鬼滅の刃
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心を解かす、言葉
それから俺は毎日のように女の元を訪ねるようになった。
その過程で分かったことは、女は天霧黒凪(あまぎり くろな)という名前であるということ。
元は西の方に住んでいたというが、住んでいた場所を追われ、やがてこの人里離れた森の中へと逃げ込んだ。ということらしい。
女は初めは無口だった俺に向かって飽きもせずニコニコ微笑み、何をするでもなく傍に居座った俺に色々なことを話してくれた。
『私の一族…天霧一族は元々身体が特に丈夫で、私はこれでも力持ちなのよ?』
「へえ…」
自分の腕と、その細く白い腕を見比べる。
彼女が言うような風には見えない。きっと里に住んでいた他の女たちと比べて力持ち、ということだろう。
『天元君は?』
「…俺は…」
彼女、黒凪は俺を天元”君”と呼ぶ。
そんな風に呼ぶのは彼女だけで、何処かむず痒い。
だがそれを訂正する事ではないということで、結局そのままになっている。
「元は、9人兄弟だった。そのうちの3人はもう…」
『そう…。由緒正しい忍びのご家系なのね。』
「…由緒正しい、か。どうだろうな…。」
『…。』
幼い子供を殺すような過酷な修行が由緒正しい?
心を殺し、人を殺める者が?
俺の言わんとしていることを察したのか、俺の頭に彼女の手が乗せられた。
『時代はね、変わっていくものよ。』
「?」
『きっと貴方の一族の中では、貴方がそうなのね。』
それが良いものか、悪いものかは分からないけれど…。私は好き。
微笑んで、静かにそう言った彼女に目を伏せる。
一族を抜ければ、こうして心地よいところにずっといられるのだろうか?
そんなことを考える。
—―と、そんな時。
『…。』
すう、と彼女の視線が森へと動いた。
そして傍に置いていた日本刀に手を伸ばし、息を殺す。
同時に俺も何かの気配を察し、身体を起こした。
ゆっくり、ゆっくりと彼女の左手が刀を腰のあたりまで持ち上げて、右手がその柄に添えられる。
「稀血の良い匂いだ…」
『(着物は洗ってあるのに…この鬼、鼻が良いのね…)』
「(稀血?)」
草木の影から異形の姿をした、なんだ? 人か…?
俺は混乱した。今まで見たことのない何かが、そこに立っている。
そのせいで、反応が遅れた。
その存在が一気に黒凪目掛けて飛びかかってきたのだ。
はっと黒凪に目を向けた時、俺はまたしても驚き、反応を遅らせてしまう。
『…』
彼女の髪が根本から白く染まり、瞳の色が金色に染まっていく。
それと同じタイミングで刀が振り抜かれ、その一撃で異形の存在の首を切り落とした。
首をなくした体が崩れ落ち、首だけが鈍い音を立てて地面に落ち、転がっていく。
「っ、て、てめえ…」
身体をなくした頭が黒凪を睨みつけ、低い声を上げた。
「てめぇ、鬼じゃねえか!」
『…』
「こんの、負け犬が! 俺の、俺の首をォ――!」
鬼? 今彼女を鬼と呼んだのか、この異形は?
そして負け犬、とも。
しかし黒凪は全く動じる気配もなく、刀を収め、静かに俺に目を向けた。
『…そろそろ朝になるわね。』
「! あ、あぁ…」
『じゃあ、おうちに帰りなさい。』
穏やかにそう言った黒凪に何も言えず、ちらりと地面に転がったまま恨み節を唱える異形の存在に目を向ける。
そして再び黒凪に目を向け、その額の角と、白髪と、そして金色の瞳を見た。
『さあ。』
「分か、った…。」
結局何も言えず、里へ向かって走り出した。
そしてもう一度だけ黒凪を振りかえると、彼女はいつものように笑顔で俺に手を振っていた。
鬼
(あの異形は、私たちの一族から生まれたものだと両親から聞いた。)
(そしてあれらは、私たち “鬼” の住処を奪い、自らが ”鬼” だと。そう、風潮し始めたのだと。)
(それから私たちは “鬼” でもなくなって、それはまさに、負け犬と言ってそん色ないのだろう。)
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