BLEACH
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あなたを犠牲にさせないためだけに。
以前虚化の実験を行ってから110年間ほど、私たちは尸魂界で暗躍し続けていた。
そして今、現世に行っていたルキアが尸魂界に連れ戻され、その処刑日が近づいていた。
「行くぞ、松本。…四十六室に」
『はい』
前隊長、志波一心が現世に行ったっきり戻ってこなくなって、約50年ほど。
それと同時に藍染や他、ギンや東仙などの手引きもあり、私は副隊長のまま、第三席だった日番谷冬獅郎が十番隊隊長となった。
私は彼と接する時、負い目もあったためか原作の松本の様に奔放に接することにしていた。
そしてギンとは、100年ほど表立って会うことはなくなった。
直接2人で言葉は交わさずとも、思いは同じ。目的も同じ。
ただ、私たちは大人になって、言葉を重ねずともお互いを信頼しあうすべを身に着けただけだった。
『なぜ警備が1人もいないのでしょうか…』
「…どうも妙だな。下がれ松本、強行突破する」
そして今、一護たち旅禍の対応に追われる尸魂界の中で、ついに私たちは動き出そうといている。
藍染には時が来るまでは日番谷隊長の部下をしっかり演じるようにと言われていた。
日番谷隊長が四十六室の門を破り、中に入る。
するとそこには惨殺された四十六室の面々が倒れていた。
『(この状態の四十六室を機能させているように見せられるんだから、本当に怖い能力…)』
この四十六室の様子を見て何やら考えに耽っている様子の日番谷隊長。
私は彼の邪魔をしないように、静かに四十六室の様子を観察するにとどめていた。
すると徐にどこかから声をかけられる。
顔を上げると、そこにはギンの部下であり三番隊副隊長の吉良イズルが立っていた。
『(ここも原作通り…)』
「良いんですか日番谷隊長? こんなところにいて。」
「あぁ?」
「雛森君…もうとっくにあなたがかけた結界をすり抜けて…あなたをずっと追いかけていましたよ。」
日番谷隊長が息を飲む。
藍染が殺されたという知らせに隊長を崩している雛森は、日番谷隊長の昔なじみ。
とてもこの場で彼女のことを無視してまで吉良と戦えるはずは、なかった。
「松本…悪い。任せていいか」
『はい。もちろんです。』
「悪いな…」
「では松本さんは僕と一緒に行きましょうか。」
不敵な笑みを浮かべた吉良が走り去っていき、そのあとを追う。
四十六室から離脱する時、私はちらりと再び四十六室の惨劇を見た。
ギンはこんなことにも手を貸して…それでも、私がなくしたものを取り返そうと藍染についていく。
どうしてそこまで。そこまでしてくれなくても、私は幸せなのに。
『待ちなさい、吉良!』
でも、分かっている。
何度それを彼に訴えたところで、ギンはそれでも行ってしまう。
それなら私がギンについていかないと…ギンは一人でどこまでも行ってしまうだろう。
そのためには、こうして藍染に踊らされていないといけない。
四十六室から少し離れた場所で、吉良が足を止めて私に目を向ける。
そのうつろな目に、少し心が痛んだ。
『(吉良には本当に悪いことをした。ここまで精神的に不安定になるほどの負荷をかけて…)』
「松本さんは…僕の斬魄刀の能力を知りませんでしたよね?」
『…そうね。あんたはそういうこと話さないから。』
「そんなことないけど…。まあいいです。教えてあげますよ、松本さんにも。」
そう不敵に言った吉良に目を細める。
今も雛森は藍染に貫かれ、日番谷隊長は藍染、そしてギンと戦うことになる。
そして日番谷隊長が斬られた時、私のこの安い芝居の終止符となる…。
「面を上げろ…侘助」
原作通りに吉良と戦う。
ただ今回違うのは、私の存在だけ。
「では松本さん…悪いですがあなたを斬らせてもらいますよ。命令なので。」
『誰の命令?』
「そりゃあ決まってるじゃないですか。市丸隊長ですよ。」
その言葉に少しだけ笑みをこぼす。
でも決して喜びを表すものではない。
むしろ、自分自身に嘲笑しているようなものだ。
こんなことを吉良にさせて…なんと酷いことか。
吉良が刀を振り上げる。それと同時にギンが私と吉良の間に現れた。
吉良は突然のことに目を最大限に見開き、動きをすぐに止めた。
「た…隊長…?」
「ようやった、イズル。ありがとう。」
『…もう、終わった?』
「うん。終わったで。やっぱりあの子に隊長は任せたらあかんわ。」
そう驚いて言葉も出ない吉良を前に飄々と話すギン。
あの子、というのはうちの隊長のことだろう。
わざと私は副隊長の座にとどまっていたから、それを揶揄しているのだろうが…。
『そういうのは、ここではいいから…』
「せやな。じゃ、行こか。」
私の肩を抱いて、包帯のような布を周りに巡らせる。
これで一気に藍染の…双極の丘へと向かう手筈になっている。
私は刀を収め、自分の肩に回るギンの手に自分の手を重ねた。
『…頼ってくれて、ありがとう』
「…ハハ、こちらこそ。」
そして瞬きをすると、双極の丘についていた。
目の前には東仙に連れてこられたであろう、何が起きたかわかっていない様子の阿散井と、そして藍染の標的である朽木ルキア。
2人の、特にルキアのおびえた表情には心が痛んだ。
「ようこそ。阿散井君。」
「え…、あ、藍染隊長…? それに市丸隊長…、ま、松本さんも…?」
「では…朽木ルキアを置いて下がり給え。」
「っ⁉」
それと同時に四番隊副隊長、虎徹による天挺空羅が私の頭に流れ込んできた。
どうやらギンや藍染、東仙には流れていない…現在裏切り者としてまだ知られていないのは私だけだからだろう。
「どうしたん? 黒凪。」
『…四番隊の天挺空羅が。』
「そうか。」
私の言葉にそうとだけ答えた藍染は、先ほどの彼の言葉に応えようとせず、戦う体制に入った阿散井にゆっくりと歩いて近づいていった。
ここからの展開はきっとそれほど長くはならないだろう。ただ…残酷だ。
私は静かにギンの背中に隠れるようにした。
私は本当にずるい。自分個人の理由で彼らを助けないのに、その結果を目の当たりにする強さすらないのだから。
「よう、恋次…助けに来たぜ。」
「一護…」
藍染の前に黒崎一護が現れる。
しかし彼も、阿散井もすぐに切り伏せられた。
そして何もできないルキアは藍染に捕まり、より一層彼女の顔に恐怖が宿る。
そんなルキアをいつもの穏やかな顔で見つめながら藍染は語り始めた。
「浦原喜助から何も聞いていないとは驚いた。冥土の土産に教えてあげよう。」
崩玉のこと、それを隠した場所がルキアの魂魄であること…。
それをずっと藍染は探していたこと。
ずっと味方だと思っていた浦原さんの真実に戦意喪失しているルキア、そして驚いて固まっている一護、傷が大きく動けない阿散井。
そしてそれをただ黙って眺めているだけの私たち。
藍染の話が終盤に入りかけたとき、その背後に七番隊隊長の狛村が現れる。
原作で見ていた通りの展開に私は目の前に立つギンの服の裾を掴んだ。
ギンが少しだけ振り返り、私に笑みを向ける。
途端に、原作通り狛村は一瞬で藍染によって倒された。
「あっけないなあ、藍染隊長にかかると。九十番台の詠唱破棄であの威力。怖いわあ。」
「いいや、失敗だよ。本来の3分の1の威力も出せていない。」
「朽木さーん!」
「おおっと、また邪魔が。黒凪。」
『わかってる。』
遠くから走ってくる旅禍の一面。
ギンが私の名前を呼んだと同時に、すぐに霊圧で圧力をかけた。
途端にその面々の半分が膝をつき、霊圧に負け崩れ落ちる。
「お前ら…! それ以上こっちにくんな!」
「一護…!」
一護の言葉にそれ以上進むことをしなかった彼らは、ギリギリ私の霊圧で意識を飛ばさずに済んでいるらしい。
阿散井はその霊圧に倒れたまま眉をひそめた。
「(なんだ、この霊圧…! 俺が知ってる松本さんのものなんて比にならねぇ…!)」
阿散井の脳裏に過去に自分が彼女に対して感じたことを思い起こす。
あの奔放な性格と、その霊圧の濃度。阿散井から見ても波の副隊長ほどの実力。
それでなぜ、真央霊術院を1年で卒業した秀才と呼ばれた過去があったのか、不思議に思っていたのだ。
今となったらわかる。あの人は実力を隠していた…!
「さて。では崩玉を頂こうか。」
「っ…!」
「ル、ルキア…!!」
ざしゅ、と鈍い音が背後でする。
私は旅禍の方を見ていたため、その様子を直接見ることはなかった。
しかしその音だけで、藍染がルキアの体から崩玉を取り出したのが容易に想像できる。
「こんな小さなものが崩玉か。」
「っ…」
「それに魂魄は無事とは…素晴らしい技術だ。…さて。ギン」
「はい」
「殺せ」
「はいはい。」
再びルキアの首につけられた首輪に指をかけ、ルキアの体をギンに向けて持ち上げる藍染。
ギンは斬魄刀を抜き、ルキアに向けてその刃を伸ばす。
その時私は迫りくる朽木白夜の霊圧に気づいていた。
しかしわざと…原作通りに進むように彼を進ませた。
霊圧の濃度を上げれば、彼の動きを数秒鈍らせることなんて、容易だったのにだ。
「ん?」
ギンのそんな声がする。
そしてすぐに飛び込んできた朽木白夜に困惑するルキアの声も。
その様子を目に移すことはなくとも、安堵の息を吐いた途端に首元に斬魄刀が突き付けられる。
「残念だよ、松本副隊長。」
『…何のつもりですか、京楽隊長。私、何もしていません。』
「そんな安い嘘はもう効かないよ。…今日は酔っぱらっているわけじゃないからねえ。」
『…そうですよね。この状況を見れば…私がどっち側かなんて、明白ですよね。』
ついに向けられた殺意。
ここで初めて私の心が決まったような気がした。
ちらりとギンに目を向ければ、彼の元には浮竹隊長が行っているようだった。
「すんません藍染隊長。捕まってもた。」
「…」
そして東仙の元には檜佐木が。
彼は東仙へ意識を集中しつつも、私の方に目を向けていた。
彼ともよく酒を飲んだ。京楽隊長とも。
「藍染…もうお主に逃げ場はない。」
藍染に刃を突き付ける夜一がそういった。
しかしその彼女の言葉は現実にはならない。
「すまないが…もう時間だ。」
その藍染の言葉と同時に空にひびが入り、大虚が姿を見せた。
そしてその孔から反膜が降り、私を含めた藍染、ギン、東仙を包み込む。
京楽達はすぐに反膜から逃げるように飛びのき、私たちを睨む。
「大虚と手を組むとは…堕ちたな、藍染」
「最初から誰も天に立ってなどいない…。だが、その耐え難い空の天の座も終わる。これからは私が天に立つ。」
かつて仲間だった彼らの姿を高みから見下ろす様は、少し不思議な気分を私にもたらした。
そして言いようのない不安も、私を襲う。
もう、戻れない。
(…黒凪)
(!)
(顔を上げて見えたその表情に、私は無性に泣きたくなった。)
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