が走り回っていた様で、どうせ火黒はムカツク方に攻撃でもしたのだろう。
【黒凪様…】
【黒凪様だよな、】
【遂に戻ってこられたのか…!】
口々に言う化猫組の妖怪達に火黒も怪訝に眉を寄せて「あ?」と訊き返す。
良太猫は奴良組の傘下として随分と長い。それに首無とも親交があったし、恐らく鯉伴達と黒凪の関係性は知っているし今の状況も知っている。
…リクオの事があっても別段仲が悪くなったわけではない事も知っている。
【黒凪様、総大将とはもうお会いに――】
『旧鼠組がどうも好き勝手やってるらしいねえ』
良太猫の言葉を遮る様にして言った黒凪はゆっくりと人差し指を口の前に持って行く。
それを見た良太猫は眉を寄せて自分達を見ている限や火黒に目を向け、口を噤んだ。
限が徐に「この鼠は何だ」と倒れている鼠妖怪を持ち上げる。
『その妖は奴良組の元傘下だった旧鼠組ってとこのでね。どうせ憂さ晴らしか三代目の座を狙って暗躍してるんだろう』
【へ、へい。その通りです。戦えないオイラ達の島に攻め込み、ご覧の通り…】
『…もう乗っ取られた後みたいね。…そう言えば火黒、閃は?』
「あ?…あー…どっか消えた。」
…目、離したね?
呆れた様に言った黒凪に悪びれた様子も無く「まあなァ」と火黒が笑った。
ため息を吐いた黒凪は「閃の事だから誰一人殺されては無いだろうけど、多少の怪我は仕方無いかもね」そう呟いて良太猫に目を向ける。
『良太猫。今から急いで奴良組に向かって"私が居た事を除いて"事の経緯を鯉伴に言いな』
【え、黒凪様の事を伏せるんですかい…?】
『今はまだ私が戻ってきた事を知られたくないからねえ。…もう少し影から見守ってたい。』
【!…分かりやした、任せてください】
少し笑みを浮かべて言った所から、誰を見守っているのか理解したのだろう。
それじゃあ行ってきやす!と走り始めた良太猫を見送り、黒凪が限と火黒に目を向けた。
閃を探そうか。彼女の言葉に頷き、限が黒凪を担いで火黒と共に走り出す。
「…黒凪」
『うん?』
「黒凪様ってなんで呼ばれてるんだ?」
『あぁ、昔に奴良組を助けた事があってね。それからそう呼ばれてんのよ。』
限と火黒はじっと黒凪を見ると「ふーん」と目を逸らす。
その瞬間に黒凪が姿を学校に通っていた時のものに変えた。
長い黒髪の只の中学生。そんな姿になった黒凪は己の手を見下し、眉を下げる。
『…眺める者と同じ様な存在になってから、よく思うんだよ』
「?」
『今では自分の姿も、声だって自由自在だ。…その内本当の自分の姿が分からなくなるんじゃないかと、そう思う』
姿に囚われる必要のない私は、これから頻繁に自分を隠していくだろう。
そう言った所が人間だねえ。本当。
眉を下げて言った黒凪に限が「大丈夫だ」とぼそっと言った。
「お前が忘れても、俺が忘れない」
『…』
「俺が思い出させる」
『…そだね。』
私にはあんた達が居るもんね。
笑って言った黒凪に「ふはっ」と火黒が笑った。
クツクツと喉の奥で笑い続ける火黒に「なによう、」と黒凪が手を伸ばし頭を軽く叩く。
それと同時に黒凪が持っていた箱に火黒が纏っていた人皮が戻って行った。
【あーあ、面白ェ】
『何が。』
【暗ェ顔しやがってよォ。もっと気楽に行こうぜ。】
『何言ってんの。あんたみたいな楽天的な馬鹿が居るから私達は楽しく成り立ってんのよ。』
全員あんただったらそもそもチームを組めてないわ。
笑って言った黒凪に「違いねェ」と火黒がまた笑う。
君みたいな面白いのが居るから俺も付いて来る気になってんだもんなァ。
そう言った火黒に限も同調する様に「あぁ」と呟いた。
『はいはい、ありがとね。とりあえず閃を見つけなきゃ。』
【場所の目星は付いてんのかァ?】
『閃は私の共鳴者よ?見つけるの何て容易い。』
【初めてお目に掛かります。私は旧鼠組で頭を張らせて貰ってる旧鼠と言う者です。…以後お見知りおきを、奴良組三代目…リクオ様。】
「(おいおいおい…。なんであいつノコノコ捕まってんだよ…)」
気を失ったふりをしながら微かに眉を寄せてため息を吐いた。
騙したな…!と眉を寄せて言ったリクオに「騙されんなよ…」と閃が眉を寄せて心内で言い返す。
全く更に面倒な事になった。せめて奴良組の者に一言だけでも掛けて来てくれていれば状況は変わったのに。
「(あの様子じゃ十中八九独りで来てるしなぁ…)」
「3人を返せ…!」
【…貴方がこれから率いる奴良組はねえ…もう古いんですよ。代紋や仁義を重んじる時代はとっくの昔に終わってる。】
檻を覆っていたカーテンが開かれ、閃がすぐさま目を閉じる。
カナちゃん!花開院さん!影宮君!
焦った様にそう名を呼んだリクオが3人に向かって行くが、すぐさま鳩尾を殴られ蹴り飛ばされた。
その無残な様子に「あー…」と目元を覆いたくなる気持ちを必死に抑える。
【まだ話の途中ですよ三代目。…ま、つまり私が言いたいのは貴方が率いる古い妖怪じゃあこれからの世は生きていけねえって事です。】
「…っ、」
【三代目を継がないと宣言して頂けませんか。ねえ、リクオ様。】
「…そうしたら、3人を返してくれるの…」
リクオの言葉に「おいおいおい…!」と眉を寄せる。
何言ってんだ、三代目を継がない?奴良組がこの地を収めなくなったらどうなると…!
閃が1人焦っている間にも旧鼠はリクオのその言葉を待っていた様に全国の妖怪達へ廻状を送る様にとリクオに指示を出していく。
その指示をリクオは上の空で聞いていた。
「(…ったく、こうなりゃヤケだ…!)」
ぎゅっと目を閉じて己の妖気を広げていく。
この場に居る誰にも気付かれぬ様に。…たった1人だけ気付けば良い。
黒凪だけが気付けば良いんだ。
【良いですかリクオ様。この指示通りに頼みますよ】
「っ…」
【夜明けまでに約束を守って頂けなければ、夜明けと共に3人仲良くあの世へ送らせて頂きますからねえ。…連れて行け】
旧鼠の指示に従い部下の鼠達がリクオを連れて出口へ向かって行く。
そんなリクオに気を取られない様に閃が己の妖気に集中していると、やがて少し距離のある位置に目当ての人物を見つけた。
ん、と限の背中で振り返った黒凪は限の背中を叩いて彼の歩みを止め、空を見上げる。
…夜風が黒凪の髪を揺らした。
『…リクオが?』
「どうした」
【閃かァ?】
やがて空から目を逸らし奴良組の方を睨んだ黒凪が再び限の背中を叩いた。
奴良組に連れて行って。そう言った黒凪に限が怪訝な顔をしつつも小さく頷いて指示通りに走り出す。
その様子を確認した閃は一気に妖気を抑え息を吐いた。
「(これで奴良組の方は大丈夫か…?)」
【…よう。起きたか、陰陽少女。】
「…っ!家長さん、影宮君!」
飛び上がる様に起きて倒れたままの2人にゆらが駆け寄った。
その様子を薄ら笑みを浮かべて檻の外で眺めていた旧鼠が「この2人は関係ないやろ、離したり!」と強気に言ったゆらに更に笑みを深める。
自分の立場がまだ分かってないらしいな。…お前なんか、式神さえなければ只の女だ。
その言葉にはっと目を見開いてゆらが後ずさる。
そんなゆらに静かにため息を吐いて閃が目を開いた。
【な、ななななんですかこれはー!】
「書いてある通りだよ。それを親分集に回して欲しい。…でないとカナちゃん達が殺される」
【でっ出来ませぬ!正式な廻状は破門状と同じ様に絶対なのですぞ!?】
「分かってるよ!でも3人を助ける為にはやるしかない!」
おいおいリクオ。あんまり早まるんじゃねえよ。
襖を開いて顔を見せた鯉伴にリクオが顔を上げる。
鯉伴の後ろには心配そうに眉を寄せる山吹乙女も立っていた。
そんな2人から目を逸らし「止めても無駄だよ、絶対助けるからね」と断固として意志を変えない事を宣言する。
すると鯉伴は「んー…」と顎を撫でた。
「旧鼠組だろ?そんな指示出した奴等は」
「知ってたの!?…だったら何でほったらかしにしたんだよ!」
「ほったらかしっつってもなぁ…。大分昔に破門した小せえ組だったしよ。」
「小さい組でも妖怪は妖怪だろっ!?……これだから妖怪一家なんて大嫌いなんだ!!」
顔を伏せて言ったリクオに鯉伴が困った様に目を向ける。
…本当にそれで良いのか。鯉伴の言葉に「あなた、」と山吹乙女が焦った様に眉を寄せた。
静かに頷いたリクオに声を掛けたのは、鯉伴と共に顔を見せた良太猫だった。
「いけません若!旧鼠組は約束を守る様な連中じゃありません!…それに奴良組の未来は貴方に掛かってるんですよ、」
「僕には何の力もない。僕に出来る事はこれだけなんだ。」
「そんな事ありやせん!……、総大将、」
「うん?」
今回の事は俺の責任です。
そう言った良太猫にリクオが顔を上げた。
落とし前はオイラが着けます。…だからどうか、その廻状はまだ手元に。
そう鯉伴に伝えて玄関へ向かって行く良太猫に鯉伴が「待て」と声を掛けた。
「お前等化猫組じゃあ旧鼠組には勝てねえ。…それは分かってんだろ、良太猫」
「分かってやす。…それでも、奴良組を犠牲にするぐらいなら」
せめてオイラが相討ちになってでも。
拳を固めて言った良太猫の言葉に限の背に担がれた黒凪がため息を吐いた。
ぬらりひょんの孫ともあろう者が情けない…。
そう呟いて目を細め、黒凪が目を閉じて真下に居るリクオに意識を集中させる。
『(少しばかり手を貸してあげるか)』
「――!」
「…リクオ?」
「……え、若…?」
ドクンッと波打つ心臓にリクオが胸を抑える。
現在、黒凪の結界が奴良組の屋敷を含めた広範囲を囲っていた。
それは奴良組の側に近付いても気配を勘付かれない為。
先に奴良組の屋敷ごと全てを支配下に置く事で自分達の存在を完全に消したのだ。
そんな支配下にいるリクオの深層心理に手を出す事など容易な事で。
《誰かが、確かに俺に気付いた筈なんだ。…誰かが。》
「!」
過った記憶にリクオが目を見張る。
…誰の言葉だ?
そんなリクオの言葉に応える様に"誰か"が言った。
【(…誰かが俺を呼んでるが…。お前じゃないらしいな)】
「(誰だ?…誰がしゃべって…)」
【(お前は知ってる筈だぜ。…自分の本当の力を…)】
ほら、呼ばれてる。
その言葉にリクオが顔を上げる。
「(誰が呼んでるんだ?…誰かが確かに"僕"を呼んでる…。)」
【(あぁ。誰かが"俺"を呼んでる。)】
ドクンッとまた心臓が波打つ。
外で咲いている桜が風に揺られて花弁を落とす。
溢れた妖気に限と火黒が微かに目を見張った。
――桜の木から降りたリクオの脳裏に誰かの背中が過った。
白髪の、小さな誰かの背中が。
【良太猫…。お前のその大義、俺が果たしてやる】
【!…貴方様、は】
良太猫がそう問いかけ、鯉伴が小さく笑って目を細める。
山吹乙女はリクオの髪に混ざる白髪を見て思わず眉を下げた。しかし彼女の表情は喜びに満ちている。
リクオが小さく笑い、言い放った。
【夜明けまで…鼠狩りと行こうか】
【…知ってるか?人間の血は夜明け前が1番美味いんだよ…】
「っ、近付かんといて!」
「ゆらちゃん…っ」
「(…やべえな。黒凪達がまだ来てねえってのに)」
檻を開いて中に足を踏み入れた旧鼠に息を吐いて一瞬で立ち上がり背後からカナとゆらのうなじを叩いて意識を奪う。
倒れた2人に旧鼠が目を見開き、起き上がった閃を睨んだ。
その目を睨み返した閃は爪を伸ばし構える。
その様子に旧鼠が目を細めた。
【…半妖…。いや、妖混じりか。】
「成り損ないで悪ぃけど、ちょっとの間だけ手合せ願うぜ。」
【はっ。お前ごときが相手になるとでも…】
ドオォンッと破壊された壁に目を見開き閃が爪を引っ込め倒れているカナとゆらの身体を起こす。
そうして姿を見せた百鬼夜行に小さく笑みを浮かべて振り返る。
檻の反対方向から闇に乗じる様にして姿を見せた限が檻を歪ませ出口を作った。
旧鼠と百鬼夜行が互いに睨み合っている内に閃が2人を抱えて動き出す。
その振動で目を覚ましたゆらが虚ろな意識の中で百鬼夜行を目に映した。
「(…あれが、妖怪の主…?)」
「急げ。奴良組には見られたくない」
「分かってるって。」
【おいおい、起きかけてんぞ。】
トスッと再びゆらのうなじを叩いて眠らせた火黒が黒凪を抱えたままでニヤリと笑った。
そんな火黒に「ありがとよ」と声を掛けて閃と限がカナとゆらを抱えて外へ出て行く。
百鬼夜行を背に立つリクオは檻からいなくなっているカナとゆらに眉を寄せ「おい」と旧鼠に声を掛ける。
しかし旧鼠は現れた百鬼夜行にそれどころではないらしく「何だお前は!」とリクオに向かって啖呵を切った。
【…この御方は奴良組若頭、リクオ様だ!】
【何!?】
【…やれ、てめえ等。俺ぁ人質が無事か確認してくる】
リクオの指示に従う様に暴れ始めた百鬼夜行に旧鼠も焦った様に部下達を向かわせた。
それを横目に檻へ近付いたリクオは不自然に捻じ曲げられた檻に目を細め、奥へ進んで行く。
すると壁に凭れ掛かる様に眠っているゆら、カナ、閃を見て安堵した様に息を吐き納豆小僧に3人を任せた。
そうして再び戦闘の地へ戻ると本性を現した旧鼠の姿に薄く笑みを浮かべる。
【来やがったなリクオ…。お前を殺れば奴等はバラバラだぁ!!】
【…野蛮だねえ。】
飛び掛かって来た旧鼠に優雅にお猪口を持ち上げ、リクオがお猪口の中にある酒に妖気を映していく。
そうしてふう、と息を吐くと桜の花弁が旧鼠の周りに青い炎を出現させた。
その炎に目を見開いた旧鼠は瞬く間に塵となって行く。
【その波紋が鳴りやむまで全てを燃やしつくす。…明鏡止水"桜"。】
【ギャァアアア!!】
【俺を狙わなければまだ勝機はあった。俺は元々手を出すつもりは無かったんだからな】
完全に塵となった旧鼠に部下達が狼狽え、散り散りに逃げ去っていく。
その背中に興味はないとでも言いたげな反応を示したリクオはお猪口を放って歩き出した。
納豆小僧に任せているゆら達の元へ――。
「今度会った時はあんたを滅したる。絶対や。」
【…また会おう】
夜が明け、霧が立ち込める橋の上でそうとだけ言葉を交わし百鬼夜行が消えて行く。
その様を呆然と眺めるカナの隣で閃が気だるげに後頭部を掻いた。
彼がちらりと目を向けた先の建物の上には黒凪達が立っている。
「…んじゃあ俺は帰るわ。朝だから妖も出ねぇだろ。」
「あ、うん。…ありがとう、影宮君…」
「俺は何にもしてねえよ。礼なら花開院に言いな。」
そうとだけ言い残して閃も霧に紛れる様に消えて行く。
その背中を見送ったゆらは「うちらをあの檻から出したのは…」と呟いて目を伏せた。
この町にはまだまだ謎が多過ぎる。…影宮閃、あの子も要注意や。
そう心内で呟いてカナと共に歩き出す。
濃い霧は行く道の先を濁していた。
確かに呼んだのだ
(よう、帰ったか。リクオ)
(あぁ。…なぁ親父)
(ん?)
(誰かに呼ばれた気がしたんだ。…誰か心当たりはねえか)
(……。母さんじゃねぇか?それか俺だったりしてな)
(…。んー…)
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