名探偵コナン
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天秤が揺れる時
いい気分だ、と抑揚のない言葉が耳に届く。
フッと笑った男、赤井秀一は目の前の女を見上げ徐に目を細める。
交わった2人の視線は数秒程全くぶれる事は無かった。
……先に目を逸らしたのは、どちらだったか。
『なんだ、そんなに私に殺されるのが嫌なのか?』
「…当たり前だろう、お前にだけは殺される気は無かったんでな」
『ククク、私の顔に傷を付けた時点でお前は私が殺すつもりだったよ』
「なんだ、やっぱり女なんだな。顔は大事か」
馬鹿にした様にそう言った赤井の額にぐりぐりと銃口を押し付ける。
既に腹部に2、3発程ブチ込んである。
痛みに顔を歪めながら目の前の男が不敵に微笑んで見せた。
どんな状況に陥ってもポーカーフェイスを崩さないこの男に目を細めるジン。
すると夜風に煽られ長い銀色の髪がサラリと揺れた。
「――――痛かったか?」
『あ?』
「お前の利き手は左だろう? 右手で拳銃を持っているから気になっただけだ。」
『……』
黙れば、眉を下げてフッと笑った赤井。
俺がお前の左肩を狙撃したからな、と言う赤井の言葉にジンは笑みを見せた。
そう。自分の利き腕が封じられているのは紛れも無くこの男の所為だ。
ワザと左肩を狙ったのかは分からないが、キールが捕まったりと忙しかった為まだ治っていない。
『私の器用さは知ってるだろ?右でも拳銃ぐらいは撃てる』
「だが命中率は悪くなってただろ。…俺はそんなヘマはしない」
『…お前、最期までその減らず口を止めるつもりはねぇのか』
「…。男は女の前では死ぬまで格好つけたいものなんでな」
理解出来ねぇな、と髪を掻き上げたジン。
その様子を見ていた赤井は腹部の痛みに眉を寄せ、少し顔を伏せた。
赤井が動いたことに過敏に反応したジンは拳銃の引き金に指を持っていく。
カチャ、と言う金属音に笑った赤井は顔を上げ、ジンの手首をガッと掴んだ。
傷が痛むのかあまり力は籠められていない。
「そろそろ殺せ。警察が来るぞ」
『…来るのが遅いとは思ってたが、警察を呼んでやがったのか』
「正確には来るように仕向けて来た、だがな。」
『どっちも同じようなもんだろうが』
浅い息を繰り返していた赤井は一度大きく息を吸って、吐いた。
すると咽た後に口から血が流れ出る。
自分も吐血した事があるが、喉に焼ける様な激痛が走る。
目の前の男もその痛みを今受けていると思うと少し気分が良かった。
手首を掴んでいた手の力がするりと抜け、奴の片手が滑り落ちる。
『…お別れだな、赤井秀一』
「……。もうライとは呼ばないんだな」
『当たり前だろ。お前はもうライじゃない』
ライじゃないんだよ、と言うジンの言葉。
相変わらず女にしては低い声。
その声を聞いた赤井秀一は微かに目を見開いた。
そして彼が口を開こうとした時、それを許さぬ様にジンが引き金を引いた。
ガウン、と音が響き赤井が車に倒れ込む。
座席の上に倒れた赤井を見たジンは拳銃をポケットに戻し、煙草を銜えた。
『悪いな。お前はもう、』
「………」
『私の期待を裏切った時点でこうなる事は必然だった』
火をつけ、煙を吐き出したジンは数歩離れると燃料タンクを弾丸で打ち抜いた。
車は爆発し、赤い炎で覆われる。
それを見たジンは背後に止まったウォッカが運転しているポルシェに乗り込む。
窓を開けて煙を吹かしていれば、後部座席に座っていたキールがフッと笑った。
「まさか本当に殺すなんて思ってなかったわ」
『…意識は完全に戻ったらしいな』
「えぇ、お陰様で。で?どうなの?恋人を殺した気分は」
『キール…。お前もベルモットと同じ事を言うのか?殺すぞ』
ギロ、と冷たい目がキールに向き、彼女は口を閉ざした。
ジンが前を向くとキールは肩の力を抜き、腕を組む。
「折角FBIから逃げて来たのに、薄情な人ね」とキールが言った。
その言葉を聞いていたジンは再び煙を吸い込み、外に吐く。
『だったら余計な事を言うんじゃねぇよ』
「はいはい。…それにしても随分派手にやったのね」
『あぁ?』
「パトカーが沢山来てる。呼んだのは貴方?」
キールの言葉に「いや、」と返したジンは肩に掛かっている髪を後ろに流した。
サラリと銀色の髪が揺れる。
奴が呼んだ。とジンが言うと「へぇ…」とキールは再び燃え盛る車を見た。
そして彼女は顔を伏せ、足を組む。
《え、ジンが!?》
《えぇ…。てっきり私が殺すのだと思っていたけれど》
《ジンが動くなんて…。くそっ!》
《でも彼は分かってたみたい、》
つい数時間前の、コナンとの会話。
あまり長く離せない状況で手短に赤井秀一を殺すのは自分では無くジンだと言う事をコナンに伝えた。
コナンが「分かってたって?」と訊き返す。
するとキール、水無怜奈は周りを見渡し声を潜めてこう言った。
《"読みが外れたな、ボウヤ。だが丁度良い。俺も懸けてみる事にする"》
《!》
《"彼女が本当に俺を殺すかどうか"…って》
赤井の事だ、根拠のない事を言う筈が無い。
本当に殺すかどうか?殺すに決まってる。
なのに何故向かったのか。
彼にとって、組織との決着とは……。
電話越しにコナンが眉を寄せたのが分かった気がした。
《…!ごめんなさい、そろそろ》
《うん。分かった》
それ以来連絡は入れていない、入れられる筈が無い。
赤井秀一をジンが殺してから1週間ほど経った。
あまり自由な行動は許されていない。
そんな時、携帯に1通のメールが届いた。
それを見たキールは大きく目を見開き、携帯をぎゅっと握る。
…どうして、
(本当に殺しちゃったのね、ジン?)
(うるせぇぞベルモット)
(…私は絶対にあなたなら殺せないと思っていたんだけれど)
(殺されてェのか)
(あら怖い。)
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