本編【 原作開始時~ / 映画作品 】
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緋色の交錯
「―――!」
『?』
工藤鄭。
秀一と私の携帯が同時に鳴り響き、お互いに顔を見合わせた。
そしてお互いの携帯を見せ合えば…秀一にはコナン君から、私には志保から連絡が入っている。
「…少し席を外す。志保と話してやれ。」
『ええ…』
こちらに気を使って秀一が寝室へと歩いていき、それを見送ってから通話ボタンを押す。
≪あ…お姉ちゃん?≫
『どうしたの、志保。学校終わったところ?』
≪ええ…今しがたね。≫
『良かったら今日こっちに来て一緒にご飯作る?』
うん…それもいいわね。聞きたいこともあるから…。
そう言った志保に目を細める。
『何か気になることでもあった?』
≪…工藤君がFBIのジョディさんと学校帰りに会っていたから、何かあったんじゃないかって…。お姉ちゃん、最近大丈夫なの?≫
『大丈夫よ。きっとバーボンとスコッチのことで彼女と会っているんでしょう。』
ああ…彼らね…。
そう言って志保が少しだけ沈黙を落とす。そして、
≪私…お姉ちゃんはちゃんと何事も周到に準備して行動に移してることは分かってるわ。でも…これだけ聞かせて。≫
『うん?』
≪バーボンとスコッチは…大丈夫なのね?≫
『…ええ。理由は言えないけれど…大丈夫。私を信じて。』
…分かった。じゃあ今日は博士の家で子供たちと遊ぶ予定だから…また料理は後日ね。
そう言った志保に「ええ。」と返して通話を切る。
通話を切って少しすると携帯を片手にした秀一もリビングに戻ってきた。
「志保はなんだって?」
『レイ君と諸伏君のことを心配してたみたい。コナン君もやっと2人の猛攻に焦り始めてるみたいだしね。』
「やはりな…ボウヤからの電話も同じ話題だったよ。」
昨晩、あの病院…杯戸中央病院から帰ってきたお前が開口一番に言っていたことでな。
杯戸中央病院でレイ君と諸伏君が楠田陸道の行方を探しており、偶然居合わせた高木刑事と話すようになって…よりにもよって、高木刑事が楠田陸道の車に残された血痕のことを漏らしてしまった。
『あの高木っていう巡査部長も、毛利さんとよく一緒にいるレイ君に警戒心が解けちゃったのねえ。コナン君に事件のことをちょくちょく話すぐらいだもの。』
「だろうな。それを受けて先ほどジョディに一応釘をさしておいたらしい。楠田陸道のことは話さないように、とな。」
『さて、それが吉と出るか狂と出るか…彼ら、特に諸伏君は心理戦に強いから。』
なんて、話していたのがお昼前。
コナン君から1分おきに秀一の携帯、私の携帯と電話がかかってきたのが…夜。
「…ふむ。やられたらしいな。」
『あ…またかかってきた。もしもし?』
≪ご、ごめん! 今大丈夫⁉≫
『大丈夫よ。お風呂中だけど。』
お風呂っ⁉ とコナン君の声がひっくり返る。
そう、私たちが電話に出られなかったのは一緒にお風呂に入っていたから。
工藤鄭はものすごい豪邸だから、お風呂も大きいのだ。それはもう2人でなんて余裕で入れるぐらいに。
≪ど、どうりで声が反響してると思った…っていうか、それより…!≫
「バーボンとスコッチにしてやられたか?」
≪っ! …う、うん…≫
「…話を聞こう…。」
そうしてコナン君が話してくれた内容はこうだ。
本日コナン君がジョディさんと会っている時、彼女の知り合いが事件に巻き込まれたとの一報を受ける。
その連絡を受けてその知り合いが働く小学校へ行けば、なぜかレイ君の姿が。
レイ君は被害者…ジョディさんの知り合いのストーカー被害の相談を受けていたようで、クライアントが事件に巻き込まれたために招集されたそう。
ちなみに、ジョディさんと同じくFBI捜査官のキャメル捜査官も、諸事情からその場に居合わせたらしい。
「くく、キャメルはことごとく組織が絡むと運がないな。」
『笑うところじゃないわよ。』
そうして事件を解決に導いたはいいが…病院から被害者の容体が急変したと連絡が入り、急いで杯戸中央病院へ。
しかし病室に入ると被害者はぴんぴんしていた。
≪後から分かったことだけど…容体急変の電話、スコッチの罠だったんだ…≫
僕らを追いかけてきた安室さんを放っておくわけにもいかないから、キャメル捜査官が安室さんと一対一で対峙する状態を作るためにね…。
そして安室さんは執拗にキャメル捜査官に楠田陸道のことを聞き、そこにジョディ先生に変装したベルモットが割り込んでくる。
そしてジョディ先生の登場に安心したキャメル捜査官は、
≪ベルモットに、楠田陸道が自殺したことを漏らしてしまった…≫
「…。」
「…また協力してもらってすみませんね…ベルモット。で、結果は?」
「貴方達が予想した通り…楠田陸道は拳銃自殺。自身の車の中でね…。」
運転するゼロの口元が吊り上がる。
そしてきっと、僕も。
「それで? そんなことを知ってどうするの?」
「…どうもしませんよ。ただ組織の情報をFBIに捕まれていないか不安だっただけです。」
FBIに情報を渡すのだけは…どうしても癪に触るのでね。
そうごまかしたゼロを横目で見るだけのベルモット。
彼女自身も様々なことを組織に隠している身だ、こちらの状況に土足で踏み込むつもりはないのだろう。
「そう。」
とだけ言って彼女は煙草に火をつけた。
「何をしているか知らないけど…せいぜい目を付けられないことね…。」
「目を付けられる?」
「ジンよ。貴方たち、彼の獲物を一度奪ってるから。」
獲物? 眉を顰めれば、煙草の煙を吐いてベルモットが言う。
「…ベレッタ。彼が愛用する銃と同じコードネームを与えられるはずだった存在…」
宮野黒凪をね。
ゼロが驚いたようにベルモットに目を向ける。
「あれでも、キールをかくまっていたFBIと行動を共にしていた彼女を、キール奪還に合わせてなんとしても始末するつもりだったらしいわよ。その前に逃げられてしまったけど。」
それからずっと今か今かとその時を待っていたのに…結局シェリーが足手まといになってベルツリー急行の爆発であっけなく死んでしまった。
不完全燃焼でずっと機嫌が悪いのよ、彼。その一報を受けた日からね…。
「…ご忠告どうも。気を付けることにするよ。」
やはり宮野さんの話題になると冷静さを欠くゼロをフォローするため、ベルモットにそうとだけ返しておく。
ベルモットはバックミラー越しに僕を見て不敵に微笑み、また煙草を肺いっぱいに吸い込んだ。
チャイムが鳴り、秀一と共に玄関へ。
扉を開くとそこにはコナン君と彼の父親…工藤優作氏が立っていた。
「お待ちしていました、工藤さん。わざわざロスからご足労頂きありがとうございます。」
「いやいや、息子の近況も聞きたかったものでね。…初めまして、赤井君に…宮野さん。」
『初めまして。今回はよろしくお願いします。』
バーボンとスコッチの猛攻に焦ったコナン君…工藤新一君が頼ったのは、自身のご両親だった。
キャメルが誤って彼らに楠田陸道の拳銃自殺を伝えてしまってから2日という短いスパンでの彼の行動の速さはやはり目を見張るものがある。
そして息子のためにと10時間以上もするフライトをすぐにとって来てくれる、優作さんの優しさにも。
「ジェイムズさんから連絡は…?」
コナン君がソファに腰かけながら問いかけてきた。
「君の予想通り、ジョディとキャメルは俺の事件についてこの2日間徹底的に調べ上げていたらしい。明日の夜には来葉峠に行く予定まで立てている…。それに、そんな2人を監視する様子のスコッチも目撃したそうだ。」
「やっぱり…これまでの2人の行動を見ても、しっかりと裏づけをつけたうえでもどこまでも慎重だったから…赤井さんだけに集中せず、念のためにジョディ先生とキャメル捜査官の確保に向かうとは思ってたんだ。」
『じゃあやっぱり工藤さんにご足労頂いたことだし…私たちは2手に分かれる必要がありそうね。』
秀一と私の視線が交わる。
本当、こうして危険な目に遭っている時…私たちはどうしても別々に行動する運命にあるらしい。
キールの時も、ベルツリー急行の時も、アイリッシュの時も…そして今回も。
「どっちに行く?」
『貴方がジョディさんたちの方で良いと思うわよ。万が一にも来葉峠で追い回されたら私じゃどうしようもないもの。』
「了解…」
「ならば、宮野さんは私と一緒に行動することになるね。よろしく。」
にっこりと笑った工藤優作さんに会釈を返す。
そうしてそれから2日目の昼間に秀一はジョディさんの車へ、私は普段と同じように神崎遥の変装を身に着けて…沖矢昴の姿になった工藤優作さんと工藤鄭に留まった。
久々の我が家にのんびりと過ごしている工藤さんと一緒に時を待つこと――数時間。
チャイムが鳴った。
「…来たね。私が出るよ。」
『はい。』
そうして工藤さんは尋ねてきたバーボン…レイ君を工藤邸に招き入れた。
私と目が合い、レイ君が眉を下げて微笑む。
「すみません、神崎さん。貴方の”恋人”である沖矢さんに…少し無理を言って入れてもらいました。」
「大丈夫ですよ。安室さん…貴方とは一度キャンプ場で会っていますからね。遥はあの時はいなかったけど。でも遥とは顔見知りだそうですし、追い返すほどではありません。」
あらかじめ秀一から聞いていたことを自然に述べる工藤さん。
その演技力も流石と言わざる得ない。
「では早速僕がここに来た経緯からお伝えしましょうかね。」
「ええ、ぜひ。遥もこっちにおいで。」
『…うん。』
素直に工藤さんの隣に座った私を見てレイ君が困ったようにため息を吐く。
「そんな白々しい演技はいい加減にやめたらどうだ? …赤井秀一。」
「なんのことでしょう?」
「…キールや、お前の死体すり替えトリックを考えた彼のこともあるからな…こちらがどれだけ掴んでいるか見ているつもりだろうが…」
『(…流石。核心をついてる。)』
彼の青い瞳がまっすぐに工藤さんを射抜く。
「こちらも、今日…すべてを決着させるつもりで来た。」
恐らくこの部屋に設置された監視カメラを通してこちらの会話を来葉峠で聞いているであろう秀一、そして別室にいるコナン君の顔を思い浮かべる。
正直、ここまで核心に迫られているのであれば…彼が公安だと知る私と秀一としては、工藤さんを巻き込んでまで沖矢昴の正体を隠す必要はないと考えていた。
だけど…逆にここまで秀一と私に執着するレイ君と諸伏君の目的を知るまでは、確かにコナン君の意見通り正体を隠すべきだとも思う。
「まずはお前が自分から正体を明かす気になるように…トリックの謎解きから始めようか。」
「ほう、トリック…」
「…来葉峠で右手を残してほとんど全焼した死体…その右手の指紋と、コナン君の携帯に残っていた指紋を照合し、それは最後にコナン君の携帯を触っていた赤井秀一のものだと結論付けられた。」
「指紋が一致したのであれば、間違いはないのでは?」
工藤さんの言葉に「ええ。」と肩をすくめて見せるレイ君。
「その指紋が、本当に赤井秀一のものならね…」
「…指紋は別の誰かのものだと?」
「ええ。FBIに組織のメンバーだと見抜かれ…カーチェイスの末に拳銃自殺を選んだ、楠田陸道のね。」
耳に装着しているイヤホンから微かにコナン君が息を飲んだ音が聞こえた。
もしもの時のため、コナン君と会話ができるようにしてある。
まあ、ここまで見抜かれていれば…流石のコナン君でもごまかすことは難しいだろうけど。
「それを結論付ける証拠が、まず残された指紋が右手のものだったこと。赤井秀一は左利き…そして拳銃自殺で右側頭部に弾痕をつけた楠田陸道は右利き。それに赤井秀一が携帯を触ったにも関わらず指紋が出なかったのは…透明な何かで指先をコーティングしていたのでしょう。」
その時一緒にいたFBI捜査官から…赤井秀一がその時手に持っていた缶コーヒーを床に落としたという証言も取れています。
コーティングの影響で手を滑らせたんでしょうね。
「…ふむ、なるほど…。ただ、その赤井という男…その場からどうやって立ち去ったんです?」
「キール…赤井を撃ったふりをした女の車で移動したんでしょう。彼女の首に小型カメラを搭載したチョーカーがありましたが…上手く監視役の目をかいくぐってね。」
「監視役がいたんですか…、ただ、たとえカメラの映像で確認していたとは言え流石に撃たれたふりはバレるのでは?」
「赤井はいつもニット帽をかぶっていた。その下に血のりでも仕組んで…空砲に合わせて血を噴出させる仕掛けでも作ったんでしょう。実際…僕の知り合いも血のりを使ってその監視役の目を欺こうとしていた事もありました。」
うまくは行かなかったようですがね。
そんな風にこちらを見て言うレイ君。
悪かったわね、上手くいかなくて…。
「まあ、その知り合いである彼女もこの一件に噛んでいますし…監視役の男が頭を狙うように指示してくることなど、容易に想像できたはず。」
なんて言ったって、恐らくその彼女がこの世で最もその監視役を理解している人物の1人なのだから。
「まあ、それを込みにしても…事が起こる以前にすべてを見透かしていた彼には賞賛の言葉しか出ませんよ。…流石は、貴方も頼るわけだ…。」
『…』
「そうだろう? 黒凪。…慎重な君なら…協力者が赤井秀一だけなら、きっと今頃アメリカにでも逃げていたはずだ。それでもこの日本…しかも東京に留まり続ける理由は、その協力者が東京に留まらざる得ないから。」
江戸川コナン君という、協力者がね…。
レイ君がソファに背を預け、両手を組んだ。
「話は逸れましたが…赤井秀一が死を偽装してまでこの東京に留まろうとするということは、黒凪と一緒に行動を共にしているということ。お前も気づいていたんだろう? こちらが黒凪の正体を掴んでいる時点で…こうなるであろうことは。」
「…僕をその赤井秀一さんだと考える理由…根拠は分かりました。ただ、僕にはどうしても分からないことがある…。」
「なんです?」
「なぜ貴方がその赤井秀一にそこまでこだわるのか…。」
レイ君が目を細める。
「確かに貴方が言うように、ここにいる遥は事情があり…宮野黒凪という本名を隠して日々を過ごしています。そして彼女から…貴方は黒凪を保護したいと申し出ていたことも聞いている。」
「…」
「彼女のことを思うのであれば、このまま僕と彼女を放っておいてくれませんかね…。ただ僕たちはひっそりと過ごしているだけだ…。」
レイ君の目に苛立ちが映った。
「特に、彼女は赤井秀一という亡き恋人を乗り越え…やっとしがない大学院生である僕と平凡な日々を取り戻したばかりなのだから。」
「まだそんなふざけたことを言うつもりか、貴様は…!」
『ちょ、』
「お前が頑なに見せないその首元に変声機を装着し、声色を変えていることなどとっくに…!」
レイ君の手が伸び、工藤さんのタートルネックへ。
そしてそれを勢いよく引き下ろし…レイ君が固まった。
「(…変声機が、ない⁉)」
レイ君の携帯が鳴る。
その通話をすぐさま取り、携帯を耳に押し当てたレイ君は…さらに顔色を一変させた。
≪ゼロ…! 赤井秀一が “こっち” にいる! そっちは大丈夫なのか⁉≫
「な、赤井秀一が…そっちにいるだと⁉」
≪それに、俺たちの正体も…!≫
「…さて。僕が貴方が考えるように赤井秀一ではないことは分かったはず…今度はこちらの番です。」
聞かせてもらいましょうか…何故貴方が赤井秀一にこだわるのか。
その目的を…。