結界師
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呆れるほど鮮やかに、笑う
from the theme of, 君が、笑う [確かに恋だった]
薄く微笑んで廊下を歩く青年。
彼はまだ20代だと言うのに随分な貫録を従えて。
静かに音も気配も立てず歩いていた。
彼が襖を開け自室に入るとまずピタリと動きを止める。
部屋に少女が居た。コタツに入って座っていた。
チラリと目が此方に向く。
相変わらず切れ長の綺麗な目だと思った。
『…何をするつもりなんです? 正守さん』
「ん? 何のコト?」
『私、分かってるんですよ』
「…特に隠してる事もないケドなぁ」
顎を触りながらコタツに入る正守。
そんな彼をじっと見ながら姿勢を正す黒凪。
正守は優しく微笑んだ。
でも私は知っている。
この笑顔は本心を見せまいとしている時の笑顔だ。
冷たくて、張り付けた様な。機械的な笑み。
『正守さん。』
「……何も悪い事しようってんじゃないよ?」
『…やっぱり何かあるんだ』
「君には関係ないの。ね?」
正守の言葉がぐさりと刺さる。
黒凪は静かに両手を握りしめた。
微かに口を開く黒凪。
彼女が発した言葉は正守の表情を微かに崩した。
『夫婦でしょう』
「!」
『…違うの?』
2人は許嫁と言う物だった。
でも決して両親によって決められただけの関係では無い。
…確かに愛している。
少なくとも私は。
黒凪の目が正守に向く。
正守は少し困った様に笑っていた。
「…うん。確かに僕等は夫婦だ」
『………』
「確かに僕も君を愛してる。信頼だってしてる」
…でも。
正守が微かに眉を寄せて言った。
君が大切だからこそ、…失いたくないから。
切実に言う彼に黒凪の心が揺らいだ。
それはもう、ぐらりぐらりと。
胸元に違和感が広がるぐらい激しく揺れた。
『…馬鹿だ、』
「……うん」
『大馬鹿野郎だ、アンタは』
ぽろぽろ涙が頬を伝って落ちた。
でもこれ以上は何も言えない。
だって私には力が無いから。
正守程の力なんてない、頭脳だってない。
…何も役に立てないの。
『…せめて教えてよ、正守さん』
「……ごめん」
『正守さん、』
「…ごめん。」
ぐっと歯を食いしばり部屋を出る。
正守はその背中を見送りその場に座った。
黒凪は怒りを露わに廊下を歩く。
刃鳥が驚いた様に此方を向いたが、すぐに察した様に眉を下げた。
きっとあの人も正守さんと同意見なのだろう。
…気に入らない。
「――…限、」
「はい」
「黒凪を連れ戻してくれないか」
「…?はい」
きっともう敷地の外だろうから。
そう言って笑う正守は黒凪の行動などお見通しだと言う様に言った。
それを聞いた限はすぐさま襖の外を振り返り、一気に走り出す。
正守は手元のお茶を飲んだ。
「頭領」
「ん?何、刃鳥」
「奥様は泣いておられました」
「……うん、知ってる」
また茶を飲む。
刃鳥は少し眉を寄せた。
正守はチラリと背後に目を移すと静かに刃鳥を見上げる。
彼女は頭を下げると部屋を出て行った。
それと同時だろうか、限が黒凪を抱きかかえ正守の居る部屋の前の廊下にドスッと着地する。
「…おかえり黒凪」
『………くっそー…』
「!」
チッと舌を打ってそっぽを向く黒凪に微かに目を見開いたのは限だった。
彼女は正守の妻である女性。
噂では落ち着いた気品ある女性だと聞いていたが。
正守が限の表情に笑った。
「ビックリした?こういうヤツだよ、黒凪って」
「…はぁ、」
『るっさいな。アンタは嫌いだ、実家に帰る』
「旦那にアンタなんて言うなよ…」
少し困った様に言う正守。
顔は笑っている。別れる気はないのだろう。
そんな彼の心情を理解してしまう自分が嫌いだ。
そして私が彼を本当に嫌いでない事を正守は分かっているのだろう。
そんな所も全部全部嫌いで、イヤで。
でも居心地も良くって。
結局何も解決何てしないのに。
(奥様、頭領から和菓子です)
(…ほんっとあの野郎私を菓子で釣れると思ってんのね…?)
(手紙もございます)
(…………。)
(…ふふ、中身は何と?)
(た、たたた大した事無い事書いてあった!)
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