本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
闇より咆哮
「…黒凪。」
「!…今は違う。龍之介だ」
「だったら交代してくれねぇか。反応はするんだろ?」
「……。」
龍之介が徐に目を伏せ瞳が金色に染まった。
金色の瞳が土方に向かうと彼は徐に眉を下げる。
偶然通りかかった沖田は土方と龍之介を見つけるとすぐさま壁に隠れた。
「一言礼をと思ってな」
『礼?』
「あぁ。…総司を止めてくれてありがとう」
『!…別に良いよ。こっちこそ悪かったな、殿内を殺して。後始末大変だったろう』
それは構わねぇよ。
それにお前が殺さなきゃまた総司がしつこく殺してただろうしな。
それを見越しての殺しだろう。
土方の言葉に何も返さない黒凪。
沖田はぐっと拳を握った。
「近藤さんもアンタには感謝してた。芹沢さんには甘いと言われるだろうが、あの人は総司の手が血に染まる事を極端に嫌がってる」
『……。』
「感謝してる。…アンタには犠牲になって貰った形になるがな。」
『構わないさ。…犠牲になるのは慣れてる』
沖田と土方が同時に目を見開く。
土方を見た黒凪はフッと笑い龍之介と交代した。
龍之介は目の前に居る土方を見上げ居心地が悪そうに目を逸らすとそそくさと離れて行く。
その背中を見送り土方は徐に空を見上げた。
「犠牲になるのは、」
「…慣れてる。か」
龍之介がボソッと呟いた。
するとドンッと芹沢に正面からぶつかり尻餅を着く。
犬が。前を見て歩かんか。
相変わらずの憎まれ口に眉を寄せるとぽいと頭に向かって放り投げられる紙切れ。
紙切れを覗き込むと紙にば墨゙と書いてあった。
「買ってこい。」
「はぁ!?」
「今すぐだ。行け」
「~っ、ったく…!」
ドタドタと不機嫌な顔をして歩き出した龍之介。
それを横目に鼻で笑った芹沢はまた悠々と歩き出した。
「墨…、墨は…」
『(龍之介、あの店)』
「あ。あった」
墨と大きく書かれた店に入り込み店主に墨の有無を問う。
すると店主は龍之介の腰にぶら下がった刀を見ると露骨に眉を寄せた。
ありまへんなぁ。と冷たい口調で言った男に「はぁ?」と龍之介も眉を顰める。
「此処は墨屋だろ?1つも無いのか?」
「そうは言うても今日はもう全部売れましたわ。お引き取りを。」
「全部売れたってまだ昼間…」
「すんません旦那はん。この方は私の知り合いなんどす。1つだけでも残ってまへんか?」
へ?と声に目を向けると数日前に島原で会った若い舞子の…。
誰だっけ、と問うた黒凪に「確か…子鈴…?」と声には出さず言った龍之介。
すると店主はコロッと態度を変えて墨を探し始めた。
やがて墨を出して来た店主に料金を払い用を済ませた彼女と共に外に出る。
「…助かったよ、ありがとな」
「いーえ。京には東言葉の方を苦手に思う人が多いんどす。それにお侍さんもちょっと怖がってはるみたいですわ」
「やっぱそうだよな…。露骨に刀を見てたから」
「ふふ、お客さんはそんな方やないのにね」
あ、すんまへん。うち名前知らんから…。
そう言った子鈴に小さく笑った龍之介は「井吹龍之介だ」と名乗る。
すると子鈴は「覚えました」と笑った。
その笑顔を見た龍之介は徐に子鈴の顔を下から覗き込み眉を寄せる。
「それより額は大丈夫か?芹沢さんにお猪口投げられてたろ」
「あぁ、大した事はありまへん。もう治りましたわ」
「そっか、良かった…。にしてもアンタ、あの時はよく芹沢さんに歯向ったよなぁ。ああいう所で働いてるならもうちょっと上手く立ち回れば良いのに…」
「…ああいう所?」
聞き返して来た子鈴に「だってあそこは客に酌をして良い顔をしてりゃあ金を貰える所だろう?」と悪気のない顔で言った。
しかしそんな龍之介に向けられた子鈴の目は酷く鋭く怒りを含んでいて。
その顔を見た黒凪はすぐさま龍之介を押し退けた。
そして頬の側まで迫った彼女の平手をパシッと掴み取る。
「っ!?」
『危ないな。』
子鈴は掴まれた手に目を向け驚いた様に目を見開いた。
黒凪は真っ直ぐに子鈴を睨むと徐に手の平に力を籠める。
龍之介の握力に眉を寄せた子鈴は「いた、」と思わずと言った風に呟いた。
するとそれを見た龍之介がすぐさま黒凪を押し退け子鈴の手を離す。
「す、すまない!いきなりだったもんで驚いて…」
「うち等の事なんやと思てはんの…?」
ぽたた、と落ちた涙に龍之介が大きく目を見開いた。
子鈴はキッと涙の浮かんだ目で龍之介を睨み走り去って行く。
あ、と手を伸ばした龍之介だったが子鈴の涙に対しての衝撃が大きく足を踏み出せなかった。
すると偶然通りかかった原田が唖然と立ち尽くしている龍之介を見つけ彼の肩をぽんと叩く。
「馬鹿野郎!お前そんな事舞子の嬢ちゃんに…!」
『おっと。』
「っ、黒凪!お前龍之介に甘すぎるんじゃねぇのか!?」
『何がだよ。…ったく、どいつもこいつも龍之介に平手しようとしやがって』
平手するべき事なんだよ…!
そう言って掴みかかってくる原田に抵抗する黒凪。
すぐさま龍之介が間に入る様に入れ替わり原田に押されて転がって行く。
そんな龍之介に息を吐いた原田は何も言わず彼の首根っこを掴み島原まで歩いて行った。
「ちょ、なんで島原…!」
「謝んだよ。」
「何を!」
「良いから詫び入れろ!お前嬢ちゃんに何言ったか分かってんのか!」
分かんねえ!
苛立ったように言った龍之介にため息を吐いて子鈴の居場所を聞き出す原田。
やがて2人は子鈴が稽古をしている建物の前に辿り着き稽古が終わるのをその場で待った。
暫くして稽古が終わると子鈴が2人の前に出て来る。
子鈴は龍之介を見て微かに眉を寄せた。
「ほれ、龍之介。謝んな」
「…チッ、分かったよ…」
「うちが怒った理由も分からず謝るんどすか?」
すぐさま向けられた厳しい声に頭を下げようとしていた龍之介が動きを止める。
顔を上げれば依然鋭い目が龍之介を射抜いていた。
井吹はんはうちらの事を何も分かってないんどす。
彼女の言葉に眉を寄せる。
「うちらは適当に此処で働いてるんやない」
「!」
「必死に磨いた芸や踊りで、血ぃ吐く思いで必死に働いてるんどす!」
子鈴の言葉に龍之介が大きく目を見開いた。
悪かった、呟く様に言った龍之介に子鈴が微かに目を見開く。
悪かった!改めて言った龍之介はばっと頭を下げた。
「俺、あんた等の事何も知らず…!」
「……。」
『(ケッ、頭下げてやんの。)』
「…もうええです。顔上げてください、井吹はん」
黒凪の言葉に多少苛立った様子で顔を上げた龍之介。
彼の顔を見た子鈴は眉を下げ彼の頬に手を伸ばした。
うちも叩こうと思てすんまへん。
そう言った彼女に「いやいや!」とすぐさま距離を取る。
「結局叩かれてはないんだし…」
「そうは言うても叩こうとした事に変わりはありまへん。」
「…別に構わない。俺の方が悪かったし…」
眉を下げて言った龍之介に微笑んだ子鈴はゆったりとした動作で頭を下げた。
今度また見に来てください。うちの芸。
そう言った彼女に「でも俺は此処に来る金なんて…」と困った様に言う。
そんな龍之介に眉を寄せた原田はベシッと彼の頭を叩き「はいって言っとけ」と小さな声で言った。
「…解った、また来るよ」
「!…えぇ。待ってます」
にっこりと嬉しそうに言った子鈴に頬を染めた龍之介はバッと目を逸らす。
その様子を゙中゙で見ていた黒凪はまた「ケッ」とイラついた様子で目を逸らした。
…人間なんかに謝る必要無いのにさ。
「(人間なんかって、なんか恨みでもあるのかよ。)」
『(あるっちゃある。でもお前には教えない。)』
「(はぁ!?…ったく、どいつもこいつも…)」
「すげー!めっちゃ良いなコレ!」
『…んだよ、昨日の熱がまだ収まってねーのか…?』
「お前こそなんだよ龍之介…じゃねえな、黒凪か」
「随分寝てたなぁ」
昨日は会津公の所に行って正式に認めてもらった日だったし、その勢いで夜通し酒飲んでたのはお前等だろ。
その所為で龍之介は二日酔いで潰れてんだよ。
呆れた様に言った黒凪に「弱っちぃ奴だな」と皆が笑った。
そんな彼等の手には浅葱色の羽織が握られている。
『なんだそれ』
「俺達の隊服だよ。芹沢さんが作ってくれたんだ」
『へー…。粋な事をするじゃないか』
「偉そうに物を言うな。犬が」
おっとっと、と飛んで来た扇子をパシッと掴み取った。
そして同じ様に芹沢に投げ返すと彼も難なくそれを掴み取る。
袖を通しても構いませんか?と近藤が声を掛けると芹沢は上機嫌な様子で「構わん」と返事を返した。
『派手な色だな。これなら仲間割れはしなさそうだ』
「あぁ。目立つから俺達の名も知らしめる事が出来る」
「それを羽織って名を上げれば隊士もやがて集まるだろう。…見回りにでも行って来い」
羽織を掴み土方に投げる芹沢。
それを掴み取った土方は小さく微笑んだ。
意気揚々と出て行った彼等を見送った芹沢は「失礼」と一言掛けて入って来た男に目を向ける。
黒凪も其方に目を向けると徐に目を細めた。
「幕府より遣わされました、蘭方医の雪村綱道と申します」
「あぁ、待っておったぞ。中へ入れ」
中に通された綱道を見た黒凪は屋敷の奥へと進む芹沢について行く。
そんな黒凪を見た芹沢は徐に口を開いた。
「土方達が戻ってきたら俺の屋敷に呼べ。それまで此方には近付くな」
『!…良いのかい、アンタを護ってやらないぞ?』
「フン。構わん。」
小さく笑った黒凪は芹沢から離れると塀を軽く跳び越えて去って行った。
その様子を見ていた綱道は芹沢に「あの男は?」と問いかける。
すると芹沢は振り返りニヤリと笑う。
「何、只の犬だ」
「犬?」
「あぁ。少し腕っぷしの強い奴だがな」
もう何も言う気はないのだろう、芹沢が背を向けて歩いて行く。
もう一度チラリと黒凪が去って行った方向を見た綱道も何も言わず後ろをついて行った。
「もう夜になるぞ…」
「あぁ。土方さん達、芹沢さんの屋敷に行ってから全然出て来ねぇな」
『…。』
「…龍之介はまだ二日酔いか?」
原田の声に「あぁ」と返して振り向かない黒凪。
そんな黒凪に沖田が片眉を上げた。
何か気になる事でもあるの?
そう問うた沖田にも目を向けない。
『別に。一瞬仲間を見つけたかと思っただけだ』
「仲間?」
『あぁ。人間じゃないのがいたんでな』
「人間じゃない…?」
そう斎藤が訊き返した時、芹沢の屋敷の方から男の叫び声が聞こえた。
ばっと立ち上がった面々が顔を見合わせ其方に走って行く。
黒凪も徐に立ち上がると一気に走り出した。
「くそっ!開かねえぞ!」
「おい土方さん!一体何があったんだよ!」
「何なんだこいつは…!」
「トシ、気を付けろ!斬られるぞ!」
土方と近藤の声を聞いた面々は顔を見合わせ扉を力尽くでこじ開けようとする。
それを横目に塀に飛び乗った黒凪は難なく屋敷の中に入り込んだ。
そして声のする方へ向かうと白髪の髪をした男が暴れている。
芹沢は黒凪を見つけるとまたニヤリと笑った。
「…面白い。おい犬!」
『あ?』
「この男を倒せ」
『……。』
ぐるるる、と低い声で唸る男に目を向けた黒凪。
ゆっくりと腰を下ろした黒凪に土方達が目を向けた。
飛び掛かって来た男を掴んだ黒凪が地面に叩きつける。
ゴキッと骨の折れる音が響いた。
『…!』
「グアァアア…!」
『…首の骨、折ったのにな』
次は腕を掴み力尽くで引きちぎった。
それでも痛みを感じていない様に掴みかかってくる男に目を見開いて徐に笑う。
そんな黒凪の表情に土方達が目を見開いた時、遅れて沖田達が中に入って来た。
「ヒャハハハ!」
『…あれ?折れた首の骨はどうした?』
普段と何処か違う黒凪の口調に沖田達が眉を寄せる。
龍之介の顔には飛び散った血が付着していた。
その血を見た原田や永倉が目を見開き刀を抜く。
「退け黒凪!」
『?』
原田と永倉が男を斬り付ける。
飛び散った血に「やったか、」と目を細めた2人だったが男の手がばっと伸び2人を殴り飛ばした。
吹き飛んできた2人を受け止めた黒凪は男を見ると小さく笑う。
『退いてな』
「ば、お前だってあぶねぇんだぞ!?」
『馬鹿言うな。私は夜兎だ』
「!」
お前等人間とは違う。
ドサッと2人を地面に降ろしてゆっくりと男に近付いて行く黒凪。
その手を掴んだのは斎藤だった。
「女子の出る幕では無い」
「そ、そうだ!俺等に…」
『くく、今更何言ってんのさ』
黒凪の金色に染まった目が斎藤に向いた。
男ってホント意地っ張りだね。
その言葉に目を見開いた時、力尽くで手を振り払われ黒凪が男に向かって行く。
奇声を上げて腕を振り上げる男の懐にするりと潜り込みその胸元に手を突き刺した。
『これでどーだ。』
「ぐ…」
ずぶっと手を引き抜くとその右手には血まみれの心臓が握られている。
男の目にその心臓が映ると男は目を見開いてその場に倒れた。
その様子を見た黒凪が興味を無くした様に心臓を放り投げる。
地面に落ちた心臓に目を細めた芹沢は「くくく」と堪え切れない様に笑った。
「やはり犬には敵わぬか」
『当たり前。』
「本来の姿が垣間見えておるぞ」
『!…やべ。つい楽しくて口調が出ちまった』
いつも通りの男口調に戻った黒凪。
そんな黒凪を見ていた土方は全員中に集まってくれ、と声を掛ける。
皆は神妙な顔でその言葉に頷いた。
「―――変若水…?」
「ええ。これを飲めば著しく戦闘能力が向上し、また驚異的な治癒能力を手に入れます」
「しかし同時に理性を失い、正気でいられなくなっちまう。…アイツの様にな」
土方達の口から先程の男は元はこの浪士組の隊員である事が知らされた。
皆一様に嫌な顔をしたが続けられる綱道の言葉に耳を傾ける。
変若水を飲んだものを羅刹と呼んでいる事、そしてその力を奮う事が出来るのは夜だけだと言う事。
それらを一通り説明し終えた所で土方が口を開いた。
「芹沢さん。俺はこの薬に関しての実験は反対だ」
「私も同意見です。あれでは戦力としては…」
「これは幕府からの命令だ。武士ならばどんなに理不尽な事であろうと受け入れろ」
変若水に改良の余地はある。問題無い。
そう言った芹沢に皆が一様に黙る。
これからは綱道を中心に新見も加わり変若水の改良を行っていく。
芹沢の言葉に新見が驚いた様に振り返った。
「せ、芹沢先生!?」
「良いな。新見」
「っ!…はい…」
「では私も手を貸す形で協力致します。」
山南の言葉に土方達が振り返った。
確かに芹沢さんの言う通り、我々に上からの命に背く権力も地位もありません。
彼の言葉に皆一斉に押し黙った。
「…解った。とりあえず会議はこれで終わりだ。この事は他言無用…良いな」
『……。』
皆何も言わず立ち上がり部屋から出て行く。
黒凪も最後に芹沢を見ると部屋から出て行き自室に戻った。
するど中゙で「おい、」と龍之介の戸惑った様な声が響く。
「(大丈夫だったのか?羅刹って奴と戦って…)」
『(問題無い。あれぐらいの奴なら次はもっと楽に殺せるさ)』
「(…そっか)」
とにかくお前が無事で良かったよ。
ボソッと呟く様に言った龍之介に目を向け眉を下げた。
…一著前に女扱いすんなって言ったろ、龍之介。
変若水と羅刹と、そして
(人間は昔から勝つ事しか考えてない。)
(…変わらないね、ホントに)
.