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サスケ奪還編
「――…あ!サスケ君!」
「おー。ようやく起きたかサスケ」
ばっと起き上がるサスケ。
彼は周りを見渡し、そして窓から見える里の景色に目を見開いた。
所々に傷が入っている里の建物を沢山の人々が治している。
イタチは、巨大な化け物が居ただろ、大蛇丸は、中忍試験は。
振り返ったサスケにカカシが笑顔を見せた。
「サクラ、先生を呼んできてくれ」
「はい!」
走り去ったサクラを見送り「さてと」そう言ってカカシが側の椅子に腰を下ろした。
まずお前が接触したうちはイタチだが。
サスケがピクリと眉を寄せる。
「木ノ葉の上忍達が迎え撃ち里から逃げて行った」
「……、」
「次に里に現れた巨大な化け物だが、あいつはナルトが倒してな」
「!?」
ナルトもその傷で少しの間入院してたが、昨日の内に退院している。
ぎゅっと拳を握るサスケ。
そして悲しい知らせがまだある。
サスケが徐に顔を上げた。
「火影様が大蛇丸の手によって殺害された。そんな中で中忍試験を行う訳にも行かないからな、試験も勿論の事中止だ。」
「!!」
「ナルトは昨日の内に退院しすぐに次の火影を探しに修行の旅に出ている」
「おお、目が覚めましたか」
医師が現れカカシが場所を譲った。
サスケの様子を見て医師が徐に微笑む。
まだ一応この病院で過ごして頂きますが外に出ても大丈夫です。修行も構いませんよ。
その言葉を聞いて起き上がるサスケにサクラが焦った様に駆け寄った。
しかしサスケはその手を振り払いふらふらと扉に向かって行く。
「サスケ。」
「…?」
「明日から俺とお前で修行だ。良いな」
「…今日からで良い」
サスケの言葉に微かに目を見開き眉を下げるカカシ。
出て行った2人にサクラが俯いた。
そんなサクラに声を掛ける者は居ない。
黒凪も、何も言わない。
夕方。
日も落ちかけている中を静かに歩く。
すると前から生傷を抱えたサスケが歩いて来た。
目を見開いたサクラはサスケに駆け寄り顔を覗き込む。
「だ、大丈夫?」
「あぁ。これぐらい平気だ」
「でもあんまり無茶したら…」
「煩い。…黙ってろ」
サスケ君…。
眉を下げて呟く様に言う。
サスケは腕を抑えながらふらふらと歩いていた。
突然体が前のめりになり振り返る。
後ろには誰もいなかった。
「…っ、…サスケ君!」
「…?」
「や、やっぱりそんなに無茶しないで、…お願い」
「……。」
俺は、とサスケが口を開いた。
俺には殺したい相手が居る。
そいつを殺す為に力が要る。
ナルトに負けている場合じゃない。
前方を睨み付ける様にして言ったサスケに目を見開いた。
「(…やだ、)」
『(……、)』
「(サスケ君、何だかおかしい…)」
サクラの心の奥底で薄く金色の瞳が覗いた。
こぽ、と湖の底から音がする。
一瞬其方にサクラが手を伸ばしかけた。
でもサスケの背中を見て引っ込める。
…金色の瞳はまた閉ざされた。
「…っ、(黒凪だったら、どうにか出来るの?)」
ぽろっと涙が零れる。
歩いていくサスケの背中にサクラがぶつかった。
足を止めるサスケ。
その足元にサクラの涙が落ちる。
「…黒凪だったら、振り返ってくれるの?」
「!」
「黒凪だったら話を聞いてくれるの!?」
サスケは何も言わない。
涙がまた落ちた。
黒凪の事が、…好きなの?
その言葉にも何も言わなかった。
「…なんで…?」
「……。」
「黒凪は倒れてるサスケ君より白を優先したんだよ!?私には理解出来ない…!!」
黒凪の考えてる事なんて理解出来ない!
ピクリとサスケが反応を示した。
やっとサクラの本音を聞いた様な気がした。
黒凪は緩く微笑み目を開く。
サスケの背中は思った以上に広い。
「…黒凪が怖いの、」
「…」
「皆黒凪しか見てくれない…、私の事なんて誰も見てくれない…!」
「俺も理解出来ない」
サスケの声に言葉を飲み込んだ。
ゆっくりとサスケが振り返る。
彼の目にははっきりと敵意が見えた。
「あんなにお前の為に動いてたアイツをどうしてそこまで突き放せる」
「そ、れは…」
「俺は黒凪の事を理解出来る。少なくともお前よりはな」
サクラの手を振り払い歩いていくサスケ。
顔を両手で覆ってしゃがみ込む。
そんなサクラに黒凪が徐に手を伸ばした。
『――…サスケ』
「!!」
『あんたなーんも分かってない』
「…黒凪…?」
私が望むのはサクラの幸せだけ。
そこまで私の為に言ってくれるのは嬉しいけどさ。
黒凪が眉を下げて笑った。
『この子は私にとって凄く大事な子なんだ。』
「……っ、黒凪、」
『私はね。』
自分の為に生きてるこの子が大好きなんだよ。
サスケが大きく目を見開いた。
復讐の為に生きてるアンタよりは、断然好きなんだよ。
そうとだけ言ってサクラと入れ替わる。
湖の奥底に再び沈んだ黒凪は1人眉を下げた。
木ノ葉病院。
その一室に慣れた様に入ったサクラはベッドの上で項垂れているサスケに笑顔を見せた。
「おはよう、サスケ君」
「…あぁ」
「修行の度に怪我して帰ってくると怒られない?」
「……あぁ」
素気ないサスケの態度に眉を下げてリンゴを手に取る。
ナイフで皮を剥くサクラをチラリと見てサスケは己の拳に目を落とした。
――…私はね。
自分の為に生きてるこの子が大好きなんだよ。
言葉が過って拳を握りしめる。
「よし、上手に切れた。サスケく…」
サスケの拳がリンゴにぶつかり皿ごと吹き飛ばされる。
皿の割れる音が響き病室の前まで来ていたナルトが焦った様子で中に入って来た。
ナルトの姿にサクラもサスケも同時に目を見開く。
「ナルト!?アンタ帰って来たの!?」
「う、うん…。てかどうしたんだってばよ、すげー音が…」
「…ナルト…」
サスケの低い声にナルトが目を其方に向け彼の鋭い視線に眉を寄せた。
なんだよ、とイラついた様子で言ったナルトを黙って睨み付けるサスケ。
サクラが困った様に眉を下げ話を変える様に口を開いた。
「そ、そう言えば新しい火影様は?見つかった?」
「んえ?…まぁ…見つかったってば」
「じゃあご挨拶に行かなきゃね。黒凪の事も話さなきゃ…」
「ナルト!!」
ビクッとサクラが肩を跳ねさせる。
サスケの怒号に黒凪も微かに目を開いた。
今すぐ俺と戦え…!
低い声で言ったサスケにナルトが眉を寄せる。
「はぁ!?つい最近傷も治って修行始めたとこなんだろ!?それに明日には綱手のばーちゃんがお前の傷を見に来るって…」
「つ、綱手のばーちゃんって?」
「俺とエロ仙人が連れて来た火影の…」
「火影様をそんな呼び方、」
サクラ。口を挟むな。
またビクッと固まるサクラ。
おいおい、とナルトがサクラの前に出た。
するとサスケの写輪眼が向けられナルトも思わず動きを止める。
「五代目だか何だか知らないが余計な世話なんだよ」
「何ぃ!?」
「俺の傷はもうとっくに治ってる。俺と戦え。」
「…っ」
サスケ君、止めようよ。ナルトも何とか言って。
サクラが困った様に2人を見るとサスケが黙って歩き始めた。
ナルトも何も言わず拳を握り付いて行く。
ぐしゃ、とサスケが踏み潰したリンゴが目に入った。
「(どうしよう、)」
『(……)』
ごぽ、と聞こえた水音に黒凪の方へ意識を持って行く。
湖の底で黒凪が目を開いていた。
どうしよう。もう一度声を掛ける。
ゆっくりと背を起こす黒凪に手を伸ばしかけた。
しかしサスケが脳裏に過り手を引っ込める。
「(…私がやるんだ)」
『(…。)』
「(私が、止める)」
目を開きゆっくりと病室を後にした。
屋上に2人を追って辿り着くと既に戦いは始まっていて。
流れ込んできた熱気に目を見開くとサスケが上空に跳び上がり下にナルトが居た。
まずはナルトを止めようと足を踏み出す。
しかしナルトの手に集められたチャクラに足がすくんだ。
「(何…?あのチャクラ、)」
「サスケェ!お前いい加減にしろってばよ!!」
「……なら俺も見せてやる。」
サスケの片手にもチャクラが集まりバチバチと電流の音が響いた。
サクラの頬を汗が伝う。
まずい、と黒凪が体を起こした。
『(サクラ!交代しないと…!)』
「(私が、私がやらなきゃ)」
あぁ、あの時と同じだ。そう思った。
このままじゃサクラと交代する事が出来ない。
サクラが傷ついてしまう。
『(サクラ!!)』
「2人共止めて!!」
『(――どうして、)』
どうして私を頼らないの、サクラ。
そう呟いた時、また耳元で音が聞こえた。
ピシ、と。
「「!」」
ナルトとサスケが同時に目を見開いた。
そしてサクラの両目の色を見て頬を汗が伝う。
どうして黒凪じゃない?
サスケが思った。
このままじゃサクラちゃんが…!
ナルトが眉を寄せる。
『(…駄目だ、)』
意識が、薄れて行く。
黒凪が湖の底に沈み目を閉じる。
ヒビが彼女の頬にまで広がった。
サクラに迫っていたナルトとサスケの手首を掴みカカシが2人を放り投げる。
「!…カカシ先生、」
「……。」
2人はカカシによってそれぞれ貯水タンクに技をぶつけた。
ナルトの技を受けた貯水タンクからは水がちょろちょろと落ち、サスケの方は勢いよく水が噴き出す。
その様子を見てサスケが微かに微笑むと「ナルトを殺す気だったのか?」とカカシの声が掛かった。
「俺はそんな事の為に千鳥を教えたわけじゃあないんだがな」
「…フン」
サスケはカカシから目を逸らし屋上から降りて行った。
貯水タンクの裏側に着地したサスケは徐に顔を上げる。
するとナルトの技を受けた貯水タンクの裏側に大きな穴が開いている様子を目撃した。
裏側に巨大な穴が開いた為に先程は水が少ししか零れていなかったと知るとサスケの脳裏にまた怒りが込み上げる。
「くそ…!」
サスケは壁を拳で殴り去って行った。
息を吐いて前で泣きじゃくるサクラに目を移すカカシ。
その目の前に着地するとサクラの顔を覗き込んだ。
「…黒凪じゃないのに飛び込んだのか」
「……私が止めようと思ったんです」
「!」
こんなに何も出来ないなんて、思ってなくて。
サクラの言葉にカカシが眉を下げた。
んじゃあ俺はサスケの説教に行くから。
ぽんと乗せられたカカシの手に顔を上げる。
「大丈夫。また昔みたいに戻れるよ」
「……」
小さく頷いたサクラに笑顔を見せて去っていくカカシ。
するとナルトがゆっくりとサクラに近付いてきた。
ナルト、と顔を上げるサクラ。
ナルトは眉を寄せて静かに言った。
「…邪魔しないでくれってばよ、サクラちゃん」
「!」
「黒凪じゃないのに飛び込んで来たら危ないだろ」
目を大きく見開く。
ぽろ、と零れた涙に気付かずナルトが走り去って行った。
ピシッとまた音が鳴る。
しかしサクラは気にする事無くその場に座り込んだ。
『……っ、』
痛みに眉を寄せつつ己の手の平を見る黒凪。
ヒビだらけになったその手は少しの衝撃を与えれば粉々になってしまいそうな程だった。
潮時かなぁ、と目を細める。
まさかサクラの為にとやって来た事が今更仇になるだなんて思わなかった。
『…ごめん、サクラ』
「――!」
『もう私は消えるから』
いや、私の意志なんて関係ないか。
目を閉じた黒凪の意識が更に薄まって行く。
もう彼女の気配何て完全になくなってしまうのだろうか。
サクラが思わず手を伸ばした。
しかし黒凪の元まで手を伸ばさないサクラに黒凪が微笑む。
『…じゃあね』
なんだかんだでしがみ付いて来たけど。
サクラの手が大きく開かれる。
もう、無理だ。
サクラの手は空を掴んだ。
「……。」
日も落ちた里のとある道。
そこに設置されたベンチに座って足を抱えた。
サクラは自分の手の平を徐に見る。
《――…最後の手向けだよ》
空を切った私の手に伸ばされた黒凪の手が脳裏に過った。
これで最後だ。
…彼女の声が過る。
《サスケはサクラが気を失っていた時、殺したい相手だと言っていた兄に出会ってる》
《!》
《その兄に完膚なきまでにやられた。》
あいつ、絶対に兄を倒す為に大蛇丸の所に行くよ。
私には分かる。
サクラが目を見開いた。
こんな生温い場所じゃサスケは納得しない。
カツ、と聞こえた足音に顔を上げた。
「――!」
「……。」
振り返って見えたのはサスケで、ギリッと歯を食いしばった。
本当に黒凪の言った通りだった。
…黒凪が教えてくれなかったらサスケ君が里を抜けるだなんて考えもしなかった。
彼の背に担がれたリュックに眉を下げる。
「…夜中に何してる。サクラ」
「……。里を出る為にはこの道しか無いって知ってるから」
サスケが目を細めた。
そうか。そうとだけ言ってサクラの横を過ぎて行くサスケ。
サクラの頬を涙が伝う。
「黒凪が、」
「……」
「黒凪が言ったの。…サスケ君は里を抜けるだろうって」
サスケの足が止まる。
私には、本当に何も言ってくれないのね。
震えたサクラの声にサスケが目を伏せた。
「お前に話す必要はないだろ」
「それは黒凪にもでしょう?」
「アイツにも話した事は無い。」
サクラの言葉が止まる。
アイツは単に勘が良いだけだ。
ぽたた、と涙が地面に落ちる。
「…私には確かに黒凪程の勘は無い、よね」
「……。」
「なんでサスケ君の事、黒凪はそんなにわかっちゃうんだろう。」
私は何も分からないのに。
…黒凪の事も、サスケ君の事も。
サスケは振り返る事はせず黙ってその言葉を聞いている。
「サスケ君の一族の事は知ってる。…黒凪の事も、知ってる」
「…」
「確かに2人はそう言う面では似てるよね。でも復讐の為だけにとか、…そんなの虚しいだけじゃない」
誰も幸せになれないよ。
サスケ君も、周りの人も。
サスケがフッと笑った。
「それでも俺は結局復讐の道を選んだ。俺とお前達はやっぱり違う」
「そんな事ない!そうやって孤独になろうとしないでよ…!」
やっと解ったの、孤独って何か。
涙がまた地面に落ちた。
黒凪はもう私の中に居ない。
サスケが微かに目を見開いた。
「私はこれで、自分の一番の理解者を無くした!…私が拒絶した…!」
「……。」
「サスケ君が言った通りだった!私を護ってくれた人を一方的に嫌って、黒凪は最後まで私の味方だったのに…!」
サスケが拳を握りしめる。
自分が他人を拒絶するから孤独が生まれるんだよ!
…相手は、黒凪はあんなに手を伸ばしてくれたのに。
私が辛い時も手を伸ばしてくれて、危険な時も代わりになろうとしてくれて。
それを拒絶し続けた結果黒凪は私の元から居なくなった。
「サスケ君まで居なくなっちゃったら、私…っ」
「……」
「私はサスケ君が好きなの、大好きなの…!」
だから此処に居て!私と一緒に、
そこまで言った所でサスケがサクラの背後に一瞬で移動した。
俺は。サスケの声が耳に届く。
「俺はお前を通して黒凪しか見ていない」
「…罰が当たったのかなぁ」
私、ずうっと黒凪に全部、任せてきたから…。
トンッとサクラの首元に手刀が入った。
ドサッと倒れたサクラを持ち上げ側のベンチに寝かせる。
そうしてサスケは静かに里の出口に向かって歩き出した。
里の出口に向かって走る。
そうして辿り着いたサクラにシカマルが率いるチームの全員が振り返った。
彼等は里を抜けたサスケを連れ戻す為に集められたと聞いている。
そのチームにサクラが呼ばれる事は無かった。
「!…サクラちゃん」
「…火影様に話は訊いてる。お前でも説得出来なかったんだろ」
「っ、」
「後は力尽くで連れ戻すしか手はねぇ。…お前の出番はもう無ぇよ」
サクラの頬を涙が伝った。
ナルトがその涙に微かに眉を寄せる。
がしがしと後頭部を掻いたシカマルが再び口を開いた。
「…お前じゃなくて黒凪って奴なら」
「!」
サクラが顔を上げた。
黒凪が行くって言うなら火影様の所まで行け。
あいつならまだ説得出来る可能性があるんだろ?
シカマルが面倒臭げに言った。
「俺はその黒凪ってのを知らねーが、ナルトが言ってる分にはお前の頼みなら聞くらしいじゃねーか」
「…黒凪は、もう…」
「だったら」
「俺が!」
シカマルの言葉を遮ってナルトが言った。
俺が絶対連れ戻すから。
だから、そう言ったナルトにサクラの目にまた涙が浮かぶ。
「…黒凪に頼んでみる。…でも、多分無理だと思う」
「……」
「だからナルト、…お願い」
「…おう!」
ニッと笑ってサクラに拳を向け、チームが走り去る。
シカマルが徐に口を開いた。
「本当にその黒凪ってのは信用出来るのか?中忍試験で暴れてたあの黒髪の奴だろ?」
「大丈夫だってばよ。アイツはサクラちゃんの頼みだけは絶対に無視しねえ。」
「でもサクラはもう無理だって言ってただろ。本当に来るのかよ」
「来る。…絶対アイツは来る。」
それが黒凪だ。
ナルトの言葉にシカマルがため息を吐く。
んじゃまあ、その黒凪を待ちつつやりますか。
おう!とナルトが笑顔を見せた。
「…黒凪、」
両手をぎゅっと祈る様に握り名前を呼ぶ。
やはり返事は無い。目に残っていた涙がまた零れた。
お願い、そう震える声で言った。
「これで最後にするから、…だからお願い黒凪」
『――――…』
「…今まで面倒な事ばかり頼んでごめんなさい。…怒ったよね、疲れたよね」
もう湖は無い。花畑も無い。
…カツ、と頭の中で音がした。
これで本当に最後にする。だから、
『…最後だからね』
「!」
はっと顔を上げると目の前に薄く微笑んだ黒凪が立っていた。
思わず抱き着きそうになるのを彼女の顔を見て踏み止まる。
口元にまで達しているヒビ。
手や足を見ると亀裂ばかりで今にも崩れてしまいそうだった。
『でもごめん、サクラの意識があると私はもう外に出られない』
「…うん」
『新しい火影の所に行かなきゃ駄目なんでしょ?…そこに行って、』
「分かってる。…そこで私が気を失えば良いのよね」
ごめんね、そう言って抱きしめてきた黒凪はとても冷たくて。
目を閉じたサクラはその目を見開くと綱手の元へ走り出した。
すぐに火影室の扉の前に到達したサクラはノックをして中に入る。
座っていた綱手はサクラを見ると微かに目を見開いて手元の資料を机に置いた。
「…話は訊いている。サクラだな」
「はい」
「此処へ来たと言う事は…」
「綱手様、私を気絶させてください」
は?と眉を寄せた綱手。
サクラは目を閉じ「黒凪と代わる為に必要なんです」と言った。
サクラの逸る気持ちを理解した綱手は立ち上がりサクラのうなじに手を伸ばす。
構わないんだな、そう言った綱手にサクラが頷いた。
トン、と入った手刀に倒れ掛かるサクラだったがすぐさま踏み止まる彼女に微かに目を見開く。
『…どうも。』
「……ナルトから聞いている。黒凪だな」
『ええ』
コキ、と首を鳴らす黒凪の目を覗き込む綱手。
その目を静かに見返した黒凪は片眉を上げた。
綱手は目を伏せると再び席に戻り指を組む。
「夜兎だと聞いている」
『!』
「…もう巻き込みたくは無かったんだがな」
綱手の言葉を聞いた黒凪は眉を寄せる。
その様子を見た綱手は納得した様に笑うと徐に顔を上げた。
「サスケの奪還任務への参加を認めよう。」
『…アンタには聞きたい事が沢山在るけど』
背を向けて言った。
黒凪はチラリと綱手を見て目を細める。
今はサスケの方が優先だからねぇ。
その少し不機嫌そうな顔を見た綱手は眉を下げた。
優先事項。
(…我々の宿命なのかもしれないな)
(もう出会う事は無いと思っていたのに。)
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