番外編
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Gin&Beretta
隙ありっのオチがジンだったら…。
オチの関係から夢主は前世の記憶はなしということで!
「おい」
低く車内に響いた俺の声に顔を上げる、後部座席で携帯を見ていた黒凪。
いや…今は任務中だ。あの方が彼女に与えたコードネーム、ベレッタ、とでも呼ぼうか。
『うん?』
携帯へと向けていたその目をこちらに向け、小首をかしげたそいつへ紙袋に入れてあったキールの靴を静かに持ち上げて見せれば、その靴底に着いたガムのようなものを見て、ベレッタの目がすうっと細まった。
『(…そういうこと。どうりでさっきから携帯の電波が悪いと思った…。)』
身を乗り出してこちらへ手を伸ばし、じっとガムに包まれているであろう盗聴器を見つめ、靴を持つ俺の顔を覗き込む。
そしてそのまま耳元へ口を寄せてきた。盗聴器に音を拾われないためだろう。
『標的を変える? 連絡してあげるわ。』
ベレッタの言葉にニヤリと笑みを浮かべ、新しい標的を伝えるとベレッタはすぐに後部座席へ戻り、一斉にバイクで走る別のメンバーへ内線を飛ばした。
その間にもこちらはこの盗聴器を仕掛けた男にこれ以上盗聴されないようにとガムをタオルで包みポケットへ。
それを見届けたベレッタが通常のボリュームで話し始めた。
『キャンティ、コルン、ベルモット、そしてキール。』
ベレッタの声に反応したのだろう、ガガ、と微かに無線から音が漏れた。
『ターゲット変更よ。伝える住所へ向かってくれるかしら。』
≪ガガ、ターゲットを変える? もう一度さっきの標的を殺る手筈だっただろ? あの方の命令を後に回すほどの事態なのかい?≫
『ええ、貴方の言う通りよキャンティ。』
≪一体何が…?≫
『キール。貴方の靴の裏に盗聴器が仕掛けられていたのよ。…貴方確か数日前に毛利小五郎と個人的に接触していたわよね。』
キールが息を呑む。地図を開き、ある一点を示しベレッタに目を向ければ、すぐに気づいたベレッタが身を乗り出して住所を全員に伝える。
それを車内で聞いていたウォッカもすぐにハンドルを切り、方角を変え…毛利探偵事務所へとその行き先を変更した。
同時にブツ、と無線が切れる音がイヤホンから漏れる。
『…それにしても彼…妻子がいる身でよくやるわね。家族の身の危険は配慮にないのかしら。』
「まるでお前の両親のようにな…。」
『ふふ、本当ね。本当にこの男がその盗聴器を仕掛けていたなら…最低。』
その落ち着いた声色からは確実に両親への憎悪が見て取れる。
ベレッタの場合、見事に自身も妹も巻き込まれたためだろうが…。
内心こちらは感謝ばかりだ。ではなければこの女と出会うことは叶わなかった。
「まあそう言ってやるなよ…。俺は感謝してるんだぜ。」
『あらそう? …じゃあその感謝に免じて、シェリーは助けて頂戴よ…。』
「…ベレッタ。いい加減に切り替えろ…ルールはルールだ。お前に免じて表立って追うことは止めたが…万が一にも俺の前に現れればどうしようもねェ。」
ジン自身もこの話題に関しては慎重にならざる得ない状況であることを自身で理解していた。
ウォッカにもベレッタがこう言っていることを口止めさせているし、こうして根気よく宥め続けている。
いっそ彼女が関与していない中でシェリーを殺してしまおうかとも考えた。
しかしそれよりも、彼女が自身を恨むことが怖かった。
不機嫌に黙った黒凪の頬を撫でる。
『(分かっている。あの子が殺される運命にあることは。…そんなことは志保だってわかっているはずなのに。どうして。)』
どうして組織から…私から逃げたの? 志保。
ずっと一緒だったじゃない。ずっと貴方のために頑張ってきたじゃない…。
『…! ジン。ベルモットよ。』
いつの間にバイクを置いたのか、後部座席の窓をノックしてきたベルモットにそうジンへと声をかければ、ウォッカが車のカギを開けた。
それを見てベルモットが扉を開き、後部座席…私の隣に座り足を組む。
「ずっとこの車にいたの? ベレッタ。」
『そうよ。あの方にジンのサポートを命令されたから。』
「最近そればっかりね。ジンと仲良く任務が出来て何よりじゃない。」
『…そうね。ありがとう。』
そんな黒凪の言葉とは裏腹に、薄く笑みを張り付けたまま緊張した様子で両手を上げるベルモット。
その様子にウォッカが振り返れば、なるほど。ベレッタの服の腹の部分が不自然に膨らんでいる。
あれは彼女が愛用している拳銃…自身のコードネームと同じ名を持つ、ベレッタだろう。
「(そう。ジンが愛用する拳銃であるベレッタをコードネームに持つ女…。)」
『私、売られた喧嘩は買う性分なの。貴方はどうしてほしい?』
「…嫌味は言ったけど、喧嘩は売っていないわベレッタ。だから “それ” 、収めてくれない?」
「ベレッタ。降ろしてやれ。」
そうベレッタに声をかけたジンにうず、とまた悪戯心が湧く。
「あらジン。ベレッタには随分優しく諭すじゃない? …愛用してるものね。」
「あ?」
『(やれやれ、この人は…。)』
ジンの声がワントーン低く落ちた。
そこでやっと馬鹿馬鹿しいと感じたのだろう、ベレッタが拳銃を収める。
それを見てベルモットも両手を下ろし、腕を組んだ。
やがて目的地である毛利探偵事務所の傍に到着し、2階の事務所が見える正面のビルの上に集合した。
イヤホンをつけて何かを確認しているらしい毛利小五郎を確認すると、キャンティとコルンがライフルを構えた。
≪…聞こえるか、毛利小五郎。お前の背後は取らせて貰った。≫
ぞわ、とFBI捜査官、ジョディ・スターリングとジェイムズ・ブラックと共に車で毛利探偵事務所へと向かう車の中で、イヤホンから聞こえたその声に背筋を寒気が走り抜けた。
この声だけは聞き間違えない。こいつは――
「(ジン…!)」
「どうなのクールキッド…本当に彼等、毛利探偵事務所に?」
「そうみたいだ…!」
俺の声がかすかにふるえた為だろう、ジョディさんが振り返ってこちらに目を向ける。
今までも全速力で向かっていたが、微かに車のスピードが上がったように感じた。
小五郎のおっちゃんが偶然受けたアナウンサー、水無怜奈のストーカー被害の依頼。
その過程で設置していた盗聴器が偶然彼女の靴にくっつき、それを回収しようと模索していたところに、彼女が黒の組織のメンバーであることが発覚――。
そうして最悪なことに、盗聴器が組織の幹部であるジンに見つかってしまい、小五郎のおっちゃんが疑われてしまった…。
「お前を殺す前に聞きたい事がある。…お前とシェリーの関係だ。」
『!』
「お前が仕掛けたこの盗聴器、依然シェリーに仕掛けられたものによく似ている…。」
偶然とは言わせねぇぜ? なぁ、探偵さん…。
そんなジンの言葉に彼の隣に並んで毛利小五郎の背中を見つめる。
『(まさかこの男があの子を…志保を匿っているの? 我々組織の目をかいくぐって…?)』
≪下がれベレッタ…≫
「――ベレッタ?」
「え…」
イヤホンから聞こえた、初めて聞くコードネーム。ベレッタ。
てっきり彼らの会話の様子からジン、ウォッカ、ベルモット、キャンティ、コルン、キールの6名だけだと思っていたが…。
恐らく盗聴器が見つかったあとに合流したか、偶然会話に参加してこなかったか…。
≪…10秒くれてやる。吐くならさっさと吐け…。少しだけでも長く生きてェだろう…。≫
「(やばい…!)」
「見えた…毛利探偵事務所!」
≪…10、9、8…≫
車の屋根開けて! そう運転手のジェイムズ捜査官に声をかけ、座席の上で立ち上がりベルトからサッカーボールを取り出す。
徐々に開いていく天井から毛利探偵事務所の窓を捕らえ、キック力増強シューズの電源を起動した。
≪3、2…1≫
「(間に合え…!!)」
ドンッ! とものすごい音が響き、毛利探偵事務所の窓に大きなひびが入った。
それを見てイヤホン越しにジンが驚いてカウントダウンを止めたのが聞こえ、ばっと顔を上げればライフルを構えていたキャンティとコルンも反射的にライフルを引き上げたのが見える。
「サ、サッカーボール…?」
『――…。』
サッカーボールが飛んできた方向、すなわち江戸川コナンへと目を向けたベレッタ…宮野黒凪を見てベルモットが目を伏せる。
「誰だぁ! 誰がやりやがったぁ!!」
「ごめんなさーい、おじさん! 間違えてボールぶつけちゃったんだぁ。…それよりどうだった? 競馬の結果!」
『(あの子…)』
少年の言葉に耳元に手をやる毛利小五郎は、耳から外れてしまったイヤホンに気付くと「ああー⁉」と大声をあげ慌ててそれを拾い上げ耳にさした。
「…結果を聞きそびれちまったじゃねーか⁉」
「えへへ、ごめんなさぁーい…」
『…疑わしくは罰せよ、ね。』
「あぁ。殺れキャンティ。」
ジンの言葉にばっと顔を上げた少年と目が合う。
このタイミングでこちらを見る、か。あの子…。
「⁉」
キィン、と金属がぶつかりあった様な音が響いた。
振り返ると指先にあったはずの盗聴器が狙撃されたことに気付いたジンが振り返り、周辺に視線を巡らせている。
『…狙撃されたの? 傷は?』
「んな事は良い。それより "誰が" 撃ったかだ…。」
「…あのビルだ。」
コルンが示したビルを見上げ、ジンがキャンティからライフルを奪う。
『700ヤードはあるわ。元身内の犯行なら、十中八九…』
「赤井秀一…」
ライフルのスコープ越しに狙撃手を確認したジンの言葉にため息を吐き、貸してくれる? とコルンに手を差し出した。
自慢ではないが、歴が長いもので狙撃技術はコルンやキャンティより少しだけ上なのだ。
「…ベレッタ。見えるな?」
『ええ。貴方撃てる?』
「――。!」
引き金に指をかけ、ゆっくりと引き上げようとした時、ジンがばっとスコープから目を離した。
途端にスコープを突き抜けた弾丸が彼の頬を掠る。
そんな超人技に眉を寄せ、1発、2発と引き金を引く。
ロングレンジな上、見上げる形での狙撃で命中させられるほどの腕はあいにく持ち合わせてはいない…せいぜい傍に当たる程度だった。
そんな間にもジンの肩やら胴体に数発弾丸が食い込んでいく。
『…ジン、』
「っ、…構うな、殺せ。」
「無理よ。いくらベレッタでも700ヤードは遠すぎるわ。」
さすがになすすべもない今の状態にベルモットも焦ったのだろう、微かに声を荒げて言った彼女に目を向け、ため息を吐く。
『…、降りましょう。』
私の言葉を皮切りに全員が走り出し、赤井秀一からの狙撃を免れるためにビルの階段を伝って下へと降りていく。
その様子をスコープ越しに見ていた赤井秀一はライフルから身体を離し、煙草に火をつけた。
「この角度、距離で誤差10cmか。やはり侮れんな…。」
そう呟いた赤井秀一はライフルを構えていたすぐそばについた弾痕を見て煙草の煙を吐き、ライフルを片してビルの階段を降りていく。
一方の宮野黒凪は自身とともに後部座席に乗ったジンの隣でハンカチを取り出し、ジンの頬に手を添えた。
『ジン、こっち向いて。』
「…。」
頬の傷をハンカチで抑え、ジャケットを開けて肩などの撃たれた箇所を確認する。
『…1弾だけ防弾チョッキの隙間に当たってる…、あとで医者に見せないといけないわね。痛くない?』
「あぁ」
『本当?』
じいっとジンの顔を見つめる。
いつも通りのポーカーフェイスでどれだけ痛いのか読めない。
本当に大丈夫なのかしら…。
「…一丁前に心配してんじゃねェよ。」
『!』
キスをした後にニヤ、とニヒルな笑みを浮かべたジンに眉を下げる。
まあ、キスできるだけの元気があるならいいけど…。
「――ねぇ、赤井さん…。」
「うん?」
水無怜奈を看病している病院の廊下で珈琲を買っていた赤井さんに声をかければ、赤井さんはこちらをみて目線を合わせるようにしゃがんでくれた。
先ほど毛利探偵事務所正面のビルの上でジンが持っていた盗聴器を狙撃してくれた、FBIの狙撃手…赤井秀一さん。
過去に黒の組織に潜入していたというその経歴から、先ほどからずっと持っていた疑問をぶつけてみようと声をかけた。
「あのさ、ベレッタって言うメンバーに会ったことある? …組織に潜入してたんだよね。」
「あぁ、ジンとよくペアを組んでいる女だ。物心ついたころから組織にいたという筋金入りの殺し屋だと聞いている。…ジンと同等に厄介な女だよ。」
「…そ、っか。」
…なぜだろう、灰原の顔が脳裏から離れない。
赤井さんからの銃撃を受けて俺の目の前を走り抜けていったポルシェの後部座席でジンの容体を確認していた奴…ベレッタの、あの目を伏せた顔。
それがどうしても灰原にかぶってしょうがない。まさかベレッタは、…まさか。
Beretta and Sherry
(灰原、ベレッタって知ってるか?)
(!…どうしてそのコードネームを?)
(え?)
(…ベレッタは私の姉よ。ジンの恋人でもある。)
(な、)
(悪いことは言わないわ。姉とは関わらない方が良い。万が一にでも貴方が私をかくまっていることがばれれば、即…)
(即、?)
(…即、殺される…。)