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犯罪はご法度、ですよね
江戸川コナン成り代わり × 赤井秀一の3話目です。
「…見違えたな」
『それはどうも。とは言ってもこの長い髪は鬘なんですけどね』
胸元にすとんと落ちている真っ直ぐな髪を摘まんで言った彼女に赤井は少し微笑んだ。
黒凪も小さく笑うと「さて」と表情を真剣なものに戻した。
態々解毒剤を飲んで元の姿に戻ったんだ。
それ相応の仕事をしなければならない。
「作戦の確認をしておこう」
『はい』
「今俺達が居る場所は石川財閥の50周年記念パーティだ」
『…財閥って記念パーティ好きですよね』
君と仲の良い鈴木財閥も依然60周年記念パーティを開いていたな。
タキシード姿の赤井の隣で足元のヒールを気にしつつ歩いていく。
シャンパンの元へ行った赤井に「ちょっと、」と黒凪が困った様に眉を下げた。
『駄目ですよお酒は。赤井さんはお酒大丈夫そうですけど…』
「おっと、そうだったな。普段の癖だ。気にしないでくれ」
『…。それより作戦の続きを。』
「あぁ。その石川財閥の御曹司である石川智也の友人である男が組織の人間である可能性が高いと情報が入った。」
その男の名前は?
置いてあるお茶を手に取って飲んだ黒凪。
そんな黒凪の腰に手を回しクルッと方向を転換する。
『!』
「今我々の背後を通った男だ。」
『…大手電機メーカーの会長ですね』
「あぁ。名は大友国善。今回は奴1人でこのパーティに乗り込んでいると踏んでいる訳だが、油断は出来ない」
奴等の手の内には変装の天才が居るんでな。
はい、と小さく頷いて目を細める。
…しっかりと目に焼き付けておこう。
そんな黒凪の腰には依然赤井の手が回っている。
『…(そう言えば電車の中でもずっと腰に手が回ってたなぁ)』
このパーティ会場へ向かう途中の電車の中での様子を思い出す。
勿論パーティ会場に入る以前は組織の毒薬で幼児化した体のまま此方に向かっているわけで。
しかし夕方だった為に電車の中は随分と込んでいた。
運良く座る事が出来たものの1人分しか席が無かった為に私は赤井さんの膝の上に。
『(中々恥ずかしかったなぁ、あれは)』
「始まったぞ。」
『あ、はい』
赤井さんに密着する様にしてパーティの始まりを見届ける。
ちなみに拳銃を持っているのは赤井さんだけだ。
ただの高校生に渡してくれる筈も無く、私の身を護る武器は麻酔銃だけ。
にしても組織の人間は一体誰を殺すつもりで…。
「きゃあああ!」
『「!?」』
てっきり主催者側の人間を殺すだろうと予想していた2人は後方から聞こえた悲鳴に目を見開いて振り返る。
それと同時に響いたガシャン!と言う甲高い音。
すぐさま其方に向かって走り人を掻き分けて死体の元へ近付いた。
倒れている人物の顔を見た2人は顔を見合わせすぐに周りを警戒する。
『…大友国善さんですね』
「あぁ。…シャンデリアを落としたのか」
『ピスコの時と同じ手口でしょう。…周りに仲間が』
あぁ。小さな声でそう返して2人で周りを見渡す。
誰だ、誰が撃った?
見渡しているとバーテンダーの1人が会場から出て行くのが見えた。
男の上着の胸元が少し膨らんでいる。
『…見つけた』
「!おい、」
走り出した黒凪に目を見開いて立ち上がろうとするが赤井の前に野次馬が立ち塞がり通り抜ける事が出来ない。
くそ、と赤井が眉を寄せている間にも黒凪はバーテンダーを追って会場から出て行った。
バーテンダーを追って厨房を抜け、屋上に入り込む。
バーテンダーは黒凪に気付いていた様子で別段驚いた様子も無く振り返った。
「…公安か?それともFBIか」
『!』
「我々組織を追っている者がこのパーティに紛れ込んでいるという情報は元々掴んでいた」
『…ならどうして撃った?危険すぎる』
ジンの野郎がやれと言ったんだよ…!
怒りを露わにして言ったバーテンダーに目を見開いた。
男はしまったという様に口元を抑えると静かに拳銃を取り出し黒凪に向ける。
その拳銃にサイレンサーが装着されている所を見ると大友国善を殺したのはこの男で間違いないだろう。
『……。』
「言え、何処の組織の人間だ?」
『言わない。言った所でどうにもならない』
「何だと…?」
貴方を捕まえる。その後にゆっくり話そうじゃないの。
不敵に笑って腰を落とす。
空手の構えを取った黒凪に男が鼻で笑った。
「まさか素手でやりあうとでも?」
『…まあ、ね』
「バカな女だ。さてはお前、FBIでも公安でもなんでもないんだろう」
頬を汗が伝う。
おかしい。私が男を追えば赤井さんも来ると思ったのに。
もしかして野次馬に捕まって出られていない?
…となると本当に丸腰の私が1人で戦わないといけないかもしれない。
一気に男に向かって走って行く。
「フン。素人の女がでしゃばるな」
『貴方も素人じゃない、』
「あ?」
『どうせコードネームも無いんでしょう?』
男の額に青筋が浮かんだ。
ドシュ、と弾丸が飛んでくる。
それをギリギリで躱しながら男に近付いて行った。
怒りを含んだ彼の射撃の命中率はかなり悪い。
…大丈夫。いける。
「バカにするなよ、ガキが!」
『だったらコードネームを言ってみなさいよ』
「っ、」
手首を捻り拳銃を落として腕を掴んだ。
そうして勢いに乗って男を投げる。
男はコンクリートに背中をぶつけ体をくの字に曲げた。
それを横目に携帯を取り出し赤井に向けて掛ける。
≪…今何処に居る?≫
『野次馬に捕まってたんですか?』
≪まぁな。女性はすんなり通してくれるようだが男に対してはそうもいかない≫
『あはは、そうですね。今は屋上に居ます。大友国善を撃った男は確保しました』
微かに目を見開いて「そうか」と返した赤井がエレベーターに乗り込み屋上のボタンを押す。
すぐに向かう。気は抜くなよ。
そう言った赤井に「あ、そうだ。まだ縛ってない…」と振り返った黒凪。
パアン!と響いた音に黒凪の携帯が落ち赤井が目を見開いた。
『……え』
「危ない所だったわねえ。シルバーブレット」
『!!』
聞こえた声にビクッと固まりゆっくりと振り返る。
焦った所為でサイレンサーを付ける時間が無かったじゃない。
火薬の煙をふぅ、と息で退けて彼女はニヤリと笑った。
『…ベルモット』
「駄目よ、油断しちゃ。貴方を目の前で殺されるなんて耐えられないわ」
『……ピスコの時と同じね。また貴方が監視役を?』
「ええ。その男が言っていた通り公安かFBIが潜入している事は分かっていたけれどまさか貴方だなんて思ってもなかったわ」
ライに連れてこられたの?
煙草を銜えて火を灯したベルモットが煙を吐きながら言った。
そうよ、と頷いた黒凪が徐に麻酔銃に手を伸ばす。
「あら物騒ね。折角助けてあげたのに。」
『…そう言えばずっと聞きたい事があったの。』
「何?」
『シルバーブレットって何?』
フー…とまた煙を吐いた。
あの方の心臓を射抜く銀の弾丸。
黒凪が微かに眉を寄せた。
それは貴方ともう1人いるんだけれどね。
『もう1人?』
「そうよ。もうすぐ貴方を探しに来る…」
バン!と扉が開いた。
はっと其方に目を向け、すぐさまベルモットを見る。
ベルモットは徐に拳銃にサイレンサーを付け赤井に銃口を向けた。
『赤井さん!ベルモットが!』
「!」
すぐさま胸元に手を差し入れた赤井も拳銃を取り出す。
引き金に掛かったベルモットの指先を見て黒凪が2人の間に入り込んだ。
眉を寄せて撃つ事をしないベルモットに目を細め赤井が拳銃を構える。
「…お前も来ていたのか」
「ええ。久しぶりね」
「……。下がるんだ」
『はい』
赤井の背後に下がった黒凪。
ベルモットは寄せていた眉を元に戻し薄く微笑んだ。
走り出したベルモットにサイレンサーを付けた状態で引き金を引く赤井。
それをギリギリで避けたベルモットも赤井に向けて弾丸を放つ。
赤井もそれを避けた隙にベルモットが壁に隠れた。
「チッ」
『!赤井さん、警察が来てます』
「あぁ。俺が呼んでおいた」
「ならあまり長居は出来ないわね」
持っていた鏡を使って赤井を見たベルモットが後ろ手に拳銃を撃つ。
それを見ていた黒凪が咄嗟に走り出した。
目を大きく見開くベルモットと赤井。
赤井が間一髪で黒凪を引き寄せ弾丸を回避した事を知ると息を吐きベルモットが扉に向かって走り去る。
そんな状況で撃てる筈も無く赤井は息を吐いた。
『す、すみません。かえって邪魔になりましたね…』
「全くだ。驚かさないでくれ…」
尻餅を着いた赤井の膝の上に乗る様な形になっている2人。
黒凪は自分の行動の罪悪感から小さく縮こまっていた。
そんな黒凪を見た赤井は小さく微笑みこつ、と額に額を合わせる。
「あまり無理はしないでくれ。頼む」
『は、はい』
あの、黒凪の歯切れの悪い声に「ん?」と赤井が返した。
本当に申し訳ないです…。
そう言った黒凪にまた赤井が「あぁ」と言った。
『…あの』
「何か?」
『顔近くないですか…』
「何言ってる、怪我が無いか確認してるだけだが」
それにしてはさっきから目が合いっぱなしなんですけど、
赤井がニヒルに笑った。
徐々に近づいてくる唇。
え、あの…。ちょっと待って、
ぎゅっと目を瞑った途端に体に一気に熱が広がった。
『っ!』
「……。」
徐々に縮まっていく身体。
するりと鬘も落ち伏せていた小さな顔が徐に上がった。
疲れた様に息を吐いた黒凪の身体は毒によって縮んだ姿に戻っている。
その様子を見て赤井は眉を下げると額にちゅっとキスを落とした。
『!?』
「今の君を本気で襲ったら犯罪だからな…。」
『そ、そうですね…』
はは、と固まって笑う黒凪に赤井がまた笑った。
この人怖い…。
ちょっと危機感を持った瞬間だった。
犯罪だけは起こさないでくださいね
(うわー!焦った!)
(何されるのかと思ったああぁ)
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