犬夜叉
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相容れぬのだ、我々は
楓成り代わりの奈落寄り。
悲恋要素あり。
「楓おばーちゃーん!」
『…あぁ、お帰り。かごめ』
「よぉ楓ババア。まだ生きてやがったか」
『お前は毎回それしか言えんのか』
かごめに向けていた優しい笑顔をひっこめ、無表情で犬夜叉にそう言った黒凪。
すると次は相変わらずお美しい、と弥勒が彼女の両手を掴む。
そして珊瑚の飛来骨が彼の頭を直撃した。
その様子にクスクス笑っていると犬夜叉の怪訝な視線がザクザクと刺さる。
「…にしてももう60にもなるババアがその姿なのは明らかにおかしいだろ…」
『お前は本当にそればかりだな』
「ったりめーだ。テメェ桔梗が死んだあと10年程老けてそっから全然変わってねーじゃねーか。」
『ふふ、本当にな。私も毎日思うよ。私は人ではなくなってしまったのかとね』
そう言ってふわりと笑った村の巫女であり、まとめ役である黒凪。
彼女は過去に犬夜叉を封印し、四魂の玉を護っていた桔梗の妹である。
過去に犬夜叉が見た彼女は10歳程の容姿だった。
まだ幼さが残る姿で、片目には包帯を巻き。
いつも桔梗の背後に隠れていた。
「…ケッ。(目覚めて見りゃあ全然歳なんざくってねぇ)」
「にしても本当に60歳には見えないよね、黒凪おばあちゃん…」
『姉様が若返らせてくれたのかもしれないねえ』
「確かにかごめが出てきてから更に若返ってるような…」
だらだらと汗をかきながらそう言った犬夜叉。
そうかい?そう言って首を傾げ、笑う黒凪。
彼女の頬は血色の良い桃色に染まり、流石はあの桔梗の妹と言うところか。
とても美しい姿をしていた。
…まるで、本当に人ならざる者になってしまったのかと疑ってしまうほど。
「…そう言えば、最近はここも随分平和になったね」
『ああ、近頃は全然妖怪が寄ってこなくてねぇ。…そう言えば七宝と雲母はどうしたんだい?』
「あー…」
「気分がすぐれないらしくて、村の外に」
そうか…。と悲しげに目を伏せた黒凪。
そんな黒凪を見た犬夜叉は徐に胸元を抑えた。
先ほどからもやもやした様な、ねっとりとしたような。
そんな気持ち悪い感じがするのだ。
恐らく黒凪から放たれる霊力の影響だろう。
「(…日に日にババアの霊力が上がってやがる…)」
「…大丈夫?犬夜叉…」
「…あぁ。」
「……。」
少し苦しげな犬夜叉をちらりと見て、空を飛ぶ鳥を見上げる黒凪を見る弥勒。
彼女は日に日に強くなっている。
霊力が高まり、更に美しくなり。
徐々に半妖である犬夜叉をも拒絶してしまうほどの結界を形成し始めている。
…彼女にとっては無意識の様だが。
「(いやはや、末恐ろしい。)」
「…私怖いよ、黒凪おばあちゃん」
『ん?』
「おばあちゃんが、どんどん遠くに行っちゃうみたいで…」
かごめの言葉に目を見開いた黒凪。
彼女はふわりと笑い、大丈夫。と鈴の鳴るような美しい声で言った。
ああ、その笑顔や声さえも恐ろしい。
かごめは無意識にそう思ってしまった。
それ程黒凪は浮世離れしたものを持っている。
『ほら、そろそろ行きな。奈落から四魂の玉を取り戻すんだろう』
「…うん、」
「……。また来ます、黒凪様」
「私も。…次は雲母と七宝も連れて」
珊瑚の言葉にうんうんと頷く黒凪。
その様子を見た犬夜叉はケッと目を逸らし歩き始めた。
徐々に去っていく犬夜叉達。
彼等の背中を見ていると突然ピクリと眉を寄せる黒凪。
彼女は振り向くとゆっくりと歩き始めた。
「……早かったな、黒凪よ」
『奈落か。お前も懲りんな』
「…また霊力が増したか…」
クックックと笑う奈落を冷たい目で見る黒凪。
彼は結界に荒がいバチバチと音を立てながらこちらを見た。
結界が奈落を拒み、閃光が上がる。
その様子に目を細めがら黒凪は奈落を睨んだ。
『…たとえお前とて入れはせんよ』
「さて、どうだろうな…?」
…ピキ、と微かに音が鳴った。
眉を寄せた黒凪はすぐさま結界に近づき、結界に手を触れる。
そしてぐっと手を押し込めば、舌を打った奈落が弾き飛ばされた。
犬夜叉達はまだ来ない。
恐らくまだ結界の中に居るのだろう。
だから村に入ってこようとする奈落に気付かない。
私の結界は村と外界を完全に絶するものだから。
『桔梗姉様をまんまと殺したお前がこれ以上この村に何がある』
「……、」
『犬夜叉達なら先ほど去ったぞ』
「…相変わらず馬鹿な娘だ」
ゆっくりと立ち上がる奈落。
頬や体中に出来た火傷跡がすぐに塞がっていった。
にやりと笑う奈落に更に眉を寄せる黒凪。
奈落は再び結界の傍に寄ると手を伸ばした。
異形の姿である奈落の腕が徐々に人のものに変わっていく。
手がバチバチと結界に拒まれながら中に入って行った。
「傍へ寄れ、黒凪」
『貴様に従うわけが無かろう』
「…お前はいつもわしを恐れていたな」
『………』
手が黒凪の頬に触れた。
奈落は微かに眉を下げ、目を細める。
満足したような奈落の表情に黒凪が微かに目を見開いた。
黒凪の頬に触れる奈落の手は気味が悪い程優しい。
否、単に結界に拒まれ力が入らないだけかもしれない。
「…美しい」
『……寝言も大概にしろ』
「"それほどまでになったのなら"人などやめてしまえば良いものを」
『…何?』
怪訝に眉を寄せた黒凪。
その様子にクツクツと笑う奈落。
黒凪は徐に目を閉じた。
すると結界の霊力の濃度が高まり、奈落を弾き出す。
奈落は結界から離れると目を細め、微かに微笑みながら黒凪を見た。
「お前の力はすでに人のそれではない」
『……』
「わしと共に来れば良い」
結界の外側で差し伸べられる奈落の手。
その手をじっと見た黒凪は小さく笑った。
そして自分の両腕を抱え込み、眉を寄せて奈落を見上げる。
奈落は依然表情を変える事はない。
『貴様と共には行けんよ』
「……」
『私は姉様の…、かごめの帰るべき場所を護り続ける』
邪なる者は許さない。
そう言った彼女はゆっくりと目を閉じた。
結界が徐々に広がっていく。
結界に触れた奈落はジュウ、と焼け爛れる己の体に目を大きく見開いた。
「…お前には驚かされるばかりだ。桔梗をも既に超えておるか」
『去れ』
小さく笑った奈落はふわりと浮かび、姿を消した。
黒凪はその場に座り込む。
はー…、と深く息を吐いた彼女は空を見上げた。
"私"が徐々に壊れてゆく。
(どんどんおかしくなっていくのだ)
(姉様が死んで少し経つと容姿が変化しなくなった)
(それと同時に霊力が凄い勢いで増していった)
(神にでもなれと言うのか、)
(私に。)
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