名探偵コナン
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天秤が揺れる時
"言った通りだっただろう?"
酷く内容が乏しく、短いたった1つの文。
感情が感じられない文字を見たキールは大きく目を見開き、その差し出し人をもう一度確認する。
「……赤井、秀一」
どうして…!そう言って立ち上がる。
それと同時だろうか、はっと目を見開いた彼女の脳裏にジンが過った。
まさか。まさか本当に彼女が殺さなかったのだろうか。
裏切り者である赤井秀一を。…いや、そんな筈は無い。
あの女は裏切り者には一切の情を持たない冷酷な女だ。
「…どうして……」
『キール』
「っ!!」
『…何だ、そんなにビビる事はねぇだろ』
扉に薄く微笑んで凭れ掛かるジンが目を細めてキールを見た。
突然のジンの登場に驚いたキールは携帯を不自然に隠す事をせず、笑みを浮かべる。
何の様かしら、と携帯を自然に閉じて問いかけた。
ジンは黙って拳銃をキールに投げ渡し、腕を組む。
『任務だ。お前の信頼を取り戻す為の、な』
「任務?」
『あぁ。お前にはこの男を殺してもらう』
ピッと写真が投げられ、拾い上げる。
まさか態と赤井秀一を泳がせ、自分に殺させる気では…。と恐々写真を覗き込んだ。
そこに映っていたのは赤井秀一などでは無く、今随分と有名な政治家だった。
ほっとした。が、キールはそれを表情に出さずチラリとジンを見る。
『嫌とは言わせないが?』
「分かってるわよ。今更他人を殺す事に躊躇何てしないわ」
『他人を殺す事に、か』
「………。」
意味深に呟く様にそう言ってキールに背を向けるジン。
キールはいっその事此処でこの女を殺してやろうかと思った。
手には拳銃がある。チャンスは今しかない。
あの女が、私に背を向けている今しか。
拳銃を音も無く握りしめ、ゆっくりと持ち上げる。
『キール』
「!」
『…安全装置を外しておけよ』
「……。えぇ」
振り返る事無くそう言って出て行ったジン。
全てを見透かされている様な感覚に陥ったキールは胸元を抑えた。
やっぱりあの女を欺くなんて、無理だわ。
キールは拳銃を仕舞うと小さく微笑んだ。
「……工藤有希子さんから連絡が来た時は吃驚したよ、赤井さん」
「そうか?ボウヤなら気づいていると思っていたんだがな」
「あはは……」
気づくわけないだろ、ったく。
言葉を飲み込み、分からなかったよ、と子供らしい口調でそう言った。
コナンの目の前には今現在、沖矢昴と名乗っている"赤井秀一"が立っている。
ジンと直接会ったあの夜から数日後、赤井秀一が自分の元へ来たと有希子から連絡が入った時は本当に驚いた。
「…生きてたんだね、よかった」
「あぁ。…気づいていたのか知らないが、奇跡的に生きていた」
「……。赤井さんは気づいてたと思う?」
僕が考えた作戦に、ジンが。と付け足す様に言った。
体には防弾チョッキと血糊、頭のニット帽にも同じようなものを仕組んだ。
相手がジンであると訊いたコナンの咄嗟の作戦だった。
殆ど捨て身の作戦だ、撃たれる事を想定しての作戦なのだから。
それに、ジンなら十分気づいても良い様なものだった。
「……気づいていたと思うが。ボウヤは?」
「…正直僕もそう思う」
「………何故俺を殺さなかったと思う?」
「え?…それは…」
ジンが、と言葉を区切る。
赤井は何も言わない。
沈黙が降り立ち、ゆっくりとコナンが顔を上げた。
赤井の無表情な顔が自分を見下ろしていた。
「…ジンが、赤井さんの、事を…」
「……そう思うか?ボウヤ」
「う、ん」
コナンが遠慮がちに頷いた。
ジンが、赤井秀一を助けたのではないか。
それが彼の考えだ。だが助けたという結論に至るだけ彼女の事を知っているわけでは無い。
…何ともいえない状況だ。
だがコナンは殆ど勘ではあるものの、何処か確信を持っていた。
「俺は、希望を持って良いんだろうか」
「え?…どうかな、」
「…なんてな。後悔させてやるさ、俺を生かした事を」
「……うん」
コナンは小さな声で返事を返し、少し頷いた。
チラリと見上げた赤井の表情は少し愁いを帯びている。
じゃあ俺は帰る、と赤井は表情を沖矢昴のものに変え、部屋を出て行った。
それを見送ったコナンは近くのソファに座り込む。
「…ジン、」
お前の事が理解出来ない。
一体何を考えているんだ?
赤井さんを生かすなんて、そんな事があり得るのだろうか。
だが実際に彼は生きている。
俺には理解出来ない。どうしても。
(ふと、思い出す時がある)
(ベランダで煙草をふかしていた彼女は、)
(夕日に照らされて輝く銀色を持った彼女は。)
(…とても綺麗だった)
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