結界師
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唯一分かってくれた人。
無道成り代わりの墨村正守オチ。
結界師長編"世界は君を救えるか"とは全く関係ありません。
ああ、なんだこのモヤモヤした気持ち悪いのは。
調子が悪い。集中出来ない。分が悪い。
よくない事が立て続けに続いてるなぁ、これは。
そこまで考えて己の負の連鎖にため息を吐いた。
「兄貴!」
「っ…、逃げろ良守!そいつは此処の土地神だ、連れて…」
「嫌だ!!」
「言う事を訊け…!!」
くくく、と喉の奥で笑う声がする。
くらりと一瞬意識が飛びかけた。
正守の腕に滲む血の範囲が広がる。
そんな正守の前でふよふよと浮かぶ黒凪はマフラーを操り正守を吹き飛ばした。
『…そろそろ貰おうかな、』
「っ、…吹き飛べ…!」
『!』
正守の絶界で消滅する黒凪。
しかし何事も無かったかのように次の瞬間には再生していた。
彼女の名は黒凪。夜行には所属していなかったものの裏会の一員だった。
正守と歳が近いと言う事もあり仲はとてもよく正守の唯一の友と呼べる存在だった。
だが彼女は突然夜行の戦闘員達を次々と殺害したのだ。
「…なんで殺した…!!」
『イテテ』
「答えろ!!」
『……。珍しく感情的だね、正守。落ち着いたら?』
そう言って黒凪がにこりと笑うと土地神の胸元にあった黒い玉が黒凪の元へ移動した。
黒凪の周りには戦闘に先程から使用している黒い小さな玉がある。
しかし土地神の側から移動した玉は他の玉より3倍程大きなものだった。
彼女は不死身だと呼ばれた能力者。その能力の正体は他人から命を吸い取り自分の物とする能力。
黒凪は奪った命の分死なないと死ねない。
たった今そんな彼女は土地神から命を奪ったのだ。
『女が追い求めるモノって何だと思う?』
「なに…?」
『若さだよ、若さ。最近命を蓄えてると気付いたの。私は命を奪えば奪うほど…』
土地神から奪った命を取り込んだ。
すると20歳程だった姿が15歳程、つまり良守と大差ない程の姿に変わる。
どくん、そんな胸の動悸に正守が目を見開いて動きを止めた。
どう?そう言ってくるくる回る黒凪。
「…お前の顔、見た事ある」
『あは。やっと気づいた?良守君』
「……兄貴が1回だけ連れて来た彼女の顔と一緒だ…。なんで、」
『だってそれ私だもん』
うふふ、と目を細めて笑う黒凪。
良守の脳裏に過去の記憶が過った。
自分がまだ小学生だった頃。
正守が高校生だった頃。
やっかいな能力を持った異能者だと彼女は言っていた。
2人は高校を卒業しても一緒に行動していて、一緒にこの町を出て行って。そして。
「なんでだよ…!」
『ほら正守。そんな結界で逃げてても無駄だよ?』
「ぐっ、」
「なんで2人が戦ってんだよ…!!」
良守の叫びに正守が一瞬其方に目を向けた。
黒凪が放った鎌鼬の様な物が正守を襲う。
彼の腕や足から血が溢れ出した。
絶界でどうにか攻撃を防げてはいるが長くはもたないだろう。
「止めろよ兄貴!!黒凪さん!!」
『ああもう、煩いなぁ…』
「!良守、逃げ…」
「あんなに仲良かっただろ!?」
ぴたりと黒凪の攻撃が止まった。
好きだったんだろ!
良守の言葉に次は正守が目を見開いて固まる。
黒凪と正守の見開かれた目が良守に向いた。
良守は肩で息をしながら絞り出す様に言う。
「今でも好きなんだろ、兄貴…!」
「…何を、」
「黒凪さんの気持ちは変わっちまったのかよ!!」
『!』
そんなのねぇよ…!
悲痛な良守の叫びが響いた。
正守が目を伏せ、唇を噛む。
それでも正守の脳裏に過るのは黒凪に殺された仲間達で。
目を閉じた正守は一気に黒凪との間合いを詰めた。
「…黒凪。お前は此処で…」
『っ!』
ぐっと抱きしめられる黒凪。
目を見開いた黒凪だったが発動された絶界に眉を寄せる。
再生するとは言っても痛みはある。
黒凪は痛みに正守の胸に顔を埋め離れようと胸を押した。
そんな黒凪を抑え込んだ正守は絶界を発動し続ける。
『ぐ、…くそ、離せ…!』
「…離さない。お前が再生出来なくなるまで」
「兄貴…!」
『だったら教えてやる…!』
黒凪が正守を睨んだ。
正守は消滅しては再生する黒凪を見て眉を下げる。
時折見せる黒凪の苦しげな顔を見ても目は逸らさなかった。
『正守、アンタは拒絶する事でしか世界を作れない!』
「…。」
『私の事もずっと弾いていた、お前の世界から…!!』
「兄貴!!」
黒凪の苦しげな声に耐え切れなくなった良守が正守を呼んだ。
正守は黒凪を抑える力を緩めず振り返る。
その悲しげな、諦めた表情に良守は泣きそうになった。
「嫌だ」と直感で思った。兄貴のあんな顔は見たくない。
「…ごめんな良守。これが俺のやり方なんだ」
「やり方もくそもあるか!拒絶すんな!これ以上黒凪さんの事拒絶すんな!!」
「……。それは無理な話なんだよ」
「無理じゃねぇよ…!」
ドンと地面を思い切り殴る良守。
なんでだよ、と絞り出す様に言った良守に正守が眉を下げる。
俺はお前とは違う。黒凪の言う通りなんだ。
何も言わず良守が首を横に振る。
黒凪はそろそろ限界が近いのか何も言わず、目は今にも閉じそうだった。
「俺は周りを拒絶し続けてきた。…それはコイツに対しても同じで」
「違う!!…黒凪さんだけは違っただろ!」
「…違わない。」
「違ったよ!!黒凪さんだけだっただろ、お前の側に最初から今まで居てくれたのは!!」
正守が微かに目を見開いて黒凪をチラリと見下した。
何故だ、絶界じゃなくなっていくような感覚がする。
他の術に変わっていくような感覚。
自分の意志では無い何かが働いている。
どす黒い色で構成されていた絶界の色が微かに薄くなった。
『…!』
「…なんで、」
黒凪が目を見開いて正守を見上げた。
絶界は発動したままだった。
ただ、拒んでいたものが黒凪を受け入れた。
絶界は2人を護る様に発動されている。
「どういう事だ、」
「それが兄貴の本心だ」
「!」
「結局殺せなかったんだよ、黒凪さんだけは…」
正守の目に微かに涙が浮かんだ。
それを見せまいと目を閉じた正守は徐に黒凪を抱きしめ直す。
黒凪は正守の胸元にうずまったまま目線を上に上げる。
「ごめん、」
『!』
「悪かった。黒凪」
『…なによ、アンタ拒絶する以外にも出来るじゃない…』
黒凪はガクッと意識を無くして倒れ込んだ。
それを支えた正守は目を閉じている黒凪をじっと見る。
まだ何か迷っているのかと口を開きかけた良守だったが振り返った正守に目を見開いた。
「…ありがとな良守。目が覚めたよ」
「お、おう…」
『……待って』
「黒凪、すぐ医療班に…」
黒凪が手を伸ばした先には倒れている土地神。
土地神の額に手を触れた黒凪は力を注ぎこむ。
すると土地神は微かに目を開き黒凪を目に映した。
『…ごめんなさい。私達の痴話喧嘩に貴方を巻き込んでしまった』
「え、俺の所為でもあるの?」
「あるんじゃねーの。だって兄貴だし」
『…。正守』
ん?と黒凪の顔を覗き込む正守。
黒凪は彼の顔を真っ直ぐ見上げると掠れる声で言った。
「治療の後は夜行の墓場に連れて行ってほしい」と。
壮大な痴話喧嘩
(あ、あれ…?俺一体…)
(確か黒凪さんに刺されて、)
(驚くばかりです。魂蔵持ちはこんな事も可能だとは)
(ああ。まさか自分が殺した死者全員に力を流し込み蘇生させるとは)
(それで全て丸く収まるとも思えませんがね)
(うん。…でもこれから一緒に償っていこうと思うよ。)
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