僕のヒーローアカデミア
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神の左手・悪魔の右手
「今日のヒーロー基礎学だが、オールマイトと共に俺ともう1人の3人態勢で見る事になった」
「("なった"って…特例かな…)」
『…そんな難しいのするんかなぁ』
「さあ。どうだろうな」
ぼそっと声を潜めて隣の轟に問いかけるが彼は相変わらず無表情のままで返した。
それでも不思議と素っ気なく感じないのは彼の言葉選びが穏やかだからだろうか。
――今回の授業はレスキュー訓練だ。
相澤のその言葉に「ヒーローらしい授業だ!」と皆が湧き立った。
「コスチュームの着用は各々自由だ。訓練場は遠いからバスに乗ってくぞ。以上。」
相澤がそう言って出て行った為皆が徐に立ち上がり準備を開始して行く。
全員の準備が完了し、飯田の提案でバスは出席番号順となった。
…が、如何せん彼の予想していた席の形では無かったらしく結局適当に座る事となった。
『隣座るで轟君』
「……」
すとっと隣に座って徐に両手を覗き込む。
そして考え込む様に黙り込んだ黒凪に轟が目を向けた。
――なあ左右!
掛けられた声に「ん?」と黒凪が顔を上げて立ち上がる。
どうやら声を掛けたのは前の方に乗っている切島らしい。
「お前の"個性"って結局何なんだ?個性把握テストの時はすげー怪力だったけど戦闘訓練の時は確か耳郎の目を見えなくしてただろ?」
「しかもコンクリ出して俺閉じ込めたし!」
「「それにこの前は飯田をぶっ飛ばしてた!」」
「ぶっとば…!?」
なあなあいい加減に教えてくれよ!
そう言って興味津々に言ったのは切島と共に話しかけてきた上鳴だった。
黒凪の"個性"については皆気になっている所がある様で車内がシ――ンと静まり返る。
先頭に立っている相澤はそんな車内に静かにため息を吐いた。
『うちの"個性"は轟君と同じで右と左で半々なんよ。左手は触ったものを増やしたり1回触ったものを作り出せんねん』
「"作り出す"って人間も?」
『人間は無理や。でも"個性"は強く出来るで』
「え、マジで!?じゃあコンビ組んだら強くしてもらえんの!?」
出来るで、と笑えば「おおおっ!」と皆が目を輝かせた。
当たり前だ、彼女に触れてもらうだけで力が強くなるのならそんなに嬉しい事は無い。
じゃあ右手は!?そう食い気味に問いかけて来たのは上鳴だ。
しかしその言葉を遮る様に相澤が「到着ー。」と言い放った為に会話は流れ皆でバスを降りて行く。
「皆さんいらっしゃい。待ってましたよ」
「わー! スペースヒーロー13号だ!」
「私13号大好きー!」
一気にテンションが上がった緑谷と麗日に触発されたのか周りのテンションも少し上昇した様に見える。
よろしくお願いします! と全員で頭を下げれば「早速中に入りましょうか」と13号が率先して中に入って行った。
そうして全員で中に入ればそこはちょっとしたアクロバティックなテーマパークと言うにふさわしい程に広くそして様々な建物が建っている。
「すっげー! USJかよ!」
『ユニバみたいやなぁ…』
「お、流石関西人! ユニバ呼び始めて聞いたぜ!」
「此処はあらゆる災害を想定して僕が作り上げた演習場です。"嘘の災害や事故ルーム"…略してUSJ!」
ホントにUSJだった…と皆の考えがシンクロする。
そんな中で相澤が「オールマイトは?」と声を潜めて問いかければ13号は「現在休憩室で休んでいるみたいで…」と困った様に言った。
その言葉に「ふーん」と目を細めた相澤は「それじゃあ始めようか」と切り替える様に生徒達に目を向ける。
しかし13号が「その前に少し話しておきたい事が」と手を上げた。
「皆さんご存知とは思いますが、私の"個性"はブラックホール。吸い込んだもの全てを塵にしてしまう能力です」
「その力で沢山の人をどんな災害からも引き上げて来たと聞いています!」
「ええそうです。しかしこの"個性"は一歩間違えれば人を殺しかねないものです」
皆さんの中にもそう言った能力はあるでしょう。
…中には、その能力の協力者故にどれだけ訓練しても扱い切れない"個性"などもある。
現代は"個性"の使用を資格制にして厳しく規制する事で成り立っている様に思えますが、その資格を持った我々でさえも一歩間違えればヴィランと同義。
「相澤さんの個性把握テストで己の"個性"の可能性を知り、オールマイトさんの戦闘訓練で人に向ける危うさを知ったと思います」
そして次にこの人を助ける事を目的とした授業。
…また新しい"個性"の使い方を皆さんに学んで頂いて、そして自分のものとして頂きたいと思います。
君達の力は人を傷付けるものではなく、人を助ける為、護る為にあるのだと言う事をしっかりと学んで行ってください。
「…御清聴ありがとうございました。」
「すげー、俺なんか感動した…」
「素晴らしい!素晴らしいです13号先生!」
わーっと盛り上がる生徒達を見て時計を見た相澤は「それじゃあ始めるか」と徐に声を掛ける。
しかし途端にUSJ内の電気が消え、噴水の水が止まったり溢れたりと奇妙な動きを繰り返した。
そしてその噴水辺りに現れた暗い穴の様なものを見ると相澤が眉を寄せ13号に目を向ける。
「13号、生徒を護れ。…全員そこから動くなよ!」
「おいおいなんだよあれ…なんか一杯出て来たぞ…?」
「まさかもう始まってるなんて事は…」
「動くな!」
相澤の声に皆がビクッと動きを止める。
これは授業じゃない。あれは正真正銘のヴィランだ。
その言葉に皆が一斉に顔を青ざめた。
黒凪は微かに眉を寄せると己の両手を見て眉を寄せる。
『(くそ、こういう時はホンマに使えへんなこの右手は…!)』
「…これ、他の先生達には伝わってんのかな…」
『侵入者センサーが作動してへんからなぁ。多分向こう側に電波系のやつがおんねやろ』
「校舎と隔絶された演習場、其処にクラスが入る時間割…。こんな場所に侵入する事は馬鹿馬鹿しいが、周到に考えられた計画的な奇襲だ」
13号、学校に電話試せ。電波の妨害があるかもしれねえから上鳴も学校に電話。
相澤の指示に従って電話を掛ける13号と上鳴。
その側でゴーグルをつけた相澤に焦った様に緑谷が口を開いた。
「1人で戦うつもりですか!? イレイザーヘッドは視た者の個性を消せるけど、この人数じゃ…!」
「一発芸だけじゃヒーローは務まらん。…任せたぞ13号」
「はい」
飛び込んで行った相澤が1人で何人ものヴィランを相手に戦っていく。
ゴーグルで誰を見ているのか分からなくさせる事で集団を乱し、布を使っての捕縛や体術で捻じ伏せていった。
それを見た13号が「非難しますよ!」と声を掛けて走り出す。
生徒達もその後を追ったが、相澤が瞬きを舌一瞬の隙にヴィランが入り口を塞ぐように13号の前に現れた。
「どうも初めまして、我々はヴィラン連合。本日は平和の象徴であるオールマイトの抹殺にとこの場に参上したのですが、オールマイトは何処にいらっしゃるのですかな?」
「っ…!」
「まあ良い…。私の役目は貴方達を散らして嬲り殺す事…!」
ヴィランが放つ影の様なものが全員を一気に飲み込み視界が暗くなる。
そんな中で足のエンジンを使って砂糖と麗日と共に影の中から脱出した飯田。
ばっと顔を上げれば他の皆は影に飲み込まれ姿が全く見えなくなっていた。
『っ、』
「黒凪!」
『!』
次に視界に入ったのはUSJの山岳ゾーンの岩肌。
両手が使えない為にどうにか着地しようと身体を捻じった黒凪を耳郎が耳のプラグで掴み、先に地面に降りていた上鳴に受け止めてもらう。
プラグによって持ち上げられていた黒凪はゆっくりと地面に降ろされた。
「黒凪、たしかあんたの右手の"個性"は触れた人間の視覚と聴覚を…」
『ごめん、今日はちゃうねん』
「え、今日は…?」
『うちの右手の能力は複数あってな、威力もそれなりに強いけど毎日ランダムで決まる様になってんねん』
じゃあ今日の能力は一体何なんだよ、と焦った様に上鳴が言った。
眉を寄せた黒凪が「あんま仲間が側に居ると使えへん能力や」と苦しげに言うと2人もくそ、と眉を寄せる。
黒凪は手枷を外すと両手を軽く振って腰を下ろした。
『大丈夫や。うち"個性"使えんでも強いから』
「…頼りにしてるぜ、個性把握テスト1位の左右さんよ!」
『任せとき。…あ、せや響香ちゃん武器あげよか?』
「うん、頂戴」
左手から刀を出して耳郎に手渡し黒凪が徐に走り出す。
向かってくるヴィランを蹴り飛ばして走り回っている間にも走り回って攻撃を避ける上鳴と刀を振り回す耳郎。
うわー!と走っている上鳴を見た黒凪はヴィランを足蹴に跳躍し上鳴を襲っていたヴィランを蹴り飛ばした。
『ちなみに上鳴君って電気男やろ? 放電は出来るん?』
「出来るけどお前等を撒き込んじまうんだよ!身に纏うんだったら被害はねーけど使えねえし…!」
『人間スタンガンって感じやね!』
「なんかヤダその名前!」
響香ちゃん、と黒凪が声を掛ければ「何?」と足のスピーカーにプラグを刺して音波を敵にぶつけながら耳郎が振り返る。
するとそんな耳郎を抱えて走り出し背中から大きな布の様なものを作り出して2人でその中に入り込んだ。
『上鳴君、これは厚さ100ミリの完全な絶縁体の布や! 好きに放電しい!』
「っしゃあ! やってやらあ!」
布を下げると外の方で「ギャー!」と断末魔の様なものが響き渡った。
やがて静かになってから布を持ち上げれば見事に上鳴の高圧電流でヴィラン達が倒れている。
黒凪は破けた服を左手で修復し布の下から耳郎と共に抜け出した。
「うぇーい」
『…。なんやあれ…』
「確か"個性"を使いすぎるとアホになるとかなんとか…」
『あー…』
ふらふらと歩き回る上鳴に近付いて「しっかりしろアホ!」と耳郎が彼の腕を掴む。
それでも変な笑顔を浮かべながら上鳴はうえーいと言っているだけ。
そんな上鳴を連れて近付いてきた耳郎に黒凪が微笑んだ。
『此処に敵はもうおらへんな。うち今から外行って他のヴィラン倒して来るわ。響香ちゃんやったら敵が近付いてきたら分かるやろし大丈夫や――』
「はい捕まえたぁ」
『っ!』
「さっきから見てる限り、"個性"での戦闘は不得意らしいなぁお前。」
お前を人質にしてオールマイトの前へ行けば少しは戦況も覆る…。
そう言ったヴィランに眉を寄せて振り返った。
入り口付近で戦うオールマイトが見える。
チンピラの様なヴィランの寄せ集めの中でもひときわ強そうだった連中と戦っているのか。
目を見開いた黒凪は一瞬だけ痺れた全身に眉を寄せぐったりと倒れ込む。
「黒凪!」
「おおっと近付くな。俺はそこのガキと同じで電気を扱える。今は軽く気絶させただけだが、脳みそを黒焦げにだって出来るんだぜ」
「う、うえーい…」
「黙れアホ!」
いいか、動いたら黒焦げだからな。
そう言い残して走り去って行ったヴィランに耳郎が拳をぐっと握りしめた。
大丈夫…向こうにはオールマイトが居る…!
どうにかなる…!!
「オイオイオイオイ…どういう事だよ…。全然弱ってねェじゃねえか…」
「どうした? 来ないのか」
「!」
対オールマイト用にと連れて来ていた脳無を倒されイライラと首を掻く死柄木にオールマイトが地を這う様な低い声で言った。
今しがた目の前で圧倒的な力を見せられた死柄木はそんなオールマイトに一歩下がる。
一方その様子を見ていた轟、爆豪、切島は3人でかかっても倒せなかった脳無を倒したオールマイトに開いた口が塞がらない。
「流石はオールマイト…。俺達の出る幕は無いらしい」
「そーだな。…おい緑谷!此処はもう引いた方が良いぜ多分!」
「う、うん…」
轟達よりオールマイトに近い位置に立っている緑谷が少し振り返る。
しかしやはりオールマイトが気になるのか再び彼に目を向けた。
緑谷は知っている。オールマイトの力が弱まっている事も、そろそろ限界だろうと言う事も。
引こうと提案する切島はそれを知らないからそうしようと思うのだ。
…しかし緑谷は、…緑谷だけは。
「(あれはきっと虚勢だ…、多分もうオールマイトは限界なんだ…)」
「(くそ…脳無とやらが強すぎた…もう俺は動けん…!)」
「……。どうすっかな…あんなバケモンには叶わねえだろうしな…」
「…! 死柄木弔、」
あ? と死柄木が顔を上げる。
彼の視界に黒凪を片手に此方に向かってくる男が入った。
その男に見覚えがある訳ではないが、多く集めたヴィランの1人だろうと言う事だけは分かる。
「…お前…どうしたそれ…」
「人質です。オールマイトに苦戦している様でしたしどうですか?」
「素晴らしい。死柄木弔、あの娘を使いましょう」
「…あぁ…。よくやった…」
ぐったりとしている黒凪に轟や切島が助けようと動くが彼女を持っている男が微かに放電する。
動けば殺す。そう言っているようだった。
思わず動きを止めた轟達と黒凪を抱える男を見てオールマイトの頬を汗が伝う。
「(くそ、このタイミングで人質か…!)」
「左右さん! 左右さん起きて!!」
『…、』
「チッ、うるせぇガキだ――」
ドスッと鈍い音が響く。
あ? と緑谷から自分の身体に目を落とした男。
男の胸元に黒凪の右手が宛がわれている。
そしてその部分から無数の刃が身体を貫いていた。
「な、ん…」
『…別に"個性"で戦えへんわけやない…』
「ぐ…っ」
『今日はちょっと危ないから…使わんかっただけやっちゅーねん…』
男が倒れ黒凪も地面に落ちていく。
そんな黒凪を緑谷が受け止めるとドンッと1発の銃弾が死柄木の足元に突き刺さった。
一歩下がった死柄木にオールマイトが振り返る。
「来たか…!」
「1年A組クラス委員長飯田天哉! ただいま戻りました!!」
オールマイトの声とほぼ同時に響き渡った飯田の声。
恐らく彼の俊足を生かして教師達を集めて来てくれたのだろう。
プロヒーローが集まったのであればこちらの勝ちは確定した様なもの。
まだ残っていたヴィラン達が教師達に瞬く間に一掃されて行った。
「あーあ…来ちゃったよ…」
「死柄木弔、戻りま―…」
「っ!?」
思い切り黒凪が地面を右手で叩き無数の刃が地面を進む様に生えて行き死柄木の足を貫いた。
ギロリと彼の目が黒凪に向き、黒凪は不敵に笑う。
『それの刀とかなぁ、いくらでも伸びていくんよ』
「死柄木弔!」
『藁人形みたいになるで、ほっとくと』
「黒霧…!」
黒霧と呼ばれた影の様なヴィランが死柄木を飲み込んでいく。
あのヴィランは飲み込んだものを転送させる"個性"。共にワープして逃げるつもりなのだろう。
黒霧に飲み込まれながら死柄木がオールマイトを睨み付けた。
「今回は失敗したが、次は必ず殺す…。平和の象徴、オールマイト…!」
そう言い残して死柄木が消え去ると先程までの戦闘が嘘の様に静まり返る。
黒凪は緑谷の腕の中で息を吐くと徐に両手を祈る様に組んだ。
すると地面やヴィランから生えていた刃が消え去り奇妙な傷跡だけが残る。
「や、左右さん大丈夫…?立てる…?」
『た、立てへん…。腕とか色々麻痺しとる…』
「えええ麻痺!? 麻痺って痛いよね!?」
「さっきの雷野郎にやられたのか左右!」
わーっと集まってくる切島や轟。
それを見ているオールマイトは力尽きて細くなりつつある。
しかも力尽きすぎて動けない。まずい。力が衰えている事がばれてしまう。
しかしそれを間一髪で回避させたのが教員であるセメントスだった。
彼はオールマイトが見えない様にコンクリートで新たな壁を作り彼が見えない様にと配慮する。
「大丈夫か!? あ、触ると痛ぇよな!」
『ビリッと来るだけやし別に触ってもええけど…』
「怪我人は向こうに連れて行くらしい。…持ち上げるぞ」
『おっけ、そっとね。ゆーっくり持ち上げ、て、…っ~』
緑谷も何処かしら怪我してんだろ。行くぞ。
そう言って黒凪を抱えて轟が歩いて行く。
轟に抱きかかえられながら時折ビリッと来る腕や足に黒凪が唇を噛み締めていた。
『っ、…う、』
「我慢しろ。もうすぐだ」
『わかって、る、けどっ』
めっちゃこそばい…!
そう言った黒凪に「こそばい?」と轟が怪訝に聞き返した。
しかしすぐに担架を持った人達が駆け寄り載せる様にと指示を出したので轟が黒凪を降ろそうとする。
だがそれを見た黒凪は焦った様に轟の首に腕を回し彼にしがみ付いた。
『ちょ、ちょお待って!? 担架に乗ったらめっちゃ痺れるやん!』
「痺れる…?」
「あぁ、こいつ電気系の"個性"の奴に麻痺させられたみたいで…」
「あー…。…それじゃあ悪いけどこのまま医療室までこの子を連れて言ってくれるかい?」
医療室…? 保健室じゃないんですか。
そう言った轟に「電気を浴びせられたんだったらちょっとした検査も必要だから。それじゃあ頼んだよ」と言って去って行った人達に轟が小さくため息を吐いた。
そうしてあまり黒凪を揺らさない様にと医療室へ向かって行く。
時折襲う痒みと黒凪が眉を寄せて我慢していると「なあ」と轟から声が掛けられた。
「あの右手の能力、そこまで危うくはなかっただろ」
『…へ?』
「ヴィランにピンポイントに触れて"個性"を使えば味方への被害はない。…あの力を使わない方が寧ろ危険だった筈だ」
『……』
"個性"を使わないのは何故だ?
無表情に問いかけた轟に黒凪の目がちらりと向く。
彼は此方を見ない。…どういうつもりで此方を見いへんのやろ。
『…そんなん言うんやったら轟君もやで』
「…。」
『なんで熱を起こせる方を氷で覆ってんの。…あんまそっち使ってるイメージもないし、あんたも使いたない理由があるんやろ』
それを教えてくれるんやったら言うで?
そう言った黒凪に「だったら良い」と轟がすぐに返した。
…もしかすると目を逸らしていたのは問いかけた後にこの切り返しが来るのではと危惧したからではないだろうか。
『…いつか話せる様になったら教えてなぁ』
「…」
『まだ会ってちょっとしか経ってへんけど、うちに話して楽になるならいつでも言うて』
「…あぁ。そうする」
アタック!
(ギャー!ちょお待って轟君ゆっくり降ろしてほんま無理やから!)
(悪いな。これ以上ゆっくりすると下手すりゃ落としちまうから。…歯ぁ食いしばってくれ)
(食いしばってる!食いしばってるけど無理なもんは無理やねんて!)
(それ食いしばってるって言わねえ)