本編
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「るせえ!武士なんか大嫌いなんだよ!!」
あは、良いね。家族を捨てたんだ?
…あれ、泣いてる?悲しいの?
「んな事ねぇよ…!」
『あんなに毛嫌いしてたのに』
「だから!」
男ってホント意地っ張りだね。
そんなに去勢張る必要ある?
もっと素直になりなよ。
「……。俺、京に行くよ」
京?…何、そんな刀引っさげて。
まるで武士だね。
くくくと笑った声に眉を寄せる。
こいつは誰だ?いつから俺の中に居る?
悪魔の様に囁いた
『…は?』
目を覚ませば倒れていた。
驚いて周りを見渡すと森。
あー…と1人呟いて眉を寄せる。
『しまった、寝てた間に追い剥ぎに遭ってたんだ…』
「おい野良犬。」
『…あ?』
「腹が減っているだろう。握り飯をやってもいい」
男の物言いに黒凪が微かに眉を寄せた。
しかし"中"で目覚めた龍之介が黒凪を押し退け表に出る。
思わず出た彼の手を見た男はニヤリと笑いその手から握り飯が落ちた。
目を見開いた龍之介はすぐさま握り飯を追いかけ口に運ぶ。
うえ、ど中゙で黒凪が言った。
「誇りを捨ててでも生きる事を望むか。…野良犬そのものだなぁ」
「……。(黒凪、アイツ襲おう)」
『(ヤダよ。自分でやれば?)』
「…解った」
小さく呟いて振り返り龍之介が拳を握り振り上げた。
男は特に驚いた様子も無く拳を避け龍之介を往なす。
倒れ込んだ龍之介はすぐさま立ち上がろうとするが目の前に扇子を突き出され思わず動きを止めた。
「どうせこのまま死にゆく命。我々について来い。」
「…あ?」
「くくく、良い目だ。ついて来れば餌ぐらいは恵んでやろう」
「ふざけんな…!」
扇子が胸元に向かってくる。
龍之介は気づいていない。
はぁ、と黒凪がため息を吐いた。
「!」
『…野蛮だな。おっさん』
「……瞳の色が変わったな。鬼の様な顔つきになった」
扇子を掴んだまま黒凪が拳を振り上げる。
男は「まあ待て」そう言って黒凪の手から扇子を抜き取り胸元に仕舞った。
思わず動きを止めた黒凪に男が笑う。
「ついて来い。死にたくなければな」
『……。』
「(黒凪!ついて行く事…、っ、)」
中に居る龍之介が苦しげに言葉を止めた。
彼は限界なのだろう。
ため息を吐いて黒凪が小さく頷いた。
馬鹿野郎、そう言って龍之介が表に出る。
しかしその途端に空腹と疲れからその場に倒れ込んだ。
「…良い拾い物をした。これで退屈もしなさそうだ」
男の声を聞いていた黒凪も目を閉じた。
逃げる事などいつでも出来る。
そう言い聞かせて。
『(おい龍之介。おーい)』
《なんてみっともない姿…!父上が見たらどう思うか…!》
《るせえ!武士が何だってんだよ!俺は…俺は!!》
「武士なんか大嫌いだ…!!」
夢の映像に耳を塞いでいた黒凪は目覚めた龍之介に「お、」と目を見開いた。
人間が見る夢は脳が見せている。
頭の中で目覚めている黒凪にはその゙夢゙が大音量で再生されるのだ。
龍之介は跳び起きると己の様子を安心した様に見ている青年に目を向ける。
「よかった、目が覚めたんだな。どうだ調子は?」
「っ…、う、」
「まだ起きない方が良いと思うぜ。お前全身痣だらけだったし」
「痣…?」
フラッシュバックした龍之介の記憶に黒凪が目を向ける。
数人の浪士が龍之介を袋叩きにして荷物を根こそぎ持って行く映像だった。
情けない…。と黒凪が呟くと龍之介が「うっせ」と毒付く。
見渡した龍之介の目が見慣れない屋敷を映した。
「…此処は?」
「あー…此処は浪士組の宿所。場所を言うとあれだ、都の南にある壬生村ってトコ。」
「都?…そっか、此処は京なのか…」
「うん。お前名前は?俺は藤堂平助」
井吹龍之介…。
掠れた声で言った龍之介に「俺の事は平助で良いから!」と人懐こい笑顔で言った。
平助は立ち上がると「飯貰ってくるよ」と言って部屋を出て行く。
起き上がった龍之介は手当てされた腕や肩を見て黒凪の名を呼んだ。
『(何?…だいぶアンタの身体痛んでるね)』
「(まあな。…良いよなお前は。怪我1つねーんだから)」
『(私が゙表゙だったら勝ってたよ。)』
「(違いねえや)」
小さく笑った龍之介と黒凪の耳に微かな会話が入り込む。
浪士組の宿所だと言っていたし人は大勢居るのかもしれない。
すると失礼するよ、と律儀に声を掛けて優しげな男が顔を覗かせる。
平助の代わりに粥を持ってきたと言った男に気を使って龍之介がゆっくりと起き上がった。
「ああ大丈夫かい?なんならまだ食べなくとも…」
『いや、頂くよ。少しでも食べないといけないんでね』
「!…そうかい?ならどうぞ…」
傷が消えた…?
いや、ありえない。そう自分に言い聞かせた男は笑顔で粥を手渡した。
微笑んだ龍之介の目の色は金色だったかなと不思議に思ったがやはり彼は何も言わず部屋を去って行く。
男の気配が遠のいだ事を確認した黒凪は粥を掬い上げ口に運んだ。
「(悪ぃな)」
『(別に良い。大体この身体は空腹過ぎる。怠いったらありゃしない)』
「(…ありがとな)」
食べ終わりまた眠っていると次は平助が入って来た。
彼の手には桶とタオルが握られている。
流石に男に体を拭かれる時に黒凪だと駄目だろうと判断した龍之介が体に鞭を打って起き上がった。
時折痛みに眉を寄せつつ我慢した龍之介は平助に礼を言い寝転がる。
『(体の調子は?)』
「(大分マシだよ。明日には多分…)」
『(…起こせば良かったのにさ。襲われた時)』
「(悪いと思ったんだ。寝てたから)」
龍之介の言葉に小さく笑った黒凪も目を閉じる。
彼もそれに続く様に目を閉じた。
「…イテテ」
『(…何やってんの?)』
「包帯巻き直してんだよ。いい加減此処出て行かねーと」
『(えー。此処ご飯出るし快適でしょ。居ようよ)』
駄目だ。即座に否定して龍之介が立ち上がる。
すると平助が「誰かとしゃべってんのか?」と言いながら中に入って来た。
龍之介は思わず口に出して話していた事に気付くと目を見開きやがて表情を元に戻す。
一方平助は服を着替えた龍之介に目を見開いた。
「どうしたんだその格好?」
「…いつまでも世話になる訳にもいかない。感謝している」
「おいおい、まさか出て行く気じゃ…おい!」
平助の隣を通り過ぎ廊下に出る龍之介。
静止の声を無視して歩いていると平助の声に寄って来たのか2人の大柄な男が顔を覗かせた。
平助はその2人を「しんぱっつぁんと左之さん」と呼ぶ。
龍之介も思わず足を止めた。
「…失礼する。」
「……左之さん、そいつ止めてくれ」
「あいよ。」
「っ!何を…!」
案外簡単に首根っこを掴まれ引き寄せられた。
振り返れば左之さんと呼ばれた男が平助に向かって「誰だコイツ」と訊いている。
平助は彼に礼を言いつつ「芹沢さんが拾ってきた奴だよ」と言った。
その言葉を訊いた龍之介の脳裏に男が過る。
「は、離せよ…!」
「駄目だ。1日泊めさせてもらったんだ、礼ぐらい言って行くのが筋だろ」
「助けてくれって頼んだ覚えはない…!大体、」
むっと眉を寄せた平助達3人。
振り上げられた左之助の拳。
すぐさま黒凪と入れ替わり拳を受け止めた。
『…すまない。助けてくれと言ったのは俺だ。礼を言う』
「は?」
『…って事で俺は出て行くんで』
「待てって。」
怪訝に眉を寄せつつ再び左之助の手が伸びた。
それをヒョイと避けた黒凪は微かに振り返る。
突然身軽になった様子の龍之介を見ていたもう1人の男が徐に口を開いた。
「お前名前は?」
『…龍之介。井吹龍之介。』
「ふーん。俺は永倉新八」
「俺は原田左之助だ。」
へぇ、と言って黒凪が背を向ける。
しかし「待て待て待て」と3人に羽交い絞めにされた。
とりあえず顔洗ってこい、そんで芹沢さんトコ行くんだよ。
そう言われずるずると井戸へ。
黒凪があまり本気を出さずに暴れているとなんやかんやで男3人に引き摺られた。
「…ねぇ。邪魔なんだけど」
「げ、総司…」
「その小汚いの誰?暴れてるんだったらこんなトコ連れて来ない方が良いんじゃない」
「沖田君、口が悪いですよ。そんな事ではまた土方君が怒ります」
土方さん土方さんって煩いなぁ…。
沖田が現れた眼鏡の男の言葉に眉を寄せた。
次は平助がその男を゙山南さん゙と呼び山南が微笑む。
山南の目が龍之介を羽交い絞めにする3人に向いた。
「その方は確か芹沢さんが助けたお方ですね?…一体どうしたんです?3人掛かりで捕まえて。」
「何も言わず出て行こうとしたからよ、とりあえず顔洗って芹沢さんのトコ行けって言ってたんだ」
「原田君らしいですね。しかし芹沢さんは今日は夜まで外出ですよ?」
「…ちょっと待って。近藤さんにお礼は?」
沖田の言葉に眉を下げて小首を傾げる黒凪。
いい加減面倒になった黒凪は龍之介と入れ替わった。
あ!そうだ近藤さんだ!そう言って笑った平助達を見た龍之介は微かに眉を寄せる。
結局顔を洗わされ山南に連れられて近藤の元へ向かった。
「…あの、近藤さんって?」
「近藤さんは我々浪士組の上司です。とても心優しい方ですよ」
そんな会話をしつつ近藤の部屋まで来ると山南が中の近藤に声を掛けた。
此処に来るまでの間に原田、永倉、平助、沖田とは別れている。
近藤は姿を見せた龍之介を見ると「おお、」と笑顔を見せた。
「君は芹沢さんの…。もう大丈夫なのかい?」
「あ、はい。…貴方の口利きで助けて貰ったと訊きました。出て行く前に一言お礼を」
「お礼を言われる様な事じゃないさ。それにしても行く当てはあるのかい?」
「それは…」
口籠った龍之介にまだ此処に泊まっていてはどうだと問う近藤。
すると山南が困った様に眉を下げ人材が多い事に対して嘆く様に近藤を説得した。
近藤も困った様に眉を下げ出て行くつもりだった龍之介も山南に同調する。
ならせめて夕飯だけでもどうだ?と訊いた近藤に山南がまた眉を下げた。
「全く…貴方と言う人は。」
「夕飯ぐらい良いだろう?」
「分かりました。構いませんよ」
「誰に口をきいているのか分かっているのか!?」
突然聞こえた怒号に3人が一斉に振り返る。
龍之介と黒凪は聞き覚えのある声に眉を寄せた。
今の声は芹沢さんか、と顔を見合わせる山南と近藤にやっぱりと目を見開く龍之介。
近藤が立ち上がり龍之介もそれについて行った。
「……。(おい黒凪)」
『(んあ?)』
「(お前が撒いた種だ。芹沢にはお前が行けよな)」
『……臆病者。』
ぼそりと言って表に出た黒凪。
夜の暗い屋敷に灯された微かな明かりが黒凪の金色の瞳に反射した。
外に出るとより一層芹沢の怒鳴り声が聞こえてくる。
どうやら今の今まで芹沢は島原に居たらしくその前に立っている長髪の男に文句を付けられたらしい。
「(げっ、アイツ色町行ってたのかよ!)」
『(馬鹿馬鹿しい。なんで礼なんか…)』
「(お前が付いてくって言ったんだろーが!)」
ぶん、と振り降ろされた芹沢の扇子が男の目の前で止まる。
ギリギリで止まった扇子にいつの間にか集まっていた永倉、原田、平助、沖田達が息を飲んだ。
何故避けなかったと問うた芹沢に男は「俺は間違った事を言ってねぇんでな」と言い返す。
眉を寄せた芹沢は不機嫌なまま去って行った。
「…大丈夫ですか?土方君」
「!…なんだ、皆来てたのか」
「芹沢さんの怒鳴り声が聞こえたものでな。大丈夫か?トシ」
「大丈夫だよ。あんなの毎度の事になるだろうさ」
疲れた様に肩を鳴らせた土方の目が龍之介に向いた。
何だテメェは、と睨む土方に黒凪も静かに睨み返す。
その目を見た土方は微かに眉を寄せた。
「芹沢さんに連れられてきた彼だよ。芹沢さんにお礼を言いたいと帰りを待っていたんだ」
「…ほう。成程な」
「なぁ龍之介。芹沢さんかなり飲んでたし謝るの明日にしたらどうだ?」
「そうそう。芹沢さん酒癖良くねぇからさ」
なら仕方がない。そうするよ。
そう言って笑った龍之介に「あれ?」と土方以外の全員が違和感を感じた。
龍之介は中で「おい!」と黒凪を呼んでいる。
黒凪はお前が代わったんだから我慢しろ、と笑った。
「とりあえず夕飯にしようか。」
「おーし。飯だー」
「おら行くぞ龍之介。」
『酒あるか?』
あるある。と頷いた原田に笑顔を見せた黒凪。
我慢ならなくなった龍之介が入れ替わりため息を吐いた。
目が覚め起き上がる。
チラリと横を見れば永倉、原田、平助がお猪口を片手に眠っていた。
金色の目を瞬かせた黒凪は太陽の光を見ると立ち上がり部屋を出る。
「(あ゙ー…)」
『(よ。酒癖悪いね龍之介)』
「(るせぇ、なんでお前んな強いんだよ…)」
『(あれぐらいの量だったらまだまだ飲めるっての。)』
マジかよ…と眉を寄せた龍之介に少し笑って芹沢の元へ。
彼の泊まる部屋の前では1人の男が葉を掃いていた。
男は龍之介に気付くと理解した様に笑い部屋に案内する。
中に入れば芹沢が龍之介を見てニヤリと笑った。
「おう。貴様の方か」
『…貴様の"方"?』
「あぁ。金色の瞳の方だ。」
『……何の事だか。俺は礼を言いに来ただけだよ』
ドカッと芹沢の前に座り黒凪が徐に頭を下げる。
おお、と龍之介が驚いた様に言った。
お前ちゃんと謝れるんだな、と言った龍之介に「煩い」と眉を寄せる黒凪。
すると芹沢が近付き龍之介の髪を掴んだ。
「もう1人の方を出せ」
『…何の事だか。』
「しらばくれるな。出せ。」
『………。何を言っているんだか。』
微かに笑って言った黒凪の目を見た芹沢がニヤリと笑った。
そして椅子に戻ると側に居た部下を部屋から出させる。
「…俺に恩を感じているなら避けるなよ」
『?』
眉を寄せた黒凪にひゅんと扇子が投げられた。
言葉の意味を理解した黒凪はピクリとも動かない。
扇子は額に直撃し足元に落下した。
「ふん。…貴様何者だ?」
『さてね。俺は井吹龍之介だ。』
「…下手な芝居を打ちよって。」
芹沢が刀を抜いて振り降ろした。
それを見ている黒凪。
すぐさま龍之介に切り替わり彼が刀を避ける。
ドス、と床に突き刺さった刀に顔を青ざめる龍之介を見て芹沢が嬉々として笑った。
「出たな。」
「な、…アンタなぁ! 黒凪が避けないと分かってて…!」
「黒凪? …そうか、金色の瞳をしている方は黒凪と言う名か」
あ゙。龍之介がしまったと口を押えた。
芹沢は笑うと唐突に「お前は今日から俺の犬だ」と言い放ち、不敵な笑みを浮かべた。
馬鹿にすんな、すぐさま芹沢を睨んだ龍之介だったが、芹沢から飛び出した言葉にぐっと口をつぐむ。
「握り飯の恩義を忘れたか? …礼の代わりに働け。」
「あ、あの握り飯を取ったのは黒凪だ!」
『(おい。)』
「いいや違うな。あれはお前だったぞ犬。」
ぐ、と龍之介が言葉を止める。
彼は観念したのか床に膝を着いた。
その様子を見て笑った芹沢は立ち上がり襖を開く。
「今日からお前は犬だ。俺の為に身を粉にして働け。」
「…くそ!恩返しが終わったらすぐに出て行ってやるからな…!」
「あぁ良いだろう。…もう行け。犬」
廊下に出て襖を閉じた芹沢。
それを見送った龍之介は不機嫌なまま部屋を出て行った。
なんっだあの野郎!
(おいコラ黒凪!テメェの所為でこんな事に…!)
(おいおい。私の名前を出した馬鹿は何処の誰だ?ん?)
(う、…あれは咄嗟に…。)
(だったら芹沢について行ったのも"咄嗟"だ。龍之介の身体が悲鳴を上げていた。)
(ぐ、ぬぬぬ…)
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