本編
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紅蓮の烽火
「龍之介!龍之介、何処だ!?」
「…何だよ永倉…。」
「ちょっと来い!」
「はぁ…?」
引き摺られて外に出された龍之介。
彼は一足先に外に出ていた様子の原田と芹沢を見ると「え゙、」と目を見開いた。
中に戻ろうとする龍之介を捕まえたままの永倉が歩きながら引き摺って行く。
やがて着いた場所は島原で、芹沢に誘われた永倉が原田と共に無理やり同行させられたのだと理解した。
「ったく、何処がちょっとだよ…」
「龍之介」
「あぁ?」
名を呼ばれて振り返ると原田がくいと顎で龍之介の右側を示した。
そこには子鈴が立っている。
何で、と振り返った龍之介に原田が「俺が呼んだ」と笑った。
そんな原田に「お前…!」と驚いていると子鈴がすっと龍之介の隣に座りにこりと笑う。
「逢状を頂いたんですけど、手違いどすか?」
「あ、いや…その、」
「芹沢さんは俺と新八に任せとけ。」
にやにやとした表情で言った原田が去って行き困った様に息を吐いた龍之介。
そんな龍之介に心配げに子鈴が眉を下げた。
「ほんまに手違いやったら言うてください。すぐに退きますから…」
「い、いや!違うんだ!」
「…違うんどすか…?」
『あぁ。照れてるだけだ』
何言ってんだよ!と口には出さずに黒凪に叫んで入れ替わる。
すると子鈴は「そうどすか…」と微かに頬を染めて言った。
もごもご言ってるだけじゃどうにもならないでしょ。
サラッと言った黒凪に龍之介が頬を赤く染めた。
「…その印籠、何か入れてはるんですか?」
「へ!?…あ、あぁ…これか…」
期待してる所悪いが、何も入ってねーんだ。
そう言った龍之介が印籠を開くとやはり何も入っていない。
昔は母親が罹ってた病の薬を入れてたんだが、もう必要がなくなって…。
そんな龍之介の顔を見上げた子鈴の表情が曇った。
「そんな顔しないでくれ、別に俺はもう気にしちゃいないし」
「…すんまへん、うち…」
「大丈夫だって。…それより見てくれ、この印籠は二重底になってるんだ」
パカッと開いて見せた龍之介が眉を下げて笑った。
これなら人に見られたくない物を隠す事が出来るだろ?
話題を変える様に言った彼に子鈴も小さく笑った。
そして印籠をじっと見ていた子鈴が徐に顔を上げる。
「明日、うちと会って貰えまへんか?」
「へ?」
「その印籠に入れられるもの、うちが何か見繕います」
「え、あ、あぁ…」
間髪入れず黒凪が「ありがとう」と龍之介と入れ替わって言った。
そして嬉しそうに微笑んで見せた黒凪に安心した様に子鈴が笑う。
夜も更け、微かな橙色の灯の中で金色は目立ちにくい。
彼女は龍之介の変化には全く気付いてない様だった。
「…よう。どうだった?龍之介。」
「おかげでかなり話せたよ。…明日も会う事になった」
「お、やるじゃねぇか。」
「別にそんなんじゃねぇよ」
原田から目を逸らして言った龍之介。
そんな龍之介を見た原田は小さく笑った。
やがて翌日になり待ち合わせの場所へ急ぐ龍之介。
辿り着くと既に子鈴が立っていた。
「子鈴、」
「井吹はん!」
嬉しそうに笑って此方に来た子鈴に照れた様に笑う龍之介。
子鈴は笑顔のまま龍之介の手元に小包を差し出した。
受け取った龍之介は中身を確認し目を見開く。
「金平糖…?」
「馴染みのお客さんにもろてたんどす。よければもろて下さい」
「(馴染みの、客)」
ズキッと痛んだ龍之介の胸元に黒凪がピクリと眉を寄せた。
龍之介はそんな痛みを気にする素振りも見せず子鈴を近場の茶店に連れて行く。
席についた2人は向かい合うとサッと目を逸らした。
そして龍之介ば中゙で気だるげに寝転んでいる黒凪を見ると徐に口を開く。
「なぁ、アンタのその口調って素なのか?」
「え?」
「あぁいや、知り合いの女が随分と汚い言葉を使うもんで…」
『(私の事か?)』
そーだよ、と内心で呟いた龍之介は取り繕う様に笑った。
すると子鈴も小さく笑い口を開く。
「勿論違います。」
「!」
急に変わった口調に目を見開く龍之介。
子鈴は照れた様に笑うと再び口を開いた。
これが私の元の口調。
…さっきまでの口調に慣れるまで随分掛かりました。
困った様に言った彼女に龍之介も微笑んだ。
「舞子には自分から成ったのか?俺はそこの所の事情は全然知らねぇんだが…」
「…自分から花柳界へ入ったわけじゃありまへん…、あ。」
ふふ、すっかり染み付いちゃいましたね。
また困った様に言う子鈴に龍之介も眉を下げた。
元々私は貧しい農家の娘でした。
徐に語り始めた彼女に黒凪も龍之介と共に耳を傾ける。
「私は島原に売られたんです」
「!!」
「本当はこんな所、今すぐにでも抜け出してしまいたい。」
でも逃げたりしたら。
それ以上は言わない子鈴に龍之介がゆっくりと視線を落としていく。
黒凪も目を伏せた。
ぽたた、と微かに音が鳴りばっと顔を上げる。
「ご、ごめんなさい。…弱音を吐く気なんて無かったの」
「あ、いや…」
「…もう帰りましょ。井吹さんもお忙しいでしょうし、」
涙を拭って言った彼女に何も言えない龍之介。
もやもやとしたままで別れた龍之介は帰り道も黒凪に何も言う事は無かった。
とぼとぼと帰る龍之介に黒凪も声を掛ける事はしない。
「…俺はどうすれば良いんだろうな」
『知らん。』
「……。んなテキトーに返すなよ…」
『…、惚れたの?』
眉を下げて仕方無さ気にそう問うた黒凪に龍之介が目を向けた。
彼の弱り切った目を見た黒凪は龍之介を光の下から引っぱった。
表では龍之介が突然気を失い倒れた形になる。
龍之介は伏せていた顔を徐に上げた。
「…かも、しれない」
『はっきり良いな。』
「…惚れた」
『…ふーん…』
ふーん、ってお前な…。
眉を寄せて言った龍之介は黒凪の表情に目を見開いた。
良かったじゃない。彼女は見た事も無い様な笑顔でそう言った。
…凄く柔らかく温かい笑顔だった。
『じゃあその惚れた女とこれからどうしていきたいの』
「…まずは島原から出してやりてぇ。でも金はねぇし…」
『だったら攫えば良いんじゃない?』
「はぁ!?」
私とお前なら出来る。
黒凪の言葉に動きを止めた。
ま、考えときな。あの子を攫う事は出来る。
後はアンタの問題だ。
龍之介が怪訝に顔を上げた。
『芹沢にはなんと言って浪士組から抜ける?』
「!」
『生憎な事に私達は羅刹を見ている。簡単に抜けられはしない』
…ま、力尽くならどうにかなるだろうけど。
そう言って黒凪が龍之介に目を向けると彼は首を横に振った。
そんな風に抜けたくはないと言う事だろう。
フッと笑った黒凪は「んじゃあどうするか自分で考えな」と彼の背を押した。
はっと目を見開いた龍之介はゆっくりと背を起こす。
「…本当に邪魔だよね。」
「!」
沖田の声に目を見開いた龍之介が静かに立ち上がり声の方向へ進んでいく。
すると芹沢を抜いた幹部達である土方や沖田達が1つの部屋に集まっていた。
恐らく話しているのは芹沢の事だろう。
彼が最近いつにも増して暴挙を繰り返している事は噂でかねがね聞いている。
つい数日前も悪徳商人だと判断して独断で大和屋を火の海にした所だ。
『(もっと息を殺して)』
「!」
『(気付かれれば余計に浪士組から抜けられなくなるよ)』
話に夢中になっていた龍之介は黒凪の言葉に改めて息を潜めた。
特に最近は浪士組の評判を上げようと土方達が奮闘している様だし、余計に彼等にとって芹沢は邪魔なのだろう。
その会話を聞いていた黒凪はくっと笑った。
『(随分嫌われたねぇ)』
「(…あぁ)」
『(暗殺でもされそうなぐらい。)』
゙暗殺゙の2文字に目を見開いた龍之介だったが確かに彼女の言う通りだった。
これ以上好き勝手やっていると本当に暗殺されかねない。
…浪士組だけではなく町の人々にも。
「(芹沢さんはこんなに敵を作って一体何を考えてるんだ?)」
『(さあ。…ちょっと観察してみる?)』
「(はぁ?芹沢さんをか?)」
『(うん。何か分かるかもしれないし)』
そうと決まればさっさと行こう。
入れ替わった黒凪が足音を殺して屋根に飛び移り周りを見渡した。
んー…。芹沢は…。
そう呟いて見渡していると彼の屋敷に本人が姿を現した。
あちらも黒凪に気付いた様で扇子で「来い」と此方に命令している。
黒凪は素直に其方に向かった。
『…龍之介、代わるからな』
「へ?うわっ!」
「何をしている。犬」
屋根から飛び降りた所で交代した龍之介は着地に失敗して芹沢の前で倒れた。
それを見た芹沢は鼻で笑うと「ついて来い」と背を向ける。
地面にぶつけた胸元を擦った龍之介は何も言わずついて行った。
「昼間っから酒かよ、芹沢さん…」
「喧しい。良いから追加の酒を頼んで来い」
これで何本目だよ…。
そう呟いて廊下に出た龍之介は追加で酒を持って来てくれと声を掛けた。
そうして部屋に戻ると「芹沢はん!?」と焦った様な声が聞こえてくる。
目を見開いた龍之介はすぐさま部屋に入り込み倒れている芹沢を見て更に目を見開いた。
「芹沢さん!?大丈夫かよ、おい!」
「……誰だ、お前は…」
「…は?」
「何故俺はこんな場所に…」
目を見開いて周りを見渡す芹沢に黒凪が眉を寄せる。
暴れ出した芹沢を見た龍之介はすぐさま黒凪と交代し彼女が芹沢を抑えに掛かった。
力で黒凪に敵わない芹沢の鋭い眼光が黒凪に向く。
『しっかりしろ。』
「何だお前は…!」
「俺だ、井吹龍之介だよ!目を覚ませ芹沢さん!」
眉を寄せた黒凪と交代した龍之介がそう声を荒げた。
その声を聞いた芹沢はパチパチと瞬きをしてゆっくりと龍之介を見下す。
正気に戻った彼の様子に息を吐いた時、背後で「あれは芹沢か!?」と驚いた様な声が響いた。
何だよ次から次へと…。そう思って振り返れば武士が数人此方を睨んでいた。
『(…あ。暗殺じゃない?)』
「んな堂々とした暗殺があるかよ…!」
「ほう、暗殺か。」
芹沢が調子を取り戻した様子でニヤリと笑った。
勝てる自信があるなら来い。
そう言った芹沢に武士達が刀に手を掛けた。
「…黒凪」
『あいよ。』
「引っ込んでいろ」
『酔っ払いが何言ってんだよ』
止めておけ。
そんな低い声が響いた。
その2人には貴様等が何人束になっても敵わん。
声の方向を見た黒凪は目を見開いた。
金髪赤眼の日本人らしからぬ姿を持つ男だった。
『…人じゃないな、お前』
「?…ほう…」
『…。芹沢さん、行くぞ』
「命令するな。犬が」
降って来た扇子を掴み取り彼の手首に手を回す。
そうして引っぱって行くと「待て」と男が此方に目を向けず声を掛けてきた。
ギロ、と目を向けると男の目もゆっくりと此方を映す。
「貴様も気付いているのだろう?その男は病に侵されている」
『!』
「立っているのもやっとの筈だ」
「…離せ。犬」
黒凪は手を離そうとしない。
その様子に眉を寄せる芹沢。
お前は何だ?
男を睨んだままそう言った黒凪。
男は薄く笑った。
「貴様こそ何者だ。…我等と同類では無いな…」
『…お前の様な奴は度々町で見かける。』
人間に紛れる事が上手いものだ。
皮肉にそう言った黒凪に男の目が細まった。
人に紛れないと生きれぬ様な種に名乗る名は無い。
一歩下がって芹沢を支える様に体勢を変えた黒凪は共に男の前から去って行った。
「…離せ。もう構わん」
『……人間ってのは随分と弱いんだな』
病などと言うものに侵されて無様に死んでいく。
色町から出た所で離された手に芹沢が目を向けた。
だからこそ人から外れた力を求めるのかもしれないが。
そうとだけ言って龍之介と入れ替わった黒凪。
彼女は龍之介の中で不機嫌な様子で目を閉じた。
人は弱い。
(なんでお前はその、病とか人じゃないとか分かるんだよ…)
(勘だよ、勘)
(勘!?)
(うん。)
(うんって、えぇ!?)
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