るろうに剣心
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師匠! あいらぶゆー!
『あ゙ー…』
「…色気も何もねぇな」
『弟子に手ぇ出したら終わりですよ、師匠…』
「馬鹿野郎、誰が出すか」
桶に水をたっぷり入れて帰って来た黒凪。
初めの頃と比べれば随分慣れたものだが、バキバキと鳴る肩は相変わらずだ。
これで何年目だろうか、数年はずっとこうやって家事の様なものをこなしている。
中々慣れなかった料理の腕も随分上達したものだ。
「…にしてもお前、最近痩せたか?」
『それはどうも。師匠にこき使われて痩せたのかなー』
棒読みでそう返した黒凪にピクリと眉を動かす比古。
ひゅんと迫った刀の柄だったが、ひょいと避ける黒凪。
が、比古はその上を行く様に間髪入れずにもう1度振り降ろし黒凪の額に命中させた。
ぷるぷると痛みに震える黒凪に笑みを零す比古。
『昔は女、女って優しくしてたくせに…』
「最近分かってきた。お前はもういっぱしの女には成れん」
『うわ、師匠の所為だ。絶対師匠の所為だ』
「かもな」
こんの。と冗談半分で黒凪が刀を投げればパシッと受け止める比古。
ちなみに長刀で、数か月前に黒凪の為にと比古が買い与えたものだ。
大事にしろ、と返されると嬉しそうに抱え込む黒凪。
比古は忘れていた。自分がいつの日か彼女を手放すと考えていた事も。
それ程側に居るのが当たり前になっていたのだ。
『んで?私に師匠の剣術教えてくれないんですか?』
「それは駄目だっつってんだろ」
『女だからでしょ?まあ確かに師匠みたいに図体がでかくなんて成れませんけど…。あだっ』
「お前は一々言い方が癇に障る」
じんじんと痛む額を抑え、ずず、と味噌汁を喉に通す。
確かに可愛げは無いだろうけど…。
ちら、と比古を見れば、彼の側で黒い虫がうろうろしているのが目に入った。
あの緩い速度は蚊だろうか。何故か彼は刺されず自分の所ばかりに来る忌々しい虫だ。
『よっ、と』
「あ?」
『いや…。蚊が居まして』
手を開いてみるが蚊は居ない。
あれ?と小首をかしげていると無意識のうちにひょいと浮かしていた腰を元に戻した。
すると先程まで自分の顔が有った部分を比古の片手がぶんと振り降ろされる。
それだけで蚊は地面に叩きつけられ、おおお…と黒凪が感心する中比古は酒を煽った。
「…一著前になってきやがって。馬鹿弟子が」
『?…そうでしょう、そうでしょう』
「意味が分かってねぇ癖に天狗になるな」
『っと、その手は今日はもう効きませんよ』
迫って来た柄を今度は掴み取る黒凪。
そんな黒凪を見て比古は無意識に口元を吊り上げた。
先程は態と力を籠めた訳だが、何とも思わない様に避けてみせた我が弟子。
随分自分との生活にも慣れている。
『ねね、師匠って私以外に弟子います?』
「あ?」
『私が初めてですよね?じゃなきゃ横暴すぎるし』
刀の柄での攻撃が効かないと察した比古は軽く睨んでおいた。
癪だが、確かにこの生意気な餓鬼が自分の初めての弟子だ。
と言うか、一緒に此処まで長く暮らした他人も彼女が初めてだと思う。
だからこそ、この少女は自分にとって自分が思っているよりもはるかにかけがえのない存在なのかもしれない。
『あいらぶゆーでーす』
「あ?なんだそりゃあ」
『ふふふ、意味が分からないでしょう。さて知りたいですか?』
「興味が湧かん」
えええ、と。面白くないと駄々をこねるこの餓鬼が、色気も何もないこの餓鬼が。
自分にとっては娘の様にかけがえのない存在になっている事を、改めて比古は再認識した。
聞きたくないですかー?と執拗にくっついてくる少女を肘で軽く吹き飛ばし、比古は立ち上がる。
「(…まあ、下手に色気が合って生殺しにされるよりはマシか…)」
『師匠ー。魚獲れましたよー』
「生臭い。洗ってこい。」
『はいはーい』
「誰か助けてー!!」
「きゃあああっ!」
『!』
「…行って来い」
聞こえた声に傍らの師を見上げれば、くいと顎で前方を示される。
前には木が生い茂っている上に今は夜。
様子は見えないが了解でーす、と怖がるそぶりを見せずずんずん進む黒凪。
さて、ゆるりと進むかと酒を持ち上げ飲む比古。
『…あれま』
「……あぁ?」
『生存者は…ゼロ、と。』
そっちの方が都合は良いけどちょっと気の毒だなぁなんて思う。
都合が良いっていうのは自分以外に師匠が面倒を見る人間が増えないって言う事で、ね。
仇は取るから許してね、と心の内で呟く様に言って刀を抜いた。
あまり人を斬るのは好きじゃない。師匠に教えて貰ったこの剣術を、人殺しに使うのは。
「嬢ちゃん…。悪いが見られちゃあ放っておけねぇなぁ」
『何言ってんのさ。別に顔を見られても誰もアンタ等を責めないよ』
生きる為に、必死なだけだってのは分かってるから。
その言葉に野党が目を見開いた瞬間、月の光で微かに光を発する刃がひゅん、と待った。
茂みを掻き分けて足を止めた比古は血まみれになりながら死体を持ち上げる黒凪を見る。
『あ、いらっしゃい師匠』
「今回は何人だ?」
『20人ぐらいですかねぇ』
そうか。と死体の山を見た比古は穴は掘ってやるよ、と歩いて行った。
どうも、と頭を下げて比古について行く。
チラリと隣の比古を見上げ、そう言えばと笑顔を作った。
比古は不気味とも取れるような微かな黒凪の笑みに少し眉を寄せる。
『師匠って今幾つでしたっけ?』
「あ?……二十二だ」
『私の歳知ってます?』
「……幾つだ」
18歳、と語尾にハートが着きそうな程上機嫌に言えば、比古の足が止まった。
よくよく考えれば2人の年齢はあまり変わらない。
師匠と言っても4つしか差はないのだ。
黙り込んだ比古にあははは、と笑う黒凪。
「…知ってやがったのか」
『いや、そんな気がしてただけです…。くく、』
「チッ…、大分差があると踏んでたんだがな…」
『じゃあこれからは清ちゃんとか呼んじゃいます?そうしちゃいます?』
冗談半分で言えば露骨に機嫌を悪くした比古。
これ以上言えば墓穴を掘る手伝いの約束を破棄しかねない為、すみませんね、と軽く謝っておく。
ったく…、と比古は黒凪を軽く叩いて穴を掘る作業に取り掛かった。
「………こんなもんか」
『ふいー…。ありがとうございます』
「さっさと持ってこい」
『はーい』
すちゃっと片手を上げて走り出した黒凪。
腕やらに付いた土を払い、側の大きな岩に腰掛ける。
そして月を見上げれば、先程の黒凪との会話が脳裏に蘇った。
初対面があれだった為か、年下と言う意識は強くもっと差があると考えていた。
『よいしょっ、』
「(まさかたったの4つとはな…)」
『私は生きて来た環境が師匠とは違いますからねぇ』
「………」
多分師匠が大人なんですよ、実年齢の何倍もね。と黒凪が笑顔で言った。
そうして穴に死体を降ろしていく彼女を見てため息を吐く。
年齢差があまりないからと言ってこの先に何が変わるでもない。
それ以前に自分はそう言う事に囚われる性分ではないし、黒凪もそれを理解しているのだろう。
「…それで全員か?」
『はい。…わっ』
「早くでねェと一緒に埋めちまうぞ?」
『うわっと、ちょっと。それが女の子に対する対応ですか?』
お前を女だと思った事はねぇ。ときっぱり言われてなんですと、と穴から這い出る黒凪。
じゃあなんだってんですかと問いかければ少しの沈黙の後に比古が口を開いた。
出来の悪い弟子、だと。
まんま過ぎます!と眉を下げた黒凪は土を掛け終わった墓の上に太めの棒を刺しておいた。
『はい、師匠。お酒』
「ったく…。一々酒を手向けてやってたら幾らあっても足りねぇな」
『仕方ないですって。このご時世ですし』
「一端な口聞いてんじゃねぇよ」
こつんと指で額を押され、さっさと歩いて行く比古の後を追った。
ついでに腕に抱きついてみれば、振り払われる事も無く歩いて行く。
だが決してこれは恋人やらとするものではなくて。
言葉にするならば父親と娘のじゃれ合いの様な、…そんな感じで。
大切な人
(……んあ?)
(やっと起きたか、馬鹿弟子)
(あれー?寝てましたぁ?)
(おかげで余計な手間が増えた)
(すんませーん)
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