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  涙零れて

  探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。
  工藤新一の妹でスコッチの婚約者 × 赤井秀一。


『いやあぁあああ!!』

「!?」

「っ、ゴホッ、」

「……何だ?」



 突然聞こえた声に有希子は野菜を切っていた手を止め、優作は飲んでいた珈琲を喉に詰まらせ。
 新一は読んでいた小説から顔を上げて玄関を見る。
 叫び声の主は聞き慣れた妹の声だった。
 先程知り合いが来たとかで外に出たが、何があったのか。
 3人で扉を開くと、泣き崩れる黒凪とサングラスとニット帽をかぶった男が居た。



「どうしたの!?」

「テメェ…!」

『違うの。…違うの、兄さん、』

「…黒凪…?」



 ぽろぽろと涙を流す黒凪の手には1つの指輪が乗せられていた。
 シンプルなデザインのそれは何故か俺には結婚指輪の様に見えて。
 それと同時に脳裏に1人の男が浮かんだ。
 妹の婚約者であった男だ。



「……まさか、」

「…黒凪さん、僕はもう行きます」

『っ、』

「……。」



 頭を下げ、男が車に乗り込む。
 その様子を黒凪は見る事無く、ただ虚ろな目で指輪を見つめていた。
 涙で歪んでいる筈の視界で、何も言わず。
 ただ指輪だけを。



























『お帰り、母さん』

「ただいま。新…、コナン君から事情は聞いてる?」

『勿論。…その人が例の?』

「ええ。早速変装させるから」



 有希子の後をついて家に上がり込んだ男。
 フードの下に隠れていた目と目が合う。
 微かに見開かれた目をチラリと見て扉を閉める黒凪
 男は有希子に続いてリビングに入って行った。
 彼は数日前コナンに変装を依頼された男だ。確か名前は…。



「そこに座っててね、赤井君」

「はい」

『(そうそう。赤井秀一)』



 兄を幼児化させた張本人が所属する組織と敵対するFBI捜査官。
 今回は組織に死んだと思わせる為に彼を全くの別人に変装させなければならない。
 兄が幼児化してからずっと協力してきた工藤一家はその要求を快く受けた。
 だから外国に父と居た母が態々日本に帰国し、私が1人で暮らす実家に帰って来たのだ。



「どんな感じが良いかしら…。やっぱりイケメンよね」

『そりゃね。…眼鏡掛ける?』

「あら良いじゃない!眼鏡でイケメンで…。茶髪が良いわね!」

『眼鏡でちょっと地味な感じになるから髪型はカッコよく…』



 わちゃわちゃと2人で相談をしながら変装させていく。
 その間赤井は何も言わず、また動かずただじっとしていた。
 徐々に彼自身の面影が無くなっていく。
 丁寧に目元の隈は化粧で決して、鬘も準備して。



「……はい、出来た!」

『疲れたー…。……後は変声期だよね』

「あ、あと首元が隠れる服ね。…優作の服にそんな感じのがあったような…」



 どたどたと階段を上がっていく有希子。
 彼女を見送り、黒凪は赤井に変声期を渡した。
 それを首に着ける赤井を見ながら「名前どうします?」と問いかける。
 すると「ああ、」と取り敢えずと言う様に返事を返す赤井。



『私は個人的に゙昴゙って言う名前が好きなんです。…どうですか?』

「じゃあそれで。…苗字は知り合いから取って沖矢で」

『沖矢昴…。良いですね!』



 ぱあ、と笑った黒凪に少し笑う赤井。
 すると服を片手に部屋に戻って来た有希子が赤井に服を渡した。
 どうも。と受け取った赤井はすぐに着替え、変声期の電源を入れる。
 たちまち変わった声に赤井は片眉を上げ、有希子と黒凪は軽くパチパチと手を叩いた。



「ありがとうございました」

「いえいえ、お安い御用よ?」

『イケメンだもんね。』

「あらヤダ黒凪ったら!」



 黒凪の言葉にチラリと彼女の顔を見る赤井、基沖矢。
 どうしました?とすぐに視線に気づいた黒凪に沖矢は「いえ、」と目を逸らした。
 少し距離があるが、マンションを借りているそうなので当分はそちらで過ごすらしい。
 そんな赤井を見送り、2人は顔を見合わせた。



『すぐにまた父さんの所に行くんでしょ?』

「ええ。ごめんね黒凪、一緒にいてあげられなくて。」

『ホントよ、もう。兄さんも蘭ちゃんの所にいるし…。』



 そんな会話をしながらせっせと準備をする有希子を眺める黒凪
 暇そうにうろうろとする黒凪を見た有希子は徐に黒凪に携帯を渡した。
 何?と携帯を開いた黒凪はプッと吹き出す。
 携帯の画面には赤井の横顔が映っていた。



『あははは!そんなに気に入ったの?赤井さんの事!』

「格好良いから車の中で撮ちゃった♪」

『赤井さん怒ってたでしょ?』

「消してくださいって言われちゃったわよー…。忘れそうだから消しといて、黒凪



 仕方ないなあ、と消去ボタンに手を伸ばす。
 が、何処か見覚えがある顔に動きを止めた。
 背後では有希子が崩れた化粧を直していた。
 見た事がある、様な。



《…どうして?どうしてあの人が…?》

《殺されたんです》

《……誰、に》

《……。》



 何も言わず此方に向けられた携帯の画面。
 黒凪は携帯を差し出した降谷を見上げ、画面を覗き込んだ。
 隠し撮りだろう、其処には1人の男が立っている。
 黒髪の長髪にニット帽、目の下の隈。
 チンピラみたいな人だと思った。



《…この人が?》

《……はい。》

《………許せない、》

《…必ず僕が殺します》



 降谷の言葉に黒凪の目から涙が溢れた。
 すっと黒凪の手から携帯を取った降谷は携帯を閉じ、ポケットへ。
 呆然と立っていた黒凪の頭に画像の中に居た男がぐるぐると浮かぶ。
 許せない、…許せない。



『!……ぁ、』

「消してくれた?…んもー、まだ消せてないじゃない!」



 ピッと携帯を操作して画像を消す有希子。
 ゙消去しまずと言う文字を唖然と見ていた黒凪
 脳裏で赤井と降谷に見せられた画像の男がピタリと重なった。
 そしてゾクリとした。



『(FBIなんでしょう?……どうして公安のあの人を殺したの)』

「じゃ、行くからね黒凪

『……うん』



 バイバイ、と手を振る有希子に同様に返す。
 閉じられた扉にだらりと腕を降ろす黒凪
 彼女は壁に凭れ、ずるずるとしゃがみ込んだ。








































「……あの、黒凪さん」

『…はい』

「料理を教えてくれませんか。暇なもので」

『………』



 一瞬睨んで「良いですよ」と笑顔を張り付ける。
 その様子に気づきながらも沖矢は「ありがとうございます」と笑った。
 彼とは数日前から一緒に暮らしている。
 沖矢が住んでいたアパートが火事に遭った所為だ。
 …火事さえ起きなければ会う事などあまり無かった筈なのに。



『…ああ、玉ねぎは水に浸しておいた方が良いですよ』

「分かりました」



 互いにあまり話す事無く夕食を作る。
 時折手間取ると沖矢の作業を黒凪が変わった。
 沖矢は火を使う作業などの時は率先して行う。
 2人で作れば多少の時間は短縮になる。
 すぐに夕食が出来上がり、2人で食べた。



『…。そのお皿、下げますね』

「ああ、どうも」



 空になった皿を持ち上げ、台所に向かう。
 その様子を見ていた沖矢は野菜を口に持って行った。
 するとふと沖矢の目に足元の水滴が映った。
 嫌な予感がした彼は立ちあがり、黒凪に近づく。
 足元が見えていない黒凪は案の定滑り「きゃ、」と短い悲鳴が聞こえる。
 沖矢は賺さず黒凪を受け止めた。



『!』

「大丈夫ですか?」

『…な、んで』

「足元に水滴が見えたもので。もしやと思いましてね」



 優しく微笑んだ沖矢の顔に少し頬が赤くなった。
 が、すぐに赤井の顔が浮かび顔を逸らす。
 ありがとうございました、そう言って黒凪はせかせかと歩いて行った。
















 沖矢と共に暮らす事になって1ヶ月程経った。
 たったの1ヶ月だったのに、色々な事が起きた。
 まず少年探偵団の面倒をよく見る様になった沖矢と黒凪は子供達に関係を怪しまれ恋人だという事に。
 それに伴い沖矢が私を呼ぶ時は黒凪と呼ぶ事になる。



『(…どうかしてる、)』



 はー…、とソファに座りながら項垂れる。
 共に暮らしている男は婚約者の仇だなんてどこのサスペンスドラマだ。
 だが心のどこかに彼を受け入れ始めている自分が居るのだ。
 それが途轍もなく私には腹立たしい。



黒凪

『っ!』

「…話がある、聞いてくれ」

『……。』



 飛び上がった心臓を抑える様に胸元に手を持っていき、ゆっくりと立ち上がる。
 その様子を見た沖矢は赤井の表情で微笑むと「立たなくていい」と言って隣に座った。
 沖矢は指を組み、何から話せばいいか…。と言葉を濁した。



「組織の人間が俺に勘付き始めた」

『!』

「近頃また面倒な事になるかもしれない」



 そう言って徐にこちらを見る沖矢。
 彼は肝心な事は何も言わないが、有無を言わせぬ雰囲気で。
 …手伝え、と間接的に訴えていた。
 黒凪はため息を吐き、わかってますよ。と再び立ち上がる。



『ちゃんと協力はします』

「…悪いな」

『いえ。コナン君は大事な親戚ですから』



 黒凪の言葉に沖矢が微かに眉を下げた。
 その表情に胸が痛んだのには知らないふりをして。
 私はこの人の事を何も思っていないと、そう言い聞かせて。


























黒凪



 低い声にビクッと反応した黒凪はばっと振り返った。
 そこには変装を解いた赤井が立っていて、背中がさあっと寒くなる。
 沖矢の時には感じなかった恐怖が黒凪を襲った。
 あの人を殺した男が今、目の前に立っている。
 黒凪の顔を見た赤井は小さく微笑んだ。
 その笑顔は沖矢のもので。



『沖矢、さん』

「…今は沖矢じゃないんだがな」

『!』

「そろそろバーボンが来る。工藤さんは?」



 沖矢の時とは違う低い声に息を飲んだ。
 …一緒に暮らす様になって1ヶ月と少し。
 1ヶ月経った後からだろうか。仲良くなっていった2人の会話は偶に軽いものになっていく。
 沖矢の口調は基本的に敬語だが、2人きりになると先程の様な口調になった。
 それだけ心を許されたのだと思った時、私は何故か嬉しかった。



黒凪

『!…何?』

「…そう怯えるなよ。一緒に過ごした仲だろう?」

『っ!』



 優しく微笑んでそう言った赤井に思わず赤面する黒凪
 彼女は気づいていた。この数週間で彼を好きになってしまった事に。
 いつもいつもそれを改めて認識する度に脳裏に彼が浮かんだ。
 大事な人を殺した赤井。そんな赤井に恋をしてしまうなんて。



『……馬鹿。』

「俺か?」

『違う。…私が、馬鹿』



 一緒に料理を作って、一緒に出掛けたりもして。
 一緒に話して。…偶に赤井の素の口調が出たりして。
 徐々に、好きになってしまった。
 彼の仇なのに。



『…時間は大丈夫なの?』

「ん?…あぁ、そろそろだな」

「準備は出来たかね、赤井君」

「ええ。出来ました」



 沖矢の姿で現れた優作に頷く赤井。
 赤井は顔を隠し、外に出て行った。
 この後に降谷が来る。赤井を探して。
 降谷は赤井を殺すと言っていた。
 あの時はその言葉が本当になればいいと思っていた。
 …でも、今は。



『(ああ、どうか。)』

「無事に事が運ぶと良いが…」

『…うん。そうだね、父さん』



 あの人を傷つけないで。
 彼の仇でも、それでも。
 ……好きなの。どうしようもなく。
 馬鹿よね。わかってる。
 ごめんなさい、許して。



































 ―――鈍器で思い切り頭を殴られたようだった。
 それぐらい、衝撃だった。
 初めて会った時、初めて目があったあの時。
 不思議気にこちらを見上げる大きな瞳に、まず思った事は己を工藤宅まで連れてきた工藤有希子に似ていると思った。
 そして次に、綺麗な子だと。そう思った。



「……何?」

≪何度でも言ってやるさ、お前が殺したあいつには婚約者がいた≫

「……、」

≪…婚約者はまだ高校生だったんだぞ?≫



 彼女がどれだけ泣いたと思っている!
 その言葉が再び頭に響く。
 高校生。婚約者。…公安。
 脳裏に黒凪が浮んだ。
 まださほど仲も良くなかった頃。



《婚約者?》

《ええ。…ま、貴方には関係ない事ですけど》

《…そうか、》



 励ます言葉も、何も掛けてやれなかった。
 公安所属だったという黒凪の婚約者。
 殉職したと聞いた。
 自分の職業も決して関係が無いとは言い難い。
 彼女が俺に話した理由はこれ以上近づいてくるなと、そういう意味だと思っていたのに。



「(…まさか)」

《貴方には関係ない事ですけど》



 携帯を閉じた赤井はキャメル、と声をかけた。
 はい、と返事を返したキャメルはすぐにハンドルを切り、車を走らせる。
 赤井は無表情のまますっと空を見上げた。
 …そう言う事か、黒凪



「(あの言葉は俺への当て付けだったんだな)」






























「―――寝ちまったのか?黒凪

「ああ。相当疲れたようだな」



 ぷつ、とコナンが徐に防犯カメラの電源を落とす。
 それを見た優作は変装を解き、にっこりと微笑んだ。
 久々に会った2人は会えなかった日を埋めるように当たり障りない会話を始める。
 そんな時、急いで工藤宅に帰ってきた赤井はリビングに入り、黒凪を見つけるとぐっと眉を寄せた。



『……、』

「…黒凪

『…んー…』

「……寝てるのか?」



 そんな風に声をかけながらしゃがみこむ赤井。
 おい、と耳元で声を掛けるが起きる気配はなかった。
 あどけない寝顔にぐっと胸が締め付けられる。
 それと同時に降谷の言葉が過った。



「…まだ、高校生だったな」

『………』

「(…悪かった、)」



 くそ、と髪をくしゃりと掴み黒凪に顔を近づけた。
 一瞬躊躇したが、眠る黒凪にキスをした。
 流石に目覚めたのか、黒凪は薄く目を開く。
 するとすぐに見えた赤井に驚いたのか、黒凪は大きく目を見開いた。



『…え。沖矢、さん』

「……今は赤井だ」

『赤井さん…。じゃなくて!』



 がばっと起き上がる黒凪
 すると間髪いれず赤井が黒凪を抱きしめた。
 ぎゅう、と強く抱きしめられた黒凪は「え?」と混乱した様子で赤井を見る。
 そして頭が冴えた黒凪は動きを一瞬止めると徐に彼の背中に手を伸ばした。



『…わかっちゃったの?ま、降谷さんがあそこまでヒント出したんだもんね』

「……悪かった。知らなかったんだ」

『うん、』

「でも俺は、」



 うん。と頷く。
 赤井はためらう様に言葉を止めて、かすれる声で言った。
 「好きなんだ」と。
 その言葉に涙を零した黒凪はうん、と頷いて赤井にすり寄る。



「初めて会ったときから、」

『うん』

「…ずっと、今まで。」

『……うん。』



 私も。
 たった一言の返事。
 それだけでも十分だった。
 その一言に色んな重みがあった。



 たった一言で埋まってしまうもの


 (これでよかったのかな?)
 (…それで良いんだよ)
 (……。ありがと。)
 (貴方の事も、大好きでした。)


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