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触れられて巡る予感
from the theme of, きっかけの恋のお題 [バツ印の使い方]
何となく分かってた気がしたんだよ。
頬に触れられた瞬間、俺はコイツを好きになるって。
そう、あの時。1年前のあの時。
俺の頬に触れたアイツの手は、滅茶苦茶冷たかった。
「なあ、お前結構俺の事好きだろ」
『は?』
ギロ、と自分に向いた双眼に「かっかっか」と笑いながら返してやれば、更に眼光が鋭くなった。
生徒会室の、生徒会長である俺の席。
その席の上に座る俺とその俺の上に座る彼女。
普段はよく椿が「なんでそんな状況になってるんですか!」なんて煩いが、今日は授業のサボり中だからいない。
「なあなあ、そうだろ?」
『煩い。黙れ』
「つれねぇなあ。」
『逆になんでそう言う発想になる』
黒凪の言葉にフッと笑い、彼女の腹部に腕を回す。
ぎゅ、と抱きしめてみるが、彼女は特に何も抵抗はしなかった。
ほら。俺に触らせるじゃねぇか。その言葉を飲み込んで、口を開く。
「だってお前いつも俺の所来るじゃん」と言ってみた。
反論できない事を言ってやったつもりだ。だって実際そうだから。
案の定彼女は黙った。
『……居心地が良いんだよ』
「かっかっか。素直な奴。」
『煩いな、静かにしてろ』
「へいへい」
そうして沈黙が降り立った。
彼女は俺の膝の上で本を1ページ、また1ページ捲っていく。
黒凪はとてもまつ毛が長いと俺は良く思う。
本を読む為に伏せられた目は更にそのまつ毛の長さを強調している。
「…お前、変わったよな」
『は?さっきの返事は何だったんだ、惣司郎』
「俺黙るの嫌いなんだよ。」
『はぁ…ったく。で?なんだって?』
変わったよな、と再び口にする。
すると彼女は相変わらず無機質に「そうかもな」と答えた。
彼女との出会いは1年前だ。俺が2年の時。こいつも2年の時。
黒凪は開盟学園で唯一の不良だった。
開盟学園は元々厳しい校風だったにも関わらずこいつは1年からかなりの有名人だったのを今でも覚えている。
俺が自由な校風に変えていなければ今頃この学校には居ないだろう。
…ま、コイツが退学させられない程度に更生させたのも俺だけど。
『…喧嘩は止めたな』
「そりゃそうだろ。…まだやってんのか?」
『やってない。馬鹿にするな』
「だよなぁ。俺が捨て身でお前を更生させたんだからよ」
じろりと再び黒凪の目が安形に向いた。
普通の生徒達なら尻尾を巻いて逃げ出す様な目付きだが、俺は不思議と怖くない。
…本当、なんでだろうな。
そんな事を考えているとつい1年前の記憶がフラッシュバックした。
そう、1年前。これ以上黒凪に関わるなと彼女の喧嘩の相手に抗議した時。
話せばどうこう出来る奴等じゃなかったから、俺は1発程殴られた。
…その時。
《そいつを殴るなら私を殴れよ、クソチビ》
《あぁっ!?》
《喧嘩はこれきりだ。私が勝ったら一生目の前に現れるな》
《っ!》
……気が付いたら、俺は倒れていた。
何だよ、1発で気絶したのか俺…。と悲しくなった事は今でも良い思い出だ。うん。
そしてそんな俺の側には膝を抱えて座る黒凪が居た。
俺のうめき声に反応した黒凪は俺の頬に手を伸ばし、青く変色したそこを静かに撫でる。
とても冷たい手が心地良かった。
「なぁ、黒凪」
『ん?』
「俺がお前の事を実は滅茶苦茶好きなの、知ってるか?」
『…知らん』
じゃあ、と黒凪の体を90度移動させ、彼女の横顔を見上げる。
黒凪はチラリと俺を見た。
安形はニッと笑い、黒凪は徐に本を閉じて膝の上に置く。
「お前が俺の事を滅茶苦茶好きだっていう自覚は?」
『…自意識過剰。』
「かっかっか。お前に対してだけだよ。」
『……知らん。』
もう一度繰り返される言葉。
そんな黒凪に眉を下げて笑った安形は「なぁ、こっち向けよ」と声を掛ける。
再びチラリと俺を見る黒凪。
俺の言葉通りに此方を見る黒凪に、俺は手を伸ばした。
彼女の両頬に手を伸ばし、引き寄せる。
『………何をする』
「何って…キスだろ」
『キス?』
「うん」
眉を寄せた黒凪は何のつもりだ、と安形を睨んだ。
彼女の顔は赤かった。それを見た安形はしてやったりと笑う。
これで分かったか?と安形が黒凪の言葉に応えた。
黒凪は黙り、徐に自分の頬に冷たい片手を持っていく。
『………。そう、だな』
「お?分かったのか?」
『…ん。』
「何だよ、最初からこうしてりゃよかったわけか」
再び「かっかっか」と笑う安形。
そんな彼を見ていた黒凪は徐に彼に両腕を伸ばし、抱き着いた。
3年になってからの春の事。静かな生徒会室で。
安形は黒凪を抱きしめ返すと彼女の耳元で囁いた。
「なぁ、」
『ん?』
「俺と同じ大学に来いよ」
『何処?』
ニヤリと笑って「東都大学」と宣言する様に言った安形。
黒凪は深い深いため息を吐くと一言「いいよ」と返す。
彼女は不良だったわけだが、頭は随分良い。
東都大学も狙えない事はない。
それを理解した上で俺は提案したのだ。
「んじゃ、よろしくな。」
『はいはい。大学でもよろしくな』
「ちげーよ」
『は?』
「恋人として、これから」そう言った安形に再びぼんと顔を赤くする。
すると授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
これから2人共東都大学を目指すとなると、あまり授業を抜け出す事は出来なくなるだろう。
それを理解してか、安形は最後にもう一度黒凪を抱きしめた。
これからも、ずっと。
(満点合格!?東都大学に!?)
(かっかっか)
(マジ殺してやりてぇ…)
(黒凪さんはどやったん…?)
(あ?とりあえず合格はしたけど)
(さ、流石や黒凪さん!流石あたしらの星!)
(恥ずかしいから止めろヒメコ。そう思ってるのお前だけだから。)
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