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ホントは泣かない筈だった
from the theme of, きっかけの恋のお題 [バツ印の使い方]
アンタなんか大嫌いだった。
私よりも強かったし、綺麗な顔をしていたし、天才だってもてはやされていた。
今でも脳裏にあの忌々しい赤髪が過って、ふとした時に不機嫌になる。
昔はずうっと一緒にいて、ずうっと隣に立っていた筈なのに。
いつの間にか私とアイツの距離は開いていて。
《…サソリ、また任務なの?》
《あぁ》
《早く帰って来てよね》
《……士気が下がる。その顔止めろ》
片手で目元を覆われて、そして気が付いたら居なくなる。
でもちゃんと里に帰って来た時は真っ先に私の所に来てくれて。
…だけど、ある日を境にアイツは帰って来なかった。
いや、"ある日"じゃないか。そんなに突発的だった訳じゃない。
《なぁ、お前さ》
《んー?》
《…この里に未練とか、あるか》
《未練?何さ、今から死ぬみたいじゃん》
笑ってそう返せば確かにな、と薄い笑いを浮かべて彼は顔を背けた。
あの時から居なくなる事を考えていたのだろうか。
どうしても彼が死んだとは思えなかった。だってアイツは里の中でもかなり強かったから。
だから私はあの時の状況の中、ちょっと嬉しくも思っていた。
《よぉ、黒凪》
《(ほうら、生きてた)》
つい数分前だ、死んだとされていたアイツが帰って来たのは。
…いや、実際には抜け忍として名高くなっていたけれど。
目の前に立つアイツの姿は何1つ変わっていない。
―――5年前から、何も。
アイツの姿はあの頃の、15歳の時のまま。対して私は―――…。
「…随分歳をくったな?」
『何よ、不老不死にでもなったの?サソリ』
「お前も多少は勘付いてるんだろ」
『……大方、自分の体を傀儡にしたのかねぇ』
ニヤリと笑ったサソリの反応から正解だと言う事が理解出来る。
で、何の用?と腕を組んで問いかける。
大体の予想は付いている。
ただ、アイツの口から直接聞きたくなかった。
ははは。自分で聞いといて何言ってんだか…。
「俺は見ての通り里抜けした。…今は暁って組織に入ってる」
『それで?』
「…ま、簡素に言えばお前が邪魔な訳だ」
『……やっぱり。』
呆れた様に、観念した様にそう言った。
でもサソリの表情はピクリとも反応を示さなくて、とても悲しくなったのを覚えている。
問答無用で攻撃を仕掛けてきたサソリをじっと見ていた事も覚えてる。
心のどこかでアイツを思って構えたクナイの感触も、やっぱりなす術なく攻撃を受けた時の痛みも。
……全部、全部。あれから15年経った、今でも。
「…随分暇なんじゃん?」
『あぁ、カンクロウか。聞いたよ。私が部屋に閉じこもってた1ヶ月の間に色々あったんだってね』
「ったく…、なんで外であんな惨事があったのに気付かねェのか甚だ疑問だな」
『仕方ないだろ。この体は色々と調節が必要なんだよ』
チラリとカンクロウの目が黒凪に向いた。
彼女の姿はもう随分と変わっていない。そう、15年前からずっと。
彼女は20歳のある日から傀儡に興味を持ち、今では随分と年月をかけて上半身の傀儡化に成功している。
その度に里では凄い凄いと称賛されたものだが、彼女はずっと納得いかない表情で居た事を覚えている。
今思えば、僅か5年足らずでやってのけた彼女の幼馴染の存在が大きいのだろう。
『で?攫われた風影殿はご無事かい』
「あぁ。もう随分良くなったじゃん」
『そうか。何でも相手は暁、だったんだろう?』
やっぱり聞いて来たか、とカンクロウの目が少し細まる。
まるで身構えていたかのような彼の反応に黒凪が薄く笑みを見せた。
サソリは居たかい、と言う彼女の言葉にバツが悪そうな顔をするカンクロウ。
だが彼女は何も言わずカンクロウの言葉をじっと待った。
「…木の葉のくのいちとチヨ婆が殺したじゃん」
『!…死んだのかい?アイツが?』
「………。よかったな、アンタの声と両足を奪った仇じゃん」
『……下手な気は遣わなくて良いよ。おばちゃん相手にあんたみたいな子供がさ』
そう、彼女は15年前にサソリによって声帯と両足を傷付けられていた。
そのおかげで彼女は今でも車椅子に乗り、上半身を傀儡に変えるまでは話す事すら出来なかった。
カンクロウは何も言わずに部屋を出て行き、小さな密室に黒凪1人がぽつんと残る。
『………勝手に死んどけってんだ。馬鹿』
ぽたた、と目から溢れた涙が着物を濡らした。
涙は流さない筈だった。
いや、流す価値すらない様な男だ。
なのにどうして。
……此処に来て私は初めて、自分があの男に惚れていた事を理解した。
お前が敵に回ると色々と面倒だった、ただそれだけ
(愛していると、俺が此処で伝えたとして)
(居なくならないでと私が貴方に伝えたとして)
(お前が)
(貴方が)
((ずっと側に居てくれる保証なんて))
(今になって思えば、死なない様にしたかっただけなのかもしれねぇな…)
(おせぇ、何もかも。)
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