名探偵コナン
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不気味なまでの、
本堂瑛海成り代わりのオチ未定。
探偵連載"隙ありっ"とは全く関係ありません。
――…強盗がもしも家に入って来た場合、君はどうする?
たたかう!
どうやって?…あぁ、言い忘れていたな。君は武器を持ってないんだ。
『え、ぶきないの…』
「そうだ。君は強盗からは隠れるしか手段がない。さて何処に隠れる?」
『じゃあとびらのうしろ!』
「扉の後ろ? それまたどうして」
そこがいちばんあんぜんだから!
笑顔で言った黒凪に携帯を片手に少女へ質問をしていた男が困った様に隣の男に目を向ける。
そんな男の視線を受けた人は目の前で不思議気に小首を傾げる少女の父親で。
彼は困った様に無邪気な娘の笑顔を見下ろしていた。
「…瑛祐君ってお姉さんが居るの?」
「ええ。ちょっと変わった姉でしたけど…」
「あんたも十分変わってるっての。…でもあんたに変わってるって言われるぐらいなんだから侮れないかもね…」
「ちょっと園子…」
あはは、大丈夫ですよ蘭さん。
そう言って困った様に笑うのは本堂瑛祐。
彼は少し前に蘭と園子の高校へ転校してきた青年だった。
転校してきて随分と経つし、元々明るい瑛祐は蘭達とすぐに打ち解けた。
やはり友人と言うものはある程度仲良くなるとその身の上話になったりするわけで、彼等もその真っ最中である。
「どんなお姉さんだったの?」
そう子供らしく問い掛けたのは蘭達と共に下校しているコナン。
現在は黒の組織と関わりのある水無怜奈と言うアナウンサーについて調べており、彼は瑛祐が彼女の身内なのではないかと目星をつけていた。
その為に自然と蘭達の間で持ち上がった瑛祐の身の上話は大変興味深いものだったのだ。
「うーん…。なんて言うかちょっと怖くて…」
「「怖い?」」
「はい。…皆さんサイコパス診断ってやった事ありますか?」
「サイコパス診断…、ああ!なんか友達同士でやってるの見た事ある!」
サイコパス。精神病質、あるいは反社会性人格障害と呼ばれる極めて特殊な人格を持つ人々の事。
その診断とは普通の人格を持つ人間とサイコパスである人の考え方のどちらを自分が選ぶかと言ったものだったはず。
私も蘭も全然サイコパスの答えじゃ無かったよね!と振り返った園子に蘭が笑顔で頷いた。
「蘭姉ちゃんも園子姉ちゃんもサイコパスじゃないの?」
「うん。サイコパスの方の考え方の人なんて殆ど学校でもいなかったよ?」
「ですよね。…でも僕の姉は見事に全部サイコパス側の答えを出したんです」
え゙。と園子や蘭が顔を青ざめる。
姉は間違いなくサイコパスでした。
目を伏せて言った瑛祐に2人共なんと声を掛けて良いか分からない様子で顔を見合わせる。
冗談として笑い飛ばすには瑛祐の表情は本気だし、かといって本人の姉について怖いと言う訳にもいかない。
「だからどうしても僕の事を大切に思ってくれている姉の事を信じられなくて…。いつか父さんや母さんを殺してしまうんじゃないかと、本気で怯えたりして。」
そ、そのお姉さんって今は一体何を…?
蘭が少し顔を青ざめて問いかけると「失踪しました」と瑛祐が間髪入れずに返答した。
またその答えに園子と蘭が動きを止める。
「…殺人鬼になってたりして」
「ちょ、ちょっと…」
「やめてよ…」
「…え、あ、すみません!怖がらせるつもりは全然なくて!」
ただどうしてるのかなー、みたいな…。なってるとしたら殺人鬼とか…なんちゃってって感じで!
必死に弁解する瑛祐を横目にコナンが考える様に目を細める。
サイコパス、か。そう考えて空を見上げた。
『…今更組織に戻れって言うの?』
「あぁ。俺達とのパイプ役として…な」
『……。分かったわよ。組織についてはまだ私も探り切れてはいないし、結局はまた私か他のCIAを送り込まなきゃならないしね』
呆れた様に水無怜奈…本名、本堂黒凪が言った。
その様子に満足げに笑った赤井は着信を知らせた携帯を見下し静かに病室を去っていく。
赤井が抜けた病室の中には彼と共に病室に訪れていたコナンが立っていた。
じっとこちらを見てくるコナンに黒凪が目を向ける。
『何か気になる事でも?』
「……、もしかして、だけどさ」
『うん?』
「…嬉しかったりするの?」
真剣な顔で言ったコナンに黒凪が少し目を丸くさせた。
何が?すぐに返された問いにコナンはバツが悪そうに目を伏せる。
黙った彼に黒凪が少し眉を寄せた。
「…組織に戻れて、嬉しい?」
『…どうしてそんな事を?』
「(否定はしないのか…)…瑛祐兄ちゃんが言ってたんだ」
瑛祐。紛れもない弟の名前。
その名前を出したコナンに黒凪の目が微かに見開かれた。
黒凪さん。貴方は…。
ゆっくりと交わった視線に黒凪が表情を無表情に戻す。
「…貴方はサイコパスだって」
『……ふふ。瑛ちゃんったら、まだそんな事を…』
コツ、と足音が聞こえた。
はっと2人が扉の方に目を向ける。
硬い床に打ち付けられるヒールの音。
この足音は赤井のものではない。看護師もヒールは履かないだろう。
「…(誰だ…?まさかベルモットなんて事は、)」
『扉の後ろに隠れなさい』
「!」
『FBIの人間じゃなければすぐに反撃できるようにね』
無表情に言った黒凪にコナンの脳裏に過去の記憶が過る。
瑛祐とのサイコパス診断の話をした後に実際にやってみたのだ。サイコパス診断というものを。
コナンは声を潜め、徐に黒凪に目を向けた。
「それって、自分が相手に対して優位に立ちたいから?」
『?…ええ。当たり前じゃない』
――…姉さんは、サイコパスと同じ答えを笑顔で答える人でした。
サイコパスと同じ答えを、ごく当たり前の様に言う人でした。
たかが診断です。でも僕はそんな姉がとても怖くて。…ただ只管怖くて。
扉が開かれる。黒凪は眠る様に目を閉じた。
「…シュウ?」
「!(ジョディさん…)」
「……いないわね…」
そう呟いて去って行ったジョディを見送り、コナンが黒凪に近付いて行く。
黒凪の目がゆっくりと開かれ静かに扉を睨む。
その冷たい視線にゾクリとした。
『…さっきの質問の答えだけれど』
「…え」
『ほら、組織に戻れて嬉しいかって』
「あ、うん…」
…嬉しくないと言えば、嘘になる。
その言葉に予想はしていたものの、理解出来ない考えに思わず息を飲んでしまう。
黒凪はゆっくりとコナンに目を向けた。
『やっぱり理解出来ない?私の事は』
「…うん、」
『そう。…そうよね。それが普通だわ』
でも組織の人間は私みたいなのが普通なのよ。
その言葉に、彼女の真意の全てがある様な気がした。
私は父を犠牲にして組織に潜入したわ。父は頭の良い捜査官だったけれど、やはり組織には何か違和感を抱かれていた様でね。
その違和感が彼等との…私との違いだったんじゃないかと思うの。
『父さんは彼等と違ったから疑われていた。…私は違わないから、コードネームまで与えられて。』
「……」
『…あそこは居心地が良いわ。駄目だって分かっているけれど、共感してくれる人が沢山居るのよ』
この仕事が私の天職だと思う。
私は彼等の様な集団に紛れ込んでも違和感なく生きていられる。
…私はきっとおかしいのね。
『だから瑛ちゃんにもあんなに怖がられるんだわ。…貴方も私が怖いんでしょう?』
黒凪の言葉にコナンは何も言えない。
彼はジンと初めて出会った時の様な言い知れぬ恐怖を感じていた。
確かに彼女は奴等と同類なのだろう。そしてその事に、少なからず悩んでいるのだろう。
「…奴等の仲間になっちゃったりしないよね?」
『…ええ。』
だって私、きっと彼等の事は好きだけれど、嫌いなんだもの。
曖昧で、矛盾だらけな言葉。しかしこれが彼女の本当の気持ちなのだろうと理解出来る。
『…貴方はこんな私を、信じてくれる?』
「…うん」
曖昧な言葉
(キール)
(何かしら)
(赤井秀一を呼び出して殺せ。それで今回の件はチャラにしてやる)
(…あら本当?じゃあ張り切って殺しましょうかね)
(そう言って笑った彼女の顔は作り物にしてはあまりに自然で、)
(本物にしてはあまりに悲しげなものだった)
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