犬夜叉
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貴方たちのために、堕ちる
かつて桔梗と並び称された巫女が蛮骨に恋をした。
そんなお話です。
瞼を持ち上げる。最初のうちは瞼の開き方を忘れたように、とても持ち上がる気配などなかったけれど。
ゆるりと視線を巡らせれば、木で出来た祠の様なものの中に入っている事が分かる。
そして自分の体に目を落とせば、体中にはまるで包帯の様に何枚もの札が体を拘束している。
『(――――随分と時間を掛けてしまった)』
ぐっと眉を潜め体に力を籠める。
同時にパアンと音が響き札が破れその場に散った。
そして祠を力任せに蹴りつけ微かに驚いた様に己の手を握って見せる。
「数十年少し寝ていたにしては体が自由に動く」そう呟くと祠から体を出した。
『何年も、何年も考えていた』
「―――!し、師匠さまっ!」
『あれは――夢ではないのだと』
「ほ、祠が…!?」
腰を抜かした様に倒れ込んだ老人。
彼に目を移した黒凪は掠れた声でこう言った。
「ご老人、馬を貸しては頂けぬか」
断る事を許さない目に、コクコクと頭を振った老人は連れていた馬を渡した。
今になって、彼等に未練はないと言えば嘘になる。
だが、もう諦めは付いている。
黒凪は馬を走らせた。己を封印した巫女"桔梗"の元へ向かう為に。
「あ、やっと村だ…」
「ケッ。人間の匂いがプンプンしてらぁ」
「そりゃそうでしょ村なんだから。」
長い事山の中を歩いていた犬夜叉一行は見えた村に安堵した様に息を吐いた。
その様子を陰から見ていた人影は背に持っていた弓矢を構え、自転車を押しながら道を歩く少女に矢を向ける。
目を細めた人影は弓を放ち、風を切る音に反応した犬夜叉がかごめを抱えて飛び退いた。
すぐさま矢が放たれた方向を睨む珊瑚、弥勒、七宝、雲母。
それを見た人影が徐に草むらの中から姿を現した。
『…珍妙な格好をする様になったのだな、桔梗』
「桔梗…?」
「テメェ、桔梗を知ってんのか!?」
『…半妖か。貴様堕ちたな?桔梗』
そう言って矢を構え、放つ。
かなりの濃度がある霊力を籠められた矢に目を見開いた犬夜叉は再び矢を避けた。
続けざまに放たれた矢を次は珊瑚が飛来骨で受け止める。
微かに眉を寄せた黒凪は弓矢を一旦降ろした。
するとその様子に目を付けた犬夜叉がすぐさま刀を持ち上げ、黒凪に向かって振り降ろす。
『!』
「あ、ちょ…殺しちゃ駄目だからね!?」
「分かってらぁ!」
『甘い事を』
そうとだけ言った黒凪は喉元に着き付けられた刀に見向きもせず矢を手に持った。
そのまま振りかざされた矢に再び霊力が籠められる。
チッと舌を打った犬夜叉は飛び退き、珊瑚と弥勒を見る。
頷いた2人は黒凪を抑えに掛かった。
2人が人間だと気付いた黒凪は再び矢を振り上げるが、2人掛かりで押さえつけられる。
『っ、』
「大人しくしてください、っと」
『…離せ。貴様等など、』
「……ねぇ、」
もがく黒凪の目の前にしゃがみ込んだかごめ。
此方を覗き込む顔をじっと見た黒凪は目を見開き、体の力を抜く。
突然ぐったりと力を抜いた黒凪に驚いた珊瑚と弥勒は顔を見合わせた。
『…そうか、桔梗は死んだか』
「え、」
『貴様、桔梗の生まれ変わりだな?』
「!」
黒凪の言葉に犬夜叉が眉を寄せる。
自分でも他人だと思ったのに、何故そう確信したのか。
そんな犬夜叉の目を見た黒凪はかごめを見上げ、目を細める。
魂が全く同じだ。霊力さえも。
間違える筈が無い……。
「…貴方と桔梗は、一体どういう…?」
『……私は桔梗に封印された者だ』
「封印、って」
「…どう見ても人間の女子じゃが…。しかも巫女じゃ」
七宝が黒凪を見てそう言い、犬夜叉を見上げる。
かごめや弥勒、珊瑚も彼を見上げた。
桔梗に封印されたと言えば犬夜叉だ。
犬夜叉は微かに眉を寄せ、黒凪の顔を覗き込む様にしゃがみ込んだ。
「見た事ねぇ顔だ」そう言った犬夜叉に再び黒凪の顔を覗き込む。
『…離せ』
「あ?」
『もう攻撃はしない』
「……桔梗に封印されたって事は、どうせロクな事…」
犬夜叉がそう言っている間にも「そう言うなら」と離す珊瑚と弥勒。
おい!と犬夜叉が睨む中、黒凪は静かに地面に座った。
そして静かに頭を下げる。
その様子を見たかごめ達はぎょっとした。
『すまなかった。勘違いとはいえ、命を奪いかけて』
「え、あ、いや…」
「…それより、アンタと桔梗の関係は?」
「そ、そうそう!それが一番気になるわ!」
空気を変える様にそう言ったかごめに顔を上げる黒凪。
改めて見た彼女の顔はとても端正で、色白い。
雰囲気は桔梗に似ていて、気軽に話す様なタイプではない様だ。
黒凪は静かに口を開いた。
『私は東国を護っていた巫女だ。名は黒凪』
「黒凪…」
「…聞いた事がある。東国で名を馳せた強力な力を持つ巫女。確か名前は黒凪だった筈だ」
「でも、どうしてそんな貴方が桔梗に…?」
逆恨み、なんて事は無いと思うし。
知った風にそう言ったかごめを見る黒凪。
かごめは黒凪と目が合うと少し困った様に眉を下げた。
無表情でかごめを見ていた黒凪は徐に目を逸らすと目を伏せる。
脳裏に彼等の背中が過った。
『人を殺した』
「!」
『それも大勢を』
「んなこったろうと思ったぜ」
そう言った犬夜叉に微妙な反応を返すかごめ達。
黙りこくった黒凪にかごめと犬夜叉が顔を見合わせた。
犬夜叉が徐に黒凪を睨みながら口を開く。
「結局テメェの逆恨みじゃねぇか」
そう吐き捨てた犬夜叉を見上げ、睨み返す。
『桔梗も桔梗だ。あの女、今まで私を恐れ対峙する事は無かったものを…』
「アイツがビビるか?テメェなんぞに」
『…桔梗が恐れていたのは私の仲間さ』
「仲間ぁ?」
頷いた黒凪が口を開こうとした時、胸元に走った激痛に眉を寄せる。
突然顔色を変えた彼女に驚いたかごめが黒凪の顔を覗き込んだ。
大丈夫?と声を掛けたかごめを一瞬だけ見た黒凪はそのままふらりと倒れてしまう。
眉を寄せた珊瑚が男性陣に「向こう見てな」と声を掛けて胸元を覗き込んだ。
そこには黒く焦げた札が一枚だけある。
「…封印の1つかな」
「多分ね。今死んだみたいだけど…」
「……犬夜叉、」
「あ? 運ばねーぞそんな女」
お願い、と両手を合わせるかごめ。
その様子を数秒程見ていた犬夜叉は息を吐いて黒凪に手を伸ばした。
胸元から落ちた黒く焦げた札。
そこからは微かに桔梗の気配がして、犬夜叉は眉を下げる。
《黒凪!貴様は此処で私が葬る!!》
《何を言う桔梗。私を貴様が殺せるとでも?》
《人の命を奪い…、その事に何も感じない貴様になど負けはしない!》
キリ、と弓を引いてそう言った桔梗。
桔梗を睨む様に見た黒凪も徐に弓を構える。
同時に弓を放った2人。
同等の霊力がぶつかり合い、凄まじい突風が吹いた。
眉を寄せた黒凪は素早く矢を取り出すと再び土煙の中に放つ。
《(視界が悪い、やはり当たらぬか)》
《…黒凪》
《なんだ、桔梗》
悪い視界の中、周りを見渡しながら返事を返す黒凪。
一方桔梗は黒凪同様に弓を構えながら再び口を開いた。
脳裏に黒凪の背中が浮かぶ。
一度だけ、東国の武士達に連れられて私が居た村に来た事があった。
見かけた時は自分と同等の霊力を持つ彼女に目を引かれた。
年齢も随分近いようだったし、その上美しかった。
《…何故貴方は道を違えてしまったのか…、》
《違えてなどいない。…私は選んだ道に後悔など無いのだから》
《いや、貴方は後悔するべきだ》
即答した桔梗の言葉に一瞬動きを止めた黒凪。
その瞬間、土煙が晴れ桔梗が矢を放った。
胸元のど真ん中に突き刺さった矢から霊力がぶわりと広がる。
その事に黒凪が目を見開いている間に桔梗が胸元から無数の札を取り出した。
札を空に向けて放り、霊力を籠める為に目を閉じる。
すると札は瞬く間に黒凪の身体に張り付き、黒凪が倒れ込んだ。
《っ、く…》
《あのような盗賊に心を奪われ、我を見失ってしまった…》
《我を見失っただと、馬鹿な事を言うな!私は正気だ!彼等を侮辱する事は許さん!》
《……。貴方は実力ある巫女だった。…安らかに眠れ》
手を顔の前に翳される。
徐々に瞼が重くなっていった。
眉を寄せた黒凪は最後の足掻きだと言う様に少し動き、桔梗を睨み上げる。
桔梗の片目から涙が零れた。
『―――!』
「あ、起きたみたいだね」
「良かった、顔色も良くなってる…」
『…桔梗』
かごめを虚ろな目で見た黒凪。
彼女の言葉に側に居た犬夜叉と弥勒が顔を見合わせた。
まだ多少血色の悪い黒凪の手がかごめに伸ばされる。
少し躊躇したかごめだったが、その手を両手で包み込んだ。
『お前、何故あの時泣いて…』
「…泣いてた?桔梗が…?」
『何故殺さなかった、貴様の封印など数十年あれば…』
そうとだけ言って再びパタリと意識を失った黒凪。
顔を見合わせた犬夜叉一行。
桔梗が泣いていた。その上殺さずに封印だけを。
…まるで犬夜叉の時と同じ。
そう思ったのはかごめだけでは無いようだった。
「…今の話を聞いていると、どうも桔梗様と黒凪様は親しい間柄だったようですね」
「確かに…。でも黒凪の話し方だったらまるで桔梗の一方通行みたいな、」
「うん。そんな気がするね」
「……ケッ」
立ち上がり、小屋から出て行った犬夜叉。
彼を見たかごめは徐に立ち上がり、同様に小屋を出る。
すぐ側で座っている犬夜叉を見たかごめは隣にすとんと座った。
犬夜叉はチラリとかごめを見ると再び前方に目を移す。
「…黒凪の事、本当に見た事が無いの?」
「知らねーよ。…いや、……?」
一人首を傾げる犬夜叉の顔を覗き込んだかごめ。
犬夜叉は昔の記憶を辿る様に右上を見上げた。
脳裏に一瞬映る少女の姿。
黒凪と同じ顔の巫女の、無表情な顔。
その側に居る桔梗。
「……知ってる?」
「え?」
「…アイツの顔、」
立ち上がった犬夜叉は小屋に入り込み、中に視線を巡らせる。
黒凪はあれからすぐに目覚めたのか、ぼーっと座っていた。
犬夜叉は黒凪の側に寄ると彼女の顔を覗き込んだ。
黒凪の目がゆっくりと犬夜叉に向かう。
《――…半妖か》
《お待ちください、黒凪殿》
《…誰だよ桔梗。その女は…》
ハッと目を見開いた犬夜叉。
黒凪はそんな犬夜叉を見て微かに眉を寄せた。
覚えてねぇのか?と次は眉を寄せて黒凪を見る犬夜叉。
そんな犬夜叉にかごめが助けを求める様に弥勒と珊瑚を見た。
「…犬夜叉? 黒凪様を知っているのか?」
「……あぁ…。昔村で会った事がある。桔梗と一緒に、」
『? ……、いや、私に覚えはない』
黒凪の言葉に更に眉を寄せた犬夜叉。
黒凪は髪をくしゃりと掴み、目を伏せる。
脳裏に過った銀髪にハッと目を見開いた黒凪は犬夜叉を見た。
至近距離で見つめ合う2人。
『…思い出した、お前あの時の半妖か』
「やっぱりあの巫女は…」
「ちょ、ちょっと待って。って事は黒凪はもう50年近くも封印されてたって事…?」
『…あぁ、そうなる。』
うわー…、と眉を下げた弥勒、珊瑚、七宝。
封印の所為か容姿は全く変わっていない黒凪。
かごめは少し眉を寄せた。
まるで、そう言って口を開いたかごめに全員の目が向く。
「…まるで、反省させる為に閉じ込めてたみたい…」
『…何?』
「きっと桔梗は、その…黒凪の仲間?と会えなくするつもりだったんじゃ…。」
ただそれだけだったんじゃないかな。
そう言ったかごめに眉を寄せた黒凪。
黒凪の脳裏に桔梗の言葉が過った。
――貴様は此処で葬る。
目を伏せた黒凪はため息を吐いた。
『…桔梗は私と彼等の関係を良くは思っていなかったからな』
「彼等?」
「…アンタの仲間って、一体…」
『それは―――』
ギャアアア!と図太い大勢の男の叫び声が響いた。
此処は村の外れに有った小屋。
村から外れた道端で何かがあったのか、と立ち上がる犬夜叉達。
黒凪も徐に立ち上がり、弓矢を持つ。
気配を消して小屋から出た犬夜叉達は目の前に広がった光景に眉を寄せた。
大量の男達が倒れていたのだ。そしてその真ん中に人影が1人。
「な、んだこれは…」
「酷い…、」
「…アイツがやったみてぇだな」
全員の目が倒れた男達の中心に居る人に向かう。
黒凪はその後ろ姿に少し眉を寄せた。
人影は銃を物珍しげに覗き込み、転がった武器を漁る様にしゃがみ込んでいる。
かごめはその様子を見てゾクリとすると側の犬夜叉の着物の袖を掴んだ。
「もしかして、あれが七人塚の亡霊じゃ…」
『七人塚?』
「うん。そこに葬られた亡霊が現れたって村人が…」
『……まさか』
顔色を変えた黒凪に「ん?」と振り返る犬夜叉達。
するとやっと犬夜叉達の気配に気づいたのか、人影が顔を上げた。
人影は黒凪を見ると微かに目を見開き、そして眉を寄せる。
ぶわ、と溢れ出した殺気に犬夜叉達がすぐさまその人影に目を向けた。
「…お?」
「あ?」
犬夜叉を見て顔色を変えた人影。
恐らく男、なのだろうが女物の着物を着ている。
背中には大きな刀が1つ。
男は立ち上がると嬉しげに犬夜叉を見た。
「お前犬夜叉か?」
「!」
「…念のため訊くが…。知り合いか?」
「知らねぇ」
でしょうな。そう言って錫杖を構える弥勒。
男は犬夜叉の耳を見ると更に笑みを深める。
その様子にかごめも眉を寄せ、珊瑚が飛来骨を持ち上げる。
雲母も少し唸り、七宝はかごめの足にくっついた。
「かーわいいなぁ、その耳!」
「耳?」
「犬夜叉の?」
「いいなぁ、ソレ。……くれよ」
声を低くして言った男。
彼から殺気が更に溢れ出した。
その様子を見ていた黒凪はぽろ、と零れた涙を拭い、一歩下がる。
゙アイヅは昔から気になった物を見つけると他の事が目に付かなくなる。
きっと今、私の姿は彼の視界に入ってはいないだろう。
『(今死ねば、会えなくなる)』
……彼に。
脳裏に愛しい男の姿が浮かんだ。
彼は蛮骨に会う為の手がかりだ。
もしもの時は、私が手を貸そう。
そう心の中で呟いて、男を見る。
彼の名は蛇骨。蛮骨の仲間だった男だ。
「―――お前、一体何モンだ?」
「あー?」
「お前からは死人と墓土の匂いしかしねーんだよ。…村の連中が噂してたぜ。墓から出て来た迷惑な亡霊が居るってなぁ!」
「失礼だなぁ…、…ちゃんと蘇ってるよ」
その言葉と同時に振り上げられた刀。
刀身が蛇の様に動き、目を見開いた犬夜叉はかごめを連れて回避した。
かごめは地面を抉った刀を目で追い、再び男を見る。
男の首元に淡い桃色の光が見えた。
「あいつ、四魂のかけらを持ってる!」
「何!?」
「じゃあ七人隊ってのは四魂のかけらの力で蘇ったって事?」
『!』
珊瑚の言葉に目を見開き、脳裏に桃色の玉が過った。
桔梗が護っていた玉。確か四魂の玉と言ったか。
…それのかけら、なのか?
その力で蘇ったとしたなら、…そのかけらを取られてしまったら彼等は。
ゾクリとした。折角蘇ったのに、また居なくなってしまう。
『(どうする?)』
「黒凪、危ないから私達は向こうに…」
『!』
「…黒凪?」
すぐ側で男と戦う犬夜叉。
そんな犬夜叉をサポートする珊瑚と弥勒。
黒凪はかごめをじっと凝視した。
桔梗と瓜二つの顔。
迷っている私を咎めるような、そんな。
「ぐっ!」
「犬夜叉!?」
「なんだ、あの刀は!」
「!…早く後ろに…っ」
ぐいと手を引くかごめだが、黒凪は動かない。
黒凪…!と切羽詰まった様に言うかごめ。
そんな時、男の声が2人の耳に届いた。
男の手にある刀が不自然に曲がり、伸びる。
「これが七人隊の斬り込み隊長、蛇骨様の蛇骨刀だ!面白れぇだろ!」
「っ、この…、ぐあっ!」
「何なんだあの刀、防ぎようがない!」
ブン、と飛来骨を投げた音が響く。
黒凪の頬に涙が伝った。
蛇骨。やっぱりあの男は蛇骨なのだ。
死んだ事を風の噂で聞いた。
七人隊の事は隠して屋敷に入り込めば、彼等の首が見世物の様に並んでいた。
「…黒凪、」
『……すまないな、桔梗』
「え?」
『かごめ、離れろ』
ぶわりと溢れだした邪気にかごめが大きく目を見開き、すぐさま離れた。
邪気に気付いた珊瑚、弥勒、犬夜叉も振り返る。
黒凪はゆっくりと蛇骨を見た。
蛇骨は大きく目を見開き、刀を肩に担いだ。
「……相変わらずすっげぇ邪気だなぁ。ホントに巫女だったのかよ?」
『今でも巫女だよ。ただ、お前達の事となれば私は鬼にもなる』
「蛮骨の大兄貴の事となれば、だろ?」
小さく笑った黒凪。
親しげに話す2人を交互に見た犬夜叉は目付きを鋭くさせ、黒凪の肩をガッと掴んだ。
黒凪は犬夜叉を見上げ、霊力を犬夜叉本人に流し込む。
思わず手を離した犬夜叉。そんな犬夜叉と黒凪の間に蛇骨刀の刀身が入り込んだ。
「おーい。来るなら早く来いよ」
『ああ』
「…そう言う事かよ。お前の仲間って七人隊だったのか、黒凪!」
『そうだ。…桔梗が私を止めた理由が分かったか?』
ああ、分かったぜ。やっぱりアイツは間違ってなかった。
そう言った犬夜叉に目を細める黒凪。
倒れた男達の元へ行き、弓を拾った黒凪は矢を犬夜叉に向ける。
矢に徐々にかなりの霊力が籠められ始めた。
その霊力を感じ取った犬夜叉は本能で危ないと感じたのか、彼の頬を汗が伝う。
「はは。こいつのおかげで俺等は妖怪にも負けなしだったんだぜ?気に食わねぇけど。」
『…蛇骨。戦いの時だけ私を持ち上げるのはもう止めたらどうだ』
「良いだろ別に。妖怪との戦いの時だけは役に立ってたんだからよ」
それにあんまりお前の事貶してたら…。
そこまで言った蛇骨が此方に迫る犬夜叉に目を向けた。
蛇骨刀を振り上げ、刃が犬夜叉に向かう。
やはり犬夜叉は刃を避けきれず腕に傷を負った。
「…良いねぇ、その顔。もっと見たくなっちまうなぁ…」
「チッ、気持ち悪ぃ奴だな…!」
「飛来骨!」
「!」
珊瑚の声に蛇骨刀を振り降ろす蛇骨。
蛇骨刀に飛来骨が絡まり、がしゃんと刀身が地面に落ちる。
チッと舌を打った蛇骨は再び刀を振り上げ、飛来骨を器用に珊瑚に撃ち返した。
それと同時に珊瑚にも刃が直撃し、短い彼女のうめき声が聞こえる。
「珊瑚ちゃん!」
「…テメェ!」
「おっと、」
迫る犬夜叉の刀を避けた蛇骨。
黒凪は放たれたかごめの矢に気付くと矢を放ち、迎撃した。
ぶつかり合う矢。邪気も持つ黒凪の矢はかごめに弾かれる。
それを見た黒凪は一旦息を吐き、目を閉じた。
迫る矢。それを黒凪は片手で掴み取る。
『っ、』
「矢を手で…!」
「さっきの矢で勢いを殺して掴み取ったんじゃ!」
「しかもアイツ、一瞬邪気を抑え込んだよね」
邪気を抑え込んだからこそ破魔の矢を掴み取る事が出来た。
器用な事をいともあっさりとやり切る黒凪にかごめ達の表情が曇る。
面倒だ。妖怪に効くかなりの霊力。
その霊力は同じく霊力を持つかごめの武器さえも封じてしまう。
…巫女が敵である事はそれほど面倒な事なのだ。しかも彼女は完全に邪悪なわけでは無い。
『…蛇骨。どうする』
「んあ?斬るけど。」
『斬れるのか?』
「余裕余裕。面白れぇからまだ斬らねぇけど。」
蛇骨の軽口に犬夜叉が眉を寄せた。
それと同時だろうか、道の脇から黒い煙が舞い込んで来たのは。
この煙は見た事がある。霧骨の毒煙だ。
迫る煙におっとっと、と走り出した蛇骨は黒凪を肩に担いだ。
「じゃあな犬夜叉ー!お前も逃げろよー?」
「な、テメェ!」
「犬夜叉!毒煙だ、早くこっちに!」
舌を打った犬夜叉は弥勒の言葉に素直に従い、かごめ達の元へ。
一方黒凪は己を担いで走る蛇骨の肩を叩いた。
振り返った蛇骨は黒凪を地面におろし、ぐっと体を伸ばす。
そしてチラリと黒凪を見た。
「…ケッ、なんだよお前。てっきり50年も経ってるからババアになってると思ってたのによー」
『それは悪かったな。…お前達が殺された後に封印されたんだよ』
「くく、巫女様が聞いて呆れるな」
『あぁ。…だが結果は良い方向に転んだ』
黒凪の言葉にむっと眉を寄せる蛇骨。
彼はそっぽを向くとぼそりと「俺は良くねぇケド。」と呟いた。
恐らく蛮骨と会わせたくないのだろう。
が、蛮骨の恐ろしさを身を持って知っている蛇骨の事だ。
秘密裏に黒凪を退けたり殺す事は決してないだろう。
「(昔っから蛮骨の大兄貴は黒凪の事となると煩かったからなぁ…)」
「…お、来たな?蛇骨。…黒凪も一緒かぁ」
「その気持ち悪いしゃべり方止めろよ霧骨。黒凪も嫌だって顔に書いてるぜ?」
「そりゃあ悪かったな…。久々にアンタの顔見るもんでよぉ」
にへら、と笑う霧骨から徐に目を逸らす黒凪。
七人隊と共に行動している時からねっとりとした視線は感じていた。
蛮骨が居るから直接手を出して来る事は無かったが、見られている様な感覚はずっと感じていたのを覚えている。
すると頭上でヴヴヴ、と虫の羽音が鳴った。
「?…なんだ、気持ち悪い虫だな…」
「…お、犬夜叉が俺を追って一人でこっちに向かってる!?マジかぁ!?」
「嬉しそうだな蛇骨よ…。ならそっちは任せて良いのか?」
「おうよ!四魂のかけらはお前にやるから人間の方は頼むぜ」
良いのか?なら遠慮なく…。
そう言って笑った霧骨にひらひらと手を振る蛇骨。
蛇骨が歩きだし、黒凪は霧骨と蛇骨を交互に見た。
霧骨か蛇骨と共に行けと命令されれば、迷わず蛇骨を選ぶ。
ついてこない黒凪に気が付いた蛇骨は振り返った。
「来ねぇのか?」
『!…行く』
「なら早く来いよ。お前を放って行ったら蛮骨の大兄貴がうるせぇからなぁ…」
昔、女嫌いの蛇骨が黒凪と共に行動していて彼女を放って帰った事がある。
その時は蛮骨が怒り狂い、蛇骨をボッコボコにし黒凪を迎えに行かせた。
それ以来蛇骨は黒凪を無下に扱う事は無くなった。
よほど怖い目にあったらしい。彼の女嫌いがナリを潜めているのだから。
何処かに居るのだ
(今、この世界の何処かに)
(逢いてぇなあ…)
(早く、アイツに。)
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