ソウルイーター
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言葉の海
from the theme of, 言葉で3題 [言の葉屋]
あぁ…。楽しいな。
深く深く味わう様に放たれた言葉。
ぼそりと小さな声で発せられたその言葉が耳に届くと同時に彼に背を向けていた黒凪はすぐさま振り返った。
彼は降り注ぐ敵の血を浴びて微かに肩を震わせている。
『…シュタイン、』
「くくく、」
『シュタイン!』
「…あ?」
ギロリと鋭い目が此方に向いた。
楽しみを邪魔された目だった。
寝起きの彼とはまた違った恐ろしい目。
思わずゾクリと背中を寒気が走り抜けた。
『…正気に戻って。マリーも驚いてるわ』
「……マリー…?」
≪シュタイン、大丈夫なの?≫
シュタインの手に握られているハンマーから声が彼に届いた。
ハンマーをチラリと見るシュタイン。
すると徐々に目に光が宿り彼は何度か瞬きをする。
そして徐に黒凪を見た。
「…すまない、また呑まれてたみたいだ」
『別に良いけれど…。…最近多いわよ、大丈夫?』
「……、はは。君に心配されると調子が狂うんだよね」
ぎぎぎ、と頭のネジを何度か回すシュタイン。
君が不安な顔をしてるとさ、そう言って手を伸ばす彼を見上げた。
少し怖い。今の彼の手は。
でも此処で逃げたら負けだと思った。
手が頬に振れる。冷たい。
「…調子が狂うなぁ」
『……ごめん』
「いや、君の所為じゃないし…」
そう言って踵を翻した時、突然彼がガクリと倒れ掛かる。
息を飲んで彼の身体を支えるとまた彼は笑った。
――ほら、狂った。
顔を覗き込めば可笑しげに笑っていた。
『…よかった、いつものシュタインだね』
「いつもの俺?…最近いまいち自分が分からないんだよね俺」
『え?』
「いつもの俺っでどれ?゙」
なぁ、どれなんだ?
ガッと肩を掴まれる。
゙へらへら笑ってる俺?゙ ゙実験で部屋に閉じこもる俺?゙ ゙武器を使って敵を倒してる俺?゙
つらつらと彼の口から次から次へと言葉が溢れてくる。
どう考えても彼は確実に可笑しくなっていた。
「敵の血を浴びる事を喜んでいると俺じゃないのか?君を怖がらせる俺は俺じゃない?」
『待って、』
「ああ、怖がってるな。じゃあ今の俺は俺じゃない」
『待ってシュタイン、』
次は黒凪が彼の腕を掴んだ。
一瞬此方に目が向くが彼はすぐに虚空を見上げる。
俺は誰だ。俺は一体。
ぶつぶつと独り呟く様に言っている。
ああ、壊れていく。彼が。バラバラに。
「なぁ黒凪。君は俺が誰だか分かるのか?」
『…シュタイン、』
「君の事をどう思ってる俺が本物なんだ?恋人?家族?助手?相棒?」
抑揚のない無表情の声が、目が。
黒凪に無造作に向けられて。
マリーが思わず「シュタイン、」とまた彼の名を呼んだ。
しかし次こそ彼の反応は皆無で。
「ああ、黒凪」
『ちょ…』
「黒凪。黒凪、…黒凪」
次はぎゅうぎゅう抱きしめられる。
狂気に支配されかけている。
可笑しく、なっている。
誰か彼を正気に戻してあげて。
そう誰に言うでもなく言うと勝手に頭に言葉が浮かんだ。
「私がどうにかしないと」
「好きだよ、好きだ。…愛してる」
『!…シュタイン、正気に』
「正気だよ。…正気な筈だ、だって俺はこんなにも君を、」
傾れ込む様に言葉を紡ぐ彼に恐怖が微かに心を支配する。
でも彼の言葉が嬉しくて。
それはきっと私が彼に対して望んでいた言葉だから。
…でもその言葉をこんな状況で聞きたいだなんて思ってもいなくて。
『っ、う、~っ』
「泣いてるの?…そんなに嫌だった?」
『ちが、…違うの…!』
「…好きだよ黒凪」
愛してる。
涙がまた溢れた。
言葉が出ない。
マリーが黒凪の名を呼んだ。
悲しんでくれている様な、静かな声だった。
黒に塗れた愛の言葉
(貴方の無機質で虚ろな言葉に)
(私はどうしても真実を探してしまうの)
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