犬夜叉
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伝えたい
「邪見様、最近殺生丸様そっけないね。」
「何を言うか馬鹿者!殺生丸様はいつもあんな感じじゃい!」
「でも黒凪様に対しても上の空だよ?絶対可笑しいよ!」
『殺生丸様は何かを探しておられるのよ。あまり邪魔は良くないわ』
優しく微笑んで言った彼女は普段と違う態度である殺生丸に対して別段何も思ってはいない様だ。
集中しているのだから私達は一歩下がりましょう、と何も疑わずに言えるのはなぜなのだろうかとりんは思う。
あれだけ強く、美しい殺生丸様を狙う女性など恐らく沢山居るのに、と。
「……」
『――!』
はっと顔を上げた黒凪にりんも、邪見も、そして少し離れた位置に佇む琥珀も顔を上げた。
そうして全員が雲の向こう側を進む影を見つめる中で殺生丸がふわりと上空へ飛んで行く。
みるみる内に本当の姿に成った殺生丸は同族であろうその妖怪へ近付き共に地上へ降り立った。
側に降り立った2つの影は静かに向かい合い、殺生丸の前に立っていた女性が徐に口を開く。
「殺生丸であったか。久しいな」
「貴様何者じゃ!殺生丸様を呼び捨てにしてからに――」
「大方父の形見である天生牙の話であろう。数百年ぶりに母の元へ来たのは」
「ご、ごごご御母堂様っ!?」
確かに姿がとても殺生丸様と似ていらっしゃる。
…この方が、殺生丸様の御母上…。
黒凪が思わず固まっていると2人が徐に上空へと浮かび上がっていく。
それを見てはっと顔を上げると黒凪も風を使ってりん達を連れてその後について行った。
やがて辿り着いた雲の上には城の様なものがあり、殺生丸の母は彼を前に玉座に着く。
「――殺生丸。そなた人間が嫌いであると言ってはおらぬかったか?それが2匹も連れて…酔狂な事よのう」
「天生牙の冥道を広げる方法を父上から聞いている筈だ」
「さあね。私はこの冥道石を預かっただけなのでな」
だが改めて思い出してみると少しずつ思い出して来た。
確か殺生丸が訪ねて来ればこの冥道石を使えと言われていた…。ああそうそう。
これを扱えば殺生丸が危険な目に遭うが、それを悲しんではいけないとも言っていたっけねえ。
そう淡々と話す彼女は悲しむと言うよりは楽しんでいる様に見える。
そんな妙に飄々とした部分は殺生丸とよく似ていた。
「どうする殺生丸。母は心配でならぬ」
「心にもない事を…」
「…では楽しませて貰う事としようかね。」
そう言って冥道石を彼女が持ち上げた途端、その石から巨大な犬が姿を見せた。
大口を開いて威嚇する犬に殺生丸が刀を抜いて冥道残月破を放つ。
しかし犬には全くと言って良い程に効かず、殺生丸がぴくりと眉を寄せた。
「それは冥界の犬だ。どうやらお前の刀では何の影響も与えられぬらしい…」
『!りん、』
大きく口を開いて迫る犬からりんを救う為に邪見の元へ突き飛ばす。
そうして振り返った黒凪は犬を睨み風を起こそうとするが、その前に琥珀が飛び込んできた。
恐らく琥珀の行動は黒凪を助ける為。…しかし今回は悪手となった。
『っ、』
「うわ、」
「…チッ」
琥珀諸共飲み込まれ冥道へ連れ去られた黒凪に殺生丸が舌を打ち己が開いた冥界へ向かおうとする。
しかしそれをすぐさま止めたのは彼の母だった。
冥界へ踏み込むつもりか。人間の子供と弱々しい妖1匹の為に。
その言葉に殺生丸は淡々と切り返した。
「犬を斬りに行くだけだ」
「せ、殺生丸様ぁ!」
「黒凪様、琥珀ー!」
音も無く閉じた冥道に2人が唖然と立ちすくむ。
一方の冥界では殺生丸が地に足を着ける事無く冥界の中を動き回っていた。
彼の視界に2人を飲み込んだ犬が映り込む。
殺生丸に気付いた犬が振り返り威嚇をする様に唸ると奴の腹の部分が一瞬だけ透けて見えた。
『(冥界の者達は私では倒す事が出来ない…。)』
「……」
『(琥珀も気を失ってしまった、どうにか私がこの子を護らなければ)』
琥珀を護る様に抱える黒凪を見た殺生丸は冥界の犬を斬る為にと癒しの天生牙を振るった。
そうして真っ二つに切り裂かれた犬の腹から黒凪と琥珀が現れ、殺生丸が黒凪の目の前に降り立つ。
殺生丸は黒凪の頬に手を添えるとその冷たさに微かに眉を寄せた。
『殺生丸様、琥珀は無事です。どうやら四魂のかけらのおかげの様で…、けほ、』
「…身体が冷えているな。苦しいか」
『…私は奈落と同じで半妖の様なものですし、殺生丸様ほどこの地に強くないのではないかと…』
…やはり半妖であったか。
そう呟くのは外から冥界の様子を覗き込む殺生丸の母。
彼女は顔色の悪い黒凪を見ると目の前で泣きじゃくる邪見とりんに目を向けた。
「小妖怪。あの半妖は殺生丸のなんだ?」
「な、何と言われましても…。殺生丸様が目の仇にしている妖の元配下の者と言いますか…その…」
「殺生丸様は黒凪様が大好きなの!黒凪様も殺生丸様の事がとっても大好きなんだよ!」
殺生丸達を冥界に送った母に対して怒っているのだろう、少し強い口調で言ったりん。
そんなりんに「ほう…」と呟くと彼女は再び冥界に目を落とした。
冥界の奥へと進む殺生丸の姿が見える。そして徐々に衰退していく黒凪の姿も。
「あのう…殺生丸様は現在何を…?」
「冥界の奥へと進んでいる。主でも斬るつもりかねえ」
「そ、その主とやらを斬れば殺生丸様達は此方に…?」
「さあ。どうなるかは私は知らぬ」
だが力の弱い半妖の娘は冥界の奥へと進めば進むほどに確実に命が削られて行くだろうな。
力の弱い半妖。その言葉をずっと疑問に思っていた邪見ははっと目を見開いた。
奈落から心臓を返され、完全に見放された彼女の身体に以前ほどの力が残っている筈がない。
…奈落が、力を彼女に"残している筈がない"のだ。
「――殺生丸様、」
「?」
「黒凪様が…」
『…っ、大丈夫でございます。先へどうぞお進みください…』
そう言った彼女の顔色はもはや尋常ではない程の白さだった。
そんな黒凪に気が付いた殺生丸はすぐさま引き換えし彼女の顔を覗き込む。
そうして目が合った途端に黒凪は耐え切れなくなった様に倒れ込んだ。
「黒凪様!?」
「…。!」
ぐんっと奥の方から闇が伸びてくる。
闇は瞬く間に3人を飲み込むとぐったりとした黒凪を連れて奥へと逃げていった。
それを見た殺生丸と琥珀が走り出しその闇へ飛び込んでいく。
やがて見えた先に立つ巨大な闇の巨人は暗に冥界の主だと名乗っているかの様な風貌だった。
冥界の主だろうと目を細めた殺生丸が刀を抜き、奥にある死人の山の元へと黒凪を連れていく冥界の主へ突っ込んで行く。
「(黒凪を其方へは連れて行かせん)」
冥界の主が振り返り殺生丸に拳を振り上げる。
しかし殺生丸はそれを意に介せず冥界の主を真っ二つに切り裂いた。
冥界の主はあっけなく崩れ去り、投げ出された黒凪を抱えて殺生丸が死人の山の中央へ降り立つ。
「…黒凪。起きろ」
『……』
「……黒凪」
殺生丸の呼びかけに応じない黒凪に殺生丸の母が微かに眉を寄せる。
彼女は冥界の主が死ねば黒凪が生き返ると思っていたのだ。
しかし予想に反する展開に邪見とりんに目を向け、今しがた浮かんだ1つの考えの答えを彼等に問いかけた。
「小妖怪。もしや殺生丸はあの半妖を一度天生牙で蘇らせてはおらぬか」
「え、…あー…確か蘇らせたとかなんとか…」
「…成程な。だから生き返らぬのだ」
「い、生き返らない…?まさか黒凪が冥界で死んだのですか!」
りんが目を大きく見開いて顔を上げる。
…殺生丸は冥界の奥底で黒凪を抱えたままで立ち尽くしていた。
――救えないのか。その言葉が頭の中でぐるぐると回る。
天生牙が応えない。天生牙が使えないこの状況で彼女を救う手立ては無い。
刀を手放しうんともすんとも言わない天生牙に目を落とした。
「(天生牙1つの為だけに、黒凪の命を犠牲にしたのか)」
『……』
「(…この女を犠牲にして得るものなど何もないと言うのに)」
何と馬鹿な事をした事か。
殺生丸が顔を歪ませ歯を食いしばる。
途端に天生牙がドクンと脈打ち、光を帯びた。
それを見た死人達は一斉に天生牙へ向かって動き始め手を伸ばす。
まるで天生牙に縋る様に動く死人達に殺生丸が目を向けた。
「(――お前達も救われたいのか)」
目を細め、刀を持ち上げる。
抱える黒凪はとても冷たい。
光が溢れ出し死人が浄化されて行く。
その様を母が眺めていると「冥道残月破」と殺生丸の声が響いた。
途端に冥道の穴が開き中から殺生丸と琥珀が姿を見せる。
黒凪は殺生丸の腕に抱えられていた。
「…どうした、浮かない顔をしているな殺生丸。そなたの望み通りに天生牙は成長し冥道も広がった。何故喜ばぬ?」
「……半妖である黒凪がこうなる事を知っていたのか」
「私は蘇ると思っていた。だが私の予想に反してお前は既にその娘を天生牙で救っていただけの事」
天生牙で蘇らせる事が出来るのは1人につき1回だけだ。
母のその言葉に殺生丸が目を見開いた。
当然の事だ。本来命は限りあるもの。そうほいほい蘇らせるなど出来る筈も無い。
お前は神でもなければ仏でもないのでな。
そんな母の言葉を殺生丸は黙って聞いている。
「そなたは知らねばならなかったのだ。愛しい命を救おうとする心と同時にその命を失う恐ろしさを…恐怖を」
「(命を失う、恐ろしさ)」
「そして父上はこうも言っていた。天生牙は癒しの刀。例え武器として扱う時も命の重みを知り、慈悲の心を持って振るわねばならぬと」
それが他者を蘇らせ、また冥道へと送る事の出来る天生牙を扱う者の資格。
お前は確かに父上と私の血を引き強力な力を持っている。
お前自身が死の恐ろしさを知らぬのも仕方がない。
だからこそ此処で存分に思い知り、そして学ぶが良い。
殺生丸の目がゆっくりと己の腕の中で息絶えている黒凪に向いた。
「死ぬ事は恐ろしい。自分以外の者が死んでしまう事もまた、とても恐ろしい事。」
「……」
「その娘も一度死んだのであれば知っていた筈だ。己が死する恐ろしさを」
それでもそやつはお前について行った。それは何故か。
殺生丸が静かに顔を上げる。
冥界に降り立った時に本能的に気付いていたのだろう。
己を蝕む死に抗う術がないのだと。それを知っても尚この娘はお前に最後まで尽くした。
死と言うものは自分ではどうにもならぬものだ、だからこそ自分の出来うる事をした。
「…ただそれだけだよ殺生丸。そやつはお前よりもこの世界の不条理に気付いていたんだ」
「……」
殺生丸は此処で初めて知ったのだ。
どれだけ強大な力を己が身に着けたとしてもどうにもならない事はあると言う事実を。
そして彼女に対する己の思いを。
「――悲しいか殺生丸」
「……」
「…。二度目は無いぞ」
冥道石のついた首飾りを持ち上げ黒凪の首に下げる。
すると冥道石から光が溢れ出しドクン、と鼓動の様な音が響いた。
じんわりと戻って来る彼女の体温に殺生丸が微かに目を見張り、ゆっくりと持ち上がった瞼に目を細める。
『…けほ、っ、(喉が渇いて、)』
「黒凪」
『っ?…あ、殺生丸様…』
苦しい所はないか。寒くはないのか。
無表情に問いかける殺生丸に少し目を丸くさせて黒凪が微笑んだ。
そんな2人を見ていた母は呆れた様に眉を下げ、空を見上げる。
「(人の血が混ざった半端者1匹にこの騒ぎ…。変な所が父に似てしまったらしい)」
やがて起き上がった黒凪を抱えて殺生丸が母の城の階段を降りて行く。
母は黒凪を抱えたままで動く我が息子を変なものでも見る様な目で見つめると徐に目を伏せた。
脳裏に人間の娘を抱えて歩くあの子の父上の姿が過る。
殺生丸の姿はそんな父上にそっくりだった。
もう離さぬ様にと、
(殺生丸様、もう降ろしてください。私は大丈夫ですから)
(……)
(…殺生丸様?…殺生丸様、)
((黙っておるのだ黒凪…!折角殺生丸様が優しくしてくださっているのに…!))
(…喧しい)
(え?あいた!せ、殺生丸様!?)
(邪見様はね、顔が煩いの)
(か、顔っ!?顔ですか殺生丸様あいたっ)
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