るろうに剣心
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師匠! あいらぶゆー!
とある女の子がるろうに剣心の世界へトリップして比古清十郎に出会うお話。
「…よう、起きたか」
『………え、っと…』
「偶然通りかかってな」
ついと指された指先を辿り、其処に広がる有様に目を大きく見開いた。
地面に倒れているのは野党ばかりに見えるが、その死体の下に女性のものも数名ある。
だが全く記憶はない。それ以前に自分は先程巨大なトラックに……。
あの時の刹那の恐怖が過り、黒凪は顔を青ざめた。
「目覚めが悪いんで目が覚めるのを待ってた。…動けるか?」
『は、い』
「そりゃあよかった。じゃあな、精々必死に生きろ。なあに、女子の身だ…生きる道は十二分にあるさ」
一緒に、連れてってくれないの?
と、何とも自分勝手な考えが頭を過った。
だが此処は戦乱の世なのだろう、野党に襲われてそこらで人が死んでいるなんて。
自分が依然暮らしていたあの世界程甘くも優しくも無いのだ。
そう考えた時、得体の知れないこの世界に。見た事も無い景色に。
体がぶるりと震えた。
「……あ?」
『…っ、そ、…の』
「…………」
『此処は怖い、です。…連れて行ってください…』
此処、と言う言葉の微かな違いに感付いたのだろう。
目の前で自分に縋りつかれている男は片眉を上げた。
この男は気づいたはずだ。゙この場所゙に恐怖を抱いているのではなぐこの世界゙に恐怖している事を。
男はくるりと振り返るとざっと黒凪の前に膝を折り顔を近づけた。
「お前、名前は?」
『…黒凪、です』
「近場に町がある。そこまでなら連れて行ってやらん事も無い」
微かに目を見開いた黒凪。きゅっと唇を噛み、俯く。
それを見た男は立ち上がり、歩き始めた。
彼はどうあっても一緒に連れて行ってくれる事は無いらしい。
そう理解すると目の前が真っ暗になった様に思えた。
怖い、怖い。……此処は、怖い。
『(恐怖を恐れない、そんな精神を持っていればよかったのに)』
「…ついてこねぇなら俺は知らんぞ」
『(一人は嫌だ。こんな世の中なら、私なんてすぐに…)』
男はため息を吐くと振り返った。
だが、ガタガタと震えている黒凪に微かに目を見開く。
まさかとは思ったが、本当にこの戦乱の世に怯えているのか。
…今更すぎる。訝しげに見ていれば、光を失った双眼で周りを見渡し始めた少女。
黒い瞳が動きを止め、ゆっくりと手を伸ばし始めた。
「!…おい、」
『怖い。…怖い…っ』
「落ち着け」
『っ、…ひっ』
黒凪が見ていた刀を持たせまいと両腕を掴み、自分を見させる男。
だが黒凪は心底怯えた様子で頭を横に振っている。
自分にさえも怯えている様だ。
次第に呼吸さえも覚束なくなり男が黒凪の背中を強めに叩く。
『はっ、う…』
「…お前、今まで何をしていた?」
『……っ、っ』
「……分かった。一緒に来い。」
怯えた様子で自分を見上げてくる少女を持ち上げ、歩き始める。
とてもじゃないが、放っておける筈がない。
此処まで怯えているのだ、自分が見捨てれば確実に死に至る。
それを理解してしまった今、1人の少女を捨て置く事が出来る筈が無かった。
…これで3ヶ月程経っただろうか。
くいと酒を煽っていた男、比古清十郎は目の前で火に掛けられている魚の様子を見る少女に目を移す。
彼女にはこの数か月の間に剣術を教え込んである。
正直な所、自分の暇つぶしの様なものだったが。
だからだろうか、教えている自分にその気が無い事を裏付ける様にあまり成長は著しくは無い。
『…あ。これ食べれます、よー…』
「…なんだ。そっち食え」
『こっちはまだ半分生なのにぃ。酷いですよ師匠』
「俺はお前の師だぞ?先に食うのは俺だと相場が決まってると思うんだがな」
へらっと笑った黒凪はどーだかねぇ…。とそっぽを向いた。
胡坐を掻いている黒凪はクルクルと魚を回す。
本気で教える気などない癖に、と言う事だろう。
と言ってもある程度の腕はある筈だ。やはり教えているのが俺だからな…。
そんな風に考えている事に感付いたのか、黒凪は目を細めて片眉を上げた。
『確かに並よりは上かもしれませんけど?師匠のおかげで』
「女のお前にそれ以上の腕はいらん」
『それ以前にアンタと居る時点で敵無しなんですけどね。』
するとビシッと刀の柄で額を殴られる。
あいたっ、と額を抑える弟子を見てフンと鼻を鳴らす比古。
なんですか。と恨めしげに見上げてくる黒凪に甘えるな、という意味で目を向ける。
その視線を受け止めた黒凪はすぐに目を逸らし、縮こまった。
これから自分が言う言葉を聞くのが心底嫌なのだろう、だが自分も此処は譲れない。
「いつまでも俺が居ると思うなよ。ある程度゙此処゙に慣れたら……」
『嫌だって、…言ってんのに』
「…お前は女なんだぞ?こんな山奥で一生暮らすってのはな…」
まあ、まだ不安定な所があるからもう少し一緒にいる事になるだろうが…。
そんな気休めの様な言葉に顔を上げる事もせず、黒凪は程よく火が通った魚を持ち上げた。
不安定でなくなれば、この人と一緒にいられなくなる。
別に惚れた訳じゃない。だがこの人とずっと一緒にいたかった。
『(嫌いだ。突き放そうとしてくる)』
「………」
『(でも、…数か月面倒を見てくれた、から)』
溢れそうになる涙を必死に抑えながら魚を頬張る。
泣く事だけは未だに1度もしていない。
何かを教えて貰っている身分なのだ、面倒を見て貰っている身分なのだ。
涙を流して迷惑を掛ける事だけは避けていたかった。
…涙を流さないから、この人はこんなに冷たい事を言うのだろうか。
ずっと、一緒にいたい
(ずっとずっと一緒に、と思う事は)
(迷惑な事なのでしょうか。)
(そう、思わせないで)
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