僕のヒーローアカデミア

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  神の左手・悪魔の右手


 遂に雄英高校ヒーロー科の授業がスタートした。
 午前は普通の高校と同じ様な必修科目を行い、昼食は流石は名門と言う所か、一流の食事を安価で食べる事が出来る。
 そして午後は午前中につまらなさそうにしていた皆が目をキラキラと輝かせる授業内容となっている。



「さーて! これから始まる授業はヒーロー基礎学! ヒーローの素地を養う為に様々な訓練を行う!」



 そう意気揚々と言ったのはNo.1ヒーローであるオールマイト。
 このヒーロー基礎学は座学と言うよりは実技。
 皆がわくわくしている中でオールマイトが記した本日の授業内容は"戦闘訓練"。
 事前に提出していた個性届と要望から作られたコスチュームを配布され、早速グラウンドβに集まる事となった。



「おお! 皆良く似合ってるじゃないか!!」

『……んー?』

「どうかしたの? えーと…左右さん…?」

『あ、お茶子ちゃん。出久君何処かなって思て探してたんよ』



 あれ、確かに居ないねえ…。
 共に周りを見渡していると後から遅れて緑色のスーツに身を包んだ緑谷が姿を見せた。
 彼はぴったりとしたコスチュームに身を包んだ麗日に目を見開き、ばっと逃げる様に黒凪に目を向ける。
 しかし黒凪黒凪で動く事に衣服が邪魔にならない様に極限にまで布面積を縮めている為、随分と目のやり所に困る姿となっていた。



「ふ、2人共似合ってるね…」

「えへへ、そう?テキトーに要望出したからピチピチのコスチュームになっちゃって…」

『うちも"サイコーに動き易く"って書いたらこうなっててん』

「そ、そっか…」





























「さて、君達にはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2での屋内戦を行って貰う。」



 このグラウンドは入試でロボットと戦った場所だが、今回の敵は壊していいロボットでは無く生身の人間と言う所がポイントだ。
 状況設定はヴィランがアジトの何処かに核兵器を隠していて、ヒーローがそれを処理しようとしている所と言った所だ。
 ヒーロー組は時間制限までに核兵器を見つけるかヴィランを拘束する事。
 ヴィラン組は時間制限までに核兵器を護るかヒーローを捕まえる事だ。



「コンビと対戦相手はクジで決める! その場で協力する事もプロの世界では多いからな、今の内からそう言った事になれていく様に!」



 差し出されたクジを箱から1人ずつ引いて行き、互いのペアを探し始める。
 黒凪は個性把握テストでも何かとペアになる事が多かった峯田とチームCを組む事となった。
 よろしく。と笑顔で言えば彼は「ヒーロー科最高…」とだけ呟いて握手を求めてくる。



『うんうん、ヒーロー科最高やね。…あ、せや峯田君』

「?」

『今日はうちめーっちゃ運がええねん。頑張ろなぁ』

「お、おう!」



 ニコニコと笑って言った彼女に頷いた峯田は「それでは対戦相手を発表するぞ!」とクジを引いたオールマイトに目を向けた。
 第一回目の対戦はチームAとチームD。
 チームAは緑谷と麗日、チームDは爆豪と飯田。
 他のチームはモニタールームへ移動する様に。
 オールマイトの指示に従って4人を残してモニタールームへ。



『(大丈夫かなぁ、出久君…)』



 モニターの向こう側でヴィランのアジトに潜入し始めた彼を見ながらしゃがみ込む。
 両手は手枷で固定されたまま。その両手を見下して目を細めた。
 今日も彼は頑張るんやろうなあ。
 ドォン! と鈍い音が響き渡る。はっと顔を上げれば早速奇襲を仕掛けた爆豪が麗日と緑谷を睨み付けている様子が映し出されている。
 音声はモニタールームに直結されていない。…向こうの声を聞くにはオールマイトの耳元のイヤホンだけ。



≪クソデクが…避けんじゃねえよ≫

『(うん、ギリギリ聞こえるわ)』

「…左右少女? 少し近い様な気がするのだが…」

『そんな細かい事気にせんといてください先生。一緒に音聞いときましょ』



 走り出す爆豪にぐっと口を結んで緑谷が飛び込み、その懐にすっと入り込んだ。
 その爆豪の動きを完全に読んでいたかのような動きにモニタールームの皆が息を飲む。
 爆豪の右腕を両手で掴み、背負い投げをした緑谷は眉を寄せて起き上がる爆豪に向かって口を開いた。



≪かっちゃんは…大抵最初は右の大ぶりなんだ…っ≫

≪っ、≫

≪僕はずっと、ずっとずっと凄いと思ったヒーローの事はノートにまとめて研究して来たんだ≫



 僕は君が思ってるようなザコで出来そこないのデクじゃない…!
 僕は"頑張れ"って感じのデクだ!!
 緑谷の言葉に麗日が目を見開いて顔を上げる。
 爆豪の掌で軽く爆発が起きる。そんな爆豪の前に立つ緑谷は震えていた。



『…頑張れ出久君』

≪ビビりながらピーチクパーチク…そう言う所がクソうぜぇんだよ!!≫



 走り出した爆豪が読まれる事を避ける様に足を振り上げる。
 その足を受け止めた緑谷は巻き付ければ拘束したと認められる確保テープを爆豪の足に巻き付けようとした。
 しかしそれを間一髪で抜け出した爆豪は焦ってまた右手の大ぶりを繰り出す。
 それもしっかりと読んでいた緑谷は無傷で避けて走り出した。



『……。』

「(うーむ…仕方がないか…。言って退く様なタイプでもないだろうしなぁ)」



 真剣にイヤホンから漏れる微かな音を拾う黒凪に眉を下げ、オールマイトがモニターに改めて目を向ける。
 爆豪はアジトの中で彼の視界から消えた緑谷を探していた。
 彼はイライラした様子で見つからぬ緑谷に向かって「俺を騙してたんだろクソデク!」と叫び始める。



≪随分と派手な"個性"じゃねえかよ…あァ!?≫

「(緑谷少年の話によると彼は自尊心の塊…)」

『度が過ぎた自分大好き少年…。』

「あぁ、まさにそんな感じ…。ん?」



 この子、もしやこれまでの爆豪の様子を見て…?
 いや、誰でもあれを見れば自尊心が高い事は容易に判断出来るか。
 ――よく分析して動けてる、と思う。
 多分出久君のあの表情はこれが爆豪君の暴走やって事にも気付いてるやろし、一番勝率が高いやり方も頭に浮かんでる筈。



『…嫌やろうなあ』

「!」

『ずーっと勝ってると思てた相手が急に強なったりしたら。…それはそれは嫌やろう』



 …でもちょっと羨ましいわ。
 オールマイトが黒凪の小さな呟きに振り返る。
 あんな風に自信満々になれるんは彼に壁が何も無かったからやろう。



『――うちには壁しかなかっでぇ、爆豪君』

「(…左右黒凪。かつて実力派で名前が通っていた左右翔真とその"個性"の実用性からこの雄英高校に長年勤めていた左右幸惠の愛娘…)」



 両親の"個性"は互いに希少性がとても高く、その"個性"が綺麗に受け継がれた彼女はとても恵まれている。
 …ただ、その"個性"が希少だと言われる所以はもう1つあった。
 オールマイトの目が彼女の手枷に向く。



「(…受け継がれた"個性"は娘に受け継がれる度に元々の所有者を殺していく)」



 その"個性"が次の所有者に馴染めば馴染むほど。…その"個性"を扱えるようになればなるほど。
 つまり黒凪がヒーローとして"個性"を成長させればさせる程、元の宿主であった両親は衰退していく。
 だからこそ、せめて咄嗟に"個性"を使ってしまわぬ様に。
 せめて必要のない時だけは両親に負担を掛けない様に。



≪――なんで"個性"を使わねえ、デク≫

『「!」』



 聞こえた声にはっとモニターに目を向ける。
 俺には"個性"も使わずに勝てるってか?あ゙?
 低い声が緑谷に向けられた。
 彼は右手を持ち上げ真っ直ぐと緑谷に拳を向ける。



≪テメェなら分かってんだろ…俺の爆破は汗腺からニトロみてぇなもんを出して爆発させてる≫

『!(あのコスチュームの装備…)』

≪要望通りに作られてんならこの籠手はそいつを溜めて一気に飛ばす事が出来る≫

「爆豪少年! ストップだ、殺す気か!?」



 当たらなきゃ死なねえよ!
 爆豪の言葉に目を見開き黒凪が走って緑谷の元へ向かおうとする。
 しかし無慈悲にも放出された爆発は緑谷の元へ一直線に向かい、物凄い地響きが鳴り響いた。
 思わず足を止め緑谷の安否を見る様にモニターへ駆け寄る。
 …土煙の下に倒れている緑谷が見えた。



『っ、(生きてる)』



 ぱくぱくと爆豪の口が何度か動く。
 声を聞くべく再びオールマイトの側まで走りイヤホンの音を拾った。
 個性を使えよデク。…全力のテメェを捻じ伏せてやる。
 そんな言葉を吐いた爆豪は嫌な笑みを見せていた。



「先生ヤベェって! 爆豪あいつ殺しちゃうぞ!」

「いや、……」

『キレてる割には出久君を本気で殺そうとは思てへん』



 多分あの子、思ってる以上に繊細やしビビりなんちゃうかな。
 黒凪の言葉に「え」と皆が振り返る。
 自分より弱い相手に構って貰えんくて派手に動くんは自分に自信が無い時の行動や。
 多分自分の能力に過信しすぎて負けるんが怖いんやろう。
 そんな心の奥底にあるびびってるトコが行動にも出て来てんねや。



「お、おぉ…」

「爆豪小年! 次同じ技を撃ったら失格にして君等の負けとする!」

≪あァ!?≫

「その攻撃は屋内戦にとってはヒーローとしてもヴィランとしても愚策だ! 先程撃った時点で大幅に減点だからな!」



 ん、の…!
 そんなイライラした声が無線から聞こえてくる。
 先程までつらつらと自分の分析結果を述べていた黒凪はまた唐突に黙り無線の声を拾っていた。
 皆はそんな黒凪を怪訝な目で見ると再びモニターに目を向ける。
 また爆豪と緑谷の戦闘が始まり、もはや爆豪によるリンチの様な状態になっていった。
 その様を無線を握りしめて見るオールマイトと無表情で見つめる黒凪



≪なんで"個性"を使わねえ…! 俺を舐めてんのかクソデク!!≫

≪舐めてなんかない…っ、君が凄いから、君が強いから僕は勝ちたいんだ…!≫



 だから僕は君に負けたくないんだよ!!
 爆豪に劣らない激情を見せた緑谷にオールマイトが眉を寄せる。
 走り出した爆豪に合わせる様に緑谷も走り出し、拳を振り上げた。



「ちょ、マジでヤバいって先生!」

「(このまま爆豪少年と緑谷少年がぶつかれば…っ)」

『……出久君、』



 君は激情に流されるタイプやない。
 口を開いたオールマイトの無線を両手で弾く。
 そんな黒凪に目を見開いたオールマイトだったが、イヤホンに届いた緑谷の声にはっとモニターに目を向けた。



≪――行くよ、麗日さん≫

≪うん!≫



 爆豪の爆発を"個性"で上空へ殴り飛ばす。
 軌道を逸らされた爆発は瞬く間にアジトの中を駆け巡り、大きな穴を空け。
 その瓦礫を麗日が"個性"を使い飯田に差し向けると彼女事態が浮き上がり核に飛びついた。
 上の階から響き渡った飯田の絶叫を聞いた爆豪はそこでやっと緑谷のした事に気付いたのか目を見開き、そして青筋を浮かべて緑谷に目を向ける。



≪テメェ…最初かこうするつもりで…!! やっぱり舐めてやがっ――≫

≪使わないつもりだった…!≫



 震えて言った緑谷に爆豪の言葉が止まる。
 相澤先生にも言われて、まだ使えないから。
 だから使わないつもりでいたんだ。
 イヤホンから聞こえてくる緑谷の声は弱々しく、震えている。



≪でもこれしか思いつかなかった…っ≫



 そう言い残して倒れた緑谷にオールマイトが口を開いた。
 …ヒーローチーム、win!!!!
 オールマイトの言葉を聞いて黒凪が走り出す。
 その背中を見送った轟はモニターに目を向け、物凄い勢いで緑谷に駆け寄った黒凪の姿に目を細めた。




































『出久君、…あかんわ保健室に連れて行かな』

「ちょっと待ちたまえ左右少…」

『じゃあ先生行ってくるわな』

「早いっ!?」



 緑谷を抱えて走り出さんとした黒凪の肩を掴んで引き止め、保健室へ怪我人を連れて行くロボット達に目を向ける。
 此処は彼等に任せて君もチームA、チームDと共に好評を聞くんだ。
 大丈夫、此処の設備は完璧だから心配ない。
 笑顔でそう言ったオールマイトを見上げ、黒凪が少し不機嫌に頷いた。



「(俺の攻撃をアイツは読んでた…読んでた上で、それよりも勝つ事を優先して…)」

『…、』

「(それってつまり、俺はアイツに正真正銘負けたって――!)」

「爆豪少年」



 オールマイトの声にはっと爆豪が顔を上げる。
 講評の時間だ、モニタールームへ行こう。
 負けたにせよ勝ったにせよ、反省はこれからに生きてくる。
 ぼーっとした様子の爆豪と共にモニタールームへ戻り、皆が居る前でオールマイトが口を開いた。



「あー…、まあ負けたとはいえ今回のMVPは飯田君だな!」

「ええっ!?」

「…勝った麗日さんか緑谷君じゃなくて?」

「ははは…。さて、なんでだと思う?」



 誰も手も上げず、自分の意見を言わない。
 そんな中で緑谷の事が気になるのだろう、そわそわしていて話を聞いていない様子の黒凪にオールマイトが目を付けた。
 それでは左右少女!
 突然のオールマイトの声に黒凪が顔を上げる。



「君はどう思う?」

『…え、ごめんなさい話聞いてなかった…』

「今回のMVPが飯田君である理由を述べて欲しい!」

『…消去法になりますけど、爆豪君の戦闘は完全に私怨丸出しの独断行動やったからまず除外です。より核を護る事とか敵の捕捉を考えるなら核の側には爆豪君が居るべきやったし…』



 それに室内での派手な攻撃はやっぱり愚策やし、それは出久君にも言える事やから彼もMVPから除外。
 八方塞やったとはいえ建物を壊した事に目ぇは潰れませんから。
 麗日さんは敵の飯田君に気付かれる様な凡ミスしてしもたのが惜しいですね。それに最後の攻撃も出久君達と同じで室内戦にはあんま良くないもんでした。



『対して飯田君は敵の行動を読んで麗日さんの対策まですぐにやってましたし、彼なりに核の守備にも徹してたんでほんま凄いと思います』

「っ、」

『それに今回はヒーローチームの訓練やっていう甘えが目立ちました。この勝利はそれを逆手に取った反則勝ちみたいなもんです。実践やったら最後に笑ってたんは飯田さんだけやね』



 喜びをかみしめる様に震える飯田を横目にオールマイトが「うん! 正解!」と親指を立てる。
 それ以上何も言わない所から予想以上に黒凪が言い当てたと言った所か。
 …続いて第二回戦。
 轟と障子のチームBと尾白と葉隠のチームI。
 此方は一回戦とは違い僅か数分で轟の圧倒的な"個性"の前に敗北してしまった。



「す、すげー…流石推薦入学者…」

「半端ねえ個性だなー…」

『へー…。氷だけやなくて熱も出せるんや。半端ないなぁ』

「何言ってんだよ。あんたも推薦入学者だろ?」



 うちなんか出オチやで出オチ! あんな凄ないわ!
 きゃーっと笑って言った黒凪に「またまたぁ」と上鳴が笑って言った。
 え、ほんまに嘘やないって。そう打って変わって真顔で言う黒凪に「え…?」と皆も微妙な顔をする。



「「(もしかして左右さんってそんなに凄くない…?)」」



 もしかして推薦って頭が良いから?
 でも此処ってヒーロー科だし…。
 やっぱそれ相応の"個性"がないとさあ…。…えー…?
 口々に話すクラスメイトを横目に講評を受けていた轟がオールマイトに目を向ける。



「それじゃあ次はチームGとチームCだな! チームGはヴィラン組、チームCはヒーロー組だ!」

「げっ、噂の左右と戦うのか…」

「まあウチ等はサクッと行きましょうや」

「何をどうサクッと行くんだよ!?」



 オイラ頑張るよ!
 一足先にビルへ入って行った上鳴と耳郎を見送った後にビシッと親指を立てて言った峰田。
 しかしそんな峰田の声など全く聞こえていない様子で己の両手を見ていた黒凪はゆっくりと手枷を外した。
 地面に落ちた手枷にモニターを見ていたクラスメイト達が画面に集中する。
 じっと己の右手を見ていた黒凪は静かにビルを見上げた。



≪ヴィラン組のセッティング時間は終了だ! 始めて良いかな?≫

『…はーい』

「お、おう!」

≪それでは開始!≫



 その声と同時に黒凪がビルに近付き手枷が無い状態で手を祈る様に組んだ。
 その姿に「なんだよまた手を組むのか」とクラスメイトの誰かがぼそっと言う。
 黒凪は徐に峰田を振り返ると彼を両腕の間に挟んで持ち上げると徐に走り出した。



「え、このまま行くのっ!?」

『うん、このまま一緒に行こ。敵が来たらうちが相手するから』

「お、オイラは何をすれば…?」

『敵の足止めやね。今日のうちは敵に触れたら勝ったも同然やから』



 お、おう! 触ったら勝つ能力なんだな、分かった!
 黒凪の胸に挟まれた状態で物凄い勢いで移動する峰田は目を回しながらそう答える。
 すると目の前に片手で放電しながら上鳴が飛び込んできた。
 それを見た黒凪はすぐさま足に力を籠め飛び上がり回避する。



「すげっ、両手塞がってんのによくそんな跳べんな!?」

『峰田君、ごめんやけど背中に移ってくれる?』

「わ、分かったっ」



 器用によじ登り背中に移動した峰田を見てから両手を解放し左手でコンクリートの壁に触れる。
 するとコンクリートが盛り上がり黒凪達と上鳴との間を塞いだ。
 向こう側から「はぁあ!?」と上鳴の声が聞こえてくる。
 その声を聞きながら走りだし何度か道を曲がって同じ様にして道を塞いだ。



「――!(まさかこれは…!)」

「…まさか左右の奴…」

「さっきの5分で建物の見取り図を完璧に暗記して壁を作り、上鳴を閉じ込めた…?」

「つかあの能力ってなんだ? コンクリ作れんの?」



 左右黒凪の左手に宿る能力"神の左手"。
 生物以外の触れたものを無限に増幅させる事が出来る。
 増幅させたものは幾分にも操作が効き、彼女の手足同然となる。



「("個性"に加えてあの身体能力…。)」

「やっぱ推薦入学者って感じだな…」

「何だよ謙遜しやがって。」

「ホントに」



 モニターの向こう側では物凄い勢いで建物の中を走り回り1部屋ずつ確認しながら動く黒凪が映っている。
 "個性"で徐々に近付きつつある黒凪の足音を聞いていた耳郎は完全に道を塞がれ動けない様子の上鳴にため息を吐いた。
 仕方ない、此処はウチ1人であの2人と対決かぁ…。



「(ま、警戒すべきは左右さんだけだと思うしどうにかなるかな)」

『…見つけたでえ、響香ちゃん』



 扉を足で蹴破って現れた彼女の両手は解放されたまま。
 いらっしゃい。と笑った耳郎は耳たぶのプラグを操りギュンッと黒凪に向かわせた。
 それをしゃがんで避けた黒凪の背中から峰田が床に降り立ち、走り出す。
 黒凪は真上にあるプラグに手を伸ばすとその瞬発力で逃げようとした耳郎のプラグを右手で掴み取った。



「っ!」

『捕まえた。』



 耳郎が目を見張りその場に膝を突く。
 その様子に黒凪が峰田に目を向け、頷いた彼が核へ向かって行った。
 しかし耳郎のプラグが核の前まで伸びて行きドスッと峰田のすぐ側の床に突き刺さる。



『!……そっか、"個性"があるから耳は聞こえとるんか、響香ちゃん』

「目が見えない…、それがあんたの"個性"? 左右」

『"今日は"せやなぁ。てか黒凪って呼んでえや響香ちゃん』

「(成程、今日は"デモゴルゴン"か…。)」



 一説で"混沌"と"夜"が支配する領域の住人として描かれた悪魔。
 その説から触れた者の視力と聴力を奪うあの能力に"デモゴルゴン"と名がつけられたと聞く。
 但し右手に宿る能力"悪魔の右手"の能力は一貫して"個性"そのものに影響を及ぼす事は出来ない。



『(使える能力やけど今日は相手がなぁ…)』

「え、足が動かな…」

『あぁ、足で峰田君のボール? を踏んでるねん。もう動けへんと思うわ』

「(私の目が見えなくなった時に足元に置かれてた…!?)」



 ヒーロー組、win!
 大きく響いたオールマイトの声と同時にふっと両目が光を取り戻し視界が元に戻る。
 はっと顔を上げれば自分を心配げに覗き込む黒凪が居た。
 彼女の両手はしっかりと祈る様に組まれている。



「今日はオイラ体調悪いしもぎもぎ取れると思う…」

「…わ、ホントだ。取れた…」

「えー!? 終わりかよー!!」



 下の階から聞こえてくる声に耳郎が目元を覆い、4人でモニタールームへ戻る。
 そうして講評を聞き、また他のチームの実践が始まった。
 やがて全チームの戦闘を見終わると皆で再びグラウンドに戻り、オールマイトが授業の終了を宣言する。



「緑谷少年以外は大きな怪我が無くて何よりだ! それでは私は彼に講評を伝えなければならないのでな、着替えて教室に戻る様に!」



 そうとだけ言って物凄い勢いで走り去ったオールマイトに皆が唖然とする。
 そしてやがて"やっぱりオールマイトは凄い"と言った思考に落ち着くのであった。
 わらわらと教室に戻り出す生徒達の中でずっと顔を伏せている爆豪に目を向けた黒凪は彼に近付き顔を覗き込む。



『爆豪君お疲れ。』

「………」

『…。…爆豪君、君に言うてんねんけど』

「……うるせぇ黙れ。俺に話掛けるな」



 ギロッと思い切り黒凪を睨んで歩いて行く爆豪。
 黒凪は懲りず彼について行きその隣に並んだ。
 その様子を後ろで見ていた轟は呆れた様にため息を吐く。



『爆豪君、泣きそうなってるやん』

「あ゙? テメェ喧嘩売ってんのか」

『話題が見つからんから言うてみただけや。気にせんといて』

「ぶっ殺すぞ」



 ぶっ殺されへんよ。
 笑って言った黒凪に爆豪の額に青筋が浮かんで行く。
 しかし彼は黒凪を見ると歯を食いしばり速足に去って行った。
 それでもついて行こうとする黒凪を止めたのは麗日だった。



「多分、もう行かない方が良いと思う」

『…そか、友達になりたかったのになぁ』

「え、友達…?」

『友達欲しいねん。…うちの今の目標はクラスの子達と友達になる事や。』



 やからお茶子ちゃんもうちの友達なってや。
 人懐こい笑みを浮かべて言った黒凪に麗日が目を見開いた。
 …もしかして、友達だからあんなにデク君の事気にしてたの…?
 唖然と言った麗日に黒凪は至極当たり前の様に頷く。



『友達って助けるもんやん?友達なってって言うたらなってくれてん。大事にしやなあかんやん?』

「う、うん」



 友達は大事やんなぁ。
 笑顔で言った黒凪に麗日が「そうだね」と笑顔で頷いた。
 此処でやっと、麗日は彼女の事を少し理解した様だった。





























「お、緑谷帰って来た!」

「傷は大丈夫…って治ってねえじゃん!」

「う、うん。ちょっと僕の体力の問題もあって…」



 がやがやと教室に入って来た緑谷に群がるクラスメイト達。
 その様子を遠目に見ていた常闇がボソッと「騒々しい」と呟く横で黒凪がうずうずした様子で緑谷を見ている。
 そんな黒凪を正面で見ていた耳郎と尾白が顔を見合わせた。



「行ってきなよ黒凪。気になるんでしょ?」

『…ううん、今は出久君皆と話しとるから邪魔せーへん。うちも響香ちゃんと話してたしなぁ』

「そう?」

「それにしても凄い身体鍛えてんだな。よく両手使わずにあんなに動けるよ」



 両手使わへんのが日常だからよく分からんわ。
 でも蹴り飛ばすのは得意やで。
 そう言った黒凪に「へえ、凄いな」と笑顔で返す尾白。
 常闇は机の上に座りながら黒凪の手枷に目を向ける。



「……」

『常闇君の"個性"はどんなん?なんか背中から手ぇ生えてたやろ』

「あれは俺が身体に宿しているモンスターだ。暗闇の中で動かせる」

『宿してる!? なんかカッコええ響きやなあ!』



 え、デク君何処行くの!?
 そんな声に振り返れば先程まで緑谷が居た場所に彼の姿が無い。
 緑谷を探す黒凪に気を効かせて"個性"を発動した耳郎は徐に口を開いた。



「…なんかさっき帰った爆豪を追いかけてったみたいだな」

『へー…爆豪君追いかけてんねや…』

「そう言えばあんた話しかけてたね。何、惚れた?」

『ううん、ちょっと気になっただけや。…好きか嫌いかって言われたら嫌いやし…』



 え、嫌いだったの!?
 目を見開いて言った耳郎に頷いて「嫌いな人とも仲良くしやなあかんなぁって思て」と黒凪が机に目を落として言った。
 しかし尾白や耳郎は逆に妙に納得していて。



 どちらかと言えば嫌い


 (だからあんなにウザ絡みを…?)

 (左右って結構怖い奴なのかもな…)
 (うん…)


 
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