番外編
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Bourbon&Beretta
隙ありっのオチが降谷零(安室透) だったら…。
個人的に降谷さんオチにするなら夢主には組織に留まってもらっている
と思うのでその方向でお話が進んでいきます。
≪――聞いたか? あの件…≫
『ええ。日本でのシェリーの捜索でしょ。』
≪あぁ。メンバーは?≫
『元々貴方とスコッチだったところに、私が追加された…そうでしょ?』
そんな私の答えに「あぁ」とまた返答するレイ君。
そして落ちた沈黙も気にせず彼の言葉を待っていると、さんざん言いよどんだ末に
≪…大丈夫か? もしよかったら、俺とヒロだけで…≫
『ううん、大丈夫よ。…諸伏君から、貴方が出来る限り公安でシェリーを匿うつもりであることは聞いてるから。』
≪だが…≫
『もしそれが上手くいかなくてあの子が死んでしまうことになったとしても、…それももう、仕方がないのかもしれないし。』
…まだあの事、怒ってるのか?
そう問いかけてきたレイ君に口元を吊り上げて「別に、そんなことないわよ。」と心にもない言葉を返す。
嘘。本当はずっと怒っている。志保が独りで組織から逃げたこと。
まるで私が組織の人間になってしまったかのように、私から逃げて、怯えて暮らしていること…。
≪…とにかく、日本で落ち合おう。…じゃあ、また。≫
『ええ。じゃあ。――。』
通話が切れた携帯を見下ろして、ため息を1つ。
「…灰原、」
「何?」
「オメー、ベレッタって聞いたことあるか?」
学校からの帰路、少年探偵団の3人と別れた後に早速そう問いかければ、灰原は露骨なほどに動きを止め、歩いていた足を止めた。
その反応に眉を下げ、
「聞いたこと、あるんだな。」
と声をかければ、灰原は大きく息を吸い、諦めたように目を伏せて言う。
「拳銃のベレッタじゃ…ないんでしょ?」
「…ああ。」
確信をもってそう問うた灰原にしっかりと頷けば、灰原は若干顔色を悪くさせながら両手で腕を抱え込み…話し始めた。
「…私の姉よ。以前貴方が聞いた、水無怜奈…キールからの警告。その中に出てきたバーボンは姉の恋人…。」
「恋人…」
「ええ。組織の中で交際を明らかにするなんて、2人とも中々の度胸よ。その上組んだ任務は失敗知らず…今じゃ誰もあの2人の関係に文句を言えない。」
そこまで言って灰原がため息を吐き、片手でくしゃ、と前髪を掴んだ。
「元々バーボンとよく組んでいたスコッチ…この2人にお姉ちゃんが加わったのなら、今度こそ終わりね…。」
「…諦めるなよ。オメーは絶対に殺させねー。約束する。」
「…さて、どうかしらね。」
すっかり落ち込んでしまった灰原を見送り、俺自身も足を止めて考え込む。
とはいえ、キールがわざわざ情報をリークしてくるぐらいだ。もう奴等は俺たちの周辺に潜伏しているはず…。
バーボン、スコッチ、そしてベレッタ。この3人の正体を早くあぶり出さなければ…。
「あれ、コナン君?」
「んー? あら、学校帰りに会うなんて珍しいわね、がきんちょ!」
「蘭ねーちゃんに園子ねーちゃん…どうしたの?」
「ああ、実はうちの高校に新しく来た英語の先生なんだけどね、ここら辺を知らないっていうから案内してたの。」
うちの高校の英語教師って、ジョディさん…はもう仕事を辞めてるのか。代わりの人が入ったんだな…。
蘭の背後から現れた女性を何気なく見上げ…すうっと背筋が冷えていくのが分かった。
なんだ? この違和感。俺、この人をどこかで…。
「英語教師の宮野先生よ。宮野先生、こちらコナン君。私の家に居候しているんです。」
『へえ…初めまして、コナン君。』
差し出された手を拒むことも出来ず、違和感を持ちつつその手を掴んで…思わず背筋が伸びた。
悪寒が背中を駆け抜けたのだ。この人の手、冷え切っている。それになんだこの言いようのない怖さ…?
「あ、そうだ! ここら辺においしいカフェがあるんです! 一緒に行きませんか? 宮野先生!」
宮野先生…、宮野…。
そうだ。灰原に似てるんだ、この人。
心臓が大きく鼓動を始めた。宮野志保。それが灰原の本名だ。
これはきっと、偶然じゃない…。
「安室さん。」
「…コナン君…」
工藤鄭に居候している沖矢昴を赤井秀一だと読んでやってきた安室透さん。いや…赤井さんによると、本当の名前はフルヤ レイさん。
工藤鄭を後にしようと玄関に向かっていた彼を呼び止めると、安室さんは眉を下げてこちらを見下ろした。
「嘘つき。」
「…君に言われたくはないなあ。」
そして、悪い奴等…すなわち黒の組織側だと思わせるような、冷徹な行動を見せていた彼にそう声をかければ、余計に困ったような顔をして安室さんが応えた。
正直とても安心していた。バーボンこと安室さんも、そしてスコッチこと諸伏さんも味方だったのだから…。
だけど。
「ねえ、――ベレッタは?」
「!」
「あの人も “嘘つき”? それとも…」
灰原からある程度ベレッタ…宮野黒凪について聞いていた。
物心ついたときに組織に連れてこられたこと。ジンに育てられ、彼の側近として長く働いていたこと。
…警察学校に、組織のスパイとして潜入していたこと…。
「…。」
そう。彼女はかつて警察学校にスパイとして潜入していた。
公安警察に所属となった警察官の情報はセキュリティがかかり、基本的に閲覧はできなくなる。
もしかするとベレッタの目に安室さんや諸伏さんのデータは入らなかったのかもしれない。
もしかすると、ベレッタは彼らの正体を…本当の目的を知らないのかもしれない。だけど。
「…彼女は、」
ピンポーン、と無機質なチャイムの音が工藤鄭に響いた。
思わず肩が跳ね、すぐそこにある玄関へと目を向ける。
「…よければ僕が出るよ。」
まるでそれが誰であるかわかっているかのように、安室さんが扉に手をかけ…開いた。
そして門の外に立つその女性、ベレッタこと宮野黒凪に笑顔を向ける。
もしベレッタに正体を隠して、組織壊滅のために付き合っているというのなら、俺は心の底から安室さんを尊敬する。
だって、こんなに自然な笑顔を彼女に向けられるのだから。いとおしそうな目で、彼女を見られるのだから。
『透さん、どうだった? 会いたい人には会えたのかしら。』
穏やかで優し気なその笑顔。けど、どこか掴み所が無くて怖い。
こうして改めて2人を並べて、思った。
…お互いにスパイを経験したせいなのだろうか、2人は時折とても似ているんだ。
だからこそ、どうしても俺には見抜けない。本人たちから直接確認しなければ…分からない。
安室さんは、ベレッタになんと答える――?
「…惨敗だったよ。本名までばっちり筒抜けてたみたいだ。」
「っ、」
その言葉に、やっと。やっと身体から力が抜けた。
そしてベレッタを見上げると、彼女がじっとこちらを見つめて、目を細める。
『そう…。私たち3人を出し抜いた人なんて初めて。』
「え、あの、」
そしてじりじりとこちらに近付いてきて、がっと俺を捕まえて持ち上げた。
『じゃあ貴方…ミステリートレインで志保も救出してそうね。どう?』
「う、えっと…そのぉ…」
『…その反応だと、そうなのね。』
そこではっと彼女の顔を見て、目を見開いた。
その目が確かに潤んで、唇がかすかに震えている。…泣いてる…?
『よかった…』
俺を下ろし、両手で顔を覆ったベレッタに安室さんが近付いていき、その肩を抱く。
その様子に目をしばたたかせているのは、きっと俺だけじゃない。ここまでバーボン、スコッチ、そしてベレッタから灰原や赤井さんを隠し、護ってきた俺たちにとってこの状況は予想していなかったものだったから。
だって灰原はベレッタを…実の姉をとても恐れていた。今度こそ殺されると、もはやジンに向けるよりも大きな恐怖を彼女に抱いていたのだ。
だからてっきりベレッタも灰原のことなんて微塵も気にしていないと思っていたのに…。
「…こればかりは、こちらの勝ちのようだね。コナン君。」
「え…」
「正直なところ、僕らが今回の任務…シェリーの捜索を受けたのも、赤井秀一を執拗に探していたのもすべてベレッタがシェリーと会えるようにするため。シェリーを公安に保護するためだったんだ。」
まあ、まさか僕らの正体を犠牲にするまでてこずるとは思ってなかったけどね。
僕らを打ち負かすなんて想像もしていなかったから、実質シェリーを君らから奪い取るつもりでもあったし。
そうつらつらと語る安室さんに開いた口がふさがらないままで呆然としていると、安室さんがベレッタの頭をぽんぽんと撫でながら、その頭にすり寄るようにして微笑んだ。
私達の日本から出て行け。
(志保にもずっと勘違いされてたの。私のコードネームがベレッタになった時から…。)
(ううん、きっと任務に明け暮れてロクに志保に会えなくなったあの頃から…)
(ずっと志保は勘違いしていた。私は組織に染まってしまったのだと。だからジンの愛銃と同じコードネームを受け取ったのだと…。)
(私はずっとこのコードネームを隠れ蓑に、常にあの男の頭に銃口を突きつけていたというのに。)