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中忍試験編
『…煩いと思ったらそう言う事か』
緩く顔を上げて微笑んだ。
声に出して話しても、もうサクラの口から飛び出す事は無い。
湖の水が体に纏わりついて離れない。
もう私が外に出る事は無いのだろうか。
『壊れてるのは、私の方』
誰も返さない湖の底で呟いた。
ぼんやりとした視界の中で外の景色が見える。
サスケが暴走している。音忍達を次々に倒している。
…でもサクラが居れば大丈夫かな。
あの子にはもう、私は…。
『……。はは』
「サスケ君!もう止めて…!!」
恐ろしい程の殺気を身に纏い規格外の実力で音忍達を圧倒していたサスケ。
そんなサスケを体を張って止められるぐらいにまで強くなったんだ。
目を細める。サスケの身体に浮かんでいた炎の紋様が徐々に消えて行った。
「…悪い、…サクラ」
「!…うん、」
嬉しい、とサクラの感情が流れ込んでくる。
まだギリギリお互いの感情は分かるのか。
…そうか。
私の感情もサクラに伝わってるのか。
『…だとしたら、』
「よかった、サスケ君…」
『分かり易くて良いね、サクラ』
昔から苛められてたアンタは大人しくて何も言えない様な子だったけど自分の考えははっきりと持ってた。
…あの時アンタは私に助けを求めた。
でも、
『今は…――』
掠れた声で呟いた黒凪にサクラがピクリと眉を寄せる。
黒凪…?とサクラが呟いた。
彼女の反応が無い。
「何?何か言った?」
「え、あ…ううん」
イノに髪の長さを整えられながら呆然と地面を見る。
すると驚いた様なナルトの声が響き渡った。
サクラちゃん髪ー!!
そう言いながら走ってくるナルトに足を引っかけたシカマル。
派手に転んだナルトはそれでも顔を上げてサクラを見るが彼女の目に「え」と動きを止める。
「…サクラちゃん…?」
「もう、何よナルト。別に髪の毛ぐらい…」
「右目の色、治ってるってば」
「…え」
クナイを持ち上げ反射させて顔を見る。
確かに右目の色が元に戻っていた。
ナルトとサクラの会話を聞いて振り返るサスケ。
ナルトとサスケがサクラの顔を覗き込む。
サクラは少し照れた様に目を逸らした。
「…黒凪は?」
「!……、知らない」
「え、知らないってどういう、」
「知らないの!」
ちょっとサクラ、
そうイノが言うとサクラは大人しく口を閉ざす。
サスケはヤケになった様に言うサクラに眉を少し寄せた。
しかしもう何も言うまいと目を逸らし空を見上げる。
「…はい。出来た」
「……ありがと」
「良いわよ別に。…ねえ、黒凪はさ…」
「だから!」
サクラの怒鳴り声にイノが思わず固まる。
それを見てはっとしたサクラだったが「知らない」と改めて言い放った。
イノは眉を下げると「そう」と呟く様に言い背を向ける。
「…サクラ」
「?」
「アンタが怪我したら、絶対出て来るわよ」
それが嫌ならもっと強くなりなさいよね。
そのイノの言葉に目を見開いた。
《なんで?なんでサクラじゃないのに護るの?》
《……》
一瞬過った記憶に瞬きをする。
あれ?今の…。
じゃあ私は行くから。
そんなイノの言葉にすぐ顔を上げ返事を返す。
イノ達十班は一瞬で姿を消した。
周りを見渡せばいつの間にかリー達も姿を消している。
この場には先程逃げ帰った音忍達が持っていた地の書だけが残っていた。
「…あ。お帰り、サスケ君」
「あぁ。とりあえず3匹捕まえた」
「俺のおかげだろーがサスケェ!!」
「はいはい、ありがとね。ナルト」
サクラが焚いていた火の側にナルトとサスケの2人で捕まえた魚を木に刺して固定した。
3人でそんな火の回りに座り沈黙が降り立つ。
サスケはチラリとサクラを見た。
一方サクラもサスケを見ていて、2人同時に思わず目を逸らす。
「…。(サスケ君、昨日からずっと私の方見てるなぁ…)」
「……」
ナルトだけは1人何も考えず火に炙られていく魚を楽しみに待っていた。
サクラの右目は昨日の昼間に元の色に戻ってから金色に染まる気配はない。
そして黒凪の気配も全くと言って良い程表に出て来ていない。
だがサクラにその事を訊こうと思えば彼女がはっきりと拒絶するのだ。
「…さ、サスケ君」
「?」
「首の変な紋様…あれは大丈夫なの?」
「…あぁ。昨日暴走してからは痛みも殆ど無い」
そっか、とサクラが安心した様に呟いた。
サスケは首元を片手で撫で、そして再びサクラを見る。
サクラの中に居る黒凪にも同じものが首筋に有る筈だ。
もしかしてその所為で出て来られないのか?…それとも。
「(サクラが黒凪を拒絶した、か)」
《恐らくあの時、彼女は思った筈です。黒凪さんとば根本的に何かが違ゔと》
「…え、あれ?」
サクラの声にナルトとサスケが同時に顔を上げた。
ゆっくりとサクラの右腕が持ち上がり人差し指が右上の木を指差す。
サクラの様子から彼女の意志では無い。
「(…黒凪…?)」
「なんだ、君達か」
サクラの人差し指が差した方向とは真逆の方向から声が掛かった。
ばっと振り返ればそこに居たのはカブト。
彼は笑顔で3人に近付くがサスケがクナイを構えて立ち上がる。
「ああ待って。僕は君等と戦うつもりはないよ。巻物はほら、」
「!…2つとも揃ってるってば」
「そう言う事。だからクナイを降ろして」
「…何言ってる。俺がアンタから奪う事も有り得るぞ」
それを僕に真っ向から言ってる時点で、そこまで君は非情じゃないって事だろ?
サスケが微かに目を見開いた。
僕は君達に忠告しに来ただけだよ。第一試験の時のようにね。
そう言ってカブトは3人に背を向けた。
「早く此処を去った方が良い。煙と焼き魚の匂いがかなり遠くまで匂っていた」
「!」
「…僕についておいで。君達が第二試験を突破出来る良い方法を知ってる」
サクラとナルトの目がサスケに向いた。
サスケが徐にクナイを仕舞い小さく頷く。
そうして走り出したカブトに3人で着いて行った。
「それでそれで!?良い方法って何だってばよ!」
「簡単な事さ。第二試験の最終地点で待ち伏せして、巻物を持ったチームから君達の場合は天の書を奪えば良い」
「!…でも、私達に以外にもそう考えるチームは…」
「沢山居るだろうね。でも君やうちは一族のサスケ君が居れば大丈夫なんじゃないかい?」
サクラが微かに目を見開いた。
音忍達の攻撃を瞬時に判断する洞察力と言い、君はかなりレベルの高い忍だ。
少し目を逸らしたサクラに目を向けたカブトが微かに目を見開いた。
「あれ?君、右目の色は金色じゃなかった?」
「あ、いえ…その、」
「おい。今はその話は良い」
サスケにカブトの目が向いた。
カブトは少し笑ってそうだね、と返すと再び口を開く。
そして最後にもう1つ。
そう言ったカブトに「まだあるの?」とサクラが少し眉を寄せる。
「この手の試験では最終地点にとある゙コレクター゙が存在する」
「これくたー?」
「思わぬ敵との遭遇に備えて余分に巻物を集める者、また同じ里の仲間に分け与える為にそうする者。そして…」
「自分のチームにとって不利になる可能性のあるチームを有利な状況下で潰しておく」
正解。カブトとサスケの言葉にナルトとサクラが目を見開いた。
そしてその様に待ち伏せする敵はかなりの実力者達である可能性が高い。
サスケが微かに目を細めた。
「アンタ、自分の仲間は」
「…大体予想は付いてるだろう?最終地点で待ち合わせしてるよ」
「フン。1人じゃ不安だから俺達を連れて来た訳だ。…いざとなれば囮にでもするつもりか?」
「とんでもない。君達の実力を買ってるから付いて来てもらったんだ。僕は君達と共に突破出来る事を祈ってるよ」
「…ねえ、明らかに同じ所ばかり通ってない?」
「あぁ。この道ももう3回目だ」
「!…おい。構えろ」
もう夜も更け暗くなった森の中。
最終地点である塔が目の前に有りながら全く進めない事に苛立ちを見せた時、がさがさと大量の気配が迫って来た。
周りを見渡せば大量の忍が此方にゆっくりと歩いて来ている
「…分身か。しかもかなりの量だな」
「これってば全部幻覚か!?」
「恐らくそうだろう。この森の中を何度も歩かされたのも幻覚に惑わされたからだ」
「じゃあどうすれば…!」
ぐあっとサスケの声が響き全員が振り返る。
サスケの肩を掠ったクナイが地面に突き刺さっていた。
痛みがあり血も流れている。
それはクナイが本物である事を示していた。
「…成程。幻影の動きに合わせて何処かで本体がクナイを投げてるな」
「じゃあその本体を見つければ…!」
「駄目だ。結局この幻覚の中じゃ何処からクナイを投げてるかなんて分かる筈が…」
「だったら!!」
ナルトが印を結んだ。
俺が、やってやるってばよ。
その言葉と同時にナルトの周りに大量の影分身が出現した。
幻影達に負けず劣らずの数。
ニヤリと笑ってナルトが走り出す。
「幻影全員を一斉に倒せばあいつ等も迂闊に攻撃出来ないってばよぉ!」
「そうは言っても結局攻撃が加えられないだけで…!」
「!?ちょ、また…」
サスケがサクラに目を向ける。
サクラの右手が自分の真後ろを左手の人差し指で刺していた。
その様子にカブトも微かに眉を寄せる。
「…カブト」
「……あっちに居ると?」
「あぁ。恐らくそうだ」
「何故彼女が分かる?」
それは…、
サスケが言いよどむ中、カブトがもう一度サクラを見る。
サクラの指先は暫し其方を指しているとゆっくりと移動した。
次は右側。そして正面。
敵は移動している。
「…解った。信じよう」
「……。」
2人でサクラの指先を追う様に視線を移動させる。
サクラの動きが止まりばっと真上を指差した。
すぐさま2人が動き真上にクナイを投げる。
そしてサスケが直接其方に向かった。
「奴等は体術には弱い筈だ!幻術を使って攻めてくる様な奴等だからね!」
「うえっ!?分身が…」
ドサドサッと本体が落ちて来た。
その側にサスケも降り立ちフンと鼻で笑う。
そして彼等の荷物を漁れば天の書が見つかりナルトとサクラが笑顔を見せた。
そんな彼等にカブトも笑みを見せつつサクラをじっと見下す。
「…君は幻術を見抜く目でも持ってるのかい?」
「え?あ、…そう言う訳じゃ…」
サクラの言葉に「そっか」と笑うカブト。
そんなカブトを横目にサスケは天の書を仕舞った。
そうして再び4人で塔に向かい次は何事も無く辿り着く。
塔の前にはカブトの言った通り彼の仲間が立っていた。
「じゃあね。また第二試験で会おう」
「カブトのにーちゃん!ありがとだってば!」
「いやいや。これは君達の実力だよ。ナルト君の影分身が無ければサスケ君も楽に敵を倒せなかっただろうしね」
そして、そう言ってカブトの目がサクラに向いた。
君のその素晴らしい゙勘゙もね。
サクラが微かに目を見開く。
そんなサクラの前にサスケが徐に立った。
「じゃ、僕等はこっちの入り口から入るよ。君達も早く入った方が良い」
「うん!ホントにありがとだってばよー!」
ナルトに手を振って中に入っていくカブト。
第七班も意気揚々と塔の中に入って行った。
カブトは塔の中に入り早々に掛けられた「どうだった」と言う声に薄く笑みを見せる。
「大蛇丸様の想像以上かと。」
「あらそう。…それで?追加で監視を頼んだあの子は?」
「やはり大蛇丸様の呪印は首筋には見当たりませんでした。しかも幻覚を瞬時に見抜いたり、敵の位置を正確に把握したり…謎が多いですね」
幻覚を見抜いた?
大蛇丸が訊き返しカブトが頷いた。
少し考え込む様に目を細めた大蛇丸。
彼はニヤリと笑った。
「!…心当たりがあるんですか?」
「まあねぇ。」
そうとだけ言って背を向けた大蛇丸。
もう情報は得られないだろうと悟ったカブトは眉を下げ肩を竦める。
そうしている間にも大蛇丸は徐々に姿を消していた。
「よくやったわ。次の試験でもよろしくね」
「はい。」
そんな会話を最後に大蛇丸が完全に姿を消す。
眼鏡をくいと上げたカブトは微かに目を細めた。
カブトの脳裏に浮かぶのはサクラ。
写輪眼などの様に目に能力を持っている訳でもない。
彼女の家系は特に特殊なものでも無かった筈だ。
カブトは目を細め手元の巻物を開いた。
一方第七班。
彼等も地の書と天の書を同時に開き上がった煙にその巻物を放り投げた。
ボンッと口寄せが発動しその巻物の上にイルカが現れる。
「よう。久しぶり。」
「イルカ先生!?」
「なんでイルカ先生が…」
「この中忍試験の第二試験では俺達中忍がお前等を出迎える事になってるんだ。」
偶然俺がお前等の伝令役だっただけ。特に深い意味は無いよ。
そう言って巻物の上から移動しゆっくりと3人の前に歩いてくる。
イルカは手元の時計を見下し小さく笑った。
「時間ギリギリだな…、でも合格だ。第二の試験、突破おめでとう!」
「やったー!」
「ちょ、ナルト…」
イルカに抱き着くナルト。
そんなナルトを見て息を吐き座り込むサクラ。
サスケも徐に地面に腰を下ろした。
「とは言ってもこれで終わりじゃないぞ。すぐに第三試験が始まるんだからな」
「ええー!?休みないのぉ!?」
「無いな。」
ええー!?ともう一度叫ぶナルトを引き摺って扉へ。
そのまま扉をくぐると本当に時間がギリギリだった為か既に数チームが並んでいた。
突破者全員で並び目の前に立つ上忍達に目を向ける。
第二試験の試験官であるアンコが口を開いた。
「まずは諸君、第二試験突破おめでとう。これから早速第三次試験の説明に入るから心して聞く様に。」
「…此処からは私が説明します…。ケホッ」
静かに現れた男が体調の悪そうな青い顔を突破者達に向けた。
ケホッとまた咳を1つ。
彼は月光ハヤテと名乗り彼はまた咳を繰り返した。
「…失礼。これから皆さんに行って貰うのは第三次試験では無くその予選です」
「予選!?折角頑張って突破したのに!?」
「はい。例年とは違いかなり人数が残ってしまいましたから。…あぁそうだ、此処で辞退する人は居ませんか?体調の悪い人とか…ケホッ、ゴホッ」
あの人の方が体調悪いんじゃ…。
そんな全員の考えが一致する中でサクラがサスケに目を向ける。
サスケはそんなサクラに気付くと静かに首を横に振った。
そんな中ですっと手を上げたのはカブト。
「辞退します」
「カブトさん!?」
「…木ノ葉の薬師カブトさんですね。分かりました、下がってください」
「何でだってばよ!カブトさん!」
彼は振り返るとナルトに目を向け眉を下げた。
第二試験でかなり体を酷使してしまったからね…、これ以上は少しキツいんだ。
カブトの言葉に目を伏せるナルト。
にっこりと笑ってカブトは手を振り去って行った。
「…では他に居ませんね」
「…サスケ君、」
「大丈夫だ。あれから何ともない」
「……。」
では予選の対戦相手をランダムに選出します。
会場の正面にあるモニターで名前がランダムに表示される。
まず第一試合、あかどうヨロイ vs うちはサスケ。
そう表示された文字にナルトとサクラが目を見開きサスケがニヤリと笑った。
「――…それでは第四回戦。春野サクラ、山中イノ。前へ」
気づけば第四回戦となった、中忍試験第2試験、本選。
「!」
「…ふん。よりによってアンタが相手なんてね」
サクラが静かに構えた。
開始、と声が掛かり同時に走り出す。
…イノの脳裏にサクラの笑顔が過った。
「っ、」
「ぼーっとしてんじゃないわよ、イノ!」
「…煩いわね…!今日ば交代しなくで良いの!?」
「!」
アンタいっつも頼り切ってばっかりだったじゃない!
イノの言葉に目を見開いた瞬間、彼女の拳に受け身を取り少し後ずさった。
キッと顔を上げたサクラの表情を見てまた過る。
《…ちょっと聞いてんの?反応しなさいよ!》
《ちょっとあんた達…!》
《煩いな》
え、と仲裁に入ろうとしたイノが足を止める。
いつもの事だった。内気なサクラをくノ一の中でもリーダー格の少女が苛めている光景など。
…いつもの事の筈だった。
「っ、いっつもムカついてたのよ!」
「!」
「嫌な事も、怖い事もぜーんぶ任せきりになって!アンタ、私が護ってあげても自分で立とうとなんてしなかった…!」
《なんで?なんでサクラじゃないのに護るの?》
《…それをサクラが望んでるから》
そんな奴に私が負ける筈がない!
イノが叫んだ。
サクラは目を伏せ、徐に額当てを外し額に巻き直す。
「…イノ、私は」
『(…サクラ。どうしたの、その傷)』
頭に響いた声に少し目を見開く。
大丈夫?とまた彼女の声がした。
イノの攻撃で変色した腕がキリ、と痛む。
『(サクラ)』
「出て来ないで!」
イノや試合の様子を見ていた面々がサクラの声に目を見開いた。
カカシによって呪印を封印し姿を消していたサスケも会場に入りその声に眉を寄せる。
走って会場が見える位置まで移動したサスケはサクラの様子に更に眉を寄せた。
「出て来ないで…!」
『(……)』
「これは私の戦いなの!!」
黒凪の気配が退いて行く様な気がした。
イノはサクラの言葉に表情を元に戻すと小さく笑った。
同じく風影に扮して試合を見ていた大蛇丸も興味深そうに目を細める。
「…再開しましょう、イノ」
「……言われなくてもそうするわよ」
2人が構え、殴り合う。
サスケはカカシに目を向けた。
カカシはちらりとサスケに目を向け再び試合に目を向ける。
「この試合の前にサクラと話した。」
「!」
「黒凪の気配はもう殆ど感じないそうだ」
あの様子だと、もうサクラに黒凪は必要が無い。
それを悟って黒凪はサクラの心の奥底に潜ったという事だろう。
ま、さっきは心配になって出てきたみたいだケド。
歯を食いしばり再び試合に目を向ける。
サクラがあれ程まで傷を負っているのに黒凪が表に出て来ないのは確かにおかしい。
「…本当に、もう出て来ないんだってば…?」
「……かもしれないな。黒凪は誰よりサクラの事を考えてるから」
サクラが必要ないと判断し自分を拒絶したのなら、アイツは喜んで身を引くよ。
…だったらアイツはどうなる。
サスケの言葉にカカシが目を向けた。
「サクラをずっと護って来たアイツはどうなる…!」
「……。」
「捨てられるのかよ、」
自分と重ねているのだろう。
ずっと慕ってきた兄に裏切られ、家族を奪われた自分と。
一層大きな鈍い音が響きサクラとイノが同時に倒れる。
起き上がらない様子の2人に月光ハヤテが片手を上げた。
「両者、引き分け。」
「…くそ!!」
「サスケ、落ち付け」
ざわ、と会場の空気が一変した。
すぐさまサクラ達に目を向けるカカシ。
サクラがゆっくりと体を起こし頭をもたげた。
額当てがするりと落ちる。
「おい、サクラが起きたぞ」
「じゃあサクラの勝ち…?」
「…カカシ先生、なんかサクラちゃんおかしいってばよ」
「あぁ」
サクラの首元からヒビの様なものが広がっていく。
溢れ出したチャクラに全員が目を見開いた。
するとサクラの髪が根元から黒く染まり始め、その黒は毛先まで広がるとそこから更に髪が伸び腰辺りまで達する。
ゆっくりと立ち上がった。
背も伸びている。
「…黒凪、か?」
「いかん!」
ヒルゼンが立ち上がり上忍達に目を向ける。
小さく頷いた上忍達がサクラの前に立ちはだかった。
徐に顔を上げたサクラの顔は完全に彼女の物では無かった。
白い肌、金色の瞳、黒い髪。
黒凪はゆっくりと振り返った。
彼女の視界に風影が入るとニヤリと笑う。
『…見つけたぁ。』
「そやつを捕えい!」
飛び掛かる上忍達を避け一直線に風影の元へ。
そんな黒凪の前にカカシが立ち塞がる。
しかし彼女の拳が躊躇なく向かいカカシがすぐさま避けた。
風影に扮している大蛇丸はその姿にニヤリと笑う。
「ふふ、やっぱりねぇ…」
「!」
「少し早いけど良いわ。良い物が見られたから」
試合を見ていた砂の忍達が一斉に目を見開いた。
突然暗部が現れ会場全体が幻術に掛かる。
サスケは写輪眼ですぐさま幻術を解きカカシ達上忍もすぐに解いた。
しかしカカシが次に気が付いた時、黒凪の姿は無かった。
「…おっと。流石は夜兎ねェ…。覚醒して色々飛んでるのかしら」
『……』
「大蛇丸…!」
「あら猿飛先生。今はちょっと取り込み中でねぇ」
大蛇丸が印を結び火を吐いた。
黒凪に直撃し吹き飛んだ彼女をヒルゼンが受け止める。
しかし黒凪は何事も無かったかのように起き上がると再び走り出した。
「黒凪!!」
「!」
「あらサスケ君。」
ニヤリと笑った大蛇丸に攻撃し続ける黒凪。
大蛇丸を睨んだサスケは舌を打って黒凪に飛び掛かった。
彼女に背後から掴み掛かり腕を抑え込む。
しかし黒凪の力に敵う筈もなく抑える事が出来ない。
「黒凪、落ち着け!」
『……』
「サスケ。黒凪はお主に任せたぞ…!」
「!」
大蛇丸を連れて何処かへ消えたヒルゼン。
それを横目に黒凪の前へどうにか移動する。
彼女の血走った目がサスケに向いた。
その瞬間黒凪の動きがピタリと止まる。
『…?』
「サスケ危険だ!離れ…」
「駄目だ!今黒凪を止められるサクラは気を失ってる!」
「だから言ってるんだ、黒凪を止められるのはサクラしか居ない!」
いや、そう言ってサスケが徐に口元を吊り上げた。
俺なら止まる。はっきりと放たれた言葉とは裏腹に彼の頬を汗が伝った。
カカシはその言葉に眉を寄せ、黒凪はじっとサスケを見ている。
『…んー…?』
「しっかりしろ。お前まで呑まれるな」
黒凪の頬にまでヒビが広がっていく。
…いやヒビじゃない。呪印だ。
カカシが眉を寄せた。ヒビのような呪印の紋様。
サクラの姿を黒凪そのものに変えているのも呪印によって引き出されたチャクラの所為だろう。
「黒凪。」
『……』
カクッと首を傾げる黒凪。
彼女の金色の瞳がサスケを改めて映した。
瞬きをする。
次の瞬間、黒凪は周りを見渡した。
『…ん?』
「!」
『あ、先生。…サスケ?小さくない?』
眉を寄せた黒凪にサスケが息を吐く。
んん?としゃがみ込んだ黒凪の視界に長い黒髪が掛かった。
目を見開いた黒凪は髪を掴み手の甲にまで広がっている呪印に「うお、」と目を見開く。
『ヒビ?…てか髪が黒い…』
「黒凪。」
『先生、コレどうなってんの?』
カカシが徐に黒凪の首筋を見る。
やはり体中に広がっているのは呪印。
黒凪もそこに目を移し少し眉を寄せる。
『…。ヒビってこれの所為?』
「あぁ。これは呪印と言ってな、持ち主のチャクラを一気に引き出す代物だ。お前はその影響で今本来の姿に戻ってる」
『え、そうなの』
建物のガラスに体を映し黒凪がまた目を見開いた。
そして遠くで起きた爆発に振り返る。
そんな黒凪の側にサスケとカカシも寄った。
「大蛇丸と言う男の仕業だ。木ノ葉が砂の忍に攻撃されてる」
『……。』
「俺達はどうすりゃ良い」
「民間人の避難を手伝え。もしもの時は交戦しても構わない」
黒凪は徐に髪に手を伸ばし三つ編みに髪を編んでいく。
髪をまとめた黒凪を見たサスケは「行くぞ」と声を掛け走っていった。
黒凪も息を吐き付いていく。
カカシも徐に走り出した。
「木ノ葉をどうするつもりじゃ…!」
「見た通り木ノ葉を潰すんですよ。面白いでしょう」
「ふん。相変わらずじゃのう、大蛇丸よ」
ゆっくりと腰を下ろすヒルゼン。
大蛇丸は風影の姿から元の姿に戻りニヤリと笑った。
彼の目が木ノ葉の入り口に向く。
「今日は客も呼んでいましてねェ…。」
「!」
「サスケ君はこれで私のモノ。」
「…大蛇丸、お主一体何を…」
ニヤリと笑って走り出す大蛇丸。
周りには結界が張られている。
2人の戦いに部外者が割り込む事は出来ない。
「黒凪」
『ん?』
「大丈夫なのか?お前」
サスケの言葉に少し目を見開いて笑う黒凪。
大丈夫。ま、今はサクラが気を失ってるから出てるだけだけど。
その言葉にサスケが少し眉を寄せる。
『今は私を抑え込むものが何もないんだ。だから出ていられる』
「…サクラが目覚めたらどうなる」
『多分またサクラの心の奥底に潜り込む事になる。』
とは言っても今出て来てるのもサクラに何かあったら嫌だからだよ。
別に私は外に居たい訳じゃない。
黒凪の言葉に歯を食いしばるサスケ。
目の前に現れた砂忍達を2人で倒して行く。
「…んでだよ」
『?』
「サクラはお前を抑え込んでんだろ。…なんでそこまでサクラの事を考えていられる」
『…大事だから』
そうとだけ言って敵を倒して行く黒凪。
サスケは舌を打った。
しかし視界に入った忍に動きを止め愕然と目を見開く。
2人の背の高い忍。姿からして明らかに砂の忍では無い。
「…嘘、だろ…」
『サスケ?』
「イタチ…!!」
そう呟く様に言って走り出すサスケ。
ばっと其方に目を向けると2人の忍の内の1人にサスケが向かって行く。
後を追うとサスケが攻撃を仕掛けた方とは違う男が黒凪に刀を振り降ろした。
それを避けて刀を殴る。男はその衝撃で吹き飛んで行った。
『サスケ――』
「この程度か」
「ぐ、」
首を掴まれ持ち上げられるサスケ。
チッと舌を打って拳を振り上げる黒凪。
そんな黒凪に男の写輪眼が向けられた。
しかし特に何ともない様子の黒凪に眉を寄せる男。
その男の姿は何処と無くサスケに似ていた。
『その子を離して貰おうか』
「…何者だ?何故幻術が通じない」
「やれやれ…、物凄い怪力ですね」
黒凪に吹き飛ばされた男もゆっくりと立ち上がり此方に戻ってくる。
その男の顔は青白く鮫の様な顔つきをしていた。
ドォオン!と大きな爆発音が響き一斉に其方を見る。
そこに立っているのは巨大な狸の様な化け物。
「ほう、一尾ですか…。どうやら大蛇丸の話は本当だった様ですねぇ」
「あぁ。さっさと捕えるぞ」
ドサッとサスケを放り歩いていく男。
その男に向かってサスケが「イタチ!」と叫ぶ様に言い放つ。
イタチが静かに振り返った。
「待てよ…!お前は俺が、」
「殺す、か?その程度でよく言えたものだ」
『…お前頑丈だなぁ。』
「!」
再び殴られた男。
吹き飛んだ男を見て「何を遊んでいる。鬼鮫」とイタチが言った。
すると「やれやれ」と鬼鮫がまた立ち上がる。
鬼鮫の頬に傷は出来て居るもののそこまで重症ではない様だった。
『……。やる気が無くて頑丈な奴は一番嫌いだ』
「それは失礼。ですが今回の標的は貴方では無いものでね」
『あのデカいの?』
「ええ。」
ふーん、そう言って背後に足を振り上げる。
イタチはそちらを見ずにその攻撃を避け黒凪に手を伸ばした。
息を飲むサスケだったが黒凪の足を掴んだイタチを彼女は力任せに振り払う。
物凄い怪力にイタチが目を細めた。
「イタチィィイ!!」
「サスケ。お前は本当に成長しないな」
サスケの攻撃を全て避け蹴り飛ばす。
転がっていくサスケに黒凪が目を向けた。
するとその隙をついて鬼鮫が刀を振るい黒凪に直撃する。
吹き飛んだ黒凪だったが地面に着地し倒れているサスケを起こした。
「…お前は弱い。」
「っ!」
『来るな。…あの狸が目当てならそっちに行け』
「駄目だ!俺が殺す…!」
一瞬で2人の目の前に現れるイタチ。
伸ばされた手から庇う様に黒凪が前に出た。
イタチの手が黒凪の顔のすぐ前で止まる。
黒凪、と苦しげに言うサスケにイタチが目を向けた。
「愚かなる弟よ。お前がその程度では何も護れない。憎む俺に満足に触れる事も出来ないだろう」
『!』
「その呪印を解けばどうなる?」
「止めろ!イタチ!!」
黒凪の首筋に手を置いたイタチは一気にチャクラを流し込んだ。
目を見開く黒凪。呪印が引っ込み黒凪の姿がサクラに戻る。
倒れたサクラの姿を見てイタチと鬼鮫が微かに目を見開いた。
「黒凪…っ」
「これはお前の弱さ故の結末だ。」
サスケの胸ぐらを掴んで持ち上げるイタチ。
倒れているサクラをイタチが軽く蹴った。
お前にはまだ強さが足りない。
ギリッと歯を食いしばった。
「…。殺す価値も無い」
「っ、ゲホッゴホッ」
「尾獣を捕えに行くぞ」
「ええ」
イタチ、掠れた声で言うサスケ。
しかし2人は振り返る事は無かった。
倒れたままのサクラを見てドンと地面に拳を打ちつける。
そしてそのままその場に力尽きた。
力を求めろ
(幻術が効かない)
(並外れた身体能力)
(そしてあのチャクラの量)
(…妙な女だ)
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