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あなたを犠牲にさせないためだけに。
松本乱菊成り代わりの市丸ギンオチ。
原作通りの結末を必死に回避するお話。
※時系列など多々矛盾がありますが、どうかお楽しみください。
『…ギン』
「うん?」
『それ…』
「ああ…”これ”?」
そう笑って言ったギンの手に握られた死覇装。
私は思わず息を呑んだ。
ああ、ついにこの日が来てしまった。
「ボク、死神になろ思て」
『な、なんで?』
思わず出た言葉。
知ってる。なんで死神になるのか。
全部知っている。
でもこれを回避させるために、今まで気丈にふるまってきたのに…。
「…まあ、なんでもや」
『ギン…!』
そのまま暗がりにまぎれるようにして消えてしまったギン。
しまった。失敗した…?
私は思わずその場で膝をつく。
松本乱菊として転生して早5年ほど経っただろうか。
ギンと出会い、そして原作通りに藍染の部下たちに魂魄を奪われたのが、つい数年前。
転生した時からギンを護ろうと必死だったのに、私はまんまと藍染にしてやられてしまったのだ。
これが1つ目の失敗だった。
『(なのに私、また…⁉)』
じんわりと目に涙が浮かぶ。
前世でこの人気漫画を読んでいた。
アニメもすべて見尽くすほどに大好きな作品だった。
そんな中でも、この松本乱菊と市丸ギンの悲恋だけは、何度見ても心が痛んで…。
どうしてギンがこんな悲しい運命を辿らなければならなかったのかと
ほんの少し原作者を恨んだりもした。
そして今、私はこの世界にやってきた。
これは単なる私の夢なのかもしれない。妄想なのかもしれない。
それでも私は、ギンを助けたい。自分が犠牲になったとしても、絶対に。
あんな悲しい未来だけは、迎えさせたくない。
『…っ』
ぐっと地面の土をえぐるように拳を握りしめる。
私、強くなる。ギンを護れるぐらいに…。
だからギン、私の前から…松本乱菊の前から消えないで。
「…」
『…』
ギンのキョトンとした顔を必死に見ないように目をそらす。
ギンはまさか私が真央霊術院についてくると思っていなかったのだろう。
そりゃあそうだ、私は流魂街で毎日お腹を空かせていて、
戦いに無頓着で、ギンとさえいられれば十分な幸せを感じられるような平和主義だったし。
『(でも、絶対独りにはしない…!確かギンは真央霊術院を1年で卒業した…私もそれに続かないと!)』
「…黒凪、危ないから…今でも遅ない、戻って…」
『イヤ! ぜっっったい、イヤだから!』
「!」
またキョトンとするギン。
確かにびっくりするか…。今までこんなに強くギンに反発したことなかったしね…。
私は未だ私の顔をじーっと穴が開くほどその細い目で見つめるギンに目を向けた。
『ギン、私絶対あんたから離れないから!』
「へ?」
『何があっても、何をしようとしても私を頼ること!』
「でも…黒凪、ちょっと信頼できへんっていうか…」
な、と私の勢いにブレーキがかかる。
た、確かに?
魂魄を根こそぎ藍染に取られた後の私の霊圧はギンにはほんのちょっと及ばないけれども?
それにギンほど鬼道も縛道も剣術も秀でていることもないけれども?
『い、今に見てなさい! 絶対安心させてやるから!』
「うーん…」
『でも、本当にギンが安心できると思ったら…』
「うん?」
『…絶対に私を頼ってね。私は絶対に大丈夫だから。』
「…うん、分かった」
薄く微笑んでギンがそう言った。
そして1年後、私は見事にギンと共に異例の1年間という短い期間で真央霊術院を卒業した。
ギンは早速あの金髪の長髪を携えたちょっと変わり者の隊長がいる三番隊の第三席に。
私は五大貴族の一角、志波家の分家筋出身だという、志波一心隊長率いる十番隊の第三席に就任した。
『(ギンと離れちゃった…)』
「おうおう! なんだそのしかめっ面は⁉」
『きゃあっ⁉』
こ、この人っ!
私の頭を叩いた⁉
こんな松本乱菊の美貌をそのまま引き継いだ美少女の私の頭をっ⁉
涙目で顔を上げると少しキョトンとして、私の上司であり十番隊隊長、志波隊長は笑った。
「なーんだお前!久々に出た有望格ってんで期待してたのにとんだ泣き虫だなあ!背中ガラ空きだったぞ!」
『い、今は色々と考え事をしていたんです!』
「はっはっは、そうか! それにしても、お前と同時期に卒業したもう一人の天才もさっきチラッと見てきたが…」
『!』
霊圧に結構差があるのに、お前頑張ったんだなあ…。
そうしみじみ言われ、私は思わずカチンと来た。
『(魂魄を奪われる前は大体同等…いや、それ以上だったっての!)』
「ありゃあ隊長格は見込める霊圧だった!だがお前はなれても副隊長だな! ハハハッ!」
『デ、デリカシーないです! 酷い!』
「でりかしー?なんだそりゃ?」
ふん!これから数百年後に現世で出来る言葉だよ!
こんなにデリカシーがない隊長の部下になるなんて…最悪!
それから私は次の非番の日に早速偶然休みが重なったギンを団子屋さんに呼び寄せていた。
『酷くない⁉ ギンは隊長格は堅いけど、私はムリだーって言うの!』
「アハハ」
『あははじゃないよ! もー、本当デリカシーない!』
「それ良く言うなあ。そんな言葉あった?」
『これからできるの!」
「アハハ、何やそれ」
相変わらず私が怒ろうと、泣こうと、ほんの少し焦ってはくれるかもしれないけど結局飄々としたままのギン。
もう、と私が膨れていると入り口の方から「おや?」と声がかかった。
途端に私の心臓が口から飛び出そうなぐらい跳ねたのがわかった。
しかしすぐにギンが口元に運んでいた湯飲みをこつん、と机に下したため、はっと意識を戻すことができた。
「噂になっていたよ、君たちのことは。」
「…ああ、これはこれは…。藍染副隊長。」
『こ、こんにちはー…』
「こんにちは。」
にっこりと笑って私のぎこちない挨拶に返す藍染惣右介。
ほんとこの人、先入観なしに見てるとマジで騙される…。
「良かったらご一緒します?」
「それは嬉しいお誘いだね。でも良いのかい?お邪魔じゃないかな。」
「全然。憧れの藍染副隊長と話せる機会なんて、そうそうないですから。なあ?黒凪。」
『…うん。ぜひぜひどうぞ、藍染副隊長。』
穏やかな表情のまま私の隣に座る藍染副隊長。
そう。私の隣に。なんで?
隣に座った途端に、上手く隠された、本当に集中しないとわからないぐらいの微々たる抑えられた霊圧が感じられる。
すでに実力は頭一つ抜けているが、それでも原作開始時ほどの完璧さはまだないらしい藍染惣右介。
まだまだこの膨大な霊圧は完全に隠しきれていないことが分かった。
そして心の奥底にある闇も、かすかに漏れている。
でもそれらを感じ取れる人なんて、ほとんどいないのではないだろうか。
私やギンの様に、最初から疑ってかからないと…。
「君たちは2人とも、たったの1年で真央霊術院を卒業したんだってね」
「いやぁ。偶然ですよ。」
『ええ…必死に勉強していたらいつの間にか卒業していた感じで。』
「ははは。さすがは噂の天才だ。あの真央霊術院での卒業がいつの間にか、か。」
ああ、いえ、そういう意味で言ったのでは…。
そう言った私を見つめる、表面上は優しいまなざし。
私にとっては、いつこの場で斬られても仕方がないと思わせるような怖すぎるまなざし。
だけど、途端に藍染惣右介の目にほんの少し、かすかに私とギンへの興味が見えたような気がした。
きっと私がここまで彼を警戒しているのが不思議なのだろう。
そしてそれは、きっとギンにも向けられている。
だって私たちは…藍染惣右介がこの場所に来た時から、一時も警戒を解いていないから。
「やはり…君たちは少し違うようだね。」
その言葉にちらりとギンを見たとき、私は見た。
ギンがほくそ笑んでいるのを。
それはもう、とても嬉しそうに。
そして私とギンが護廷十三隊に入隊して40数年が経った。
この頃には私はすでに副隊長となっていた。隊長は相変わらずの志波隊長。
ちなみにギンは未だ第三席のまま。あっちの隊長、副隊長も変わらず。
だけど…すぐにそれはひっくり返ることになる。
その時を、私は…いや、私たちは知っている。
ぼーっと資料を眺めながらそんなことを考えていると、前に座っていた志波隊長が資料をまとめ、机に置いた。
「今日はこれぐらいにしておくか。魂魄消失の件もまだ解決してないしなあ。」
『え! もう仕事終わりで良いんですか⁉ やったー!』
「おうおう。つかの間の休息でも楽しめい。…にしても気が抜けなくて困るぜ…つい昨日には死神も忽然と姿を消したらしいしなぁ…」
『え…死神までですか?』
うん。と頷いて腕を組む志波隊長。
さすがにここまでくると色々と心配になってくるよなあ…。
ま、九番隊の隊長、副隊長が向かったしそろそろ原因がわかる頃かと思うが…。
『でも…まさか死神まで消えるなんて。六車隊長と真白ちゃん大丈夫でしょうか。』
「ま、明日まで何もわからなければこのままとはいかねえだろうな。だから明日、隊首会を…」
途端に志波隊長が言葉をとめて、息を飲む。
私も思わず息を飲んだ。
なぜなら、さっきまで話題に上がっていた六車隊長と副隊長の真白ちゃんの霊圧が消えたから。
途端に緊急の隊首会が開かれることとなった。
「ちょっくら行ってくるわ。」
『志波隊長、私も…』
「お前真白とは仲が良いからな…。気持ちはわかるが、待機していてくれ。」
『でも…』
「きっと大丈夫だ。心配すんな。」
ぽんと頭に手を乗せられ、そしてすぐに志波隊長は姿を消した。隊首会へ向かったのだろう。
私は先ほどまで志波隊長に撫でられていた頭に片手をまわし、そのまま自分の手のひらを見る。
その時の私の顔はまったく笑っていなかったことだろう。
『…』
「(虚化の実験として、新しい段階に入ろうと思うんだ。)」
脳裏に昨日の藍染惣右介の言葉がよぎる。
流魂街の魂魄では弱すぎる。それは並みの死神隊士でも同じ…。
ならば、隊長格はどうだろうか。
その藍染の言葉にギンが言った。
いいですねえ、それ。…と。
『(今夜…、もしも三番隊の隊長又は副隊長がこの事件への特務部隊に編成されたときには、確実に始末する)』
それはギンを隊長格へと昇進させるため。
同じく私たちの様に藍染のもとにつく東仙に対しても同じだ。
幸いなことに、最も最初に出動したのが九番隊だった。
すでに東仙は計画通り、九番隊隊長と副隊長を始末したようだ。
私は徐に自分の腕を抱える。
『(大丈夫、大丈夫。原作では真白ちゃんも六車隊長も死んではいなかった。大丈夫。きっと…大丈夫…)』
私の場合は今は心配しなくていい。
志波隊長を始末する必要はない。
なぜなら…藍染は腹心の一人を副隊長に留めておき、より動きやすい駒を手中に収めておきたいから。
このままうまくいけば東仙もギンも藍染も、思惑通りに隊長へと昇格する。
ただ一人、私を除いて。
『(いや、今は自分の心配だ。ギンと共にいるために心を鬼にしないと)』
やがて数十分ほどで志波隊長が戻ってきた。
志波隊長は手短に隊首会の内容を私に伝えてくれた。
現場に向かったのは三番隊隊長、五番隊隊長、七番隊隊長、八番隊副隊長、そして鬼道衆の1人…。
私は原作通りの展開に独り目を伏せる。
「ま、とにかく今夜は休め。心配なのはわかるが、もしもの時のために俺たちがしっかり準備しておかねえとな…」
『はい…。』
そして私は志波隊長に頭を下げ十番隊舎を離れる。
途端に傍に藍染が現れ、私がその藍染の隣に立つギンに笑顔を見せると、3人でその場を離れた。
それから共に虚化した魂魄消失案件始末特務部隊の面々の前に姿を現した。
「なんでや…お前、自分とこの隊長を裏切ったんか…!」
苦し気な五番隊隊長、平子隊長の声がする。
私は地面に倒れる顔なじみの死神たちを見つつ、表情を崩さないようにと必死だった。
同じ副隊長仲間のリサやひよりも地面に伏している。
『(リサ…真白…それにひよりも…)』
「彼は裏切ったのではありませんよ…平子隊長」
「! 藍染…」
「彼は僕の命令に忠実に従っただけ…。彼を責めないであげてください。」
平子隊長の鋭い眼光が藍染を貫く。
やっぱりお前やったか…とつぶやいた彼に、藍染は少し微笑んだ。
「気づかれていましたか。さすがですね。」
「当たり前や…、俺はなぁ、お前をずぅっと信用できへんと思っとった…ずっとや…」
だから俺はお前を監視するために…うちの隊の副隊長にしたんや…!
苦しそうに吐かれるその言葉に思わず目を伏せる。
それでも私の前に立つ藍染惣右介はうすら笑みさえ浮かべて言った。
「感謝していますよ、平子隊長。あなたが僕を深く疑っていたことで…気づかれなかった。」
「やから…気づいとった言うてるやろが…!」
「いいえ。あなたは気づいていなかった。…現に、この1月あなたの後ろを歩いていた人物が僕ではないことに気づいていなかったでしょう?」
「な…!」
あなたのその疑念深さはまさに理想的だった…。
故に、あなたは僕を深く知ることもなく、偽物にさえ気づくことはなかった。
あなたは他の隊士たちに謝罪すべきかもしれない。
あなたのその慎重さが僕にまんまと暗躍を許し…、仲間を傷つけた。
「っ、藍染…!」
力を振り絞り立ち上がる平子隊長。
途端に彼の口から虚化の進攻を表す白い液体が吐き出され、左側の顔面に吸いつくようにくっついていく。
そしてそれは虚の仮面のようなものを形どって言った。
「く、お、俺もかぁ…!」
そして同時に地面に横たわるほかの隊士たちにも同じ症状が起こり始める。
平子隊長は焦ったように皆の様子を見渡していた。
「な、何やこれはァ…!藍染!」
「ふむ…やはり興奮状態にあると虚化の進行は早まるようだ…」
「っ、虚化やと…⁉」
「…さて。もう十分そうだね。サンプルは十分集まった。要、そして黒凪」
びく、と私の肩が跳ねる。
「全員の息の根を止めてくれるかな。」
「はい。」
『…はい。』
私と東仙が刀を抜く。
その様子を、虚の意識と葛藤する中で睨む平子隊長。
ふと、平子隊長と目が合った。
「副隊長ももう1人…加担しとったんか…」
『…』
私は何も言えず、目をそらすだけ。
刀を構える。
そんな中でも私はただただ祈っていた。
早く、早く。浦原さん。早く来てください。
私はこの人たちを斬りたくはない。
『唸れ、灰猫…』
刀身が灰になり、倒れている隊士たちの元へ。
あとは刀を振れば、簡単に彼らの喉笛は切り裂けるだろう。
刀を持ち上げる。途端にものすごい勢いで私に迫る気配に動きを止めた。
そして振り返ると同時にギンが私の前に出て、浦原さんの刀を受け止めた。
『…』
ギンに攻撃を受け止められ、飛びのいだ浦原さん。
それを見た私とギンはほぼ同時に刀を収めた。
これもすべて、藍染の思惑通り。
「では戻ろうか。十分な成果は得られたことだしね。」
藍染の言葉に東仙もその刀を収め、何も言わずに彼についていく。
もちろんそのままやすやすと私たちを逃がす浦原さんや、彼と共に来た鬼道衆総帥ではない。
しかし彼らの攻撃もやすやすと藍染に止められ、私たちは拍子抜けするほど簡単にその場から離脱した。
その後も藍染の思惑通りに、全てが怖いほどスムーズに進んだ。
それは原作通りに進んでいるということでもある。
浦原さんは私たちの罪を被る形になり、絶体絶命の彼を四楓院隊長が救出、そして虚化した隊士たちもろとも彼らは現世に身を隠した。
私は何もできなかった。…ただ、藍染の腹心として暗躍することに成功はした結果になった。
「黒凪…怖ないか?」
『うん?』
「後悔してへん?」
『…後悔はしてない。約束したでしょ。一緒に奪われたものを取り戻すって。』
「…」
『”2人で”。絶対に取り戻そうね。』
「…うん」
だから絶対に、独りにはならないで。
(そんな私の言葉にギンはいつも嬉しそうに)
(そしてどこか悲しそうに笑う)
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