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波の国編
「んの野郎…!」
「待てサスケ!再不斬は俺がやる!」
走って行ったサスケを追い越して再不斬に攻撃を仕掛けるカカシ。
再不斬はすぐさま其方に意識を向けると黒凪の前から飛び退いた。
だらりと降ろした黒凪の両腕から血が滴る。
それを横目に見たサスケは舌を打つと唖然と黒凪を見ている白に向かって行った。
「チッ、白!集中しろ!」
「っ!」
再不斬の声にビクッと反応した白はサスケのクナイを受け止めた。
すぐさま蹴りを繰り出すサスケに後退りながら黒凪を見る。
両手を軽く振った黒凪は白を静かに睨んだ。
その目を見てまた白は大きく目を見開いた。
「…黒凪さん?」
「!?」
「黒凪さん!!」
サスケ、サクラ、カカシ、そして黒凪が目を見開く。
その瞬間サクラと黒凪の頭を途轍もない頭痛が襲った。
うめき声を漏らして膝を着いた黒凪に目を見開いてサスケは舌を打つ。
白は眉を寄せると跳び上がり再不斬と距離を取った。
サスケも付いて行く。
『っ、』
「(い、痛い…!)」
「おいおい、超どうした!?大丈夫か!?」
「頭が割れる…っ、!?…黒凪?黒凪どうしたの!?」
1人で叫ぶサクラに眉を寄せるタズナ。
サクラはまた襲った強い痛みに眉を寄せて頭を抱え込む。
湖の中に黒凪が居ない。
…否、深い深い底に沈んでしまっている。
ぴちょん、と音が響いた。
気付いたら居たんだ
この、世界に。
え?とサクラが目を見開いた。
痛みが消えている。
でも此処は外じゃない。
いつもの゙あの場所゙でもない。
…でもきっと、私の頭の中。
「侵入者め!何処の忍だ!」
『だから忍じゃないんだって』
恐ろしい形相をした忍達が襲い掛かってくる。
サクラは思わず恐怖でぎゅっと目を瞑った。
その肩を静かに抱く黒凪。
振り返れば長い髪から雫が滴っている黒凪が居た。
彼女はサクラを見る事は無く只黙ってその映像を見ている。
『…もう。脆い癖に向かってくるから…』
両手が映る。
先程倒した忍の返り血で両手は真っ赤だった。
ぽつ、と手の平に雪が落ちて赤く染まる。
目元をその片手で擦り目元に付いた血に鬱陶しげに舌を打った。
サクラはその映像を見ながらぽつりと呟く。
「これ、黒凪…?」
『…うん』
ゆっくりとした足取りで歩いて行く。
森の中を只管何処に行くでも無く歩いていた。
雪が体の温度を容赦なく落としていく。
微かに震えていた。
「…お姉さん、だれ…?」
『!』
血に塗れた顔を見て驚いたのだろう、偶然出会った少年は目を見開いて後ずさった。
その様子を無表情に見ていると意を決した様に少年が近付いてくる。
そして震える手で手拭いを差し出したのだ。
「怪我してるの…?」
『…怪我はしてないよ。…でもありがとう』
しゃがみ込みゆっくりと手を伸ばす。
少年は黒凪の顔をじっと見ると「どうぞ」と笑顔で手拭いを渡した。
顔や手を拭くと簡単に手拭いは白から赤に変色してしまう。
その事に困った様に眉を下げると少年が手を差し出した。
「お姉さん、お腹空いてない?」
『…お腹空いた』
「じゃあ…」
『ああでも待って。私追われてるんだ。危険だよ』
危険なの?
復唱して首を傾げた少年に頷いた。
彼は少し困った様に空を見上げるとぱっと笑顔を見せ黒凪の手を掴む。
こっちこっちと手を引く少年に困った様に眉を下げた。
「だったらね、倉庫があるんだ。そこなら大丈夫だよ」
『…倉庫?』
「うん。寒くないよ、暖かいから」
少年に連れられて着いたのは大きな家。
藁で出来た家は確かに暖かそうだった。
外で洗濯物を干している母親の目を盗んで倉庫に入り込むとせっせと少年が布を出し黒凪の肩にかぶせていく。
暖かさに目を細めると目の前にリンゴが差し出された。
「どうぞ。」
『…良いの?』
「うん。また夕食も持ってくるね」
動物でも飼っているつもりで私を置いておくつもりだろうか。
黒凪は倉庫から出て行った少年を見送りため息を吐く。
がら、と扉が開き顔を覗かせれば少年の父親らしき男が入って来た。
息を潜めて隠れる黒凪。
気配が倉庫から出て行くとまたため息を吐いた。
『……』
「黒凪、」
サクラが少し振り返って黒凪を見上げた。
黒凪はチラリと目をサクラに向ける。
サクラの不安気な顔を見た黒凪は徐に微笑んだ。
それから少年と黒凪の秘密の生活は続く。
3日、1週間、1ヶ月。
1ヶ月が経った頃には少年も慣れた様に夕食をくすねていた。
少年の名前は、白と言った。
「黒凪さん」
『ん?』
「見て見て」
走って倉庫に入って来た白は声を潜めながらも嬉しげに笑うと両手を持ち上げた。
両手の上に水の塊の様な物がふよふよと浮いている。
黒凪は目を見開くと「凄い、」と白の両手に手を添えた。
白は嬉しげに笑う。
しかしその数日後、白は悲しそうな顔をして現れた。
『白?…なんでそんなに泣きそうな顔してるの?』
「お母さんにね、見せたの」
『…あの水のやつ?』
「うん。…そしたらなんで僕にまでって、泣きながら…」
よく見れば白の頬が腫れている。
黒凪は目を見開くとその頬に手を添えた。
涙がぽろぽろと白の大きな両目から零れて行く。
『…白、』
「っ、う…」
泣き始めた白を黒凪が静かに抱きしめた。
するとそれと同時だろうか、白と両親が暮らしている家から食器が割れた音がする。
黒凪は嫌な予感に眉を寄せると白を見下した。
白は黒凪の服をぎゅっと掴み離す様子を見せない。
『白、家の方に行こう。嫌な予感がする』
「え…?」
『ほら。行くよ』
手を差し伸べれば白がその手を掴んだ。
2人で家の前まで行き静かに扉を開く。
そして見えた光景に2人で大きく目を見開いた。
「…お父さん…?」
「!」
『……何やってんの、アンタ等』
家の中には血塗れで倒れている白の母親、そしてその周りを囲む数人の男。
その中に白の父親が居た。
父親は涙を流しながら振り返り黒凪の姿に眉を寄せる。
「白…誰だそれは…」
「っ!」
『……。』
「…おい。お前のガキ、他所の忍を匿ってたんじゃ…」
父親が目を見開いて歯を食いしばる。
うわああ!と父親が棒を振り上げた。
すぐさま反撃しようとするが黒凪の手を握る白の手に思わず動きを止める。
ガン、と鈍い音が響き黒凪は伏せていた目を上げた。
額に棒が直撃したがその額から血は流れていない。
『…。白、下がって』
「おいおい待てよ姉ちゃん。そのガキを寄越しな」
『あ?』
「ほら早く殺せよ。お前のガキだろ」
背中を押され父親がまた棒を振り上げる。
黒凪はすぐさま振り下ろされた棒を掴み取った。
握力で棒を圧し折り周りに立つ男を睨み付ける。
父親を突き飛ばし周りに居る男数人を一瞬で殴り殺した。
倒れた男達を見下して黒凪が振り返る。
見えた映像にサクラが息を飲んだ。
「死ね…!!」
「…どうして…」
『白!』
「どうして…父さん…!!」
目を大きく見開いた白。
その目から、涙が。
黒凪がすぐさま父親の隣を通り過ぎ白を抱きしめた。
背中に振り降ろされた刀。
舞った鮮血に白の力が暴発した。
「!…っ、あ」
『サクラ?』
「…寒い」
『…。あまり集中しない方が良い。』
ぽんぽんと肩を叩く黒凪にサクラが体を預けた。
顔を上げれば白の手から現れた氷柱が黒凪を貫き、父親の胸元も共に貫いている。
黒凪は痛みに眉を寄せ父親はそのまま息絶えた。
『…白。』
「え、…ぁ」
『白。』
白の頬を軽く叩くと虚ろだった白の目が黒凪を捉えた。
黒凪は徐に胸を貫いている氷柱を折り立ち上がる。
唖然と顔を上げる白を持ち上げ家から外に出た。
胸元には変わらず氷柱が突き刺さっている。
「黒凪、さん」
『大丈夫。これぐらいどうにでもなるから』
「…でも、」
胸元の氷柱を中心に黒凪の身体を徐々に氷が蝕んでいく。
黒凪が吐く息はとても白い。
手も冷たい。頬も、一層白く。
『ねえ、近くに洞窟あったっけ』
「洞窟ならあっちに…」
『わかった』
ふらふらと洞窟に向かい中に入る。
黒凪はドサッと座り込むと寒さにブルッと震えた。
目も虚ろで息が冷たい。
白はそんな黒凪を見ないようにしながら何か無いだろうかと周りを見渡し始める。
恐らく火を炊く為の木でも探しているのだろう。
その姿を見て黒凪は静かに微笑んだ。
「…あ!あった、黒凪さ…」
『……』
あれ?と黒凪が声を出せず呟いた。
視界が固まって動かない。
白の声が聞こえない。
体も、動かない。
「黒凪さん?…黒凪さん!」
『…は、く』
「!」
『……白、』
ゆっくりと目を細めた黒凪に白の瞳から涙が溢れた。
うわああ、と白の悲痛な叫び声が洞窟に響き渡る。
サクラの目にも涙が浮かんだ。
――次に黒凪が目覚めたのは、サクラの心の中に咲く、花畑だったという。
「…っ、」
「!やっと気が付い…た…」
「…?」
タズナの言葉が止まり少し眉を寄せるサクラ。
少し体が軽い様な気がする。
言葉を失ったタズナを気にしつつ起き上がると目の前に立つ巨大な氷の壁の様な物が複数見えた。
ドクン、と動機がする。
頭の中で声がした。
『(白の術だ)』
「…うん」
「お、おい」
「タズナさん、私ちょっとやる事があって。」
此処に居て貰えませんか?
あ、あぁ。と頷いたタズナにニコッと笑ってサクラが走り出す。
すると物凄いチャクラが氷の隙間から広がりサクラを飲み込んだ。
思わず足を止めるサクラ。氷の隙間から赤いチャクラが見える。
「何このチャクラ…!」
『(サクラ、交代)』
「!…もう大丈夫なの?」
『(うん。寧ろ絶好調)』
両目の瞳の色が金色になった。
目を細めた黒凪が走り出す。
背後ではカカシと再不斬がサクラの背中に目を向けた。
「サクラ、待て!」
『……』
「おい!超おかしな事が起きとる!」
「!?」
目の色が、そこまでタズナが言った所で再不斬の刀がカカシに向かった。
カカシは刀を避けるとタズナを背に戦闘態勢に入る。
黒凪の目の前で1枚の氷が砕けた。
そこから白が吹き飛ばされて飛び出してくる。
すぐさま其方に向かった黒凪は白を受け止め、地面に降ろした。
「(!黒凪後ろ!!)」
『…チャクラの主はナルトか…』
「…黒凪、さ…」
『白、ちょっと待ってな』
駄目です、彼には…勝てない、
そんな白の声を背に此方を睨むナルトに顔を向けた。
ナルトの目が微かに見開かれる。
すると彼のチャクラは萎む様に収まって行った。
『…ナルト』
「サクラちゃ…、いや、黒凪、だってば…?」
『うん。落ち着いて。何があったの』
「…サスケ」
え?と眉を寄せた。
サスケが、そう言って振り返るナルト。
そこには体中に針を刺されたサスケが倒れていた。
…成程、だからナルトが暴走を…。
黒凪が目を細めた時、頭の中でサクラの叫び声が響いた。
「(サスケ君、サスケ君が…)」
『…。ちょっと待っててサクラ。後で行こう』
「(嫌!今…!)」
『駄目。ちょっと待って』
サクラが頭の中で交代しようともがく。
しかし出来ない事に気が付くとサクラは大きく目を見開いた。
…どうして…?今まで私が交代したいと思えば出来たのに…。
黒凪はそんなサクラの声を聞きつつ白に向き直り彼の手を引いて体を起こした。
『白。…あぁ、口の中切ってるね』
「…大丈夫です、これぐらい…それより、」
黒凪さん、なんですよね。
戸惑った様に言う白に黒凪が笑った。
白の目から涙が零れる。
その様子にナルトは戸惑いつつ2人の側に近付いた。
「…知り合いだってば…?」
『…うん。私の大事な…弟みたいな子。』
「大事な、弟」
『うん。だからこれ以上傷つけないで』
ナルトを真っ直ぐと見て言った黒凪。
サスケをチラリと見て小さくナルトが頷いた。
白が涙ながらにサクラの身体を抱きしめぎゅうう、と力を籠める。
黒凪は笑い交じりに白の背中をぽんぽんと叩いた。
「どうしてそんな姿に…?」
『本体はまだ゙あそごだよ。意識だけこの子に乗り移ったみたい』
「そう、なんですか」
何と言えば良いのか分からない様子の白。
黒凪もぎゅっと白を抱きしめれば彼は小さく笑った。
その様子を見て耐え切れなくなった様にナルトが口を開く。
「おかしいってば、黒凪」
『え?』
「サスケが殺されたんだぞ…?」
『…うん』
不思議気にそう返した黒凪にナルトの額に青筋が浮かんだ。
頭の中のサクラの目からも涙が零れる。
そんなにそいつが大事なのかよぉ!
そう叫んだナルトがクナイを投げた。
そのクナイをすぐさま弾く白。
「…この人を傷付ける事は許しません」
「っ!」
「……彼は、君にとって大切な人だったんですね」
「そうだってばよ!だから俺はお前を許せねぇ…!!」
それは僕もです。
白の静かな言葉にナルトが思わず言葉を飲んだ。
僕にとっての大切な人は黒凪さんであり再不斬さん。
2人を傷付ける人は皆、敵だ。
「…何でだってばよ…」
「『?』」
「なんで人を平気で殺す様な奴が大事なんだってばよ!お前等2人共!」
白と黒凪が顔を見合わせる。
それは、と白が口を開いた。
「黒凪さんと再不斬さんが僕を必要としてくれたからです」
「!」
「…僕は、霧隠れの里では迫害された一族の末裔でした」
そんな僕を黒凪さんは護ってくれた。最期まで。
ナルトがピクリと眉を寄せた。
白はそんなナルトを気にせず言葉を続ける。
「再不斬さんは忌み嫌われた僕を必要としてくれた」
「…大切な奴の為だったら他人を殺しても良いって言うのかよ…!」
「そうです」
僕は大切な人を護る為なら犠牲を厭わない。
君もそう考えている筈ですよ。
ナルトが目を見開いた。
だって君は、
「そこの少年を僕に殺された時、僕を殺そうとしたじゃないですか」
「!!」
「…人はそう言う生き物です。大切な人の為ならどんな事でも出来る。」
僕の大切な人が君達の敵だった。
今のこの状況も只それだけ。
白が眉を下げて言った。
『私の大切な人が白だった。そんな白は私達の敵だった。』
「(黒凪…?)」
『白はサスケよりも大切だった。』
サクラが目を大きく見開いた。
ただ、それだけ。
黒凪の声が頭に響く。
黒凪とは根本的に考え方が違う。
サクラが呟いた。
「お、まえ…本気で言ってんのか…?」
『私は君達とは違う。…言ったよね』
「(黒凪、)」
『悪いケド、協力する様な一族じゃないのよ。私達は。ってさ』
そう言った瞬間、少し離れた場所から巨大なチャクラが溢れ出した。
白が大きく目を見開いて振り返る。
再不斬さんのものじゃない、と白が呟いた。
即座に白が印を結び始める。
直感で再不斬の元へ向かおうとしていると気付いた黒凪はその手を掴んだ。
「離してください!再不斬さんが…!」
『あのチャクラはかなりの量だ。アンタが行った所で…』
「それでも見捨てるわけにはいかない!あの人は僕を必要としてくれた人だから…!」
涙ながらに言った白に目を見開いた。
分かったと呟く黒凪。
その瞬間、サクラが目を大きく見開いた。
「(やだ、黒凪…!)」
『再不斬の所に行こう』
「(黒凪!私は、)」
歪んだ視界に黒凪が眉を寄せる。
サクラが叫んだ。
私はサスケ君の側に居たい。
瞬きをする度に瞳の色が青と金色を行き来する。
白が切羽詰まった様に黒凪を見た。
「(退いて…!)」
『…っ、』
「退いて!!」
どぷん、と水の中に押し返された。
視界の隅に白が映る。
白は眉を寄せて手を振り払った。
人格が入れ替わったサクラの手に力は入っていなくて。
「サスケ君!」
「え、サクラちゃん!?」
「すみません、黒凪さん」
白に目を向けるナルト。
ナルトは印を結び始めた白に手を伸ばした。
僕にとってあの人は、
サスケに向かって行くサクラの背中を白の瞳が映した。
「(貴方と同じぐらいに大切な人だから)」
『(駄目だサクラ!戻って…!!)』
「あの術、解けなくなっちゃうかもしれない。…ごめんなさい」
『(っ…!)』
更に意識が押し退けられていく。
湖の底に、沈められていく。
もがこうとしても無理だった。
そこで気付いた。
やはりサクラはサクラだ。
私がその人格を完全に奪うなんて無理な話で。
そこで私の意識は、完全に落ちた。
白が再不斬とカカシの間に入り込んだ。
2人が大きく目を見開く。
カカシを睨む白の瞳。
…その色が、金色に染まった。
「!?」
カカシが息を飲む。
しかし手に集中されたチャクラを今更解く事は出来ない。
目を見開いた白がカカシの手首に一瞬で手を添え急所からずらした。
肩を貫いて止まったカカシの手を白が眉を寄せて掴む。
そしてぼそりと言った。
『…痛い。』
「っ!?」
「…よくやった、白…」
白の目が再不斬に向いた。
真後ろに立つ再不斬からその瞳は見えない。
瞳の色はまだ金色のままだった。
「本当に良い部下を持ったぜ…!!」
『……。』
「止めろぉおお!」
『!』
金色の瞳がナルトに向いた。
その瞬間に色が消え元の黒になる。
黒い瞳がカカシを睨んだ。
「そいつごと斬る様な事するなってばよ!!」
「…煩いガキだ。」
「何とも思わねぇのか!?そいつは本当にお前の事が大好きなんだぞ!!」
「………」
ゆっくりと刀を持ち上げる。
白は身構える様に力を籠めるとカカシの手首をしっかりと握り踏ん張った。
僕は武器だ。此処でカカシと共に再不斬さんに斬られる。
目を閉じた白の頭の中で声が響いた。
『(武器じゃない)』
「!」
『(アンタみたいに優しい子を武器だと斬り捨てる様な奴、アンタが気に入る筈がない)』
再不斬が振り上げた刀を動かさない。
白は眉を寄せて目を開いた。
そいつは!!またナルトの声が聞こえる。
「そいつは俺やサスケを殺したくないって言ってた!でもお前の為に心を押し殺して…!!」
「…。行くぞ、白」
「お前みたいに強くなって、人を殺し続けたらそんな風になっちまうのかよ…!!」
カタカタと刀が震える。
白が静かに言った。
どうぞ、と。
「そいつはお前の為に命まで捨てようとしてんだぞ!?それぐらい思ってくれる奴、もう一生居ねえぞ!!」
大事にしてやれよ…!
涙ながらに言った。
その声に白が眉を下げる。
「そいつはお前の夢が自分の夢だって言ってた…」
「…小僧」
「最後の最後まで、そんな優しい奴は武器として死ぬしかねえのかよぉ…!」
そんなの辛すぎる…。
涙をボロボロ流してナルトが言った。
刀が地面に落ちる。
白がびく、と反応した。
「…止めだ。」
「!再不斬さ…」
「これ以上殺し合う必要はねえ」
仲間の命を懸ける程の任務じゃない。
そう言った再不斬に白の瞳から涙が零れた。
カカシも目を伏せ徐に白の手の中から手を引き抜く。
白はそんなカカシの手を涙で歪んだ目で追った。
そして徐に自分の肩に目を向け傷の無いそこに手を添える。
「…黒凪さん…?」
「!そうだ、黒凪は…」
「…白、お前傷は」
「恐らく黒凪さんが代わりに…!」
何?と再不斬が眉を寄せた。
そんな白の背中にクナイが投げつけられる。
クナイに目を見開いたナルトの横をサクラが駆け抜けパシッと掴み取った。
サクラの左腕からは血が滴りその腕はプラプラと揺れている。
『……。』
《黒凪!?黒凪!!》
白の頭の中から抜けた黒凪はいつの間にかサクラの中に戻っていた。
戻ってくるとサクラは消えた私を探している様だった。
恐らくサスケの元に駆け寄った時、姿を消していた私に恐怖を抱いたのだろう。
当たり前だ。今まで自分を護ってくれていたものが消えた時、人は恐怖を感じるものだから。
《(サクラ。)》
《黒凪…!》
《(白が心配なんだ。体を貸して)》
《…でもサスケ君が、》
サスケは大丈夫。白が殺す筈がない。
サクラが目を見開いた。
針で攻撃しているだろう?
針の位置を見ても再不斬を仮死状態にした位置と一緒だ。
またサクラの瞳から涙が零れた。
《(だから体を貸して。サクラ)》
『(…ありがとう、サクラ)』
「(ううん、良いの。…白は黒凪にとって大切な人だもんね)」
うん。と黒凪が返事を返し右手で掴み取ったクナイを放り投げる。
クナイには血が滲んでいた。
咄嗟とはいえ鋭い方を掴み取る様な事をサクラがする筈がない。
カカシがゆっくりとサクラの側に寄った。
「黒凪だな?」
『うん。…はは、ふらふらだね先生』
「黒凪さん!」
『白、アンタ大丈夫だった?』
笑顔で言った黒凪に頷く白。
その会話と彼女の傷を見た再不斬も納得した様に目を細めた。
やはりあの女か。お前。
再不斬の言葉に黒凪はまた笑う。
『そうだよ再不斬。外では初めましてだね。』
「!…やはり覚えてねぇか」
『ん?』
微かに眉を寄せて言った再不斬に首を傾げる。
しかし再不斬は何も言わず再び傷口に目を向けた。
どういうカラクリかは知らねぇが、お前が白になり傷を受けたのか。
何と言えば良いのか分からない様子で言った再不斬に黒凪はまた笑った。
『アンタの前に飛び込んだのは白だよ。先生の攻撃を肩にずらしたのは私だけど。』
「僕の代わりに攻撃を受けるなんて…」
『私ならこの程度で死なない。別に構わないよ白。アンタが無事なら』
それより、と黒凪が前方に目を向ける。
大量の部下を引き連れてガトーが立っていた。
彼はニヤニヤと再不斬達を見ている。
裏切りは想定内だったのか2人共随分と落ち着いていた。
「フン。いつかは裏切ると思ってたがな」
「…再不斬さん。まずは僕が」
いや、良い。
飛び出そうとした白を片手で止め再不斬がガトーを睨む。
再不斬が刀を持ち腰を落とした。
白も隣で同じように戦闘態勢に入る。
「白。殺れるな」
「…はい。僕は再不斬さんの武器ですから」
『こら。』
パシッと頭を軽く叩かれ白が目を見開く。
アンタは武器じゃないでしょう。
黒凪の言葉にはっと目を見開いて再不斬を見る白。
再不斬は白から目を逸らした。
『アンタを殺せなかった。それで分かりなさい』
「…うるせぇ。無駄口叩いてる暇があるなら手伝え、女」
『はいはい。女じゃなくて黒凪ね』
《侵入者じゃなくて偶然此処に居たんだってば。》
過った声に再不斬が目を細めた。
行くぞ。そう言って走り出した再不斬に続く様に2人も走り出す。
黒凪が徐に白に近付いた。
『サスケはいつ目覚める?』
「!…そろそろだと思います」
『…そう。』
一気に方向を変えガトーの部下達を殴って行く。
再不斬と白も順調に倒して行った。
その様子をカカシ、ナルト、タズナが呆然と眺めている。
すると背後で微かにサスケが動き目が少し開いた。
やがてガトーを殺した再不斬が勢いのまま刀を背後に振り降ろす。
『うわ、』
「おっと。悪いなぁ」
『…その顔は態とだろ。』
んの野郎。そう言って黒凪が笑った。
再不斬はまた目を見開くとチッと舌を打つ。
その様子を見て「あれ」と黒凪が呟いた。
そんな黒凪に目を向ける再不斬。
《退け。俺が殺る》
《ざ、再不斬さん…!》
《…へー。良い刀持ってんね》
いつだろう。
あぁ、白と出会う前かな。
雪が降る森の中で忍に侵入者だと勘違いされ攻撃された。
そんな忍達を片っ端から倒していると自分と同じ位の男が刀を片手に現れる。
彼は再不斬と呼ばれていた。
『あぁ。思い出した』
「あ?」
『私を侵入者だなんだって攻撃してきたよね』
「!」
全然私に敵わなかった子だ。
笑い交じりに言った黒凪に再不斬がチッと舌を打つ。
黒凪の脳裏に尻餅を着く再不斬を見下ろす様子が過った。
『確か結構強かったから見逃したんだっけ。』
「…」
『あの時いくつだったの?』
「…18だ。これでテメェに二度助けられた事になる」
同い年だ。笑って言った黒凪に再不斬が目を見開いた。
初めて会ったあの時、俺達は同じ年で同じ様な目をして戦っていたのか。
血に飢えた獣の目をして。
『…さーて。サスケは起きた?ナルト』
「へ?…あー!?サスケ!?お前無事なんだってば!?」
「(サスケ君が起きたの!?)」
『はいはい。代わってあげるよサクラ』
すぐさま入れ替わったサクラが笑顔でサスケに駆け寄った。
その様子を見て再不斬が白を見下す。
白は困った様に後頭部を掻き眉を下げた。
「相変わらず忍にしては優しすぎる。お前は」
「…すみません」
「いや、…今回はそこまで徹底してやるべき任務でも無かったからな」
ため息交じりに言った再不斬に白が目を見開いて笑った。
一方サスケは目を見開くと起き上がり駆け寄ってきたナルトとサクラを見る。
サクラが思い切りサスケに抱き着きサスケは受け止めきれず倒れ込んだ。
「良かった、サスケ君…!」
「…痛ぇよ」
「サスケ…!」
涙ながらに駆け寄ってきたナルトに眉を下げるサスケ。
しかしサスケとナルトの目がサクラの瞳に向いた。
固まる2人に涙を浮かべつつ首を傾げるサクラ。
ナルトの指がサクラの顔を指差した。
「サクラちゃんってば、右目…」
「え?」
「瞳の色が金色になってる。お前サクラか…?」
カカシも駆け寄りサクラの顔を覗き込む。
確かに右目の瞳が金色に染まっていた。
サクラは「何ともないんですけど…」と呟く様に言って顔を上げる。
するとカカシの背後に再不斬と白も立っていてサクラはビクッと肩を跳ねさせた。
「主人格は完全に別人だな」
「少し医療の知識があります。右目を見せてくれませんか?」
「あ、はい…」
「おいサクラ、」
この子は大丈夫。
サクラが笑顔でそう言うと全員が微かに目を見開いた。
え?と目を見開くサクラ。
白は微かに目を見開きつつサクラの目を覗き込む。
「…虹彩に異常はありません。病や傷ではないと思いますが…」
「……混ざってきてるのかもな」
「え?」
「サクラと黒凪が」
カカシが静かにそう言った。
その言葉に白も「僕もそう思います」と同調する。
再不斬もじっとサクラを見ると小さく頷いた。
「微かに目にあの女の気配を感じる」
「…黒凪さんが出てくるとどうなるんですか?」
黒凪に意識を交代すると左目も金色に染まった。
その様子を見て白が微かに眉を寄せる。
「黒凪さん。このままでは貴方の意識が彼女を飲み込んでしまう可能性があります」
『!』
「あまり表に出ない方が良いのかもしれません」
『…解った。少し気にしてみるよ』
黒凪が目を伏せサクラに入れ替わる。
やはりサクラの右目は金色に染まったままだった。
己を見たサクラに笑顔を見せた白は再不斬と共に立ち上がる。
「では僕等はこれで」
「え、もう行っちゃうんだってば…?」
「そろそろ此処にも霧隠れの追い忍が来る頃だからな」
「そっか…抜け忍だもんね」
さようなら、白。再不斬。
サクラが眉を下げて言った。
その言葉には何処か黒凪の気配も感じられて、白も小さく笑う。
またいつか。
(行くぞ白)
(…はい。再不斬さん)
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