本編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
波の国編
「だーめー!駄目だってばよー!」
『(うわ、)』
「もうナルト!大きな声出さないでよ!」
頭の中で驚いた様に飛び起きた黒凪を気遣ってサクラが言った。
するとナルトも「ご、ごめん…」と小さくなりつつ目の前に座る火影である猿飛ヒルゼンに目を向ける。
最近ちっぽけな任務ばかりだったから眠っていたらこれだ…。
大方もっと凄い任務を寄越せだとかそう言う事だろう。
「俺ってばもっとカッコいい任務がしたいってばよ!Dランクの任務ばっかり!もう限界だってば!!」
『(そんな事だろうと思った。良いじゃん、猫探し)』
「(黒凪は良くても正直私も面白くないなぁ…最近)」
『(そうなの?…言ったげよっか?私交渉は得意。)』
ボキ、と頭の中で聞こえた音についーと目を逸らすサクラ。
黒凪は少し笑って「冗談だよ」と言った。
駄々をこねるナルトの声がまた聞こえてくる。
チラリとサスケを見れば彼も満更でもない顔をしていた。
「…ナルト。お前達はまだまだ忍になったばかりのいわば見習い状態じゃ。Dランクの任務で地道にやっていくべきだと思うがなぁ」
「……。よし!明日のラーメンは味噌だってば!」
「……聞いておらんか…」
「すみません火影様…」
カカシが困った様に言いナルトの頭を殴る。
反射的に頭を押さえたナルトは猿飛に向き直りむすっと頬を膨らませた。
その様子にため息を吐く猿飛。
「もう火影のじーちゃんが思ってる様な悪ガキじゃねーんだぞ!俺ってば!」
「!」
「俺ってばもう忍者だ忍者!ちゃんとした任務ぐらい出来るってばよ!」
再び猿飛に背を向けぶすっとむくれた。
その様子に顔を片手で覆うカカシ。
黒凪も苦笑いを零しサクラも呆れた様にため息を吐く。
しかし猿飛だけは小さく笑い手元の任務表に目を移した。
「…解った。そこまで言うのならお前達にCランクの任務をやろう」
「え!?ホントだってば!?」
「ああ。…ある人の護衛じゃ。」
「だれだれ!?大名様!?お姫様!?」
くるっと目の色を変えて猿飛を見るナルト。
猿飛はニヤリと笑い「その人物はな…」とナルトの背後に目を向けた。
っぷはー…、と酒瓶から口を離しすぐにしゃっくりをした男。
匂ってきた酒の匂いにサクラが眉を寄せた。
「…なんだぁ?超ガキばっかじゃねーかよぉ」
「……え゙」
「それにさっきから煩かったのはそこのチビスケかぁ?…超バカっぽい。」
「えええええっ!?まさか…!」
この方を護ってほしい。
猿飛の言葉にナルトが目をひん剥いた。
またげふっと酒の匂いが飛んでくる。
顔を見ればほんのり赤く染まっていた。
「儂ぁ橋作りのタズナだ。儂が国に帰って橋を完成させるまで護衛してもらいたい。」
「な、な、」
ただの酒飲みじゃねーかー!!
…ナルトの声が、響き渡った。
「ねえタズナさん。タズナさんって波の国の人でしょう?」
「ん?それがどうした。」
「カカシ先生、波の国にも忍者っているんだよね?」
「あー…いや、居ないな。他の国になら大抵は居るんだが」
そうなんだ…。とサクラが周りの木々を見ながら返事を返す。
里から出て波の国を目指す事数時間程経った所だった。
黒凪は珍しくずっとサクラの中で目を開き彼女と共に外の景色を眺めている。
珍しい?と訊いたサクラに黒凪は小さく頷いた。
「波の国は他の国の干渉を受け辛い小さな島国だからなぁ。」
「うむ。じゃから超不安だがお主等に護衛を頼んだ。」
「ははは、大丈夫ですよ。上忍の私が付いてますので」
「…なら良いがな。」
目を逸らして言ったタズナに黒凪が目を細める。
一瞬サクラの瞳が金色になった様に思ったサスケはサクラを見た。
サクラは此方を見たサスケにぽっと頬を赤く染める。
サスケは気の所為か、と目を逸らした。
「…それにしても暑いってばー…」
「最近雨なんてロクに振ってないもんねー…」
『(……。サクラ、交代。)』
「え?」
黒凪の言葉に驚きつつも入れ替わるサクラ。
チラリと足元にある水溜りを見た黒凪は目を細めカカシの服をくいと引く。
カカシも小さく頷いた。
『私゙忍術゙ってあまり詳しくないんだよね』
「…あぁ」
『でも流石に不自然でしょ。』
背後から伸びて来た鎖の様なものをほぼ同時に避けるカカシと黒凪。
黒凪は飛び上がると空中で体を捻じり2人の忍を目に映す。
口元を隠した男2人。思わず尻餅を着くナルトと走り出したサスケ。
黒凪は1人はカカシに任せもう1人を蹴り飛ばした。
『サスケ。援護して』
「俺がやる」
『やだ。』
走り出したサスケを追い抜き男を殴り飛ばした。
口元を覆ったマスクが粉々に崩れ顔に拳がめり込む。
男が反射的に両手の爪を黒凪に向けて振り降ろした。
サスケが右手の爪をすぐさまクナイで止める。
左手の爪は黒凪がガッと素手で掴み取った。
微かに眉を寄せ肘で男の眉間を殴り飛ばす。
バキ、と音が鳴り首が折れ曲がった。
『先生終わった?』
「あぁ。…殺したのか」
『ごめん。加減出来なくて』
ぽたぽたと右手から血を滴らせ黒凪が言った。
掴んでいた爪を離し男が倒れる。
もう1人はカカシが拘束していた。
サスケがチラリと黒凪の右手を見てクナイを仕舞う。
「ナルト、大丈夫か?」
「う、うん…」
『あれ?怪我してたんだ』
「お前が蹴り飛ばした拍子に鎖で繋がってたもう1人の奴も引っ張られたんだよ。その時ナルトの手の甲に爪が掠ってな」
え、嘘ごめん…。
そう言って黒凪がナルトの前にしゃがみ込み彼の手の甲の傷を見る。
見事に引っかかれたように3本の傷が出来ていた。
小さく笑ってサスケがナルトに向かって口を開く。
「他に怪我はねーかよ。ビビり君」
「っ!…サスケてめぇ…!!」
「止めろナルト。動けなかったお前にも非はある。…よくやったなサスケ、黒凪」
『私はサクラですー。』
「……サクラ。よくやった」
言い直したカカシに黒凪がにっこりと笑う。
タズナは妙な会話に少し怪訝に眉を寄せつつも突然の攻撃に額を汗が伝った。
カカシは黒凪とナルトの傷を見て男の爪を見る。
「…毒が塗ってあるな…。すぐに毒抜きするべきだ」
「ど、毒抜き?」
「黒凪……サクラも。」
『私は大丈夫。』
瞬きをしてサクラに入れ替わる。
それと同時に傷口も一瞬で消え去った。
目を見開いたカカシにサクラが困った様に言う。
「…私の方には傷は残らないらしくて」
「入れ替わるのは傷もか…」
「゙入れ替わる゙?」
「ああ、タズナさんは特に知らなくても大丈夫です。…それより訊きたい事が。」
ゔ、とタズナが固まった。
カカシが捕まえた男を木に縛り付け腕を組む。
ナルトは毒が回らない様にゆっくりと其方に近付いた。
「霧隠れの中忍です。コイツ等、明らかに貴方を狙ってるんですがねぇ…タズナさん」
「あ、明らかに…?」
「サクラとサスケが相手をした方はすぐさま殺されたわけですが、俺が相手をした方は偶然ナルトの側に飛ばされた後゙ナルトを越えで貴方の元へ向かった。」
「っ!」
カカシの言葉に頭の中で「あらら」と困った様に黒凪が呟いた。
サスケも盲点だったのかチッと目を逸らす。
つまりカカシは態と敵を泳がせ誰が標的なのかを見定めたという事だ。
そこまで意識は回らなかった。
「…我々は貴方が狙われている事を訊かされていません。もし貴方が忍から狙われているならこの任務がCランクである筈がない。」
「……まさかBランク…?」
「いや、それ以上にもなりえるな。…橋を作るまでの支援護衛だった筈なんですがねぇ。タズナさん」
「そ、そんなランクの高い任務なんて無理だわ!流石に荷が重いし、ナルトの治療だってしないと…!」
んー…。とカカシがナルトに目を向ける。
ナルトは傷口を見ていた目をカカシに向けた。
…そうだな。治療がてら里に戻るか。
まるでナルトの傷がある為゙仕方なぐそうする様に言った。
ナルトが眉を寄せて傷の出来た左手をぐっと握る。
ドスッと嫌な音が響いた。
「っ、ぐ…!」
「ナルト!?アンタ何して…!」
「俺ってば、もう助けられる様な真似はしねぇ…!」
ぽたた、と血が地面に落ちる。
ナルトは自分で自分の傷口をえぐる様にクナイを突き刺した。
流石のカカシやサスケも目を見張りサクラがナルトに駆け寄る。
黒凪はその行動に「嫌いじゃないね。そのやり方」と呟いた。
サクラは思わず声に出して「やり方!?」と訊き返す。
『(わざと血を流して毒を抜いたんでしょ?アレ)』
「わざと血を流して毒を抜いたぁ!?」
「あー…。ナルホドね。でもナルト、それ以上やったら逆に出血多量で死ぬぞ」
「え゙。…ええーっ!?」
ギャーと駆け回るナルトに近付いたカカシが手を差し出した。
傷口を見せろと言う事だと気付いたナルトが右手を出す。
うう…と不安げに眉を下げながらもナルトが口を開いた。
「お、俺ってば行けるってば。大丈夫だってばよ」
「ん?」
「だから任務続行だ!カカシ先生!」
「…んー…。」
ま、分かったよ。
仕方なさげに言ったカカシにやったー!とナルトが飛び跳ねた。
その様子を横目に傷口をじっと見るカカシ。
興味をそそられた黒凪はサクラに声を掛け傷口を覗きに行く。
「ん?何だサクラ」
「あ、いや…゙見たい゙って」
「傷口を?変わった趣味だな」
「あはは…」
サクラの両目が金色に染まりナルトの傷口を覗き込む。
傷が塞がり始めていた。
黒凪は微かに目を見開いてカカシを見る。
するとカカシは何も言わず傷口に包帯を巻き始めた。
『…先生』
「また今度な。」
ぽんと頭を撫でられ黒凪が立ち上がったカカシを振り返る。
カカシはもう此方を見る事は無い。
ぽた、と地面に血が滴った。
手の平の傷を見て黒凪が頭を思わず押さえる。
「(大丈夫?頭痛いの?)」
『(私もしようかな…毒抜き)』
「おい」
サスケの声に振り返ると右手の手首を掴まれた。
ん?とサスケを見ているとじっと傷口を見たサスケがクナイを突き刺す。
中でその様子を見ていたサクラはギャー!と叫んだわけだが黒凪は悲鳴1つ上げなかった。
カカシもその様子に気付くと「おいおい」と近付いてくる。
「毒に侵され始めてる。毒を抜いた方が良い」
『それは解ってるけどさ、突然過ぎてサクラの心臓が止まる。』
「まーた雑なやり方して…。」
『あ、待って。包帯は要らない。意味ないし』
そうとだけ言って右手を何度か振ると黒凪とサクラが入れ替わった。
右手には血がべっとりと付いているが傷は無い。
サクラは持って来ていたハンカチで血を拭き取り再び歩き出したカカシに付いて行った。
「…そろそろ波の国に着く」
船を漕ぐ無口な男が言った。
顔を上げれば作りかけの大きな橋が見える。
これをタズナは作っているのだろう。
数時間程波に揺られていた一行は見えた陸地に息を吐いた。
「あまり声は出さないでくれよ。…奴等に見つかったらどうなるか…」
「…奴等?」
「タズナさん」
カカシの言葉に眉を寄せタズナが重い口を開いた。
辺りには濃い霧が立ち込めている。
確かにこれは任務外じゃ。だから儂にも話す義務がある。
タズナが小さな声で、しかしはっきりと言った。
「儂は超恐ろしい敵に狙われておる。其奴は海運会社、ガトーカンパニーを経営する大富豪。ガトーじゃ」
「え、その人って世界有数の大金持ちって聞いた事ある…」
「そう。じゃが正体は裏でギャングや忍を使い麻薬などの密売…果てには企業や国の乗っ取りが主な仕事じゃ」
えええ…、と多少なりともショックを受けた様にカカシが言った。
そんな男に何故、と言った所だろう。
眉を寄せタズナが歯を食いしばる。
「1年程前じゃった。奴等に目を付けられその勢力にあっという間に波の国は牛耳られてしまった」
「…なんて事を…」
「しかし奴が恐れておるものがただ1つだけある。…この橋の完成じゃ」
「昼間の忍はガトーの手先って事ね…」
サクラが呟き眉を寄せた。
金をありえない程持っている男だ、これから先に更なる刺客を放ってくるだろう。
黒凪は閉じていた目を薄く開いた。
黙るカカシ達にタズナが口を開く。
「…別に構わんよ。此処で帰ってもらってもな。結局儂等にBランク以上の任務を要請する金は無い」
「!」
「儂は必ず殺され孫が泣き、娘はお前達を恨み、波の国の人間が殺しに行くかもしれんが…」
気に病まんでくれよ。
悲しげに言ったタズナだがその内容はかなり毒々しい。
んー…。とカカシが額当てをこつこつと叩いた。
黒凪はくすくすと笑っている。
「…仕方ないですね。護衛を続けます。」
『(タズナさんの勝ち。)』
「……そろそろだ」
男の声に顔を上げる。
すると瞬く間に霧を抜け家の並ぶ水路に到達した。
波の国に降り立ちナルトがぐっと体を伸ばす。
最後にタズナが降り「よし!」と笑った。
「じゃあ儂を家まで無事に送り届けてくれよ。」
「はいはい」
『(代わっとこうか?)』
「(大丈夫なの?)」
大丈夫大丈夫。と小さく笑って黒凪が言った。
瞬きと同時に瞳の色が変化し右手に傷が浮かび上がる。
しかし既に傷は塞がり痛々しい傷跡だけが残っていた。
「むっ!そこかー!」
『うわお』
「ナルト!?」
カカシが右方向にクナイを投げたナルトに目を見開いた。
投げた状態のポーズで止まっていたナルトはフッと笑い立ち上がる。
するとカサ、と左側で音が鳴り「そこかぁ!」とまたクナイが飛んで行った。
ドスッと木に刺さった音にタズナがわなわなと震える。
「くぉらガキィ!超ビビるだろうがー!」
「やたらめったらクナイ投げるなよナルト…」
『…ウサギだよナルト、ウサギ。あーもうなんて事してくれるのさ』
真っ白なウサギの真上に刺さったクナイを抜いてやりナルトにひゅんと投げる。
んぎゃー!と避けたナルトの代わりにカカシがパシッと掴み取った。
ウサギを持ち上げぷらぷらと揺らす。
『くく、コイツちょっと太ってる』
「うわー…真っ白だってば」
『ねえタズナさん。此処ってずっと暑いの?』
「ん?まあ…最近はずっと暑いがなぁ…」
ふーん。そうとだけ言ってウサギを離し歩き出す黒凪。
黒凪はカカシの隣に並んだ。
その様子を見てサスケも徐に近づいてくる。
『雪は降ってないってさ。』
「…あぁ。…来たな」
『サスケ。援護嫌いだっけ』
「……時と場合による」
一瞬感じた気配にカカシ、黒凪、サスケが反応を示した。
すぐさまタズナの元へ走り出す黒凪。
カカシが「全員伏せろ!!」と声を張り上げた。
タズナの背中を押して倒し、真上を通り過ぎた巨大な刀に目を向ける。
その位置は丁度タズナの体格からして首の辺り。
ドスッと木に突き刺さりその柄の部分に1人の男が降り立った。
「…あらら…。霧隠れの抜け人、桃地再不斬か…」
『……面白そう。アイツとは私がやりたいんだけど駄目?』
「駄目だ。俺が…」
『ええ、ずるい』
笑い交じりに言う黒凪にカカシも再不斬も目を向けた。
しかしカカシが黒凪の首根っこを掴み額当てに手を掛ける。
いつも額当てで隠れている左目。
ナルト達は一斉にカカシを見た。
「フン。写輪眼のカカシか…」
「(写輪眼、だと?)」
「じじいを渡して貰いたい。」
「そりゃあ駄目だ。…おいお前等」
ナルト達が一斉に顔を上げる。
黒凪もチラリと目を向けた。
お前等はタズナさんの周りを固めて護れ。
その言葉にむっと眉を寄せた黒凪だったがカカシが見せた左目にピクリと眉を上げる。
「な、んだってばその目…!」
「写輪眼…。うちは特有の瞳術を扱う目だ。その目は全ての幻術、体術、忍術を瞬時に見極め跳ね返す」
「そして見た術を瞬時にコピーする。だろう?コピー忍者のカカシ…」
「コピー…忍者…」
辺りに霧が立ち込め始めた。
カカシの左目に宿る血の様に赤い瞳。
その瞳をじっと見た黒凪は目を閉じため息を吐いた。
カカシの手を振り払いタズナの元へ向かう黒凪。
遅れてサスケとナルトもタズナの周りに立った。
「さーて。お話はこれで終わりだ。さっさと殺らせてもらうぜ…」
姿を消し次の瞬間には水の上に立っていた。
チャクラを練り込み呟く様に言う。
゙霧隠れの術゙…と。
霧が濃くなり姿が見えず無音になった。
『ね。さっきの奴何?』
「桃地再不斬。霧隠れの暗部出身の無音殺人術の達人だ」
「む、無音!?」
「あぁ。気付けば死んでたなんてザラにある話だ。気を付けろ」
黒凪は目を閉じ耳を澄ませる。
…確かに音はしない。
大丈夫なの?とサクラの声が頭に響いた。
今は悪いけど黙ってて、と優しく言って目を開く。
『…野生の勘で良ければ言うけどどうする?』
「や、野生の勘?」
「……根拠があるなら信じよう」
『解った。』
周りの気配を必死に読む。
すると霧に塗れてカカシの姿が見えなくなった。
頭の中でサクラが息を飲む。
「…急所なら、何処が良い?」
「!」
声が呼応する様に響く。
カカシが目を細め一気に殺気を放った。
ビク、とサスケが固まる。
黒凪がサスケの腕に背を軽くぶつけ振り返った。
サスケの怯えた目が黒凪に向く。
『そんな顔してたら殺される。』
「大丈夫。…俺の仲間は絶対に殺させやしないよ」
「―――それはどうかな」
にっこりと笑ったカカシに意識が向いた瞬間。
黒凪は目を見開いて背後を振り返る。
タズナとナルト達3人の間に入る様にして再不斬が立っていた。
刀が動く。黒凪はその刀を掴みぐっと力を籠める。
「っ!?」
「よくやった。」
カカシが再不斬に飛び込み彼の腹部をクナイで刺した。
ぼたた、と水が零れる。
明らかに血の色でない事に気付いた黒凪はカカシの背後にすうっと現れた再不斬に目を見開いた。
「カカシ先生!後ろ…!」
「終わりだ」
カカシが真っ二つに切り裂かれた。
フン。と再不斬が笑ったがカカシの身体も水になりバシャ、と液体になる。
その様子に再不斬が目を見開き喉元に突きつけられたクナイに目を見開いた。
「…チッ。この霧の中でコピーしたのかよ」
「……終わりだ。再不斬」
喉元のクナイに目を移す再不斬。
彼は目を細めると喉の奥で低く笑った。
その声に再不斬の刀を掴んで血が滴る手を見ていた黒凪が顔を上げる。
「分かってねぇなぁカカシよ…。コピーはオリジナルには勝てやしねぇ」
「!」
「俺もそこまで甘くはないんでな」
ばしゃ、とカカシの目の前に居た再不斬が水に溶ける。
既に走り出していた黒凪が跳び上がり拳を振り上げた。
それを見た再不斬はカカシを蹴り飛ばし黒凪に刀を振り上げる。
すぐさま動いた黒凪は空中で刀を受け止め吹き飛ばされた。
「(あのガキ…さっきから斬れねぇな)」
『あっぶな…』
「先生!」
ナルトの声に振り返ればカカシは蹴り飛ばされ水の中へ落ちて行った。
ニヤリと笑った再不斬に微かに眉を寄せた黒凪は横腹を確認する様に覗き込む。
血は滲んでいないが恐らく骨は何本か折れているだろう。
「水牢の術」
「っ!?しまっ――…」
『お?』
「脱出不可能の牢だ。そこで大人しくしてな」
顔を上げればカカシの周りを丸い球体の水が覆っている。
水である為物理的な攻撃も通用しなさそうで確かに脱出不可能と詠われる事にも納得がいった。
横腹を抑えつつ立ち上がった黒凪は息を吐くと走り出す。
黒凪をチラリと見た再不斬は目を細めた。
「ま、最初はお前だよなぁ」
『!』
黒凪の目の前に3人程の再不斬の水分身が現れた。
しかし速度を緩めない黒凪は次々にその分身を倒して行く。
その様子に再不斬が「ほう」と呟く様に言った。
『サスケ、分かってるね!?』
「っ!?」
『アンタが動かないと色々と無理がある!』
ぐっと眉を寄せてサスケが走り出す。
ナルトが怯えた顔でその背中を見送った。
それを見た黒凪はタズナをチラリと見る。
『ナルトはタズナさんを護る!』
「っ!わ、分かったってば…、!」
『!?』
走り出そうとして、足を止めたナルト。
そんなナルトの横に再不斬の水分身に蹴り飛ばされたサスケがズザザ、と倒れ込んだ。
ナルトはサスケを見てキッと再不斬を睨むと包帯が巻かれた左手をぐっと握りしめる。
「サスケ、俺ってば作戦がある」
「…あ?」
「耳貸せっつってんだよ…!」
「!」
再不斬を睨みながら言うナルトにサスケが微かに目を見開く。
タズナもナルトの様子に眉を上げた。
その様子を横目に黒凪はサクラが持って来ていたクナイを見つけるとサスケとナルトの前に居る水分身に投げつける。
それを刀で弾いた水分身だったが、黒凪の前に居る水分身の刀を奪い投げつけた。
『お。やっぱり分身の武器も物理攻撃出来るんだ』
「…チッ」
倒された水分身に再不斬が微かに眉を寄せた。
しかしその黒凪の顔を見ると再不斬は思わず目を見開く。
そして、ニヤリと笑った。
「なんだお前。俺に似てやがるなぁ」
『ん?』
「笑ってやがる…」
サスケとナルトが大きく目を見開いた。
サクラもまた、中で黒凪の様子に眉を寄せる。
彼女は堪え切れない様子で声を押し殺して笑っていた。
「お前みたいな奴、卒業試験でも俺だけだったぜ?」
「…卒業試験?」
「……。霧隠れの里の忍者になる為の最大の難関、卒業試験。それは生徒同士の殺し合いを意味する」
「こ、殺し合い!?」
くっくっくと再不斬が笑い黒凪の拳を受け止めた。
黒凪は殺し合いと言う言葉に思わず力を抑え再不斬に掴まれる寸前で力を抜く。
再不斬はそんな黒凪の拳に「あ?」と思わず眉を寄せた。
『聞かせてよ、その話。』
「…フン」
「よせ!再不斬はその卒業試験の中でも別格…100人もの生徒を皆殺しにした殺人鬼だ!」
『言っとくけどさぁ先生。』
ぐぐぐ、と少しずつ力が籠められ再不斬が押されていく。
その様子に再不斬が目を見開いた。
黒凪の金色の目が再不斬を捕える。
『私の一族には親殺しって言う風習があったよ』
「!?」
「…ほう、親殺し…」
『自分と同い年ぐらいのガキを殺した所で粋がるんじゃないってコトね。』
チッと舌を打った再不斬の分身達がすぐさま本体を助ける為に走り出す。
それを見たサスケはナルトに風魔手裏剣を投げ渡され微かに目を見開いた。
ニヤリと笑ったサスケがその風魔手裏剣を本体に向けて放つ。
黒凪はサスケの表情を見ると再不斬から離れ水分身を再び一掃しに掛かった。
「…馬鹿な事を。ガキの攻撃に懸けてどうする」
『……フン』
風魔手裏剣を片手で掴み取る再不斬。
しかしその手裏剣の影からもう1つ風魔手裏剣が姿を見せた。
影手裏剣の術。カカシが呟く様に言う。
思わず再不斬も目を見開いたが跳び上がり回避した。
その様子にチッと黒凪も舌を打ちサクラも目を見開く。
…しかし。
「ばーか。こっちだってばよ!」
「何!?」
「(ナルト!?)」
『…え、忍術ってあんなのアリなの?』
水分身を倒した黒凪が唖然と言った。
再不斬が避けた影手裏剣はナルトによる変化で、彼が完全に再不斬の死角となった場所からクナイを投げる。
再不斬はぐっと眉を寄せると水牢から手を離してクナイを避けた。
ビキッと額に青筋を浮かべた再不斬は右手で掴んでいた風魔手裏剣をナルトに向かって振り降ろす。
しかしすぐさま水牢から出たカカシがその風魔手裏剣を手の甲で受け止めた。
「…よくやった、ナルト…」
『信じて正解だった。』
水に浮かぶナルトを黒凪が引き上げる。
ひょいと持ち上げられたナルトは「うえ?」と黒凪を見た。
ぱちぱちと瞬きを繰り返すナルトに小さく笑って黒凪は彼を抱えたまま陸地へ。
黒凪はナルトを降ろすと徐に頭を撫でた。
『チームワークだもんね』
「!」
振り返ると走り出したカカシと再不斬が睨み合っている。
再不斬がすぐさま印を結び始めカカシも写輪眼を大きく見開き同じ速度で同じ印を繰り返した。
同じタイミングでその印の動きが止まる。
「「水遁・水龍弾の術!」」
「!…水の龍だってば…」
「ぼーっとしてんな!逃げるぞナルト!」
水の上に巨大な水龍が出現しぶつかり合う。
勿論そこにあった水は波打ちタズナやナルト達に襲い掛かった。
黒凪がタズナを持ち上げサスケとナルトもその後を追い走り出す。
『木の上に居れば良いか』
「うおぉっ!?」
タズナを抱えて跳び上がり木の上へ。
その隣にサスケとナルトも降り立った。
カカシと再不斬に目を向ければ2頭の水龍がぶつかり合っている。
やがて本体同士が刀とクナイで応戦し始め、カカシが再不斬の術を先読みし放った。
再不斬は大きく目を見開き術に吹き飛ばされる。
「っ…!」
『凄いねぇ。忍者の神秘だわ』
「?…何言ってるんだってば、黒凪も忍者だろ?」
『私?私は忍者じゃないよ、チャクラなんて無いし』
へ?とナルトが首を傾げる。
その間にもカカシの術で水に流された再不斬は少し距離のある木まで流されており、そんな再不斬にカカシがクナイを突き刺した。
再不斬は痛みに眉を寄せつつカカシを見上げる。
黒凪がサスケ、ナルト、タズナを持ち上げ其方まで走って行った。
「超スゴイのぉ…。3人も持ち上げられるのか。」
『余裕余裕。』
軽々しく持ち上げ水の上を走って行きやがて足を止める。
黒凪に持ち上げられたままカカシを見上げた3人は再不斬に向かってクナイを構える彼に釘付けになった。
再不斬が苦しげに口を開く。
「…何故、だ…お前には…未来が見えているのか…?」
「あぁ、見えてるさ。…お前は此処で死ぬ」
カカシの言葉と同時だろうか。
何処からともなく飛んできた針が再不斬の首に突き刺さった。
血が舞い、ばたっと倒れた再不斬にナルト達が大きく目を見開く。
黒凪もぱちぱちと瞬きをすると水の引いた地面に彼等を降ろした。
「――…本当だ。死んじゃった」
「!」
声に振り返れば追い忍の面を付けた、…女、だろうか。
その人物にカカシが眉を寄せナルト達も顔を見合わせる。
再不斬の元へ行き脈を確認したカカシは「確かに死んでいるな」と呟き再び顔を上げた。
頭を下げた人物は「ありがとうございました」と言った。
改めて聞いた声は思っていたものより低く男なのだと判断出来る。
『…寒い。』
「へ?」
『寒くなってきた。寝るね』
「寒く…ってまだ夏、」
そう言ってナルトが振り返ると瞳の色が淡い緑色に染まっている。
サクラに入れ替わっていた。
その様子を横目で見ていた追い忍の青年は一瞬目に入った金色に目を細める。
そしで寒い゙と言う言葉にも少し引っ掛かりを覚えていた。
青年は倒れている再不斬に近付きしゃがみ込むと徐に顔を覗き込む。
「…ずっと再不斬を確実に殺せる機会を窺っていました。」
「霧隠れの追い忍だな?」
「流石…よく知ってらっしゃいますね。」
再不斬を肩に担ぐ青年にナルトが眉を寄せ「追い忍…?」と呟く様に言った。
するとサクラが呆れた様に「アンタそんな事も知らないの?」と問いかける。
そんな様子のサクラにナルトが振り返り困った様に眉を下げた。
「もう。追い忍って言うのは再不斬の様に里を何らかの理由で抜けた抜け忍を暗殺する忍の事よ。」
「な、…俺と変わらねぇガキだってばよ…?」
「これが忍の世界だよ。お前より年下で俺より強い奴だっている。…そんな世界だ」
「……。僕はこれで失礼します。再不斬の死体の処理もしなければなりませんので」
それじゃあ失礼します。
そうとだけ言って消えた青年にナルトが愕然と目を見開く。
黒凪はその様子を最後まで見ていると徐に目を閉じた。
『(――…寒い。)』
「え?」
「?…どうしたサクラ」
「あ、いえ…」
黒凪?と呼びかけてみるも反応は無い。
完全に眠りに落ちた様子の彼女にサクラが息を吐いた。
あれ程走り回り再不斬とも戦ったのだ、疲れるに決まっている。
ごめんね黒凪…。そう呟いているとドサッと音が聞こえた。
「…え?」
「カカシ先生!?」
「おい、どうしたカカシ!」
「超ぶっ倒れたぞ!?」
走り寄れば目を閉ざし倒れているカカシ。
カカシ先生まで…?
そう言って涙目になるサクラにサスケが眉を寄せた。
「おいサクラ、黒凪は?」
「え、」
「アイツならカカシも運べるだろ!」
「だ、駄目…もう寝ちゃって反応も無いの…」
ふるふると頭を横に振るサクラにサスケが舌を打つ。
タズナが荷物を降ろし「とりあえず儂が背負おう」とカカシを持ち上げた。
そんなカカシを涙目になりつつ見上げるサクラ。
彼女はタズナの家に向かおうと歩き出したナルト達の背中を見て慌てた様に走り出した。
…寒い、
(薄く目を開く。)
(歪んだ視界が暗い洞窟を映した。)
(ポト、と水の音が聞こえる)
(…あぁ、また戻って来てしまった)
.